自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

SS 001-020 33

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478 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/25(土) 23:26 [ imAIk9NE ]
    アジェント王都、その栄えた町並みの中をアルクアイとファンナは歩いていた。
    ワイバーンで直接王城に行くこともできたのだがそれをしなかったのは
    自分がやっていた行動の成果を確かめるためであり、そして結果は上々であった。
    日本との接触後、アルクアイは王国全土に「日本脅威」という噂を多数の工作員を使って流し続けていた。
    それが実を結んだのだろう。民衆の噂話はこの新たに召還された島のことで持ちきりであった。
    試しに仕事の休憩中なのだろう、道端に座り込んでいる男に声をかける。
    「おい、知っているか?」
    「ん、何をだ?」
    男はアルクアイのほうには目も向けずに返事をする。
    だがそれは丁度良かった、アルクアイの服装を見ればこの男はすぐに平伏し、会話もできなかっただろう。
    「新しく召還された島のことだ。」
    「ああ、聞いてるぜ、なんでも人の生き血をすする化け物どもの島だったらしいな。
    よく分からない機械なんてアシェナの神に背くもん使って、一つの船の船員皆殺しにしてその血黙りの中で高笑いしてたらしいじゃねえか。
    ああ、怖い怖い。王国もとんでもないもん呼び出してくれたもんだぜ。」
    「そうか。ありがとう。」
    「あん、礼されるほどのことじゃねえよ。」
    結果は、上々のようだった。

479 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/25(土) 23:27 [ imAIk9NE ]
    王城、広間。
    まだ会議の三日前だが、ここにはすでに多くの諸侯達が集まり、
    お互いの普段の労をねぎらいながら、会食を開いていた。
    場の中心となっているのはイルマヤ候であった。
    イルマヤ候、彼の支配する土地は貧しいものの王国当初からの名門で、更に名産のワイバーンを使ったワイバーン軍団は王下部隊に匹敵すると言われる程の精強さを誇っていた。
    そしてこの会議においてはアジェルの弟ジョナスを推すことによって、
    王家の元で権力を得ようとする保守派の男であった。
    しかし、この会議においては、唯一の敵に思えたアルヴァールの追い出し工作をしただけで、
    後は自らの権勢に甘えて、何の多数派工作もしていなかった。
    いや、それは工作をする必要も無いほどの権力を持っていたともいえるのだが。

    そして会食の賑やかさがピークにさしかかろうとした時、扉が開き、
    参加者達が一斉にそちらのほうを見た。
    「ラーヴィナ候の代理、ファンナ様、アルクアイ様がいらっしゃいました。」
    メイドが淡々と言い、広間の中はシンとし、すぐにヒソヒソ声が聞こえてきた。
    「どうも、ウェルズ様の代理として参りました、アルクアイでございます。」
    「ファ、ファンナですっ。」
    アルクアイが慇懃に礼をするのを見て、ファンナもそれに続く。
    他の諸侯達の目は、好奇に満ちていた。

480 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/25(土) 23:28 [ imAIk9NE ]
    「アルクアイ・・・、聞いたことありまして?」
    「いいや、ないなぁ。どこの家の出なのだろうか。」
    「いやいや、所詮歴史の浅いラーヴィナの貴族でしょう、たいしたことありませんよ。」
    「それにしても可愛らしいお孫さんだ。しかしこんな少女が出てくるとは。候本人の病気は大変な物になっているらしいな。」
    名門諸侯、貴族は口々に勝手な憶測を口にする。
    それに対し、中小諸侯達は皆、親しみ深い目を二人に向けていた。
    それを見てアルクアイは自分のもう一つの策略がうまくいったことを確認した。

    彼はイルマヤ候とは対照的に、領地の富裕さを背景に中小諸侯に対する金のバラ撒きを行っていた。
    この会議で王位継承者を自らの推した者に決めた者が、これからの国政の主導権を握る。
    アルクアイはそう睨んでいた。

    そしてアルクアイの推す予定の人物はアシェリーナ姫、本来の王位の正統継承者である。
    そこには正統継承者を推す事で、自らの正当性も示そうという彼の魂胆があった。
    だからこそ、これから必要となる金を大量に使ってまでも多数派工作を行ったのである。
    そしてその多数派工作と、アルヴァール魔術大臣の押しがあればイルマヤ候が反対しても、
    アシェリーナ姫を王位継承者に容易く推したてることができると彼は考えていた。

    しかしここに来て見たらどうか!?アルヴァールの姿が見えないではないか。
    この状況でアルクアイがこの会議の主導権を握るには彼は一芝居打つしかなかった。

481 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/25(土) 23:29 [ imAIk9NE ]
    私は弱小諸侯サフラーヌ候の部下のしがない貴族である。
    そんな私にとってこの王侯会議に来れたのは最高の幸運であった。
    この体験は恐らく一生の宝となるだろう。
    緊張する我が身を押さえ、主の命令どおりイルマヤ候へと挨拶に行く。
    遊牧民族に襲われた我が領に、アルヴァール様が来て下さったのはイルマヤ候のとりなしがあったからなのだ。
    その意味で彼は我等の恩人といえるお方であった。
    そしてもう一人、イルマヤ候へと挨拶に行く男性が居た。
    彼は確かラーヴィナ候の代理のアルクアイ殿。
    容姿端麗で男の私も惚れ惚れするような人物であった。連れている少女も可愛らしい。
    そしてラーヴィナ候もまた、我等中小諸侯に援助をしてくださった恩人であった。
    彼ら二人の会話が終わったらその事をお礼申し上げようと決めた時であった。
    その事件が起こったのは。

482 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/25(土) 23:30 [ imAIk9NE ]
    「どうも、ラーヴィナ候代理、アルクアイでございます。」
    幸い近くにいた私には彼らの言葉は全てクリアーに聞き取れた。
    「おお、ウェルズ殿の・・・。そうだ、一杯どうかね。」
    「はい。ありがたく頂きます。」
    イルマヤ候はアルクアイ殿のグラスに酒を注ぎながらその顔にグッと近づいた。
    「おや、君はどこかで見たことが・・・なかったかね?」
    「(ああ、修道院の寝所でな。)いえ・・・覚えがありません。」
    「ああ、そうかそれなら良いんだ。それよりも君は王位の継承者は誰が良いと思うかね?」

    意地の悪いことを聞くものだ。
    これは自分の味方かどうか聞いているのと同じである。
    イルマヤ候はああやって他の諸侯に圧力をかけているのであった。
    軍事力だけなら王家にも匹敵するといわれる彼を敵に回そうとするような馬鹿は居ない。
    皆必然的にイルマヤ候の推すジョナス様と答えるしかない。
    我々のような中小諸侯は特にである。これにはさすがに反感を持つ者も多かった、私のように。

    しかしそれに対する、アルクアイ殿の答えは意外な物であった。
    やわらかい笑顔を浮べ、こう答えたのだ。
    「(こちらがしようと思った質問をしてくれるとは・・・、都合が良い)私はアシェリーナ姫様が良いと思います、アルジェン様亡き今、彼女が本来の王位継承者ですから。」
    その言葉を聞きイルマヤ候のこめかみにさっと青筋が浮んだ。

483 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/25(土) 23:30 [ imAIk9NE ]
    広間は奇妙に静まり、全ての人の視線が二人に注がれていた。
    なんてことを言うのだ。それが私の率直な感想であった。
    あんなことを言えばイルマヤ候を敵に回すことになるのだ。
    ファンナ様はイルマヤ候の迫力にすっかり怯え、アルクアイ殿の服の裾を掴んでいた。
    しかし自分が権力を握るために王位継承を捻じ曲げる彼に陰ながら批判があったのは確かであった。
    実際、我々中小諸侯にはアルクアイ殿が魔王に立ち向かう英雄のように見えた。
    「・・・それは、ウェルズ殿の御意見かな?」
    「ウェルズ様のご意見は私の意見で、ウェルズ様のお考えは私の考えです。」
    「フン、名も知られぬ下級貴族が生意気に。」
    「っ!」
    ファンナ様が息を呑む。
    「(あれは言い過ぎじゃありませんこと?)」
    「(全くだ、名門だからと偉そうに・・・!)」
    冷たい空気が広間に流れた。
    明らかに悪いのはイルマヤ候だ。しかし二人の力関係も身分の関係も歴然としている。
    そしてこの国では身分が全て、高い身分の者が行ったことが正しいのだ。
    アルクアイ殿も唇をかんで、黙っている。

484 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/25(土) 23:31 [ imAIk9NE ]
    イルマヤ候のネチネチとした攻撃はなおも続いた。
    「そもそもラーヴィナ候自体数十年程度前から商人が成り上がったものだ。まともな回答を期待することが馬鹿であったか。」
    ファンナ様が今にも泣きそうな顔になった。
    と同時に広間の全員が息を飲んだ。ラーヴィナは幾ら歴史が浅いといっても、
    アジェントの中でも一、二を争うほど富裕な諸侯なのだ。
    そして、その言葉を聞いた瞬間、アルクアイ殿は何故か一瞬笑ったような表情を見せた。
    「私への侮辱は許そう。だが、ウェルズ侯への侮辱は一言たりとも許しはしない。」

    銀の光が閃いた。

    アルクアイ殿がイルマヤ候に剣を突きつけたのである。
    その瞳には激しい憤怒が宿っていた。先程の笑みは私の見間違いだろう。
    私はあれ程の憤怒の顔を見たことが無かった。
    これには全ての参加者が驚愕し、広間は緊張に静まり返った。
    しかし、イルマヤ候も歴戦の武人であり、アジェント全土に名を轟かす剣豪である。
    その切っ先を手が切れないように掴み、凄まじい気迫で睨みつけた。
    「これは・・・決闘の申し込みと受け取ってよろしいか?」
    「そう取ってもらって構わない。」

    先に剣を抜いたのはアルクアイ殿である、しかし私を含めこの広間に居る人間のほとんどが、
    心の底では主君への忠誠の為には何をすることも厭わない彼を応援していた。

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