自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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匿名ユーザー

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その紋章は、刺青状になっている。
絵柄は人間が、剣を上に掲げているもので、シンプルながら意思の強そうなものだ。
「我ら革命グループの信頼の証です。」
ジュレイ中将は真剣な表情でそう言った。
「なるほど・・・・・一応聞くが、これは本当なのだな?」
スプルーアンスは、ジュレイ中将の心の奥底を眺めるような気持ちで、彼の目をじっと見つめた。
ジュレイ中将の目は、一点の曇りもない。
「はい。」
「よろしい。では、話を聞こう。」
彼は頷きながらそう言った。それを聞いたジュレイ中将は、少しほっとしながら口を開いた。
「私たち革命グループは、3年前に6人のメンバーから始まりました。私たちは以前から現皇帝の
対外政策に対して、反感を覚えていました。軍部のほとんどは統一派にわかれ、反対派はほんの
わずかしかいませんでした。しかし、ある時反対派は謀略に巻き込まれ、国王に残らず粛清されて
しまいました。その中には、現皇帝の第3皇子であるグリフィン様も一緒でした。現在グリフィン様
はここから北500キロの監獄に幽閉されています。」
「自分の家族まで投獄したのか!?」
スプルーアンスは珍しく仰天した。

「はい。現皇帝は、目標の達成のためにはいかなる手段も問わぬ人です。半年前、とある場所で
革命グループのメンバーの1人が話しておりました。皇帝陛下は第3皇子を粛清したことを自慢
げに話していたのです。」
「ひどいものだ。」
スプルーアンスは、皇帝のあまりにもひどい性格に吐き気がした。
こんな馬鹿な王に率いられているとは、バーマントも哀れだ。彼はそう思った。
「3年前は、細々と活動していたにすぎない私たちでしたが、今では500人の同志を集めました。
その中には皇帝の直属将官や高級軍人、上流貴族などがおります。」
「君は途中から入ったのかね?」
「いや、私は結成以来のメンバーです。スプルーアンス長官、はっきりいいますと、私たちバーマント
公国の国民には、この戦争に疑問を持つものが多数います。それに、バーマント国内では、外地軍の
苦戦などは・・・・・・」
彼は思わず体を震わせた。
(怒っている・・・・・・)
スプルーアンスはすぐにそう判断した。
ジュレイ中将の目は、今にも炎が噴出さんばかりに怒りに満ちている。
ジュレイ中将はやや気持ちを落ち着けてから、言葉を続けた。
「苦戦などは、全く報告されていないのです。逆に、都合のいい内容のみ、国民に知らされているのです。」
実際、サイフェルバン方面軍の戦いは、バーマント公国の広報は、
「我が軍は、敵異世界軍を殲滅しつつある!」

としか伝えていない。とくにこの間の第13空中騎士団の夜間空爆などは、
「敵大型軍艦8隻、小型軍艦4隻撃沈!」
という誇大戦果を発表し、第3次サイフェルバン沖海戦の戦果発表も、敵大型戦列艦3隻、
中型艦2隻を撃沈したと、米軍側から聞いたら目を剥かんばかりの情報が垂れ流されていた。
そして、悲しいことに国民はこれを鵜呑みにしてしまっている。
ジュレイ中将の言う疑問を持つ国民はあまり信じてはいない。外見だけは信じているふりをしている。
「ひどいものだな。まるで現世界の対戦国みたいだ。」
スプルーアンスは苦笑しながら呟いた。
(最も、我が軍も苦しいときには、B-17たった1機で戦艦1隻撃沈とかの誇大戦果を垂れ流して
いたか。人のことは笑えんな)
そう思い、スプルーアンスは元の表情に戻った。
「そこでですが。」
ジュレイ中将が、身を乗り出して言ってきた。どうやらここからが本題だな。
「あなた方の軍で、国民の目を覚ましてもらいたいのです。」
「目を覚ます、だと?」
「はい。」
ジュレイ中将が頷くと、懐から数枚の紙を出した。それをテーブルに広げた。

「これは、首都近辺のファルグリン要塞の図です。」
「要塞?」
「はい。以前、私はここの参謀長をやっておりました。1ヶ月だけの勤務でありましたが、その間
にこっそりと、この図を盗み出してきたのです。」
「なるほど・・・・・・それにしてもすごいものだな。」
スプルーアンスは思わず驚きの声を上げた。
この要塞は、首都ファルグリンを防衛する目的で作られたもので、建造は今から30年前になる。
要塞は2つあり、それぞれが幅3キロのドーム状になっている。
この要塞2つは、ファルグリンに続く街道を塞ぐようにして立てられており、もし攻め込まれた場合
は、首都の防衛体制が整うまで、ここで時間を稼ごうというものである。
2つの要塞の間には、巨大なダムがあり、それは南6キロの河に繋がっている。
このダムは、2つの要塞にも繋がっており、戦闘中にはここから莫大な量の水を補給できる。
それに要塞自体の防御も非情に強固で、各種の武装が施されている。
現在は2つの要塞とダムに機関銃を配備中である。
「しかし、なぜこれを私に?」
「実は、この2つの要塞を、あなた方の飛空挺で破壊してもらいたい。」
スプルーアンスは突然の提案に再び驚いた。
「君、どういう根拠があって、そういうことを言うのだね?」
スプルーアンスは冷静な口調で言ったが、内心では困惑していた。
「昨日、あの窓から海沿いの飛行場に降りていく大型飛空挺を見たのです。」
スプルーアンスはある事を思い出した。陸軍飛行隊である。
召喚された当時、マーシャルごとここに連れてこられたため、占領したマリアナに常駐予定で
マーシャルのクェゼリン、メジュロ、エニウェトク、ウォッゼ、ビキニといった環礁の飛行場に
多数の陸軍航空部隊が常駐し、トラック島やマリアナ諸島に空襲を行っていた。

部隊は、第774航空隊、第689航空隊、第790航空隊、第121海兵航空隊である。
第774航空隊は、陸軍のP-47サンダーボルト40機、P-51ムスタング40機で編成されている。
この部隊は現在、ヴァルレキュア王国の王都周辺に展開している。
第689飛行隊は、B-24リベレーター爆撃機50機、B-25ミッチェル爆撃機40機で編成され、
第790航空隊はP-47サンダーボルト30機、B-25ミッチェル爆撃機30機、A-20ハボック
30機、B-24リベレーター爆撃機30機で編成され、第121海兵航空隊はF-4Uコルセア60機で
編成されている。
合計すると430機もの戦闘機、爆撃機が一緒に連れてこられたのである。
ジュレイ中将が見たのは、ウルシーから飛来した第790飛行隊のB-24である。
ここで各機の性能を見てみると、B-24は爆弾を満載した状態で3000キロは飛行できる。
B-25は航続距離2200キロ、A-20は航続距離3000キロ。
戦闘機はP-47が増槽つきで1800キロ、P-51が増槽つきで3000キロ。
F-4Uコルセアが増槽つきで2000キロ。
ここで敵の要塞を爆撃するとしたら、爆撃機は今ある全機種、護衛機はP-51が理想的だろう。
「それで、もし爆撃するとして敵の要塞はここら何キロ離れている?」
「ここから直線距離で、およそ1000キロ北西です。」
1000キロか・・・・・・・スプルーアンスは考える。
見た限りでは、1000キロという距離はとても遠いと思える。
だが、それは海軍の艦載機から見た視点だ。航続距離の長い陸軍機ならば、1000キロ先の爆撃などお手の物だ。
それに、航続距離が2000キロ以上の爆撃機は3機種もある。
(この細かいところは、後で陸軍航空隊のブラッドマン少将に聞くとしよう。)
そう思い、彼は頷いた。
「うむ、確かにいい案だ。我が軍の飛行機は航続距離の長いものが何機種かある。
それを使えば、君が持ち込んだ図の要塞に、爆弾の雨を降らすことができる。」
「では、攻撃は可能なのですね。」
「可能だ。」

それから1時間後、スプルーアンスはジュレイ中将を連れて、第5艦隊司令部幕僚に彼と
話したことを伝えた。
当初、革命の準備を聞かされた幕僚達は驚いた。
だが、スプルーアンスとジュレイ中将の言葉に、みなは納得した。
それからさらに1時間後に、陸軍第3戦術爆撃兵団司令官であるチャールズ・ブラッドマン少将や、
ホーランド・スミス中将、リッチモンド・ターナー中将も呼ばれて、あらゆる面に対して
議論が戦われた。

8月4日 午前9時 サイフェルバン
第58任務部隊旗艦レキシントンは、他の僚艦と共に少し沖合いに停泊していた。
第58任務部隊のヴァルレキュア側オブザーバーである、リリア・フレイド魔道師は、左舷側後部の
20ミリ機銃座からずっと、港の方向を見つめていた。
サイフェルバンの港には、空だったリバティ型輸送船に、多数の人影が乗り組んでいる。
その人影こそ、陥落したサイフェルバンに駐留していた、バーマント軍将兵である。
侵攻前、さかんに開かれた第5艦隊の作戦会議で、捕虜に関する問題があった。もし、15万以上
の大軍がいる拠点に攻め入れば、必ず何万と言う捕虜が発生する。
しかし、第5艦隊や、ヴァルレキュア側が、食料などの世話をしっかりできるのか?
それは難しいのでは?という問題が起こった。
それに捕虜収容所に対しても問題が起こった。
しかし、ここで助け舟が出た。それはマイントの発言だった。
実は、ヴァルレキュアは、大陸でも一番穀物などの農作物が、多く取れる国であり、その出荷量は、
国民を食わしていくには十分すぎるほどあり、毎年、農作物が過剰に栽培されるのである。

ヴァルレキュアは、国に食料が溜まりすぎないよう、周辺諸国に輸出していた。
だが、ここ数十年で起こったバーマントの一大暴挙によって輸出先の国が次々と取り潰された。
この事で、国内に食料が溜まりすぎ、しまいには腐れた膨大な食料が原因で、村が疫病で壊滅する
という悲劇が起きた。
やむなく、溜まった食料は地中に埋めることを決定した。
それから、農作物の栽培を制限し、何とか溜まり続ける備蓄食料を減らそうとした。
しかし、今現在をもってしても、一旦減らされた備蓄食料がまた溜まりつつあり、1098年には
自国の3倍の人口を養えるほどの食料が集まってしまった。
ヴァルレキュアの首脳は再び頭を痛めていた。
そんな中に、第5艦隊や捕虜の問題が降りかかってきた。膨大な備蓄食料を使えるチャンスが
やってきたのである。
この事から、捕虜の食料関する問題は解決した。
次に収容所であるが、これに関しては未開の土地が多い(ほとんどが草原)ウルシーの地域を、
現地の住民の許可をえて、作ることで解決した。
その面積は膨大なもので、工兵部隊の指揮官の話によると、実に30万ほどの捕虜を収容できる
スペースが確保された。
警備に関しては各師団から3個中隊を引き抜き、ヴァルレキュア側と共同で捕虜の警備、
監視に当たることでなんとか解決した。
陥落当日から、各部隊に配置された戦場オブザーバーと共に、捕虜の振り分けが行われた。
捕虜の振り分けとは、魔法使いとそれが使えない敵兵を分ける作業である。

まずは捕虜第1陣の1万から振り分けが始まった。
振り分け作業は、敵兵の服装や腕を見ながら行われた。魔道師の場合は白い長袖、長ズボンに、
腕に紋章があるため、すぐに見つけることができた。
振り分けには3日ほどかかり、1000人の魔法使いが一般兵と隔離された。
隔離された敵魔道師は、ヴァルレキュアが開発した魔力抑制剤を、米軍監察官が普通の薬と偽って飲ませた。
この薬は、1年前にレイム・リーソン魔道師が、リリアやマイントと共に開発したもので、
戦場で捕虜の魔道師が盛んに魔法通信を送ることがあり、その魔道師の持つ魔力を抑える意味で
この魔力抑制剤が開発されたのである。
効果は魔法通信系から爆発系全ての魔法を抑え、それが1粒で2ヶ月間持続する。この魔力抑制剤を、
アメリカ側は40000錠ほど渡されている。
魔力抑制剤を飲まされた後、魔法使いは一般兵と共に輸送船に乗り組み、ヴァルレキュア本土の
アメリカ、ヴァルレキュア連合の捕虜収容所に移されていくことになる。
そして、その作業を終えた捕虜の集団が、輸送船に乗せられていく。
(彼らの思いは、どんなものなのかなぁ?悔しいのか、それとも、ほっとしてるのかな?)
それを遠くから見つめていたリリアは、ふとそう思った。
遠くのバーマント兵は、かつて自分の肉親を殺めた憎き敵である。
恐らく、彼らバーマント将兵は、ヴァルレキュア攻略まであと一歩と信じていたのだろう。
それが、未知の異世界軍に完膚なきまでに叩きのめされ、そして祖国からも見捨てられ、
今ではみじめな敗残兵として収容所に向かう。

(天国から一気に地獄・・・・・なんだろうな)
かつて、あたしが体験したように・・・・・・・・
彼女がそう感慨にふけっている時、後ろから声をかけられた。
「やあフレイド君、考え事かな?」
後ろを振り向くと、そこにはバーク参謀長が立っていた。
「あ、参謀長。」
「仲間のことでも考えていたのかい?」
「まあ、そんなものですね。」
リリアは微笑みながらそう言った。バークはへりに肘をかけながら、輸送船を見つめた。
「今頃、バーマント兵達はどんなことを考えているのかな。」
「内心、絶望しているのではないですか?」
「絶望か・・・・・まあ、彼らの気持ちは分からんが、そう思う奴が多いだろうな。」
そして、この停泊している機動部隊の姿を見て、どう反応するのだろうか?
バークはそれも気になった。輸送船には、船倉に舷窓がついているため、外部の様子が見て取れる。
そして、そこに見える異世界の艨艟達を見てどう思うのだろうか?
「それにしても、君はだいぶ成長したな。」
「え?なにがですか?」
リリアはきょとんとした表情で聞いた。

「仕事振りさ。君は以前まではだいぶ粗相をやらかしていたようだね。
でも、ここに来てからは失敗もなしに仕事をこなしている。私は君の仕事振りを見ていて
、乗艦当初と比べても結構動きがよくなっていると思う。それに、常に明るい表情を絶やしていない。
その心意気はとても良いと思うぞ。」
「そんな、私はまだ未熟ですよ。未だに勉強しないといけないこともありますし。」
リリアは謙遜して言った。
「そんなことはないさ。我々は君の知識に色々助けられているんだ。君は気づいていないようだが、
今では第58任務部隊に欠かせぬ存在だよ。」
バークは本心でリリアを褒めた。実際、今までに気づかなかった海竜の存在に気付いたのも、
彼女の助言のおかげである。それだけではなく、リリアの助言は第58任務部隊にとって
大きな支えとなっている。
最初は憎しみを込めた視線でリリアを見つめるものもいたが、今では皆が、彼女の実力に心底から
敬服していた。別のことでもあるが。
「いえ、そこまで買い被らなくても」
「全く、鈍感な奴だな君は。少しは自分自身を見つめたまえ。」
それでも謙遜するリリアに、バークは少々呆れた。だが、逆に自分を飾らない性格が、リリアの
良い所なのだろうと、彼は思った。
「そういえば、明日にもレイム・リーソン魔道師がここにやってくるそうだ。」
「えっ、本当ですか!?」
リリアは喜びに満ちた笑顔を浮かべた。
彼女にとっては師匠であると同時に、心のうちを知り合っている姉妹でもある。
そのレイムとは既に2ヶ月以上会っていなかった。
「レイム姉さんどうしてるかな~。」
「ん?君はリーソン魔道師を師匠とは呼ばんのか?」
「仕事上では師匠と呼んでいますが、プライベートでは姉さんと呼んでます。
まあ、実際血は繋がっていないんですけど、いつの間にか定着しちゃって。」

「そうか。ま、何年も君達は付き合ってるからな。」
そう、バークは納得したように呟いた。
「あ、いたいた!」
その時、後ろから声がした。
「あ、バウンズ兵曹長。」
リリアは、髭面の兵曹長を見て微笑んだ。
「おはようございます参謀長。」
バウンズ兵曹長はバークび気付き、敬礼した。バークも答礼する。
「兵曹長、どうした。私に何か用か?」
「いえ、実は用があるのはリリアちゃん・・・じゃなくて、フレイド魔道師のほうなのですが。」
リリアちゃん?その言葉が一瞬引っ掛かったが、バークは敢えてそれを無視した。
「いつもの奴ですか?バウンズさん、今日は艦載機の整備の仕事はないのですか?」
「今日は非番でね。俺の分隊の奴らが、いつものを習いたいと言ってるんだが。」
「いいですよ。」
リリアは快く引き受けた。
「おい、兵曹長、いつもの奴とは何だね?」
「参謀長、実は私共は、このリリアちゃ、もといフレイド魔道師から時折格闘術を習っているのです。
私としては、これからの軍事教練に使えると思い、魔道師殿から習っているのであります。」
「格闘術?」
思わずバークは首を捻った。
「ええ、実はこの間のことなのですが・・・・・」

3週間前のこの日、格納甲板にいたバウンズ兵曹長らは、休憩の時にリリアを話しをしていた。
その時、とある事に話が及んだ。
「なあ、リリアちゃん。格闘術が得意とか言ってたね。本当に強いの?」
ある整備兵がそう話した。だが、別の整備兵が、
「見かけだけじゃねえの?」
というとんでもないことを言ってきた。こん整備兵、ロバート・ハート1等整備兵は前々から
リリアの事がいまいち好きになれなかった。
理由は、わけも分からぬ世界に連れ込んだから、である。
「魔法使いなんて、魔法使えればそれだけでしょ?
格闘ができると言っても、相手をただ叩きのめす程度だろ。」
彼は次々と、リリアを馬鹿にするような事を言い出した。他の仲間が口を塞ごうとしたとき、
「あなたはあたしに何をしろというのですか?」
珍しくリリアも喧嘩腰で聞いてきた。
「ん~~~~、あのドラム缶を20メートル先まで蹴っ飛ばしてくれ。もちろん側の艦載機に当てずに。」
ハート1等整備兵は無茶なことを言ってきた。
ここから艦尾に向けて50メートルほどが、何も無い通路のようになっている。両脇にはヘルダイバー
とアベンジャーが駐機している。幅は数メートルほどである。
そもそも、空のドラム缶といえども、重さはかなりある。
それに硬い。そんなものを20メートル先まで蹴り飛ばすことなど、できもしない。
それにやったところで、自分の足を壊すだけ、無駄である。
だが、
「いいわ、よく見ておくことね。」
顔を真っ赤にしたリリアは、本気で側に置いてあるドラム缶を蹴ろうと立ち上がった。
「おい、本気でやるのか?」
挑発したハート1等兵も、まさか本気で蹴ろうとは思わなかったので、やや驚いた。

「ええ、本気よ。」
そう言うと、いきなり殺気めいた視線でドラム缶を睨みつけ、次の瞬間
「ハアァッ!!」
気合と共にものすごい速さの蹴りがドラム缶に叩きつけられた。右の横蹴りを受けたドラム缶が、
ガーン!という金属音を発して蹴り飛ばされた。
そして30メートル先まで吹っ飛ばされ、異音を発してドラム缶は転がった。
幸いにも艦載機には当たらなかったので何事も無かった。
格納庫内の将兵たちは何事か出てきて、べっこりと蹴り潰されたドラム缶を見て仰天した。
リリアは平然とした姿で右足をやや上げていた。だが、その目は殺気だっている。
彼女を焚きつけたハート1等整備兵と、その仲間たちは、ただ唖然とするばかりだった。

「そんな事があったのか!?」
バウンズ兵曹長からその話を聞くと、バークは仰天した。
「駄目じゃないか!万が一、君が大怪我したらどうするんだ。」
「すみません。あの時はついカッとなってやってしまいました。
とにかく力を見せ付ければよかったと思ったんです。今は反省しています。」
全く、と言ってバークはため息をついた。だが、つい最近はリリアに対する不満などが、
レキシントン乗員からは全く聞かれなくなった。
乗艦からしばらくは、少なからず批判があったのだが、ちょうど2週間前ほどからぱったりと止んでいる。
最初は不思議に思ったものだった。
(あっ、もしや不満が聞かれなくなったのは・・・・・・)
バークは先の話を思い出した。それでバークは納得した。
「軽率なことをしてすいません。」
リリアは顔を曇らせながらバークに謝った。
(力を見せ付けて黙らす・・・・・なかなかうまいもんだ)
バーク大佐は、虫も殺せぬといった顔つきのリリアを見て、そう思った。

彼は知らなかったが、リリアは過去にバーマントの暗殺者2人を相手にし、その2人の命を奪っていた。
そしてその時の事を今も思い悩んでいることを、彼は知らなかった。
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