自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

102 第82話 窮状戦線

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第82話 窮状戦線

1483年(1943年)9月4日 午後7時 カレアント公国グラガランド

第20軍司令部は、2日に東ループレング市から、北27ゼルドの所にあるグラガランドと呼ばれる、今は捨てられ、
無人の街と化したゴーストタウンに司令部を構えた。
グラガランドの街西部にある、どこでもありそうな2階建ての一軒屋が、第20軍の新しい司令部となっていた。

「状況は悪化の一歩を辿っています。各軍とも、よく奮戦敢闘していますが、敵は攻撃力に物を言わせてひたすら前進を続けております。」
家の中にある応接室に設けられた作戦室では、第20軍司令官のムラウク・ライバスツ中将と、その幕僚達が、
テーブルに置かれた地図を見ながら額を寄せ合っていた。

「特に状況が悪いのは、左翼戦線だな。あそこは敵が攻勢を開始して1日で、10ゼルドも前進した。今日に至っては
計50ゼルドも前進している。中央戦線では、第11軍に属している第50砲兵軍団が頑張っているお陰で、左翼戦線ほどは
敵に進まれていないが、それでもこの数日で28ゼルドも後退させられている。この第20軍も、敵の攻撃によって18ゼルドも
戦線が後退し、東ループレング市を明け渡さねばならなかった。」

ライバスツ中将は、どこか淡々とした口調でそう説明した。
カレアント侵攻軍は、1日から始まった連合軍(主にアメリカ軍)の攻勢で大きく押し戻されていた。
左翼戦線では、パットン中将の率いる第1軍団が快進撃を続け、3日午後にはシホールアンル軍第21騎兵旅団と第34騎兵師団の
反撃を蹴散らし、前線から148キロ進んだ地域まで進んだ。
中央戦線では、アメリカ軍第3軍が大きく押していたが、3日の朝には前線から20キロ進撃した所でシホールアンル第50砲兵軍団所属の
第58機動砲兵旅団に前線を阻まれていたが、後方で待機していたバルランド軍第31騎兵旅団が敵の裏を掻いた。
今年1月に旅団長に就任したリーレイ・レルス准将の機転によって、アメリカ第3軍を待ち伏せていた第58機動砲兵旅団は大混乱に陥った。
第31騎兵旅団相手に苦戦している第58機動砲兵旅団は、なんとか第31騎兵旅団を撃退する事が出来たが、今度はアメリカ第3航空軍と、
バルランド第4飛行騎士軍から飛び立った戦爆連合400機の編隊が第58機動砲兵旅団に襲い掛かった。
第58機動砲兵旅団は、味方のワイバーンと共同でワイバーン24騎と米軍機19機を撃墜したが、この爆撃で旅団の主戦力は5割に落ち込んだ。
午後3時、頃合を見計らったかのように第3軍は前進を再開し、ぼろぼろになった第58機動砲兵旅団を蹂躙した後、バルランド軍第31騎兵旅団と
共に一気に前線より80キロ後方のラム・グリドラという地域まで進出した。

こうした中、後退中であった左翼戦線の部隊である第3軍所属の2個師団と2個旅団は、アメリカ第1軍と第3軍に退路を絶たれて的中に孤立してしまった。
そんな中、第20軍だけは、他の戦線と比べて敵の進出を許していなかった。
第20軍の後方には、第50砲兵軍団の残り2個師団がたまたま配備されており、それらが援護射撃を行って、前進して来るアメリカ軍部隊を足止めさせていた。
また、第20軍に属する石甲師団は、甚大な損失を被りつつもアメリカ軍前進部隊に無視出来ぬ被害を与え続けていた。
このため、アメリカ第4軍は、前進部隊である第4、第5機甲師団を思うように進める事が出来ず、進撃速度は他の戦線と比べてがた落ちとなっていた。
そんな、よく戦っている第20軍でさえ、軍司令部を元の司令部があった東ループレングから移動せざるを得なくなったのだ。

「カレアントの国土は、大半が開けた平野になっているからな。一部に山岳地帯などの峻険な地域は存在するが、
そこに立て篭もってもどれだけ耐えられるか分からんな。」
「そもそも、将兵の装備武器が圧倒的に劣っています。」
ライバスツ中将の言葉に、参謀長が付け加えて来た。
「南大陸連合軍はまだしも、アメリカ軍は完全に銃火器装備です。遠距離のみならず、近距離でも剣や弓以上の
威力を発する兵器が相手では、いくら持ち堪えてもあたら兵に犠牲を強いるばかりです。」
「う~む・・・・・」

参謀長の言葉に、ライバスツ中将は暗澹たる表情を浮かべる。
現在、第20軍はグラガランド南方6ゼルドの地点にある予備防御線(万一の場合を想定して、カレアント国内にはいくつもの防御線が構築されている)
でアメリカ軍と戦火を交えている。
幸いにも、他の部隊が北大陸向けて撤退したお陰でその分の補給物資が各師団に行き渡り、今では悪かった装備事情も幾ばくが解消されていた。
戦線には、第20軍所属の第32、第109軍団が張り付いている。
しかし、各軍団に属する師団、旅団の損耗率は2~3割以上に達している。
特に第123石甲師団は4割の損失を出しており、いかにアメリカ側の攻勢が激烈な物か如実に表されている。

「救いとしては、後退中の部隊が順調に北大陸に向かっている事と、補給線がなんとか保たれていると言う事だな。」
「しかし、その補給線もいつまで現状維持できるか分かりません。」

情報参謀である魔道将校が言ってきた。

「現在、陸上補給路に関しては、敵の爆撃機や敵側に寝返った現地人の攻撃を受けつつも、なんとか一定量を保っています。
しかし、海上補給路に関しては確実に目減りしています。」

「敵の機動部隊か。」

ライバスツ中将は、忌々しそうな口調で言う。

「奴らが暴れてくれたお陰で、この数日で29隻の輸送船が叩き沈められるか、港ごと破壊された。ガルクレルフなどは
昨年2月に受けた被害よりも更に酷い被害を受けたようだ。こいつらを何とかせんと、南大陸に対する物資補給量はまた減少するぞ。」
「本国上層部は、第2、第3艦隊と、第4機動艦隊の北大陸南部西岸への派遣を決定しているようです。それに、本国のワイバーン部隊から
1個空中騎士軍を北大陸南部に派遣する事も検討しているとの事です。」
「第4機動艦隊か・・・・我がシホールアンルが持つ高速竜母部隊だから頼りになると思うが・・・・アメリカ機動部隊相手には満足の行く
勝ちをした事ないからな。あまり強い期待を持てないね。」

第4機動艦隊は、竜母を中核とした高速機動部隊である。
中核である竜母は現在、10隻が配備されており、それらを4又は3隻ずつに分けて3個の機動部隊を編成している。
それに加え、搭載されているワイバーンも全て最新の物である。
総計613騎のワイバーンを有する機動部隊は頼れる存在と言っても良い。
しかし、陸軍軍人の多くは、竜母部隊の活躍をあまり期待せぬ者が多い。
その理由は、宿敵たるアメリカ空母部隊相手に、常に負けているか、良くて引き分けにしかなっていないからだ。
そのため、竜母部隊がアメリカ空母部隊と戦うとなると、陸軍の将兵はまた負けか、決定打を欠きそうだなと思ってしまうのだ。

「それよりも、前線の状況に目を向けなければなりません。我々の後方には、第50砲兵軍団が援護に回ってくれていますが、
増援の見込みの無いまま、どうやって敵を抑えながら、どう後退していくか。そこを考えなければ、我が第20軍は破滅です。」
「ジリーンギやミトラの前線軍も、あの南大陸の蛮人共相手に押されているからな。早めに策を練らねばならん。」

その時、1人の魔道将校が紙を持って室内に飛び込んで来た。

「情報参謀!第120軍団から緊急信です!」

情報参謀はその将校から紙を受け取って読んで見た。

「第120軍団といえば・・・・・ラブナック少将が指揮している部隊か。」

ライバスツ中将は、後輩であったラブナック少将の端正な顔立ちを思い出していた。
第120軍団を指揮しているムエリク・ラブナック少将は、シホールアンル中流貴族ラブナック家の長男であり、年は36歳である。
ライバスツ中将は大尉時代にラブナック少将を部下に置いていた事があり、控えめながらも時には大胆であるその性格を、ライバスツは気に入っていた。
その後輩の指揮する第120軍団は、予定通りなら6日には北大陸向けて出発するはずであった。
ライバスツ中将はてっきり、第120軍団も急いで撤退していくのであろうと思っていた。
他の軍は上層部の指示通り、前線軍が時間を稼いでいる間に後退しつつあった。
第50砲兵軍団のように上層部の許可を得て味方の援護に回る部隊もあるが、そのような部隊は少数派である。
第120軍団も、本来ならばすぐに後退しなければならないはずだった。
だが、情報参謀から受け取った紙を見るなり、ライバスツ中将はやや愁眉を開いた。

「第120軍団が第20軍と共に戦うと言っている。」
「それは本当ですか?」

ライバスツの言葉に、幕僚達は驚いた。

「本当だ。これは、第120軍団長からの直々の通信文だ。」

第120軍団は右翼戦線後方待機部隊の第19軍に属する部隊であり、既に第35軍団は3日夜に撤退を開始している。
しかし、同じく撤退するはずだった第120軍団は、あろう事か、第20軍と戦うと言って来たのだ。

「どうして、第120軍団は撤退せずに我々と戦う事にしたのでしょうか・・・・撤退すれば、我々のように大損害を
受ける事も無く、北大陸で思う存分戦えるのに。」

作戦参謀が理解しがたいと言った表情でそう言い放った。

「恐らく、敵の進撃速度に原因があるのだろう。見てみろ、この右翼戦線だけで28ゼルドも後退した。他の戦線では更に悲惨だ。
このような状況では、いずれ後方部隊が撤退しても、我々が敵に突破され、撤退部隊の後方から噛み付く事は容易に想像できる。
第120軍団は、そうさせないためにも、前線の阻止部隊に加わったのだ。」

その分北大陸の防備は重厚な物となるだろう。」
「確かに・・・・・第120軍団長の決断も納得できます。」

幕僚達は、それぞれが納得した表情を浮かべた。
彼らが初めて味わった電撃戦の威力は、想像を絶する物であった。
堅固と思われた防御陣地は容易く突破され、なんとか足止めが成功しても、別部隊が迂回して後方を遮断して包囲させられる。
機甲戦術という概念が無いシホールアンルにとって、アメリカ軍の電撃戦はまさに恐ろしいものだ。
その悪夢の戦法から逃れるには、とにもかくにも、現存の地上部隊及びワイバーン隊を持って遅滞戦術に移るしかなかった。
その遅滞戦術取る部隊の1つである第20軍は、これから先アメリカ側を賛嘆させるほどの粘りを発する事になるが、
第20軍の苦難はまだ始まったばかりであった。


1483年(1943年)9月5日 午前7時 リガギド

リガギドは、グラガランドの南方6ゼルドの所にある第20軍の防御線陣地である。
この寒村は、シホールアンル軍が侵攻してくる前に村人が全員逃げ出してしまったため、シホールアンル軍が占領した時は無人と化していた。
この村を建物ごと接収したシホールアンル軍は、防御線を築いた。
シホールアンル陸軍第82石甲機動旅団に属する第12対空大隊は、防御線から少し離れた小高い丘に陣取っていた。
第12対空大隊は、旅団に配属されている対空部隊である。
対空部隊は、魔道銃6丁、高射砲2門で1個小隊を編成し、それらが3個集まれば中隊となる。
大隊はその中隊が3個集まった物で編成され、通常なら魔道銃54丁、高射砲18門を有する事になる。
しかし、第12対空大隊は、ここ数日の戦闘で消耗しており、今では魔道銃41丁、高射砲11門に減っていた。
大隊長のブラナソ・ユクリ少佐は、それでも他の部隊よりはマシだと思って、意気消沈する大隊の将兵を励ましていた。
そんな中、9月5日の朝を迎えた。
この日は、朝から騒々しい物であった。
突然、リガギドに空襲警報が鳴り響いた。仮眠中の所を慌てて叩き起こされた将兵は、それぞれの持ち場に付いて敵の空襲に備えた。
ユクリ少佐は、対空大隊の指揮所のある小屋で、大隊の指揮をとる事にした。

「南方より敵大編隊、我が方に接近してきまーす!」

見張りが、天井から指揮所の中に通じる伝声管にそう叫び込んだ。

「大隊、対空戦闘準備!」
「了解!」

ユクリ少佐の命令は各中隊伝えられる。南方から接近して来るアメリカ軍機の編隊は、徐々に近付いて来る。
やがて、敵大編隊の一部が、第12対空大隊が布陣したリガギド北西部の丘に向かって来た。

「敵単発機40機!こちらに向かいます!」

ユクリ少佐は敵単発機と聞いた時、脳裏にある飛行機の姿を思い出した。
アメリカ軍は、ここ最近からエアコブラと同様の機種であるサンダーボルトを投入して来た。
サンダーボルトは、エアコブラ以上に重火力、高速力であり、頑丈でもある。
運動性は酷い物の、光弾をしこたま食らってもそのまま逃げていったと言う報告が何件もある。
恐るべきは、その火力で、翼に装備した8丁の機銃は幾多ものワイバーンを葬り去っている。
サンダーボルトは同時に、地上攻撃にも活躍しており、第12対空大隊も9月3日にサンダーボルトの編隊に襲撃され、散々な目に遭っている。

「戦闘開始!敵機を叩き落せ!」

やがて、第12対空大隊の火砲が一斉に火を噴いた。
迫り来るサンダーボルトの周囲に高射砲弾が炸裂する。
サンダーボルトは、高射砲弾の弾幕を突き抜けて対空大隊の陣地に迫って来た。
唐突に、1機のサンダーボルトのすぐ前面で高射砲弾が炸裂した。
その瞬間、サンダーボルトの前部分が無残にも叩き潰された。機首から火炎を発したサンダーボルトは、急激に高度を下げて丘の山腹に激突した。
魔道銃が射撃を開始し、カラフルな光弾の嵐がサンダーボルトに注がれた。
2機のサンダーボルトが、光弾の集中射撃を食らって叩き落されたが、残りは対空大隊の陣地に突っ込んで来た。
サンダーボルトの先頭機が、高射砲陣地目掛けて両翼に吊ってある爆弾を投下する。

そのずんぐりした機体が機銃を乱射しながら対空大隊の陣地上空を飛び抜けた。
2発の爆弾は高射砲陣地を外れ、見当違いの場所で爆発した。
2番機、3番機が対空砲火の弾幕を蹴散らしながら500ポンド爆弾を放り投げる。
3番機の爆弾が、第1中隊の高射砲1門に命中した。
爆弾が命中した瞬間、屹立していた高射砲が根元から倒され、操作要員がただの肉片と化して大量の土砂と共に宙に噴き上げられた。
4番、5番機が丘の西側から突っ込んで来た。
一部の魔道銃が、その2機目掛けて魔道銃を乱射する。5番機のコクピットに光弾の集中射が注がれた。
コクピットの風防ガラスが叩き割られ、操縦員が仰け反る様子が魔道銃陣地から見えた。
そのサンダーボルトは機首から山腹に突っ込んで大爆発を起こした。
4番機が両翼から2発の爆弾を落とした。
5番機を叩き落した魔道銃に500ポンド爆弾が命中し、僚機の仇を何倍返しにもして叩き返された。
指揮所にも、2機のサンダーボルトが迫って来た。

「こっちにもサンダーボルトが来ます!」

見張りが上ずった声を上げて指揮所に怒鳴り込んできた。

「逃げるぞ!」

咄嗟にユクリ少佐はそう叫んだ。彼の指示に従って、指揮所に詰めていた従兵や通信兵が一斉に小屋から逃げ出した。
最後の1人が小屋から離れた10秒後、サンダーボルトから放たれた爆弾が小屋に命中した。
一瞬にして小屋は木っ端微塵に吹き飛んだ。
ドォーン!という雷じみた轟音が大地を揺るがし、爆風が逃げ惑うユクリ少佐たちを吹き飛ばした。
地面をしばらく転げ回ったユクリ少佐は、全身に痛みを感じた。転がる最中に、地面の石等に向こう脛や体をぶつけたのだ。
上空を、サンダーボルトが2200馬力エンジンを轟かせながら、勝ち誇ったかのように飛び去っていった。
ユクリ少佐は、姿勢を起こした。痛みを感じる割には、四肢は快調に動いている。どうやら打撲のみで済んだようだ。

「少佐、大丈夫ですか?」

部下の従兵が彼を心配して聞いて来た。

「ああ、大丈夫だ。体はあちこち痛いがね。」

ユクリ少佐は陽気な口調で答えた。見た所、指揮所に居た者は全員無事であった。
唐突にドーン!という爆発音が轟いた。
第12対空大隊の陣地は依然爆撃を受けているようだ。
しかし、完全にやられている訳ではなく、爆発音に混じって魔道銃や高射砲の発射音も聞こえる。

「少佐、防衛線が・・・・」

従兵が防衛線を指差した。ユクリ少佐は従兵が指差す方向に目を向けた。
防衛線もまた、対空大隊と同様に空襲を受けている。上空には、乱舞するアメリカ軍機の周囲に高射砲弾の弾幕が張られ、ひっきりなしに光弾が吹き上がっている。
防御線の対空防御はなかなかに激しいが、その下では既に、いくつもの黒煙が濛々と吹き上がっている。

「やられているな。この調子だと、ここもいつまで持ち堪えられるやら。」

ユクリ少佐は、ため息混じりにそう言った。


午前9時になると、アメリカ軍の砲撃は止んだ。
前線の中央部に布陣している第82石甲機動旅団は、残ったキリラルブスに射撃体勢を取らせて、迫り来るであろうアメリカ軍部隊を待ち受けていた。
第82石甲機動旅団は、3日の夜に旅団の総力を挙げてアメリカ軍部隊の側面を突いた。
この攻撃で、アメリカ第5機甲師団に相当な被害を与えた物の、第82石甲機動旅団も大損害を受けて撃退された。
旅団の戦力は通常の7割以下に低下しており、稼動するキリラルブスも徐々に減りつつある。
第93石甲連隊第3大隊に属する第2中隊では、残った8体のキリラルブスを待機させ、攻撃の瞬間を待っていた。

「中隊長、来ましたぜ。」

第2中隊長のシミド・ランギド大尉は、砲手の声にゆっくり頷いた。

「恐らく、例の通り楔形隊形で突っ込んで来るだろう。先頭はもちろん戦車だな。」

ランギド大尉はそう言いながら、3日の夜戦を思い出していた。
第82石甲機動旅団は、突出していたアメリカ軍戦車部隊に攻撃を仕掛けた。
第93石甲連隊もまた、攻撃に加わっていた。
この攻撃の際、ランギド大尉は20台のアメリカ軍戦車と渡り合い、5台を破壊した。
しかし、防御の脆いキリラルブスではアメリカ軍戦車と戦うには限界があり、彼の中隊は実に8体が破壊された。
この戦いで、最初は虚を突いた旅団が敵を押していたが、短時間で体勢を立て直した敵戦車群にキリラルブスは次々と破壊された。
相次ぐ被害に旅団長は後退命令を出した。
しかし、いち早く反撃に移ったアメリカ軍は、後退する旅団に容赦なく射撃を加えるばかりか、一部の戦車は退路を塞ぎにかかった。
運悪く、第92石甲連隊の1個大隊半のキリラルブスが敵に包囲されてしまった。
その後、包囲されたキリラルブスがどうなったかは、言うまでも無い。
この戦闘で、旅団は3割の損失を出し、戦力はがた落ちとなった。
旅団に窮乏を強いる事となったその強敵が、今目の前から迫って来る。

「後方から味方のワイバーン編隊!」

装填手が嬉しげな口調で報告してきた。ランギド大尉は後ろを振り返る。
見ると、後方から確かに味方のワイバーン編隊が飛来してきた。数は6~80騎はいるだろう。
「前方よりアメリカ軍機!数は約70!」
唐突に、大隊長から魔法通信が入る。どうやら、アメリカ軍は攻撃直前にもこちら側に空襲を仕掛けて、戦力を更に弱めようとしているようだ。
上空を飛び去っていくワイバーン隊が、増速して前方の敵機に向かっていく。
アメリカ軍機もそれに気付いたのだろう、小編隊ごとに分かれながらワイバーンに突っ掛かっていく。
一部のワイバーンが、超低空まで下りてから、平野を前進するアメリカ軍部隊に突進した。
アメリカ軍部隊に対空車両がいるのだろう。機銃弾がワイバーンに向けて撃ち上げられる。

ワイバーンは巧みな機動でひらり、ひらりとかわすが、1騎のワイバーンが機銃弾に絡め取られて撃墜された。
2騎のワイバーンが胴体から2発ずつ、爆弾を投下する。殆どは至近弾となったが、1発がシャーマン戦車に命中し、派手に火炎を吹き上げた。
シャーマン戦車は楔形隊形の外側に外れた後、いきなり大爆発を起こして停止した。
別の攻撃ワイバーンがブレスを吐き掛ける。
ブレス攻撃の餌食となった1台のハーフトラックが、キャビンの兵ごと炎上し、そのまま大きめの松明と化した。

「上方より敵機!味方部隊に突っ込んで行きます!!」

空戦域を抜け出したアメリカ軍機がキリラルブス隊に迫って来た。
キリラルブスの少し後方に展開する対空魔道銃が、接近するアメリカ軍機に向けて撃ち始めた。
アメリカ軍機は、隣の第3大隊を狙っていた。
尖った機首に細めの胴体。それに機首からはみ出ている棒のような物。特徴からしてエアコブラに間違いない。
エアコブラが機首から37ミリ弾、主翼から12.7ミリ機銃弾を撃つ。
機銃弾を集中された第3大隊のキリラルブスから人が叩き落とされ、次に爆弾が落下してキリラルブスの体が派手に吹き飛ぶ。
1機のエアコブラが、横合いから魔道銃の射弾を受ける。横合いから田楽刺しにされたエアコブラが大きくよろめき、やがてキリラルブス隊の後方で墜落した。
キリラルブス隊に襲い掛かって来たエアコブラは少なく、空襲は短時間で終わった。

「敵戦車部隊接近!戦闘準備!」

旅団長の声が魔法通信から流れる。いよいよ、本命の戦いが始まる。
敵戦車部隊は、やがてキリラルブスの射程距離に達した。

「撃ち方始め!!」

大隊長の魔法通信が入ると、キリラルブスは一斉に砲弾を放った。
1000メートル向こうのシャーマン戦車群に、2.8ゼルド砲弾が殺到する。
草原に砲弾が落下し、高々と土砂が噴き上げられる。
最初の射撃は全て外れとなった。
続く第2、第3射と放たれるが、砲弾は全く当たらない。

「クソ!当てづらいな!」

ランギド大尉は忌々しげに呟く。3発目の砲弾が砲身から放たれる。
今度は、真ん中からやや左側のシャーマン戦車の下部に命中した。
右の履帯に命中した72ミリ砲弾は、履帯を引き千切り、転輪を幾つか吹き飛ばした。
シャーマン戦車は下部から煙を噴出すと、その場で停止した。
そのシャーマン戦車の横を、別の戦車が次々と追い抜いて行く。
シャーマン戦車も反撃を開始した。敵戦車の反撃も、最初は殆ど外れたが、2発がそれぞれキリラルブスに命中した。
第4射が放たれる。
今度は敵戦車の砲塔に命中するが、砲塔に火花を散らしただけで敵は被害を受けなかった。

「チッ、やはり正面からは弾が飛ばされる。側面に回らんと敵を潰せん。」

ランギド大尉は、苛立った口調で言った。
彼は作戦開始前に、

「敵戦車と正面から撃ち合えば、こちらが不利なだけです。この際、敵がリガギドの村内に入ってから攻撃するべきです。
リガギド村内は障害物が多く、敵の不意を付けます。」

そう大隊長に進言した。大隊長も乗り気になって連隊長に言ったのだが、彼の考えは一蹴されてしまった。
上官の命令であれば言いようが無いと思ったランギド大尉は、諦めてリガギド前面で敵を迎え撃った。
だが、戦いの様相は、ランギド大尉の危惧した通りになりつつあった。
新たなシャーマン戦車が2台、2.8ゼルド砲弾によって損傷し、行き足を止めた。
しかし、シャーマン戦車の次の射弾が、更に3体のキリラルブスを爆砕する。
砲火の応酬がしばし繰り返されたが、キリラルブス隊は敵戦車との砲戦で次々と撃破されていった。

「第2小隊長被弾!」
「畜生!早くも4台がやられたか・・・・!」

ランギド大尉は悔しさの余り叫びたくなった。彼の中隊でこの有様であるから、他の中隊、大隊ではかなりの被害が出ているだろう。

「くたばれ!化け物め!」

ランギド大尉は罵声を上げながら砲弾を発砲させる。射弾はシャーマン戦車の正面に命中した。
爆炎が破片と共に吹き上がる。黒煙を吹き上げたシャーマン戦車は、やがて停止した。

「やっと敵を撃破か。」

ランギド大尉はため息を吐きながらそう言った。正面の敵部隊は距離を縮めつつある。
進撃速度は下がったようには見えない。

「大隊長より全部隊へ。急ぎ後方の第2線陣地まで撤退せよ!」
「撤退?大隊長!撤退にはまだ早すぎます!」

ランギド大尉は、大隊長の急な撤退命令に反論した。

「敵部隊はまだ戦力を残しています!我々もまだ健在です。一定量まで減らさねば」
「話は後だ!とにかく今は第2線陣地まで急いで退け!」

大隊長の有無を言わせぬ命令に、止む無くランギド大尉は従うことにした。
ランギド大尉の中隊、いや、小隊は10分ほど走って第2線陣地まで移動した。
その時、リンガキの反対側の丘から発砲炎が光った。
先ほどまで、キリラルブス隊がいたと思われる地点に、アメリカ軍部隊は進んでいたが、そこに野砲弾が次々と着弾し始めた。
野砲弾の弾着が、アメリカ軍戦車部隊を包み込む。
その中に、幾つか爆炎が見えたように思えたが、そこから先は濃くなった煙に遮られて見えない。

「そうか。敵を引き付けてから野砲で吹っ飛ばす算段なのだな。恐らく、これは急に決められた戦術なのだろう。」

大隊長がさっさと退けと言ったのはそのためか。
ランギド大尉は、先の有無を言わせぬ命令の原因が分かり、納得した。
丘に陣取っている野砲部隊は、今までの鬱憤を晴らすかのようにこれでもかと砲を撃ちまくっている。
砲撃開始10分ほどが経つと、野砲は射撃を止めた。
弾着の終わった先の防御地点から煙が晴れて行く。そこには、無残にも破壊された戦車と、歩兵を乗せていた輸送車両、計8台が炎上していた。
残りの敵部隊は後退しつつあった。

「やったぞ!敵を追い払った!!」

アメリカ軍を撃退した事に、ランギド大尉は思わずそう叫んだ。彼のみならず、旅団の全将兵が歓声を上げていた。
しかし、その喜びを踏みにじるかのように、南方側から新たな編隊が爆音を轟かせながら現れた。

「南方より新たな敵・・・・あれは双発機か。」

うっすらと見えて来た敵機のシルエットに、ランギド大尉はやや沈んだ口調で言う。
双発機となると、相手はミッチェルかハボックだ。
低空で爆弾を叩きつけて来るミッチェルとハボックは厄介だ。恐らく、前進を断念した敵部隊の指揮官が、航空支援を要請したのだろう。

「少しばかりの喜びか・・・・全く、嫌な敵と戦っている物だ。」

ランギド大尉はそう呟きながら、どこか諦観した表情で距離を縮めつつある敵編隊を見つめ続けた。


9月6日 午前6時
洋上を行く艦船が、上がりつつある太陽によって暗闇の中から姿を現していく。
鮮やかなオレンジ色の光を浴びながら、その艨艟達はひたすら北東方面に向かっていた。

「太陽が昇りつつあるな。」

第57任務部隊第2任務群司令官である、フレデリック・シャーマン少将は、旗艦フランクリンの艦橋から丸い形の太陽を目にして、神妙な口調で言った。

「綺麗な太陽ですね。」
「ああ。実に綺麗だ。自然の美しさは、元の世界の、この世界も変わらない物だな。」

フランクリン艦長のジェームズ・シューメーカー大佐の言葉に、シャーマン少将は微笑みながら返事した。

「航空参謀。攻撃隊の準備状況はどうかね?」

シャーマン少将は航空参謀に一番気掛かりな事を質問した。

「あと5分で、発進準備は終わります。」
「うむ。今の所は順調に進んでいるな。」

シャーマン少将はそう言ってから、改まった口調で命令を下した。

「各艦に通達。準備出来次第発艦させよ。」
「アイアイサー。」

その5分はあっという間に過ぎた。

「司令官。攻撃隊発進準備完了しました!」
「ようし。艦隊を風上に立てる。面舵一杯。」

シャーマンの指示通り、TG57.2の各艦は一斉に風上に向けて転舵する。
飛行甲板上では、準備を済ませた攻撃隊が、エンジン音を轟々と唸らせながら発進の時を待っている。
シャーマン少将は、艦橋の張り出し通路に出て、攻撃隊の発艦を見送る事にした。
艦首からは風が吹き込んで来る。28ノットの高速で進んでいるから、発艦には適した風力だ。
艦橋から、

「発艦始め!」

という声が聞こえた。その2秒後、甲板員がフラッグを振った。
合図を確認したF6Fが、乗員の歓声を受けながら滑走を開始した。機首の2000馬力エンジンを唸らせ、F6Fが艦首目掛けて走っていく。
甲板の先端部から離れた機体がフワリと浮き上がり、オレンジ色に染まる大空に舞い上がっていく。
続いて2番機、3番機と、艦載機は次々と発艦していく。
僚艦イントレピッド、バンカーヒルからも攻撃隊が発艦している。
TG57.2から126機の第1次攻撃隊が発艦を終えるまで、実に20分を要した。
攻撃隊は大編隊を組んだ後、敵地にへと向かって言った。

「TG57.1と合計して、計200機の第1次攻撃隊が放たれた。30分後には180機の第2次攻撃隊が発艦していく。
スプルーアンス長官が提案したこの作戦を成功させるには、この2波の攻撃隊でどれだけ戦果をあげられるかに掛かっているな。」

シャーマン少将は、遠ざかっていく第1次攻撃隊を見つめながらそう呟いていた。
やがて、第1次攻撃隊は視界から消え去っていった。


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350 :ヨークタウン ◆r2Exln9QPQ:2007/12/15(土) 20:44:19 ID:Bohu6sek0
SS投下終了です。尚、投下中に抜けていた部分がありました。

本来ならばこのような文になる予定でした。

「時間を稼げば、その分味方部隊は逃れられる。そうすれば、北大陸の防備はより
重厚な物となるだろう。」

ここで改めて訂正いたします。
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