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046 第38話 バゼット半島沖の死闘(前編)

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第38話 バゼット半島沖の死闘(前編)

1482年8月25日 午前7時 ジェリンファ沖西南700マイル地点

第17任務部隊は、ジェリンファより西南700マイル。
バゼット半島の先端部であるノーベンエル岬から300マイル南を時速25ノットのスピードで航行していた。

「補給部隊は今どこにいる?」

第17任務部隊司令官である、フランク・フレッチャー少将は参謀長に聞いた。

「補給部隊は、TF14に燃料給油を終えた後、南に避退しています。今の所、補給部隊は700マイル
後方を航行しているはずです。」

TF14、17は、出港時に給油艦ネオショーを初めとする補給部隊を引き連れ、洋上補給を行いながら
この海域にやって来た。
この両機動部隊の任務は、バゼット半島南沖に潜む敵水上部隊の撃滅、及び、エンデルドにいる
敵機動部隊に対する牽制である。
しかし、彼らの任務は、敵水上部隊の撃滅、敵機動部隊の牽制から、敵機動部隊の撃退に変わってしまった。
去る8月23日。バルランド軍の輸送船を護衛していた第2任務部隊に、突如敵のワイバーン部隊が襲って来た。
第2任務部隊には、護衛空母ロング・アイランドと水上機母艦ラングレーが配備され、周辺海域を
警戒しながら航行していたが、意外な事に、このワイバーン部隊は北東方面、つまり味方が居る方向から
襲って来たのだ。
不意を突かれた第2任務部隊は、それでも奮戦した。
だが、ロング・アイランドとラングレー、それにバルランド軍の輸送帆船1隻が撃沈され、
戦艦アリゾナとペンシルヴァニア、輸送帆船1隻が損傷した。

迎撃に出たF4F21機も懸命に戦ったが、多勢に無勢で10機が撃墜された。
残りも艦隊の近くで不時着水し、パイロットは寮艦に救助された。
この戦いはジェリンファ沖海戦と呼ばれ、アメリカ側は戦死者480名、負傷者1000名を出し、
バルランド側も戦死者300名、負傷者290名を出した。
敵の奇策とは言え、アメリカが始めて被った大損害。そして、敗北だった。

「シホット共は弱いところを衝く事に長けていますからな。補給部隊を近海に留めて置けば、
バルランド護送船団や、第2任務部隊の二の舞になりかねません。避退命令を出したのは正解でした。」
「給油艦3隻に軽巡1、駆逐艦3隻の小艦隊だ。敵の機動部隊がうろついている海域に一緒に置けまい。」

航空参謀のジョイ・アーサー中佐の言葉に、フレッチャー少将は頷きながら相槌を打った。

「問題はこれからですな。」

参謀長のグリン・ガース大佐が険しい表情で言って来る。

「第2任務部隊を襲ったワイバーンは、攻撃終了後は北北西方面へ避退していったと報告にありましたが、
恐らく、敵艦隊はバゼット半島の西端部に潜んでいるかもしれません。」
「それは私も考えた。敵の竜母は最低でも27ノット出せる。巡航速度を16ノット程度として、
奴らは半島の先端、もしくは北側に行くか行かぬ場所で遊弋してこちらの出方を待っているかも知れん。
相手の狙いは我々だ。」
「他にも問題はあります。」

ガース大佐は人差し指を立てた。

「ひとつは敵空母の数です。第2任務部隊を襲ったワイバーンの数は、少なめに見積もっても150騎以上は
いたようです。敵の竜母は、1隻辺りの搭載数は我が正規空母よりいくらか少なめで、60~70騎の
ワイバーンを積んでいます。私の考えでは、敵は2隻ないし、3隻の竜母を伴っている可能性があります。」
「確かにな。それだけの規模の艦隊が動くとなれば、艦隊の出動を隠す事は難しいが、敵は偽者を置いて
スパイの目を欺いた。ハリボテの竜母を置いてごまかすとは、敵将も人が悪い。」

フレッチャー少将は憎らしげな口調で吐き捨てる。
エンデルドにあった竜母。それは、本国で実物大に作られた模型であった。
第24竜母機動艦隊司令官であるリリスティ・モルクンレル中将は、機動部隊の出撃前夜に、密かに作り上げた
本物の竜母そっくりの模型をエンデルドに回航し、あたかも竜母部隊はエンデルドにて健在であると見せかけた。
スパイはこのハリボテの竜母をしばらくの間、本物と勘違いして報告を送り続けた。
その正体が明らかになったのは、24日の深夜である。

このハリボテの竜母は、後に進化を続け、アメリカや南大陸連合に疫病神の如く付きまとう事になる・・・・

「もう1つ問題なのが、敵の位置です。」
ガース参謀長は戒めるように言う。
「前回のグンリーラ島沖海戦で、機動部隊同士の戦いでは、互いに相討ちに公算が高くなります。
現に、グンリーラ島沖海戦では、我が方が敵竜母1隻を撃沈しましたが、こちら側もエンタープライズを
大破され、長期間戦線に復帰できませんでした。敵将は相討ちになる事を避けて、自軍の機動部隊の位置を
不断に変えている可能性があります。そうなった場合、策敵機を発進させても、発見する確率が低くなり、
発見しても攻撃隊が敵機動部隊に取っ付ける可能性が減ります。」
「うーむ・・・・・・・参謀長の言いたい事は分かった。しかし」

フレッチャー少将はふと、TF14、17のパイロットの事を思った。

実を言うと、レキシントン、ヨークタウンのパイロットは、実戦経験の無い新米が少なからず混じっている。
他の空母はベテランと新米の割合は平均で7:3という所だが、レキシントン、ヨークタウンの場合は6:4と、少々多い。
猛訓練の結果、新米パイロットの腕はかなり上がったが、訓練と実戦は違う。
(もしかして、攻撃隊を飛ばしても航法ミスで敵に辿り着けぬ機がでるのでは・・・・)
フレッチャー少将は内心、そんな危惧が浮かんだ。

「司令官、そろそろ第1索敵隊が発艦いたします。」

アーサー中佐がフレッチャー少将に言って来た。

「今の所異常は無いな?」
「ありません。」

アーサー中佐の答えに、フレッチャー少将は頷く。

「よし。策敵機を発艦させろ。敵の竜母を見つけて、借りを返さねばな。」

午前11時 ノーベンエル岬沖南200マイル
午前7時、空母レキシントンからTBF8機、ヨークタウンからSBD8機が索敵に差し向けられ、
午前8時30分には、レキシントンからSBD6機、ヨークタウンからTBF6機が発艦し、9時には
戦艦ノースカロライナ、サウスダコタからもキングフィッシャー水偵3機が発艦した。
合計で21機を索敵に出したのだが・・・

第17任務部隊旗艦である空母ヨークタウンの艦橋上では、誰もが苛立ちを顔に滲ませている。
飛行甲板上では、第1索敵隊のドーントレスが次々と着艦してきている。

「敵艦隊の報告は・・・・まだか。」

フレッチャー少将は、小さく呟いた。この言葉も、既に何度も口から漏れている。

「もうすぐ、第2索敵隊のアベンジャーが引き返し地点に到達する予定です。」

航空参謀のアーサー中佐が比較的冷静な口調でフレッチャーに言って来た。
口調は冷静だが、アーサー中佐自身、しきりに避退の汗を拭っている。
今日の天気は快晴で、鋭い日差しが洋上に降り注ぎ、艦内では温度が上昇して必ずしも涼しいとはいえない。
艦橋内もどこか蒸し暑いが、アーサー中佐はしきりに汗を拭くが、それは暑さだけではない。

「アーサー。少し落ち着きたまえ。」

後ろから、参謀長のガース大佐が声をかける。両手には水の入ったコップを持っていた。
その1つをアーサー中佐に渡した。

「ありがとうございます。」
「ああ。」

アーサー中佐は礼を言いつつ、コップを取って、水を一口含んだ。

「敵さん、なかなか見つかりませんな。一体どこに隠れているのか。」
「何でもかんでも、上手く行く事はないさ。俺達は戦争をしとるのだからな。あちらさんも学習してる。」

ガース大佐はコップの水を飲んでから言葉を続ける。

「空母戦闘って奴は、大雑把に言えば遠くからの一騎打ちだ。だが、その一騎打ちはやりようによっては
得る結果は大きいが、同時に危険も大きい。俺から思うには、敵将は頭がいい。どうやったら敵に大損害を
与えられ、被害を少なめに出来るか。敵将は常にそれを考えている。」
「と言う事は、この戦いも敵将の考えのうち、なのですか?」
「それは分からん。敵将に面会して直談判せねば、答えは見つからんさ。」

ガース大佐はそう言って、微笑んだ。

「こっちは敵を見つけていないが、敵もこっちを見つけていない。今しばらくは、この状態が続くだろう。
問題は、敵を見つけてからだな。」

10分後。ヨークタウンの艦橋は、先と変わらぬ緊張感に包まれていた。
いや、先ほどと比べて、より重苦しい雰囲気になっている。

「そうか。第2索敵隊も敵艦隊を見つけられなかったか。」

索敵隊引き返すの報告を受け取ったフレッチャー少将は、やや失望したような表情で呟いた。

「司令官、第3索敵隊はどうされますか?」
「第3策敵隊・・・・か。」

フレッチャー少将は頭の中に、ヨークタウンの艦載機の比率を思い描いた。
TF17の旗艦であるヨークタウンは、F4Fを48機、SBD30機、TBF26機を搭載している。
このうち、索敵にSBD8機、TBF6機を割き、SBDは既に帰投している。
対機動部隊用に、F4F24機、SBD16機、TBF16機を用意しており、索敵用の機体はまだある。

「用意していたSBDを出そう。第3索敵隊はそれで行く。」

フレッチャー少将はそう決断し、すぐさま発艦を命じようとした時、

「TF14より緊急信!我、レーダーに機影を探知。機数は2。」

CICから艦橋に報告が入って来た。

「機数は2だと?敵か、味方か?」
「レキシントンからの報告はそれだけです。」

フレッチャーは、曖昧な報告に首を捻った。

「航空参謀、レキシントンは索敵機を収容し終えたか?」
「いえ、まだ収容中です。あと2機ほどがまだ戻っていないようです。」
「そうか、なら味方だな。」


第14任務部隊の旗艦である空母レキシントンのCICでは、レーダー員が新たに現れた別の輝点に目を留めた。

「ん?」

レーダー員であるエルク・フランドン兵曹はコーヒーを飲もうとしたが、すぐにカップを置いてレーダーを見つめる。
PPIスコープには、艦隊から距離20マイルの北側方面、北西方面から別々の輝点が近付いてくる。その後ろ。
PPIスコープの画面の端に別の輝点が現れている。

「この点は・・・・・・」

PPIスコープに輝点を映し出しているレーダーは、レキシントンのマストにあるSKレーダーである。
7月初旬に取り付けられた最新型のレーダーであり、半径170マイルの距離を捜索できる。
その範囲ギリギリの所に、それはあった。

「班長。」

フランドン兵曹は、班長であるラッカル中尉を呼びつけた。

「どうした?」
「方位340度、170マイル付近に不審な機影が映っています。」
「どれ・・・・・・・ああ、確かに。シホットの偵察ワイバーンかもしれん。」

その時、緊急信が入った。
「TF17のヨークタウンより緊急信!艦隊より方位350度、距離260マイル付近に空母3隻主力の
敵艦隊発見!敵は艦隊の側方に同規模の機動部隊を伴う!」

CICの空気が、その緊急信によって一変した。

「すぐに艦長とフィッチ司令に知らせろ!」

ラッカル中尉は、急いで今の緊急信と、レーダーが捉えた敵らしき機影の事を知らせるように命じた。
それから20分後、レキシントンに2機の策敵機が無事帰還し、すぐさまエレベーターによって格納庫に入れられる。
同時に、攻撃用に取っておいた艦載機が、飛行甲板に上げられた。

上空には、先ほど発見したワイバーンを艦隊の視認圏外で撃墜すべく、4機のF4Fが敵ワイバーンに向かって行く所だった。
そのワイバーンと敵艦隊との距離は60マイルを切っている。まだ視認圏外である。

「今の所、敵はこっちを見つけていないから、先制攻撃を仕掛けられそうだ。」

先ほどから相変わらず、レーダーに見入っているフランドン兵曹はそう思った。
敵の竜母が6隻と聞いた時は誰もが仰天したが、敵がこちらを見つけていなければ大丈夫だ。
フランドン兵曹は楽観した表情で、レーダーの監視を続ける。
彼の表情は、10秒後には警察に謎を暴かれた罪人のように強張った。
準備作業は思ったよりも早かった。


ヨークタウンの飛行甲板には、攻撃隊の艦載機が勢揃いし、エンジンを轟々と唸らせている。
本来なら、誰もが心躍らせる光景だが、フレッチャー少将の顔つきはこれまで以上に険しかった。

「敵は、既にワイバーンを発進させていたとは・・・・・」

10分前の午前11時50分に、レキシントンから発せられた緊急信は、フレッチャーを仰天させた。
艦隊の北北西160マイルの距離に、100騎以上の大編隊が接近しているとの情報が入った。
このワイバーン部隊は、先に発進させた偵察ワイバーンの情報を頼りに、米機動部隊に向かっていた。
偵察ワイバーンは、ある者を追って攻撃隊を誘導した。
それは、アメリカ軍の偵察機である。

「もっと手っ取り早い方法がある。」

昨日、リリスティ・モルクンレル中将はそう切り出してから、考えていた案を幕僚達に披露した。

それは、帰投するアメリカ軍偵察機を気付かれぬ距離から監視、追跡する。
追跡している偵察ワイバーンの上方を下に攻撃隊を発進させ、敵機動部隊に先制攻撃を仕掛ける、というものである。
ワイバーンの竜騎士は、基本的に魔道士であり、一通りの魔法を扱う事ができる。
その中の1つに、視力を強化する魔法がある。
この視力強化の魔法は、古来から使われてきたもので、魔道士にとっては使い慣れた魔法だ。
この魔法を使うと、視力は通常の3倍に達し、12ゼルド遠方の物もはっきり捉えられると言われている。
リリスティはそれを使って、帰投していく米軍機を監視し、道案内を頼もうと言うのだ。
幕僚たちは反対したが、結局は折れ、偵察ワイバーンの送り狼作戦を実行させた。

そして、偵察ワイバーンは、遠くを飛行している1機の米軍機を発見し、艦隊に報告。
リリスティはすぐに、待機していた攻撃隊を発艦させた。
その20分後、第24竜母機動艦隊は、攻撃隊を送り出してホッとしている時に、
帰投中であったアメリカ軍機に発見されてしまった。
その結果、両軍はグンリーラ沖海戦と同様に、互いに矢を放ったのだ。
午後0時40分、レキシントンの飛行甲板から、最後のアベンジャーが慌てるように発艦して行った時、
北の空にうっすらと黒い粒の群れが表れた。

「来るとは思っていたが、こんなに早く来るとはな。」

第14任務部隊司令官である、オーブリー・フィッチ少将は、緊張に顔を強張らせたまま口を開いた。

「迎撃に上がったF4Fの数は、本艦とヨークタウンを合わせて40機。それに対して・・・・」

フィッチ少将は、双眼鏡で敵編隊を見つめる。
翼を上下運動しながら、近付きつつあるそのワイバーン群は、少なめに見積もっても100騎以上はいる。
もっと細かく数えれば、120ほどはいるだろう。

敵も3分の1か半数は戦闘ワイバーンで固めているだろうから、攻撃ワイバーンに取り付けるF4Fは
僅かにすぎないだろう。
F4Fが敵編隊に取っ付いたのだろう、艦隊の北方上空で戦闘機の唸り声が響いてくる。
上空に飛行機雲が縦横に動き回り、時折何かが落ちていく。
火を噴く粒は味方であり、ただ墜落していくのは敵のワイバーンである。
多数のF4Fやワイバーンが、激しい空中戦でしのぎを削っているが、他のワイバーン群は、
大きく編隊を崩す事も無くこちらに向かいつつある。
第14任務部隊は、空母レキシントンを輪形陣の中心に据え、その周囲を戦艦サウスダコタ、
重巡洋艦インディアナポリス、クインシー、軽巡洋艦ヘレナ、ジュノーが内輪部を固める。
そして、駆逐艦12隻が外輪部に展開し、それぞれが5インチ両用砲、12.7ミリ機銃、
28ミリや20ミリ機銃に弾を込め、眦を決しながら敵が来るのを待っている。
第14任務部隊の右舷側10マイルには、第17任務部隊が似たような陣形で敵に備えている。
やがて、敵編隊が二手に分かれた。まずは、このレキシントンを左右から集中攻撃するのだろう。

「敵編隊分離!第1編隊は騎数約40~50。第2編隊は騎数30~40以上。」
「畜生、敵のやつ、俺達を本気で潰すつもりだ。」

レキシントン艦長、フレデリック・シャーマン大佐が苦々しげな口調で呻く。
敵の目的は、左右から同時に突撃して対空砲火を分散しつつ、このレキシントンを叩くつもりか。
誰もがそう思った時、2つの異変が起きた。
1つめの異変は、分離した敵編隊はそのまま第14任務部隊の前方を迂回して、TF17に向かった事。
もう1つは、TF14に近付きつつあった敵編隊が、またもや分離して、今度は後ろからTF14を迂回し、
輪形陣の右側に展開しつつある。

「奴ら、2隻の空母を同時に叩くつもりか?」

フィッチ少将は震えそうになりながらも、それを抑えて、務めて冷静な口調で言う。

そして、間を置く事無く、左右に展開した敵編隊は一斉に突撃を開始した。

「敵編隊、接近してきます!」
その直後、左右両側で対空射撃が始まった。
多数の黒い黒煙が、ワイバーンの周囲でいて、飛び散る破片がワイバーンを掴みかかろうとする。
フィッチ少将は、対空戦闘の様子をひとしきり見守った後、一層険しい表情を浮かべる。

「くそ・・・・対空砲火の密度が薄い!」

この時、ワイバーン群は、10機単位が固まって進撃しているのではなく、5騎、多くて7騎程度が、
やや間の空いた編隊を組んで、数グループに分かれながら突入しようとしている。
その敵編隊の周囲に高角砲弾が炸裂するが、密度は思ったよりも少ない。
過去の戦闘で、ワイバーンは主に一点集中で攻撃を仕掛けてきた。
その際、敵は確実に突破してきたが、その分、米艦艇は対空砲火を集中して、多数のワイバーンを叩き落してきた。

敵はその事を踏まえて、あえて編隊を分散しながら輪形陣に突入してきたのだ!

敵編隊は輪形陣左側の2箇所と右側2箇所の計4箇所から、輪形陣に進入しつつある。
侵入箇所こそは違うが、狙いはハッキリしている。
それらが向かう先は、輪形陣の中心に居るレキシントンだ。
しかし、分散された対空砲火とは言え、入念な訓練を積んだ砲手達は、敵ワイバーンの至近に正確に、高角砲弾を打ち込む。
唐突に、1騎のワイバーンが高角砲弾に直撃され、胴体を真っ二つにちぎられた。
輪形陣左側でも、相次いで2、3騎のワイバーンが撃墜される。
分散された砲火は、内部に進むにつれてより激しくなってきた。
レキシントンの左舷後方に位置する軽巡のジュノーが、駆逐艦上空を突破し、巡洋艦群の上空を飛び越えようとする
敵ワイバーン群に向けて、寮艦と同じように対空砲火を撃ちまくる。

アトランタ級対空軽巡の2番艦として建造されたジュノーは、まさに全艦活火山と化すような勢いで、
多数搭載された5インチ砲を乱射した。
レキシントンも、艦橋前、後部に設置されている5インチ連装砲や舷側の単装砲、それに28ミリ、
20ミリ機銃を撃ちまくった。
ここに来て、さしものワイバーンも1騎、また1騎と次々と撃墜されていく。
しかし、敵ワイバーンを完全に阻止するには到らなかった。

「左舷後方より敵ワイバーン、急降下!」
「左舷前方上方より敵急降下!」

見張りの声が艦橋に飛び込んでくる。
それを聞いたシャーマン大佐は、目をかっと見開いて指示を下した。

「取り舵一杯!」

彼の号令の下、操舵員が命令を復唱しながら舵を回す。
レキシントンの艦首が海水を切り裂き、時折ドーン!という音共に、波の頂を踏み潰して水飛沫を上げる。
数十秒ほど間を置き、敵ワイバーンが高度1000を切った時、レキシントンの艦首が左に回り始めた。
レキシントンに習って、前方のサウスダコタや周囲の寮艦も一斉に回頭する。
左舷後方、前方より急降下してきたワイバーンが、相次いで爆弾を投下してきた。
爆弾を放り投げて、猛速で避退していくワイバーンに、複数の火箭が逃がさぬとばかりに絡みつく。
そのワイバーンが口から血らしき物を吐き出した直後、海面に叩きつけられて海の飛沫へと変わった。
1発目の爆弾が、レキシントンの右舷側海面に落下し、高々と水柱を吹き上げる。
2発目、3発目と、何発もの爆弾が海面に突き刺さり、空しく海水のみを吹き上げる。
最後の15発目が、レキシントンの艦首右舷側に命中しそうになった。

「危ない!」

フィッチ少将が思わず目をつぶった瞬間、ズドーン!という下から突き上げるような衝撃が
レキシントンの艦体を揺さぶった。
余りの強い衝撃に、彼は被弾したと思った。

「艦首右舷側に至近弾!右舷1番高角砲損傷!」

被害報告が艦橋に届けられた時、フィッチ少将は被弾を免れた事にやや安堵した。

「舵戻せ!」
「右舷後方より敵編隊!急降下に入る!」

シャーマン大佐の指示と、見張りの声が同時に響く。
この時、右舷後方の上空から、2つのワイバーン群が急降下しつつあった。

「面舵一杯!急げ!」

シャーマン大佐は額に滲む玉の様な汗をぬぐう事も無く、次の指示を下す。
そのワイバーン群にも激しい対空砲火が浴びせられる。
レキシントンを囲む寮艦が、より激しく高角砲や機銃を撃つ。
特に、ジュノーの対空射撃は一層際立ち、機銃も加わったその戦いぶりは壮絶だ。
激烈な対空砲火の前に、北大陸最強と謳われたワイバーンが次々と落ちていく。
だが、仲間が何騎高角砲弾に吹き飛ばされ、機銃に細切れにされようとも、誰一人臆す事無く弾幕に突っ込んでいく。

日々の鍛錬と、魔法によって強化された竜騎士の目は、目前で回頭を続けるレキシントンのみを睨みつけていた。
先頭のワイバーンが高度500あたりで爆弾を投下する。爆弾が、左舷中央部側の海面に至近弾として落下する。
続いて2弾目、3弾目がレキシントンの左舷側後部、右舷側中央部に至近弾として落下する。
相次ぐ至近弾の落下で36000トンの艦体が軋んだ音を発する。

「今のはかなり近いな!」

シャーマン大佐は怒りとも感嘆とも取れる表情で呟く。
その直後、ドダァーン!という雷が耳元で爆発したような音が鳴った。
激しい衝撃に、シャーマン大佐は必死に耐えた。
続いて左舷側後部に水柱が立ち上がる。
更に左舷側後方の海面に水柱が連続で7本上がった所で、レキシントンの艦内に警報ベルが鳴り響いた。
この時、レキシントンは第2エレベーターから前方7メートルの場所に150リギル爆弾を受けていた。
爆弾は飛行甲板を叩き割って格納甲板で炸裂した。
そこには2機のF4Fと8名の整備員がいたが、爆弾の炸裂はそれらを一緒くたに吹き飛ばし、
周囲を派手に破壊した後に火災を発生させた。

「後部甲板に被弾!火災発生!」
「ダメージコントロール班、すぐに被弾箇所の火を消せ!」

シャーマン大佐は額に青筋を浮かべながら命令を発する。その時、

「右舷前方、いや、前方上方よりワイバーン、急降下に入る!」

見張りの報告が入った。

シャーマン大佐は咄嗟に前方上方に視線を移す。
そこには、7騎ほどのワイバーンが横単横陣の隊形から、1騎ずつ降下しつつあった。

「舵戻せ!取り舵一杯!」

彼は次の指示を下したが、フィッチ少将は今度も危ないなと思った。
レキシントンはしばらくの間は、敵に突き進むような形で航行する事になる。
間もなく、左に回頭するだろうが、敵弾を完全に避けられるかどうかは分からない。
(頼む、間に合ってくれよ!)
フィッチ少将は強く祈った。
敵は彼の祈りを嘲笑うかのように、対空砲火の弾幕の中、依然としてレキシントンに向かって来る。
レキシントンは既に1発の爆弾を受け、後部から黒煙を噴き出しているが、180000馬力のエンジンは快調に回り、
28ノットのスピードで海上を驀進する。
対空砲火によって数を減らされながら、残りのワイバーンがレキシントンに肉薄すると思われた時、

「右舷より敵騎!突っ込んで来る!」

悲痛めいた声が木霊した。
見ると、右舷からこれまた10騎ほどのワイバーンが高度500メートルあたりから暖降下爆撃の要領で
レキシントンに突っ込んで来る。
「前方の敵は囮だったのか!?」
フィッチ少将は愕然となった。
対空砲火の大半は、前方からやって来る敵ワイバーンに注がれているが、
暖降下爆撃を狙うワイバーンに対する火力密度は少ない。
やっと、レキシントンの舵が利き始め、艦首が右舷に回り始めるが、
それは右舷からの敵に火力の少ない艦尾部分をさらす結果となった。

「いかん!面舵だ!」

シャーマン大佐は慌てて、面舵を命じるが、時既に遅し。
暖降下してくる敵よりも、急降下する敵ワイバーンの投弾が早かった。
生き残った敵ワイバーン5騎が、相次いで爆弾を投下してきた。
レキシントンの右舷後部に水柱が立ち上がったが、その直後に飛行甲板中央部に爆弾が突き刺さる。
爆弾が命中して0.3秒後に火柱が立ち上がり、被弾箇所の飛行甲板が左右に分割された。
3発目の爆弾はレキシントンを飛び越して左舷側への至近弾となったが、4発目が大小に分割されたエレベーターのうち、
後ろ側の小さい部分に突き刺さり、格納甲板で炸裂してエレベーター部分が爆圧で盛り上がった。
5発目は惜しくも至近弾となったが、その20秒後にレキシントンの艦尾側からワイバーンが襲って来た。
高度100メートルでレキシントンの至近に迫った10騎のワイバーンは、次々と爆弾を投下した。
その直後、2騎のワイバーンがレキシントンと、寮艦の機銃弾に引き裂かれる。
報復はすぐに叩き返された。
レキシントンの左舷側海面に水柱が立ち上がり、次に中央部で火柱が上がる。
艦尾から70メートル海面に2本の水柱が立ち上がり、その3秒後に艦尾から20メートル離れた飛行甲板上で
爆発が沸き起こり、甲板上に火の粉と砕け散ったチーク材がばら撒かれた。
駄目押しとばかりに、更に6発目が中央部に、7発目が前部甲板に叩きつけられる。
残りの爆弾は全て至近弾となって空しく海面を抉った。
艦内に警報ベルがけたたましく鳴り響き、担架を持った兵員が負傷兵を運んで行く。
格納甲板では、スクラップと化した艦載機を除去しながら、乗員が火に消化剤を吹きかけた。

「前部甲板に火災発生!」
「後部甲板に更なる命中弾!格納庫内の艦載機に損傷あり!」
「中央部の火災拡大!応援をよこして下さい!」
「ガソリンパイプに破損あり!応急修理班をお願いします!」

各所から次々に被害報告が入って来る。シャーマン大佐はそれらに対し、的確に指示を下した。

いつの間にか、ワイバーンの攻撃は終わっていた。
フィッチ少将は、艦橋から飛行甲板を見渡してみた。

「何てことだ・・・・・」

飛行甲板は前部から後部にかけて破壊されていた。
前部飛行甲板は5メートルほどの穴が開き、穴の周囲が盛り上がっている。
艦橋のすぐ横にある大小に分割されたエレベーターは、エレベーター自体がアメ細工のようにぐにゃりと
折れ曲がり、その周囲が盛り上がって、開いた穴から黒煙が噴出している。
中央部、後部は爆発の影響で飛行甲板が波打ち、所々に開いた穴から火炎と黒煙が激しく噴出している。
火災を消したとしても、飛行甲板がこの有様では発着艦などできるはずがない。
レキシントンが空母としての機能を失ったのは確実であった。


その頃、第14任務部隊から東に10マイル離れた海域でも、激しい戦闘が行われていた。
艦隊の上空では、これまた激烈な対空砲火が展開され、護衛艦が空母を必死に守り通そうとしている。
輪形陣の真ん中に位置する空母ヨークタウンは、不幸にも直撃弾を受けていた。
だが、飛行甲板からどす黒い火災煙を吐き出しながらも、高角砲、機銃を狂ったように撃ちまくりながら、
海面を高速で驀進している。
被害の割には、まだ健在そうに見える事から、格納甲板より下はまだ無事なのであろう。
その姿はまるで、艦そのものが戦いはこれからだと、襲い来る敵ワイバーンに語りかけているようだった。




772 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/05/22(火) 11:08:29 ID:4CUjn9IY0

国力や人口ですが、シホールアンル帝国は本国で人口1億5200万人。
占領地も含めれば2億8000万人ほどです。シホールアンルは財源に関しては国内にある金鉱山や
銀鉱山などで潤しており、資金面には困っておりません。
他の資源に関しても同様ですが、ただ、魔法石の原料となる魔石鉱山に関しては、自国のみならず、
占領国の鉱山を接収して補給しています。
一方で、アメリカの人口は1億3000万人ほどで、この時期から、アメリカの軍需産業は戦時体制
に移行しており、軍艦や車両の建造、製造ペースが上がっています。
人口面に関してはシホールアンルに軍配が上がります。
ですが、国力面に関しては、F世界で一番の技術力を持つとは言え、未だに旧態依然とする制度が残り、
大量生産体制が未だに確立できていないシホールアンルに対し、依然として急速な技術革新が続くアメリカ。
この両者の国力を比較すると、
10の比率のうち、シホールアンルが3、アメリカが7と、国力面に関してはアメリカに及びません。

とは言え、長年の戦争で鍛えられたシホールアンル帝国やその軍は精強であり、アメリカは終戦まで
気の抜けぬ戦いを強いられる事になります。

773 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/05/22(火) 11:09:56 ID:4CUjn9IY0
ちなみに、ワイバーンと機械の航空機を比較した場合ですが、まずワイバーンで説明します。
シホールアンル側のワイバーンは戦闘ワイバーンで航続距離1600キロ、攻撃ワイバーンも1700キロ
の航続距離を飛べます。これらはまず、飛行甲板上に並べられた後甲板を少しだけ滑走して飛び上がります
が、それは通常時であり、緊急時にはその場で発艦でき、発艦にかかる時間は40騎のワイバーンで10分
ほどで終了します。
帰還後は飛行甲板下の格納庫に入り、そこで休息し、次の攻撃がある場合は疲労除去在という薬品を使って
ワイバーンの疲労を取り除き、休息が万全であれば再び飛行甲板にあげられます。
ワイバーンは急げば40分程度で、通常時は1時間ほどで発艦が可能となります。
次に米艦載機ですが、艦載機に燃料、弾薬を搭載し、整備兵が出撃前のチェックを行います。
その後、エレベーターで1機ずつ飛行甲板にあげられて後部甲板に集められます。
それが終わると、暖機運転を行い、次に搭乗員が機体に乗って最終チェックを行い、それが終わると母艦
を風上に向けて発艦します。
帰還後は再び機体の点検をして弾薬、燃料を積み込みと、最初の手順を行うのですが、これを数十機単位
でやると2時間前後はかかります。
そのため、米空母は攻撃前夜には、最初の攻撃隊にこの一通りの作業を行ってから攻撃隊を手早く送り出し
ています。
この事から、反復攻撃能力に関しては、シホールアンル側に軍配が上がります。

長崎県人氏 う~ん、血は違うとは言え、オールフェスとリリスティは姉弟みたいな関係なので
結婚はちょっと・・・・(;´∀`)

SSの投下は、今書き直し中なのでもうしばらくお待ち下さい (。・x・)ゝ
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