334 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/05(日) 17:01 [ imAIk9NE ]
アジェントにおける「権力」は大まかに分けて三つある。
まず王、教会、そして諸侯である。
そして王は諸侯にその土地の所有を認め、その代わりに諸侯は一定額の納税と軍役の義務を負う。
しかし王、と言っても王家は国土の15%程度を支配するに過ぎずなかった。
それならばなぜ王としての絶対権力を維持できるか、と言うと
一つは教会が「神に次ぐ者」としての王を任命しその権力を裏づけしている。
そしてもう一つは魔術院を掌握していることを背景とした圧倒的な強さを誇る王下軍であった。
そして王は教会を見返りとして保護し、各諸侯領に教会領を置くことを認めていた。
335 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/05(日) 17:03 [ imAIk9NE ]
しかし近年農業技術の向上が進み収穫量が増えるにつれ諸侯の富強化が進み、
王家はその絶対権力を維持することが難しくなっていた。
そしてそこで王家の財源として発案されたのが「召還」であった。
まだ原理も解かれていない魔法技術ではあるが王の直轄領とされた島々は昔日の勢力を取り戻させるには十分なほどの財を王家にもたらした。
この奴隷貿易に目を付けたのが島々へ行くための港を提供するラーヴィナ候であった。
彼はこの奴隷収穫を請負い、その一部を横領して元々富強であった領をさらに豊かにした。
そしてセフェティナは最初黙認していたその横領が最近許容範囲を超えたがために送られた監視役であった。
336 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/05(日) 17:05 [ imAIk9NE ]
アルクアイはアジェント北西部山岳地帯、イルマヤ候領に貧しい農家の子として生まれた。
イルマヤ候領。ここはワイバーンの産地として有名なところであり、イルマヤ候もそれなりの富を得ていた。
逆に言えば利益を得ているのはイルマヤ候など貴族であり、下層農民は危険な労働を強いられる上、
南西部と比べると遥かに痩せている土地で、生産物で税を納めるために常に飢えていた。
そんな中、わずか8歳の時アルクアイはその美しい容貌を買われ、教会に売られることとなる。
だが不思議と彼には両親への怒りは無く、むしろ食物の心配をせずに読み書きなども習える教会に行ける事が嬉しくもあった。
しかしそんな彼を待っていたのは司祭たちからの問答無用の暴行であった。
337 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/05(日) 17:05 [ imAIk9NE ]
アルクアイにとって唯一幸運だったのはそこが魔法学校も兼ねていた事だろう。
教会に来る旅人達からの話で国内情勢や魔法の重要性を知っていた彼は、
男女問わず司祭達の伽の相手をしながら魔法の鍛錬に没頭した。
血の滲む様な努力に元来の才能も手伝い、彼は神童と言われるほどの魔術の使い手となり、
15になるころにはその名も高い魔術院からの招集を受ける。
そして王都についた彼の見たのはこの世の富であった。
それは、ここは神の国か、と教会不信を極限まで募らせた彼でさえそう思わずにはいられなかったほどであった。
そしてそれは野望と言うものが彼の頭の中に芽生えた時でもあった。
いつかこの町並みを自分の手に。
貧しい農家の息子の余りにも馬鹿げた野望であった。
338 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/05(日) 17:06 [ imAIk9NE ]
魔術院に入ってからの彼の生活はまさに地獄から天国への脱出であった。
アジェントを支える能力主義の中枢である魔術院では高級貴族の息子達は例外であったが、
出自などは関係なく実力で扱われた。
そしてアルクアイの能力は天才の名を冠するにふさわしいものであり、
18になった時には魔道士の中でも最も実力のあるものが選ばれる王下竜騎士への招集を受けた。
しかしアルクアイにとって、それは不満な地位であった。
魔術院のほかの人間とは違い世の中の情勢を知っている彼は、王下竜騎士はただ華々しいだけで将軍に成るのは高級貴族。権力の道へ繋がる物ではないと知っていた。
更にまだ召還が行われる前の時代。弱まる王家に強まる諸侯の時代。
遅かれ早かれこの王権は覆されるだろうと見ていた。
「その場に王権を覆す側として立ち会えれば、まだ可能性はある。」
そう考えた彼は諸侯の中でも最も野心的な人物を探し、接触を取った。
それがラーヴィナ候ウェルズであった。
339 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/05(日) 17:09 [ imAIk9NE ]
それから十年の間に
アルクアイは忠臣を装い民衆の人気を得て、
ウェルズの息子ウェルンを女によって堕落させ、
権益の保護によってラーヴィナの財源である商人達の人心を掌握し、
ウェルズ本人の毒殺を企み(ジファンに罪をかぶせたが)
ナンバー2だったジファンを見殺しにした。
そしていとも容易くラーヴィナはアルクアイの手に転がり込んだ。
しかし彼にはまだ懸念があった、それが近年の召還による王家の隆盛である。
「このままでは王家に従うしかない・・・王家が弱体化する何かが必要だ。」
そんな彼にとって謎の島(ニホン国と向こうは言っていたらしい。)の召還は最高の幸運であった。
あの巨大な鉄の船、空を飛ぶ鉄の箱。
強大な軍事力を持っていることは間違いない。
危険な賭けではあるが利用すれば王権を覆すこともできるだろう。
「危険な賭け・・・?いつもやってきたことだったな?」
彼は筆を取り、手紙を書き始めた。
―――ニホン国国王様―――
彼の腹のうちとは裏腹に非常に美しい文字であった。
アジェントにおける「権力」は大まかに分けて三つある。
まず王、教会、そして諸侯である。
そして王は諸侯にその土地の所有を認め、その代わりに諸侯は一定額の納税と軍役の義務を負う。
しかし王、と言っても王家は国土の15%程度を支配するに過ぎずなかった。
それならばなぜ王としての絶対権力を維持できるか、と言うと
一つは教会が「神に次ぐ者」としての王を任命しその権力を裏づけしている。
そしてもう一つは魔術院を掌握していることを背景とした圧倒的な強さを誇る王下軍であった。
そして王は教会を見返りとして保護し、各諸侯領に教会領を置くことを認めていた。
335 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/05(日) 17:03 [ imAIk9NE ]
しかし近年農業技術の向上が進み収穫量が増えるにつれ諸侯の富強化が進み、
王家はその絶対権力を維持することが難しくなっていた。
そしてそこで王家の財源として発案されたのが「召還」であった。
まだ原理も解かれていない魔法技術ではあるが王の直轄領とされた島々は昔日の勢力を取り戻させるには十分なほどの財を王家にもたらした。
この奴隷貿易に目を付けたのが島々へ行くための港を提供するラーヴィナ候であった。
彼はこの奴隷収穫を請負い、その一部を横領して元々富強であった領をさらに豊かにした。
そしてセフェティナは最初黙認していたその横領が最近許容範囲を超えたがために送られた監視役であった。
336 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/05(日) 17:05 [ imAIk9NE ]
アルクアイはアジェント北西部山岳地帯、イルマヤ候領に貧しい農家の子として生まれた。
イルマヤ候領。ここはワイバーンの産地として有名なところであり、イルマヤ候もそれなりの富を得ていた。
逆に言えば利益を得ているのはイルマヤ候など貴族であり、下層農民は危険な労働を強いられる上、
南西部と比べると遥かに痩せている土地で、生産物で税を納めるために常に飢えていた。
そんな中、わずか8歳の時アルクアイはその美しい容貌を買われ、教会に売られることとなる。
だが不思議と彼には両親への怒りは無く、むしろ食物の心配をせずに読み書きなども習える教会に行ける事が嬉しくもあった。
しかしそんな彼を待っていたのは司祭たちからの問答無用の暴行であった。
337 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/05(日) 17:05 [ imAIk9NE ]
アルクアイにとって唯一幸運だったのはそこが魔法学校も兼ねていた事だろう。
教会に来る旅人達からの話で国内情勢や魔法の重要性を知っていた彼は、
男女問わず司祭達の伽の相手をしながら魔法の鍛錬に没頭した。
血の滲む様な努力に元来の才能も手伝い、彼は神童と言われるほどの魔術の使い手となり、
15になるころにはその名も高い魔術院からの招集を受ける。
そして王都についた彼の見たのはこの世の富であった。
それは、ここは神の国か、と教会不信を極限まで募らせた彼でさえそう思わずにはいられなかったほどであった。
そしてそれは野望と言うものが彼の頭の中に芽生えた時でもあった。
いつかこの町並みを自分の手に。
貧しい農家の息子の余りにも馬鹿げた野望であった。
338 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/05(日) 17:06 [ imAIk9NE ]
魔術院に入ってからの彼の生活はまさに地獄から天国への脱出であった。
アジェントを支える能力主義の中枢である魔術院では高級貴族の息子達は例外であったが、
出自などは関係なく実力で扱われた。
そしてアルクアイの能力は天才の名を冠するにふさわしいものであり、
18になった時には魔道士の中でも最も実力のあるものが選ばれる王下竜騎士への招集を受けた。
しかしアルクアイにとって、それは不満な地位であった。
魔術院のほかの人間とは違い世の中の情勢を知っている彼は、王下竜騎士はただ華々しいだけで将軍に成るのは高級貴族。権力の道へ繋がる物ではないと知っていた。
更にまだ召還が行われる前の時代。弱まる王家に強まる諸侯の時代。
遅かれ早かれこの王権は覆されるだろうと見ていた。
「その場に王権を覆す側として立ち会えれば、まだ可能性はある。」
そう考えた彼は諸侯の中でも最も野心的な人物を探し、接触を取った。
それがラーヴィナ候ウェルズであった。
339 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/05(日) 17:09 [ imAIk9NE ]
それから十年の間に
アルクアイは忠臣を装い民衆の人気を得て、
ウェルズの息子ウェルンを女によって堕落させ、
権益の保護によってラーヴィナの財源である商人達の人心を掌握し、
ウェルズ本人の毒殺を企み(ジファンに罪をかぶせたが)
ナンバー2だったジファンを見殺しにした。
そしていとも容易くラーヴィナはアルクアイの手に転がり込んだ。
しかし彼にはまだ懸念があった、それが近年の召還による王家の隆盛である。
「このままでは王家に従うしかない・・・王家が弱体化する何かが必要だ。」
そんな彼にとって謎の島(ニホン国と向こうは言っていたらしい。)の召還は最高の幸運であった。
あの巨大な鉄の船、空を飛ぶ鉄の箱。
強大な軍事力を持っていることは間違いない。
危険な賭けではあるが利用すれば王権を覆すこともできるだろう。
「危険な賭け・・・?いつもやってきたことだったな?」
彼は筆を取り、手紙を書き始めた。
―――ニホン国国王様―――
彼の腹のうちとは裏腹に非常に美しい文字であった。