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107 第86話 ルーズベルトの考え

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第86話 ルーズベルトの考え

1483年(1943年)10月2日 午前8時ヴィルフレイング沖北東90マイル地点

第58任務部隊第2任務群は、ヴィルフレイングの沖で給油艦部隊との会合を行っていた。
給油の順番は、燃料搭載量の少ない駆逐艦からだ。
その間、巡洋艦や空母、戦艦といった大型艦、中型艦は、給油艦群の周囲をぐるぐる回り続けている。
第5艦隊の総旗艦である重巡洋艦インディアナポリスは、TG58.2で唯一の正規空母となったエセックスの後方
400メートルに付きながら、給油艦と駆逐艦群の周囲をぐるりと回り続けていた。
上空には、対潜哨戒用のアベンジャーが20機ほど、周囲の海面に睨みを利かせている。
そのインディアナポリスの作戦室内では、第5艦隊司令部の幕僚達が詰めていたが、室内の空気はどこか重苦しかった。

「軽巡ボイス、駆逐艦シュバリエ、ガードナーが沈没か・・・・・・」

第5艦隊司令長官である、レイモンド・スプルーアンス中将は、噛み締めるような口調で沈没艦の名を呟いた。

「計3隻が沈没。一方、敵艦隊に与えた損害は、撃沈が巡洋艦2隻に駆逐艦が3から4隻と見積もられている。沈没艦を見る限り、勝ったと思いそうだが。」

スプルーアンスは作戦地図に視線を向けた。テーブルに敷かれている地図には、青い小さな駒と、大きい駒が会同している。
小さい駒は、昨日、輸送船団攻撃の任を受けて敵に向かっていった第61任務部隊第3任務群であり、大きい駒は第57任務部隊である。
TG61.3は、TF57となんとか合流を果たせた。本当ならば、この合流は素直に喜ぶべきであろう。
だが、TG61.3は目標である敵船団に辿り着く前に、敵護衛艦隊と激しい戦闘の末に撃退され、命からがら逃げ帰ってきたのである。
TG61.3司令官のウォルデン・エインスウォース少将は、大破した旗艦ブルックリン艦上で負傷し、今も生死の境を彷徨っていると言う。
艦隊の任務不達成の上の撤退。それに加えての司令官の負傷。
味方艦隊の明らかな敗北である。
スプルーアンスは視線を青い駒から、赤い駒に移す。その赤い駒は、シホールアンル艦隊を示している。
本来ならば、その赤い駒は元来た道を戻っている筈であった。
だが、現実には元来た道に戻る事無く、無事にマルヒナス運河に辿り着こうとしている。

「TF57のフィッチ司令官からは、機動部隊の艦載機で、敵船団を叩く旨が報告されています。」
「少しばかり失礼しますが、TF57の航空兵力ではマルヒナス運河空襲を行うのは難しいと思われます。」

フォレステル大佐が報告した後、急にバルランド側の連絡員であるヴェルプ・カーリアン魔道士が口を挟んできた。

「マルヒナス運河にいるスパイからの最新情報では、ここ2日ほどで、マルヒナス常駐のワイバーン部隊が300騎以上増勢
されたと報告されています。その3分の1が西側に配備されるとして、現在判明しているマルヒナス西側のワイバーン部隊は
200騎以上。その200騎に、新たなワイバーンが100騎も加わります。そして、シホールアンル側のワイバーンはこの
陸軍部隊のワイバーン部隊ではなく、敵機動部隊が保有するワイバーン部隊も加わります。このような状況下で爆撃を強行すれば、
TF57に甚大な被害が及びかねません。」
「カーリアン魔道士。それは確かな情報かね?」

ムーア参謀長の質問に、ヴェルプは深く頷いた。

「30分前に本国から入った情報です。」
「なるほど。とすると、マルヒナスに展開する敵のワイバーンは、総計で900以上。対して、TF57の戦力は正規空母5隻に
軽空母3隻に積んでいる艦載機、約600・・・・いくら新鋭機を揃えている我が機動部隊とはいえ、こんなに差をつけられては
少々厳しい物があるな。」

スプルーアンスは腕を組みながらそう言った。
ヴェルプの言ったスパイ情報は事実である。
シホールアンル陸軍は、占領地であるヒーレリ公国等から、余剰のワイバーン部隊を北大陸南部及び南大陸北部に補充として送り込んでいた。
当然、マルヒナス運河にも補充の部隊は送られた。
9月に行われたTF57による空襲で、消耗していた現地のワイバーン部隊もこの補充によって戦力はほぼ元通りとなっていた。
シホールアンル側の戦力増強はワイバーンのみならず、新配備の戦闘飛空挺や攻撃飛空挺に対しても行われ、マルヒナス運河には、
新たに第2戦闘隊と名付けられた飛空挺部隊、約74機が配備され、迫り来るであろう米機動部隊の攻撃に備えていた。

「しかし長官。ここで一挙に敵船団共々、敵機動部隊も葬り去ってしまえば、後の戦争ではかなり楽になります。」

フォレステル大佐がスプルーアンスに食って掛かった。

「確かに敵に戦力差は付けられていますが、機体性能では我が機動部隊の艦載機が上です。それに、敵ワイバーン部隊が大空襲を仕掛けても、
わが機動部隊の対空火力は強力」
「強力ではなくなったのだ。これが。」

スプルーアンスはフォレステル大佐の言葉を遮った。

「昨日の海戦で、我々は軽巡ボイスと駆逐艦2隻を失った。沈没艦はたったの3隻だが、損傷艦はかなり多い。攻撃部隊主力のTG61.3では、
軽巡洋艦ブルックリン、フィラデルフィアが大破。フェニックスが中破している。それに加え、TF57から貸し与えた軽巡のコロンビアと
サンアントニオがこれまた大破している。君らはまだ報告書を深く読んでおらんようだが、コロンビアとサンアントニオはまともに対空防御が
出来ない状態までに痛めつけられている。」

スプルーアンスは、作戦室に詰めている幕僚たちの顔を見回しながら言葉を続ける。

「TF57は、巡洋艦の必要数を満たしていない。本来ならば、1個任務群につき5隻か、6隻の巡洋艦が必要だ。だが、今ではこの2個任務群は
貴重な巡洋艦を潰されてしまった。特にTG57.1は深刻だろう。なにしろ、重巡2隻は対空火力が強化されているとはいえ、それでも対空防御が
不充分と報告されている条約型巡洋艦だ。そして、本来ならばその重巡を影で支えるはずのクリーブランド級軽巡が2隻。そのうちの1隻は
サンアントニオだ。TG57.2はまだマシだろう。重巡はTG57.1と同じく2隻だが、こっちは新鋭のボルチモア級だ。それに、軽巡も
クリーブランドとオークランドがいる。コロンビアが潰されたのは痛いが、TG57.2はある程度対空火力も強いだろう。敵がこの二つの
任務群に襲い掛かった時、一番危ないのはTG57.1だ。」
「ですが司令官。この2つの任務群にもノースカロライナ級やサウスダコタ級の新鋭戦艦が1隻ずつ配備されています。この新鋭戦艦の
対空火力は侮れぬ物がありますぞ。」

今度は情報参謀のアームストロング少佐が進言してきたが、

「侮れぬのは敵ワイバーンのほうも同じだよ。」

スプルーアンスはそう言って、進言を一蹴した。

「君達の望みは、味方機動部隊の墓場かね?」

スプルーアンスの口から思いがけない言葉が発せられた。その言葉に、誰もが絶句した。

「恐らく、君達の中にはこう思っている者がいるだろう。わが合衆国はいくらでも正規空母や新鋭艦を作る事が出来る。ここで、ある程度の戦力を
失っても、敵に壊滅的な打撃を与えれば丸く収まる・・・・と。正しい。その思いは確かに正しい。」

スプルーアンスはそう言いながら、深く頷く。

「そう思うとおりだ。我が国はいくらでも新しい戦力を用意できる。エセックス級空母も、アイオワ級戦艦も、そう遠くない時期に続々と配備されてくる。
だが、結局失われるのは、艦と航空機。そして・・・・人命ではないかね?」

スプルーアンスはそう言いながら、コーヒーを一口含んだ。

「私がこのコーヒーを作る時、最初は酷い出来だった。どんなに上手い豆を使っても、作る主が下手糞ならば、たちまちまずいコーヒーの出来上がり
となる。だが、作る主も経験を積めば、徐々に上手いコーヒーを作れるようになる。艦や航空機を操る者達も同様だ。君達はある程度の犠牲が出ても
仕方ないと思っている。確かにそうであろう。だが・・・・・」

スプルーアンスはコーヒーカップを置いた。そして、一呼吸間を置いて、スプルーアンスは結論を述べた。

「訓練を積んだ精鋭搭乗員は失われた限り、二度と戻る事は無い。私は勝算の見込みの無い作戦に機動部隊を投入する必要は無い、と思っている。」
「勝算が少ない・・・・ですか?」
「その通りだ。第2次バゼット海海戦では、我々は敵と互角の戦力で戦った。アムチトカ島沖海戦は、シャーマン部隊が一見無謀とも言えるような
作戦を取ったが、あれも周辺の基地航空隊との強力で可能となった物だ。我々は、大体の戦場で互角の戦力で戦った。だが、TF57は敵と戦力差
がついたまま。しかも、味方の支援なしに戦おうとしている。そうなれば、レキシントンやサラトガにいる精鋭パイロットや、経験を積み始めた
乗組員達をあたらに失うだけとなる。それも、敗戦でだ。私は、そのような事だけはしたくない。」
「では、長官はどのような時に戦えとおっしゃるのです?」
「無論、敵との対戦で、勝つ要素が五分五分か、こちらに有利な時だ。TF57はそれを満たしていない。」

スプルーアンスは直ちに命令を発した。

「TF57に打電。攻撃を中止し、直ちにマルヒナス海域から離れたし。以上だ。」


1483年(1943年)10月3日 午前8時 マルヒナス運河沖

輸送船団の護衛に当たっていた第4機動艦隊は、マルヒナス運河の西80ゼルド沖で遊弋していた。
第4機動艦隊の上空を、早朝に洋上偵察に出向いていった陸軍のワイバーンが陸地に向かっていこうとしている。
悠然と飛び去っていくワイバーンを、司令官であるリリスティ・モルクンレル中将はじっと眺めていた。

「平和ねぇ・・・・・」

リリスティは、やけにしんみりとした口調でそう呟いた。

「不気味な静けさですな。なんというか、嵐の前の静けさというような。」

彼女の傍に立っていた、艦隊主任参謀のマクガ・ハランクブ大佐が言う。

「あたしにとっては、嵐の前どころか、嵐が来ると思ってそれに肩透かしされたために、味わえた静けさだと思うけど。」

彼女にしては珍しく、皮肉げな口調である。

「船団が攻撃を受けなかった事は、確かに嬉しい。でも、こっちの準備も一応整っていた。でも、敵がさっさと引返すとは思わなかったわね。」
「ええ。どうも敵将はあっさりとしていますな。」

ハランクブ大佐は苦笑しながら言う。
リリスティの第4機動艦隊は、じきに攻めてくるであろうアメリカ機動部隊の攻撃に備えていた。
アメリカ機動部隊に向かうのは、第4機動艦隊のみではなく、陸軍の第15空中騎士軍のワイバーン部隊300騎も含まれている。

迎撃準備は既に整えられていた。
ところが、今日の7時頃に、偵察ワイバーンが、敵機動部隊は南西に避退しつつありとの報告を送って来た。
位置はマルヒナス運河より南西300ゼルドも離れており、第4機動艦隊の攻撃範囲ギリギリであった。
幕僚の中には、直ちに追撃して米機動部隊を叩き潰すべきであると進言する者がいたが、リリスティは取り合わなかった。
もし、アメリカ機動部隊を攻撃するとしても、ワイバーン部隊の航続距離が足りない。
ワイバーンの航続距離は、最低の物でも600ゼルドほどあるが、戦闘時の疲労を考えると、この距離で出すには無理がある。
それに、敵機動部隊を追撃するとなれば、今度はリリスティの機動部隊がアメリカ軍航空基地の制空権内に突入する事になる。
この事からして、リリスティは敵機動部隊の追撃を諦めた。

「しかし、第2艦隊に貸した対空巡洋艦に損害が出てしまいましたな。」
「あれはかなりの痛手よ。」

リリスティは微かにため息を吐いた。

「エレガムツが沈没。ルンガレシが大破したのはまずいわね。ルンガレシの修理は2ヶ月ほどかかると言ってたよね?」
「ええ、その通りです。その間、我が機動艦隊は頼りになる用心棒を欠く事になりますな。」

今、配備が急がれているフリレンギラ級対空巡洋艦であるが、5番艦と6番艦の配備は今年の12月頃である。
その間、フリレンギラ級の補充は無い。
その代わり、新鋭戦艦のロンドブラガと新鋭巡洋艦のマルバンラミル級が2隻配備される事になっているが、ロンドブラガはそれなりに対空火力は優れている。
だが、残りの2艦は通常の巡洋艦と同様に砲力に重視を置いているため、対空火力に関してはフリレンギラ級以下である。
このため、第4機動艦隊の対空火力は充分な量に達していない。

「ああ、胃が痛くなる事ばかりね。」

リリスティは苦笑しながらそう呟いた。

「まあ、敵さんが逃げた事は良い事ですが、私としては配備されたての新兵器の活躍ぶりを見たいと思いましたな。」
「ワイバーンに積まれた、あの新兵器ね。」

最近、母艦ワイバーン隊に新たな新兵器が配備された。その新兵器は数が少ないため、錬度が最も高い第1部隊に配備されているのみだが、
機動部隊戦においては、敵の輪形陣崩しに大いに役立つ物と言われている。
もし、アメリカ機動部隊が向かって来れば、この新兵器が威力を発揮したであろう。
だが、肝心の敵機動部隊がさっさと逃げ帰ったため、この新兵器の実戦デビューもしばらくはお預けとなってしまった。

「あなたの気持ちはよく分かるわ。でも、今は仕方が無いわね。それよりも、今は敵の潜水艦が怖い。こうやって雑談を交わしている間にも
いきなりドカン!て来るかもしれないわ。」
「対潜哨戒はいつも通り厳にしております。大胆なアメリカ潜水艦も、10隻以上の駆逐艦で取り囲まれた竜母を狙う事はかなり厳しいですよ。
昨日の夜半に撃沈した敵潜水艦がいい例です。」
「その通りね。」
「今は、輸送船団が物資の揚陸を終えるまで待機するだけですよ。」
「ええ。」

リリスティはそう返事を返しながら、おもむろに空を見上げた。
空は、所々に雲があるが、量はそれほど多くない。上空は透き通るような青空が見えており、思わず見とれてしまうほどである。

「ほんと・・・・平和ねぇ・・・・・」

リリスティは、束の間の平和を味わっていた。


1483年(1943年)10月12日 午前9時 ワシントンDC

この日、フランクリン・ルーズベルト大統領は、執務室で海軍作戦部長のアーネスト・キング大将と、陸軍参謀総長のジョージ・マーシャル大将から
定例の報告を聞き終わった。

「なるほど。大体の状況は掴めたよ。」

ルーズベルトは機嫌のよさそうな表情でそう言い放った。

「反攻作戦は概ね順調に進んでいるな。海軍はこの間の海戦でミソを付けられてしまったが、南大陸のシホールアンル軍はカンフル剤を投与しただけに
すぎん。大局的には影響は少ないであろう。」
「大統領閣下のおっしゃる通りです。」

キング大将は頷いた。

「ですが、問題はシホールアンル側に宣伝の材料を与えてしまった事です。バルランド王国から送られて来たスパイ情報では、シホールアンル側は
広報紙や公式発表で先の海戦での勝利で、我が軍を散々こき下ろしているようです。」
「ふむ。これによって、シホールアンル側士気はいくらが上がったかも知れぬな。シホールアンルはずっと負け戦が続いておったのだ。そんな中に
久しぶりに入ってきた勝利の報だ。調子に乗って我々を馬鹿にするのは仕方あるまい。」

ルーズベルトはしたり顔で言う。

「だがな、ミスター・キング。今は言わせるだけ言わせておれば良い。近い将来にはシホールアンルはこの味わいを無くすのだから、今はなんと
言われようが気にする必要はあるまいよ。」
「はっ。」

ルーズベルトの言葉に、キングはただそう言って頷いた。

「所で、レーフェイル大陸侵攻部隊の準備はどうなっておる?」

ルーズベルトは話の話題を変えた。
それに、まずマーシャル参謀総長が答えた。

「今現在、レーフェイル侵攻部隊の戦備は順調に整いつつあります。参加予定の5個軍のうち、今は3個軍まで編成できました。あと残り2個軍は
来年の2月までに編成が完了する予定です。」
「航空隊はどうかね?」
「はっ。航空部隊に関しては、第8航空軍と第9航空軍が既に編成済みであります。後は第10航空軍の編成を待つのみです。」
「確か、第10航空軍の部隊は、B-29を装備する予定の部隊があったな。B-29はようやく生産が開始されたばかりで、乗員の訓練はまだまだ
のようだが・・・最終的にはいつ頃、第10航空軍に加われるかね?」

「来年の2月を予定しています。ちなみに、太平洋方面では1月の中旬から1個航空群が南大陸に派遣される予定です。」
「そうか。陸軍のほうは何事も順調のようだ。海軍のほうはどうかね?」

ルーズベルトは、今度はキングに顔を向けた。

「現在、海軍は大西洋艦隊の戦力増強を急がせています。大西洋艦隊は、来年の5月までにはエセックス級空母3隻と軽空母4隻を配備します。
大西洋艦隊の空母保有数はこれで正規空母6隻、軽空母5隻の計11隻となります。この他にも、アイオワ級戦艦2隻とアラスカ級巡洋戦艦2隻を
始めとする新鋭艦も、来年の5月までには艦隊に配備されます。輸送船の準備状況につきましては、現在2個軍ほどの人員、機材を運べる隻数を
確保しています。」
「準備に滞りは無いかね?」
「今の所、万事順調に行っております。むしろ、今の準備状況でいけば、予定していた来年6月の期限よりも早い時期に準備は終わる可能性もあります。」
「ふむ。万事順調という事か。」
ルーズベルトは満足そうに頷いた。
「シホールアンル軍はそうだが、東のレーフェイルでは、マオンドの占領地住民に対する締め付けが厳しくなりつつあるという。私としては一刻も早く、
レーフェイル大陸に兵を進め、シホールアンルの同盟国を討たねばならぬと思う。諸君らにはこれからも苦労をかけるだろうが、その分頑張ってくれ。
君達の頑張りが、馬鹿な占領国に虐げられている民衆を救うのだ。そこの所をしっかり頼むよ。」

午前10時までには、キングとマーシャルは執務室から去っていた。

ルーズベルトは、書類を置いてから、椅子を後ろに回転させた。
背後の窓からは、ホワイトハウスの美しい庭が見渡せる。庭の中央には、ホワイトハウス名物の噴水が見えた。

「そろそろ、南大陸の指導者と話し合って見たいものだ。」

ルーズベルトは漠然とした思いでそう呟いていた。
戦争が始まって、もうすぐ2年になる。戦争は、ようやく南大陸を始めとする連合国に流れが傾いてきた。
連合軍の先鋒を務める合衆国陸軍は、既にカレアント公国の首都の近くまで迫っており、1両日中にはカレアント軍と共同で首都解放作戦を行うようだ。
レーフェイル方面に関しては、合衆国は未だに本腰ではない。
だが、東海岸沖には時折、ベグゲギュスというマオンドが送り込んだ刺客がやってきては、大西洋艦隊の艦艇と戦闘を繰り返している。

つい先日も、東海岸沖を哨戒中の駆逐艦がベグゲギュスによって相打ちに持ち込まれている。
それに対して、大西洋艦隊は通商破壊線を強化している。
だが、ここ最近は潜水艦部隊の被害が増え始めており、敵船の撃沈はなかなか難しくなっているようだ。

「だが、来年の初夏までには、我々はレーフェイルに攻め込む。いや、レーフェイルだけではない。6月には太平洋戦線でもこれまでに無い
規模の大作戦が行われる。この作戦が成功すれば、主導権は完全に連合国が握る事になる。」

ルーズベルトは自信に満ちたような口調でそう呟く。
作戦名、リンク・アタックと呼ばれている最大規模の上陸作戦は、今年の8月から既に研究が始まっている。
既に太平洋艦隊所属の潜水艦が、上陸作戦に適した土地を探し、いくつかの候補地が挙げられている。
この作戦が大成功を収めれば、あとは北大陸の被占領国を1つずつ解放して、シホールアンルを孤立させるだけである。

「だが、作戦を成功させるには、各国の協力が必要になる。イチョンツの惨劇を生み出したシホールアンルごときに、慈悲は不必要なのだが、
だからといって我々も奴らと“同類”になってはならない。それは、我が合衆国のみならず、他の国々にも言える事だ。話すことはこの他にもあるが、
まずはこの事を1番に挙げて話すとしよう。」

出来れば、今年中に首脳会談を行いたいとルーズベルトは思っている。
詳細な開始時期は、これから追々決めていくであろうが、会議の会場は既にルーズベルトが決めてあるから、開催に向けての話はなんとか進むであろう。

「そうとなれば、今から各国の首脳に対して、どのような口調で、何を話していくかをよく考えねばな。」

ルーズベルトはそう呟くと、執務机に置いてある電話に手を伸ばした。
彼はまず、国務省にいるコーデル・ハルに電話をかけた。

1483年(1943年)10月13日 午前9時 バージニア州ノーフォーク

ノーフォーク軍港の片隅に停泊している第26任務部隊旗艦の戦艦プリンス・オブ・ウェールズでは、明日の出港を前にして食料品や消耗品の
積み込み等が慌しく行われていた。
兵員達は互いに掛け声を上げながら、重い木箱を艦内に運び上げていく。
中にはドジな兵も居て、誤って大量のジャガイモを海に落としたり、先輩の足の上に重い木箱を置いたりして大目玉を食らう物が散見された。
そんな中、艦橋ではTF26司令官であるジェームス・サマービル中将は、今しも外海に向けて出港していく1隻の戦艦に見入っていた。

「まさに世界最大の戦艦だな。大きさと言い、持つその力と言い。」

彼は、どこか羨望が混じった口調でそう呟いていた。
その戦艦は、これまでのアメリカ新鋭戦艦と同じような、尖塔のような艦橋を聳え立たせている。
艦橋はアラスカ級巡洋戦艦と同様の大型艦橋で、艦橋のスリットガラスが時折、光を反射している。
煙突は2本あり、そのうち前にある1番煙突が、艦橋と一体化している。
艦全体のバランスは、長大な艦体と合間って程よく幅が設けられており、ボクシングでいうなら筋肉のバランスが取れたヘビー級ボクサーのようである。
舷側には、5インチ連装両用砲が5基ずつ並べられ、その周囲には40ミリ4連装機銃、20ミリ単装機銃がびっしりと並んでいる。
だが、何よりも目を引くのは、その主砲であろう。
これまでの米戦艦よりも、口径の大きな3連装砲塔は、軍艦に詳しくない物が見ても充分威圧感を感じる物だ。

「17インチという新しい砲も、なかなかに素晴らしい。」

サマービルはそう感想を漏らしながら、外海に抜けていくその新鋭戦艦を見送り続けた。

「艦長、港を無事抜けました。」

戦艦アイオワの艦長であるブルース・メイヤー大佐は航海士官の声を聞くなり、ゆっくりと頷いた。

「ようし、これより射撃訓練海域まで前進する。それまでは全速航行のテストだ。」

メイヤー大佐は、どこか陽気さを感じさせる口調でそう命じた。

彼が、この最新鋭戦艦の艦長に命ぜられたのは今年の8月末であった。
当時、足の骨折が完治して待命状態であったメイヤー大佐は、急病で倒れたジョン・マックレア大佐の代わりとしてアイオワ艦長就任の辞令を受け取った。
彼が操る事となったアイオワは、10月2日にニューヨーク海軍工廠で竣工し、以降、メイヤーの指揮の下、完熟訓練を続けている。
彼が艦長を務めることとなったアイオワは、まさにアメリカ海軍が作った戦艦では最強最大の物であった。
全長270メートル、幅36.2メートル。基準排水量は57000トンの重戦艦だ。
速力は7日のテストで30.5ノットを叩き出している。
航続距離は計画値で16000海里(15ノット)となっているが、正確には慣熟訓練が終わってから分かるであろう。
そして、このアイオワを特徴付ける物がある。
それは、主砲だ。
アイオワ級戦艦の主砲には、今回新開発となった48口径17インチ砲が3連装3基9門搭載されており、サウスダコタ級やノースカロライナ級を凌駕する。
防御に関してもサウスダコタ級を上回る装甲が施されており、自艦の主砲弾に耐えられるという条件をマスターしている。
このような事からして、アイオワ級は攻撃力、防御力において、これまでのアメリカ戦艦とは一線を画す戦艦と言える。
その最強の戦艦の艦長となったメイヤーは、今、この艦を操れる事に満足していた。
やがて、アイオワが主砲射撃訓練を行う海域に到達した。
射撃目標は、駆逐艦が後方3000メートルに曳いている標的である。
その目標に向けて、アイオワは17インチ砲を放つ。

「砲戦用意!左砲戦!目標37000メートル!」
「アイアイサー!」

射撃指揮所から返事が帰って来る。今日は光学照準射撃のテストである。
艦橋トップの射撃指揮所には、砲術科員が詰めて、狙い打つ的に照準を定めている。
アイオワの巨大な砲塔が左に向けられる。
3基の主砲が左に向けられると、今度は1本1本の主砲が、生き物のように動く。

「的速14ノット!射撃用意よし!」

射撃指揮所から報告が伝えられて来る。メイヤー艦長は待望の命令を発した。

「撃ち方始め!」

メイヤー艦長は大音声で命じた。その2秒後、アイオワの主砲から17インチ砲弾が発射された。
16インチ砲以上に巨大な発砲音と振動に、アイオワの艦体はしばらく振動を続けた。
巨大な砲声が大西洋の海上に木霊した後、時間を置いて標的の付近に轟然たる水柱が吹き上がった。
後にこの世界の住人から星の破壊神と呼ばれるアイオワ級戦艦が、初めて主砲弾を放った瞬間であった。

アイオワ級戦艦
全長270メートル 最大幅36.2メートル 基準排水量57000トン 速力30.5ノット
武装 48口径17インチ(43センチ)3連装砲3基 5インチ連装両用砲10基20門 
40ミリ4連装機銃20基80丁 20ミリ単装機銃52丁

装甲
舷側 400ミリ
甲板 180ミリ
主砲防盾 450ミリ
司令塔 480ミリmm
機関:バブコック&ウィルコックス式重油専焼ボイラー8基
GE式蒸気ギヤードタービン4基4軸 出力212000馬力

同型艦 ニュージャージー ミズーリ ウィスコンシン モンタナ イリノイ ケンタッキー

アメリカ海軍は、転移後にこれまでの戦艦よりも重防御と高速力を兼ね備えた新鋭戦艦を作ろうと考えていた。
その結論が起工済みであったアイオワ級戦艦の設計変更並びに改装であった。
この急な方向転換に、アイオワ級各戦艦の建造スケジュールは大幅に落ちたが、伸びた時間はアイオワ級を従来の
戦艦よりも強力な戦艦に生まれ変わらせた。
その最大の特徴となったのが、新設計の43センチ砲の搭載であった。
当初、アイオワ級戦艦には、これまた新設計の50口径16インチ砲を搭載予定であったが、アイオワ級戦艦そのものの
サイズが拡大された事が16インチ以上の主砲を搭載する事を可能にした。
この新主砲は1942年3月に始まり、完成は1943年1月であり、数々の試験で信頼性や耐久性において50口径砲か、それ以上の評価が
得られた。
また、防御力においても、元々のアイオワ案と比べて格段に向上し、自艦の放たれた者と同等の主砲弾にもある程度
耐えられると言う条件を見事クリアしている。
アイオワ級の総合防御力は、紙上の計画のみに終わったモンタナ級戦艦と比べて同等か、少しだけ劣る程度であり、
また、速力に関してもノースカロライナ級やサウスダコタ級の28ノットに比べて、30.5ノットと良好な速度性能
を発揮出来、機動部隊随伴戦艦としての能力も申し分無い物となっている。
このため、アイオワ級戦艦は後にモンタナ級の防御力と、アイオワ級の速度性能を兼ね備えた優良戦艦と呼ばれる事に
なった。
1番艦アイオワは今年の10月、2番艦ニュージャージーは11月に竣工予定であり、同級の今後の活躍が期待されている。
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