自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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9月31日 午前7時 魔法都市マリアナ
エリラ・バーマントは、午前6時40分頃に突然来訪した、アリフェル・グールに叩き起こされた。
(実際はグール魔道師が、エリラの部下に頼んで起こさせてもらった。)
グールの話によると、エンシェントドラゴンの召還魔法が夕方までには終わり、
その後はエンシェントドラゴンを呼び出すことが出来ると言っている。
エリラはこの話を聞くと狂喜した。
彼女は9月29日に、グールにもっと召還魔法の期日を短く出来ないかと催促している。
「エリラ様、それは少々難しいかと思われます。
最も、ある程度の無駄を省けば、できぬ事もありませぬが・・・・・・」
「ならその無駄をなんとかしなさい。あなたは魔道院の最高責任者でしょう?」
「・・・・・そこまでいうのならば、手は尽くしてみましょう。
ただし、期日を短く出来ぬ可能性のほうが高いので、期待はせぬように」
グールは渋々といった表情で引き受けた。
その事から、エリラは大して期待していなかった。
むしろ、少し指図を入れすぎたかも、と、自分の言った事にやや後悔していた。
だが、その難しいと言われた期日の短縮を、グールはやってのけたのである。
その功労者であるグールは、高齢にもかかわらず全く疲れを見せていない。
「よくやったわね。あなたは最高の魔道師よ。」
「お褒めの言葉、有難く頂戴いたします。」
グールはうやうやしく頭を下げた。その後、エリラは早々と支度をし、大魔道院へと向かった。

大魔道院の中は、むわっとする熱気と、血生臭い匂いが充満していた。
エリラとグールは、3階の内側通路へと上がり、魔法陣を眺め渡せる位置まで歩いた。
「すごい・・・・・・」
魔法陣は、数日前までは何の変哲も無い、ただ黒い文字が描かれていたにすぎなかった。
だが、今では、その字は血の色のように赤くなっている。
その魔法陣の外縁には、相変わらず魔道師が陣を取り囲むように配置され、呪文を延々と唱えている。
誰にも聞かれないような声で・・・・・・・
「呪文の一部に、召喚魔法の促進をやや妨げる部分がありました。
それを取り除くのは難しいと思われておりましたが、その部分の呪文をもう一度組みなおす事で
それを取り除き、取り除いた部分には別の新しいものを組み込んで構成しました。」
グールが淡々とした口調で説明する。
「内容的には旧文と変わりはありません。
しかし、召喚魔法をより促進する部分を入れましたので、儀式の手間はこのように短縮できました。」
説明を終えると、エリラは魔法陣を眺めながら口を開く。
「素晴らしいわ。もし、エンシェントドラゴンで敵を焼き払い、新しい国が出来たら、
あなたを魔道師専門の重役に、それも今までより権力の強い役に任命するわ。」
エリラは喜びに満ちていた。
だが、3時間前の午前4時頃のエリラは、今とは全く違う表情を出していた。

「第6艦隊が、全滅・・・・・・・全・・・・滅?」
連絡役の魔道将校から報告を受け取ったエリラは、内心のたうちまわりたい気分になった。
第6艦隊は5隻の重武装戦列艦、6隻の中型戦列艦、14隻の小型戦列艦で編成され、
新鋭艦も多い事からかなり戦力が高く、米艦隊を足止めできると期待されていた。
だが、海戦を見守っていた数匹の海竜報告では、重武装戦列艦は全て沈没。
他も全て沈むか、大破、航行不能に陥り、帰投しようとする艦は全くいなかった。
足止めするどころか、玉砕してしまったのである。

さらに、どこぞに消えていた第5艦隊がクリオメール島付近に現れ、
損傷した大型空母を撃沈しようとしたが、逆に全滅したとの報告が届いた。
わずか1日半の間に、航空部隊は壊滅し、艦隊はほぼ全てが海の藻屑と消えたのだ。
それに対し、敵に与えた戦果は空母1隻撃沈、2隻大破、1隻中破、重武装戦列艦2隻大破、
中型戦列艦3隻撃沈3隻大破、小型艦5隻撃沈、6隻大破。
航空機撃墜70機のみ!
そして問題の敵機動部隊は健在で、昨日以降全く所在がつかめていない。
いいところがほとんど無いのである。
敵を阻止するどころか、逆に殆どの味方戦力を食われ尽くされてしまったのである。まるで飢えた猛獣の如く。
怒りの余り、エリラは鏡を殴って、粉々に割ってしまった。
拳から来る痛みで、なんとか暴れだしそうな気持ちを抑え、彼女は残り少ない希望にかけようと思い、
ベッドに潜り込んだ。
しかし、今ではどうか。
彼女の最後の望みは、すぐに実現できる領域まで迫ってきている。
そう。敵を一掃出来うる、最後の手段が。
「しかし、まだ問題は残っている。」
エリラは忌々しげな表情で言う。
「夕方まであと11時間。それまでに、アメリカ機動部隊が襲い掛かってくる可能性が高いわ。
この大魔道院周辺に張り巡らされた対空砲火も、魔法防御も、反復攻撃を加えてくる敵飛空挺の爆撃を抑えられるかどうか。」
魔法防御、この魔道院では、防御結界が、天井のガラス部分に張り巡らされており、飛空挺の爆弾を何百発浴びても大丈夫と言われている。
だが、その強度は信用できない。
軍艦に張り巡らされた魔法防御も、砲弾100発まで耐えられると太鼓判を押しておきながら、
異世界軍の重武装戦列艦の砲弾の前には全く歯が立たなかった。
「私も心配しております。しかし」

グールが、待ってましたとばかりに笑みを浮かべる。
その笑みは、まるで生ける屍が笑うようでぞっとした。
「対策は講じておりますゆえ。」
グールは、先ほどから持っていた包みを開けた。
中には、アメリカで例えるならば野球ボールをふた回りほど大きくしたような、赤く、透明な球体が入っていた。
それを持ったグールは、2人の部下を連れて、2階に降り始めた。エリラも後についていく。
やがて、白く聳え立った巨大な壁の前に来た。壁には、竜の上に乗った人が描かれた、壁画がある。
その真ん中に、くぼみがある。
「これ、その水晶玉を、ゆっくりと入れなさい。」
黒いフードで顔を隠した部下が頷き、グールから水晶玉を渡されると、2人でゆっくりと運び、くぼみに差し込む。
ゴトッ、という音が鳴ると、赤い水晶玉はくぼみにぴったりと入った。
部下が落ちないようにそっ、と手を離す。
差し込まれた水晶玉は落ちることなく、くぼみに取り付いていた。
すると、腹の底に響くような、唸りが聞こえた。
ブゥーンという音が聞こえたが、すぐに鳴り止んだ。
彼女らはまた3階の元いた場所に戻った。
「あれ?」
エリラはすぐに異変に気が付いた。
「ガラスの天井が・・・・赤くなっている。」
さきほどまで、白い色をしていたガラスの天井が、今では鮮やかな赤色に変わっている。
まるで人の鮮血のような色である。
「この、魔道院にかかっている結界の防御力をあげました。これなら、幾ばくかの空襲にも耐えられましょう。」
そう言って、グールはヒッヒッヒと薄気味悪い笑い声を上げた。
「これで、時間稼ぎが出来るわね。さすがは魔法都市だわ。何でも揃っているのね。」
その時、後ろから魔道将校が、慌てた表情で紙を持ってきた。
「どうしたの?」
彼女は心当たりがあったが、何気なく聞いてみる。
「第12海竜情報収集隊より緊急の魔法通信です!」
その魔道将校は、上ずった口調で言った。
「ラグナ岬北東、380キロの地点において、敵大編隊を見ゆ!」

9月31日 午前6時30分 ラグナ岬沖 北東260マイル地点
朝日が、東からゆっくりと昇りつつある。
真っ暗だった闇は、その神秘的な色に彩られつつ、新しい1日を迎え入れようとしている。
その上がりつつある夕日を遮って行くものがある。
平らな甲板に、中央部に纏まった艦橋。
その前後を、合計4基の砲が仰角を高めに上げ、上空を睨む。
その巨大な物体、第58任務部隊の旗艦である、正規空母レキシントンは、
寮艦と共に南南西の方角に向かいつつあった。
レキシントンの右舷には軽空母のプリンストンが随伴している。
その2隻の空母の周囲を、エスコート艦が取り巻き、迫り来るかもしれない外敵に備えている。
レキシントンの飛行甲板には、次々と艦載機が上げられている。
エレベーターから翼の折りたたまれたアベンジャーが上げられる。
エレベーターが上がりきると、そのアベンジャーを甲板要員が待機位置に押して行く。
艦橋には、第58任務部隊司令官、マーク・ミッチャー中将と、参謀長のアーレイ・バーク大佐などの
幕僚が、神妙な顔つきで、その準備を見守っている。
「リリア君、どうだね?」
ミッチャー中将は後ろを振り返って言う。
「ええ、相変わらず、マリアナの方向から禍々しい力が発せられています。
恐らく、最終的な準備段階に入っているでしょう。」
彼女は緊張したような表情で、そう答える。
先ほどのミーティングのさい、リリアは、マリアナ方面から強い魔力を感じると、幕僚達に話した。
その魔力は、今までに感じたことの無い、禍々しく、そして強いものだった。
旗艦のワシントンに乗っているレイムは、リリアよりも明確に魔力、もとい、邪気のようなものを感じ取っていた。

レイムは、もはや準備が最終段階に入った事をスプルーアンス達に知らせた。
第5艦隊の面々は驚きを隠せなかった。
しかし、手は無いわけではない。
機動部隊には、艦載機と言う牙が残っている。
昨日の航空戦で、第58任務部隊は正規空母ランドルフを失い、エンタープライズを大破され、
ヨークタウンが中破、ホーネットと軽空母カウペンスを傷付けられている。
しかし、損傷空母で戦線離脱を余儀なくされた空母はエンタープライズのみで、残りは母艦昨日が健在である。
機動部隊の艦載機は、撃沈されたランドルフや、大破されたエンタープライズからの避難機も含めて957機残っている。
これは修理中の機を含めたもので、実際に使えるのは921機である。
内訳はF6Fが445機、SB2Cが205機、SBDが18機、TBFが253機である。
これを数波の攻撃隊に分け、魔法都市マリアナの攻撃に差し向ける。
今回はF6Fも500ポンド爆弾1発を抱いて出撃する事になっている。
本来、地上爆撃は艦爆や艦功の仕事だが、F6F自身も爆弾を搭載できるため、今回、戦闘爆撃機として爆撃に参加するのである。
爆弾は通常爆弾と、サイフェルバンの精油所の油を原材料としたナパーム弾使い、敵の対空陣地や魔法施設を爆撃する事になっている。
現在、空母レキシントンの甲板上には、16機のF6F、20機のヘルダイバー、18機のアベンジャーが並べられ、出撃の準備を待っている。
搭乗員待機所で椅子に座っていた、第1次攻撃隊のパイロット達はそれぞれが雑談を交わしていた。
「おい、どうやら継戦派の連中、問題の化け物召喚の最終準備に入ったらしいぞ。」
「奴ら、俺達の艦隊が、航空部隊と水上部隊を叩きのめしたんで、慌てて最終準備に入ったんだろう。」
「畜生、この攻撃が失敗したら、俺たちはエンシェントドラゴンとやらにローストビーフにされちまうぜ!」
「なあに、敵さんは慌てて最終準備に入ったんだろ?慌てて仕事をやるのは失敗の元さ。
色々、物事をはしょってやってるかもしれんぞ。」
「ありえるな。その手抜きが原因で、敵さんのほうが黒コゲになったりしねえかな。」
「おいおい、せっかく装備も詰まれたんだぜ?せめて俺達が爆弾を落としてから黒コゲになってもらいたいんだ。」
「そうだな。でも、現場に付いたとたん、敵のほうがローストビーフになってたらヤバイぜ?」
「魔法使いのバーベキューか。こりゃ傑作だな!」
「ハッハッハッ!言えてるな!」

それぞれの笑いや、会話で室内がざわめきかけた時、飛行長のスノードン中佐が待機所に入ってきた。
「気をーつけぇ!」
誰かの声が聞こえ、全員が席を立ち、直立不動の態勢を取る。
「休んでよろしい。」
スノードン中佐はそう言って、椅子に座らせる。
「諸君!いよいよ、この世界、最後の航空戦を開始するときが来た。オブザーバーの魔法使いの話に
よると、マリアナ方面で行われている、召喚儀式は最終段階に入ったようだ。魔法使いの分析の結果、
儀式終了は、本日の夕方、もしくは日没となっている。」
レイムらの分析結果は、既にレキシントンの第58任務部隊司令部にも届けられ、そこから各母艦に送られている。
「もし、敵エンシェントドラゴンが召喚されれば、世界は灼熱の炎に包まれるであろう。そして、我々も、死ぬ。」
スノードン中佐は一旦言葉を切って、パイロットの反応を見る。
やはり彼らの衝撃は大きいようだ。
動揺を見せている兵が何人もいる。
だが、動揺はしても、誰も声を上げない。皆が、スノードン中佐を見つめている。
「しかし、手は無いと言う事ではない。我々には、機動部隊があり、艦載機があり、そしてそれを操る君達がいる。
君達はこの世界、いや、現世界でもよくやってくれた。君達はもはや、立派なベテランパイロットである。
お前達の腕を持ってすれば、この最後の強敵を討ち果たすことが出来るだろう。攻撃目標は、第1に敵大魔道院。
第2に対空陣地だ。恐らく、濃密な対空砲火を以って出迎えるだろう。だが、安心しろ!グラマン鉄工所の機体は、
敵のへなちょこ弾なぞ、受け付けん!」
「中佐。」
1人のパイロットが手をあげる。
「なんだ?」
「ヘルダイバーは?あのろくでなし野郎はどうです?」
「なあに、今回は一流の上等艦爆と誉めてやれ。そしたら防御力も上がるさ。」

そのジョークに、皆がハッハッハと、笑い声を上げた。
「さて、母艦は現在、ここマリアナから北東260マイルの地点にいる。
機動部隊は255マイル地点で攻撃隊を発進させ、発進後は170マイル地点まで南下する。
発進予定は午前7時だ。今から時計を合わせる・・・・午前6時43分になったら合わせるぞ。」
時計の針は、現在41分20秒を指している。皆が時計をいじくり、調節を行う。
「20秒前・・・・・・・・・15秒前・・・・・・・5秒前、4、3、2、1、ロック!」
皆の時計が43分に合わされた。
「よし、これでブリーフィングを終わるが、最後に1つだけ言おう。」
スノードン中佐が、咳払いをして、声の調子を合わす。
「貴様達が運んでいく爆弾で、最狂技を使おうとする、陰気くさい野郎共の
腐った根性を綺麗さっぱり吹っ飛ばして来い!以上だ!」
彼の言葉に、誰もがニヤリと笑みを浮かべる。
スノードン中佐は、幾分すっきりしたような表情を浮かべ、待機所から出て行った。

艦橋の下部のハッチから、飛行服を身につけた搭乗員が、飛行甲板に飛び出して、それぞれの機に乗り移っていく。
1機のヘルキャットがエンジンを始動させ、3枚羽根のプロペラが回り始めた。
それが合図だったかのように、1機、また1機とエンジンがかけられ、次々とプロペラが回っていく。
気がつく頃には、60機の艦載機が、轟々とエンジン音を轟かせていた。
「参謀長、各艦に通信。準備出来次第発艦せよ!」
「アイアイサー。」
ミッチャー中将は、隣のバーク大佐にそう伝える。
バーク大佐は後ろで待機している通信士官にその命令を伝えた。
「面舵一杯!」
「面舵一杯、アイ・サー!」
艦長のリッチ大佐が凛とした声で指令を下し、操舵員がそれに従って舵を回す。
レキシントンのみならず、艦隊全体が一旦北西に転舵する。
やがて、レキシントンの艦首が風上に向かい合った。
「舵戻せ!速力28ノット!」

回頭をやめたレキシントンは、今度は増速し、艦載機発艦に適した合成速力を作り出す。
艦首が波に乗り上げ、ドーンという音と共に艦首が下がる。
少々波がある。だが、発艦には支障は無いようだ。
「発艦準備完了!」
「よし。」
リッチ大佐は頷くと、目をかっと見開き、待望の命令を発した。
「発艦始めぇ!」
彼の命令が甲板要員に伝わる。
それを確認した兵が頷き、フラッグを振った。
先頭のヘルキャットがそれを確認し、スピードを緩め、出力を上げた。
スピードがついたヘルキャットは、ぐんぐん速度を上げ、
甲板要員や手空き乗員の声援に見送られながら飛行甲板を蹴った。
ずんぐりとした機体が、飛行甲板から舞い上がり、優雅に飛び立っていった。
すかさず次のF6Fが飛び上がっていく。これもさきのF6Fと同じように発艦していった。
右舷のプリンストンからも艦載機が発艦し、ヘルキャットと思わしき機体が大空に舞い上がっていく。
レキシントンの艦橋から発艦風景を見守っていたリリアは、この光景が聖なる儀式のように思えた。

午前7時10分、レキシントンから発艦した60機の艦載機は、プリンストンから発艦した
F6F12機、TBF8機と合同した編隊を作り、爆音を轟かせながら南南西に向かっていった。
だが、レキシントンの仕事はまだ始まったばかりである。
「第2次攻撃隊、発艦準備急げ!」
リッチ大佐は、攻撃隊発艦の勇壮な風景の余韻に浸る暇も無く、次の命令を早々と発した。

午前8時10分 魔法都市マリアナ 
大魔道院の内部は、相変わらず不気味な雰囲気に覆われている。
しかし、それに加えて、ある種の緊張感が漂い始めた。
それは、エンシェントドラゴン召喚儀式の最終段階に入った事、そしてもうひとつ。
海から来る脅威、である。
エリラのもとに、魔道将校がやってきた。
「監視艇より魔法通信。敵機動部隊から発進したと思われる戦爆連合編隊を見ゆ。位置はラグナ岬北東60キロ。」
「ご苦労。」
それを聞いていたエリラは頷いた。
これまでに、2つの報告を受け取っている。
2つの報告はいずれも海竜情報収集隊からのもので、1つは敵編隊発見せりの報告。
もう1つは敵空母部隊発見せりの報告である。
報告によれば、敵空母12隻を含む大艦隊を、ラグナ岬沖420キロの海域で発見したとある。
そして今さっき、3つめの敵の情報が入ってきた。
(敵飛空挺部隊は着々と向かいつつある)
エリラはそう思った。
「でも、ただで爆弾を落とせると思ったら、大間違いよ。異世界の飛空挺乗りさん。」
彼女は卑屈そうな笑いを浮かべた。
「あなた達は、私達の歓迎委員会のおもてなしを受ける事になるわ。
そのおもてなし、たっぷりと受け取りなさいね。」
マリアナの大魔道院の周囲には、この時に備えて多数の対空機銃や、対空砲を設置してある。
対空砲は合計で93門、対空機銃は500丁以上が、ハリネズミのように配備されている。
それらは、魔道院の外壁の部分と、その周囲の建物に配備されており、互いの射線がカバーできるように工夫されている。
本当ならば、1000丁の機銃と、200門の対空砲で、一大対空要塞を作ろうと思っていたが、米機動部隊は待ってはくれず、
中途半端な準備のまま、迎え撃つ事となった。
機銃の口径は、最近開発されたばかりの18.5ミリ連装機銃も含めた3種類あり、それらが一斉に射撃を始めれば、
米艦載機をバタバタ撃ち落とせると、エリラは思っていた。

午前8時30分 魔法都市マリアナ
「敵戦爆連合300機、マリアナ方面に向かう。」
ここから北北東51キロのところにあるラグナ岬の監視塔からそのような報告文が届けられた。
大魔道院周辺を守るのは、第67対空旅団の将兵である。
旅団の第1連隊第3大隊第2中隊に属するレイックル騎士曹長は、
大魔道院から北200メートルに離れた、とある2階建ての木造建造物の屋上に設置された、
18.5ミリ連装機銃の射手を任されていた。
「そろそろ敵が来るぞ!貴様ら、準備は言いか!?」
レイックル曹長は、12名の部下に声をかけた。
「はい!」
皆の威勢のいい声が返ってくる。
彼が操作する機銃座には、石や砂を詰めた固い袋で防御壁を作っており、胸の高さまである
それは敵飛空挺の機銃弾を防げると言われているが、彼はいまいち信用していない。
どうせたらふく機銃弾を叩き込まれればすぐに叩き壊されるだろう思っている。
午前8時35分。
「来た!飛空挺です!」
北東の晴れた空に、小さな羽虫の群れのようなものが見えてきた。
最初、それらの数は30ちょっとと、少なく見えた。
だが、その30ちょっとの集団が、やがて何個も見えてきた。
いつの間にか、飛空挺が発するエンジン音が聞こえてきた。
だが、いつも聞きなれたエンジン音とはどこか違う。
重々しくも、力強さのある音だ。
それに比べると、味方飛空挺のエンジン音は、軽やかな感じがする。
彼はそう思った。
米編隊が現れて、彼らの近くに飛行してくるまでの時間は、早々と過ぎた。
そして、ついに敵編隊の一部が高度を下げ始めた。
前方の監視小屋が、機銃を撃ち始めた。それに触発されたかのように、大砲も砲撃を行った。

幾条のオレンジ色の線が、徐々に向かってくる敵編隊に注がれ、周囲に黒い花が咲く。
「敵機が射程に入りました!」
「よし、射撃開始!」
レイックル曹長は気合を入れるように叫ぶと、機銃の引き金を引いた。
ドンドンドンドン!という、11.2ミリ機銃より幾分重い発射音が響き、体に振動が伝わる。
この18.5ミリ機銃は、射程距離1800メートル。
ベルト給弾式で、80発入りの給弾ベルトを右から入れて弾を発射している。
その2つの銃身から炎が噴き出し、曳光弾が線になって飛んでいく。
敵機はさらに低空に舞い降りると、今度は増速して、機銃を撃っている建物に突進してきた。
1機の敵飛空挺がずんぐりした機体から機銃弾を迸らせ、味方の機銃座を狙い打つ。
味方の機銃座も対抗して射弾を叩き込む。
米機の機銃弾は、その機銃座の射撃要員を射殺した。
米機はそれだけに留まらず、胴体に搭載していた500ポンド爆弾を、機銃座の置かれている建物に叩きつけてきた。
腹から黒い塊が離れ、それが木造の建物にすっぽり突き刺さった、と思った瞬間、ドドーン!という轟音をあげて吹き飛んでしまった。
レイックル曹長の機銃座に1機のF6Fが向かってきた。
グオオオー!という音をがなり立てながら、騎兵突撃のように猛スピードで突進してくる。
レイックル曹長の連装機銃も調子よく、機銃弾を叩き出す。
F6Fの両翼が発射炎に染まり、6条の弾着煙が機銃座の横を通り過ぎる。
惜しくも射弾を外したF6Fは、そのまま600キロの猛スピードで上空を通り過ぎていった。
「また来ます!右方向!」
別のF6Fが、レイックル曹長の機銃座に猛然と突っ込んでくる。
彼はすかさず銃身を向け、引き金を引く。
曳光弾が米機の胴体に注がれる。当たっている、と思ったのにそのF6Fは平気で突っ込んでくる。
機銃弾がわずかに左に逸れているのだ。彼はすぐに修正し、改めて射撃を再開させる。
今度はF6Fも6丁の12.7ミリ機銃を撃ってきた。
ドダダダダダダ!という軽快な射撃音が響く。
弾着が機銃座の右横を縫っていき、銃座の防御壁が破片を飛び散らせる。

米機は胴体から爆弾を投下すると、射撃音を響かせながら飛び去っていった。
「爆弾だ、ふせろお!」
レイックルは絶叫すると、射撃をやめてすぐに伏せた。
ドガーン!という爆発音が木霊し、建物がグラグラと揺れる。
頭の上に吹き上げられた土や、木屑、石の破片が落ちてきた。
「敵の野郎、はずしやがったぜ。」
レイックルはニヤリと笑みを浮かべ、すぐに射撃を再開した。
F6Fが投下した爆弾は、惜しくも建物を飛び越えて、すぐ後ろの小屋に命中し、それを木っ端微塵に吹飛ばした。
「更に左方向から1機!」
またもや敵機が襲い掛かってきた。
これまでの銃撃は、なんとか機銃座を縫わなかったが、今度ばかりはそうも行かないかもしれない。
そうならないためには・・・・・敵を落とす事!!
そう思い立ったレイックル曹長は弾が無くなるまで、引き金を引き続ける。
曳光弾が敵機に向けて飛んでいくが、どうした事か、敵は全く応えた様子が無い。
そればかりか、ぐんぐん近づき、しまいには機銃弾を撃ってきた。
「畜生!当たれ!当たらんかぁ!!」
彼はそう喚きたてながら、機銃弾を撃ち続ける。
銃弾が切れたと同時に、米機の主翼から白煙が長々と引いた。
「やったぞ!命中だ!」
部下の1人が歓声を上げる。米機はレイックルの鬼気迫る銃撃に腰を抜かしたのか、機を翻らせて、そのまま避退に移る。
敵機を撃退した喜びもつかの間、更なる敵機が襲い掛かってきた。
今度は2機が前方から襲い掛かってきた。別の対空機銃が射弾を送るが、全く命中しない。
「何機でもかかって来い!みんな俺が叩き落してやる!」
レイックル曹長はそうまくし立てると、たった今給弾の終わった機銃を撃ち始めた。
リズミカルな音と共に、再び18.5ミリ機銃が銃弾を弾き出した。

米機も時速600キロの猛スピードで、かれらめがけてまっしぐらに突っ込んでくる。
先頭の機には爆弾はついていない。だが、2番機には胴体に爆弾が抱えられている。
1番機の胴体に曳光弾が突き刺さり、破片が飛び散った。
しかし、被害を受けたはずの1番機も12.7ミリを撃ち返してくる。
レイックルが放った機銃弾に照準を狂わされたのか、6条の弾着が見当違いのほうに流れていく。
そのまま1番機が轟音を立てながら通り過ぎ、2番機が突っ込んでくる。
それにもレイックルは機銃弾を叩きつけた。
機銃弾は、距離800メートルまで迫った2番機の主翼の真ん中あたりに命中した。
すると、いきなり主翼が折れ、2番機はバランスを崩して、レイックルらの前方230メートルに落下した。
バァーン!という爆発音が鳴り響き、爆炎と破片が吹き上がった。
「白星の悪魔を1匹やっつけたぞ!」
この日の初戦果に、一瞬だが、誰もが手を挙げて喜んだ。
辺りは激戦が繰り広げられていた。
先行し、低空で突っかかってきたF6Fは、600キロの猛スピードですぐに敵の機銃座を飛びぬける。
その飛び抜けた後には、血まみれになって息絶える継戦派の兵士か、
難をのがれ、相変わらずF6Fに向けて機銃弾を撃ちまくる兵士の姿がある。
現状では、前者のほうが後者を上回っている。
そして、たとえ後者のほうであっても、すぐに向かってきた別のF6Fとの戦いに入り、生きるか死ぬか、分からぬ戦を繰り広げる。
中には機銃弾を撃たずに、持っている爆弾から叩きつけるF6Fもいる。
500ポンド爆弾の直撃を受けた機銃座は、何もかも全てが吹き飛ばされ、そこには何かの残骸が散らばる。
継戦派側も犠牲を出しながらも戦果を出していた。
敵の機銃座を掃射で潰したと、気を緩めた1機のF6Fが、横合いから別の機銃に狙い撃たれ、たちまち散華してしまう。
かと思えば、不運な一弾が、投下しようとしていた爆弾を直撃し、木っ端微塵に吹き飛んでしまう光景も見られた。
米艦載機と、継戦側の死闘は熾烈を極めた。

そして、敵戦闘機の襲撃が一段楽したと思いきや、今度は高空から艦爆が襲い掛かってきた。
「前方上方より敵が急降下!」
それはヘルダイバー隊だった。
高度4000の位置から、高射砲の弾幕の中を突き進んできたヘルダイバーは、ついにその牙を剥いたのである。
1機が鮮やかに翼を翻し、機首を下に向けながら降下を始める。
それに続くかのように、1機、また1機と、次々とつるべ落としのように急降下に入っていく。
ヘルダイバーの目標は、レイックルらには向いておらず、大魔道院周辺の施設。
高さ4階建ての石造りの施設(小さな砦のようなもの)が並ぶ付近を狙っている。
それは20個あり、それぞれに機関銃や高射砲が2~3ほど配備され、米艦載機を撃ちまくっている。
この施設は、元々最後の砦として作られたものであるが、今回はこの多数残存する砦を対空陣地として活用している。
本来は20個全てに対空兵器を備え付けるはずであったが、
米機動部隊の急な進撃に準備が間に合わず、18個の施設にしか配備されてない。
ヘルダイバーが、不気味なおめき声を上げながら、砦に向かって突っ込んでいく。
その黒い機体に狙いを定め、砦の援護射撃を行う。
同じ事を考えているのが他にもいるのだろう、複数の外周側の対空陣地からも曳光弾が飛んでいく。
ヘルダイバーの前方に高射砲が炸裂し、黒い花が咲く。
それを突っ切って、依然として急降下を続行する。
2番機が大量の機銃弾を浴びせられ、いきなり空中分解を起こした。
だが、そんな事はどうでも良いとばかりに、残りの敵は降下を続ける。
高度が900になった時、1番機の胴体から爆弾が落とされた。
1番機がエンジンを咆哮させて、機体を引き上げようとする。
味方の対空砲がそれを狙って撃ちまくるが、全く当たらない。
爆弾は砦の左側30メートルの位置に着弾し、大量の土砂を噴き上げた。
3番機も爆弾を投下し、避退に移る。

その3番機が味方の機銃弾の集中射撃を受けた、と思った時には左主翼をたたき折れられた。
3番機は錐もみ状態になって墜落してしまった。
砦のすぐ前方に閃光が走ったかとおもうと、爆炎まじりの爆発が吹き上がる。
ドーン!という轟音と共に砦の石屑や、地面の土砂が吹き上がる。
砦の屋上で対空砲を撃っていた兵士達はなんとか無事だったが、全員が土砂を頭からかぶり、土色一色に染まった。
4番機の爆弾が新たに砦のすぐ後ろに着弾し、さらなる土砂を対空砲の要員に浴びせる。
レイックル曹長の機銃の弾が切れた。
「おい、弾切れだ。給弾を頼む!」
彼は給弾係りに言って急いで弾を補充させる。その時、砦の屋上にピカッと閃光が走った。
5番機の爆弾がクリーンヒットしたのである。
黒煙が砦から吹き上がる。その直後に、砦自身が猛烈に光を発した。
ドガアーン!という大音響が周りを木霊し、4階建ての砦が吹き飛んで崩落してしまった。
5番機の爆弾は、砦の屋上に突き刺さると、屋上を貫通して4階部分で炸裂した。
この砦には3門の高射砲が据え付けられていた。
爆弾炸裂の火災は、その予備弾薬にまで回り、多量の高射砲弾が瞬時に大爆発を起こしたのである。
つまり、敵を葬り去るはずの弾が、要員達自身を葬り去る、皮肉な結果となったのである。
急降下しつつあった残りの7機は、そのまま他の目標を見つけると、バラバラに向かっていった。
その中にはレイックル曹長に向かった1機のヘルダイバーもいた。
「敵機急降下!」
甲高い轟音が、みるみるうちに増大していく。
最初は粒ほどだった機影が、いつの間にか大きくなっている。
弾の補充を終えた18.5ミリ連装機銃が再び唸りだす。慌てて発射したので、機銃弾はヘルダイバーを逸れている。
それを修正しつつ、さらなる射弾を送り込む。曳光弾はヘルダイバーに注がれ、何発かが胴体に命中して破片を飛び散らせる。
だが、よほど頑丈に出来ているのだろう、容易に応える様子が無い。
「なんて頑丈な機体なんだ!さっさと落ちやがれ!!」
レイックルは喚きながら引き金を引き続けた。
だが、今回ばかりはこれまでの幸運にめぐり合えなかった。

ヘルダイバーは胴体から爆弾を投下した。
当たる!爆弾の位置からして、危険を感じたレイックルは、すぐに避難する事を思いついた。
「逃げろ!ここは吹っ飛ぶぞ!急げ!!」
レイックルは部下に命じると、全員があたふたと階段を下り始めた。
レイックル自身も最後に階段を下りる。
ヒューン!という音が徐々に大きくなってくる。あの世からの使いの声のようだ。
レイックルが階段を下り、駆け出した瞬間、
ズドーン!という重々しい爆発音が鳴り、背後から吹いてきた爆風に吹っ飛ばされてしまった。
爆風に吹飛ばされた彼は、爆弾穴に落下した。
その上を、破片まじりの爆風がゴー!という音を立てて吹き荒れていく。
爆風が鳴り止むと、辺りは幾分か静かになった。
「う・・・・・くそ、機銃がやられたか。」
うつぶせになっていたレイックルは起き上がろうとする。右肩がかなり痛い。
触って確かめてみる。
骨は折れていないようだが、痛みがある。
「打撲したようだな。」
念のため、体全体を確かめる。
足に小さな破片が突き刺さっていたのと、腕に切り傷を負った意外は負傷していない。
傷のレベルはいずれも軽傷レベルだ。傷は痛むが、機銃を撃てない事は無い。
そう確信したレイックルは嬉しくなった。その次に、彼は部下の名前を呼んだ。
名前を呼ぶ度に、声が上がり、次々と彼のほうにやってくる。
「班長、怪我してますよ!」
彼の隊に付いていた、若い女性魔道師がぎょっとした表情で言う。
「自分が治癒魔法で直しましょう。」

「いや、これぐらいなんともない。それよりも、治癒魔法は他の奴に使え。」
レイックルは女性魔道師にそう言いながら、集まった部下達を見る。なんとか全員が揃っている。
それを見た彼は安堵した。
(戦友を失うのはごめんだからな)
彼は内心でそう呟いた。サイフェルバン奪還作戦では、多くの戦友が、米軍の反撃で命を失っている。
部下も多くを失った彼としては、今回の防衛戦で、1人も部下を死なせまいと誓ったのである。
「おい!貴様達!」
不意に後ろから声がかかった。
機関銃を運んでいるとある一団が後ろを通り過ぎようとしており、その中の将校が彼らに声をかけたのである。
「なぜ持ち場を離れている。貴様達の持ち場はどこだ?」
「持ち場ですか・・・・・あそこです。」
レイックルは半壊して、炎上している木造建築物を顎でしゃくった。
「そうか。ならわしらの班に加わらんかね?今から別のところに対空機銃を設置するところだ。」
「ええ、私達としてもこのままブラブラするわけではありません、加わらせてください。」
「よし、わかった。ではついて来い。」
将校はそう言って頷くと、隊列のほうに戻っていった。
「お前ら、聞いての通り、仕事はまだある。行くぞ。」
レイックルはそう言うと、皆に付いてくるように命じた。
皆も従う気満々だったから、当然のように隊列に加わった。
魔法都市マリアナのあちらこちらでは、依然として爆弾や機銃弾が叩きこまれ、空襲は未だに止む気配が無かった。

大魔道院の内部に、甲高い喚き声が聞こえてくる。それは中からではない、外からである。
それは極大に達したかとおもうと、今度はエンジン音をがなり立てて飛び去っていった。
ドーンという音が鳴り、大魔道院の建物が揺れる。爆発は依然続き、最終的には24回の
“小さな”振動が伝わった。
「ヒッヒッヒッ、どうやら魔法防御はしっかり効いておるようです。」
側にいる老婆が、若い女性に声をかける。それはグールと、エリラである。

「これなら、なんとかなりそうね。」
エリラは満足したような表情で言うと、上空を見上げる。
「白星さん達はさぞかし悔しがっていそうね。必死こいて投下した爆弾が、全く効果を表さないのだから。」
彼女の卑しげな笑みが天井に向けられた。
この時、爆弾を投下したのは、空母バンカーヒル所属のヘルダイバーで、2個中隊24機で1000ポンド爆弾を投下した。
爆弾は、いずれも“赤い濁った光を放つ”ガラス部分に着弾した。
だが、驚くべき事に、爆弾は全く効果を表さなかった。黒煙の中に現れたのは、無傷のガラス部分であった。
外からは、高射砲の射撃音や、機関銃の発射音、そして爆発音が微かに聞こえてくる。
分厚い壁に周囲を覆われているが、外の喧騒は大魔道院の内部にまで、その激戦の様子を捻じ込んできた。
新たなる喚き声が外から聞こえてくる。新たなヘルダイバー隊が大魔道院に向けて急降下を開始したのである。
そして20発の小さな振動が大魔道院を揺るがす。だが、魔法防御を突き崩す事は出来なかった。
「被害の暫定統計が出ました!現在までに、対空機銃座28、高射砲22が全壊、機関銃座34、
高射砲12が半壊、戦死者は289人です。」
「ご苦労。下がっていいわ。」
彼は通信係りを下がらせる。正直、今のエリラの心境では、味方の被害はどうでも良かった。
それよりも、米艦載機の攻撃をあっさりと跳ね返した事が、彼女は嬉しかった。
この後、アベンジャー隊がナパーム弾を含めた水平爆撃で、大魔道院を爆撃した。
大魔道院は炎に包まれ、アベンジャー隊の指揮官は攻撃成功を確信した。
だが、黒煙が晴れた後にあったのは、相変わらず健在の、大魔道院の姿であった。

「急に静かになったわね。」
エリラは外の騒音が鳴った事に対し、そう呟いた。
「エリラ様、どうやら敵の第1波攻撃隊は撃退したようですぞ。」
グールがニヤリと笑みを浮かべる。
「撃退ね・・・・・ふふふ。気持ち良い言葉だわ。」
彼女が喜びをかみしめながら、そう呟く。
5分後、魔道将校が報告に現れた。
「報告します。先の戦闘で、敵機78機を撃墜しました。」
「78機!凄い数ね。」

「ええ。どうやら、対空陣地の密集型の配置が功を奏したようです。
現に小官も、何機か墜落していくのを見ました。」
「そう・・・・・・ありがとう。下がっていいわ。」
魔道将校はそう言われると、うやうやしく頭を下げ、その場を離れていった。
彼らは知らなかったが、この報告は誤りで、実際に撃墜されたのは、
F6F12機、SB2C13機、アベンジャー9機にすぎない。
だが、エリラはとても嬉しかった。この大魔道院が無事である事と、敵艦載機に大打撃を与え事が。
「クックック・・・・・これで最後の手段も出来るわね。さあ、白星さん、無駄な行動を一杯しでかしなさい。
その度に、私は笑って出迎えてあげるわ。」
そう言うと、エリラはアハハハハハハハハハハ!と、哄笑を上げた。

エリラに戦況を報告した魔道将校は、別の情報を確かめようと、大魔道院の正面の壁を通り過ぎようとした。
その時、微かにだがピシッという音がした。
「?」
不審に思い、振り返る。だが、何も無い。
側に水晶玉がくぼみに差し込まれているだけである。水晶玉を確かめるが・・・・・・・
「なんでもないか。」
異常はなく、そのまま去っていった。







水晶玉には、僅かながら。見えない、小さな傷が生じていた。
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