自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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大陸暦1098年 9月1日 サイフェルバン 午後3時
第3戦術爆撃兵団の司令官であるブラッドマン少将は、送られてきた書類を見て満足した。
「司令官、今作戦で、わが軍はB-25、P-51を1機ずつ失い、B-25が12機、A-20が
8機被弾しました。その後、2機のP-51、1機のB-25、2機のA-20が飛行場に不時着しました。
そのうち1機のA-20が使用不能になっています。」
参謀長であるカー・ロビンソン准将が淡々とした口調で報告する。
被害の最終集計が纏まったので、ロビンソン准将は報告しに来たのである。
「戦争とは相手がいる事だ。被害ゼロに抑えると言うことは難しいな。」
ブラッドマン少将は持っていた書類を机に置き、イスに背を乗せた。
「だが、現像された写真を見る限り、我々は敵にかなりの損害を与えている。作戦としては成功だ。あとは、」
「ファルグリン市民、いや、バーマント国民の反応・・・ですね?」
「そうだ。戦争は遠くのほうで起きていると思ったら、いきなり見たことも無い敵がやってきて、暴れまわったのだ。
恐らく、ファルグリンのバーマント人たちは驚いているだろう。百歩譲って驚いていないにしても、
遠くから首都を狙える機体が敵に存在する。それを見せ付けただけでも大きな効果があったと思う。」
腕を組みながら、ブラッドマン少将はそう言った。
現像されたばかりの写真には、煙に包まれる敵施設や、要塞が写っている。
詳しい戦果の判定は、ガンカメラや、搭乗員が撮影したカメラなどを見て、これから細かく検証していくが、
ブラッドマン少将は、この空襲の意義は達せられたと思っていた。

9月2日 午後2時 バーマント公国ファルグリン
公国宮殿のバーマント皇は、眠れぬ夜を過ごしていた。
昨日の空襲で、ファルグリン要塞と錬兵場が壊滅的打撃を受けた。
特に目の前で、錬兵場が銃爆撃受けて壊滅していくさまは、何度も脳裏によみがえった。
眠ろうとすると、宮殿が敵の飛空挺に爆撃される悪夢にうなされる。
その度に、バーマント皇は跳ね起きている。そのため、昨日は2時間しか眠れなかった。
玉座に座る彼の元に、直属将官の1人であるミゲル・アートル中将がやってきた。
最終報告が出来上がったのだな、と、バーマント皇は思った。
「皇帝陛下、被害状況の最終報告が出来上がりました。」
アートル中将は、ここ数日間宮殿にいなかった。出張のため西の魔界都市グアンリムに行っていた。
そして出張が終わり、もうすぐで首都に戻るという時に、ファルグリン空襲を知らされた。
数日前のバーマント皇は、精力的な風貌で、何も怖いものなしと言った感じがしたが、
今日のバーマント皇は、どことなく気迫に欠け、元気が見られない。
何年か老けてしまったように見える。
ただ、バーマント皇目だけはやたらにぎらついていた。
「大方予想は付いておるが・・・・言いたまえ。」
抑揚の無い声でそう言って来た。内心うんざりしているようである。
「まず、ファルグリン要塞でありますが、敵飛空挺の爆撃で西棟が戦死者257人、負傷者2900人、
東棟が戦死者1328人、負傷者3700人。ダムの戦死者が380人、負傷者540人、錬兵場の戦死者が584人、
負傷者1000人となっております。それにダム崩壊で下流付近の軍事施設および、穀物の農作物の一部が
かなりの被害を受けました。」
「死者が増しておるな。」
「重傷者の何人かが、救助された後に傷が下で亡くなっています。」
「わずか1時間足らずの空襲で、2500人が死に、8000人以上が傷を負ったのか。」
バーマント皇は深くため息をついた。

この大被害はかなり痛すぎる。人員、農作物。どれを取っても痛すぎる喪失だ。
「それで、町の様子はどうなっておる?」
「パニックは収まりました。市民は元の平静を取り戻しております。」
「そうか。」
彼はそれだけ言って頷いた。
昨日の空襲の後、ファルグリン市民はいきなりの敵来襲にパニックに陥った。
市内には、不時着した敵飛空挺から敵兵が侵攻してきた、
とか、敵の第2次攻撃が今、首都に向かっている、などのデマが乱れ飛び、この情報を真に受けた市民達は恐慌状態に陥った。
市民の中には、慌しく西に逃げていく者が続出し、それに乗じる空き巣や強盗などが頻発した。
軍や官憲は、住民に敵の更なる来襲が来ないことを必死に告げた。そして1時間前に、ようやく混乱は収まった。
「アートル中将、私はあることを思いついたのだが。」
「なんでありますか?」
「確か、サイフェルバンのすぐ東には、東方軍集団があったな。」
東方軍集団とは、サイフェルバンを制圧した米軍に備え、急遽編成された軍団で、4個軍で編成されている。
バーマント軍は、12000の兵で1個師団、7000人の兵で1個旅団を編成している。
1個軍には、3個の師団に、1個の旅団で編成されている。4個軍を合計すると、およそ172000人の大兵力である。
その東方軍集団は、4つの地域に分派され、侵攻してくるであろう米軍を待ち構えている。
「はい。東方軍集団は今も配置に付いております。各軍の将兵も、敵の侵攻を腕を撫して待っております。」

「アートル中将、待機命令は解除する。」
「待機命令は解除ですか。では、東方軍集団を首都に呼び戻すのでありますか?」
「いや。」
バーマント皇はかぶりを振った。そして、先とは打って変わった鋭い目つきで、彼をみつめた。
「東方軍集団にサイフェルバン攻略を命ぜよ。」
「!?」
アートルは思わず耳を疑った。
「敵はたかだか10万ではないか。先のサイフェルバン戦で敵の陸海軍に大きな打撃を与えている。
今度こそ、負けないはずだ。」
バーマント皇は自身ありげに言う。
(そのたかだか10万の軍隊に包囲殲滅された、サイフェルバンの将兵は何だと言うのだ?)
アートルは内心呆れ果てた。こんな人物に国は任せて置けない。
「ですが、たかだか10万と言えど、敵の装備も優秀です。東方軍集団は武器も更新されておりますが・・・・・・」
「なに?数が足りんと申すのか?ならば、ララスクリスとクロイッチから引き揚げた部隊も加えようか。」
「ララスクリスと、クロイッチから引き揚げた部隊は、現在再編成中です。」
2週間前に、バーマント軍上層部は本国の防衛のため、ララスクリスとクロイッチの放棄を決定し、軍を両都市から引き揚げた。
現在、この両軍は第21軍として1つに編成され、戦力の補充を行っている。
だが、米軍の実力を直に味わってきた第21軍の兵は、士気が低かった。
「そうか・・・・なら東方軍集団のみで攻撃を行おう。それにしても、昨日の空襲は痛かったな。
せめて戦闘飛空挺がもっと多く完成しておればよかったのだが。」
1週間前に、バーマント軍は念願の戦闘飛空挺、いわゆる戦闘機の開発に成功した。

スピードは529キロまで出せ、武装は11.2ミリ機銃を2丁、両翼に積んでいる。
防御力は並みの飛空挺並みで、機動性が良いと聞いている。
航続距離は1700キロで、1人乗り。
テスト飛行と大量生産を兼ねており、現在30機が西800キロのオールトインの製造工場で既に完成済みだ。
パイロットの評判はよく、現在、他の空中騎士団のパイロットも、この機体を操って訓練に励んでいる。
「まあ、無いものねだりしても始まらぬな。とりあえず、今後の課題はサイフェルバンの占領だ。
いくら大型飛空挺といえども、さすがにサイフェルバンを抑えられたら手も足も出まい。」
「わかりました。早速陸軍最高司令官にお知らせいたします。」
アートルはうやうやしく頭を下げ、謁見の間から退出して行った。
無表情な彼だが、内心ははらわたが煮えくり返る思いだった。
(何も分かっていない!あの皇帝は目の前で敵軍の威力を見せ付けられたのに、まだ勝てると思っている。
これでは、敵軍を逆に喜ばすだけではないか!)
アートルは、内心で皇帝を罵った。あの皇帝さえいなくなれば、世の中は安定していたのに・・・・・
侵略さえしなければ、異世界軍を召還され、首都の空を敵軍に蹂躙されることも無かったのに・・・・・・
早く・・・・・・・革命を起こさねば。同志をもっと集めねば。
怜悧そうな外見とは異なり、心は色々な考えが吹き荒れていた。

9月4日 サイフェルバン 午後11時
「ナスカ!もういいわ、あなた達は引きなさい!!」
レイムの叫び声が聞こえる。体が先ほどとは、打って変わって石のように重い。
「そうよ、あんた達は無理する必要はないわ。後はあたし達に任せて!」
同僚のリリアもそう叫んだ。2人とも顔が汗でぐっしょりと濡れている。
なんだか背中に服に張り付く。あっ、自分も汗をかいていたのか。まるで水風呂に入ったみたいね。
魔道師、ナスカ・ランドルフはそう思った。
頭がクラクラするが、仕事は決して、やめるつもりはない。
納屋の中が青白い光に染まっている。小さな稲妻のようなものが、ビシビシと音を立てて弾けている。
「もうすぐ・・・・・もうすぐ・・・・・レイム姉さん、リリア。
あたしは・・・やめ・・・ない。たとえ、この・・・命に変えて・・・もね。」
ナスカは笑みを浮かべてそう言った。辞めるのは簡単、魔法陣の中心から手を引っ込め、陣の中から出ればいい。

だが、

(逃げない・・・・絶対に、自分にも、この召還にも、絶対に逃げない!)

幼少時代、いじめにあっている男友達を見つけながら、何も出来ずにただ静観していた自分があった。
10代の半ばごろ、将来の進路を決める時。面と立ち向かって意見を言えず、高等学校に入れられた。
そして4年前、実家の面倒も見ず、勝手に魔法学校に入ってきた自分があった。家族は別の親類に養われた。
どれもこれも、逃げてばかりの人生だった。そして、この召還魔法を聞いたときも、最初は全く関係ないと思っていた。

だが、ある日、突然思った。もう、逃げたくは無い。必要としている人たちがいる。
この国のみんなを守りたい。そして、自分の内面に打ち勝ちたい!!
決意を決めた後は早かった。同じ意思を持つ同僚を集め、彼女ら3人は、レイムに直談判を行った。
3人は、魔法に関しては一流だったが、体力面については3人に大きく劣った。
だが、それでも、彼らは頼んだ。やがて、彼らの熱意に応えたレイムは、彼らを迎え入れた。
そして6人は召還までの数ヶ月、深い絆で繋がった。
今、こうしているのも、自分のため、そして皆のためだからだ。
頭がクラクラしたかと思うと、今度はまぶたが重くなってきた。深いまどろみがナスカを襲う。
だが、彼女はすり減らされる体力のもと、それを振り払う。
何度も何度も振り払う。
「最後まで・・・・・・・最後まで、持って!!!!!!」
限界に達した体は悲鳴を上げている。目もほとんど閉じかけている。だが、彼女は逃げなかった。
そして、次の瞬間、納屋は白い閃光に覆われた。そして、何かが凄まじい光を発し、魔法陣から発せられた。
そして瞬きをすると、そこには何も無かった。だが、彼女は確信していた。召還が成功したことを。
「やった。逃げな・・・かった。」
そこまで言った直後、ナスカの意識は暗転していった。

(起きて)
どこからか声がする。誰の声だ?
(もう・・・・十分に休んだわ。あなたは、ここにいるべきではないわ。)
どこからか、声がする。真っ暗闇の中に、ナスカは立っていた。
「誰?」
彼女は首をひねる。この声はどこかで聞いた声である。
(私は・・・・・あなたよ。)
そう、それは彼女自身の声だった。もう1人の私?そんなはずは・・・・・
(そんなはずは、あるのよ)
声、もう1人のナスカは、答えを覆した。どういうことなのだろうか?ナスカは疑問で頭が一杯だった。
(その疑問は、起きれば分かるわ。さあ、行きましょう。真の世界へ)
真の・・・・世界。ナスカは反芻しながら、起きることを決意した。

薄暗闇の世界が、そこにあった。ここはどこ?
彼女はそう思った。ナスカはどことなく違和感を覚えた。そして周りを見渡した。
なぜか来たことも無い服を着せられている。なぜか床が微妙に揺れている。
それに、この毛布は?この部屋は、ヴァルレキュアには全く見られないものだった。
右には、2人の魔道師、フレイヤ・アーバインとローグ・リンデルが寝かされている。
外から、ドンドンドン、ガンガンガンという不思議な音が聞こえてくる。
何か金属を叩いているような音だ。
その時、通路から白い半そでの上着に、白いスカートを付けた女性が現れた。
その女性を見たとき、先に警戒感が走った。
(もしや・・・・・・敵!?)
彼女はすかさずそう思った。ナスカも、魔法学校では各種訓練をこなしており、格闘術もできる。
レイムやリリア、マイントには及ばないものの、大の男をすぐに倒せる腕前を持っている。
だが、彼女の意図を察したのか、女性が、
「ちょっと待って!」
と、いきなり鋭い声で言ってきた。思わずナスカは動きが止まった。白い服の女性の後ろから、男が出てきた。
「どうした、何があった!?」
「軍医、あれを。」
白衣をまとった変わった洋服を着た男が、ナスカを見た。
それを見た男は一瞬動きを止め、その次には満面の笑みを浮かべた。

「やったぞ!目を覚ましたぞ!」
小躍りする男は、その後、冷静な表情になった。
「君は、ナスカ・ランドルフだね?」
眼鏡をかけた、痩身のその男は、歩きながらそう言って来た。
「?どうして私の名を?」
「レイム・リーソン魔道師に君達を看病してくれと頼まれたのだ。
始めまして、私はミハイル・ハートマン軍医中佐だ。君達の看護をずっと担当していた。
あそこのナースは君達の世話をしてくれている、ルクサンドラ・マーチンだ。」
「え?レイム姉さん・・・・じゃなくて。リーソン師匠が私達を?それより、あなた方はいったい?」
「一気に複数の質問をするとは、起きたばかりなのに元気なものだな。」
ハートマン軍医中佐は、顎をなでながら頷いた。
「私達は、君達にこの世界に呼ばれたものだ。」
彼の言葉に、ナスカは召還儀式をやっていたことを思い出した。
召還儀式が終わった直後に倒れていたから、起きるまでの間が全く分からない。
だが、この人たちが、召還された者達とするなら・・・・・・・
「召還は成功したんだ。」
ナスカは、安堵した表情でそう呟いた。
「先生、患者の状態は、見た限りでは良好です。」
「ふむ。全く異常が無いな。」
2人のやりとりを聞いているよりも、ナスカは外から聞こえる音が気になった。
起きた時からずっと鳴り続けている。
「ん?どうしたのかね?」
ハートマン軍医中佐は、怪訝な表情で彼女に聞いてきた。

「そういえば、外から聞こえるこの音はなんですか?」
「ああ、気になるかね?どれ、見せてやろう。」
そう言うと、彼はナスカを案内した。
彼女が立つと、緑色の長髪が背中まで垂れ下がる。
彼女の風貌は、負けん気が強そうな顔つきだが、顔も端正で、スタイルも悪くは無い。
ハートマン軍医中佐に案内された彼女は、ドアを出ると、初めてここが船の中だと分かった。
彼女はそのことに気付くと驚いた。
さらに数歩進んだところで、外の通路に出た。
「あれが、音の原因だよ。」
ナスカは思わず言葉に詰まった。彼女の先方には、巨大な大型船が停泊していた。
その船は、第3次サイフェルバン沖海戦で大破した、戦艦のアイオワだった。
そのアイオワの傷も、7割がた癒えている。今も艦のあちこちで、修理工が鉄板を打ち付けたり、溶接をしたりしている。
「戦艦のアイオワだ。2ヶ月近く前の海戦で、バーマント海軍の第3艦隊と呼ばれる艦隊と戦って酷い傷を負ったそうだ。
なんでも、1隻で5隻の重武装戦列艦とやらを相手にしたらしい。まあ、5隻のうち、2隻は撤退前に叩き潰したようだ。」
「あの艦だけで、5隻のザイリン級を!?」
まるで・・・・・・化け物じゃない。
ナスカはそう思った。バーマント軍第3艦隊の存在は、ナスカも知っている。
だが、アイオワの巨体をずっと見入っていると、1隻であの重武装戦列艦5隻を相手取れた事も分かる。
(あたし達って、とんでもないものを召還してしまったかな?)
ナスカの額に、うっすらと汗が流れた。
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