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おす☆かが もってけ!べんとーばこ

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 堅苦しかった新品の学生服もようやく馴染んできた、5月の朝。
 着替えを済まし台所へと入った俺を迎えたのは、リズミカルな包丁の音と間延びした声だった。

「おはよう、お兄ちゃん」
「おう、おはよ」
 冷蔵庫から牛乳パックを取り出しながら答える。声の主は俺の双子の妹、つかさだ。
……妹、な。わかってるとは思うが一応言っておく。お間違いなきよう。

「おはよー。かがみにつかさ」
 瞼を擦りながら扉を開けたのは2番目の姉、まつり姉さん。
大学生で、霊媒体質の……ってそりゃ別スレの設定だな。

 まつり姉さんが俺の手から牛乳パックをひったくり、グラスに注ぎ始める。あ、ついでに俺のも頼むよ。
「自分でしなよ。……それよりつかさ、最近早いじゃない」
 確かにつかさは近頃、起床が早い。平日の朝はまず台所に立っているつかさの顔を見るのが日課になっている。
それでもたまに、俺が嫌がらせに近い起こし方を敢行しなければならない日もあるのだけれど。

「うん、お弁当作らなきゃいけないから」
 理由はそれ。特別に決めた訳ではないが、俺とつかさの弁当を作るのはつかさの仕事だ。
その代わりと言ってはなんだが、俺はつかさの勉強を見てやっている。
……交代制? 冗談だろ?
俺に作らせたら毎回国防色丸出しの弁当になっちまうぜ?

 つかさの包丁捌きを眺めながら、まつり姉さんが言う。
「なんていうか……ほんと家庭的よね、つかさは。私はそんな凝ったお弁当作れないなー」
えへへ、と笑うつかさの握る包丁は、玉葱を微塵切りにしている最中だ。
人参やら挽き肉やらと一緒に焼いて、ミニハンバーグでもこしらえるつもりなのだろう。

「つかさ、結構モテるんじゃないの? 可愛いし料理もできるし」
 まつり姉さんの口調には、どこかからかうような色が混じる。
それはあれだな、つかさから男の匂いを嗅ぎ取れない事をわかってて言ってんだな?

 そんなことないよう、と答えるつかさの声を聞きながら、俺はぼんやり考える。

 つかさに彼氏……ねぇ。



─ おす☆かが もってけ!べんとーばこ ─



 学校へ向かうバスの中、最後部座席。
 窓側の座席で肘をついて、外に流れる風景を眺める。
一面の田圃では若い稲が育ち、緑色の光を跳ね返してキラキラと輝いている。
きっと窓を開ければ色のついた若葉の匂いが爽やかな風と共に──

「「ふぁああぁぁあ……」」

 畜生、でかい欠伸の二重奏で台無しだ。
反対側に目を向けると、視線に気付いたのか、とろんとした目に涙を浮かべたこなたが
同じく眠そうな顔のつかさと共に振り向いた。

「豪勢な欠伸だな」
「いやぁ、実は徹夜でネトゲにインしててさ……もぉ眠いのなんのってぇ」
 隣に座るこなたはそうぼやいて、また欠伸をひとつ。

「ったく、だらしねぇなぁ。そんなんだから成長しないんだろうよ」
「かがみひどーい、気にしてるのにぃ」
 そう言ってぷーっとふくれるこなた。
 なんだそりゃ、どっかのロリ担当の従妹の真似か? 可愛くねぇぞ。

「大体さあ、だらしないって言うんならさ、つかさもさっき大あくびしてたじゃん」
「そりゃつかさは早起きしてるからな、最近は」
 こなたの隣に座っていたつかさは何故だか嬉しそうに、
「お弁当作るのが楽しくて」と微笑む。

 ま、早起きするのはいいことだ。学生の本分は勉強だけどな。
 昨日の夜だって宿題見てやってるうちにいつの間にか寝てやがったし。
……俺よりつかさの方が睡眠時間は上のはずだが気にしない。勉学に励む時間を削って早寝早起きをするのは
なにか違うような気もするが気にしない事にする。

「お兄ちゃんが隣にいると、安心して眠くなっちゃうんだよね」
 そう呟いて、いつもの人畜無害な笑みを浮かべるつかさ。
 妙に気恥ずかしいことをさらりと言ってのけるあたりが天然たる所以なのか。
きっと深く考えずに喋ってるんだろうな。

 ほら、それを聞いたこなたがあのにんまり笑いをこっちに向けて……
……ないな。
おかしい。てっきり「いつの間に妹フラグ立ててたのかな? かがみん」とか言って面白がるもんだと思ってたのに。

 こなたは俯いて、床の一点を見つめているようだ。その顔は長い髪に隠れて見ることはできない。

「こなた……?」
「かがみ」

 こなたは俺の名前を呟いて、ゆっくりと、頭を……

「肩貸して」
俺の左肩に乗せた。

「……はあ?」
「いやもう眠くって。学校着くまでちょっと寝させてぇ」
 おねがい、か・が・みん……と妙な声色で囁くこなた。最後の方は消え入るような声だったな。

 泉こなた、スリープモード。……ってちょっと待て!
「ふざけんな、離れろ!」
「いーじゃん、減るもんじゃないしぃ」
「人の視線が……っておい! 涎垂れてんぞ、制服汚れるっつーの!」

 俯いてたのはただ眠かっただけか。ったく、心配して損した。


 ただ、俺は気づいていなかった。
 こなたの向こうに座るつかさが、そんな俺達を見て──
 暗い表情を窓の外へと、向けるのを。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 校門の傍に天使が立っていた。

 例のKYなエンジェルさんなどではない。分厚い本も持っていなければ電波なことを喋り始めることもなく──
……ああすまん。認める。天使はさすがに言い過ぎた。
 てゆーか許可もないのにいいのか? ま、いいよね。お互い様だし。

「おはようございます」
 その天s──高良みゆきさんが柔らかく微笑む。
 毎朝、美少女が校門前で待ってくれている、なんてのはちょっとした奇跡だと思うのだがいかがだろう。

「おはよう、ゆきちゃん」
「みゆきさん、おっはよー」
 俺を、ではなく俺達を、っていうのが惜しいところ。

 というか校門前ではなく駅で待ち合わせして、同じバスに乗っていただければ登校を共にできる時間が長くなるというもので、
俺としてはそちらのほうを是非とも希望したい所存ではあるのだが、いかんせん天使様はそこまで頭が回らないのかなんなのか、
もしかすると俺との時間をあまり重視してはいないのか──

 などと考えながら教室に入り、鞄を机に引っ掛けたところで、背中に軽い痛みを感じた。

「よぉ、柊」
 谷口、極力俺に話しかけるな。脳内のみゆきフレイヴァーが霧散する。
「そうでございますか、さすが柊様、目線がお高いことで。このモテ暴君が」
 ひどい言われようだな。なんだその面白くなさそうな顔は?
「そう、面白くないんだ俺は。全くこの世は理不尽だぜ、神なんていねぇ!」
 妙にヒートアップしているバカを無視して席に着く。この机についた傷にもそろそろ愛着がわいてきたところだ。

「柊、俺は不思議でしょうがねぇ。俺のような愛情を人の形に固めたような男が一人寂しく校門をくぐるその時にだな、
 なんでお前みたいな無愛想な野郎が女子を3人も引き連れてヘラヘラと校庭を歩いてやがるんだ?」
 お前は愛情でできてたのか、そりゃ知らなかった。その成分分析には断固異論を唱えるがね。
 というか無愛想とはなんだ。それにヘラヘラなんて……してないと思う。おそらく。

「泉こなたはいいとして、高良さんと一緒ってのが許しがたい」
 その言葉に少しだけイラッとくる。なんだ、カルシウムが足りてないのか?
つーかイラつきポイントが良く解らん、自分の事なのにな。俺は何にイラついてんだ?
モラトリアム。ちょっと違うか。

「このモテ格差はなんなんだ? お前と俺にどんな違いがあってこの差ができたんだ?」
 違い、ねぇ。あるとすればそれは……つかさか。
 つかさがいなけりゃこなたと知り合う機会も無かっただろうし、高良さんと昼を過ごすことも無かっただろうからな。

「そう、柊つかさ。……柊、俺はとことん神を憎むぜ。俺とお前にゃ、産まれからしていかんともしがたい差があったなんてな」
 そう言って俺の肩を掴む谷口。さっき神はいないと叫んでた筈だがな。
「俺様的美的ランクAマイナーの柊つかさを妹に持った時点で、俺はお前に追いつくことはできなくなった訳だ」
 なんだそりゃ? この学校の女子全員をチェックでもしたのか。
「おうよ、ってこりゃどっかで話した気がするから省くがな。ちなみに高良みゆきはAAAだ」
 それは妥当なランクだと思う。つかさについては怪しいもんだがね。
「怪しいものか。容姿は良いし醸し出す雰囲気も柔らかく、そして極めて家庭的ときやがった。
 ……毎日柊つかさ印の弁当が食えるお前が心底羨ましいぜ」

 そう言ってから、何か思いついたような顔をする谷口。嫌な予感がするね。

「柊、お前の弁当を食わせろ」
 なーに言ってんだこの馬鹿は。嫌なこった。
 大体俺の食うもんが無くなっちまうじゃねぇか。
「そりゃ俺の弁当やるからよ」
 頼む、この通り! と頭を下げる谷口。似非バファリン男も形無しだな。
 ……そこまでするほど魅力かね、この弁当箱は。

 まあ、一回くらいならいいか。その下げきった安い頭に免じて恵んでやるよ。


  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 そんで、その日の昼休み。……ってまぁた昼休みか、芸のない作者だなぁ。

 俺はいつものように、弁当箱持参で隣のB組の引き戸を開ける。
 おーっす……って、あれ?

「つかさはいないのか?」
「黒井先生に連れてかれたよ」

 こなたの声にへぇ、と返しながら、手近な空いている椅子を引き寄せて座る。
 さりげに高良さんの向かい側をゲットするのも忘れない。

「珍しいな。あいつ、どんな悪事を働いたんだ?」
「授業中に携帯から派手なカノンを鳴らしちゃってさ。今頃ありがたいお説教でも聞いてるんじゃないかな」
 そりゃつかさらしい。ま、すぐ戻ってくるだろ。黒井先生はそれなりに話のわかる先生だからな。
「そうですね、ではつかささんが戻ってくるのを待ちましょうか」
 例えその気がなくとも高良さんがおっしゃるのならばそうしますとも。
 既にチョココロネの袋を破りかけていたこなたとは対照的に、友人への気配りを忘れない高良さん。
その柔らかな微笑みからは慈愛の光がにじみ出しているようだ。眺めているだけで幸せな気分に──

「あれ、かがみん」

 それを邪魔するようにこなたが俺の名を呼ぶ。なんだどうした?
「今日はお弁当箱、違うね」
 ああ、これか? これはだな……


「みんなごめんね、待たせちゃって」

 その声に振り向くと、俺達の方へ歩いてくるつかさの姿があった。
……なんだその一仕事終えました、みたいな顔は?

「携帯は無事奪還できた?」
 こなたの声に、えへへーと笑いながら携帯を取り出すつかさ。カエルのストラップが揺れている。
「授業中はマナーにしとけよ」
 そのアホ面の万年軍曹蛙に向けて言ってやる。つかさの事だ、どうせまた同じような失敗するんだろうよ。
 だからな蛙軍曹殿、お前が携帯をちょっと弄ってマナーモードに設定してやってはくれないか。
それができりゃ、俺の権限で二階級特進くらいはさせてやってもいいぞ。

 ケロロ少尉ってなんか強そうで腹立つな、と考えながら弁当箱の蓋を開くと、隣に座ったつかさが
「お兄ちゃん、お弁当……どうしたの?」
と、──どこか不安そうに──言う。
 そういや、さっきも同じような事訊かれたな。

「あれだ、お弁当交換ってやつだ。これは谷口……ああ、俺のクラスの奴の弁当でな。
 俺の弁当は今、谷口が食ってるよ」

 それを聞いたつかさの顔が、どういう訳か悲しそうに、それも束の間……

「おにぃちゃんの……」

徐々に、──ああ、つかさのこんな顔は久しぶりに見るな──
怒りを秘めた、泣き顔になって……

「おにいちゃんの、ばかぁーっ!」


 ……怒号にぐわんぐわんと揺れていた脳味噌がやっと落ち着いた頃には、つかさは教室から姿を消していた。
つかさに怒鳴られた、という事実も認識できないうちに。















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  • 谷口自重汁 -- 名無しさん (2008-05-08 20:38:53)

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