影狼隊徒然記【阿弗利加南部戦線】前編
~ アムステラ軍・空中空母の格納庫内 ~
「・・・激しい撤退戦だとは聞いちゃあ居たがヨォ・・・だが、アンタら何で素っ裸なんだぁ??」
戸惑いの表情をありありと浮かべた痩躯の男が、呆れた様な口調で眼前に立つ全裸男達へと問い掛ける。
「これは我等が不退転の覚悟を示した『裸の兵士(ヌード・ソルジャー)』の正装!」
「そして私が! クラケット家の真の実力を発揮する為に全てを解放した、“レッド・スーツ・ボギー”改め!!」
「 “ オ ー ル ・ ヌ ー ド ・ ボ ギ ー ” ッ !! 」
「 “ オ ー ル ・ ヌ ー ド ・ ボ ギ ー ” ッ !! 」
髪もシモも赤い男が先触れとなり、粗末なブツをぶら下げた中年男が生まれたままの姿で堂々と仁王立ちを見せる。
「・・・しかし撤収も一段落した様ですし、もう通常軍務(レッド・スーツ・ボギー)に戻られても宜しいと思うのですがね。ボギヂオ大佐」
彼等の返答に対し、痩躯の男の隣に居る男は。苦笑しつつ、そう言った。
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~ 空中空母内・会議室 ~
軍服姿の男達が、テーブルを挟んで向かい合って座って居る。
その片側には赤毛の軍服男と赤い軍服の男が並んで座って居り、まずは赤毛の男 ― ジョーゲン ― が口を開く。
その片側には赤毛の軍服男と赤い軍服の男が並んで座って居り、まずは赤毛の男 ― ジョーゲン ― が口を開く。
「そちらでも把握されている通り、我々はあのギガント28号とアフリカ南部同盟軍によって無念の撤退を強いられる事となった」
「『第2陣の軍』の派遣と我々の交代に伴う間隙を、貴殿ら影狼隊が撹乱工作で埋めてくれるというのは有難い」
「『第2陣の軍』の派遣と我々の交代に伴う間隙を、貴殿ら影狼隊が撹乱工作で埋めてくれるというのは有難い」
もう片側に座るのは、よれよれの軍服を着た長身の男 ― バドス ― 。そして隣に座る中肉中背の軍服男 ― 影狼隊隊長 ― が状況報告をする。
「既に撹乱工作は行って居る。手始めに凶風十数機を各地域に分散させて、ジャミング電波を発信しつつ高高度空域を巡回させている」
「奴等の空戦機が復帰するまでの簡単な撹乱ではあるが、まぁ停戦協定に抵触せぬ程度で向こうの索敵妨害をやらせて貰おう」
「奴等の空戦機が復帰するまでの簡単な撹乱ではあるが、まぁ停戦協定に抵触せぬ程度で向こうの索敵妨害をやらせて貰おう」
影狼隊隊長は、更に状況報告を続ける。
「ついでに地上からも偵察を兼ねて、少々搦め手も仕掛けてみる予定だ」
「特に『ドラミング・A・GOGO!』と言ったか。あれも厄介だからな。ブラッククロスからの資料によると動物がパイロットだとか?」
「まぁしかし、それならそれで遣り様はある。快王エレコウ殿ほどでは無いが、獣相手の戦闘も心得ているのでな」
「特に『ドラミング・A・GOGO!』と言ったか。あれも厄介だからな。ブラッククロスからの資料によると動物がパイロットだとか?」
「まぁしかし、それならそれで遣り様はある。快王エレコウ殿ほどでは無いが、獣相手の戦闘も心得ているのでな」
そこへ赤い軍服の男 ― ボギヂオ・クラケット ― が口を挟む。
「だったら頼まれて欲しいんだけどね。ボギヂオ四天王のケリーオ君が、奴等の捕虜になっているんだよ」
「彼の所在と安否の確認と、出来れば救出までお願いしたいんだけどねぇ~」
「彼の所在と安否の確認と、出来れば救出までお願いしたいんだけどねぇ~」
「承知した。ではケリーオ氏の現状も調査するので、彼の識別用データを揃えておいて欲しい」
「うん、お願いするよ」「識別データは早速、手配しましょう」
「では、こちらからも一つ頼みたい。交戦時の話を訊いてみたいので、我々の協力者と少し面談をさせて貰えるだろうか」
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~ そして数分後 ~
影狼隊隊長とバドスの前に3名の男達が座る。色は違えど、いずれも似た意匠の覆面を被った筋肉質の男達である。
まず、左右に座る2人は。覆面が濃橙色と濃緑色の違いはあれど、いずれも身長1mそこそこの小人。
まず、左右に座る2人は。覆面が濃橙色と濃緑色の違いはあれど、いずれも身長1mそこそこの小人。
「キィィスキスキスサンキスト!僕の名はマスク・ド・サンキスト"金柑"っ!」
「ボクはマスク・ド・サンキスト"柚子"だよ。宜しくねぇ~ンッ!」
「ボクはマスク・ド・サンキスト"柚子"だよ。宜しくねぇ~ンッ!」
中央、黄土色の覆面男は偉丈夫。左右の2人が異様に小柄な所為で、その倍近くはあろうかと見える体格である。
「で、俺がマスク・ド・サンキスト"ザボン"だ。俺達一族は皆、耐撃の百文字を怨敵としている。だからアンタらに協力している」
「他にもまだ数名は居るンだが、別に面接やってる訳じゃ無ェしな。俺達3名で代表させて貰うぜ」
「他にもまだ数名は居るンだが、別に面接やってる訳じゃ無ェしな。俺達3名で代表させて貰うぜ」
自己紹介を終えた彼らは、各々の前に運ばれて来た飲み物 ― オレンジジュース ― を同時に取り、ストローを咥える。
ズ ズ ッ 、ジ ュ ー ー ー ー ッ 、ズ ズ ズ ッ !! コ ト ン ッ 。
一息にコップの中のオレンジジュースを飲み干す3人。
おもむろにザボンが長い腕を伸ばし、横に置かれた紙パックから空になった各々のコップにオレンジジュースを注ぎ足す。そして一言。
おもむろにザボンが長い腕を伸ばし、横に置かれた紙パックから空になった各々のコップにオレンジジュースを注ぎ足す。そして一言。
「以前、ジョーゲン補佐官からそちらの交戦記録も見せて貰った。俺達にゃ真似は出来んが、あれも良い手だよな」
この言葉を皮切りに、互いの戦闘経験に基づく対話が始まった。
そして、ひとしきり南アフリカ連合軍との戦闘の話をした処で。影狼隊隊長がサンキスト達に尋ねる。
「・・・君達の話を聞いていると、あの『耐撃の百文字』の『死亡』ではなく『殺害』を望んでいる様な口振りだな」
その問いに対して。ザボンは太い人差し指を立てて、こう返した。
「まーず、こいつは俺の私見だと言っておく。同じ一族だからって、考えてる事まで全て一緒とは言えねェからなぁ~」
「だが、少なくとも俺…いや。サンキスト一族は、奴が老衰やポックリ死する事なんざ望んじゃ居ねェ」
「俺達一族の誰かが関与して、出来る事ならば直接、奴をブッコロ死する。それが俺達一族の存在意義だ」
「だが、少なくとも俺…いや。サンキスト一族は、奴が老衰やポックリ死する事なんざ望んじゃ居ねェ」
「俺達一族の誰かが関与して、出来る事ならば直接、奴をブッコロ死する。それが俺達一族の存在意義だ」
次いで太い中指も立てて『2つ目』を示す。
「しかしな。全てが奴の所為だとは言わんが、気付けばサイボーグになってるわ、国の支配者に納まってるわで、もう簡単には手出し出来ねェのよ」
「だったら当然、俺達も奴と同等の手を使っても構わねェ道理だよな?」
「実際、アンタらも奴等には悩まされている。ここは共通の利害を持つ者同士で協力するのがWIN-WINの関係だろぉ? キィーッス! キスキス!」
「だったら当然、俺達も奴と同等の手を使っても構わねェ道理だよな?」
「実際、アンタらも奴等には悩まされている。ここは共通の利害を持つ者同士で協力するのがWIN-WINの関係だろぉ? キィーッス! キスキス!」
そう言いつつザボンは2本の指を開き、勝利のVサインを示す。
「キィスキスキス! ザボン君は優秀なサンキスト一族だけど、考え方はちょっとエキセントリック(奇矯)だもんねぇ~!」
「例えばボクらみたいなミソッカスの力を活用するなんて、並みのサンキストじゃ出せない発想だからねぇ~ン。キィースキスキス!」
「例えばボクらみたいなミソッカスの力を活用するなんて、並みのサンキストじゃ出せない発想だからねぇ~ン。キィースキスキス!」
小柄なサンキスト達も、『キスキス笑い』しながらそれに追従する。
(「・・・いや待て。そもそもお前ら一族自体が既にエキセントリック(奇矯)だろうがヨォ? 自分らの事を棚に上げてんじゃねぇ!」)
(「つぅか、クラケット一族の変態加減も悪化してンのかねぇ? 類は友を呼ぶと言うか、さっきからココの軍は何なんだ一体・・・」)
(「つぅか、クラケット一族の変態加減も悪化してンのかねぇ? 類は友を呼ぶと言うか、さっきからココの軍は何なんだ一体・・・」)
にやけ顔の仮面を被ったバドスは、腹の中でブツクサ呟きながら呑気に菓子を齧る。
そして影狼隊隊長は冷静な表情を崩さず、ザボンに告げる。
「なるほど色々と参考になった。ちなみにギガント28号対策があるのだがね」
「但し、バトゥロ氏の『四次元パンチ』並みの必殺攻撃が必須…」「…待った。もしや俺と同じ事を考えてないか?」
「但し、バトゥロ氏の『四次元パンチ』並みの必殺攻撃が必須…」「…待った。もしや俺と同じ事を考えてないか?」
ザボンは身を乗り出し、影長と打てば響く対話を始めた。
「つまり、リモートコントロールを狙って…」「…そうだ」
「だが俺は、ECMの性能を心配してるンだがねェ…」「…理論上、瞬間的にならば効く筈だ。後はタイミングと、ギガント本体の能力如何だな」
「しかし奴等が最も集中した瞬間に、接続を断てば…」「…過信は禁物だが、只では済むまい」
「だが俺は、ECMの性能を心配してるンだがねェ…」「…理論上、瞬間的にならば効く筈だ。後はタイミングと、ギガント本体の能力如何だな」
「しかし奴等が最も集中した瞬間に、接続を断てば…」「…過信は禁物だが、只では済むまい」
そこで顔を見合わせたザボンと影長は、申し合わせたかの様に破顔一笑。
「キィース! キスキス! 今日は実に楽しい会話が出来たぜぇ!」
「切り札としては未だ足りんが、手札を揃えれば可能性はある。この手も君らに譲ろう。今回の我等の任務は、基本的に撹乱だけだからな」
「そりゃ有難ェ。それじゃあ任務の成功を祈ってますぜ。それが上首尾なら俺達も楽が出来るってモンだ」
「あぁ。そちらの百文字対策も、望ましい形で成功する事を祈っておこう。それでは失礼するよ」
「切り札としては未だ足りんが、手札を揃えれば可能性はある。この手も君らに譲ろう。今回の我等の任務は、基本的に撹乱だけだからな」
「そりゃ有難ェ。それじゃあ任務の成功を祈ってますぜ。それが上首尾なら俺達も楽が出来るってモンだ」
「あぁ。そちらの百文字対策も、望ましい形で成功する事を祈っておこう。それでは失礼するよ」
そう言うと、影長はバドスを従えて会議室から出て行った・・・。
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残されたザボン達も会議室から立ち去るが、歩きつつザボンは沈思黙考していた。
(「・・・『望ましい形で』だと? 『この手「も」』って科白からしても、別の対策にも気付いている口振りだな」)
(「そう、例えばだ。百文字をギガント28号ごと火炎放射でコンガリ炙ってやりゃ簡単よ」)
(「無論、リモートコントロールで、剥き出しのままギガントの肩に乗ってるのは奴の勝手だ。その弱点を狙うのに良心の呵責なんざ感じねェ!」)
(「そう、例えばだ。百文字をギガント28号ごと火炎放射でコンガリ炙ってやりゃ簡単よ」)
(「無論、リモートコントロールで、剥き出しのままギガントの肩に乗ってるのは奴の勝手だ。その弱点を狙うのに良心の呵責なんざ感じねェ!」)
そこで密かに溜息を吐き、ザボンは沈思黙考を続ける。
(「だーが、奴を倒すのに銃弾や火炎なんか使いたくは無ェ。出来ればこの手で、せめて俺達が繰り出す攻撃で潰してェ・・・」)
(「どうやら、あの隊長サンも俺達の心情を汲んでくれたみてェだしな・・・こいつは無碍に出来んぜ」)
(「こりゃどうあっても、他の奴がこの手に気付く前に仕留めなきゃなるめェよ。最悪、他人に使われる位なら、その前に俺が火炎を使う!」)
(「どうやら、あの隊長サンも俺達の心情を汲んでくれたみてェだしな・・・こいつは無碍に出来んぜ」)
(「こりゃどうあっても、他の奴がこの手に気付く前に仕留めなきゃなるめェよ。最悪、他人に使われる位なら、その前に俺が火炎を使う!」)
「 キ ィ ー ッ ス ! キ ス キ ス ! 」
突然、ザボンが大声で『キスキス笑い』を放つ。横に居た金柑と柚子は瞬時、顔を見合わせる。
だが、彼らにも思う処があったのだろう。続けてザボンに唱和する。
だが、彼らにも思う処があったのだろう。続けてザボンに唱和する。
「 キ ィ ス キ ス キ ス ! 」
「 キ ィ ー ス キ ス キ ス ! 」
「 キ ィ ー ッ ス ! キ ス キ ス ! サ ン キ ス ト ッ !! 」
「 キ ィ ー ス キ ス キ ス ! 」
「 キ ィ ー ッ ス ! キ ス キ ス ! サ ン キ ス ト ッ !! 」
空中空母の廊下に、サンキスト達のキスキス笑いが木霊した。
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~ 夜・ツムウロゴ王国の国境付近 ~
黒く、巨大な影がツムウロゴ王国の軍事基地近くに迫っていた。その影は一見、人間の様ではあるが・・・。
その操兵の名は『妖爪鬼』。影狼隊隊長が駆る高性能な隠密機である。
その操兵の名は『妖爪鬼』。影狼隊隊長が駆る高性能な隠密機である。
(「激闘直後の混乱に乗じて、必要な情報は既に入手していた。バイパー・セグとルカスにはケリーオ氏の救出を任せるとして」)
(「私は戦力分析と救出作戦の囮を兼ねて、ここで『ドラミング・A・GOGO!』と交戦する」)
(「私は戦力分析と救出作戦の囮を兼ねて、ここで『ドラミング・A・GOGO!』と交戦する」)
妖爪鬼の胸部にある単眼が鈍く光る。
(「油断ならぬ機体とパイロットだが、打つ手はある・・・『未知の恐怖』という概念を教えてやるとしよう」)