767 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/11/09(火) 21:01 [ kHqoVL5Q ]
「聞いてくれーっ!」
カリヴァン軍陣地、多くの奴隷兵が宿営しているこの地を一人馬に乗って駆ける男がいた。
ほぼ強制的に徴用された奴隷兵の多くはこの戦争に勝てば待遇を良くすると言う言葉のみを信じてこの場所にいた。
彼らにはもはや解放と言う言葉はほとんど消えてなくなっていたのだった。
そんなもはや火の消えた炭のようになった彼らの間を男は走りながら叫んだ。
ある程度の人数がこちらに興味を示したことと、警備の目がこちらに来ていないことを確認する素振りを見せてから男は再び叫びだした。
「聞いてくれっ!俺達はもうすぐ解放されるぞ!自由になれるんだ!」
男はただ叫んだ。
聞いていた人間達の内一部が目を剥いた。その他は何を馬鹿な、という目で男を見ていたが。
「何を言っているんだ、そんなことを言っていたら捕まるぞ。」
兵の一人の忠告など何処吹く風、男はまだ叫び続けた。
「日本という島が俺達と同じように召還されたんだ!
その日本という国がアジェントと同じくらい強いらしくて、俺達を助けてくれるって言うんだ!」
「お前・・・レジスタンスか!それは本当なのか!?」
目を剥いたうち一人が身を乗り出して言う、最初は関心を示さなかった兵達も皆関心を示し始めていた。
「こんな嘘をつくわけ無いだろ!俺達は助かるんだ!」
どうやら嘘ではないらしい、そう判断したその場の兵達は歓声を上げた。
「おーっ!ならこれを他の奴らにも知らせてやらなきゃな!」
「ああ、そうしてくれ・・・。」
男はゼイゼイと息をつきながら答えた。
悲報にしろ朗報にしろ驚異的な報せと言う物はすぐに広まる、
この時も例外ではなくこの報せは兵達に瞬く間に広まった。奴隷兵達は浮付きだした。
カリヴァンの兵達に従うものか、という空気が流れ出したのである。
768 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/11/09(火) 21:01 [ kHqoVL5Q ]
オザルは心が躍っていた。
昔、自分達は鉄を掘り出し、都に送り、鉄を掘り出し、都に船を出す。
そんな気楽な生活を送っていた。
しかし、そんな日々は4年前のあの日、一瞬にして破壊されたのだった。
急に水平線にぼんやりと見えていた本土は消え去り、代わりに巨大な船がやってきた。
船の主達は巨大な炎や氷、空を飛ぶ巨大なトカゲを使い、自分達を容易く支配した。
村の人間…子どもは奴隷として連れて行かれ、男は鉄山での厳しい強制労働をさせられたのである。
唯一幸いなのは向こうが騎士道などと言って女達に手を出さないことであったが、
しかしその女達も貧しさで幸せとはとても言えなかった。
その後自分は何人もの仲間を集め、支配に反抗する組織を作った。
しかし、それでは奴らを島から追い出すには力が全く足りなかったのだ。
そして毎日のようにあるレジスタンス掃討によって仲間は段々と減っていった。
もはやこれまで、そう思った時であった。
追い詰められて海に飛びこんだはずの仲間を連れ、空を飛ぶ鉄の箱に乗った救世主が現れたのは。
769 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/11/09(火) 21:02 [ kHqoVL5Q ]
「我々は耐え難きを耐え、忍び難きを忍んで来た。だが、それももう終わりだ。
さあ、後は無理やり兵士にさせられている同胞を説得しに行くだけだ!」
「おーっ!」
オザルが手を振り上げるとレジスタンスのメンバー達が一斉に腕を振り上げ、歓声を上げた。
メンバーには年老いた老人も、うら若い女性も、まだ若すぎる子供も多く混じっていた。
彼らに平和を味わってもらうためだからこそ、今日まで私は耐えてこれたのだろう。
「解放はもう、すぐそこだ!」
「おーっ!」
逸る心を抑え、私は剣を手にとった。
他のレジスタンスのメンバー達もそれに習う。後は一路西に向かい、向こうの士官の目を盗み、
同胞達に蜂起するよう説得するだけである。
元々圧倒的な人数差がある、それでも逆らえなかったのは相手アジェント本国の恐怖があったからだ、
しかし、今はアジェントの脅威から守ってくれる力がある。日本が居る。
「リーダー、早く行きましょう!」
「ああ!」
爛々と目を輝かせる仲間達を見て、私はもう一度剣を掲げた。
「さあ、いく――――――」
何故か、声が、出ない。眼前に居る仲間達が呆然とした目で私を見ていた。
手は剣を握っていられなくなり、剣はカランと乾いた音を立て床に落ちる。
そしてその剣が、私から噴き出す赤い液体で濡れていくのを見て、私はようやく状況を理 解―――。
770 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/11/09(火) 21:03 [ kHqoVL5Q ]
「う、うわああああああ!」
私が次に見たのは今までの自分達のリーダーの血を浴びて、我先にと逃げていくレジスタンス達の姿であった。
醜い。いや、人間である以上、命の危険を感じれば逃げるのが普通なのかもしれない。
しかし、私の手はその背中を見せて懸命に走る人間達の生命を奪うことを全く躊躇しなかった。
篭手を纏った右掌の上に黒い石ころのような物体を大量に作り出す。
そして、それは私の意志一つでレジスタンスに飛んで行き、その身体を砕いた。
魔法で作られた黒い石ころはカリヴァンの騎士道を嘲笑う様に男も、女も、老人も、子供も、
分け隔てることなく平等にその頭を砕き、足を吹き飛ばし、胸をえぐり、その命を奪い取っていった。
「すまない…。」
そう呟き次の魔法を唱え始める。人を殺すことに何の躊躇いを抱かないわけではない。
ただ私にはそれ以上に優先すべきことがあった。
「まさか、お前達の拠点を我々が掴んでいないとでも思ったか?」
傍らでは返り血を浴びながらロンがそう冷たい声で言い放っていた。
魔法の腕ならば私を遥かに上回るこの男、この男に殺されたほうが私に殺されるより余程楽であろう。
この地獄絵図は、レジスタンスを皆殺しにするまで、数分ほど続いた。
771 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/11/09(火) 21:03 [ kHqoVL5Q ]
「あ…あ…。」
ことが片付き、後ろにいる「裏切り者」に目をやる。
目先の欲につられ、レジスタンスを裏切った男、この男は今、目の前の光景が自分のせいで作られたことに、そのしたことの重大さに今ようやく気が付いているのだろう。
ただ、口を開け、ボロボロと涙を流しながら虚ろな目で震えるばかりであった。
「死にたいか?」
「・・・?」
私が言うと、男は虚ろな目でこちらを見た。そしてしばらく何かを言いたそうに口を動かす。
そしてそれも終えると、男はコクリと頷いた。
私はそれを見届けると剣を振り上げた。
私の鎧についた返り血のシミは、また一段と増えていた。
レジスタンス。彼らもまた、自分の守りたかった物を必死に守ろうとした人間だったのだろう。
そして私はそれを奇襲し、女子供問わず皆殺しにした。
「だが…これも私の騎士道だ。」
誰に聞かせるわけでもなく呟いて、私は鎧を外した。
772 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/11/09(火) 21:04 [ kHqoVL5Q ]
先程まで散々叫んでいた男は、今、カリヴァンの兵たちに囲まれていた。
しかし、その待遇は反乱者としてではなく、
「おつかれだったな。」
「ああ・・・。」
彼らの同胞として、男は迎え入れられていた。
「だが・・・、あんな事を広めてよかったのか?今奴等は俺達に氾濫を起こさんばかりの状況だが…。」
「ああ。それがアーガス様の命令だからな。あの方の計画にミスは無いさ。さあ飲め、最期の酒だ。」
「ああ、有難うよ。」
レジスタンスの格好をした男と兵はお互いグラスを掲げた。
グラスからこぼれた濁った酒が兵舎の床の土を濡らした。
「聞いてくれーっ!」
カリヴァン軍陣地、多くの奴隷兵が宿営しているこの地を一人馬に乗って駆ける男がいた。
ほぼ強制的に徴用された奴隷兵の多くはこの戦争に勝てば待遇を良くすると言う言葉のみを信じてこの場所にいた。
彼らにはもはや解放と言う言葉はほとんど消えてなくなっていたのだった。
そんなもはや火の消えた炭のようになった彼らの間を男は走りながら叫んだ。
ある程度の人数がこちらに興味を示したことと、警備の目がこちらに来ていないことを確認する素振りを見せてから男は再び叫びだした。
「聞いてくれっ!俺達はもうすぐ解放されるぞ!自由になれるんだ!」
男はただ叫んだ。
聞いていた人間達の内一部が目を剥いた。その他は何を馬鹿な、という目で男を見ていたが。
「何を言っているんだ、そんなことを言っていたら捕まるぞ。」
兵の一人の忠告など何処吹く風、男はまだ叫び続けた。
「日本という島が俺達と同じように召還されたんだ!
その日本という国がアジェントと同じくらい強いらしくて、俺達を助けてくれるって言うんだ!」
「お前・・・レジスタンスか!それは本当なのか!?」
目を剥いたうち一人が身を乗り出して言う、最初は関心を示さなかった兵達も皆関心を示し始めていた。
「こんな嘘をつくわけ無いだろ!俺達は助かるんだ!」
どうやら嘘ではないらしい、そう判断したその場の兵達は歓声を上げた。
「おーっ!ならこれを他の奴らにも知らせてやらなきゃな!」
「ああ、そうしてくれ・・・。」
男はゼイゼイと息をつきながら答えた。
悲報にしろ朗報にしろ驚異的な報せと言う物はすぐに広まる、
この時も例外ではなくこの報せは兵達に瞬く間に広まった。奴隷兵達は浮付きだした。
カリヴァンの兵達に従うものか、という空気が流れ出したのである。
768 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/11/09(火) 21:01 [ kHqoVL5Q ]
オザルは心が躍っていた。
昔、自分達は鉄を掘り出し、都に送り、鉄を掘り出し、都に船を出す。
そんな気楽な生活を送っていた。
しかし、そんな日々は4年前のあの日、一瞬にして破壊されたのだった。
急に水平線にぼんやりと見えていた本土は消え去り、代わりに巨大な船がやってきた。
船の主達は巨大な炎や氷、空を飛ぶ巨大なトカゲを使い、自分達を容易く支配した。
村の人間…子どもは奴隷として連れて行かれ、男は鉄山での厳しい強制労働をさせられたのである。
唯一幸いなのは向こうが騎士道などと言って女達に手を出さないことであったが、
しかしその女達も貧しさで幸せとはとても言えなかった。
その後自分は何人もの仲間を集め、支配に反抗する組織を作った。
しかし、それでは奴らを島から追い出すには力が全く足りなかったのだ。
そして毎日のようにあるレジスタンス掃討によって仲間は段々と減っていった。
もはやこれまで、そう思った時であった。
追い詰められて海に飛びこんだはずの仲間を連れ、空を飛ぶ鉄の箱に乗った救世主が現れたのは。
769 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/11/09(火) 21:02 [ kHqoVL5Q ]
「我々は耐え難きを耐え、忍び難きを忍んで来た。だが、それももう終わりだ。
さあ、後は無理やり兵士にさせられている同胞を説得しに行くだけだ!」
「おーっ!」
オザルが手を振り上げるとレジスタンスのメンバー達が一斉に腕を振り上げ、歓声を上げた。
メンバーには年老いた老人も、うら若い女性も、まだ若すぎる子供も多く混じっていた。
彼らに平和を味わってもらうためだからこそ、今日まで私は耐えてこれたのだろう。
「解放はもう、すぐそこだ!」
「おーっ!」
逸る心を抑え、私は剣を手にとった。
他のレジスタンスのメンバー達もそれに習う。後は一路西に向かい、向こうの士官の目を盗み、
同胞達に蜂起するよう説得するだけである。
元々圧倒的な人数差がある、それでも逆らえなかったのは相手アジェント本国の恐怖があったからだ、
しかし、今はアジェントの脅威から守ってくれる力がある。日本が居る。
「リーダー、早く行きましょう!」
「ああ!」
爛々と目を輝かせる仲間達を見て、私はもう一度剣を掲げた。
「さあ、いく――――――」
何故か、声が、出ない。眼前に居る仲間達が呆然とした目で私を見ていた。
手は剣を握っていられなくなり、剣はカランと乾いた音を立て床に落ちる。
そしてその剣が、私から噴き出す赤い液体で濡れていくのを見て、私はようやく状況を理 解―――。
770 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/11/09(火) 21:03 [ kHqoVL5Q ]
「う、うわああああああ!」
私が次に見たのは今までの自分達のリーダーの血を浴びて、我先にと逃げていくレジスタンス達の姿であった。
醜い。いや、人間である以上、命の危険を感じれば逃げるのが普通なのかもしれない。
しかし、私の手はその背中を見せて懸命に走る人間達の生命を奪うことを全く躊躇しなかった。
篭手を纏った右掌の上に黒い石ころのような物体を大量に作り出す。
そして、それは私の意志一つでレジスタンスに飛んで行き、その身体を砕いた。
魔法で作られた黒い石ころはカリヴァンの騎士道を嘲笑う様に男も、女も、老人も、子供も、
分け隔てることなく平等にその頭を砕き、足を吹き飛ばし、胸をえぐり、その命を奪い取っていった。
「すまない…。」
そう呟き次の魔法を唱え始める。人を殺すことに何の躊躇いを抱かないわけではない。
ただ私にはそれ以上に優先すべきことがあった。
「まさか、お前達の拠点を我々が掴んでいないとでも思ったか?」
傍らでは返り血を浴びながらロンがそう冷たい声で言い放っていた。
魔法の腕ならば私を遥かに上回るこの男、この男に殺されたほうが私に殺されるより余程楽であろう。
この地獄絵図は、レジスタンスを皆殺しにするまで、数分ほど続いた。
771 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/11/09(火) 21:03 [ kHqoVL5Q ]
「あ…あ…。」
ことが片付き、後ろにいる「裏切り者」に目をやる。
目先の欲につられ、レジスタンスを裏切った男、この男は今、目の前の光景が自分のせいで作られたことに、そのしたことの重大さに今ようやく気が付いているのだろう。
ただ、口を開け、ボロボロと涙を流しながら虚ろな目で震えるばかりであった。
「死にたいか?」
「・・・?」
私が言うと、男は虚ろな目でこちらを見た。そしてしばらく何かを言いたそうに口を動かす。
そしてそれも終えると、男はコクリと頷いた。
私はそれを見届けると剣を振り上げた。
私の鎧についた返り血のシミは、また一段と増えていた。
レジスタンス。彼らもまた、自分の守りたかった物を必死に守ろうとした人間だったのだろう。
そして私はそれを奇襲し、女子供問わず皆殺しにした。
「だが…これも私の騎士道だ。」
誰に聞かせるわけでもなく呟いて、私は鎧を外した。
772 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/11/09(火) 21:04 [ kHqoVL5Q ]
先程まで散々叫んでいた男は、今、カリヴァンの兵たちに囲まれていた。
しかし、その待遇は反乱者としてではなく、
「おつかれだったな。」
「ああ・・・。」
彼らの同胞として、男は迎え入れられていた。
「だが・・・、あんな事を広めてよかったのか?今奴等は俺達に氾濫を起こさんばかりの状況だが…。」
「ああ。それがアーガス様の命令だからな。あの方の計画にミスは無いさ。さあ飲め、最期の酒だ。」
「ああ、有難うよ。」
レジスタンスの格好をした男と兵はお互いグラスを掲げた。
グラスからこぼれた濁った酒が兵舎の床の土を濡らした。