自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

128 第98話 空に耳あり

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第98話 空に耳あり

1483年(1943年)12月22日 午前10時 ミスリアル王国エスピリットゥ・サント

この日、ようやく活気を見せ始めたエスピリットゥ・サント泊地に新入りがやって来た。

「また新しく配属された艦か。」

巡洋戦艦アラスカ艦上で、艦長であるリューエンリ・アイツベルン大佐は、艦橋で双眼鏡を覗いているジョン・ケネディ中尉に聞いた。

「ええ、そのようですよ。恐らく、以前伝えられていた護衛空母部隊でしょう。」
「護衛空母か。」

リューエンリは、どこか苦笑しているかのような口調で呟いた。
現在、エスピリットゥサントには、第5艦隊の主力を成す第57任務部隊が駐留している。
第57任務部隊は、12月初旬には新鋭正規空母であるタイコンデロガと軽空母のベローウッド、3日前には軽空母のキャボットと、
軽巡2隻、重巡1隻、駆逐艦6隻が新たに配備された。
前日にはTG57.2から引き抜いたバンカーヒルとタイコンデロガ、軽空母キャボットを中心(ベローウッドはTG57.2に配備された)に、
第57.3任務群が編成され、指揮官にはアーサー・ラドフォード少将が任命された。
今日入港してきた護衛空母は、書類上では第6艦隊第61任務部隊第4任務群となっている。
TG61.4は、訓練を終えたばかりのキトカン・ベイ級護衛空母で編成されている。
編成はキトカン・ベイ、リスカム・ベイ、レアルタ・アイランド、ミッションベイ、バゼット・シーと、駆逐艦16隻となっている。
余談だが、リューエンリの指揮するアラスカは、第57.2任務群に配属され、戦艦の居ない(元々アラバマが居たのだが、TG57.3に取られた)
同任務群では、アラスカが護衛艦群のリーダー的存在になっている。

「週間護衛空母のお目見えか。しかし、ここ最近はこの港にも随分船が入るようになったな。その大半は、俺達アメリカの船ばかりだが、
現地の人達はこの事をどう思っているかな。」
「これは部下から聞いた話ですが、現地の住人達はアメリカ人達が来てから賑やかになったと言っているようです。少なくとも、
悪い方向には思われていませんよ。」

ケネディ中尉は微笑を浮かべながら答えた。
アメリカ太平洋艦隊が、このエスピリットゥ・サントに新たな根拠地を置いてから6ヶ月近くが経った。
太平洋艦隊が、最初にこの港に入港して来た時は、ヴィルフレイングよりはマシだが、それでも寒村としか言いようが無い港町であった。
それが、今では新たに建てられた行楽施設等で以前よりは比較的マシな状態になっている。
ミスリアル王国の各地からは、エスピリットゥ・サントで商いを営む流れ者が増え、今では人口が現地人だけでも1万人を突破するほどである。

「なるほど。俺はあまり町の奥に行かんから現地の人達の本音がわからんが、まあ好かれている事はいい事だな。」

リューエンリは納得した。
ふと、彼は護衛空母群の後方に続いて来る船に注目した。

「お、ケネディ中尉。今日は大物が入って来たぞ。」
「ええ。それもとびっきりのですな。」

ケネディ中尉は、珍しげな口調でリューエンリに答えた。
泊地の入り口に現れた巨艦は、20分後にアラスカの左舷200メートルの位置に停止した。
その巨艦は、18日に行われた連合国首脳会談の会場に選ばれた、戦艦アイオワであった。
優美さと力強さを兼ね備えたアイオワに、リューエンリのみならず、エスピリットゥ・サントにいた誰もが目を見張らせた。

「ヒュゥ、こいつがアイオワ級戦艦か。初めて実物を見たが、傍目から見りゃ、このアラスカが巡洋艦にしか見えんぞ。」
「ウチの右舷側近くに停泊しているピッツバーグはさしずめ駆逐艦サイズ、と言った所でしょうか。」
「オイ、今の言葉はピッツバーグの連中には言うんじゃねえぞ。アイツら、そこらの重巡乗りと比べて馬鹿にプライド高いからな。
今の言葉を連中が聞いたら、君はあっと言う間に袋叩きにされるぞ。」
「本当ですか?そりゃ気を付けないと・・・・くわばらくわばら。」

リューエンリは、やや調子に乗りかけたケネディ中尉を脅した後(あながち嘘ではない)、アイオワの艦橋を双眼鏡で眺めた。
アラスカと同じような艦橋の窓ガラスにいくつかの人影が見える。そのうちの1つが、リューエンリと同じように双眼鏡を持ってこちらを向いている。
(後で、久しぶりの再会といくか)
彼はニヤリと笑みを浮かべた後、双眼鏡を下ろした。

午後0時20分 戦艦アイオワ

戦艦アイオワの艦長室で休息を取っていたブルース・メイヤー大佐は、隣の艦の艦長から直接の訪問を受けた。

「やあリューエンリ!久しぶりだな!」

椅子に座って本を読んでいたブルースは、リューエンリの顔を見るなり笑顔で出迎えた。

「お前こそ元気そうじゃないか。」
「どこぞの兄ちゃんが果物をくれたお陰で、この通り元気になったよ。」
「どこぞって言うな。しっかり俺の名前を言えよ。」

リューエンリがそう言うと、ブルースと共にしばし笑い合った。

「まあ、そこに座れよ。今従兵に飲み物を持って来させる。何を飲む?」
「コーヒーを頼む。」
「わかった。従兵!コーヒーを2つ頼む!」

ブルースは従兵にコーヒーを注文したあと、リューエンリと向かい合うようにして座った。

「しかし、君も立派な船を引っ張って来たな。」
「ああ。お陰さまで、新鋭戦艦の艦長になれたよ。俺としてはコンステレーションかコンスティチューションの艦長に
なるかなと思ってたが、まさかアイオワの艦長に任命されるとは思ってもみなかったよ。」
「よくよく思うが、君は重い軍艦に乗る事が多いな。」
「前はウィチタに乗ってたし、その前はノーザンプトンに乗ってたからな。」
「君が重い船に乗っている間、俺はずっと軽い船ばかりに乗せられてるぜ。」
「だが、今回は重量級に乗ってるじゃないか。お前の乗っているアラスカだが、今見ると良い船だと改めて思うよ。」
「まあ、それでも君のアイオワと比べりゃ、軽いほうさ。」
「ハハハ。よく考えれば、俺は重い物好き、お前は軽い物好きって事かもしれんな。」
「うん、言えてる。」

2人が雑談を交し合っている時に、従兵がコーヒーを持って来た。
ブルースはコーヒーを受け取った後、従兵を下がらせた。

「この間の首脳会談は、君も大変だったな。」

リューエンリはコーヒーを啜った後、何気ない口調でブルースに言った。

「全く、その日は1日中緊張したよ。」

ブルースは苦笑しながらリューエンリに語った。

「アイオワが首脳会談の会場に使われると聞いたのは、12月に入ってからすぐだったな。あの時はサンディエゴ沖で慣熟訓練をしていたが、
命令を受け取った時はぶったまげたたね。何しろ、まだまだ訓練中の新鋭艦に各国の首脳を招くんだぜ?名誉と思うよりも貧乏くじを引かされた
という思いが遥かに強かったね。」
「だが、結局は何事も起きずに済んだ。」
「ああ。本当に良かったよ。まあ首脳会談中に良いと思う時もあったな。」
「ほう、それはどんな時だ?」
「ウチの国の報道班が各国首脳の記念写真を取るために、アイオワの前部甲板に立会いに行った時かな。写真に各国首脳が写っているのは
お前も見ただろう?その時、俺は生で各国首脳の顔を見させて貰ったが、カレアントとミスリアルの首脳がとても綺麗だなと思ったよ。
特にミスリアルの女王様はかなり良かった。」
「おいおい、君はステイツに美人の嫁さんがいるじゃないか。あんな天使のようなカミさんがいるのに、この事が知られたら大事だぜ。」
「ワイフの事とここの女性達の事は別腹さ。」
「アホ!別腹にするな!」

ブルースの思いがけぬ発言に、リューエンリは呆れた。

「なんてな。ただの冗談だよ。」
「!・・・・・・全く。君の危ない冗談にはいつも脱力させられるよ。」

リューエンリはため息を吐きながら、コーヒーを半分まで飲み干した。

「しかし、このアイオワから発せられた共同宣言だが。シホールアンル側はどう反応するかな。」

彼は改まった口調でそう呟いた。

「どうだろうなぁ。まあシホット共の大半はふざけるなと、顔を真っ赤にして激怒しているだろうな。まっ、これは一戦艦艦長の予想に過ぎんがね。」

ブルースは自嘲めいた口調で返事した。


1483年(1943年)12月22日 午後7時 シホールアンル帝国首都ウェルバンル

「全員集まったか。」

シホールアンル帝国皇帝オールフェス・リリスレイは、大会議室に集まっている閣僚達を見渡してから、一言呟いた。

「皆が忙しい所に、急な召集を命じて申し訳ないが、今日集まってもらったのは他でもない。」

オールフェスは玉座に座るなり、淡々とした口調で話しながら、テーブルに置かれている一枚の紙を手に取って掲げた。

「皆の手許に渡っていると思うが、つい先日、南大陸の連合軍は共同宣言を発した。この紙には、その共同宣言で発表された項目が書き写されている。
今日は、この共同宣言について、皆の意見を聞きたいんだが。」
「全く、馬鹿馬鹿しい内容です。」

早速、誰かが憤りを露にして言った。
陸軍総司令官のウインリヒ・ギレイル元帥である。

「北大陸は、我がシホールアンル帝国の公然たる領土です!連合国を名乗る蛮族共は、声高にこのような声明を発表しとりますが、奴らは我々が
どれほど苦労して、この北大陸に平和をもたらしたかわかっていない!」
「そうです!多くの同胞の血を流しながらも、やっと手に入れた安寧です。それを、南大陸の連中にむざむざぶち壊しにされたくありません!」

海軍総司令官のレンス元帥も、ギレイル元帥に賛同して熱弁を振るう。

「第一、我々はただ一方的に北大陸の諸国を治めているわけではない。現地の人間であろうが、有能な者には本国に招いて勉強を行わせ、
地方には満足の行く統治を行わせている。マオンドと比べて、反対派の暴動等が圧倒的に少ないのがその証拠だ。なのに、奴らは北大陸を
“不当に占領している”と抜かしている。何も知りもしないくせに!!」

(まあ、反対しそうな奴らは、前もって片付けちまったがな)
ギレイル元帥の言葉を聞いたオールフェスは、そう思いながら国内相であるギーレン・ジェクラの横顔を見つめる。
現在、比較的平穏な北大陸だが、その平穏さは予め作られた物である。
オールフェスは、ジェクラに命じて統治に反対する運動家等を片っ端から粛清させた。
後の調査では、ジェクラが行った粛清で命を落とした者は300~600万人を超えると言われている。
その徹底された“手術”のお陰で、北大陸各国は(表向きは)何不自由なく平穏な毎日を送っている。
作られた平穏をもたらしたジェクラは、澄んだ表情でレンス元帥の話を聞いている。

「確かに、君らの案には賛成だな。フレル、お前もやはりそう思うか?」

オールフェスは、何気ない口調で国外相であるグルレント・フレルに話を振った。
束の間、ピクッと体を震わせたフレルだが、冷静な表情でオールフェスに顔を向けた。

「はっきり申しますと、この共同宣言は馬鹿らしさにまみれたものです。」

フレルは、嘲笑するかのような口ぶりで自らの意見を語った。

「特に気に入らぬのが、最後の項目です。恐らく、アメリカの入れ知恵なのでしょうが、我が国が不当に占領している国などありません。
むしろ、この世界では我々のような事が常識なのに、ルーズベルトとやらは起きても夢を見る御仁のようですぞ。」

フレルの言葉に、会議室の一同が吹き出した。

「しかし、気になった項目もありますな。」

「気になった?」

オールフェスは、フレルの言葉を聞いて怪訝な表情を浮かべた。

「連合国側は、降伏する敵に対して寛大な対応を行う事を約束する。というものです。捕虜を取る事は、面倒になる以外に利点は余り無い筈ですが、
奴らは大々的にこう言っている。」
「我が軍の士気を落とす為だよ。」

ギレイル元帥がぶっきらぼうな口調で言う。

「捕虜を取ると言えば、前線の将兵は降伏しても命は助かると思い込む。連合軍の奴らは、どういう訳か捕虜を取る事にご執心のようだが、
どうせブリド・ラミド事件のようになる。なんだかんだ言って、最後にはまとめて捕虜を殺しまくるだろう。そのほうが、敵に与える打撃は大きいからな。」

ブリド・ラミド事件。それは、シホールアンル帝国でも最も忌まわしい事件として国民にも広く知れ渡っている。
100年前に起きたヒーレリとの国境紛争で、シホールアンル軍はヒーレリ軍相手に2ヶ月戦った。
その間、シホールアンル側の被害は無視出来ぬものとなっていた。
この戦いで、シホールアンルは12000人ほどの捕虜を出していたが、ヒーレリ軍は戦場で得た捕虜は丁重に扱った。
この捕虜に対する寛大な扱いは、やがてはシホールアンルのみならず、各国から高い評価を与える事になった。
シホールアンル側も考えを改めて、捕虜に関してはこれまでの古いやり方を廃して行こうと、ヒーレリ側の捕虜をゲストとして大切に扱った。
だが、紛争末期にヒーレリ軍は、突如としてシホールアンル側の捕虜に牙を向いた。
その結果、12000の捕虜は、何らまともな抵抗も出来ぬまま殺され、僅かな生存者を残した以外はほとんどが帰らぬ身となった。
これに激怒したシホールアンル側もまた、4000のヒーレリ側捕虜を報復として殺害してしまった。
この一連の事件は、紛争地の名前を取ってブリド・ラミド事件と呼ばれ、100年経った今尚、血生臭い惨事として広く知られている。
この事件の影響で、戦争での捕虜の対応は、ブリド・ラミド事件以前よりも過酷さを増した。
ギレイル元帥は、当時のヒーレリがやった事と同じ事を、南大陸側もやるであろうと確信しており、彼の頭の中では捕虜も戦死者として扱っていた。

「・・・・・一概にそう言えぬかもしれませんぞ。」
「何ですと?」

だが、フレルはギレイル元帥の言葉を否定した。

「ギレイル閣下。あなたは知っている筈です。アメリカの本当の国力を。アメリカは、今まで我々が戦って来た敵とは明らかに異質の存在です。
私は軍人ではありませんから、詳しい事はわかりませんが、あなた方の話を聞いていると、かの国はとんでもない物を持っているようですぞ。」
「フレル、お前の言いたい事はわかるぜ。」

オールフェスが苦笑しながら、間に入ってきた。

「俺も色々聞いているが・・・・まあなんといか・・・・・減らないんだよな?」
「はい。」

オールフェスの言葉に、フレルは深く頷いた。

「レンス元帥、君もわかっているよな。」
「はあ。私としても、信じざるを得ませんが・・・・・」
「確か、ここ1年でアメリカの海軍は戦力を増強して来たが、この1年でどれぐらい増えたかな?」
「私が把握している限りでは、主力艦では戦艦が4隻、空母が大小・・・・13隻。二線級と思われる物も含めると20隻は超えるでしょう。
補助艦艇や支援艦艇に関しては、100の大台を軽く突破するでしょう。」
「くっくっく・・・・・・俺は正確な情報が好きなんだが、こういう情報を聞いていると、正確じゃない情報も好きになりそうだ。」

オールフェスは、やや無理のある笑みを浮かべながら、皆に言った。

「皆、これが現実なんだ。海軍戦力だけでさえ、既にこの有様だ。敵さんは、俺達が減らしたと思って喜んだら、それ以上の戦力を用意してきやがる。
この様子では、今後はより苦しい戦いを強いられるかも知れん。」
「陛下。私からの提案なのですが。」

突然、フレルがオールフェスに話を持ち掛けてきた。

「提案?」

「は。アメリカの物量はまさに底無しです。もしかしたら・・・・あの大量の捕虜を養えるだけの余力を、かの国は持っているのでしょう。
私は、先の共同宣言を聞いてから考えたのでありますが。連合国は確かに恥知らずな要求ばかりを付き付けて来ました。ですが、このような
共同宣言を発表すると言う事は、逆に交渉に応じるという表れかもしれません。私としましては、わが帝国が連合国に対して、話し合いを申し込めば
よろしいのでは?と思うのです。」

フレルの口から出た意外な言葉に、会議室に居た閣僚達は思わず仰天した。

「な・・・・何を言われるか国外相!」

閣僚の1人が、震えた口調で言う。

「あなたは、アメリカなどは恐れるに足りぬと、普段から言われているではありませんか。そのあなたがこのような事を言われるとは、
私は思っても見ませんでしたぞ!!」
「そうだ!そうだ!」
「連合軍は我々の領土を明け渡せと言っておるのだぞ。そんな無茶な要求に答えろと言われるのか!」

閣僚達は、いきり立った口調でフレルを責め立てる。

「まあ待てよ。」

騒然となりかけた会議室を、オールフェスの落ち着いた声が響く。
それを聞いた閣僚達が一斉に押し黙り、会議室はシーンと静まり返った。

「話は最後まで聞こうぜ。フレル、続きを言ってくれ。」
「ありがとうございます。」

フレルは一礼してから、話を続けた。

「話し合いを申し込むとしても、我々は材料を揃えなければなりません。まず第1に、我々が統治しているお陰で発展した町もある事、
恵まれなかった現地人が我々の指導のお陰で立派に成長した事。これを含めた上で、連合国と会談を行うのです。連合国側も渋るでしょうが、
我々も、あたらに戦火拡大を行う事を望んでいないと、相手側に主張するのです。上手くいけば、我々は貴重な時間を稼ぐ事ができます。」
「なるほど。確かにお前の言う通りだ。」

オールフェスは、フレルの言葉を充分に理解した。

「時間さえ稼げば、俺達は今よりも進んだ軍事力を手に入れられる。未だに研究段階にある各種兵器が完成すれば、今度の戦争でも楽に勝つ事が出来る。」

しかし、そこでオールフェスは口調を変えた。

「だがなフレル。俺達は賛成しても、あちら側の反応からして、交渉に応じる可能性は低いだろう。」
「え・・・・しかし、皇帝陛下。」
「お前の言いたい事はわかるよ。でもな、南大陸には大量のゴミが流れ着いちまったからな。連合軍はそいつらから、俺達のやってきた事を
洗いざらい聞き出しただろう。俺が指示してやらせた事も、既に知っているだろう。いくら優秀なやり方でも、粗は出てくるものさ。」

オールフェスは苦笑しながら言った。

「しかし、奴らに知られていない物もある。ジェクラ。」
「はっ。陛下。」

彼は、ジェクラ国内省に顔を向ける。ジェクラは一礼してから口を開いた。

「陛下の捜し求めていた鍵ですが、ようやく尻尾を掴めました。どうやら、鍵はウェンステル領内にいるようです。」
「それは北か?南か?」
「北に居るようです。現地点ではそれだけしか分かっておりませんが、例の鍵がウェンステル領内にいるのならば、遅くても2ヶ月以内には
捕獲できるかもしれません。」
「こいつはまた、大進歩だな。」

オールフェスは顔に満面の笑みを浮かべる。

「引き続き、鍵の捜索を続けてくれ。チェイング兄妹の奴らには、抜かりなくやれと伝えろ。」
「はっ。そのようにお伝えします。」

オールフェスはフレルに顔を向けた。

「フレル、こっちが交渉に乗らなくても、俺達には勝機がある。だから、お前には悪いが、その案は却下する。」
「・・・・・そうですか。」
「すまないな。」
「いえ、私こそ。一臣下の身で大それた事を言ってしまい、申し訳ありません。」

フレルはすまなさそうな表情で、オールフェスに深々と頭を下げる。

「では陛下。我が国としては、この共同宣言は無視する、という方針でよろしいのでしょうか?」

財務大臣が慇懃な口調で質問する。

「勿論だ。というか、奴らの共同宣言は最初から無視する気だったよ。」

その時、大会議室のドアが開かれ、1人の魔道士が紙を持って現れた。

「陛下、マオンド共和国から緊急信です。」
「マオンドからか・・・・・さては、あの共同通信について、何か聞いてきたな。」
「はい。至急、我が帝国の意見をお教え願いたいとの事です。」

オールフェスは思わず苦笑した。

「後で俺が文案を考える。マオンドの奴らに元気が出るような文を送ってやるよ。」

1483年(1943年)12月23日 午前2時 ニューメキシコ州ロスアラモス

ニューメキシコ州の田舎町であるロスアラモスの一角には、開戦直後から政府の管理下にある建物がある。
その建物は、3階建てで、長方形の形をしている。
この建物の中にある一室で、とある実験が行われていた。
ミスリアル王国の魔道士であるレイリー・グリンゲルは、相棒のルィール・スレンティと共に、部屋の中央に置かれている装置に注目していた。
一見すると、少し大きめの無線機のような装置だが、よく見ると、無線機の左側には変てこな物が貼り付けられている。
その変てこな物は、灰色の四角形状の箱で、長さ20センチ、幅8センチほどあるが、その箱は断続的に紫色の光を発している。
箱は下から伸びるコードで無線機と繋がっており、無線機からは何かの駆動音が聞こえる。
無線機の右側には、タイプライターが置かれており、自動的に動いて紙に何かを記入している。

「どうやら、何かを受信したようだね。」

レイリーの側に立っていた白髪の男が、彼に話しかけてきた。

「そのようです。」

レイリーは冷静な口調で、白髪の男。アルベルト・アインシュタイン博士に返事する。

「21日から幾度かテストを行ったが、あの傍受機が何かを受信したのは、これで3度目になるね。」
「もしかしたら、マオンド側が送ったあの共同宣言に対する質問に、シホールアンル側が回答しているかもしれませんね。」
「シホールアンルの上層部は、恐らく気付いていないかもしれませんね。このロスアラモスで、極秘のやり取りが筒抜けになっている事を。」

ルィールは愉快そうな表情を浮かべる。
魔法通信傍受機の開発が始まったのは、1942年2月頃からであった。南大陸でもトップクラスの魔道士を加えて始まったこの開発は、当初は難航した。
魔法と科学の融合は、確かに魅力的な物であったが、同時に前途多難な物でもあった。
研究チームの面々は、必死に持てる知恵を振り絞りながらゆっくりと、1つずつ問題を解決して行った。
今年の9月からは、新たにミスリアルから魔道士3名が応援に賭け付けてくれたお陰で開発は順調に進み、12月20日、遂に試作品が完成した。
魔法通信傍受機は、ミスリアルから持ち込まれた魔法石と、新開発の無線機、それに出力用のタイプライターを合わせて作られた。

この機械の原理は、魔法通信の際に発せられる魔法波と呼ばれる物を“掴まえる”事にある。
まず、魔法通信傍受機のスイッチを入れると、無線機が作動する。
次に、無線機に取り付けられている魔法石が作動し、魔法石に入れられている魔法が発動する。
この魔法は、レイリーとルィールが新たに開発した魔法である。
本来、魔法通信は相手に向けて発動する物であるが、発動の際に魔法波と呼ばれる物が周囲に向けて発せられる。
この魔法波は、相手に向けられる方角に近ければ近いほど強くなる。
魔法通信傍受機にある魔法石は、その魔法波に独自の魔法波を張り巡らせて、相手側の魔法波を掴まえて通信内容を読み取る。
その間、相手側に送られる魔法通信は何の支障も無く届くので、魔法通信に何か細工されたと疑われる心配も無い。
読み取った内容は、魔法石が解読し、魔法石から無線機に送られる間、電波に変換され、無線機内で文案が纏められた後にタイプライターで
文書として作成される。
この文書に書かれた内容が、傍受した魔法通信の内容として読み手に伝えられるのである。
1年10ヶ月の間、研究チームは悪戦苦闘を重ねてきたが、その努力はようやく実ったのだ。
1分ほどで、タイプライターの打ち込みが終わった。

「レイトン大佐、打ち込みが終わったようですよ。」

アインシュタインは、部屋の隅で無線機を眺めていたレイトン大佐に声をかけた。

「では、内容を見ましょうか。」

レイトン大佐(今年の7月に昇進した)は持っていたコーヒーカップをテーブルに置くと、タイプライターに差されている紙を抜き取った。

「ふむ・・・・・・・こいつはまた、勇壮な言葉が並んでいますな。」

レイトン大佐は、英文に訳された文字を一読してから苦笑した。

「どのような内容が書かれているんです?」

レイリーはそう言いながら、レイトン大佐から紙を借りた。

「ほう・・・・確かに、勇壮な言葉が並んでますね。ルィール、見てみろ。」

レイリーは、隣にいるルィールに紙を手渡した。
紙に書かれていた文は、シホールアンル帝国がマオンド共和国に対して送った、共同宣言に対する回答文だった。

『わがシホールアンル帝国としては、先の南大陸連合国が発表した共同宣言に対して、なんら受け入れる価値の無い物と判断した。
今後、南大陸連合が北大陸に侵攻して来た場合は、我が帝国はこれを全力で迎え撃ち、南大陸連合に対して我々に楯突く事がいかに
無意味であるかを思い知らせるであろう』

ルィールは一通り読んだ後、レイトン大佐に顔を向けた。

「どうやら、シホールアンル帝国は先日の共同宣言を無視するようですね。」
「やはりな。」

レイトン大佐は予め予想していたのであろう、別に驚く事も無かった。

「我々太平洋艦隊司令部も、シホールアンルが共同宣言を無視する可能性が高いと判断していたからなあ。あんな喧嘩上等で生きている国に、
話し合いを要求する事はやはり無理だな。」
「しかし、試作品といえども、魔法通信傍受機はほぼ完成したと言っても良いでしょう。」

アインシュタイン博士は微笑みながらそう語った。

「問題点はまだまだありますが、その事については追々解決されるはずです。テストで好成績を出せれば上出来ですよ。」
「博士、これで我々は、情報の面ではシホールアンルやマオンドを大きくリードしましたな。」
「ええ。」

アインシュタインは頭を頷かせる。

「これも、君達の協力のお陰だ。君達が居なければ、こうして敵の極秘情報を知る事は出来なかっただろう。」
「いえ、私達は当然の事をしたまでです。」

レイリーは、いつもと変わらぬ陽気な口調で答える。

「私達の目的は、シホールアンルによる侵略戦争を食い止め、出来なくするためです。それを成し得る為には、今後も努力を惜しみません。」

ルィールもまた、歌うような口調でアインシュタインに言った。


ここにして、魔法通信傍受機はほぼ完成した。
魔法通信傍受機は、不具合を改善した後、1944年1月後半頃から本格的に量産され、前線部隊に配備されていった。
ロスアラモスという地名は、この魔法通信傍受機と、核兵器開発という2つのイベントで、後に広く知られる事になった。
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