バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

深淵の入り口

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kyogokurowa

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「ここ、研究所って言いましたよね?」
「表札を信じるならそうですが」

早乙女研究所に足を踏み入れたヴァイオレットとドッピオは思わずそんな疑問を零した。

確かに研究所というだけあって巨大な機械やら電子機器が置いてあった。
それはいい。元々、それを目当てにやってきたのだから。
問題は他に設置されているものだ。

「これ、研究所っていうよりは軍部施設ですよねえ」

ロッカーを開ければマシンガンやらライフルが転がり出て。
普通なら火災警報器のあるところに何故か手斧が立てかけられていたり。
殺し合いという舞台上、護身用の武器が調達できるのは有り難いが、もしもこれが既存の研究所を再現したものだとしたらいったいなにを研究しているというのか。

(にしても、これだけ武器が貰えるのはラッキーだよなあ。スタンド無くても参加者を殺せる訳だし)

『ボス』からの命令上、あまり大っぴらにスタンドは見せたくはない彼にとっては好都合もいいところ。
無論、重火器に手慣れているわけではないのでそっち方面はあまり期待できないが、手斧や小型の小銃くらいなら扱えるので問題ない。

「そういえばヴァイオレットさんは元軍人でしたよね?なんか好きな武器とかありますか?」
「......」

俯き、顔を暗くするヴァイオレットにドッピオは内心で「しまった」と失言を後悔する。

軍人から郵便屋へと転職したのだ。その両腕の義手が示すように、よほどの経験から軍事業務そのものを嫌悪していてもなんら可笑しくない。
別に彼女の精神面を気遣うつもりはないが、一応は自分のボディーガード役を兼ねているのだ。
こんなことで精神が崩れてこんなところで利用価値が無くられても困る。

「あ、ああっと。すみません無神経でした」
「...いえ、お気になさらず。軍人であると明かした以上、それが私に期待される役回りですから」
「...ほんとすみませんね。僕、たまに空気読めない時があるから...」


それからは黙々と施設を散策する二人。
その最中にドッピオはちらちらとヴァイオレットを横目で見ながら考える。

(やっぱ気になるよなぁ)

ヴァイオレットは恐らく誰もが認めるほどに容姿端麗だ。
性格もお淑やかでスタイルも良く、すれ違えば誰もが足を止めるだろう。
そんな彼女をわざわざ戦場に送り込みキズモノにする思考がわからない。

(タチの悪いの変態にでも買われたのかなあ。それか、よっぽど薄暗い事情があるのか...差し支えなければ聞かせてもらえるといいんだけど)

ドッピオの目的はあくまでも生還であり、優勝はある種最後の手段である。
別に彼女に固執するわけではないが、余裕が出来たら彼女の背景を聞いてみるのも面白いかもしれない。

カツン カツン。

そんな、余暇からの思考の隙間は、床を叩く靴の音でかき消された。

「ブチャラティ様。さがってください」
「はっ、はい」

誰かがこちらに向かってきている。その緊張感にゴクリと唾を飲みこむ。
もしも来訪者がブチャラティかジョルノ、リゾットであればすぐに銃弾を撃ち込み奴ら諸共ヴァイオレットを始末しなければならない。

(そうだ。その為の『エピタフ』だ)

ボスから貸し与えられた『キング・クリムゾン』の能力のひとつ『エピタフ』。この能力は数秒先の未来の景色を覗き見ることが出来る。
ただし、その未来は決して己に都合のいいことばかりが映るのではなく、その光景を変えられるかは自分の力量次第。
しかも、この散策中にも幾度か試してみたが、どうやら調子が悪いようで連続して使えないときた。
つまりドッピオが見れるのは歩いて来る者の正体だけ。そこから先はその場の判断で行動に移さなければならない。
それでも覚悟が出来るだけマシだ。

(さて、誰が来るか...)


やがて、現れたのは―――大剣を背負った和洋折衷な服に身を纏った男。

ブチャラティたちではなかった。しかし奴らと出会った参加者の可能性もある。
だが映像はここで途切れてしまう。

(さてここからどう出るか...)

ほどなくして、映像通りに男が曲がり角から姿を現し。

二人の姿を認めるや否や、その大剣を振りかぶった。

「え」

あまりに突然の攻撃に棒立ちになるドッピオ。そんな彼を護るためにヴァイオレットは剣士とドッピオの間に立ち斧を構える。
ガキン、と音を鳴らし打ち合わされる両者の得物。

「おお、俺の太刀に反応できるとは中々やるな」
「...!」

二人の鍔迫り合いが始まったところでドッピオはようやく思考を取り戻す。

(しまった。こいつ、『乗った側』か!)

出会ったのがヴァイオレット、麗奈、月彦という表立って動くつもりのないプレイヤーばかりなので失念していたが、こんな状況だ。考えなしにゲームに乗る参加者もいるのは当たり前だ。

「うっ、動くな!動くと撃つぞぉ!」

敢えて気の弱い素人のフリをして銃を構える。
威嚇。これで引き下がる程度ならばそれでよし、下がらなければヴァイオレットを巻き込むことになろうとも引き金を引くつもりだ。

「ブチャラティ様。援護は不要です。銃を下ろしてください」
「いやでも...」

協力をやんわりと断るヴァイオレットをドッピオは訝しがる。
大剣と女素人でも扱える手斧。このまま続ければどちらに力の利が働くかは火を見るより明らかだ。

「いーんだぜ。援護を頼んでも」
「...そのようなあからさまな挑発は好みません」

拮抗する状況。その最中―――ヴァイオレットはその手斧を手放した。

「なっ!?」

ヴァイオレットの行動にドッピオは困惑する。
この状況で武器を手放すのは自殺行為に等しい。
あの大剣がヴァイオレットの肩口を割くのは瞬きするよりも早いだろう。

だが、ドッピオは信じられないものを見た。
振り下ろされると思っていた大剣は退かれ、ヴァイオレットはその隙に態勢を低くし剣士の背後に滑り込んでいたからだ。
拘束の為に掴みかかるヴァイオレットの腕を身を捩り躱し、男は再びヴァイオレットへと向き直る。

「いつから気づいてた?」
「あなたの剣に力が籠められていなかったので」
「そうか、そりゃ気づくわな。ハハッ、すまんすまん。嬢ちゃんを少し甘く見すぎていた」

剣士の背中越しに聞かされる内容から、ドッピオは二人の間に起きたことを理解する。
男は、どうやらこちらへと威嚇を兼ねた意地悪で軽めの攻撃をした。恐らく自分たち二人が何もせずとも寸止めしていただろう。
鍔迫り合いで男に殺気はないことを悟ったヴァイオレットは、武器を捨てるという大胆な行動をとってまで自分に『殺意はない』というアピールを兼ねた技を見せつけた。

要は、男の仕掛けてきたじゃれあいにヴァイオレットが付き合ってやったということだろう。

(けど、これはチャンスじゃないか?)

男はいまドッピオに背を向けている。
ここで背後から引き金を引けば参加者を一人減らすことが出来る。
それをヴァイオレットに責められても、恐怖でどうかしていた、きみを護ろうとして必死だったと言い訳して謝ればそれで済むはずだ。
非があるのはどう考えても紛らわしいことをしてきたこの男なのだから。

「まっ、そういうわけだ。そんなに怯えなくてもいいぜあんたも」

ドッピオが引き金に手をかけようとした瞬間、男は目線をドッピオに向けた。
銃を撃つつもりだったのがバレていた。つまりこの男は例え背中から撃たれようがどうにかできる自信があったということだ。

(もしもこの引き金を引いていたら―――)

ゴクリ、とドッピオの喉が鳴る。スタンドがある以上、負けはしないが確実に不利な状況に追い込まれていただろう。

(もっと慎重に行かないと...はあ、やっぱりボスからのアドバイスが無いとダメなのかなあ、ぼく)

ドッピオが銃を下したのを皮切りに、男とヴァイオレットも佇まいを正しすっかり敵意の抜けた表情となる。

「俺はロクロウというものだ。あんたたちは?」
「えっと、ブローノ・ブチャラティです」
「お初にお目にかかります。お客様がお望みならどこでも駆けつけます。自動手記人形サービス、ヴァイオレット・エヴァーガーデンです」

いつも通りにスカートの裾を摘まみお辞儀と合わせて少しだけ持ち上げるヴァイオレット。
そんな彼女の挨拶を見ながらロクロウは渋い顔をする。

「あー、そんなに気を遣わなくていいぞ。堅苦しいのは苦手でな」
「いえ、これが私の自然体です。挨拶はこのようにと教えられましたので」
「そうか?なら俺が口出しすることでもないか」

「ロクロウさん、あなたは一人でここまで来たんですか?」
「いや。向こうで早苗って嬢ちゃんとオシュトルの旦那が待ってるぜ」

聞かされた名に知り合いかとドッピオは目で問いかけるとヴァイオレットはフルフルと首を横に振る。

「あんたたちもこの殺し合いに乗ってる訳じゃねえんだろ?案内してやるよ」

促すロクロウに二人は会釈し後についていく。

「時にあんた、ヴァイオレットだったか。あんたの動き中々のものだった。この騒動がひと段落ついたら立ち合ってもらいたいもんだが」
「申し訳ございません。争いごとは好みませんので」
「そうか...勿体ないが、無理強いはしないさ。気が向いたら立ち合ってくれ」
(そんなこれからランチにしようって感じで決闘を申し込むんじゃないよ...ボス、僕はちょっと厄介な奴に絡まれてしまったかもしれません)

そんなことを話しつつ、三人はやがて大広間に辿り着いた。

「そういやここはまだ探してなかった...って、ええ!?」
「......!」

ドッピオとヴァイオレットはそびえ立つソレを凝視し驚愕に目を見開く。
赤を基調としたメタリックな外観に、全長は優に10メートルはあるであろう巨体。
まさしくアニメなどで見るスーパーロボット―――ドッピオはそんな印象を抱いた。

「な、なんですかあれ!?」
「俺にもよくわからんが、そいつをあの二人に調べてもらってる...っと、あそこにいる奴らな」

ロクロウが指を指した先にいるのは、機体の足に頬ずりをしながら恍惚の表情を浮かべる緑髪の少女と、それを呆れたような様子で眺める仮面を着けた男だった。

「早苗殿。そろそろロクロウの元へと報告に...」
「もう少しだけ、もう少しだけですから...ふへへ、こんな理想的なロボットがあるなんて...」
「まったく...はぁ」

「おーいオシュトル!他の参加者を連れて来たぞ!」

ため息をつくオシュトルへとロクロウは大声で呼びかける。

「ム、そなた達は?」
「ブローノ・ブチャラティです」
「お初にお目にかかります。お客様がお望みならどこでも駆けつけます。自動手記人形サービス、ヴァイオレット・エヴァーガーデンです」
「あ、ああ。これはどうも。じぶ...こほん、某はオシュトルと申す」

ヴァイオレットのあまりにも懇切丁寧な挨拶に、オシュトルは思わず素の"ハク"が出かけるのを慌てて誤魔化した。

「そしてこちらの少女が...」
「これがリアルロボットの生感触...一生分補給しておかないと...」
「東風谷早苗殿だ。よろしく頼む。...時にそなたらはこの殺し合いには...」
「肯定するつもりはありません」
「同じく。こんな物騒なの、早く抜け出したいんですよねェ」

「オシュトル。こいつらは嘘はついてないと思うぞ。実際に剣を交えてみたからな」
「ロクロウ...!」
「おっと、勘違いしてもらっちゃ困るがむやみやたらに斬りかかったわけじゃない。ただの威嚇さ、威嚇」

ロクロウの弁明にオシュトルは「はぁ」、とため息を吐き改めてヴァイオレットたちへと頭を下げる。

「ロクロウが迷惑をかけたこと、詫びを申し上げる。悪人ではないのだが血の気が多くてな」
「おっ、おい、お前が謝るなよ...あー、なら改めて...悪かった二人とも。この通りだ!」

己の行いで他人に頭を下げられては気が引けるとロクロウも頭を下げて謝罪する。

「お顔を上げてください。私は気にしておりません」
「本当か!?恩に着るぞヴァイオレット!」
「かたじけない」

ヴァイオレットが宥めると、二人は表情を明るくし感謝の意を表す。
そんな、本筋に中々絡まない流れに痺れを切らし、ドッピオはわざとらしく声を間延びさせ割って入る。

「あのぉー、オシュトルさんと早苗さんでしたよね?そろそろあなた達が調べたことを教えてもらいたいんですがねェ」
「むっ、そうだな」
「―――それは私が話しましょう」

ドッピオの問いに答えるように早苗がオシュトルを押しのけ前へと進み出た。

「私たちが調べたところ...なんと、この巨大な像はロボットだそうです!」
「いやまあ、それは見ればなんとなくわかるけど」
「いいえわかっていません!このロボットはただの工務用ではなく、なんと戦闘用のロボットらしいんですよ!その名もゲッターロボ!!」

顔を赤く鼻息を荒くし詰め寄ってくる早苗に若干引きながらも、ドッピオは情報を聞き出す為に続きを促す。

「それで、このゲッターロボはなにと戦うんです?」
「ふっふっふっ...それはですね...『鬼』ですよ。私の知る『鬼』とは違う、とんでもなくゴツくて巨大な鬼!」

鬼とは日本特有の呼称であり、他の国ではその国々の文化での名前でないと通じにくい。
その為、出身国が日本ではないドッピオとヴァイオレットは首を傾げるが、早苗は気にせず興奮混じりに解説を続ける。

「その鬼に対抗する為のロボットがゲッターロボ!しかも!合体変形するんです!!空中戦ならお手の物のゲッター1!速さ重視のゲッター2!水中戦で本領を発揮する厚い装甲のゲッター3!浪漫が溢れすぎですよこれは!」
「なっ、なるほど...」
「つまり、ここはそのゲッターロボの資料館のようなものということですね」

ただただ気圧されるドッピオに対し、ヴァイオレットは自分なりに早苗の解説をかみ砕き解釈する。
当然ながらこのロボが動くはずはないだろう。なんせいまは殺し合いの真っ最中。
こんなものに乗られてしまえば一方的な虐殺になり殺し合いなど成り立つはずがない。
ならばここでは知識だけ得られるものだと考えるのが妥当だ。

「ええ、ええ。確かにその通りですよ。しかし、なんとですね...ここではこのゲッターロボを体験できちゃうんです!」
「えっ、体験!?」

体験とはいえこんなものを操縦できるとなれば、さしものドッピオも興味が湧いて来る。
その反応を待ってましたと言わんばかりに早苗はふふんと鼻を鳴らし一同を先導するのだった。


『ゲッターロボ!ダイケッセン!!」

「体験ってゲームのことかぁ」

案内された機体に乗り込み、なにがくるかと密かに楽しみにしていたが、中央部のモニターに映されたのは明らかにTVゲームのような画面タイトル。
このゲッターロボの入門書を兼ねているのだろうが―――正直、肩透かしもいいところである。

「ですが通信機器などは本格的かと」
「そうですねえ。これはちょっとそそられるかも...」

同じ機体に乗り込むヴァイオレットが、周辺の機器を操作しながら通信回線をつなぐ。
ちなみに操作自体は親切にも説明書があったのでそれを参考にしている。

『聞こえますか!こちらイーグル号早苗!ジャガー号!ベアー号!応答せよ!』

耳をつんざくほどの早苗の声量にドッピオは思わず耳を塞ぐ。

「こっ、こちらベアー号ブチャラティ、異常なし」
『...ジャガー号オシュトル、こちらも異常なし』
『ああ...こういうコクピットからの通信、やってみたかったんですよ』

こんな子供だましでも喜ぶなんてよっぽどロボットが好きなんだなあ、とドッピオはうんざり半分微笑ましく思う。
ここが殺し合いでなく、ボスからの指令も無ければその趣味に付き合ってもいいかなと思えるほどに、早苗の無邪気さは見ていて悪い気はしなかった。

『それじゃあ行きますよ...ゲッターロボ!』
『「発進!!」』

早苗の号令に続き、オシュトルとドッピオの掛け声が重なる。
ちなみにロクロウは號嵐が入らないから、という理由で搭乗を拒否した。

掛け声を終えると、中央部のモニターに飛行するイーグル号とジャガー号の機体が映し出された。

「オシュトルさん、少し機体を揺らしてもらっていいですか?」
『わかった』

ほどなくして、ドッピオの画面に映るジャガー号がゆらゆらと揺れる。
どうやら各々の操縦桿と画面上の機体はリンクしているらしい。

『では早速、オシュトルさん、私の後ろに!』

早苗の声に従いジャガー号がイーグル号の真後ろに着く。

『それでは...参る!』

オシュトルの掛け声と共にジャガー号は急加速し―――しかし、接合部からは外れ、ガツンと音を立てて衝突する。

瞬間

『ナニヤッテンダァ!!』

「うわっ!?」

突如響いた声にドッピオは思わず身体を弾ませる。
それはオシュトルも同じだったようでジャガー号が揺れていた。

「どうやら失敗すると叱られるようですね」
「ビックリさせるなあもう」

そういう要素があるならそういう説明も欲しかったものだが、来るとわかっていれば大したものではない。
気を取り直し、ジャガー号はイーグル号の真後ろにつき加速、今度はしっかりと合体。
次いでドッピオがジャガー号の後ろに着き合体の為に加速していく。

「角度的にはよし...ここだ!」

狙いを定め全速を出していくドッピオ。しかし、照準が微かにブレ、ガツンと衝突する。

『ナニヤッテンダァ!!』

「くっ...」

ガツン、ガツン、ガツン

『ナニヤッテンダァ!!』『ナニヤッテンダァ!!』『ナニヤッテンダァ!!』

精神的動揺から何度も失敗を繰り返し、そのたびに男の叫びが響き渡る。

「~~~~うるせェなぁ~~~やってやるから少し黙ってやがれえええ~~~~~!」

あまりの苛立ちに思わず語気が荒くなるドッピオ。その手にそっとヴァイオレットの義手が添えられた。

「ブチャラティ様。焦らずに、しっかりと狙いを定めましょう」
「はっ、はい...ありがとうございます」

心配げに覗き込んでくるヴァイオレットの綺麗な瞳に魅入り、ドッピオの思考に冷静さが取り戻される。
ヴァイオレットの進言通り、すぐに合体するよりも狙いを定めることに集中する。

「角度よし...距離感よし...ここだっ!!」

操縦桿のアクセルを入れ、加速していくベアー号。そして―――

●ガシャン!合体成功!!!

「は、ハハッ、やった!やったぞ!!」

今までが散々だったこともあり、ようやくの成功に思わずはしゃぐドッピオ。
そんな彼にヴァイオレットはニコリと微笑みかける。

「おめでとうございますブチャラティ様」

その微笑みにドッピオの胸がドキリと高鳴る。
今までは清楚で物静か、という態度を示すかのように表情表現に乏しかった彼女が微笑むだけでこうも違うものか。

(いけない...いまは殺し合いの最中なんだぞ。しっかりしないと)

そう気を引き締めるも頬の火照りは抑えられず、「ど、どうも...」と初心な青少年のような反応しか返せなかった。

(とにもかくにもこれで合体はクリアできたんだ。これで早苗ちゃんも満足しただろう...ん?)

合体成功の場面から画面が止まり、その中央に文字が表示される。

次のランクに進みますか?
はい/いいえ

「次のランク?」

妙な単語に二人は首を傾げる。
体験とはこれで終わりでは無かったのだろうか。

やがて画面は三分割され、何れにも同じ選択肢が連ねられている。

その中で、イーグル号の画面では『はい』に、ジャガー号の画面でも『はい』にカーソルを合わせられる。

「お二方は『はい』ですね。どうなさいますか、ブチャラティ様」
「う~ん」

ドッピオは顎に手をやりながら考える。
実際、シミュレーションは思っていたよりも本格的ではあったし、このランクというものは非常に気になる。
ランクそのものもそうだが、もしクリアしたらどうなるのか。ランクを上げることでなにが起こるのか。
しかし、この研究所には首輪解析の手がかりを見つけにきたのだ。
その脚がかりはまだつかめておらず、このままスパリゾートへ帰れば月彦達から呆れた目で見られてしまうだろう。

(ちょっと名残惜しいけど...『いいえ』だな)

気になるものを放置するのはあまりいい気はしないが、今優先すべきは己の命である。
ここで時間を費やすのはもったいない。

『はい』が二名、『いいえ』が一名という数的不利だが、どうやら誰かひとりが拒否すればそれが連動されるようで、シミュレーターは電源が切れ沈黙。
一同は扉の開いた機体から降り立った。

「おう、お疲れさん。どうだった早苗?」
「すごかったですよ!機体がバーン、とぶつかってガシィと変形して合体して!」

迎え入れたロクロウに早苗は興奮冷めやらぬ勢いでまくしたてる。

「へえ、中じゃそんなことになってたのか...そいつは俺も見たかったな」
「次のランクというのも気になりましたが、残念ながら皆さんが拒否したので今回は諦めました。が、また機会があれば―――」
「ちょっと待て早苗。いま、なんて言った?」

つい先ほどまで朗らかに会話していたロクロウの顔が真顔になる。

「?今回は素直に諦めますと」
「そっちじゃない。お前、いま、『ランク』って言わなかったか?」
「ロクロウ、どうしたというのだ。おまえらしくもない」

オシュトルの問いかけに、ロクロウは顎に手をやり考え込み、やがて手を下ろして言った。

「...次の『ランク』とやらにいかなくて正解だったかもしれんな」
「どういうことです?いきなりそんなこと言い出すなんてなんか不気味ですよ」

ロクロウは懐から一枚の紙を取り出す。

「こいつを見てくれ。これはお前たちが乗り込んだ後に見つけた紙だ」

『ゲッターロボ 操作ランク表

ランクが1~5まで分かれており、ランクが上がれば上がるほど合体技術が向上する代わりに危険度が増していきます。
ランク1:初心者向け。まずはここから。
ランク2:通常のゲッターロボ操縦の半分の負担がかかる。失敗した時の衝撃がそこそこある。一般人はこの辺りでやめておいたほうがいいかもしれない。
ランク3:通常のゲッターロボ操縦の半分以上の負担がかかる。失敗したら人によってはその衝撃で死ぬ可能性あり。
ランク4:通常のゲッターロボ操縦の8割ほどの負担がかかる。身体に自信のある人でも厳しい。
ランク5:通常のゲッターロボ操縦そのものの負担がかかる。ゲッターチームはここに至るのが基本。


「なんだこれは...!?」

ロクロウより見せられた内容に、一同は目を丸くする。
ランクが上がる度に危険度が上がるというのもそうだが、なにより目を引くのが死亡の可能性を示唆している部分だ。

「ゲ、ゲッターロボってこんな危険なんですか!?」
「...確かに通常の戦闘機としての運用の他、合体機能などという荒唐無稽な機能があれば不思議ではありませんが...」
「にしても練習で死ぬかもしれないって無茶苦茶ですよ!何考えてんだよあのテミスとかいう女ぁ~~!?」

口々に非難する三人を脇目に、オシュトルは一人思考を他所に回す。

(そうだ...この催しは殺し合い。あの主催は何故、こんなものを設置した?)

殺し合いである以上、求められるのは参加者の死とはいえ『乗るかもわからないゲッターロボの合体練習をしていたら死にました』などという結末が望まれているはずはない。
意味なく置くにしても、このランクでいう2レベルまでで収めるはずだ。
なのに、5レベルまで置いたというのは不可解極まりない。

(そうだ。意味はある筈なのだ。この死のリスクを乗り越えた先に、なにかが...)


――――ヴ ヴ ヴ

オシュトルはハッと顔を上げる。
しかし、頭上の機体には依然変化はない。

(いま、稼働音のようなものが聞こえた気がしたが...気のせいか?)

いや、気のせいではない。
確かになにかが動く音をこの耳は捉えていた。

(...どうやら自分たちはなにかロクでもないものに関わってしまったらしい)

今となってはサンプルとして置かれたゲッターロボですら不気味に思えてくる。
オシュトルは皆の話題をこれからの方針の相談に変えるため、というお題目の元、ゲッターロボから目をそらす。

その背中を。
いや、この場に集った五名の参加者を品定めするかのように。

魂宿らぬ傀儡であるはずのロボットは、彼らをジッと見下ろしていた。








【D-8/早乙女研究所/早朝/一日目】

【ゲッターロボ合体シミュレーター@オリジナル?】

早乙女研究所の実技を参考にμが作ったもの。
機体のコクピット内の中央モニターに設置されている。

PSゲーム、『ゲッターロボ大決戦!』の合体シミュレーターを想像していただければだいたいのイメージはつくと思います。
合体に失敗する度に神谷明voiceの『ナニヤッテンダァ!』という叫びが響き渡ります。

ランクが1~5まで分かれており、ランクが上がれば上がるほど合体技術が向上する代わりに危険度が増していきます。
ランク1:初心者向け。まずはここから。失敗しても怒られるだけで特にデメリットはなし。
ランク2:通常のゲッターロボ操縦の半分の負担がかかる。失敗した時の衝撃がそこそこある。一般人はこの辺りでやめておいたほうがいいかもしれない。
ランク3:通常のゲッターロボ操縦の半分以上の負担がかかる。失敗したら人によってはその衝撃で死ぬ可能性あり。
ランク4:通常のゲッターロボ操縦の8割ほどの負担がかかる。身体に自信のある人でも厳しい。
ランク5:通常のゲッターロボ操縦そのものの負担がかかる。ゲッターチームはここに至るのが基本。

ここまでは参加者たちも確認できるが、ランク5をクリアしたものだけに現れる選択肢

<ゲッターの深淵に踏み込みますか?

を二度肯定した場合。その果てに見れるものとは―――?




【オシュトル@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:健康、疲労(小)
[服装]:普段の服装
[装備]:オシュトルの仮面@うたわれるもの 二人の白皇、童磨の双扇@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0~1
[思考]
基本:『オシュトル』としてアンジュを守りつつ、殺し合いから脱出する
0:これからの方針を話し合う。
1:仲間を探す(最優先はアンジュ)
2:首輪のサンプルも出来れば入手したい
3:『大いなる父の遺跡』が気になる
4:ミカヅチ、マロロ、ヴライを警戒
5:ゲッターロボ...不気味なロボだ。
[備考]
※ 帝都決戦前からの参戦となります



【ロクロウ・ランゲツ@テイルズ オブ ベルセリア】
[状態]:健康、頬に裂傷、疲労(小)
[服装]:いつもの服装
[装備]: オボロの双剣@うたわれるもの 二人の白皇、ロクロウの號嵐(影打ち)@テイルズ オブ ベルセリア
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0~2
[思考]
基本:シグレ及び主催者の打倒
0: これからの方針を話し合う。暫くは早苗とオシュトルに同行
1: シグレを見つけ、倒す
2: 號嵐を譲ってくれた早苗には、必ず恩を返す
3: ベルベット達は……まあ、あいつらなら大丈夫だろ
4: 殺し合いに乗るつもりはないが、強い参加者と出会えば斬り合いたい
[備考]
※ 参戦時期は少なくともキララウス火山での決戦前からとなります。
※ 早苗からロクロウの號嵐(影打ち)を譲り受けました。



【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:健康、疲労(小)、気分高揚
[服装]:いつもの服装
[装備]: 早苗のお祓い棒@東方Project
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0~1
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。この『異変』を止める
0: これからの方針を話し合う。
1: 幻想郷の知り合いをはじめ、殺し合い脱出のための仲間を探す 
2: ゲッターロボ、非常に堪能いたしました。
3: ロクロウに若干引き気味。兄弟で殺し合いなんて……
4:シミュレータにちょっぴり心残り。でも死ぬリスクを背負ってまでは...
[備考]
※ 参戦時期は少なくとも東方風神録以降となります。



【ヴァイオレット・エヴァーガーデン@ヴァイオレット・エヴァーガーデン】
[状態]:健康
[服装]:普段の服装
[装備]:手斧@現地調達品
[道具]:不明支給品0~2、タイプライター@ヴァイオレット・エヴァーガーデン、高坂麗奈の手紙(完成間近)
[思考]
基本:いつか、きっとを失わせない
0: これからの方針を話し合う。
1:『ブチャラティ』さんとともに周辺施設を探索しつつ、北宇治高等学校へ向かう
2:麗奈と再合流後、代筆の続きを行う
3:手紙を望む者がいれば代筆する。
4:ゲッターロボ、ですか...なんだか嫌な気配がします。
[備考]
※参戦時期は11話以降です。
※麗奈からの依頼で、滝先生への手紙を書きました。但しまだ書きかけです。あと数行で完成します。
※病院、早乙女研究所のどちらに向かっているかは後続の書き手様にお任せします。



【ドッピオ(ディアボロ)@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風】
[状態]:健康、ドッピオの人格が表
[服装]:普段の服装
[装備]:小型小銃@現地調達品
[道具]:不明支給品1~3
[思考]
基本:生き残る。手段は問わない。
0: これからの方針を話し合う。
1:ヴァイオレットとともに周辺施設を探索しつつ、北宇治高等学校へ向かう
2:無力な一般人を装い、暫くは元軍人だというヴァイオレットを利用する
3:『月彦』を警戒。再合流後も用心は怠らない。
4:ブチャラティ、ジョルノ、リゾットは確実に始末する。チョコラータも始末しておきたい。
5:なるべく目立たないように立ち回り、優勝しか手段が無くなっても構わないよう、殺せる者は密かに殺していく。
6:自分の正体を知ろうとする者は排除する。
7:もしもあのままランクを上げ続けてたら...ゾオ~ッ
[備考]
※参戦時期はアバッキオ殺害後です。
※偽名として『ブローノ・ブチャラティ』を名乗っています。

前話 次話
物情騒然 投下順 侵食する黒いモノ

前話 キャラクター 次話
東風谷早苗は大いに怯え夢想する オシュトル 散りゆく者へ
東風谷早苗は大いに怯え夢想する ロクロウ・ランゲツ 散りゆく者へ
東風谷早苗は大いに怯え夢想する 東風谷早苗 散りゆく者へ
「あなたが、その気持ちを伝えられますように」 ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン 散りゆく者へ
「あなたが、その気持ちを伝えられますように」 ディアボロ 散りゆく者へ
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