●宮澤賢治(みやざわ けんじ1896 - 1933)
日本の詩人・作家・教師・農業運動家。生涯を通じて法華経に傾倒。
「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」というテーゼに象徴される彼の理想主義的な世界観は、日本の教育者、エコロジストたちに今日にいたるまで強く影響を与えている。また、『春と修羅』、『銀河鉄道の夜』などに代表される、自然科学や仏教の専門用語を織り交ぜた彼の作品群は、自然の美しさや人と動物の関係性の豊かさを讃美しているとして、主に童話作品として肯定的に広く受け入れられている。
だが、(思想家としてだけでなく)作家としての宮澤賢治を参照するにあたっては、彼が厳密な意味で比喩から離れている点は重要である。
彼の詩句は、他の近代日本の童話作家、詩人のそれらと深く組成を異にしている。つまり、賢治の文言の細部は、あらかじめ想定された一つの観念=世界観を表象するためのイメージではなく、それ自体が伝達されるべき実体であり、それゆえ要約不能である。
賢治は自らの分裂病的な幻聴と幻覚に魅惑されている。生前に出版された『注文の多い料理店』『春と修羅』の序文では、風や電灯、架線や月明かりから彼に聴覚的-痙攣的な体験が訪れたことがくり返し述べられており、彼に聴かれた要約不能な声によって作品の語彙を得たことが強調されている。賢治作品に特徴的な、一貫する自己超克的な調子は、ふつう考えられているようにその教条主義によってではなく、むしろ彼自身の聴覚ファンタスムを情動のレベルで他者へと伝達する作業――「まことのことば」の探査の真摯さによって支えられている。
鹿と農民の交感を描いた「鹿踊りのはじまり」(1921)以降、この「まことのことば」の探査は『銀河鉄道の夜』に至るまで、モチーフとして多様な変奏をされるている。とくに『銀河鉄道の夜』第四稿においては、少年ジョバンニがカンパネルラをはじめとする死者たちとのあいだに生じる言語的齟齬と、歴史-地層的時間の人為的探査能力の向上が呼び覚ます、ジョバンニにとっての世界観の変更のプロセスが描かれている。
日本の詩人・作家・教師・農業運動家。生涯を通じて法華経に傾倒。
「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」というテーゼに象徴される彼の理想主義的な世界観は、日本の教育者、エコロジストたちに今日にいたるまで強く影響を与えている。また、『春と修羅』、『銀河鉄道の夜』などに代表される、自然科学や仏教の専門用語を織り交ぜた彼の作品群は、自然の美しさや人と動物の関係性の豊かさを讃美しているとして、主に童話作品として肯定的に広く受け入れられている。
だが、(思想家としてだけでなく)作家としての宮澤賢治を参照するにあたっては、彼が厳密な意味で比喩から離れている点は重要である。
彼の詩句は、他の近代日本の童話作家、詩人のそれらと深く組成を異にしている。つまり、賢治の文言の細部は、あらかじめ想定された一つの観念=世界観を表象するためのイメージではなく、それ自体が伝達されるべき実体であり、それゆえ要約不能である。
賢治は自らの分裂病的な幻聴と幻覚に魅惑されている。生前に出版された『注文の多い料理店』『春と修羅』の序文では、風や電灯、架線や月明かりから彼に聴覚的-痙攣的な体験が訪れたことがくり返し述べられており、彼に聴かれた要約不能な声によって作品の語彙を得たことが強調されている。賢治作品に特徴的な、一貫する自己超克的な調子は、ふつう考えられているようにその教条主義によってではなく、むしろ彼自身の聴覚ファンタスムを情動のレベルで他者へと伝達する作業――「まことのことば」の探査の真摯さによって支えられている。
鹿と農民の交感を描いた「鹿踊りのはじまり」(1921)以降、この「まことのことば」の探査は『銀河鉄道の夜』に至るまで、モチーフとして多様な変奏をされるている。とくに『銀河鉄道の夜』第四稿においては、少年ジョバンニがカンパネルラをはじめとする死者たちとのあいだに生じる言語的齟齬と、歴史-地層的時間の人為的探査能力の向上が呼び覚ます、ジョバンニにとっての世界観の変更のプロセスが描かれている。
【参考文献】『宮澤賢治全集 1-10』<筑摩書房> 『農民芸術概論』より
2007/07/26 太田
2007/07/26 太田