自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

72 外伝16

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匿名ユーザー

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10月7日 午前8時 カウェルサント
空は、昨日の晴天とは違い、どんよりと曇っている。
出発前には、せめて晴れの天気であったほうが、俺的には気持ちの良かったんだが。
まあ、天気に対して、あれこれ文句言っても始まらんか。

「マッキャンベル中佐、何笑っているんです?」

オイルエン大尉が聞いてきた。いつの間にか俺は笑っていたのか。

「いや、思い出し笑いさ。何でもないよ」

俺は適当にはぐらかす。

「それにしても、マッキャンベル中佐がいなくなると、寂しいものだな。」

野太い声が聞こえてきた。振り返ると、ガルファン将軍が歩いてきた。
右腕に包帯が巻かれていて、妙に痛々しく見える。
この傷は、先日の戦いで出来たものだ。ガルファン将軍も最前線で敵と切り結んでいたらしい。

「将軍閣下、私のために、わざわざ」

俺は直立不動の態勢で、彼に敬礼をする。将軍ははにかみながら、手を横に振った。

「よせ、堅苦しいだろう。それよりも、普通に行こうじゃないか。」
「わかりました」

と言って、俺は手を下ろした。

昨日は、継戦軍は一度も襲ってこなかった。
偵察隊の話では、敵の部隊はギルアルグに向けて撤退しているようだ。
それだけでなく、戦場処理が夜通し行われ、俺も頼み込んで参加した。
昨日の昼頃に、第4群から飛んできたヘルダイバーが小型無線機を投下してくれた。
ヘルダイバーの話では、俺の他にも、7人の生存者いたようだ。
それには、流石に驚いたが、同時に、俺と同じように、耐え抜いた奴がいるのだと思うと、どことなく勇気が沸いた。
夜の10時まで働いた後、ガルファン将軍が明日、帰還していく俺のために、壮行会を開いてくれた。
そこで俺は驚かされてしまった。
なぜなら、ルエスという動物が重い荷物を運んでいるところを見たのだ。
やや浅い緑の斑模様をした、小さめのドラゴンで、なかなか愛嬌のある奴だった。
その愛嬌のあるドラゴンが、あの物凄くマズイ卵焼きを生み出した犯人なのだ。
最初、どこぞのゲテモノか!と思っていたのが、むしろそれのほうが良かっただろう。
このどこかかわいげのある竜が、あの毒同然の卵を生み出していたのだから、俺は相当なショックを受けた。
俺は次々と出されてきたルエスの卵焼きを、のらりくらりとかわして、適度に革命派の連中と話し合った。
どれもこれも気のいい奴で、母艦の仲間達とはどこか違うが、それでも、異世界にもこのように、
笑ったり、泣いたり、表情豊かな奴がいるのだなと思った。
愛機を撃墜され、ここに落ち延びてきて1週間近くが立ったが、内心で、この1週間は短いようにも思えるし、長いようにも思えた。
昨日の1時に寝て、俺は1時間前の7時に起きた。
調子に乗って酒を飲みすぎたため、ひどい二日酔いになるのではないかと思ったが、それは杞憂だった。
しかし、

「ところでオイルエン大尉、顔色が悪いぞ?」

ガルファン将軍が、オイルエン大尉に語りかけた。
俺の右隣にいるオイルエン大尉は、笑顔を浮かべているが、どこか引きつっている。

「昨日、オイルエン大尉は他の者達と3時まで飲んでおりました。」

イメインがいつもと変わらぬ冷たい口調で言った。

「お、おい!」
「酒瓶を9ほど飲み終えたところで、地べたで寝ていました。
たまたま通りかかった私が、適当な場所にヌーメラー中尉と一緒に運びました」
「オイルエン大尉、君は酒に強いんじゃなかったのか?」
「ま、まあ・・・・・・・・そこは、ね。」

曖昧な事を言ってオイルエン大尉は言い逃れようとする。この間は、結構飲んでいたが、
二日酔いはしなかった。でも、今日はこの有様だ。
この世界の事だから、酔いを強引に抑える薬でもあったのだろう。
それを、オイルエンは飲み忘れたのだろうか。まあ、それはどうでもいい話だが。

「9本で酔いつぶれるとは、貴様もまだまだだな!せめて12、3本は飲めんといかんぞ!」
「い、いや、将軍のは飲みすぎですって。」
「のみすぎか。」

なぜか、ガルファン将軍は、ばつが悪そうな表情で頭をかく。

「気にしている事を言いやがって。」

それに皆が爆笑した。

「それはともかく。」

彼は笑いを抑えると、手を差し出してきた。

「わしらの事を忘れんでくれよ。」

将軍は俺に微笑みながらそう言った。俺も、彼の手を握った。

「これまでお世話になりました。自分の命があるのも、オイルエン大尉や、あなた方のお陰です。」
「そうか。そう言ってくれると、嬉しいよ。それに、君を見ていると、アメリカ人というのがどういうものか、
少し分かったような気がするな。」

そう言うと、将軍は手を握り返してきた。
節くれだち、ごつごつとした手だが、程よいほど暖かい。

「では、中佐、行きましょうか。」
「オイルエン、中佐の事、道中よろしく頼むぞ。」
「お任せ下さい。今回は3人と少なめですが、しっかりと中佐殿をお守りします。」

オイルエン大尉が行きましょう、と言って、俺を促した。

「将軍、それでは、自分は母艦に戻ります。」
「おう。船に戻っても、俺たちのことを忘れないでくれよ。」

そう言って、俺の肩をポンと叩く。
砦で作業をしていた生き残りの連中が、自分達を見ている。
俺は、その連中に手を振って、大声でさようならと言った。
砦を出た後は、砦の皆がそれぞれ、別れの言葉を口にしながら、自分を見送っていた。

10月9日 午前7時 メイルレインス
ここメイルレインスは、半島の根っこの東側にある小さな港町で、ここには継戦軍の支配は及んでいなかった。
昔は、ライルフィーグ王国で有数の港町だったが、今では人口が400人ほどの小さな村に成っている。
出発してから5時間後に、連絡役のヘルダイバーが飛んで来て、無線で集合場所を打ち合わせた。
その結果、ここライルフィーグに収容すると決まった。
残りの3人は、俺よりも遠くの地域で見つかっているため、ガレンスアロ軍港を砲撃した艦隊が、
帰途に指定した浜辺で収容したと言う。
一方、マリアナ周辺の墜落機のパイロットは、第1任務群が収容したと言っていた。
つまり、俺が最後の墜落機パイロット、と言うわけだ。
メイルレインスまで辿り着くには、途中までは森の中を進んだが、半分の行程進んだ所で、メイルレインスまで繋がっている街道を辿って来た。
着いたのが3時間前だったから、かなり疲れが残っている。
その俺を見て、イメインが、まだまだ序の口よ、と言ってきている。
この犬娘は最後まで、自分を冷やかさないと気が済まないらしい。
しかし、最初感じた刺々しい物言いではなく、少し親しみがこもった口調だった。
3時間ほど寝たあと、俺達は7時に起きた。
夜はまだ開け切っておらず、太陽が少ししか覗いていない。

「中佐、船は時間通りに来ますでしょうか?」

オイルエン大尉が言ってくるが、俺は自身ありげに、

「心配ない。ちゃんと来るよ。」

と言った。
その時、イメインとヌーメラー中尉が、海に顔を向けた。
感覚のいい彼らは、何かが来たのかをすぐに感じ取ったようだ。

「来たのか?」

俺は2人に聞いた。イメインはそのまま前を見たままだが、ヌーメラー中尉が俺を向いた。

「どうやら、来たようですね。始めて聞く音だ。」

そう言うと、再び海のほうを見る。
5分ほど経つと、暗かった港も、ようやく明るさを増してきた。沖合には、確かに船がいた。
何隻かの船が、水平線から近付きつつある。先頭の艦は形が小さいから駆逐艦だろうか。
その後ろには、大きな艦がいる。
あれは恐らくサウスダコタだろう。そして、その横には・・・

「エセックスだ・・・・・」

俺は思わず呟いた。そう、いつも見慣れ、そして過ごしてきた馴染み深い船。
CV-9エセックス。俺が飛行隊長を勤める空母でもあり、部下や仲間と過ごしてきた家だ。
エセックスの他にも、ラングレーとカウペンスの姿も見えてきた。
どうやらTF58.4任務群は総動員で、俺を迎えに来たようだ。

「これが・・・・あの大魔道院を崩壊に追い込んだ艦隊。」

誰かが感慨深げに呟いた。珍しい事に、それはイメインだった。

「第58任務部隊、第3任務群だ。俺の所属している艦隊さ。」
「元々、空母は3隻だけだったんですか?」

ヌーメラー中尉が聞いてくる。

「いや、4隻いたよ。」
「4隻ですか。ここからは、大きいのが1隻と、小さめのものが2隻しかいませんが。」
「あと1隻は沈められちまった。継戦軍の飛空挺に爆弾をしこたま浴びせられてな。
ランドルフには、俺の元部下も何人か乗っていたが。何人かは船と共に沈んだと聞いている。」

ヌーメラー中尉は言葉を失っていた。あのような船でも、沈むのかと言いたげだ。

「浮かんでいるものは必ず沈む。これが常識だよ、ヌーメラー先生。」

俺はさりげなく答えた。
やや間があって、彼は、

「確かに。それが、自然の摂理ですからね。」

と言った。
ここから沖合い2キロほどで、艦隊は止まった。
しばらくすると、内火艇らしきものがこちらに向かってきた。
エセックスから直々に向かっているようだ。

「もうすぐで、君らともお別れだな。」
「マッキャンベル中佐、ようやく帰れますね。自分の居場所に。」

オイルエン大尉が言ってきたが、

「まあ、確かにそうだろうが、俺は愛機を無くしちまっているからなあ。しばらくは空に上がれないかもしれん。本当は、空を飛ぶのが好きなんだが。」
「空・・・ですか。中佐は本当に、飛行機が好きなんですね。」
「当たり前さ。俺から飛行機を取ったら、ただの腑抜けになっちまう。」

「いっそ、腑抜けになればいいじゃない。かえってスッキリするかも」

何気に、イメインが突っ込んでくる。これまでとは打って変わって、おどけた口調だ。
俺は少し驚いたが、そこで皆が笑った。
内火艇が桟橋にやってきた。4、5人の将校、兵が甲板に立っていた。

「さて、ここでお別れだな。オイルエン、イメイン、ヌーメラー。今までありがとう。」

俺は、1人1人に挨拶を交わした。皆、力強く、握り返してきた。
俺は内火艇に向かった。
内火艇に乗り移ると、ボートはすぐに桟橋を離れ、舳先をエセックスに向けた。
3人は、それぞれ違いはあるものの、手を振って見送ってくれた。
俺はそれまで座っていたが、最後まで別れを告げようとしている彼らに答えるべく、立ち上がった。

「おおーい!元気でいろよぉー!」

俺はそう言いながら、手を振り続けた。
10分ほどでエセックスに着いた。艦に戻ると、部下のパイロットや乗員達が総出で出迎えてくれた。
5分ほど経つと、エセックスは汽笛を高々と吹かせながら、メイルレインスの沖合から出港を始めた。
しばらくして、俺は、エセックスの艦尾から、メイルレインスの港を見つめていた。
小さいながらも、3人の人影が見えている。
たぶん、あの3人だろう。
その3人の姿も、徐々に見えなくなっていった。

「あの3人には、世話になったな。いや、あの3人だけじゃない、あの砦にいた皆には本当に世話になった。」

翼を失った陸の海鷲の俺には、あの人達にはいくら礼を言っても足りない。

だが、彼らと接した日々は、俺は決して忘れる事はないだろう。
色々と考えているうちに、メイルレインスの港は、ぼんやりとしか見えなくなっていた。

「陸の海鷲か・・・・・一時的に翼を無くした俺は、ここ1週間、本当に
地を這いずり回っていたからな。陸を這いずり回った海軍のパイロット、略して陸の海鷲か。」

そう意味不明な事をひとりごちたが、地を這いずり回ったこの1週間で、俺はこの世界の優しさと、
厳しさを学んだような気がする。
とはいっても、かじった程度だが、それを、俺は忘れないだろう。

メイルレインスはもはや海に隠れて見えなくなっていた。
しかし、マッキャンベル中佐は、いつまでもエセックスの艦尾から離れようとはしなかった。
まるで、この世界から別れるのを惜しむかのように。


陸の海鷲





デイビット・マッキャンベル
1910年アラバマ州生まれ
1933年アナポリス海軍兵学校を卒業。
その後、1年ほど民間に戻るが、復帰して、1938年にペンサコラ飛行学校で教育課程を修了。
母艦航空隊に配属された。
空母ワスプに配属されたものの、1942年9月にワスプは被雷沈没。
その後、本国に戻り、1943年9月にVF-15戦闘機隊隊長として空母エセックスに着任する。
1945年の沖縄防空戦で撃墜されるまで(撃墜したのは、坂井三郎中尉と言われている)
実に37機の撃墜記録を持ち、米海軍のトップエースとなる。
撃墜機のうち、19機は異世界で稼いだと言われている。
撃墜記録は37機とあるが、何度か、部下にもスコアを譲っている。
そのため、実際の撃墜記録は40~46機と推測されている。
終戦後も海軍に在籍し続け、キューバ危機には空母バンカーヒル、エセックスを中心とする
第57任務部隊の司令官として参加し、キューバの海上封鎖に従事。
退役後は何冊か本を出版し、その内の1冊に、異世界レポートという本があり、
後年、スプルーアンスが出版した異世界戦記と共に、多くの小説家が目に通している。
この2冊の本は、後の日本のライトノベル界に大きな影響を与えている。
1996年 6月30日没
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