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あなたのかがみ 第4話 "コハルビヨリ(前編)"

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それはまるで、さっきまで見ていた夢のように。
 11月の正午に吹く、風のように。
 今、指を絡ませながら繋いでいる右手のように。
 朧気で----だけれど確かに残る記憶。
 家族よりも近くて、友達より遠い"妹"が、私の"恋人"になった日。

「つかさぁ、起きてるー?」
 それは高校1年の12月----良く晴れた日で、神様が季節を間違えたような
温もりが窓の外から漂う、空がとても遠く澄んでいた
小春日和の朝だった。
 春には皆が同じ匂いだった制服も、そろそろそれぞれの家の匂いに
馴染んで----無意識に袖を通すいつも通りの朝。
 つかさはまだ、夢の中だった。

「おーい、つかさぁ! ほんとに遅刻しちゃうぞー」
 ----確かに布団から出たくないわよね。とは言わないけれど。
 "ふぅ"と口を開けずにため息をつきながらつかさの部屋の
ドアを叩き続ける。女子高生の朝は、慌ただしいのよ、なんて姉ぶったように。

「ふにゅう……おはよぉ~おねぇちゃん……」
「はい、おはよ。急がないとほんとにヤバイわよ」
「う~ん……そうするぅ……」
 こうしてほぼ毎日のように交わされる----いまいち噛み合わない朝の一コマ。
 何処にでもあるような、姉妹の会話。だけど、もう何年も----もう何年も
私は"意識して"こんな会話が、私たちが続くように心がけていた。

 7歳の七五三の夜に目覚めた力----誰かの心を映す"鏡"は、
私に人間不信と孤独と、そして実の妹が----私へと向ける
愛を教えてくれていた。
 "知らなければ良かった"、"知りたくなかった"と思う事が多過ぎて
心底疲れていた私にとってその真っ直ぐで、
どうしようもない愛情は私にとっての"救い"だった。
 いつもくっついて来て、甘えん坊で、ドジだけど、
私のために、私のためだけに見せてくれたその笑顔が、何より嬉しかった。

 だけど、中学に入学した頃に芽生えた"疑問"。
 今まで当たり前に映していた、つかさがくれる私への"愛情"がもしかすると、
もしかすると家族に向けるべき愛では無いんじゃないか、と、いうこと。

 それが思春期の始まり。

私は怖かった。
 つかさが。では無くて、つかさと私が違ってしまうのが。
 だから手を繋いでも指を絡ませなくなった。
 ----つかさの胸が高鳴るから。確信なんてしたくなかったから。
 常に誰かを、つかさ以外の人の心を映して、
応えられたらと、思うようになった。
 ----つかさとの今が壊れないように。壊してしまわないように。
私が気付いてしまったら、YesかNoを告げなければならなくなるから。
 つかさを傷つけてしまうかもしれないのは、本当に----本当に嫌だったから。

 そんな思いで、私の、私たちの中学生活は過ぎていった。
 いつもどこかで辛くて、つかさの笑顔が眩しすぎて。優しさが暖かすぎて。
 気付かないふりしている自分が、とても辛くて。
 誰にも聞こえないように、誰にも知られないように、夜、泣いた。
 その度、"矛盾している"と声を殺した。
 違う部屋で良かったと心底思った。
 つかさが夜中隣に潜り込んでも、気付かないふりを、寝たふりをした。
触れる手に、擦れ合う衣音に、つかさの想いが伝わってとても痛かった。
 何故、痛いのか解らない痛みがとても怖かった。

 "あぁ私は、暗闇の中踊り続けているのです----"
 そんなフレーズに涙が零れた受験勉強中のAMラジオ。
 理由の解らない痛み。
 応えられないから?
 眩しすぎるから?
 つかさとは違うから?
 私とは違うから?
 ----違う。違う! 違う!

 だからそれらしい言葉を、
痛みの"理由"を知る為に小説を読んだ。勉強をした。
 ----だけど分からなかった。
 いろんな人と話した。峰岸や日下部と友達になった。たくさん笑った。
 ----だけど分からなかった。
 だけどそれは----皮肉にも私に"鏡"のうまい使い方を教え、
バカ騒ぎ出来るクラスメイトを、年齢相応の知識と羞恥を、
進学校に----陵桜学園に入学出来るほどの学力を私に与えることとなった。

 ----それでも、痛みは消えなかった。

結局、一番大切な事だけが解らないまま私の中学生活は終わった。
 その後、私はストレートに、つかさ周囲の反対を押し切って
陵桜学園へと入学すると、光は、割と、すぐ近くに在ったと
気付かされる事になる----
 新緑が揺れる、高校生になって初めての何気ない5月の放課後に。

「あなたが……泉こなたさん?」
「そうだよー。あなたがつかさの双子のお姉さんの……かがみさん?」
「かがみでいいよ。泉さん」
「私も、こなたって呼んでよ。かがみん♪」
「かっ……かがみん!?」
「あれ? いけなかった? かがみだから、かがみん」
「いっ、いや、そう言うわけじゃ……」
「それにしても、見事だよねぇー。つかさがおっとりしてる分
"しっかりしたお姉さん"!って感じで。それにツインテールで
ツンデレ分までカバーしてるなんてすごいよ。
いや~世の中何があるか分かんないねぇ!
こんな近くにこんな萌え要素に恵まれた姉妹が、しかも双子で!
そんな人に出会えるなんて……私、陵桜に来てよかったよぉ」

 まるで春に訪れた嵐だった----泉こなた、彼女との出会いは。

「ちょっ、ちょっとつかさ! 何よこれ! どうすりゃ良いのよ!」

 戸惑う私、微笑むつかさ。思えばもう最初から、出来上がっていた"方程式"。

「あのね、こなちゃんはアニメとか漫画がすごく好きなんだってー。
それで、私がお姉ちゃんの話したら是非会いたい! って。
"そんな絵に書いたようなツンデレが本当にいるの?"って……」

 こなたは最後の"="だった。

「だっ……誰がツンデレなのよ! つっ、つかさ! あんたいったい
この子に何話したのよっ!」
「えーっと、それは……」

 神出鬼没。天真爛漫。それで居てどこか心地よい柔らかな----
 "痛み"を知った優しい少女だった。

「それはね……むふ。かがみん。
中学に入った頃、部屋が別々になって泣いてるつかさに
"仕方ないでしょ! あんたの為でも……あるんだから"って言った事とか、
高校の受験勉強の時もつかさに"もう、仕方ないわね"って言いながら
優しく勉強教えてあげてた事とか……その他いろいろ」
「何よ、その他いろいろって。それに! 別に変な事言ってないじゃない。
つかさは甘えん坊だから、それに気を付けなきゃいけないのは
姉として当たり前の事でしょ?
それに頑張ってる妹に出来る事があればしてあげるのも、
姉として当然じゃない。それの何がおかしいのよ」

 "当たり前"が、決して"当たり前ではない"と知っている少女。

「んーでもさ、それをちゃんとしてあげるのは、
姉妹であろうとなかろうと、かがみんがつかさの事、大好きだからでしょ?」

 だから気付かされた。

 "最初から"それが"私のすべて"だった、と。

「そっ、それは……」
「それにさ、つかさはいつも私にかがみんの話をした後
"お姉ちゃんが大好き"って言ってるよ、ねっ、つかさ」
「えっ……」
「こっ、こなちゃん……はずかしいよぉ……」
「相思相愛、って事だよかがみん。
まぁでもそれが家族愛なのかそうじゃないのか、までは解らないけどねー
いやむしろ……そうじゃない方が私としては……って、かがみん!?」
「お、お姉ちゃん!?」
私は走り出した。
 リノリウムの床を蹴って、何処までも。どこまでも。
 なんだ。
 答えはこんなに簡単だったんだ。
 なのに3年も解らないなんて----いや、解らないふりをしていたなんて。
 知れば、必ず傷つくから----
 "つかさが"傷つくのが怖いんじゃなくて、"私が"傷つくのが怖いから。
 勇気が無いだけだ。
 知ろうとしなかっただけだ。
 目を背けて、本当の事から逃げていたんだ。
 勉強をして、バカ騒ぎをして、本を読んで。
 だけどどれも満たされなかった。満たされはしなかった。
 だって最初から知っていたんだ----"どうすれば"満たされるかなんて。
 どこに答えがあるかなんて。
 私の"鏡"は、いつもつかさが、いつも私を愛している。と、映していた。
 7歳の頃から、もしかすると、もしかすると生まれる前から。

 変わってしまったのは----姉妹として見れなくなったのは……私。

 そうか、そうだったんだ。

 私がつかさを----愛してしまっていたんだ。

 それから----私は宛てもなく走り、学校を軽く一周してから
1年教室棟に戻ると、つかさとこなたに"いったいどうしたの?"
と、聞かれたけれど、私は答えられず誤魔化して教室に戻った。
 3年間探していた答えを見つけても、そこは、まだ、変われなかった。
 あまりに二人が真っ直ぐで、眩しすぎたから。

 ----その後からの私は、答えを見つけた"喜び"と、
気付いてしまった"恐怖"が、ない交ぜになりながら夏と、秋を過ごした。
 血の繋がった"姉妹"に"片想い"している自分を認めるのは、
乗り越えるにしてはあまりに大きな壁だったから。

 だから何度も深呼吸をしながら片想いをしていた。
 気付かれないように、気付かれないように。

 そしてその日も私は深呼吸をして、いつも通りのおはようを言って。
 やっと。
 やっと大きな一歩を踏み出せたのは、
本当の----本当の答えを見つけたのは、
新緑だった葉が散って、吐く息が白くなり、凛とした寒さの中。
ぽっかりと一日だけ神様が季節を間違えたような日差しが窓の外に漂う、
 12月の----小春日和のあの日だった。





後編に続く













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  • かがみ可愛いですね〜
    大至急続きをお願いし
    ます。是非とも! -- チャムチロ (2012-08-27 21:56:31)
  • GJでした。続きまってますよ!! -- つみき (2011-02-05 15:51:52)
  • GJしか言えない‥‥!!
    続きが気になります! -- 名無しさん (2009-01-25 13:37:35)
  • なんだろうこの既読感・・・
    ネタとかでなくて文章のノリが.
    そんなことよりも続き渇望!! -- 名無しさん (2009-01-22 09:23:11)
  • こなたが邪魔だ・・・ -- 名無しさん (2009-01-04 10:38:31)

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