第83話 マルヒナス運河強襲
1483年(1943年)9月6日 午前7時30分 ウェンステル領マルヒナス
マルヒナスは、ウェンステル公国の中で最も有名な物がある地域として知られている。
マルヒナス領は、その広大な土地が砂漠地帯であり、領地がちょうど半分に分断されている。
領地を断ち切るもの。それは、運河である。
幅が最大で2.5ゼルド(7500メートル)、最狭部ですら1ゼルドもあり、運河と呼ぶより海峡と言った方が早い大きさである。
マルヒナス運河は、歴史書によれば紀元前に起きた人間と魔物との戦争で、魔物の放った巨大魔法が連続してマルヒナスに降り注ぎ、それが
きっかけで天変地異が起きて大地が割れたと伝えられている。
それから時が経ち、マルヒナスは世界一巨大な運河として知られ、今では交通の要衝となった。
シホールアンル軍侵攻前にも、マルヒナス運河には泊地の大きな良港や町などが点在し、付近の地方都市も繁栄していた。
現在はシホールアンル軍が運河を管理しており、北大陸と南大陸を結ぶ要衝となっていた。
シホールアンル軍第11軍団に属する第129石甲師団は、この日の早朝から残りの部隊を輸送船で北大陸側に移送していた。
第129石甲師団第29石甲連隊の指揮官であるブリンゴ・レブルー大佐は、接岸した輸送船から桟橋に降りて来た。
マルヒナス領は、その広大な土地が砂漠地帯であり、領地がちょうど半分に分断されている。
領地を断ち切るもの。それは、運河である。
幅が最大で2.5ゼルド(7500メートル)、最狭部ですら1ゼルドもあり、運河と呼ぶより海峡と言った方が早い大きさである。
マルヒナス運河は、歴史書によれば紀元前に起きた人間と魔物との戦争で、魔物の放った巨大魔法が連続してマルヒナスに降り注ぎ、それが
きっかけで天変地異が起きて大地が割れたと伝えられている。
それから時が経ち、マルヒナスは世界一巨大な運河として知られ、今では交通の要衝となった。
シホールアンル軍侵攻前にも、マルヒナス運河には泊地の大きな良港や町などが点在し、付近の地方都市も繁栄していた。
現在はシホールアンル軍が運河を管理しており、北大陸と南大陸を結ぶ要衝となっていた。
シホールアンル軍第11軍団に属する第129石甲師団は、この日の早朝から残りの部隊を輸送船で北大陸側に移送していた。
第129石甲師団第29石甲連隊の指揮官であるブリンゴ・レブルー大佐は、接岸した輸送船から桟橋に降りて来た。
「連隊長。師団では我が連隊がこっち側に移送するのみとなりましたね。」
「ああ。午前中には終わる予定だ。」
「ああ。午前中には終わる予定だ。」
レブルー大佐はその言葉に頷きながら、北マルヒナス港と呼ばれた港を見回した。
北マルヒナス港は、大陸の南西海岸側にあり、西には広大な海が見える。
この港には、ループレング戦線では毎日と言って良いほど飛来して来たアメリカ軍機はいない。
ピリピリとした前線に加えて、ここはのんびりとした空気が流れている。
完全に無警戒という訳ではなく、港の要所には高射砲と魔道銃が設置されている。
だが、そこに配置されている将兵は互いに雑談しあっている。
北マルヒナス港は、大陸の南西海岸側にあり、西には広大な海が見える。
この港には、ループレング戦線では毎日と言って良いほど飛来して来たアメリカ軍機はいない。
ピリピリとした前線に加えて、ここはのんびりとした空気が流れている。
完全に無警戒という訳ではなく、港の要所には高射砲と魔道銃が設置されている。
だが、そこに配置されている将兵は互いに雑談しあっている。
「南大陸とは別世界だな。」
レブルー大佐はどこか複雑な表情を浮かべて、副官にそう言った。
「ええ。何しろ、ここは後方ですからね。」
「後方・・・・か。」
「後方・・・・か。」
レブルー大佐は副官の言葉を小さく反芻する。
確かにこのマルヒナスは、今は後方である。だが、いつまで後方と言われるだろうか?
今、カレアントの戦線では、撤退の完了していない前線軍が連合軍と戦っているが、敵の激しい攻勢の前に後退を続けている。
特に、アメリカ軍側の攻勢は激烈な物で、一部の戦線ではアメリカ軍が大きく前進し、味方部隊が軍団単位で包囲されていると聞いている。
いつもなら詳細な報告も入るのだが、今分かるのはこのように、大雑把な物だけで、それも1日前、悪くて2日前の情報だ。
今現在の情報はあまり入って来ないのだ。
なかなか分かり辛い戦況だが、確実な事は敵が前進を続けていると言う事である。
敵が前進を続ければ、必然とこのマルヒナスにも迫って来る。
3ヶ月先か?それとも4ヶ月先か?
それは誰にもはっきりとは分からない。だが、遠からずこのマルヒナスにも戦火が及ぶ事は、火を見るより明らかである。
その時には、マルヒナス運河周辺は最前線と化しているであろう。
確かにこのマルヒナスは、今は後方である。だが、いつまで後方と言われるだろうか?
今、カレアントの戦線では、撤退の完了していない前線軍が連合軍と戦っているが、敵の激しい攻勢の前に後退を続けている。
特に、アメリカ軍側の攻勢は激烈な物で、一部の戦線ではアメリカ軍が大きく前進し、味方部隊が軍団単位で包囲されていると聞いている。
いつもなら詳細な報告も入るのだが、今分かるのはこのように、大雑把な物だけで、それも1日前、悪くて2日前の情報だ。
今現在の情報はあまり入って来ないのだ。
なかなか分かり辛い戦況だが、確実な事は敵が前進を続けていると言う事である。
敵が前進を続ければ、必然とこのマルヒナスにも迫って来る。
3ヶ月先か?それとも4ヶ月先か?
それは誰にもはっきりとは分からない。だが、遠からずこのマルヒナスにも戦火が及ぶ事は、火を見るより明らかである。
その時には、マルヒナス運河周辺は最前線と化しているであろう。
「持つべき物が豊富にあるという事は、本当に恐ろしい物だ。」
レブルー大佐は、自嘲じみた口調で呟いた。
「それはともかく。あとは第2から第4大隊が来るのを待つのみだな。」
レブルー大佐の指揮下にある第29石甲連隊は、彼と共に輸送船で運んできた第1大隊の他に、南側の港で待機している
残り3個大隊が船に積まれるか、積み込まれている最中である。
ちなみに、第129石甲師団の他に、第83軍団に属する第33重装騎士師団も輸送船に搭乗して、先発の2個連隊が北側に向かっている。
撤退は何ら不都合なく、順調に進んでいた。
残り3個大隊が船に積まれるか、積み込まれている最中である。
ちなみに、第129石甲師団の他に、第83軍団に属する第33重装騎士師団も輸送船に搭乗して、先発の2個連隊が北側に向かっている。
撤退は何ら不都合なく、順調に進んでいた。
この時までは。
第57任務部隊第1、第2任務群から発艦した戦雷爆連合200機は、午前7時40分にマルヒナス運河より30マイル西南地点に到達した。
「こちら指揮官機。目標が見えた。そろそろ敵ワイバーンが来る頃だ。気を抜くな!」
無線機から空母フランクリンの艦爆隊長であるトミール・マシネンコ少佐の声が聞こえる。
空母イントレピッド所属VB-11の第1中隊第2小隊3番機を操縦するカズヒロ・シマブクロ2等兵曹は、緊張した表情で頷いていた。
(いよいよだ・・・・・)
内心、緊張した思いでそう呟く。
カズヒロの乗る艦爆は、最近採用されたばかりのカーチスSB2Cヘルダイバーである。
このヘルダイバーは、ドーントレスと比べるとクセが強すぎて艦爆乗りから嫌われている。
口の悪い者は、正式名称に引っ掛けてサノバビッチセカンドクラス(ろくでなしの2流機)と口汚く罵るほどである。
だが、どういう訳かカズヒロはこのヘルダイバーを気に入っていた。
勿論、最初はカズヒロも同様にヘルダイバーに対して嫌な機体と思っていたが、使い込むうちにクセに慣れ、しまいには満足に
乗りこなせるようになった。
どうしてヘルダイバーを乗りこなせる様になったか?と、話を聞いた同僚の艦爆乗り達は彼に聞きに来た。
カズヒロはその度に、
空母イントレピッド所属VB-11の第1中隊第2小隊3番機を操縦するカズヒロ・シマブクロ2等兵曹は、緊張した表情で頷いていた。
(いよいよだ・・・・・)
内心、緊張した思いでそう呟く。
カズヒロの乗る艦爆は、最近採用されたばかりのカーチスSB2Cヘルダイバーである。
このヘルダイバーは、ドーントレスと比べるとクセが強すぎて艦爆乗りから嫌われている。
口の悪い者は、正式名称に引っ掛けてサノバビッチセカンドクラス(ろくでなしの2流機)と口汚く罵るほどである。
だが、どういう訳かカズヒロはこのヘルダイバーを気に入っていた。
勿論、最初はカズヒロも同様にヘルダイバーに対して嫌な機体と思っていたが、使い込むうちにクセに慣れ、しまいには満足に
乗りこなせるようになった。
どうしてヘルダイバーを乗りこなせる様になったか?と、話を聞いた同僚の艦爆乗り達は彼に聞きに来た。
カズヒロはその度に、
「空手着と似たような物さ。」
と言った。
「道場で使っている空手着は、使いすぎた古着から新品に買い換える時がある。新品の空手着は、そりゃもう合わない物だけど、使って
いくうちに上等な稽古着になるんだ。ヘルダイバーも同じだよ。あれはあんな感じだけど、いっぱい乗れば上等な飛行機になるよ。
要するに、早く新しい“稽古着”に慣れるだけさ。」
いくうちに上等な稽古着になるんだ。ヘルダイバーも同じだよ。あれはあんな感じだけど、いっぱい乗れば上等な飛行機になるよ。
要するに、早く新しい“稽古着”に慣れるだけさ。」
このカズヒロの言葉にイントレピッドの艦爆乗り達は飛行長に訓練時間を増やして欲しいと頼み込み、これまで以上に訓練に励んだ。
それが幸いして、今では、TG57.2の中で最もヘルダイバーを使い慣れた艦爆隊として囁かれていた。
そのヘルダイバー隊が、仲間の機と共に敵地上空に辿り着いた。
それが幸いして、今では、TG57.2の中で最もヘルダイバーを使い慣れた艦爆隊として囁かれていた。
そのヘルダイバー隊が、仲間の機と共に敵地上空に辿り着いた。
「敵ワイバーン編隊発見!11時方向!」
戦闘機隊指揮官の声が聞こえて来る。
11時方向に目を向けると、そこには微かながら、小さな粒々が見えた。粒の端が上下運動している様も見て取れる。
11時方向に目を向けると、そこには微かながら、小さな粒々が見えた。粒の端が上下運動している様も見て取れる。
「制空隊は敵ワイバーンに向かう。残りは攻撃隊の周囲を守れ!」
その指示を受け取った戦闘機隊が、二手に分かれる。
一方は敵ワイバーンに向かい、もう一方は攻撃隊の周囲に張り付いた。
向かった戦闘機隊は、TG57.1のサラトガ、レキシントンのF6F32機だ。
対するワイバーンは50騎以上はいる。明らかに敵が上回っているが、空中戦が開始されると、サラトガ、レキシントン隊は
このワイバーン隊と互角の戦いを繰り広げた。
イントレピッド戦闘機隊第1中隊第2小隊の3番機を務めるケンショウ・ミヤザト2等兵曹は、サラトガ、レキシントン隊の機動を見て感嘆していた。
一方は敵ワイバーンに向かい、もう一方は攻撃隊の周囲に張り付いた。
向かった戦闘機隊は、TG57.1のサラトガ、レキシントンのF6F32機だ。
対するワイバーンは50騎以上はいる。明らかに敵が上回っているが、空中戦が開始されると、サラトガ、レキシントン隊は
このワイバーン隊と互角の戦いを繰り広げた。
イントレピッド戦闘機隊第1中隊第2小隊の3番機を務めるケンショウ・ミヤザト2等兵曹は、サラトガ、レキシントン隊の機動を見て感嘆していた。
「流石は、歴戦の母艦戦闘機隊だ。同じF6Fに乗ってるとは思えんな。」
彼自身、F6Fに乗って4ヶ月になり、機体を満足に使えるようになっている。
しかし、ベテランが多数を占めるサラトガ、レキシントン隊の動きは、まだ戦闘機乗りとして駆け出しのケンショウにとって驚くと同時に、
とても勉強になる物であった。
敵側よりも少ない数で、戦いを有利に進める制空隊だが、やはり全てのワイバーンを押し留める事は難しかった。
空戦域を抜け出したワイバーンの一部が、攻撃隊に向かって来た。
しかし、ベテランが多数を占めるサラトガ、レキシントン隊の動きは、まだ戦闘機乗りとして駆け出しのケンショウにとって驚くと同時に、
とても勉強になる物であった。
敵側よりも少ない数で、戦いを有利に進める制空隊だが、やはり全てのワイバーンを押し留める事は難しかった。
空戦域を抜け出したワイバーンの一部が、攻撃隊に向かって来た。
「敵ワイバーン8!攻撃隊に向かう!」
「了解!第2小隊、第3小隊、奴らを牽制しろ!」
「了解!第2小隊、第3小隊、奴らを牽制しろ!」
中隊長の指示に従って小隊長機が敵ワイバーンに向けて機首を翻す。
ケンショウも1番機、2番機に続いて愛機を敵に向けた。
高度4000ほどの所で、こちらと同様の単横陣で左右の翼を上下させながら、急激に距離を詰めるワイバーンが見えた。
数は8騎。普段は冷静で知られるケンショウも、初の実戦とあって緊張している。
ケンショウも1番機、2番機に続いて愛機を敵に向けた。
高度4000ほどの所で、こちらと同様の単横陣で左右の翼を上下させながら、急激に距離を詰めるワイバーンが見えた。
数は8騎。普段は冷静で知られるケンショウも、初の実戦とあって緊張している。
「道場で初めて、相手と試合するみたいだ。」
彼はそう思った。
いや、あの時と同様に、今日は大空と言う名の道場で初めて敵と戦うのだ。緊張しない方がおかしいであろう。
ワイバーンとの距離はみるみる縮まって来る。
目測で右斜めの小隊長機が敵ワイバーンの先頭と800ほどに距離を詰められた時、双方が同時に光弾と機銃弾を放った。
初めて見る鮮やかな色の光弾が小隊長機に刺さるかと見えたが、辛うじて左に逸れる。
小隊長機の機銃弾も同様に敵ワイバーンの右横を掠めていく。
ケンショウはそれを横目で見ながら、狙いを付けた先頭から3番目のワイバーンに向けて機銃を撃った。
ドダダダダダ!というリズミカルな音と共に機体が振動し、6本の曳光弾が敵ワイバーンに注がれる。
だが、射弾は敵ワイバーンの上方を飛び抜けていった。
いや、あの時と同様に、今日は大空と言う名の道場で初めて敵と戦うのだ。緊張しない方がおかしいであろう。
ワイバーンとの距離はみるみる縮まって来る。
目測で右斜めの小隊長機が敵ワイバーンの先頭と800ほどに距離を詰められた時、双方が同時に光弾と機銃弾を放った。
初めて見る鮮やかな色の光弾が小隊長機に刺さるかと見えたが、辛うじて左に逸れる。
小隊長機の機銃弾も同様に敵ワイバーンの右横を掠めていく。
ケンショウはそれを横目で見ながら、狙いを付けた先頭から3番目のワイバーンに向けて機銃を撃った。
ドダダダダダ!というリズミカルな音と共に機体が振動し、6本の曳光弾が敵ワイバーンに注がれる。
だが、射弾は敵ワイバーンの上方を飛び抜けていった。
「外した!」
彼はしまったと思った。ワイバーンの光弾が向かって来た。
ケンショウは、その光弾の嵐が全て自分に当たるかと思い、思わず目をつぶろうとするが寸での所で耐える。
機体の両脇を緑色の光弾がヒュンヒュンと音を立てながら通り過ぎる。
ガン!と機体が1度だけ振動する。ケンショウのF6Fを、狙ったワイバーンがすぐ上を飛び抜けていく。
ケンショウは気付かなかったが、この直後、第3小隊2番機の機銃弾が1騎のワイバーンを捉えた。
12.7ミリ機銃6丁の弾幕射撃を受けたワイバーンが、未だに充分とは言えぬ防御結界を突き破られて、顔面や胴体部分に被弾する。
御者たる竜騎士も、胸のど真ん中に12.7ミリ弾を受けて激痛を感じた瞬間に意識を暗転させた。
そのワイバーンは、すぐに首を真下に向けて海面に向かって言った。
牽制に出た第2、第3小隊が撃墜できたのはこの1騎のみであった。
ケンショウはワイバーンが通り過ぎた後、すぐに後ろを振り返った。F6Fの後方視界はあまり良くない。
ファストバック式のコクピットは座席の後ろが機体の構造物にくっついている為、後ろに回り込まれると視界が遮られる。
ケンショウもまた、敵ワイバーンの行方を見ようとしたが、最後まで分からなかった。
だが、敵ワイバーンが視界から消え去る直前、一瞬敵が反転したように見えた。
ケンショウは、その光弾の嵐が全て自分に当たるかと思い、思わず目をつぶろうとするが寸での所で耐える。
機体の両脇を緑色の光弾がヒュンヒュンと音を立てながら通り過ぎる。
ガン!と機体が1度だけ振動する。ケンショウのF6Fを、狙ったワイバーンがすぐ上を飛び抜けていく。
ケンショウは気付かなかったが、この直後、第3小隊2番機の機銃弾が1騎のワイバーンを捉えた。
12.7ミリ機銃6丁の弾幕射撃を受けたワイバーンが、未だに充分とは言えぬ防御結界を突き破られて、顔面や胴体部分に被弾する。
御者たる竜騎士も、胸のど真ん中に12.7ミリ弾を受けて激痛を感じた瞬間に意識を暗転させた。
そのワイバーンは、すぐに首を真下に向けて海面に向かって言った。
牽制に出た第2、第3小隊が撃墜できたのはこの1騎のみであった。
ケンショウはワイバーンが通り過ぎた後、すぐに後ろを振り返った。F6Fの後方視界はあまり良くない。
ファストバック式のコクピットは座席の後ろが機体の構造物にくっついている為、後ろに回り込まれると視界が遮られる。
ケンショウもまた、敵ワイバーンの行方を見ようとしたが、最後まで分からなかった。
だが、敵ワイバーンが視界から消え去る直前、一瞬敵が反転したように見えた。
「まさか!」
ケンショウがそう呟いた時、急に殺気を感じた。慌てて機体を右旋回させた。
機体が旋回を始めたその直後、尾翼をワイバーンの光弾が何発も通り過ぎていった。
「ケンショウ!後ろにワイバーンだ!!」
4番機であるジムル・フランキー2等兵曹の声がレシーバーから流れた。
「そのまま逃げろ!いつものウィーブだ!」
「OK!俺を間違えて撃つなよ!」
「OK!俺を間違えて撃つなよ!」
ケンショウはそう言いながら、後ろにワイバーンを張り付かせたまま、ロールや蛇行を繰り返す。
ワイバーンの光弾がケンショウのF6Fに向かって来るが、重そうな割に意外と巧みな機動を見せるF6Fに、光弾は空しく空を切るだけだ。
ケンショウが愛機を右に捻って、敵ワイバーンの6撃目を避けた瞬間、いきなり右側面に光弾よりも大きな火の玉が通り過ぎていった。
ワイバーンの光弾がケンショウのF6Fに向かって来るが、重そうな割に意外と巧みな機動を見せるF6Fに、光弾は空しく空を切るだけだ。
ケンショウが愛機を右に捻って、敵ワイバーンの6撃目を避けた瞬間、いきなり右側面に光弾よりも大きな火の玉が通り過ぎていった。
「早く撃て!」
ケンショウは大声で、ワイバーンの後ろにいるであろうジムル機に言った。
「こっちは焼き鳥になりたくないんだ!」
「言われなくても、そうするぜ!」
「言われなくても、そうするぜ!」
ワイバーンの第7撃を際どい所で避けた直後、急に後ろが静かになった。寒気のような殺気も感じなくなった。
「1丁あがり!シホットは真っ逆さまに落ちていったぞ。」
「ふぅ~。どうも。」
「それにしても、避けるの上手かったな。今にも光弾が当たりそうなのに、ヒョイヒョイ避けやがる。」
「そうかな?俺としてはあまり上手くは無いと思ったけど。火の玉を撃たれる始末だし。」
「いやいや、冗談抜きでよかった。流石は空手家だ、フットワークが軽いぜ。」
「ふぅ~。どうも。」
「それにしても、避けるの上手かったな。今にも光弾が当たりそうなのに、ヒョイヒョイ避けやがる。」
「そうかな?俺としてはあまり上手くは無いと思ったけど。火の玉を撃たれる始末だし。」
「いやいや、冗談抜きでよかった。流石は空手家だ、フットワークが軽いぜ。」
同僚の言葉を、ケンショウは苦笑しながら聞いた。
「まっ、組手やってる時にも似たような事は言われたよ。」
「そうか。なら今度からお前は引き付け役だな。」
「そうか。なら今度からお前は引き付け役だな。」
ジムルが笑いながらそう言ったとき、
「敵は追い払った。全機定位置に戻れ。」
小隊長機の声がレシーバーから響いて来た。
ケンショウは4番機と共に機体を翻し、攻撃隊の元に戻っていった。
ケンショウは4番機と共に機体を翻し、攻撃隊の元に戻っていった。
敵ワイバーンの迎撃はF6F隊でなんとか食い止める事が出来た。
やがて、攻撃隊に出番が回って来た。
マルヒナス運河まであと10マイルを切った時、攻撃目標の割り当てが行われた。
やがて、攻撃隊に出番が回って来た。
マルヒナス運河まであと10マイルを切った時、攻撃目標の割り当てが行われた。
「TG57.1は運河の北港及び在泊艦船。TG57.2は南港及び航行中、在泊艦船を攻撃せよ。」
攻撃隊指揮官の指示通りに、攻撃隊は大きく二手に分かれた。
5分後、南港と、運河を北に航行する10隻ほどの輸送船が見えて来た。
5分後、南港と、運河を北に航行する10隻ほどの輸送船が見えて来た。
「これより攻撃目標を知らせる。フランクリン隊は航行中の敵輸送船及び軍港。イントレピッド、バンカーヒル隊は港湾施設を攻撃せよ!」
「了解!」
「了解!」
カズヒロはマイクに向かってそう答えた。
フランクリン隊の半数に当たる数のアベンジャー、ヘルダイバーが眼下を航行する敵輸送船団に襲い掛かっていく。
残りはそのまま、軍港上空に向かった。軍港までもう少しの所に近付くと、突然高射砲弾が攻撃隊の周りで炸裂し始めた。
フランクリン隊の半数に当たる数のアベンジャー、ヘルダイバーが眼下を航行する敵輸送船団に襲い掛かっていく。
残りはそのまま、軍港上空に向かった。軍港までもう少しの所に近付くと、突然高射砲弾が攻撃隊の周りで炸裂し始めた。
「イントレピッド艦爆隊は南端の倉庫を狙う。第1小隊は右から1番目、第2小隊は2番目、第3小隊は3番目、第4小隊は4番目を狙え。」
中隊長機から、更に細かい指示が下される。
周囲で高射砲弾が間断無く炸裂する。カズヒロの機体のすぐ右側で高射砲弾が炸裂し、破片が当たってカーンと鳴る。
その音にカズヒロは体を震わせる。
その音にカズヒロは体を震わせる。
「カズヒロ!ちびってねえか!?」
後部座席に座っている同僚のニュール・ロージア2等兵曹が聞いてきた。
カズヒロと同い年の白人男性だ。
この艦爆に乗ってからのペアで、既に4ヶ月ほどの付き合いだが、今ではお互いすっかり気心の知れた仲となっている。
カズヒロと同い年の白人男性だ。
この艦爆に乗ってからのペアで、既に4ヶ月ほどの付き合いだが、今ではお互いすっかり気心の知れた仲となっている。
「ちょっとだけパンツ漏らしたぜ。ニュール、お前は!?」
「俺もさ!」
「俺もさ!」
そう言って、ロージア2等兵曹は笑って答えた。
「先輩はちびってこそ1人前と言ったからな。これで俺達も1人前になった訳だ!」
「そうかもしれんな!」
「そうかもしれんな!」
エンジンの轟音と、周りで発せられる炸裂音のため、会話は互いに怒鳴りあう格好となっている。(そうしなければ話が伝わらない)
先発の第1小隊が目標地点上空に達し、次々と急降下に移っていく。
それから10秒後に、第2小隊も小隊長機が急降下に移り始めた。
先発の第1小隊が目標地点上空に達し、次々と急降下に移っていく。
それから10秒後に、第2小隊も小隊長機が急降下に移り始めた。
「さて、今度は1人前となった腕前を、敵さんに披露するぞ!」
「おう!」
「おう!」
カズヒロの言葉に、ニュールが意気込んだ口調で答えた。
2番機が降下を始めてから6秒ほどが経って、カズヒロは機体を左に傾ける。
くるりと左に一回点しながら、機首は目標となる大きめの倉庫に向けられた。
急降下の際に伴うGが、徐々に体を座席に押し込んでいく。訓練で慣れた筈のGだが、今日に限って一際きつく感じる。
高射砲弾がヘルダイバーの周囲で炸裂する。対空砲火の密度はなかなかに厚い。
2番機が降下を始めてから6秒ほどが経って、カズヒロは機体を左に傾ける。
くるりと左に一回点しながら、機首は目標となる大きめの倉庫に向けられた。
急降下の際に伴うGが、徐々に体を座席に押し込んでいく。訓練で慣れた筈のGだが、今日に限って一際きつく感じる。
高射砲弾がヘルダイバーの周囲で炸裂する。対空砲火の密度はなかなかに厚い。
出撃前のブリーフィングで、マルヒナス運河周辺には強力な対空部隊が駐屯していると聞いている。
その対空部隊が、いきなり襲って来たアメリカ軍機に向けて必死に撃ちまくっているのだ。
その対空部隊が、いきなり襲って来たアメリカ軍機に向けて必死に撃ちまくっているのだ。
「3200・・・・3000・・・・2800・・・・」
後部座席のニュールが機械的な口調で高度計を読み上げる。高度計の針はぐるぐると回り続け、表示される数字は下がる一方だ。
主翼に取り付けられているダイブブレーキが展開され、ドーントレスが発する物と同じような音が、次第に甲高く鳴る。
小隊長機が爆弾を落とした。そのまま小隊長機は機体を水平に起こす。小隊長機の爆弾が、巨大な倉庫の右端側に落下した。
炸裂の瞬間、倉庫の天井が被弾部から波打つようにたわんだ。
2番機が、光弾の嵐中爆弾を投下した。その直後、一条の光弾がコクピットを薙ぎ払った。
パイロット2名を瞬時に射殺されたヘルダイバーが、そのまま倉庫に向かう。
投下した爆弾が倉庫の左脇に外れて、対空陣地を吹き飛ばしたのみに終始するが、投下した張本人であるヘルダイバーが倉庫に突入した。
投下した爆弾よりも、投下を行ったヘルダイバーが目標に損害を与えると言う皮肉な結果になったが、この体当たりで倉庫内の木箱が多数破壊され、
中身がゴミ同然の代物に還元された。
主翼に取り付けられているダイブブレーキが展開され、ドーントレスが発する物と同じような音が、次第に甲高く鳴る。
小隊長機が爆弾を落とした。そのまま小隊長機は機体を水平に起こす。小隊長機の爆弾が、巨大な倉庫の右端側に落下した。
炸裂の瞬間、倉庫の天井が被弾部から波打つようにたわんだ。
2番機が、光弾の嵐中爆弾を投下した。その直後、一条の光弾がコクピットを薙ぎ払った。
パイロット2名を瞬時に射殺されたヘルダイバーが、そのまま倉庫に向かう。
投下した爆弾が倉庫の左脇に外れて、対空陣地を吹き飛ばしたのみに終始するが、投下した張本人であるヘルダイバーが倉庫に突入した。
投下した爆弾よりも、投下を行ったヘルダイバーが目標に損害を与えると言う皮肉な結果になったが、この体当たりで倉庫内の木箱が多数破壊され、
中身がゴミ同然の代物に還元された。
「800!」
ニュールの声を聞いたカズヒロは、2番機の散華に心を痛める暇も無く、手馴れた手付きで爆弾を投下した。
開かれた胴体内から1000ポンド爆弾が落とされた。その次に、カズヒロは機体を引き起こしにかかった。
目一杯力を入れて操縦桿を手前に引く。物凄いGが体に圧し掛かり、意識が飛びかけるが、カズヒロはそれに耐え続けた。
高度300で水平飛行に移った時、カズヒロの放った1000ポンド爆弾が倉庫のど真ん中に突き刺さって、派手に爆炎を吹き上げていた。
開かれた胴体内から1000ポンド爆弾が落とされた。その次に、カズヒロは機体を引き起こしにかかった。
目一杯力を入れて操縦桿を手前に引く。物凄いGが体に圧し掛かり、意識が飛びかけるが、カズヒロはそれに耐え続けた。
高度300で水平飛行に移った時、カズヒロの放った1000ポンド爆弾が倉庫のど真ん中に突き刺さって、派手に爆炎を吹き上げていた。
「よっしゃあ!爆弾命中だ!」
「命中したか!」
「命中したか!」
カズヒロはニュールに聞いた。
「ああ。命中したぜ!屋根が吹っ飛んでたよ。これでロージア様の勝ちだぜ!」
「おいおい。お前1人じゃなくて、俺も含めろよ!」
「おいおい。お前1人じゃなくて、俺も含めろよ!」
初戦果に舞い上がる同僚に対して、カズヒロは苦笑しながら注意した。
シホールアンル第129石甲師団第29石甲連隊に属する第3大隊は、大型輸送船に乗せられて運河の北側に向かっていたが、
「左舷上方アメリカ軍機!突っ込んで来る!」
船員の叫び声によって、安堵の表情を浮かべていた将兵は誰もが顔を真っ青に染めた。
先頭を行く輸送船に、2、3機ほどのアメリカ軍機が甲高い轟音を鳴らせながら、真一文字に急降下していく。
輸送船は狙いを外そうと、左に舵を切ったが、回頭する速さは、軍艦と比べると悲しくなるほど遅い。
申し訳程度に装備された魔道銃が放たれるが、アメリカ軍機を落とす事が出来ない。
低高度まで接近したアメリカ軍機が胴体から爆弾を投下する。
爆弾は回頭中の輸送船に命中した。
命中箇所は船首で、薄い木の装甲を突き破った爆弾が難なく船倉にまで押し入り、炸裂した。
その船は、第33重装騎士師団の将兵が乗っていたが、これだけで戦死者12名、負傷者20名を出した。
息着く暇も無く、2番機が投弾する。
この投弾は、輸送船の左舷部分に至近弾となって、高々と海水を跳ね上げたが、水中爆発の衝撃は装甲の張られていない船腹に穴を開け、
大量の海水が船内に流れ込んできた。
3発目は船の中央部に命中し、屹立したマストが爆炎と共に砕け散り、中央部が大きく盛り上がった。
2発の命中弾と1発の至近弾で、この輸送船は大火災を起こし、間も無く停止した。
その次に別の輸送船が襲撃される。この輸送船もまた、同じ第33重装騎士師団を乗せた船であったが、この船は低空から襲撃された。
海面スレスレにしたい寄って来るズングリした3機のアメリカ軍機は、輸送船のつたない対空砲火をあっさり掻い潜って、至近距離で魚雷を投下した。
鈍足の輸送船がすぐに回頭できる筈も無く、左舷に3本の魚雷を受けた。
魚雷が命中した直後、輸送船は10秒ほどで停止し、5分後に転覆してしまった。
先頭を行く輸送船に、2、3機ほどのアメリカ軍機が甲高い轟音を鳴らせながら、真一文字に急降下していく。
輸送船は狙いを外そうと、左に舵を切ったが、回頭する速さは、軍艦と比べると悲しくなるほど遅い。
申し訳程度に装備された魔道銃が放たれるが、アメリカ軍機を落とす事が出来ない。
低高度まで接近したアメリカ軍機が胴体から爆弾を投下する。
爆弾は回頭中の輸送船に命中した。
命中箇所は船首で、薄い木の装甲を突き破った爆弾が難なく船倉にまで押し入り、炸裂した。
その船は、第33重装騎士師団の将兵が乗っていたが、これだけで戦死者12名、負傷者20名を出した。
息着く暇も無く、2番機が投弾する。
この投弾は、輸送船の左舷部分に至近弾となって、高々と海水を跳ね上げたが、水中爆発の衝撃は装甲の張られていない船腹に穴を開け、
大量の海水が船内に流れ込んできた。
3発目は船の中央部に命中し、屹立したマストが爆炎と共に砕け散り、中央部が大きく盛り上がった。
2発の命中弾と1発の至近弾で、この輸送船は大火災を起こし、間も無く停止した。
その次に別の輸送船が襲撃される。この輸送船もまた、同じ第33重装騎士師団を乗せた船であったが、この船は低空から襲撃された。
海面スレスレにしたい寄って来るズングリした3機のアメリカ軍機は、輸送船のつたない対空砲火をあっさり掻い潜って、至近距離で魚雷を投下した。
鈍足の輸送船がすぐに回頭できる筈も無く、左舷に3本の魚雷を受けた。
魚雷が命中した直後、輸送船は10秒ほどで停止し、5分後に転覆してしまった。
「こっちに向かって来るぞ!」
誰かが悲鳴じみた声を上げた。第3大隊が乗る輸送船上空に、3機のアメリカ軍機が航空から逆落としに突っ込んで来る。
聞いた事も無い甲高い轟音に、甲板に居た将兵達は思わず耳をふさいだ。
船首と船尾に設けられた魔道銃計4丁が狂ったように撃ちまくるが、その光弾はあさっての方角に向かっている。
聞いた事も無い甲高い轟音に、甲板に居た将兵達は思わず耳をふさいだ。
船首と船尾に設けられた魔道銃計4丁が狂ったように撃ちまくるが、その光弾はあさっての方角に向かっている。
「馬鹿野朗!ちゃんと狙え!」
大隊の兵から、下手糞な射撃をする船員に向かって罵声が上がるが、その罵声も木霊するダイブブレーキの音に掻き消されて伝わらない。
あっと言う間に1番機が爆弾を投下して来た。爆弾が船の後部分に落下し、その1秒後に命中箇所から派手に爆炎と、砕けた甲板の板材が舞い上がった。
2発目が中央部の船橋に命中して、船長以下、主要要員がひとしなみに爆砕された。
続けて3発目が船首に突き刺さり、深部の船倉まで達してから炸裂した。
船倉には、大隊のキリラルブスが大事に保管されていたが、この爆発によって3体が破壊され、2体が損傷した。
被弾部から発生した火災が次第に拡大し始めた。
船員は第3大隊将兵の助けを借りながら、必死に消火を続けたが、火災はなかなか衰えず、輸送船からは濛々たる黒煙が吹き上がっていた。
あっと言う間に1番機が爆弾を投下して来た。爆弾が船の後部分に落下し、その1秒後に命中箇所から派手に爆炎と、砕けた甲板の板材が舞い上がった。
2発目が中央部の船橋に命中して、船長以下、主要要員がひとしなみに爆砕された。
続けて3発目が船首に突き刺さり、深部の船倉まで達してから炸裂した。
船倉には、大隊のキリラルブスが大事に保管されていたが、この爆発によって3体が破壊され、2体が損傷した。
被弾部から発生した火災が次第に拡大し始めた。
船員は第3大隊将兵の助けを借りながら、必死に消火を続けたが、火災はなかなか衰えず、輸送船からは濛々たる黒煙が吹き上がっていた。
午前10時 マルヒナス運河北港
「・・・・・何たる事だ・・・・」
レブルー大佐は、すっかり変わり果てた港を見て愕然とした。
港には、大小20隻ほどの輸送船がおり、多数の倉庫が立ち並んでいた。桟橋には南大陸へ運ばれる予定であった大量の補給物資が山積みにされていた。
その量は、この港にあるだけで1個軍団を1ヶ月間食わせていけるほどであった。
この補給物資を、南大陸で凄絶な後退戦を繰り広げる前線軍に送り届けるはずであった。
だが、突然やって来たアメリカ軍機がこの港を無残に破壊してしまった。
倉庫群は全体の3分の1ほどが叩き潰され、桟橋や沖に停泊していた輸送船は8隻が沈没し、4隻が大破炎上している。
山積みにされた補給物資は、8割が焼き打ちに合ってしまった。
被害はこの北港のみではない。
運河を航行していた輸送船団には20機程のアメリカ軍機が押し寄せ、4隻が撃沈され、3隻が損傷を受けて、撤退中であった
第33重装騎士師団は1個連隊を丸ごと失い、第129石甲師団も1個大隊近い兵力を運河に叩き沈められた。
南港もまた、北港同様激しい空襲を受け、これから送られる予定であった補給物資は大半が焼かれ、輸送船も5隻が沈没した。
アメリカ軍機の2度に渡る空襲で、マルヒナス運河西側の交通路は半壊状態に陥った。
港には、大小20隻ほどの輸送船がおり、多数の倉庫が立ち並んでいた。桟橋には南大陸へ運ばれる予定であった大量の補給物資が山積みにされていた。
その量は、この港にあるだけで1個軍団を1ヶ月間食わせていけるほどであった。
この補給物資を、南大陸で凄絶な後退戦を繰り広げる前線軍に送り届けるはずであった。
だが、突然やって来たアメリカ軍機がこの港を無残に破壊してしまった。
倉庫群は全体の3分の1ほどが叩き潰され、桟橋や沖に停泊していた輸送船は8隻が沈没し、4隻が大破炎上している。
山積みにされた補給物資は、8割が焼き打ちに合ってしまった。
被害はこの北港のみではない。
運河を航行していた輸送船団には20機程のアメリカ軍機が押し寄せ、4隻が撃沈され、3隻が損傷を受けて、撤退中であった
第33重装騎士師団は1個連隊を丸ごと失い、第129石甲師団も1個大隊近い兵力を運河に叩き沈められた。
南港もまた、北港同様激しい空襲を受け、これから送られる予定であった補給物資は大半が焼かれ、輸送船も5隻が沈没した。
アメリカ軍機の2度に渡る空襲で、マルヒナス運河西側の交通路は半壊状態に陥った。
「もはや、ここも安全な後方ではなくなったか。」
レブルー大佐は、深いため息を吐きながらそう言った。
ふと、彼は空襲後の後片付けに入るマルヒナス駐屯兵に目をやる。
ふと、彼は空襲後の後片付けに入るマルヒナス駐屯兵に目をやる。
つい数時間前まで、安全な後方だと思い、のんびりとしていた彼ら。
その彼らは、今では緊張に顔を青ざめ、不自然に目をぎらつかせていた。
隅では、時折うずくまって体を震わせている兵が目に付く。
その彼らは、今では緊張に顔を青ざめ、不自然に目をぎらつかせていた。
隅では、時折うずくまって体を震わせている兵が目に付く。
「マルヒナス駐屯の兵は、前線軍と違って戦場に慣れていない召集兵が多いと聞いています。」
副官がレブルー大佐に言ってきた。
「彼らも、アメリカ軍の事は多少耳にしていたようですが・・・・・聞く事と、実際に体験して見るとでは、大きく違いますからな。」
「確かにな。」
「確かにな。」
レブルー大佐は深く頷いた。
南大陸戦線でアメリカ軍機は、空襲の最中に逃げ惑う味方兵を散々追い回しては機銃掃射を加えたりしている。
今日起こったこの空襲でも、アメリカ軍機は対空陣地や、慌てて逃げる味方兵に向かって機銃弾を浴びせまくった。
アメリカ軍機の空襲を初めて体験する者であれば、爆弾を叩き付けた上に味方をばたばた撃ち倒すアメリカ軍機を悪魔の類と
同等に思う事は、仕方の無い事であった。
南大陸戦線でアメリカ軍機は、空襲の最中に逃げ惑う味方兵を散々追い回しては機銃掃射を加えたりしている。
今日起こったこの空襲でも、アメリカ軍機は対空陣地や、慌てて逃げる味方兵に向かって機銃弾を浴びせまくった。
アメリカ軍機の空襲を初めて体験する者であれば、爆弾を叩き付けた上に味方をばたばた撃ち倒すアメリカ軍機を悪魔の類と
同等に思う事は、仕方の無い事であった。
「これで、ここも安全地帯ではなくなった訳だ。」
レブルー大佐は、悲しげな表情を浮かべながら、破壊された北港を見回す。
「だが、悪い事はこれだけではない。」
彼は副官に向き直った。
「送られる筈であった物資が、敵の奇襲によって大半が失われた今。南大陸軍、特にカレアントの前線軍は、ここが満足に使えぬ限り、
以前よりも格段に細くなった補給線を頼りに敵と戦わねばならない。恐らく、カレアントの前線軍は敵の圧力の上に、補給に悩まされ
ながら戦う事になるだろう。」
以前よりも格段に細くなった補給線を頼りに敵と戦わねばならない。恐らく、カレアントの前線軍は敵の圧力の上に、補給に悩まされ
ながら戦う事になるだろう。」
彼がそう言った時、またもや空襲警報が鳴り響いた。
レブルー大佐と副官は、無意識のうちに西の空を見ていた。
この時点で、彼らは運河の東にもアメリカ軍機の大群が現れた事を知らなかった。
レブルー大佐と副官は、無意識のうちに西の空を見ていた。
この時点で、彼らは運河の東にもアメリカ軍機の大群が現れた事を知らなかった。
午後4時20分 シホールアンル帝国首都 ウェルバンル
「・・・・・・なあ。これは嘘ではないよな?」
シホールアンル帝国皇帝オールフェス・リリスレイは、陸軍総司令官であるギレイル元帥から2通の報告書を渡され、それを読み終わっていた。
「嘘ではありません。これは、マルヒナス運河駐屯部隊からの緊急信です。」
「そうか・・・・・・」
「そうか・・・・・・」
そう言うなり、オールフェスががっくりと肩を落とした。
「アメリカってどうして、こんな上手い事が出来るのかなぁ・・・・・」
北大陸と南大陸を繋ぐ要であるマルヒナス運河は、突然アメリカ機動部隊の空襲を受けた。
最初に空襲を受けたのは運河の西側であり、ここには3波400~500機ほどのアメリカ軍機が襲い掛かった。
東側には2波300機のアメリカ軍機が来襲し、西、東側共に多数の輸送船と、補給物資を失った。
特に西側では撤退中の部隊も輸送船上で空襲を受け、かなりの数の兵が死傷したようだ。
被害の正確な内容は分からないが、暫定報告では戦死傷者2000~4000人以上。
沈没した輸送船17隻、損傷9隻、港に集積していた補給物資の半数から7割ほどが失われたとある。
唯一、運河の中央部だけは被害を免れ、ここから繋がる補給線は生きているから、南大陸への物資の供給は絶える事は無い。
だが、現時点で南大陸への輸送路が壊滅した事は間違いなかった。
最初に空襲を受けたのは運河の西側であり、ここには3波400~500機ほどのアメリカ軍機が襲い掛かった。
東側には2波300機のアメリカ軍機が来襲し、西、東側共に多数の輸送船と、補給物資を失った。
特に西側では撤退中の部隊も輸送船上で空襲を受け、かなりの数の兵が死傷したようだ。
被害の正確な内容は分からないが、暫定報告では戦死傷者2000~4000人以上。
沈没した輸送船17隻、損傷9隻、港に集積していた補給物資の半数から7割ほどが失われたとある。
唯一、運河の中央部だけは被害を免れ、ここから繋がる補給線は生きているから、南大陸への物資の供給は絶える事は無い。
だが、現時点で南大陸への輸送路が壊滅した事は間違いなかった。
「復旧にはどれぐらいかかりそうだ?」
オールフェスは、陰鬱とした口調でギレイル元帥に聞いた。ギレイル元帥は体を震わせながらも、口を開いた。
「幸いにも、資材は充分にありますので、2ヶ月から、遅くても4ヶ月で復旧は可能です。」
「その間、南大陸への物資供給量は、運河が空襲される前までと比べて何割減になる?」
「は・・・・・恐らく、良くて4割減。悪くて6割に達するかと・・・・・」
「そうか。」
「その間、南大陸への物資供給量は、運河が空襲される前までと比べて何割減になる?」
「は・・・・・恐らく、良くて4割減。悪くて6割に達するかと・・・・・」
「そうか。」
オールフェスはゆっくりと頷いた。割り当ての輸送船を新しく手配するには、やたらと時間がかかる。
それに加え、大量の物資が置けるように港を整備するまでの時間もかかる。
その間、カレアントの前線軍は細くなった補給線を頼りに、これから敵と戦う事になる。
それに加え、大量の物資が置けるように港を整備するまでの時間もかかる。
その間、カレアントの前線軍は細くなった補給線を頼りに、これから敵と戦う事になる。
「下がっていいぜ。」
オールフェスは払いのける様に手を振った。ギレイル元帥は畏まった表情で一礼すると、王の間から出て行った。
「これは・・・・・急ぎ過ぎた罰なのか・・・・?」
オールフェスは、天井を上向いてそう呟いた。誰も居るはずの無い天井。
しかし、彼の脳裏には、この戦争を始める事を決意させたある男が浮かんでいた。
しかし、彼の脳裏には、この戦争を始める事を決意させたある男が浮かんでいた。
「死んだお前なら・・・・・この状況をどう打開する?」
オールフェスは虚ろな口調で問うた。
だが、彼の虚ろな問いは、いつまで経っても返される事はなかった。
だが、彼の虚ろな問いは、いつまで経っても返される事はなかった。