モンゴル族の自然観の再検討ー内モンゴルの環境問題克服のためにー
農学府共生持続社会学専攻 環境倫理学研究室
那日格拉(ナリグラ)
農学府共生持続社会学専攻 環境倫理学研究室
那日格拉(ナリグラ)
1.研究背景
人間は自然環境の恩恵の中で生活様式を成り立たせてきた。しかし、近代化・工業化の過程で人間は自然を支配し、搾取するようになった。
⇒日常的環境問題(ゴミ処理問題等)や、温暖化、砂漠化などの環境問題が深刻化している。
内モンゴルでは、かつて遊牧民が住んでいた土地に農民(漢民族)が移住し草原を開墾した。清朝期から始まった農業の浸透と中華人民共和国成立後の体制転換を機に、遊牧社会そのものが変容し始めた。
1949年の新中国建国後、漢民族が長城を越えて漠北と新疆へ大量移民を始めて以降、59年から61年には全土が自然災害に遭った。内モンゴルへは192万人が移民し、47年では569万人だった人口が90年には2145万人に増えたのである。漢民族による草原への急速な侵入と過剰開発によって、自然の生態系は激変し、草原が急速に退化していった。
⇒日常的環境問題(ゴミ処理問題等)や、温暖化、砂漠化などの環境問題が深刻化している。
内モンゴルでは、かつて遊牧民が住んでいた土地に農民(漢民族)が移住し草原を開墾した。清朝期から始まった農業の浸透と中華人民共和国成立後の体制転換を機に、遊牧社会そのものが変容し始めた。
1949年の新中国建国後、漢民族が長城を越えて漠北と新疆へ大量移民を始めて以降、59年から61年には全土が自然災害に遭った。内モンゴルへは192万人が移民し、47年では569万人だった人口が90年には2145万人に増えたのである。漢民族による草原への急速な侵入と過剰開発によって、自然の生態系は激変し、草原が急速に退化していった。
2.研究目的
モンゴル族と漢民族に共通する自然観である「天人合一」を比較検討し、両者が同じ言葉で異なる自然観を表していることを明らかにする。
そのうえで、モンゴル族の遊牧生活における自然観を再検討し、草原地域に適合する自然と人間との関わりの在り方を模索する。
そのうえで、モンゴル族の遊牧生活における自然観を再検討し、草原地域に適合する自然と人間との関わりの在り方を模索する。
3.漢民族における天人合一(自然観)
孟子、董仲舒
「天人合一」とは、天(自然)は人間に合わせることはできず、人間が天に合わせるべきであるという自然観である。天(自然)が本体であり、人間は天に順応する。
「天人合一」とは、天(自然)は人間に合わせることはできず、人間が天に合わせるべきであるという自然観である。天(自然)が本体であり、人間は天に順応する。
中華人民共和国の成立後、自然観の変化
荀子「天人相分」⇒「人間は必ず天に勝つ」
自然破壊の深刻化⇒漢民族の天人合一の見直し
4.モンゴル族における天人合一(自然観)
自然は生命体であり、自然にあるすべての物は相互に依存して一つの全体になっている。人間もまたその一部であり、人間と自然の調和一体を強調する。(宝力高 )
(1)天への畏敬
(天の祀り、オボの祀り)
(2)動物の崇拝
(鳥類崇拝、祖先・神としてのオオカミ崇拝)
⇒草原の持続的な利用
⇒遊牧社会の自然観
(天の祀り、オボの祀り)
(2)動物の崇拝
(鳥類崇拝、祖先・神としてのオオカミ崇拝)
⇒草原の持続的な利用
⇒遊牧社会の自然観
漢民族の天人合一
⇒農業社会の産物(農業的自然観)
モンゴル族の天人合一
⇒遊牧社会の産物(遊牧的自然観)
⇒農業社会の産物(農業的自然観)
モンゴル族の天人合一
⇒遊牧社会の産物(遊牧的自然観)
農業と遊牧の生産方式のちがい
農業⇒「原生態自然」(原生自然)を人的自然に改造して、樹木を伐採・開墾する。乱伐採、乱開墾によって生態を破壊する。
遊牧⇒「原生態自然」をそのままに持続的に利用する。自然への依存性が高いため、自然環境との調和を強調する。
農業⇒「原生態自然」(原生自然)を人的自然に改造して、樹木を伐採・開墾する。乱伐採、乱開墾によって生態を破壊する。
遊牧⇒「原生態自然」をそのままに持続的に利用する。自然への依存性が高いため、自然環境との調和を強調する。
5. 農業的自然観の不適合
近代化、工業化以降、内モンゴルでは、漢民族の自然観に基づく農業政策がとられるようになった。
⇒遊牧的自然観が求められる自然環境に対して、農業的自然観が用いられた。
⇒内モンゴルの自然環境、遊牧文化を破壊
6.内モンゴルで実施された農業政策
中国で行われていた「中国農村普遍的家庭生産請負制」を、1983、1984年から内モンゴルに適用
(1)家畜の請負政策によって、遊牧生活が変化(五種類の家畜をまとめて遊牧しない等)。それによって草原は退化してしまった。
(2)牧場の請負政策によって、草原の退化を食い止めようとしたが、逆に退化が進んでしまった。
(1)家畜の請負政策によって、遊牧生活が変化(五種類の家畜をまとめて遊牧しない等)。それによって草原は退化してしまった。
(2)牧場の請負政策によって、草原の退化を食い止めようとしたが、逆に退化が進んでしまった。
7. 農業政策失敗の原因
遊牧に適した土地に対して、農業政策を行ったため。
内モンゴル(モンゴル族) 中国(漢民族)
「退牧還草」 ⇒ 「退耕還林」
「休牧禁牧」 ⇒ 「休漁禁漁」
内モンゴル(モンゴル族) 中国(漢民族)
「退牧還草」 ⇒ 「退耕還林」
「休牧禁牧」 ⇒ 「休漁禁漁」
農業地域・・・定住、生態・気候の安定性
草原地域・・・移動、生態・気候の変動性
草原地域・・・移動、生態・気候の変動性
⇒草原地域である内モンゴルには、農業文化は適合しない。
8.草原地域に適合する遊牧生活様式
草原に負荷をかけない生活様式
(1)遊牧
季節ごとに移動しながら自然を利用
(2)生活様式
草原における水資源の共同利用、ごみ処理、馬、牛の糞の利用、葬式
(3)宗教、信仰
生命畏敬、自然神崇拝(天の祀り、オボの祀り)
季節ごとに移動しながら自然を利用
(2)生活様式
草原における水資源の共同利用、ごみ処理、馬、牛の糞の利用、葬式
(3)宗教、信仰
生命畏敬、自然神崇拝(天の祀り、オボの祀り)
⇒これら三つが合わさることで、遊牧文化における生活様式は成り立ってきた
9.遊牧生活の見直し
遊牧文化と遊牧民について論じるとき、多くの人々は、農業文化と工業文化に照らして、しばしば遊牧文化を人類の最も遅れた、原始生産方式の一つと論じる。
しかし、1000年を超える歴史の中で、モンゴル族は脆弱な草原地域の自然環境と資源を保護しつつ持続的に利用する遊牧生活様式を編み出し、自然と人間を調和させてきた。この中に深い自然観がふくまれている。
しかし、1000年を超える歴史の中で、モンゴル族は脆弱な草原地域の自然環境と資源を保護しつつ持続的に利用する遊牧生活様式を編み出し、自然と人間を調和させてきた。この中に深い自然観がふくまれている。
⇒モンゴル族の天人合一(自然観)の再評価
10. 「本土地生態意識」と風土
政府の政策が失敗した原因は、遊牧生活様式を無視したことにある。今後の草原利用については、「本土地生態意識」が重要となる。
※「本土地生態知識」とは、特定の民族や特定の地域の住民の中で、世代を通じて蓄積された自然と生態システムについての経験則のことである。
11. まとめと今後の課題
「本土地生態意識」を重視することは昔に戻れということではない。その土地に適した自然と人間との関わりの在り方を模索することである。
その際に、かつて草原に負荷をかけない利用を行っていたモンゴル族の自然観には、見直すべきものがある。
その際に、かつて草原に負荷をかけない利用を行っていたモンゴル族の自然観には、見直すべきものがある。
⇒このような視点は風土論(亀山)とも関わっており、今後両者の関係性についての考察を深めたい。
参考文献
『東洋的環境思想の現代的意義』の「儒家の生態環境思想とその現代的意義」王家驊
「荘子の「天、人」説と自然と人間の関係」 陳紹燕
『蒙古族传统生态文化』宝力高 2007 内蒙古教育出版社
『中国の環境政策生態移民 』小長谷有紀、シンジルト、中尾 正義2005 地球研叢書
『草原のロジック』韩念勇 2011.6 北京科学技术出版社
『遊牧中国』 刑莉 2005.12 北京新世纪出版社
『モンゴル族の生態知恵論』乌峰,包庆德 2009 遼寧民族出版社
『制度視域下の草原生態環境保護』盖志毅2008 遼寧民族出版社
「荘子の「天、人」説と自然と人間の関係」 陳紹燕
『蒙古族传统生态文化』宝力高 2007 内蒙古教育出版社
『中国の環境政策生態移民 』小長谷有紀、シンジルト、中尾 正義2005 地球研叢書
『草原のロジック』韩念勇 2011.6 北京科学技术出版社
『遊牧中国』 刑莉 2005.12 北京新世纪出版社
『モンゴル族の生態知恵論』乌峰,包庆德 2009 遼寧民族出版社
『制度視域下の草原生態環境保護』盖志毅2008 遼寧民族出版社
ご清聴ありがとうございました
問題とコメント
1・政策なぜ内モンゴルに失敗したのか、具体的に言うこと。また内モンゴルにいる農民(漢民族)は内モンゴルへ愛着を持っているか?
→内モンゴルにいる農民(漢民族)も、内モンゴルへの愛着を持っているが、農民と遊牧民とは生活様式が違うから、愛着の出方が違う。畑と草原との違いもある。
2・中国の道教にも自然と人間のかかわりの思想があるが。
→遊牧するにあたって、遊牧する範囲を決めてから回っているか、それとも決めていないかの違いは大きい。
道教にも自然と人間のかかわりの思想はあるが、儒家のほうが、主に天人合一思想に注目している。
→内モンゴルにいる農民(漢民族)も、内モンゴルへの愛着を持っているが、農民と遊牧民とは生活様式が違うから、愛着の出方が違う。畑と草原との違いもある。
2・中国の道教にも自然と人間のかかわりの思想があるが。
→遊牧するにあたって、遊牧する範囲を決めてから回っているか、それとも決めていないかの違いは大きい。
道教にも自然と人間のかかわりの思想はあるが、儒家のほうが、主に天人合一思想に注目している。