自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

SS 001-020 43

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だれでも歓迎! 編集
697 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/24(日) 23:22 [ kHqoVL5Q ]
    柔らかい、そして暖かい。
    俺が最初に感じたことはそれだった。飛びかける理性を懸命に引き戻し、彼女を引き離す。
    彼女の肩を掴んで顔を見るとその顔は涙でグシャグシャになっていた。
    「どうしたんだ、何かあったのか?」
    それにしてもおかしい、彼女は確かに感情家だが、こんなことをいきなりするような女性ではない。
    「セフェ―――。」
    「青島…さん、私…ニホンとアジェントが戦うことになるなんて思ってもいなかった。」
    「…。」
    彼女にしてみれば、そうだったのかもしれない。
    しかし、それは世間知らずの少女の余りにも浅い先見だったと言わざるを得なかった。
    背中をポンポンと叩いてやって俺はしばらく落ち着くのを待った。

698 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/24(日) 23:23 [ kHqoVL5Q ]
    「今…アルヴァール様から通信があったの…。」
    「…?」
    しばらくして落ち着いたセフェティナがポツリと言った。
    アルヴァール、何度か聞いたことのある名。確か魔術大臣を勤める男だったか。
    「私の魔力じゃ本国にまで通信なんてとても届かないから向こうが意志を伝えるだけの一方的なものだったんだけど、けど、彼が言ってた、『アジェント王家はニホンを敵とみなす』って。」
    そう、そうなることはわかっていた、アジェント王家がこちらに敵意を示しているからこそ、
    こちらニホンも彼らと戦うことになるのだから。
    「それで…、バルト帝国、アジェントがバルト帝国と手を結ぶって言うの…。なんで…?」
    「…?」
    「なんで…、彼らこそアシェナの敵じゃないの…?私の信じていた神様の敵じゃ…?」
    セフェティナのエメラルドグリーンの瞳にまた涙が溢れた。
    俺には彼女を慰めることが出来なかった、
    日本人が世界における宗教戦争を理解することが難しいように、
    一つの宗教を信じる物にとって、それに反する物がどれだけ憎いかなど俺には分かりえないのだ。

699 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/24(日) 23:24 [ kHqoVL5Q ]
    そして俺は背筋に冷たい物が走るのを感じた。バルト帝国、大陸西方に勢力基盤を持つ一大軍事国家、
    これが大陸最大の国家であるアジェントと手を結び、自分達日本と戦おうと言うのだ。
    「セフェティナ…それは本当なのか、何かの冗談じゃなくて?」
    「…うん。青島さん、どうにかして戦うのを避ける事は出来ないの?
    アルヴァール様なんかと戦ったら…、青島さん…だけじゃない、
    佐藤さんも、村田さんも、沢村さんも、加藤さんも皆死んじゃう…。」
    「…セフェ―――。」
    何かに耐え切れなくなって俺は手をセフェティナの背中へと回した。
    「あ…。」

    セフェティナもまた、それを拒む様子は見せなかった。

700 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/24(日) 23:27 [ kHqoVL5Q ]
    「たいちょー!」
    ビクッ!
    青島の腕がセフェティナを抱きしめようとしたその時、
    突然入り口から佐藤の能天気な声が響き、二人は慌てて離れた。
    そして佐藤が見たものはいわずもがな、
    明らかに泣いていたばかりのセフェティナとそれから30cmも離れていない青島であった。
    「ティナちゃん見つかりまし――――あ…し、失礼しましたー。」
    「ま、待ってくれ、誤解だ佐藤ーっ!」
    悲痛な青島の言葉も届かず、佐藤はそそくさと立ち去ってしまった。
    「こ、こりゃ明日は大変だな…。」
    「アハハ…。」
    セフェティナの笑いを見るとそうぼやきながら青島はすっくと立ち上がった、そしてセフェティナを見る。
    「大丈夫、セフェティナ。俺は死なない。佐藤たちも死なせるつもりは無い。」
    「……はい!」
    この結論が何の解決にもなっていないことは二人には分かっていたが、
    今二人で笑っていられるだけでも青島にとっては十分であった。

701 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/24(日) 23:27 [ kHqoVL5Q ]
    次の日、散々な冷やかしを受けた青島とは別に、大変なことになっている場所があった。
    どこか、それは政府上層部であった。
    当然である、敵国がアジェント一国だけではないことが分かったのだから。
    「えー、皆さんようやく方針が決まったと思っていた所大変申し訳ないが…、
    昨日、協力者のところにアジェントからの通信があり、ごらんの事実が明らかになりました。」
    ほぼ昨日から眠っていないのだろう、目を真っ赤に腫らした袴が言った。
    他の閣議参加者も大体同様である。
    「……通信、とは?まさか通信をする程の技術が向こうにあるわけでもないだろうに。」
    「あー…、それについては赤羽君。」
    「はい。」
    恐らく参加者の中でも最も疲労困憊なのがこの赤羽であった。
    連日の侵攻準備の総指揮をとりつつ、協力者(セフェティナ)からの情報を閣議に報告するのも彼の役目だったのだから。
    しかし彼はそんな疲労を全く表には出さなかった。
    「皆様お手元の資料をご覧下さい。通信魔法の説明と相手からの通信の全文です。
    これらからアジェント、そして西方のバルト、この大陸における二大強国が手を組んだ物と考えられます。
    おそらくは…いや、間違いなく我が日本と対抗するために。」
    「待て。待ってくれ、アジェントとバルトは絶対に手を結ばないのではないのか、
    それにアジェントは我々を舐めきっているのではないのか?」
    「それに対しては返答しかねます。」
    元々危機的な状況が更に悪化したのだ。
    重苦しい沈黙が会議室に流れた。

702 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/24(日) 23:28 [ kHqoVL5Q ]
    そんな中、出席者の一人が声を上げた
    「そうだ、その協力者を通じて友好を申し入れられないのか?」
    「かの国がこれ程我々に対する敵対姿勢を見せている以上それは不可能かと。
    それに通信は一方通行な物しか不可能と言う報告です。」
    「はっ!それが本当かどうかも怪しい物だ。その協力者と言うのは向こうのスパイなのではないかね!」
    「口が過ぎませんか、彼女の協力で我々がどれ程助けられたか忘れたのですか?」
    袴に言われ、男はばつが悪そうに椅子に座りなおした。
    「だが…、スパイと言う可能性があるのも事実だ。」
    その男の援護をするわけではなかろうが酒井が言った。
    「そもそも彼女はどちらの国の味方なんだね、それをはっきりしてもらわねば困る。」
    「はい。それは確かめるつもりです。
    近日中に行われる予定の三介島開放作戦。これに彼女の協力を求めます。」
    赤羽が事務的な口調で答える。そもそもその仕事はセフェティナを管理下におく赤羽の仕事である。
    つまり酒井の言った言葉は赤羽への当てこすりなのだ。
    「待て、待ってくれ、本当にこのままの方針でいくのか?」
    「そうしかないだろうな…バルトは大陸内陸部に存在する国家だ。即座に我々と衝突する訳ではない。
    それよりも先日赤羽君の提案してくれた軽空母開発計画。これを実行するべきだと思うのだが。」
    袴の言葉に赤羽は慌てて彼の顔を見た。
    彼は赤羽の視線に気付くと黙って頷き、参加者の面々を見た。
    この状況においては彼らもまた、反対する気はないようだった。
    「確かに…こうなってしまった今いち早い戦力の拡充が必要…。
    多少の資金はかかりますが軽空母の導入は必要でしょう…。」
    普段は赤羽の言葉をことごとく否定する酒井も袴の言葉に同意した。彼は言葉を続けた。
    「ただし、投資にはちゃんと投資分の成果を期待する。」
    「それは約束しよう。」
    赤羽は自信に満ちた笑みを見せた。

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