自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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9月12日 午後3時 サイフェルバン
ここはサイフェルバン中央部にあるとある2階建ての建物。
ここには1階部分に何台もの印刷機械が置かれ、そここに印刷用の各種紙が梱包された状態で置かれている。
職員は作業員の兵、監督役を合わせて24名の将兵がいる。その他も含めると60人はいる。
彼らこそ前線広報部隊の面々である。
この印刷工場、正式には第42諜報中隊と呼ばれる部隊は昨夜から徹夜で、ビラの作成にあたっていた。
職員待機所には、諜報中隊の面々が疲れたような表情で休憩を取っていた。
諜報中隊の中隊長、ビル・ファルマン少佐は、同じように疲れたような表情をしているものの、目には満足感がただよっている。
「ファルマン少佐。」
1人の少尉が聞いてきた。
「あのビラ、効果ありますかね?」
「現地点では何もいえんな。」
ファルマン少佐はタバコを1本とって火をつけた。紫煙を口から吐き出す。
「バーマントの内陸部にはわが方のスパイは誰もおらんし、しばらく経たないと分からないだろう。」
「以前のビラ作戦は失敗しましたしねえ、今回もなんか同じような事になりそうな気がするんですが。」
「うーん・・・・・いや、今回は成功するんじゃないか?」
ファルマンは少尉とは違った意見を言い始める。

「前回のビラ作戦はバーマントの領土で行われていない。元はヴァルレキュアの領土だった。
だがな、今回はバーマントの領土だ。それに国民のいる所を狙ってビラをばら撒いたんだ。
何度も言うようだが、現地点ではまだ分からない。だが、彼らは一度空襲の惨禍を味わっている。
それに加えて味方軍の壊滅や、これまでの正式な被害が載せられた報告文も堂々と載せているんだ。
信じないにしても、公国側が偽りの情報しか教えていないのでは?と勘ぐる奴が増えるだろう。」
「確かにそうかもしれませんね。国民は知らないにしても、バーマントの上層部連中は連続する
敗北をどう思っているのでしょうかね?」
「きっと胃の痛い思いをしてるんじゃないか?特に皇帝あたりはこれから胃薬が必要になるかも
知れんな。でもな、俺が心配しているのは少し別な部分にあるんだ。」
「別な部分・・・ですか?」
「ああ。軍隊と言う組織には色々な事を思う連中が集まる集団だろ?ぱっと見穏健そうな人ばかり
がいると思っても、細部には過激な事を思う奴がわんさかいる、と言う事もそう珍しい事じゃないぜ。」
「我が軍はどうなんですか?」
「仕事柄、色々な師団を見て回ってるが、このマリアナ侵攻部隊に限っては、別に異なる意見とかを
持っている兵士はあまりいないな。」
彼はそう区切ってタバコを吸う。
「バーマント軍の実情は知らんが、穏健派や継戦派というのがもしかしたら無いとも限らない。
それにいざバーマントが降伏しようとして、継戦派が決起とかしないだろうな、と思うんだよ。」
「なるほど・・・・・でも少佐、それはジャップには当てはまりますが、バーマントには当てはまりませんよ。
細かい事は分かりませんが、自分の目から見たらバーマント軍は全体が継戦派みたいなもんですよ。」
「ハッハッハッ!確かに、言えてるぜ。」
「でも、そのバーマント軍も自分達の支えとなる国民の意見は無視できないでしょう。彼ら軍も国民から志願してきたものですからね。」

「そりゃそうだろうな。まあ、作戦の成功如何はあちらさんしだいだ。
俺達は別の仕事をしながら、効果が現れるのを気長に待つだけだ。」
「それにしても、徹夜で印刷作業は久しぶりにやりましたねえ。もう足がパンパンですよ。」
「7万枚は刷ったからな。全く、上層部の気持ちも分かるが、そんなに慌てさせたら、
俺たちも、機械も駄目になっちまう。もうちょっと俺達の事も考えてもらいたいものだ。」
ビラの印刷命令が来たのは昨日の午後4時ほどである。
その時、彼らは1週間に1回発行する部隊紙、ザ・パラレルワールドの印刷を終えたところだった。
要求された枚数は7万枚だった。米軍は召喚前に、武器・弾薬等と共に、紙もごっそり本国から持ち込んでいた。
それで、だいぶ余裕のある紙を使って広報誌を配布してはどうか?と意見があった。
その事から、6月始めに週刊、ザ・パラレルワールドと言われるマリアナ侵攻部隊限定の部隊紙が発行されている。
それを請け負っていたのが、彼ら第42諜報中隊である。
各種ビラ、合計7万枚の印刷は出撃1時間半前には終了し、トラックで飛行場のB-24に運ばれていった。
「それはそうとして、昨日煙を出していた6番機、アレは使えそうか?」
「ええ、修理すれば使えます。でも、故障箇所がやや複雑なんで、1日か2日はかかりますね。」
「そうか。大事な印刷機だからな。」
そう言いながら、少佐はタバコを吸う。タバコはもう既に短くなっており、彼はもう1度だけ吸って、灰皿にもみ消した。
「とりあえず、今日は休みをもらっているから、後で飲もう。大仕事を終えた記念だ。とって置きのウィスキーを何本か隠してあるんだ。」
「そうですか。酒はしばらく飲んでいませんでしたからね。」
「あれこれ雑談しながら飲み明かそうじゃないか。」
そう言って彼はニヤリと笑みを浮かべた。

9月16日 バーマント公国首都ファルグリン南部 午前1時
ファルグリン市内は、いつもどおり平静であった。市民の大多数は明日に備えて眠りつつある。
そんな中、酒場クライクの奥では、店主オーエル・ネイルグが複雑な表情で、数枚の紙を見つめていた。
酒場クライクは彼の家でもある。
そのため、オーエルと、その家族である娘のクレイスと妻のアリエも彼同様、テーブル上の数枚の紙を眺めている。
今日は客足があまり来ないため、オーエルは12時には店を閉めている。
紙は4枚あり、それぞれが違う内容だった。
1枚目は先日のサイフェルバン侵攻時の両軍の損害比較。2枚目はサイフェルバンを巡る海空戦の損害比較。
3枚目は今回のサイフェルバン防衛戦の結果。
そして4枚目はスプルーアンス提督が自ら書き示したメッセージが入っていた。
どれもこれも信じがたい内容である。今まで公国側が発表した結果と全く食い違っている。
「アリエ、どう思う?」
「どう思うと言われても・・・・・・・」
彼女は言うべき言葉が見つからなかった。
このビラが配られた前に配布された広報紙には、サイフェルバンの敵占領地域をほとんど奪い返したと書かれている。
その際、20機の大型飛空挺を地上で撃破したと伝えられていた。
だが、それはファルグリン上空に現れた40機の米軍機によって打ち消された。
そして、ばら撒かれた4種類のビラにはこれまでの戦果発表とは全く違う結果が載せられていた。
順で追って行くと、7月のサイフェルバン侵攻では3度の海空戦があったが、敵アメリカ側が呼ぶ
第1次サイフェルバン沖海戦では高速艦10隻全て全滅。
一方、米側の被害は軽巡洋艦2隻、駆逐艦1隻大破のみ。
つづく第2次サイフェルバン沖海戦では軽空母1隻、駆逐艦1隻を失ったが、バーマント軍機70機以上撃墜。
その翌日のバーマント側の航空攻勢は米側戦闘機の待ち伏せで攻撃隊はほぼ全滅し、失敗。
第3次サイフェルバン沖海戦では第3艦隊の5隻の重武装戦列艦全て、他10隻以上を撃沈し、米側は中型艦1、小型艦3の喪失のみと書かれている。

これだけを見ても衝撃的なのに、この後に続くサイフェルバン陥落、バーマント側の
サイフェルバン奪還頓挫の報は見るものに衝撃を与えた。
このビラが配られた2時間後にバーマント皇はすぐに回収を命じ、官憲は住民に拾ったビラの引渡しを求めた。
この日までに4万枚が官憲の手に渡っているが、残りはまだ行方不明である。
そして、ネイルグのように密かに家に持ち帰っているものも少なくない。
それに、住民は口には出さないが、公国側の公式発表に疑問を持ち始めている。
「公式発表と、アメリカ側の発表。俺としてはこのアメリカ側の発表が信頼できると思うな。
それに、サイフェルバンをほとんど奪還したのに、なぜあの飛空挺は飛んできたと思う?」
「もうすでに・・・・・占領されたから?」
「そうだ。この紙に書いてある8月にな。」
薄暗い部屋の中に、重苦しい沈黙が流れた。
公式発表では2ヵ月半に渡ってサイフェルバンの激戦振りを伝えている。
公国側の発表で大体の国民は未だにサイフェルバンが完全に占領されていないと思い込んでいた。
だが、実際には1ヶ月しか持っていない。
これが事実だとすると、公国側は、国民に対して嘘の情報を垂れ流していた事になる!
それにここ2,3ヶ月の間で、文通の途絶えた将兵の家族が急激に増えている。
これも明らかにおかしい。
包囲か、戦死でもされなければ、あるいはよっぽど忙しいときでなければ手紙は必ず帰ってくるのである。
だが、それが一向に来ない。なぜだ?
家族は情報をほしがった。どうして手紙が来なくなったのかを。
そして、思い悩んでいるときに今回のビラ騒動が起きたのである。
そしてビラに書かれている内容を読んだ時、家族は全ての不可解な出来事が初めて理解できた。

「ハッキリ言う。俺たちバーマントは戦いに負けていた。
そして、捕虜に対する人道的な対処も全く行われていない。
逆に、この紙には片っ端から捕虜を殺したり、虐待したりしている。
そう、皇帝陛下は・・・・・・・俺達を騙したんだ!」
オーエルは怒りに肩を震わせながらそう呟いた。語調には怒りが含まれていた。
「ここしばらくの変てこな報道も、全て騙すためだったんだ。」
「ああ・・・・・・なんてこと・・・・・」
妻と娘は、互いに目を合わせた。顔には明らかに失望したような表情が浮かんでいる。
「皇帝陛下はきっと後悔する時が来るぞ。俺達を騙した事に。」
「それで・・・・あなた。これからどうするの?」
「これから・・・・か。」
オーエルはこれからのことを考えた。
公国側が自分達を騙していることに気がついた。では公国にこれ以上尽くす義務があるのだろうか?
いや、現皇帝がいる限り、それはないだろう。
「あの暴君の代わりに、第3皇子が皇帝だったら、こんな無意味な拡大戦争なんざやらなくて済んだのに。」
オーエルは深くため息をついた。
「だが、あからさまに皇帝を批判するわけにも行かない。
そんな事をしたら、不敬罪で官憲にしょっ引かれてしまう。
とりあえず、時期が来るまでは普通どおりの生活がいいだろう。」
「普通どおりかぁ・・・・・」
「やる気が出ないのは分かるが、薄汚い牢獄で暮らすよりは遥かにましだろう。
きっと、立ち上がる人たちがいるはずだ。俺は、その人たちに賭けて見たいと思う。」

9月17日 ファルグリン東部郊外
墓場は、相変わらず不気味な雰囲気が漂っていた。今にも土の下の死者が出てくるのではないか?
集合場所付近はそう思わざるを得ない場所である。
その墓場を平然と納屋に向かっていくフード帽姿の人影があった。
その人影は、数度、納屋の扉を叩くと合言葉を言った。合言葉が合ったのだろう、人影は中に入って言った。
「アートル中将、いつもご足労痛み入ります。」
「ああ。」
ミゲル・アートルは中に入ると、奥の地下室に入って言った。
地下室には2人の女性と3人の男性が待っていた。ロウソクの明かりが5人の顔をぼんやりと浮かび上がらせている。
ミゲルはふと、不思議に思った。女性のうち1人はこれまでに見た事の無い顔である。
「アートル中将、紹介しよう。」
髭面の初老の男が女性を紹介しようとした。
その女性は若く、緑色の長髪が腰まで下がっている。
格好はどことなく男を思わせる姿だが、体つきは美しいが、がっしりもしている。
慎重は女性にしてはやや高く、肌が浅黒く、顔つきはどことなく精悍な感じである。
「海軍中佐のレラ・アルファールだ。」
「アルファールです。」
「アートルです。」
「彼女は第4艦隊の作戦副参謀を務めている。2週間前に我々の計画に賛同してメンバーに入ってくれた。」
「海軍内部にも、現皇帝の不満はちらほらと聞かれます。」
「そうなのですか、でも、海軍内部ではあまり不満の声がないと聞かれているのですが。」
「実際はそうですね。陸軍と違って、我が海軍は未だに皇帝陛下の忠誠心が厚いです。
しかし、よく見てみると将官や士官の一部には時折現皇帝の政策に対する疑問の声が上がっています。
第4艦隊司令部でも、砲術参謀が影で皇帝陛下を罵っているのを聞いたことがあります。」

「アルファール君には革命が起きるまでに同志を集めてもらいたい。
そして革命が起きた時は上司を説得して、我々に賛同させてもらいたい。
情勢はもはや現皇帝に不利だからな」
「その現皇帝ですが、ここ数日は腹の調子がおかしいのか、時々胃薬を飲んでおられます。
それに侍従係の話によると、就寝中にうなされているとの事です。」
「皇帝陛下は相当精神を病んでいると思われるな。」
「閣下、革命の準備はもう少しで完了しつつあります。」
髭面の横の若い男が力んだ口調で言ってくる。
「うむ。所で、西北部の状況はどうなっておる?」
髭面の男はミゲルの左隣にいる中年の男に声をかけた。
「西北部の状況でありますが、はっきりいいまして、どうにも思わしくありません。
西北部には現在、魔法都市ギルグアルグに空中騎士団4個部隊と新編成の第6艦隊と第5艦隊が駐留しております。
この他に陸軍部隊54000が駐留しております。実は、この部隊はガチガチの皇帝陛下、というよりはエリラ皇女に、
と言ったほうが正しいでしょうか。我々とは全く違う考えを持っています。」
「つまり、継戦派・・・・だな?」
「はい。下手に革命をほのめかせば危うい状況で、同志もなかなか集まらないのが現状です。」
「エリラ皇女の親衛隊には困ったものだな。あの馬鹿者共はバーマント皇と似たような事を口走っておる。
まあ、ギルアルグの部隊はいずれも最新鋭の兵器を受け取っているからな。それを使いたいと思っているのだろう。」
「しかし、わが方の武器が最新鋭としても、敵側から見たら明らかに劣るほうです。もし我々の武器が勝っているのなら、
サイフェルバン沖のアメリカ機動部隊の空襲もああも惨めな結果にはなりませんでしたし、サイフェルバンも
簡単には落ちなかったはずなのに。」
ミゲルはげんなりした表情でそう言う。

「妄想ばかりで現実を見ておらんのだよ。あの親衛隊共は。」
髭面ははき捨てるように言った。
「それはともかく、諸君。時はついに来た。」
髭面は決意を新たに言葉を続けた。
「長い間、ご苦労であった。現在、我々の活動において、短期間の間に多くの賛同者を得る事が出来た。
これも、あの異世界軍のお陰である。あの異世界軍によって、我々の賛同者は自分達の犯してきた
間違いに気付いた。諸君、連日の無益な戦闘で、我々は多くの同胞を失ってきた。それもこれも、
あの害悪が皇帝の地位にのさばっているからである。だが、あの大逆人の安息ももはや終わりを告げつつある。」
髭面、中央方面軍司令官のクライスク・アーサー騎士元帥は4枚の紙を掲げた。
それは、先日、B-24が投下したビラである。
「異世界軍、もとい、アメリカ第5艦隊は僅かながらの兵力にもかかわらず、圧倒的な近代兵器で我が軍を打ち破ってきた。
その現実が書かれた紙を、国民は見、そして知った。今日も2箇所の都市で大量の紙が大型飛空挺からばら撒かれた。
だが、あの大逆人はあろうことか、国民の目を現実から遠ざけようとしている。
だが、もはやその手は我々には通用しない。諸君、時は来た。」
アーサー騎士元帥は懐から新たな紙を取り出した。それを彼は読み上げる。
「準備は既にほぼ整った。あと数日もあれば、国民を悪の呪縛から解き放つ時が来る。
その時を、私は今、ここで君達にそれを教える。」
皆が息を呑んで彼の言葉の一語一語を聞き取っていた。歴史的瞬間が来る。ミゲルはそう思った。
「9月24日、我々は決起する。その第1段階として、決起10分前に公国西端、
ファルグリンより東1000キロのカルリア監獄を襲撃する。」
「まずは、第3皇子を救い出すのですね。」
「そうだ。第3皇子はこれからの公国に無くてはならない逸材だ。参加部隊は私が現地指揮官に直接言う。」
この後も、決行時に襲撃する場所や人物、説得対象についての打ち合わせが続いた。
歴史の歯車は、大きく動きつつあった。
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