自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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9月30日 午後4時50分 ギルアルグ第3飛行場
残されたのは、破壊された建物と、穴だらけにされた滑走路。
そして戦闘能力を失った空中騎士団・・・・・・・
第21戦闘空中騎士団の中隊長、アルヴェンテリー中尉は、周りを見てそんな事を思った。
アルヴェンテリー中尉は、午前に行われた空中騎士団の総攻撃に参加し、米機動部隊の艦載機、F6Fと渡り合った。
アルヴェンテリーは戦闘飛空挺が最初に開発された時、テストパイロットを勤めていた。
その技量を買われて、彼は第21戦闘空中騎士団の第4中隊長に任命された。
だが、後から入ってきたパイロットは技量が低く、戦闘飛空挺の操縦を思うように出来ないでいた。
そんな中、米機動部隊来襲の報が入ってきた。
第21戦闘空中騎士団は、当初は技量未熟者を除いた100機で出撃する予定であったが、
急遽、上層部から技量向上剤と言われた薬を配布され、技量未熟者にも分け与えるように命令された。
この技量向上剤は、バーマントが能力アップの魔法を加工して薬に転化したもので、
既に生産が始まっていた。
だが、この技量向上剤は、飲んだ後は確かに技量は格段にアップするが、任務後に強烈な頭痛が襲い、
半日は完全に動けにくくなると言う欠陥を持っている。
これを何十錠と飲んで行くと、しまいには精神が崩壊すると言われている、いわく月の薬でもあった。
しかし、状況は逼迫しており、エリラはやむなく、この薬を全空中騎士団の技量未熟者に配布するように命じたのである。
この薬のお陰で、本来は6割程度しか出撃できなかった飛空挺の数が、フル出撃できるまでになった。
そして670機の飛空挺集団は、空母ランドルフを始めとする正規空母、戦闘艦艇を10隻以上に撃沈、撃破。
あるいは損害を与える戦果をあげた。
アルヴェンテリー中尉も、1機のF6Fを撃墜する戦果をあげた。

だが、代償も大きかった。
米機動部隊の迎撃は、こちら側の攻撃が激しくなる分、それに比例するかのように激烈なものとなった。
帰還機はわずか100機・・・・・
そして、大損害を与えたはずの米機動部隊からの空襲・・・・・・・
これによって帰還機の大多数が地上で木っ端微塵に吹き飛び、穴だらけにされた。
「この戦いは、俺たちの負けだな。」
彼は愕然とした表情でそう呟いた。
空襲の惨禍はこれだけに留まらず、帰還して、技量向上剤の副作用に苦しんでいた、
新人兵が寝込んでいた宿舎にも容赦なく爆弾や機銃弾が叩きこまれ、多くのパイロット
が避難する間もなく死んだ。
これでは技量向上剤に殺されたも同じである。
「釣り合わない・・・・・・いや、敵が上手すぎるんだ。」
彼は空を仰いだ。今日の航空戦で多数の血が流れ、損害を与えた米機動部隊も今だ健在。
そして航空基地の壊滅・・・・・・・・・
「もはや、地獄だ。」
彼の内心に、絶望的な思いが、ふつふつと沸き立ち始めた。

9月30日 午後7時 魔法都市マリアナ
「飛空挺640機を敵機動部隊攻撃に駆り出して、大型空母2隻、中型艦6隻撃沈、
そして大型空母2隻、小型空母1隻大破、護衛艦艇も5隻撃破・・・・・・」
エリラは、自室に持ち込まれた報告書に目を通していた。
「そして、670機中、帰還機は・・・・・・100機。」
エリラは思わず目を覆ってしまった。
「敵空母を6隻撃沈して見せるって言ったくせに、戦果が少なすぎるわ。」
エリラは報告書を床に投げ出すと、椅子にふんぞり返った。
今日の午前から午後の始めに、グランスボルグ地方に駐留する
第19、第21戦闘、第22、第23、第24、第25の6つの空中騎士団は、
偵察機と、海竜隊が発見したアメリカ機動部隊を、ギルガメル諸島から西に180マイル、
ブリュンス岬から北東80マイルの沖で集中攻撃を加えた。
これは空中騎士団が創立されて以来、始めての大航空作戦で、
グランスボルグ地方の空中騎士団を統括する第12航空軍では、
最低でも空母は5隻か、6隻は撃沈できるであろうと見込んでいた。

「これなら、あの忌々しい機動部隊も以降の攻撃をためらうわね。」
空中騎士団の作戦をきかされたエリラも、大戦果を期待していた。
だが、現実は残酷だった。
念願の敵大型空母撃沈は果たせたものの、暫定ながら、撃沈が2、大破が3隻・・・・・・
暫定だからこの撃沈、撃破数は信用できないと、エリラは確信している。
彼女は、せいぜい空母は1隻撃沈、2隻大破と思っている。
そして、こちらは570機の飛空挺を撃墜されてしまった。
おまけに合流前だった第5艦隊が敵機動部隊から飛来してきた攻撃隊によって、
重武装戦列艦3隻、中型戦列艦2隻、小型戦列艦4隻が撃沈され、2隻が戦闘不能に陥っている。
その第5艦隊は残存艦艇を率いてどこかに逃げてしまった。
おかげで、第6艦隊は単独で米艦隊と戦う事になる。
被害はそれだけではない、空母を5隻撃沈破されたはずのアメリカ機動部隊は、
報復攻撃をギルアルグの飛行場に対して行った。
午後3時50分に戦爆連合160機、午後4時10分に戦爆連合130機が来襲、
激戦で翼を休めていた戦闘飛空挺、攻撃飛空挺のほとんどが破壊された。
アメリカ艦載機の攻撃は凄まじく、ギルアルグにあった3つの飛行場は全てが破壊された。
これだけの犠牲を払ったにもかかわらず、敵機動部隊は依然健在である。
「父上の気持ちが、少しは分かったような気がするわね。」
エリラはそう言うと、髪をかきむしる。
「とりあえず、打撃を与えられた事が、唯一の救い・・・・・か。」
エリラは窓を眺めた。空は既に日が落ちかけており、赤く染まっている。
それは、今日1日の決戦で流れた両軍の将兵の血で塗り固められたかのように、赤い。
(下手をしたら、あたし自身もあのように、血の海に倒れるのかしら・・・・・)
エリラはそう思った。
「縁起でもない!あたしは目的を果たす。まだ、望みが絶たれたわけでもない。」
まだ新鋭艦揃いの第6艦隊がいる。あの艦隊なら、きっと・・・・・・・
エリラは残り少ない望みに思いをかけた。

午後8時40分 ブリュンス岬より西120マイル地点
第58任務部隊は、損傷艦や兵員を乗せた艦艇を後方の補給艦隊に預けると、
午後3時50分に再び進撃を開始した。
まず、軽空母のアベンジャーを中心にした飛行場攻撃隊を発艦させたあと、
敵艦隊攻撃に帰還してきた攻撃隊を再び敵地に送り出した。
午後7時40分までには全機が帰還し、艦隊は再び針路を西に取り始めた。
第5艦隊司令部は、損傷したインディアナポリスを後方に引き下げた代わりに、
戦艦のワシントンに将旗をかかげ、前線での指揮をとり続けた。
「長官、そろそろ決戦部隊を抽出したほうがよろしいかと思われますが。」
「うむ、いいだろう。」
デイビス少将の提案に、スプルーアンスは頷く。決戦部隊の陣容は既に決まっていた。
午後4時10分に、ホーネットから発艦したヘルダイバーが、西南400マイル地点に
新たな艦隊を見ゆとの報告を送ってきた。
それは継戦派の第6艦隊で、合計25隻の陣容で成っている。
その艦隊の針路は東、つまり、第58任務部隊に向かっていた。
これに対し、スプルーアンス大将は対抗部隊を各任務群から抽出することに決め、
この対抗部隊を持って継戦派艦隊を迎撃する構えを取った。
「それにしても、我々は今日1日で手痛い損害を受けてしまったな。
新鋭空母のランドルフの他に、歴戦の戦闘機パイロットも失ってしまった。」
午後に行われた飛行場攻撃の際、米側は290機の艦載機を送り込み、ギルアルグ周辺の航空基地を壊滅させた。
米艦載機が襲来して来た際、バーマント側も生き残った戦闘飛空挺30機をもって迎え撃ったが、
逆に20機が撃墜されてしまった。
270機中、敵戦闘機や飛行場側の対空砲火で、24機を失った。
24機の犠牲と引き換えに、20機を撃墜、70機を地上撃破、飛行場を壊滅したのだから、損害は軽微と言える。

だが、未帰還機の中には、エセックスの戦闘機隊長であるデイビット・マッキャンベル中佐も含まれていた。
エセックスの乗員は大きなショックに見舞われたが、士気は依然として旺盛であった。
ドラゴンスレイヤー作戦は成功しつつある。だが、予想内とはいえ、被害が大きすぎる感もある。
「いくら損害を抑えようとしても、必ず出てしまう・・・・・・・戦争とは難しいものだ。」
スプルーアンスは複雑な表情を浮かべながらも、コーヒーをすすった。
コーヒーの味はほろ苦く、彼の心境を表しているかのようだった。

午後9時10分、各任務群から派遣された第7群の艦艇と、抽出された艦艇が集結した。
一方、第58任務部隊は針路を一旦東南に取り、万が一の事態に備えた。
対抗部隊の陣容は、戦艦アイオワ、ニュージャージー、アラバマ、インディアナの4戦艦。
重巡洋艦サンフランシスコ、ボルチモア、ボストン、軽巡洋艦クリーブランド、サンタフェの5巡洋艦。
駆逐艦ゲスト、ヤーノール、バグリー、マグフォード、パターソン、フラム、カニンガム、ハドソン、
ハルフォード、ストックハム、トワイニング、ザ・サリバンズ、デューイ、ルイス・ハンコックの14駆逐艦。
計23隻が継戦派艦隊を迎え撃つ。
敵側も重武装戦列艦5隻、中型戦列艦6隻、小型戦列艦14隻だから、戦力的にはほぼ互角であろう。
後はそれぞれの個艦性能と、乗員の腕前が明暗を分ける。
対抗部隊の司令官はアイオワ座乗のウイリス・リー中将が取ることになっている。
会敵予想時刻は、午後10時と見込まれていた。
9月31日午前3時 ブリュンス岬沖西北270マイル沖
「レーダーに反応!敵艦隊確認せり!距離25マイル!」
アイオワのSGレーダーが、バーマント継戦派艦隊を発見した。
「砲戦用意!」
アイオワの艦橋で指揮をとるウイリス・リー中将は明瞭な声で命令を発する。
前部の主砲塔が動き、仰角がかけられる。
「敵艦隊、速力23ノット。反航する形で接近してきます。」

「速力上げ、28ノット。」
「速力28ノット、アイアイサー。」
これまで24ノットで航行していた艦隊が、28ノットの速力にあがる。
「距離20マイルで砲戦を開始する。」
「距離20マイル、ですね?」
「そうだ。」
幕僚の問いに、リーは即答する。
艦首が波を切り裂く。波しぶきが湧き上がり、艦首甲板に海水が降りかかる。
「敵艦隊との距離、23マイル」
CICから機械的な声が流れてくる。リーにとって、3回目の砲撃戦だ。
以前はアイオワ1隻で、敵の戦艦クラス5隻を相手にするという不利な態勢だった。
増援のサウスダコタとワシントンが来るまでに1隻を撃沈し、1隻を大破、停止させたが、
アイオワ自身も後部主砲を損傷され、左舷側をメチャククチャに叩き壊された。
結果、アイオワは大破の判定を受けている。
(前はやや心細かったが、今回はアイオワの他にも3隻の戦艦がいる。
個艦性能では勝っているから、圧勝できるかもしれない。)
リーはそう思った。
それに艦隊全体の数も、それほど差がついていない。圧勝の見込みは十分にある。
「敵艦隊との距離、22マイル」
敵艦隊との距離が徐々に縮まってくる。
米艦隊はアイオワを先頭にニュージャージー、アラバマ、インディアナ、そして5隻の巡洋艦の順で
単縦陣を作っており、両翼に駆逐艦が7隻ずつ展開している。
それに対し、敵艦隊は2個の単縦陣でこちらに向かっている。
「敵艦隊より一部が分離!数は20隻。あっ、さらに6隻と14隻に分離!我が艦隊の左右に回り込む恐れあり!」
「まずは巡洋艦、駆逐艦で包囲か・・・・よし、こちらも巡洋艦部隊と駆逐艦部隊を分離だ。
駆逐艦部隊は右舷方向に迂回しつつある敵小型艦群、巡洋艦部隊は左舷の中型艦群を迎え撃て!」
リーの指示のもとに、巡洋艦部隊、駆逐艦部隊がそれぞれの獲物に向かって分離して行った。

「アメリカ艦隊も補助艦を分離しました。」
重武装戦列艦ゲルオールの艦橋に、年季の入った声が響く。艦内は灯火管制で真っ暗である。
ゲルオールの外見は、これまで3本煙突だったものが2本煙突になっており、
艦橋はザイリン級のより高く、先鋭的に見える。
現世界で似ている船を捜せば、イタリア海軍のリットリオ級に少し似ている。
「アメリカ人も邪魔者を取っ払いに行かせたか・・・・・後は我々と、敵の主力艦の直接対決だな。
魔道師、今回は大丈夫かね?」
「はい。今回は、コレで魔力増幅を行っておりますから、敵弾の7発や8発ぐらい受け止められます。」
その言葉に、第6艦隊司令長官のイルフェルム・エレゲルス大将は頷いた。
「我々は継戦派最後の望みだ。エリラ殿下のご期待に沿えるよう、派手に暴れまわろうではないか。」
「そうですな。空中騎士団の攻撃は不本意に終わりましたが、我々が代わりに敵空母を仕留めてやりましょう!」
幕僚達の威勢のいい言葉が次々とあがる。
「そのためにも、この迎撃部隊は撃滅しなければならん。諸君、訓練の成果を発揮する機会だ。存分に撃ちまくろう。」
その間にも、米艦隊と継戦派艦隊との距離は縮まりつつある。
「閣下、敵艦隊まで約32キロ地点まで迫りました。」
「よし、取り舵一杯!敵艦と同航戦で決着をつける。その前に、照明弾を撃て!」
「了解!」
それからしばらくして、第1砲塔の1番砲から照明弾が放たれた。ややしばらくしてぱあっ光がきらめいた。
光の下には、うっすらと、小さくだが、米戦艦の姿が見える。
「敵艦確認!主砲射撃用意!」
ゲルオールの35・9センチ砲の射程距離33200メートル。
航続のザイリン級2隻は30900メートルである。
しばらくして、米艦隊も針路を変更し、バーマント艦隊に同航し始める。
あえて乗ってきたのである。

「艦隊の回頭、終わりました!」
「敵艦との距離、32000メートル!」
「射程内だな。」
エレゲルス大将はぼそりと呟く。
「主砲発射準備完了!いつでも撃てます!」
その時、右舷後方の海面から閃光が走った。それは米戦艦の砲撃ではない。
「中型戦列艦群が敵艦と交戦開始!」
「よし、こっちも始めよう。射撃開始ぃ!」
エレゲルス大将は号令を下した。次の瞬間、ズゴオーン!という轟音が鳴り、ゲルオールの8つの主砲が吼えた。
それと同時に、米戦艦がいる方角でも主砲発射と思わしき閃光が広がった。
今回は、双方が同時に発砲すると言う珍しい展開である。
やがて、砲弾の空気を切り裂く音が聞こえてきた。
「来たぞ。」
誰かが小さな声で呟く。
やがて、その音が極大に達した、と思った時、左舷側の海面に3本の水柱が立ち上がった。
砲弾はゲルオールの右舷700メートルの位置に落下し、16インチ砲弾の水中爆発の衝撃波が、ゲルオールをゆさぶる。
今までに経験したこの無い揺れに、誰もが驚きの声を上げる。
「弾着!」
こちらの砲弾も敵艦隊のほうに着弾した。砲弾は敵艦の位置より左舷側に遠ざかっている。
「近1700」
米戦艦が右舷600メートルの距離に着弾させたのに対し、こちらは1700メートル。
「最初の弾着にしては、かなり近いな。」
エレゲルス大将は、米戦艦の射撃精度にやや驚いた。
両艦隊は同航しているものの、距離は詰まりつつある。
「敵艦との距離、30000メートル。」
航続のザイリン級2隻も33・8センチ砲を撃ち始める。
先の弾着から30秒も立たぬうちに、早くも次の砲弾が落下してきた。
7秒後に今度は左舷側600メートル付近の海面に3本の水柱が立ち上がった。
「見たまえ、あの水柱を。敵艦の大砲は、35・7センチ以上は確実にあるぞ。」
エレゲルス大将は、水柱を指差しながらそう呟く。

ドーン!と、第2斉射が放たれた。その時には敵戦艦は第3射を撃った。
左舷側500メートル付近に再び大水柱が吹き上がる。
その間から、米戦艦の左舷側に、うっすらとだが水柱が立ち上がるのが分かる。
「弾着!近1800!」
「さっきよりも悪いぞ。しっかり狙わんか!」
艦長の叱咤が響く。
「参謀長、敵艦には9門の大砲があるが、水柱は我が艦の周囲に3本しか立っていない。
主砲が故障しているのか?故障している割には、発射速度が速いな。」
「私の推測ですが、恐らく、敵艦は3門の主砲塔から1門ずつ、
交互に撃っているのではないでしょうか。一斉射撃よりも弾数は少ないですが、
発射速度は速いです。」
「なるほど・・・・・だから我が艦よりも早く撃てるのか。」
ゲルオールは45秒ごとに1回の斉射が出来るが、米戦艦はその間に2回撃って来ている。
参謀長の推測どおり、アイオワは3門の主砲塔を、まずは弾着観測を兼ねながら交互撃ち方で始めた。
「恐らく、交互に撃ってから、正確に修正したあとに、一斉射撃に切り替え、
それから決着をつけようとしているのかもしれません。」
「なるほど。厄介な相手だ。」
参謀長の言葉に、エレゲルス大将は納得したような表情を浮かべる。
その間にも、米戦艦の砲撃は次第に精度が良くなってきている。
第3射の砲弾は、ゲルオールの300メートル手前に着弾し、ゲルオールを大きく揺さぶった。
そして第4射目はゲルオールを飛び越えてしまったが、それでも400メートルの海面に突き刺さった。
「畜生、次第に正確になってきたぞ。」
エレゲルス大将は舌打ちをする。ゲルオールの主砲が第3斉射を放った。
その4秒後に米戦艦からも第5射が放たれる。
「弾着、今!」
敵1番艦の左舷800メートル付近に8本の水柱が立ち上がる。
「近800!」
こちらの射撃も少しずつ良くなってきている。エレゲルス大将がそう安心した時、米戦艦の砲弾が落下してきた。

それも、今までのよりも大きな音だ。
次の瞬間、周囲に3本の水柱が立ち上がり、ゲルオールは大きく揺さぶられた。
「て、敵弾が本艦を夾叉しました!」
アイオワの第5射はゲルオールの右舷に2本、左舷に1本の水柱を立ち上げた。
「むむ・・・・これは少々、いや、かなりやばくなって来たぞ。」
思わず眉をひそめる。こっちの砲撃はやっと1000メートル以内に入ったのに、米戦艦は既に夾叉弾を得ている。
これが何を意味するかは、彼らは知っている。そう、近いうちに直撃弾を受けてしまう。
その可能性は今、非常に高くなった。
敵艦がさらに第6射を撃った。この時、両艦隊の距離は28400メートルまで縮まっている。
ゲルオールも負けじと、第4斉射を放った。弾着を確認する前に敵艦の砲弾が落下してきた。
今度は1発が右舷、2発が左舷に落下した。
水柱が晴れると、米戦艦の左舷側にも水しぶきが吹き上がる。
「近500!」
「こっちも着実に精度をあげている。この調子なら大丈夫だろう」
頷きながらそういった時、何度も聞いた音が向かってきた。それも、今まで聞いたことの無いほど、音がでかい。
「これは・・・・危ないな。」
エレゲルス大将がそう呟いたとき、突然ゴーン!という衝撃が走った。
バアーン!という音が同時に鳴る。まるで何かが耳元で破裂したような音だが、これは魔法防御が作用した証拠でもある。
「敵弾1、右舷中央部に命中!損害なし!」
魔法防御によって、敵弾のパワーはその場に食い止められ、艦は揺さぶられただけで損傷が無い。
「敵に先手を取られたか!」
今まで冷静にしていたエレゲルスも、やや顔をしかめる。
再び主砲が吼える。
その1秒後に米戦艦も主砲弾をぶっ放す。後続の艦もそれぞれの目標に向けて主砲を放つ。

「ウロンズが命中弾を出しました!」
4番艦のウロンズが敵艦、サウスダコタ級戦艦の最終艦であるアラバマに砲弾を命中させた。
砲弾は1発が左舷の2番両用砲に命中し、その両用砲を粉砕した。
命中箇所から火災が発生し、アラバマの艦影がぼんやりと浮かび上がる。
だが、アラバマは大して傷ついておらず、命中弾を浴びせた不遜なウロンズに対し、
更なる砲火を浴びせている。
米戦艦の砲弾が落下する前に、こっちの砲弾が着弾する。8つの水柱が立ち上がる。
その水柱のうちの1本が、アイオワの右舷側に立ち上がった。
「夾叉を得ました!」
「ようし、いいぞ!」
その直後に、アイオワの主砲弾が着弾し、再びゲルオールが揺れる。
「後部に命中するも、損傷なし!」
「そうか、まだ魔法防御が効いているうちに、砲弾を叩き込まんとえらい事になる!
砲術、もう少しだぞ!」
艦長が、伝声管の向こうの砲術科を叱咤する。
それから30秒後に第6斉射が放たれる。そして、
「弾着!敵艦に1弾命中!」
艦橋がわあっ!と歓声に包まれる。砲弾命中の戦果を聞いて、自然と砲術科員の動きも早まる。
「変だな。25秒おきに敵艦は大砲をぶっ放してきたのに、急に静かになりよった。」
「恐らく、一斉射撃の準備をしているのでしょう。こっちは既に2発食らっています。
弾道計算が的確だと判断して、一気に砲弾を叩き込んで、カタをつけるつもりでしょう。」
参謀長が言葉を終えた直後、暗闇の向こうが急に明るくなった。
先の発砲炎とは比べものにならない明るさである。
(敵が一斉射撃をやったな)
エレゲルスはそう思った。そして、その思いは現実のものとなった。
先のものとは比べ物にならない轟音が空から降ってきた、と思った瞬間、
ゲルオールの周囲に砲弾がドカドカと落下した。

その中で、2度の着弾音があった。
「うっ・・・・・」
衝撃に揺れる中、後ろで苦しそうな声が上がる。
この艦に乗り組んでいる魔道師が、不意にうめき声を上げている。
「大丈夫かね?」
「は、はい。大丈夫です。」
魔道師はそう言うが、顔はやや青い。魔道師は魔法防御を展開させている時は相当な体力を必要とする。
そして、魔法防御を展開させている時に何らかの砲撃を受けると、魔道師の体に刺激が走る。
その刺激に耐えられなくなると、魔道師は魔法防御を展開する魔力がなくなってしまい、
数日は使い物にならなくなってしまう。
今回は、魔力を増幅する指輪をつけているため、4発を被弾してもまだ魔法防御を展開しているが、
第3次サイフェルバン沖海戦では、魔力増幅指輪をつけていない魔道師が、
16インチ砲弾2発を食らっただけで魔力に限界が生じ、魔法防御を維持できなくなっている。
ゲルオールも斉射を撃った。
米戦艦もゲルオールが撃った20秒後に新たに撃ち返して来る。
続々と立ち上がる水柱の中に、2つの閃光が光る。
「2弾命中!」
その15秒後に、今度はアイオワの砲弾が3発叩き込まれる。
45秒立って新たな斉射が放たれ、その後に米戦艦が撃ち返す。
「斉射の発射速度も、あちら側が5秒か6秒ほど速いな。」
エレゲルスは苦い表情でそう言う。
「2弾命中!」
と、その時、またもや被弾の衝撃がゲルオールを揺さぶる。
魔法防御が作用する音が海面に木霊した。

その時、後ろでドサッという音がする。振り返ると、魔道師が顔を真っ青にして倒れている。
魔力が尽きたのだ。そして体力も同様に尽きている。
「おい!急いで医務室に運べ!」
艦長が他の兵に命じ、2人の兵が倒れた魔道師を持って艦橋から消えていく。
「敵弾4発命中!されど被害なし!」
見張りの報告が入る。これで、ゲルオールは11発砲弾を受けている。
だが、既に魔法防御を敷く魔道師は倒れ付し、既にこの艦に魔法防御は無い。
後は、自艦の持つ装甲が頼りだ。
お返しにと、ゲルオールも第9斉射を放つ。
「敵4番艦、火災拡大!」
敵4番艦、アラバマの左舷の火災が酷くなった。
アラバマは既にウロンズの魔法防御を打ち破り、ウロンズの第2砲塔を叩き潰していたが、
敵はウロンズだけではない。
バーマント側には5番艦のロンボストがおり、ウロンズと共にアラバマを砲撃している。
アラバマが9発撃つと、相手は16発撃ち返してくるのである。
いくら新鋭戦艦といえども、劣勢になると戦いは苦しいものになる。
そしてアラバマは既に9発被弾しており、左舷側の両用砲、機銃座はほとんどが叩き潰され、
先の小火災がより一層ひどくなっている。
「ウロンズとロンボストも頑張っている。俺達も新鋭艦の名に恥じぬような戦いを見せなければ、
今日散っていた仲間達に申し訳が立たん!」
艦長は拳を振るいながら熱く語る。それに触発されたかのように、
米戦艦の周囲にも水柱が立ち上がり、弾着の閃光が走る。
「敵艦に命中3!あっ・・・・敵艦より火災発生!」
アイオワの左舷前部から、火災炎らしきものが上がっている。
ようやく手傷を負わせた、と思った瞬間、アイオワの放った斉射弾が落下してきた。
次の瞬間、ガガーン!というとてつもない衝撃がゲルオールを打ちのめした。
その凄まじい衝撃に、誰もが飛び上がり、壁に叩きつけられ、たちまち床を這わされる。
バーマントが威信をかけて作った最新鋭艦が、いまや頼りなく揺さぶられていた。
やがて揺れが収まる。
「敵弾、中央部付近に1発命中、第2、第3両用砲使用不能!」

左舷に1本ずつ置かれている、バーマントが初めて製作した対空、対艦両用砲が
16インチ砲弾によってあっけなく爆砕された。

主砲弾は両用砲が置かれている最上甲板を貫き、第2甲板の通路で炸裂し、
周囲の区画を爆風が叩き壊し、めちゃめちゃにしてしまった。
ゲルオールも斉射で撃ち返す。そして少し経ってからいつものように米戦艦の周囲に水柱が立つ。
新たに3発が命中する。敵艦は左舷前部から火災を発生しているが、新たに中央部にも火災が発生し、
アイオワの姿がぼんやりと浮かび上がる。
「火災を発生しているのに、全く答えた様子が無いな」
艦長はアイオワの強靭な防御力に下を巻いた。
それもそうである。
本来、戦艦という艦種は、自艦と同等の主砲弾を受けても耐えられるような重装甲を施している。
アイオワの装甲は、日本海軍の大和級戦艦には劣る。
それでも40センチ砲弾には十分に耐えられるように設計されている。
当然、ゲルオールの主砲弾は、1発もアイオワのバイタルパートに入っていない。
連装両用砲3基と、40ミリ機銃座6基、20ミリ機銃9丁が叩き壊されているものの、
依然として3基の16インチ砲塔は健在であり、スピードも全く衰えていない。
「畜生、いくら叩き込んでも実感が湧かん!」
艦長は忌々しげにそう呟く。
だが一方で、航続のウロンズとロンボストは2対1でアラバマを叩いたのが功を奏したのか、
「敵4番艦からの砲火が減少!」
という報告が艦橋に入ってきた。エレゲルスは窓の右後方に視線を移した。
アラバマの左舷側の火災は、先と変わらず大きい。いや、むしろ広がっているようにも見える。
それに、前部2基の砲塔のうち、1基が砲を撃っていない。
「ウロンズとロンボストの奴ら、なかなかやりおるわい。」
エレゲルスは感嘆したように言う。その直後、またもやアイオワの砲弾がゲルオールに叩き込まれた。
先と似たような猛烈な衝撃が、ゲルオールを叩く。
「後部第3主砲塔に被弾!使用不能!」

魔法防御が切れて2分足らず。たった2分足らずで、ゲルオールは自身の命と同等な主砲塔を1基叩き潰されてしまった。
16インチ砲弾はゲルオールの第3砲塔の天蓋に命中すると、それをあっさり突き破って中で炸裂。
第3砲塔の中で作業していた17人の将兵は全員が粉々になった。
爆発は砲塔の天蓋に大穴を開け、砲の1門が海に吹き飛んでしまった。
「第3砲塔の火薬庫に急いで注水しろ!誘爆するぞ!!」
艦長が血相を変えた表情で喚く。しばらくして、
「注水完了!」
の報が届く。その間に放った斉射は1発が再びアイオワの艦体を捉え、破片を飛び散らせた。
その時、後方で何かがぱあっと光った、と思うと物凄い爆発音が海面を轟かせた。
この時の爆発は、アラバマと対峙していたウロンズが、第1砲塔に直撃弾を受け、弾火薬庫に誘爆した音だった。
ウロンズはたちまち第1砲塔と第2砲塔の間から艦体が千切れ、すぐにスピードを落とし始めた。
そして沈み始めるのも早かった。
「ウロンズ、戦闘能力喪失!」
先は明るい口調で報告を送ってきた見張りが、今度は悲鳴のような口調で報告する。
「ウロンズの仇だ!艦長、あの細長い敵艦を完膚なきまでに叩き潰すのだ!」
突然の寮艦の戦闘能力喪失に、エレゲルス大将の心は復讐心で一杯になった。
そこに、アイオワの砲弾が落下してきた。
三度、16インチ砲弾がゲルオールの艦体を容赦なく叩く。
「第1砲塔に命中弾、使用不能!」
「中央部に命中弾!缶室1基が損傷!」
アイオワの2弾目は右舷側中央部の装甲を叩き割り、第4甲板の第2缶室で炸裂し、缶室を使用不能にしてしまった。
この損傷で、ゲルオールは最高速度の25ノットを出す事が出来なくなってしまった。
「艦隊速度を22ノットに変更せよ!」
エレゲルスがすかさず命令する。

後部艦橋の見張り所から、兵が夜光塗料を塗った旗で何か信号を送る。
ゲルオールの主砲弾が吼える。そしてまたもや1発がアイオワの中央部に命中した。
「当たってはいるが、本当に効いている」
のか?と言おうとしたとき、アイオワの第2煙突から後部の第3両用砲座あたりから突然大火災があがった。
その炎は今までのより格段に大きい。
彼らは詳しく知らなかったが、この時、ゲルオールの砲弾はアイオワの第3両用砲の両用砲弾庫に
飛び込んで、20発以上の両用砲弾を一気に爆発させた。
このため、弾庫から火柱が吹き上がって、甲板上に炎が広がった。
「敵艦に大火災発生!」
弾んだ声が艦橋に飛び込んできた。
「よし、その調子だ!砲術、敵艦の姿は丸見えだ!どんどん撃て!」
艦長も声の調子を上げて砲撃を命じる。
しかし、この時のバーマント艦隊は決して楽観できる状態ではなかった。
旗艦のゲルオールは既に主砲塔2基を潰されている。
2番艦のリルオールは、戦艦のニュージャージー相手に12発を命中させて、第1煙突を左舷側に叩き倒し、
後部の被装甲部から火災を発生させていたが、自らも魔法防御を打ち破られてからは後部主砲2基が使用不能にされている。
3番艦のファルグリンにおいては、戦列に留まっているものの、
インディアナに前部2基、後部1基の主砲塔を叩き潰され、2門の砲でしか射撃していない。
そして4番艦のウロンズは後方で沈みつつあり、5番艦のロンボストのみが無傷の状態で、損傷しているアラバマと渡り合っている。
一応敵に手傷を負わせている。
だが、ただ傷を負わせただけであり、敵艦は盛んに砲弾を撃ちまくっている。戦闘不能に陥らせた艦は1隻もないのだ。
「いかんぞこれは・・・・・」
エレゲルスは内心、ある不安がよぎりはじめた。
「敵4番艦がさらに砲火を減少させました!」
アラバマは、確実にロンボストに命中弾を叩きつけており、ロンボストに対する3度目の斉射は
6発中4発が命中という信じられない精度で、ロンボストは魔法防御を叩き割られた。

だが、その直後にロンボストが放った斉射が、アラバマの第3砲塔の電気ケーブルを切断。
砲を操作不能に陥れてしまった。
「ロンボストも頑張っている!我々も負けてられんぞ!」
この日何度目かの励ましの言葉をエレゲルスは口走る。
だが、それをあざ笑うかのように、2番艦リルオールが斉射を放った瞬間にニュージャージーの砲弾が前部に命中。
この被弾はリルオールの2基の砲塔の旋回版を歪めてしまい、リルオールの重武装戦列艦としての機能を失わせた。
だが、リルオールの砲弾も、最後の1発がニュージャージーの左舷中央部に命中し、破壊された両用砲の破片を吹き上げた。
それが最後だったかのように、リルオールは急に速度を落とし始める。
「リルオール、落伍!」
「ひどい・・・・・本当に負けてしまうぞ。」
エレゲルスは思わず目を覆わんばかりだった。
やっと敵の1番艦に目立った損傷を与えられたと思ったら、こっちの艦が息切れし始めている。
態勢は明らかにバーマント側に不利である。
それに追い討ちをかけるかのように、さらなる異変が起きた。
「敵小型艦6!敵艦艦列後方より出現!我が艦隊の左舷に回ります!」
それは、分派されたはずの駆逐艦部隊の一部だった。
駆逐艦部隊は、最初は敵の小型戦列艦14隻と対峙した。
戦った海域は戦艦部隊の決戦場から東23キロの地点である。
米駆逐艦はまず、35ノットのスピードで敵小型戦列艦に反航した。
距離はどんどん縮まり、先頭艦のハルフォードが距離7000で5インチ砲をぶっ放した。
敵も触発されたように9センチ砲を米駆逐艦に撃ってきた。
距離が4000に縮まったところで左回頭し、敵に舷側を見せる形となった。
そして3800でまず、ハルフォードが53センチ魚雷を4本発射した。
ハルフォードはその直後に3発の砲弾を受け、前部の5インチ砲2基が使用不能となった。
ハルフォードが魚雷を発射した事を確認した別の寮艦は次々と魚雷を発射した。
最終艦のザ・サリバンズが魚雷を発射した後に、空の発射管を敵の9センチ砲が叩き潰した。
幸いにも発射管の中身は空であったので、誘爆轟沈の悲劇は避けられた。

敵艦14隻のうち、まず先頭のEA-63が、艦尾に魚雷1本を叩き込まれ、たちまち操舵不能に陥る。
その後続のEA-64が3本の魚雷を受けて、艦体が真っ二つに割れてしまった。
EA-66は前部の2番砲の横に魚雷が命中。
その直後に弾火薬庫が誘爆を起こし、1800トンの小型戦列艦は220人の乗員共々木っ端微塵に吹き飛んでしまった。
この一斉雷撃で小型戦列艦4隻が沈み、3隻が大破し、洋上を漂流し始めた。
一方、米側は最初の段階でハルフォードが中破、ザ・サリバンズが小破という軽微な被害に抑えられている。
その後、米駆逐艦は反転して距離4000で健在な小型戦列艦と激しく撃ちあった。
継戦派側は1隻の艦に集中して射撃を行い、ハルフォードとデューイを完膚なきまでにたたきのめした。
だが、次第に米側の猛射の前に勢いも減っていき、3番艦のルイス・ハンコックの砲2門を使用不能にし、
機関室に砲弾を叩き込んで速度を低下させた頃には、継戦側の残存艦7隻は、2隻に減っていた。
残りの5隻は米駆逐艦の猛射に逆に返り討ちにあっていた。
そしてそれから間もなく、この2隻の小型戦列艦も砲火を沈黙させ、力尽きたように停止した。
米駆逐艦は6隻が反転し、戦艦部隊の援護に回った。
それからしばらく経った後、米駆逐艦6隻は突如、バーマント主力艦群の前に現れたのである。
「敵艦、左舷に回ります!」
「両用砲、撃ち方はじめ!」
艦長が米駆逐艦の迎撃を命じ、距離6000に迫った米艦に9センチ口径の砲弾が撃ち出される。
距離4500に迫ったところでようやく命中弾が出、敵先頭艦が黒煙をたなびかせる。
しかし、それでも敵艦は進撃をあきらめない。
むしろ砲撃を行ってきた。5インチ砲弾の曳光弾がゲルオールに降り注ぎ、次々と命中する。
そして距離が3000に迫った時、艦首を向けていた米艦はいきなり右舷側を見せた。
その直後、アイオワの砲弾がゲルオールに突き刺さって被害が増大する。
アイオワの砲弾は1発が命中し、中央部の第1煙突を根元から叩き折った。
米駆逐艦は先頭からヤーノール、マグフォード、パターソン、ゲスト、ストックハム、ザ・サリバンズの順で進んできた。
そして、それらは残った魚雷を、戦列に残っていたゲルオール、ファルグリン、ロンボスト、
そして今しがた戦列を離れようとしていたリルオールに向けて一斉に発射した。

先の戦闘で、右舷側の4連装発射管1基を使用していたが、まだ魚雷が装填された発射管が2基残っていた。
左舷側と、その後ろの中央軸線に配置された発射管である。
1隻8本、6隻で合計48本の53センチ魚雷が扇状に発射されたのだ。
そして少し経ってから、効果は現れた。
まず1番最初に被雷したのが今しがた避退しようとしていたリルオールだった。
左舷側に前、中、後部と1本ずつが満遍なく叩き込まれた。
喫水線下にも防御は施してはいるが、それは魚雷を想定した防御ではない。
そのため、53センチ魚雷はリルオールの下部装甲板をあっさりと突き破って、
その300キロの炸薬のパワーを艦内で炸裂させる事が出来た。
リルオールに3本の水柱が立ち上がる。
その直後、1番艦のゲルオールにも後部に2本、前部に1本の魚雷が叩き込まれた。
エレゲルス大将らは、突然、下から突き上げられるような、一風変わった衝撃に仰天した。
「な、一体どうしたのだというのだ!?」
「私も詳しくは分かりませんが、敵は喫水線下を破る兵器を使用したようです!」
衝撃が収まってきたが、それと同時に、速度も“収まって”きた。
それに、次第に左舷に傾きつつある。この傾斜で、主砲は照準が出来なくなってしまった。
「艦長!左舷第4甲板あたりに急激な浸水が・・・」
突如、伝声管からの声が途絶える。
「どうした?おい、機関室!応答しろ!おい!」
だが、返事は無い。
そして、被雷から10分経って、ゲルオールは右に12度傾いた状態で、完全に洋上に停止してしまった。
この一斉雷撃で、重武装戦列艦はゲルオール、リルオール、ファルグリンが魚雷を受けてしまった。
ゲルオール、リルオールは3本ずつ、ファルグリンは5本を受けた。
ファルグリンは3分後に左舷に転覆している。
そして、唯一魚雷を受けなかったロンボストは、米戦艦の集中射撃を受け、今しがた、燃える松明に変化したばかりである。
傾く艦橋中から、爆発炎上するロンボストを眺めていたエレゲルス大将は、愕然とする思いだった。
南の洋上では未だに撃ち合いが続いているが、中型戦列艦部隊からは、敵艦制圧の砲は入っていない。
先ほどまで砲火を交えていた米戦艦部隊は、先頭艦を始め、1隻も戦列から脱落していない。

先頭艦と4番艦の火災が(特に4番艦)ひどいが、スピードは全く衰えていない。
それに対し、こちらは魚雷を受ける前に、既に敵弾によって主要装甲部を撃ち抜かれている。
被雷が無くても、それは重武装戦列艦部隊が負けるのを遅めたに過ぎないのだ。
(やられるのならば、せめてもっと時間を稼いだほうがよかった。
それなのに、敵小型艦に喫水線を食い破られて、さっさと退場するハメになるとは!)
エレゲルスは、敵艦隊を阻止できると言い放っていた自分が悔しくて仕方が無かった。
確かに味方の技量もよかった。だが、敵はそれを上回っていたのである。
「艦長、左舷の浸水が止まりません。もはや状況は・・・・・」
「そうか・・・・・」
艦長は頷くと、エレゲルスに姿勢を向けた。
「司令官、もはや本艦は助かりそうにもありません。
敵小型艦にあけられた喫水線の穴からの浸水が止まりそうにもありません。」
「そうか。」
エレゲルスは諦めたような表情でそう呟いた。
「艦長、総員退去を命じたまえ。」
「わかりました。」
艦長がすぐにその命令を全艦に伝える。
「艦長、司令官も一緒に行きましょう。」
「いや、参謀長。私はこの船に残るよ。」
「ええ!?い、いえ、しかし司令官」
「わしは残る。」
彼は断固たる口調で言う。
「艦長、君も退去したまえ。」
彼は艦長にも退去をすすめた。

「今回の敗北は、全て私の責任だ。君達には大した責任はない。」
「・・・・・・わかりました。それでは、司令官。」
「さあ行け!もうこの船はあまり持たないぞ!」
エレゲルスは躊躇う艦長や幕僚達を艦橋から追い出した。ハッチを閉めると、再び艦橋の窓に近づき、海上を眺める。
所々に炎の色をした所がある。大きめの炎は全て、バーマント艦である。
「エリラ殿下。不甲斐無い結果に陥ってしまい、申し訳ありません。
しかし、どうか、部下達は責めないでください。私1人を責めてください。」
彼は苦痛に満ちた表情で、そう呟いた。
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