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「で、ここはこの構文を使って……こっちの問題はこの熟語が……って聞いてるの、あんた。」
「聞いてますよ~。」
「嘘つくな!おもっいっきり上の空だったじゃないの!」
土曜日。私とかがみは前回の約束通り学校の自習室に来ている。
さっきからかがみは問題の解説をしてくれてるけど、その解説も何を言ってるのかさっぱりわからない。
理解するのを諦めた私はずっと聞いたふりをしていた。
けど、聞いてないことがバレないよう、適度にうんうん、と相槌を打つのも思った以上に面倒くさい。
「……というわけ。わかった?」
「うん、わかった。」
もちろん一つもわかってないけどね。
「じゃあ、私は自分の勉強に戻るから、あんたもそれ仕上げられるように頑張りなさいよ。」
そう言ってかがみは席に戻り、英単語帳を開いて読み始めた。
かがみのいった「それ」とは私の机に広げてある、真新しい英語の問題集のことだ。
この問題集はここに来る行きしなに、「これ、薄いから帰るまでに頑張って一冊全部しあげること!」
といった、とんでもない言葉と共にかがみに渡されたものだ。
問題集の裏表紙のアオリ文によると、分量も少なめで、問題自体も基礎レベルの易しめの問題集なんだそうだけど、
高校入って以来、授業をサボりつづけてきた私にはこの問題集ですら東大入試と同じ位難しく感じてしまう。
確かにかがみが私のために自分のお金で買って来てくれたってのは嬉しい。でも出来ればこんな問題集なんかじゃなく、
マンガを買ってきてくれた方が百倍は嬉しかったんだけど……。
そう思うとため息が出てくる。今日はとにかくつまんない。


確かにこういう展開になったのは私の自業自得なんだけど、かと言って学校の自習室をデート場所に選ぶのは
いくらなんでも酷いと思う。
これが私か、かがみの部屋ならば適当におしゃべりしたり、いっそのこと喋るだけじゃなくて、
かがみにベタベタと甘えまくって、あんなことやこんなことして、気づいたらいつの間かヤっちゃってた……
な~んてえっちなSSみたいな展開に持って行くことも出来たかもしれない。
けどここは学校の自習室。私達以外にも人がいるから勉強に関係したこと以外の話は迷惑になるから出来ないし、
人前であんなことやこんなことするのは流石に私でも出来ない。
そういった私の行動を読んで、かがみはここを選んだのかも。
と考えると、かがみんもなかなかの策士だね。
時計を見ると今は一時を過ぎたところ。自習室の閉館時間は六時。
あと五時間はここに居なきゃいけない。
今なら言えそうだ。……絶望した!と。

=====================================

「あ、頭がズキズキして痛い……。」
「普段から勉強してないからそうなるのよ。」
六時を過ぎ、学校が閉まったので、今は帰る途中だ。
あの後、かがみに問題集の答えを持ってかれてしまったこともあって、しょうがなく自力で問題集をやる羽目になった。
普段使わない頭を急に使うとものすごく頭が痛くなる。
「頑張ったけど結局、最後まで行かなかったな~。」
残り四ページまで行ったところで六時になってしまったから、問題集をやり遂げることは出来なかった。
「まあ、普段自力で勉強しようとしないあんたにしては今日はよくやったと思うわよ。
もともとちゃんと終わらせられるなんて全然思ってなかったしね。」
誉めてくれてるんだろうけど、なんか釈然としない。
「でもかがみは凄いね。よくもまぁこんだけ長い時間黙々と勉強続けられると思うよ。」
私がこまめに休憩しながら勉強してたのに対して、かがみが休憩を取ったのは、私とコンビニにお昼を買いに行った
時ぐらいだ。
「ん~、だけどもう少し休憩をいれても良かったかも。最後のほうは疲れて集中に欠けたちゃったし。」
「それにしても、どうしてそこまで勉強を頑張ってやろうと思えるの?」
一体、何にがそこまでかがみに勉強へのやる気を与えているのか。私はその正体が知りたいと思った。
「私だって本当はもっと本読んだり、ゲームしたり、こなたと一緒に遊んだりしたいよ。
それでも勉強を頑張るのは、やっぱり弁護士になりたいから、かな。
将来の目標のために今頑張って勉強しとかないと。って思ってね。」
将来の目標か……それがあれば私もかがみのように勉強を頑張れるのかなぁ?
なんて思っているうちにかがみと別れる道にたどり着いたので、ここでかがみと別れて、後は一人で家に帰った。


家に帰ってきた私はまずベッドに寝そべった。
勉強を終わってから結構時間は経つのに頭の痛みは全然治まらない。
少し眠れば治るかな、と思ったけど頭の痛みのせいで目が冴えて、なかなか寝付けない。
寝るのはあきらめて、ただ天井をぼーっと見上げていた私は、なぜかいままでの学校生活を思い返す。
……もう二年も前のことだ。
一年生の春。私はつかさ、かがみ、みゆきさんと出会った。
次の春が訪れて、私は二年生になった。皆とお花見に行ったり、
七夕の日につかさとかがみの誕生日パーティを四人でやった。
夏休みにはゆい姉さんやななこ先生も一緒に海に行った。秋は体育祭や文化祭なんかがあって、
冬になって、クリスマスパーティしたり、つかさとかがみと私でコミケに行ったり、お父さんと初詣行ったり
バレンタインにはチョコの渡し合いなんかもやったりしたなぁ。
そして三度目の春に私とかがみは「恋人」になった。その時のことは今でもはっきり覚えてる。
春が過ぎて夏になって、夏もいままでの二年間と変わらず自堕落に過ごして、気がつけばあっという間に九月。
もうすぐ修学旅行があって、それが終わって最後の体育祭と文化祭がある。
それもまた終わって冬になったら、かがみとみゆきさんは受験があって、冬を越えたらまた春になって……
春になって……春になって……。
そこで私は当たり前のことに気いた。
次の春にはもうかがみも、つかさも、みゆきさんも、そして私も陵桜学園にはもう居ない。
来年の春からは皆はそれぞれ、自分の道決めた道を進んで行く。
そして今はみんな次の春から自分の進みたい道を進めるよう、勉強とか頑張ってるんだよね。
つかさは料理の道を。かがみは弁護士への道を。みゆきさんは医者への道を。
でも私は?私はどの道に進むの?どの道に進みたいの?
そんな疑問をいくら自分に問い掛けても答えは出てこない。当たり前だ。そんなの一度も考えたことないから。
いまさらになって自分の将来をロクに考えもせずダラダラと過ごしてきたことを後悔する。
でもこのまま特に進路も考えずに適当にこれからの二学期、三学期を過ごすと、
それこそ本当にニートになってしまうかもしれない。
……ニート。その言葉が急に現実味を帯びた言葉になる。
今までは半ばテレビでしか見たことのない遠い存在のもの。
それが急に、他人事ではなくなるかもしれないという事実に私は愕然とする。
それだけじゃない。一度生まれたネガティブな考えは止まることなくどんどん発展していく。


今まで私は、この先に私達が卒業しても、かがみとは恋人だからこれからも離れ離れになることはない。そう思ってた。
でも考えてみれば、私とかがみは「恋人」だけど、永遠にこのまま愛し合う関係で居られる保証なんてどこにもない。
次の春からは私がどんなにかがみと会える時間があっても、
かがみは高校の時よりもっと勉強に忙しくなるだろうから、私と会うことも恐らく少なくなると思う。
そんな状況で、特にすることもなくただ毎日を自堕落に過ごす私をかがみは好きで居続けてくれるかな?
……答えは多分ノー、だろうな。
もちろんそんなのは嫌だ。私は毎日でもかがみと会いたいし、ずっとかがみに愛されていたい。
だからこのままじゃいけない。でもどうしたらいいんだろう?どうやったらかがみとずっと一緒にいられるんだろう?
何かいい方法はあるのかな?
少し考えただけで答えは浮かぶ。たった一つだけ方法があった。
かがみと、次の春からも一緒に居ることが出来る方法が。
私は自分自身の出した問いに答えを出したら、すぐにベッドから起きて携帯を手に取り電話をかけた。
「どうかしたの、こなた?」
電話の相手すぐに出た。私の最愛の人だ。
「ちょっとお願いがあってね。」
「お願い?お願いってなに?」
「うん。えっとね、かがみにに勉強を教えてもらいたいなと思って。」
あくまで普段通りの声の調子で言った。
「……あれ?今あんたなんて言った?なんかよく聞こえなかったからもう一度言ってくれない?」
かがみは本当に聞こえなかったのか、それとも今私が言ったことが、にわかに信じがたかいものだったのか……
どちらでもいいや。もう一度言ったらいいことだし。
「かがみに勉強教えてもらいたいな~って。」
返事がない。
「………………。」
どうやら電話の向こうで凍りついてるっぽい……
「お~い、かがみん、また聞こえなかったの?」
「いや、聞こえたわよ。で、でも、え?え~!?何それ。あんたが勉強教えてなんてもしかして新手の冗談なの?」
まあ予想通りの反応だけど、なんかそこまで言われると失礼だな。


「私は本気だよ?」
まだ半信半疑なかがみに、冗談じゃないことを伝えるためにいつもより低い声で言った。
その声のトーンでかがみも私が冗談を言ってるわけじゃないことに気づいたようだ。
「でも急にどうしてなの?まさかあんた、またマンガで変に影響されたとかじゃないでしょうね?」
「違うよ。」
「じゃあ、どうして?」
「私達は来年の春には陵桜学園を卒業して、離れ離れになっちゃう。
けれど、私はかがみと離れ離れになりたくない。ずっとかがみと一緒にいたい。
で、私は思ったの。私も一生懸命勉強してかがみと同じ大学に行ったら、来年の春からもずっとかがみと一緒に
いられると思ってね。」
そして願わくばかがみと共に弁護士に……と言うのはちょっと虫がよすぎな気がしたので言うのをやめた。
少し間を置いてかがみは言う。
「あんたね、確かにその勉強しようとするその気持ちはとても良いことよ?
私とずっといたいって気持ちもわかるし、嬉しいわ。
けど、そんな安直な進路の決め方は良くない。あんたにはあんたなりの夢とか目標とかないの?」
かがみはそんな痛いとこをついてくる。でも私も引き下がれない。
「私は特にやりたいこともないから、このままぼーっとして、高校を卒業してもニートになるだけ。
仮にやりたいこと探すとしても、今からじゃ見つけたとしても、見つけた時にはもう卒業前だよ。
それに、勉強もロクに出来ない今の私が焦って目標を探すより、
大学に入ってからゆっくりと目標を決めた方が選択肢も多いと思うしね。
だから、例えどんなに動機が不純だとか安直だ、とか言われてもいい。
かがみとまた一緒に居られるように、そのために残りの高校生活をそのために思いっきりぶつけてみたい。」
言ってから沈黙が流れる。まだかがみは何も言ってこない。一分が経ち、二分が経って、
そろそろこの沈黙に耐えれなくなった私がもう一言、何か言おうとした時、かがみはようやく口を開いた。
「……どうやらあんたも本気みたいだし、確かに言ってることも一理あるわね。わかったわ。あんたの受験、手伝ってあげる。
けど、正直言って今のあんたの実力から見ると、今から勉強しても合格する可能性はかなり低いわよ?
ちょっと勉強しただけですぐに自分の実力のなさに気づくと思うわ。
でも、頑張ると言ったからには、それで限界を感じてすぐ諦める……っていうのはやめてね。」
「うん、わかってる。自分の実力のなさにはすぐ気づくと思うよ。けどね、たとえ可能性は低くとも、
私は最後まで諦めずにやり遂げてみせる自信はあるよ。」


「ほぉ。言うじゃない。しかし、あんた今、えらく自信ありげに言ったけど、
その自信は一体どこから来るのよ?」
「ふふふ、かがみん。私は好きなモノのためならば、
それを手に入れるため情熱と気力を注ぎ込むのを惜しまない女なのだよ♪」
「……好きなモノ?好きなモノって、なによ?」
「決まってるじゃん。かがみだよ。私はかがみのためならどんなに辛くとも勉強頑張れる自信があるよ?」
「なっ!な……、バカ!何そんな恥ずかしいこと言ってるのよ!」
あ~、かがみんが電話の向こうで照れてるのがこの声の様子だけでわかるよ。
ホントに照れるかがみは可愛いなぁ。
「まぁ、とにかく。明日も日曜で休みなんだし、早速勉強始めるってことで、明日あんたの家に行こうか?」
「よし、そうしよう。大体お昼ぐらいに来て~。」
「わかった。じゃ、また明日ね。おやすみ。」
「ん、おやすみ~。」
そう言って私は携帯の通話を切った。
電話を終えて、私もまたずいぶん無謀なこと宣言しちゃったなと思う。
お父さんやななこ先生が聞いたら驚いて倒れるかもしれないくらいだ。
決して思いつきで言ったわけじゃない。けれど、今までロクに勉強したことのない私がいきなりの受験生宣言。
そんな私がこれからどこまでやれるか。それを考えると、不安じゃないと言えば嘘になる。
でも、言ってしまった以上、今不安に怯んでいる暇はない。
とりあえず、やれるだけやってみよう。それでダメなら仕方ない。それでダメだったら、またその時に考えよう。
手にしていた携帯を机に置いて、窓の外を眺める。
――お母さん、見てくれていますか?あのね、私、これから生まれて来てから今までの中で一番大っきな賭けに出るよ。
だから、もしよかったら出来る限りでいいから神様にゴマを擦っておいてくれないかな?――
心の中でそう呟いた。
窓から時計に目線を移すともう八時だ。受験までの時間は少ない。やると決めたからにはすぐにでもやらなくっちゃ。
善は急げってやつだ。
私は勉強机に座って、まず手始めに今日貰った問題集の復習から始めることにした。



おしまい。














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  • 面白かったです。続編見たい
    です!お願いします!! -- チャムチロ (2012-07-29 21:29:28)

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