自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

109 第87話 真実を知る時

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第87話 真実を知る時

1483年(1943年)10月16日 午前7時 ミスリアル王国エスピリットゥ・サント

この日、巡洋戦艦のアラスカは、長い航海を経て、配属先の第57任務部隊が停泊している地域、
エスピリットゥ・サントに到達しつつあった。

「艦長!陸地が見えてきました!目的地のエスピリットゥ・サントです!」

艦橋の見張り員が艦橋内部に知らせてきた。
巡洋戦艦アラスカの艦長である、リューエンリ・アイツベルン大佐は、自らの双眼鏡で、陸地を確認した。

「ああ、こっちでも確認した。」

リューエンリはそう言った後、腕時計に視線を移した。
時間は午前7時ちょうどである。

「ほぼ時間通りだな。」

リューエンリは、満足した口調で呟いた。
彼が預かるアラスカが、太平洋艦隊所属南太平洋部隊に配属が決定したのは、10月になってからだ。
命令を受け取ったリューエンリはすぐに出港の準備を済ませ、10月7日に、サンディエゴ軍港を出港した。
10月11日にヴィルフレイングに到着し、そこでTF57に配属される予定である重巡洋艦のピッツバーグ、
軽巡洋艦フェアバンクスと合流し、12日にバゼット半島のエスピリットゥ・サントに向かった。
そして、今に至るのである。

「ようやく、機動部隊の指揮下に組み込まれますね。」

リューエンリの後ろから、聞き慣れた声が響いた。

彼は振り返った後、その声の主に微笑んだ。

「ああ。いよいよ訓練の成果が発揮される時だぞ。俺達の配属先は、TG57.2のようだ。」

リューエンリは副長に対して、気を引き締めるような口調で言った。
アラスカの副長を務めるロバート・ケイン中佐は、以前、リューエンリが艦長を務める軽巡洋艦のセントルイスで、
航海長として乗り組んでいた。
そのため、リューエンリとケイン中佐は互いの事をよく知り合っていた。
ケイン中佐は身長190センチという長身ながら、顔立ちは端整で、どこか物静かな感じがある。
元々はアリゾナの農家出身と言っており、酒の席では時折、力仕事は得意であると自慢している。

「TG57.2は、確かほぼ新鋭艦のみで構成されていますね。」
「ああ。主戦力の空母はエセックス級3隻にインディペンデンス級2隻、それを護衛する艦は戦艦アラバマを始めとする
重巡2隻と軽巡2隻、そして駆逐艦16隻。巡洋艦、駆逐艦はいずれも今年か、昨年、あるいは1昨年竣工したばかりの艦だ。」
「そこに、このアラスカが加わると言う事ですね。」
「その通りだ。」

副長の言葉に、リューエンリは相槌を打った。

「しかし、就役してから早3ヶ月が経ったが、新兵が多く乗っているこのアラスカがどこまで働けるかな。」

リューエンリは、やや不安の混じった口調でそう言う。

「錬度は確実に上がっていますよ。主砲や高角砲の使い方なども全てマスターしています。今では3ヶ月前の
あいつらが、まるで嘘みたいに見えますよ。」
「しごきにしごいたからなぁ。しかし、猛訓練というものは、指揮する側も体力が必要だね。」

リューエンリは苦笑しながら言う。
彼は、アラスカが竣工した後から連日、猛訓練を行った。最初の1ヶ月は、ほぼ休み無しで訓練が行われた。

このため、口の悪い乗員からは人殺しの艦長という渾名を付けられてしまったが、この渾名には文句の意思は
込められておらず、逆に尊敬の意がこもっていた。
リューエンリは猛訓練の最中、休憩時間中になると必ず乗員の元に現れて、訓練に対する評価はもちろんだが、
そのときの訓練の労をねぎらったり、後はそれ以外の話題をしたりして乗員達を楽しませた。
とある日などは、ダメコン訓練で、死ぬほど疲労したダメコンチームにコーヒーを持って現れた。
乗員達は、今までの艦長とは違った行動をする若い艦長に対して、自然に親しみを持つようになっていた。
そして、今では乗員の誰もが、リューエンリの事を最高の艦長であると、他の艦の乗員に自慢するほどである。

「人間、30代後半から老い始めるようですからね。きっと、艦長もそろそろ老いが始まっているのでは?」
「よせやい。俺はまだまだ元気だ。体はこうだが、心は永遠の20代だぜ?最も、正確に言えば20代後半をイメージしてるがね。」

リューエンリの言葉に、艦橋にどっと笑いが起こった。

「相変わらず、艦長は冗談が上手いですなあ。」

ケイン副長が笑いながら、リューエンリに感心する。

「なあに、艦長として当然の事をしてるまでさ。」

リューエンリはケイン副長にニヤリと笑いながら、そう返事した。
アラスカは、そのまま和気藹々とした雰囲気のまま、エスピリットゥ・サントに入港していった。

「ふぁ~、眠いなぁ・・・・・」

カズヒロ・シマブクロ2等兵曹は、飛行甲板に上がるなり、眠たそうな口調で言った。
彼の乗艦しているイントレピッドの飛行甲板には、30機ほどの艦載機が敷き並べられている。
カズヒロはその飛行甲板を横切ってから、左舷側の張り出し通路に下りた。
左舷側は、ちょうど港の外海に向かい合っている。
イントレピッドの左舷側200メートルには、TG57.2の副主将とも言える存在である、戦艦アラバマが停泊している。

アラバマの甲板上でも、甲板を掃除している者や、隅で油を売っている者が散見された。

「昨日は飲みすぎたやっさ・・・・頭が痛い。」

カズヒロは顔をしかめながら頭に手を当てる。
昨日、カズヒロは、後部座席の同僚であるニュール・ロージア2等兵曹や、戦闘機隊の連中と一緒に、
最近エスピリットゥ・サントに建てられたばかりのバーへ飲みにいった。
午後8時頃から12時まで飲んだ彼らだが、カズヒロはウィスキーをかなり飲んだ。
そのお陰で、彼はこうして2日酔いを和らげに来ている。
ちなみに、仲間のロージア2等兵曹はなかなかの酒豪で、飲み会が終わった後もピンピンしていた。
今日は飛行甲板に上がる前に、ロージア2等兵曹と会ったが、彼はいつもの通り元気であった。

「酒に強い奴は羨ましいねぇ。」

カズヒロはやや苦笑しながら、ロージアの酒豪ぶりを羨ましがった。
ふと、急に右傍に誰かが居る事に気が付いた。カズヒロはおもむろに右に振り向く。
そこには見慣れた顔が、じっとカズヒロを見つめていた。

「・・・・・おはよう。」

カズヒロはまず挨拶した。
相手の反応は、

「・・・・・・・」

無い、と思われた時、

「うぉ!?」

大げさな素振りで反応を見せた。

「何奴!!」
「いや、何奴って言われても。」
「黙れ!この曲者め!」
「いやいや、いきなりそんなこと言わんでも、こっちは」
「黙れと言っているであろう!」
「黙れと言っている奴が黙れば」
「おはよう。元気か?」

いきなりの掛け合い終了に、カズヒロは思わず脱力した。

「見ての通り、二日酔いですぞ。ミヤザト2等兵曹殿。」

カズヒロは、複雑な表情を浮かべながら、友人であるケンショウ・ミヤザト2等兵曹に返事した。

「おい、またやってるぜあの2人。」
「オキナワコンビは今日も健在だな。」
「俺な、あの2人の漫才を見るのが楽しみなんだぜ。」
「お、俺もだ。」
「おいおい、カズヒロが見てるぞ。俺達の話聞こえてんじゃねえか?」

遠くで、甲板要員が微笑みながら2人の事で話し合っている。

「チッ、また見世物にされたよ。ケンショウ、お前は恥ずかしくないば?」
「まあ、俺はどうでもいいけどさ。つーかさ、人はお前の反応を見て楽しんでるんだよ、お前は
航空隊のみならず、イントレピッドのメインキャラクターなんだから。」
「この間も似たような事聞いたよ。ていうか、イントレピッドのメインて何?話でかくすんな。」

そこでふと、カズヒロはある事に気が付いた。

「あっ、そういえばお前。気分大丈夫か?昨日はでーじ酔ってたけど。」
「気分?ああ、大丈夫。」

カズヒロの心配をよそに、ケンショウはけろりとした口調で返事した。
実を言うと、ケンショウは昨日の飲み会の時、ウィスキーを2杯飲んだだけで顔が真っ赤になった。
昔からの友人であるカズヒロは、ケンショウが酒に弱い事を知っていた。
そのため、彼はケンショウが酒に酔った後、変な事をしでかさないか心配になった。
イントレピッド乗艦前に行われた飲み会では、ケンショウは酔った挙句にカズヒロや他の仲間に抱き付いたりして顰蹙を買っていた。
昨日の飲み会でも、そのような事が行われるのでは?とカズヒロは心配したのだが、それは杞憂に終わった。
なぜなら、ケンショウはウィスキーの4杯目を飲んだ所で眠ってしまったからだ。
この後、同じ戦闘機隊の同僚が、ケンショウをイントレピッドまで運ぶまでに一苦労した事は言うまでも無い。
恐らく、ケンショウも結構二日酔いになっているかもと、カズヒロは心配する反面、なぜか期待していた。
(普段、ケンショウにいじられている腹いせからであろう)
だが、その親友は元気そうであった。

「俺って、酒飲んだら酔いが覚めやすい体質な訳さ。だから少量のアルコールなら、後の心配は余り無い。」
「なるほど。やーもなかなか、羨ましい体質だな。」
「まっ、適度に二日酔いするのも良い事さ。その分、体がしっかり機能できている証拠だから。別に酒がいっぱい
飲めるからとか、酒豪だからとか、すぐにアルコールが抜けるとかに羨ましがる必要は余り無いと、俺は思うな。
お前は、さっき、ロージアが酒豪だからいいやんべーとか言っていたけど、酒は飲みすぎたら体に負担かけるからさ、
酒豪という奴はその分、飲めないやつよりも肝臓の負担が大きい、だから、体に多く害を与えている。逆に、余り
飲めん奴は、その場では変な気持ちになると思うけど、その分肝臓に負担をかけていない、いわば、与えている害が
少ないという訳さ。だから、いっぱい酒飲みたいなーと思わんでも良いと、俺は思う。」

ケンショウの、なかなかしっかりした意見にカズヒロはおおっと声を漏らした。

「なるほどな。参考になる意見やっさ。」
「そうか?まあ、そう言ってくれれば嬉しいな。」

ケンショウはそう言って笑いかけた。

「それにしても、ここ最近は陸軍の奴らが、地上戦で快進撃を続けてるな。」
「2日前は、カレアント公国の首都を解放したとか言ってたな。カレアントの人達も、少しは安心したかもしれんな。」

アメリカ陸軍が、連合軍と共同で行っている11月攻勢作戦は、10月に入った今でも順調に推移していた。
10月13日には、カレアント公国首都カレアルクに、アメリカ陸軍第4機甲師団とカレアント陸軍第103軍の将兵が
首都カレアルクに入城した。
既にカレアルク防衛を放棄していたカレアルク市内には、シホールアンル兵は1人も見当たらなかった。
シホールアンル軍の進撃に逃げ切れず、占領地で生活を続けていた30万の市民達は、解放軍である連合軍の入城を熱烈に歓迎し、
ここにしてカレアント公国は首都を無傷で取り戻す事が出来た。
14日にはアメリカ第1軍がマリキラ北方50マイルの防御線を突破し、シホールアンル軍を更に北へ押し上げた。
15日には、シホールアンル軍のカレアント東部航空軍が全勢力を持って、進撃中のバルランド軍第87軍を攻撃しようとした。
だが、迎撃に当たった第6航空軍とバルランド軍第4飛行騎士軍によってたちまち大乱戦になった。
この結果、第6航空軍は69機の戦闘機、第4飛行騎士軍はワイバーン79騎を失ったが、逆にシホールアンル側のワイバーン
262騎を撃墜してこの航空攻勢を頓挫させた。
正確な事は分からないが、この大空戦で、シホールアンル側の東部航空軍は壊滅的な打撃を被ったという噂が流れている。
15日の深夜には、第58任務部隊第1任務群の空母から発艦した、約120機の夜間攻撃隊がカレアント北部にあるクルグの港町を襲撃した。
シホールアンル側は輸送船2隻を撃沈され、隠匿していた物資3割を焼き討ちにされると言う手痛い損害を受けた。
ここ一連の戦闘で、シホールアンル軍は着実に追い詰められつつあった。
陸軍軍人ではないケンショウやカズヒロにも、カレアントの戦闘は、既に大勢を決したと言う事は理解できていた。

「シホールアンルの奴らも、ここ1ヶ月以上の戦闘でだいぶ戦力を減らしてるかもな。」
「それは仕方ないだろ。なんせ、あっちはこっちの軍隊より機械化されてないし。戦車に似たような物は、あっちにもある
みたいだけど、それだってシャーマン戦車とは真正面から撃ち合いができんようだぜ。」

カズヒロの言葉に、ケンショウはそう付け加えた。

「なにはともあれ、飛行機乗りである俺達は、味方の頑張りをこれからも応援しないとな。」

カズヒロがそう言った時、ふと、港の外海から数隻の船が入港してきた。

「ん?何か入ってきたよ。」

ケンショウはそう言って、入港して来た船に指差した。

「んー・・・・1隻は戦艦で、2隻は巡洋艦だな。ボルチモア級とクリーブランド級やっさ。」

カズヒロは、1隻の巨艦に付き従う2隻の艦はすぐに分かった。
ボルチモア級とクリーブランド級は、カズヒロの属するTG57.2に配属されているため、形を見ればすぐにわかる。
だが、残り1隻の巨艦には、見覚えが無かった。

「あれ?あの戦艦みたいなもの、見覚えが無いな。」

カズヒロはそう言って、首をかしげた。
その戦艦らしきものは、カズヒロが初めて目にする艦だった。
すらりと伸びた3連装の砲身、大型の艦橋の後ろに聳え立つ尖塔。
その背後には、特徴のある形をしている1本の煙突がある。
5インチ連装砲は、新鋭戦艦のように左舷側に4基配備されている。恐らく、右舷側も同様に4つの連装砲塔が並んでいるのだろう。
そして、甲板や主要部に配備された40ミリ、20ミリ機銃もかなりの数だ。
全体的にバランスの取れた戦艦だ、というのが、カズヒロが抱いた印象だ。

「なんか、綺麗な戦艦だな。あれが、噂のアイオワ級かな?」
「さあ・・・・・確か、アイオワ級に似た艦が数ヶ月前に竣工したって噂聞いたけど・・・・なんだったかな・・・・」

ケンショウは、目の前の新鋭艦の名前を思い出そうとしたが、どう言う訳か、名前がなかなか出てこなかった。

「あれは、アラスカっていう名前の船さ。」

唐突に、背後から声がかかった。2人が振り向くと、そこには戦闘機隊の中隊長を務めるジョセフ・ケネディ大尉が立っていた。

「あっ!」
「ケネディ大尉!」

2人は慌てて、ケネディ大尉に対して敬礼をする。ケンディ大尉も苦笑しながら答礼してきた。

「まあ、そう硬くなるなよ。」
「はあ、どうも。」

ケネディ大尉の言葉に、ケンショウは苦笑しながら答えた。

「あっ、あの新鋭戦艦はアラスカって名前なんですか。」

そこでカズヒロが思い出したように言った。

「そうだ。厳密に言えば、巡洋戦艦だがな。あの船に、俺の弟が乗っているんだ。それで、弟がよくアラスカで
起きた出来事を手紙で伝えてくるもんだから、すっかりアラスカの名前を覚えちまったよ。」
「へ~、そうなんすか。ちなみに、弟さんはどの部署で働いているんですか?」

カズヒロはケネディ大尉に聞いてみた。

「航海科だよ。今は中尉で、航海士官として働いているよ。」
「なるほど。弟さんも、なかなか良い船に乗っていますね。」
「ああ。弟が自慢するだけあるな。俺もこうして、アラスカという艦を初めて生で見るんだが、確かに自慢したくなる船だよ。」

ケネディ大尉は苦笑しながらそう言った。

「そういえば、ここ最近はずっと港に留まっているままですが、次の出撃はいつぐらいになるんでしょうか?」

ケンショウの質問に、ケネディ大尉は肩をすくめた。

「さあ、それは分からんね。」

ふと、彼は内火艇が見えた。イントレピッドから出たと思われるその内火艇には、艦長が乗っていた。
そして、内火艇は、TG57.2の旗艦である、フランクリンに向かいつつあった。

「でも、近いうちに出撃命令が下る事は確かだろうな。」


1483年 10月17日 午後8時 カレアント公国ネリジラ

シホールアンル陸軍第20軍の司令部は、カレアント北部のネリジラに設置された。
司令部がここネリジラに置かれたのは、つい2日前の事である。
第20軍司令官である、ムラウク・ライバスツ中将は、疲れの混じった表情で戦況地図に見入っていた。

「今の所、各軍ともなんとか後退を続けているな。」

ライバスツ中将は、顔をうつむかせたまま他の幕僚達にそう言った。

「はい。敵の最先頭部隊は、マリキラの北方70ゼルド付近に進出していますが、現地のスパイ情報から見れば、補給の為に
進撃を一時停止しているとの事です。」
「そうか。しばらくは第3軍の連中も一息つけるだろう。」
「しかし、輸送船団の送ってきた緊急物資が無ければ、今頃危なかったですな。」
「ああ。俺達の第20軍はまだ良かったが、一番補給を必要としていたのは第3軍だったからな。あっちは1個軍団ほどが
初期の戦闘で包囲殲滅されているから、常に危なかった。だが、緊急物資のお陰で、第3軍はようやく効果的な迎撃ができた。
防御線は突破されたが、その頃には第3軍の大半はイチョンツの南西付近に逃れていたため、潰滅という事態は避けられた。」
「第3軍が潰滅させられていれば、今頃、第8軍や第14軍は側面を突かれていたでしょうな。」
「その通りだ。」

(最も、どこの軍もすでにボロボロの状態だがな)
ライバスツ中将は、最後の部分だけは口に出さなかった。
連合軍が攻勢を開始した時、ループレング前線軍には30万以上の将兵が居た。
だが、その錚々たる大軍団も、今や20万を切るまでになっている。
ここ1ヶ月の戦闘で、10万ほどの将兵が戦死するか、あるいは敵の捕虜となったのである。
そして、各軍とも増大しつつある負傷者の影響で、ループレング前線軍の戦闘力は、全体で6割か、悪くて5割5分程度に落ち込んでいた。
比較的状態がマシである第20軍ですら、軍全体の戦闘力は既に6割4分に減っている。
中でも、一番酷いのは第122重装騎士師団で、師団全体の勢力は4割以下に落ち込み、司令部からは壊滅という判定が下されたほどだ。
酷い状況にあるのは陸軍部隊のみではない。
3000騎以上のワイバーンを擁したカレアント方面航空軍も、戦力をすり減らされている。
カレアント方面航空軍を構成する3個航空軍は、敵の攻勢作戦開始から果敢に戦い抜いてきたが、全体の戦力は既に5割ほどに低下していた。
中でもカレアント東部航空軍は、先日に航空攻勢に敗北した影響で、戦闘力が3割に達し、航空軍としてはもはや消滅したも同然となった。
また、アメリカ軍機の執拗な爆撃も、後退しつつある各軍を苦しめつつある。
一番厄介な物は、隠匿した集積所をアメリカ軍機が嗅ぎ付けて爆撃する事である。
アメリカ軍機は、いくら落としても戦力低下という事態になかなか陥りにくく、逆に落とした数よりも更に機数を増やして要所を攻撃して来る有様だ。
このような事は、カレアントの各戦線で既に定番化しつつある。
高空からはフライングフォートレスとリベレーターの大編隊がやってきて、防御線に情け容赦なく爆弾の雨を降らせていく。
ここなら攻撃しにくいであろうと思われ、延々と設置された物資集積所に、俊敏な機動性を誇るハボックや、単発機にしては
異様に強力なサンダーボルトの大群が襲い掛かり、シホールアンル兵達の命の綱とも言うべき補給物資を片っ端から焼き払っていく。
そして、以前は重要視されていなかった現地民や、南大陸軍特殊部隊による補給線の攻撃が、細くなった補給線にとって無視できぬものになりつつある。
陸でも、空でも、シホールアンル軍は満足できるような戦いが出来なくなっていた。

「唯一の救いは、後退中の友軍部隊がほとんど北大陸に逃れつつあると言う事だな。」
「はい。最後の後退部隊は、1週間後に北大陸へ渡る予定です。それから、ヴェリンス領の駐留軍も間も無く撤退を開始するようです。」
「ふむ。ヴェリンス駐留軍の撤退も、滞りなく行けばよいが。」

ライバスツ中将は、やや複雑な表情を浮かべる。
ヴェリンス領のすぐ近くには、ミスリアル王国があるが、アメリカ海軍はこの国に、新たな軍港を設けている。
スパイ情報によれば、このエスピリットゥ・サントと呼ばれる新たな軍港には、空母8ないし9隻を主体とするアメリカ機動部隊が、10月の
始め頃から常駐していると言う。

今は鳴りを潜めているこの敵機動部隊だが、一旦暴れ出せば、ヴェリンス領西岸は勿論、マルヒナス運河までもが、再び敵の空襲を受ける可能性が高い。
そのため、海軍はジャスオ領に第4機動艦隊を配備して、アメリカ機動部隊に睨みを利かせている。
(それにしても。かつては、向かう所敵無しと言われていた、我がシホールアンル帝国の軍が、今では必死に撤退、撤退と騒ぎ立てている。
これは、今まで暴れ回ってきた、わが帝国に対する何かの罰なのだろうか・・・・)
ライバスツ中将は、ふとそう考えていた。
南北大陸をシホールアンル帝国の優秀なる統治下に置き、戦争を無くそう。
かつて、北大陸統一戦争が始まる前に、この国の指導者となったオールフェス・リリスレイ皇帝が大衆の前で声高に叫んだ言葉。
ライバスツもまた、この若き皇帝に刺激され、一心不乱に戦場を駆け巡った。
順調に進み続けた道のりは、異世界から召喚された未知の国、アメリカの登場によって阻まれた。
いや、阻むどころか、今ではじわじわと進んだ道を戻りつつある。
航空戦力、武器の装備、戦術、そしてそれを支える兵站線。
その全てにおいて、アメリカに劣っているシホールアンル軍は、敵の攻勢が開始されて以来、ただ後退するしか能の無い軍隊に成り果てていた。
(神は、我々にどうしろと言うのだろうか・・・・・?)
ライバスツ中将は、鬱屈した気分に苛まれながら、心中でそう呟いていた。

1483年(1943年)10月18日 午後7時 カリフォルニア州サンディエゴ

太平洋艦隊司令長官であるハズバンド・キンメル大将は、執務室でとある人物を待っていた。
午後7時を回った時に、ドアがノックされた。

「失礼します。」

ドアの向こうから聞き覚えのある声が響いた。

「どうぞ!」

キンメルは張りのある声音で、ドアの向こう側に言った。
ドアが開かれた。入ってきたのは、既に顔馴染みとなっているレイリー・グリンゲル魔道士である。

「やあレイリー。久しぶりだね。」
「キンメル提督こそ。」

レイリーはキンメルに対してそう言いながら、何かに気付いた。

「提督、少し痩せられましたか?」

レイリーの質問に、キンメルはああと言って答えた。

「ここ最近、仕事が忙しいせいか、体調が思わしくないのだよ。家内はそろそろ病院で診てもらってはどうか?と言っているよ。」
「そうなんですか。」
「近いうちに海軍病院に行って、診察を受けようと思っている。まあそれはともかく。どうだね?ロスアラモスの状況は?」
「例の物ですが、そろそろ完成に近付いています。ここ最近は余裕が出来たせいか、暇を見つけてはよく遊んでいますよ。」
「そうか。君達と共同開発しているあの通信機が完成すれば、敵の出方が分かるようになる。海軍の上層部でも魔法通信傍受機には
結構期待がかかっているようだぞ。本当に、君達はよくやってくれているよ。」
「はっ。ありがとうございます。」

キンメルの言葉に、レイリーは畏まった口調で返事した。

「ところで、話は変わるのだが。」

途端、キンメルの口調が変わった。

「ええ。あの話ですね?」
「そうだ。1週間前の電話で、君は私に教えてくれると言っていたね?シホールアンルが南大陸に攻め込んだ、本当の理由を。」
「はい。この事は本国の許可も取り付けてありますので、提督に細部までお教えします。」

レイリーはそう言ってから、シホールアンルの本当の感心事について話し始めた。
キンメルはその話を聞いたとき、転移の際に見た夢を思い出していた。
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