秘封霖倶楽部 > 消えたとてうかぶもの
今回は『東方』シリーズ旧作の登場人物である岡崎夢美(
ニコニコ大百科
)が登場したことや、過去最大規模の怪奇現象が発生したことが反響を呼んだ。
元ネタとしては同名の2chまとめ記事(
シンプル2ちゃんねる
)があるが、転載元は不明。内容は作品の序文にもある通り、人とは違うものが見えているとかいう、若干心に問題を抱えていそうな人物が2chで繰り広げた一連の会話である。NDは「もしもこの人物の見えている現象が現実で発生したら」という形で小説に起こしたようだ。読者からは、一話で完結している物語ではなく、今後の展開への布石、あるいは伏線としての意味合いを持つ回とされている。
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あらすじ
霖之助と蓮子は大学の特別講義を受講中、比較物理学(*1)教授の岡崎夢美が非統一魔法世界論という非物理的な講義を行い始め、まるで机の上に消えては浮かぶものが見えているかのような仕草をし、挙句の果てには罵詈雑言を叫びながら係員に強制退出させられるところを目撃する。三人はそのような出来事に全く興味がなく、翌日に倶楽部活動として廃墟探索を計画するが、霖之助は帰宅途中に夢美から執拗に付きまとわれる。夢美は彼と一切の面識もないはずなのに彼の名前を呼び、「消えたとて浮かぶものにお前は近い」と告げて執拗に追い回した挙句、彼が人間でないことをも看破するが、やがて通報を受けた警察官に連れ去られる。
翌日、霖之助は予定通り秘封倶楽部とともに山道を歩いていくが、そこで再び夢美に遭遇する。夢美は蓮子とメリーを「沈む」か「浮くもの」だと称する一方、霖之助を「浮きも沈みもしないもの」と称して連れ去ろうとする。三人は彼女から逃げ切って目的地に辿り着くが、そこは廃墟ではなく洞窟であり、そこでは机やコップなどの物体が半分だけ壁に埋まり、あたかも沈んだり浮かんだりしたかのようになっていた。霖之助はそれが人為的なものではないと確信する一方、そこにいた人間もまた地中へ沈んで息絶えたことを知ると、その謎を解き明かすために夢美の家を訪ねる。
彼の周りでも物体の浮き沈みする様子が見られる中、夢美は霖之助が洞窟で起きたことを見たと知ると、世界の基準となる物理法則が徐々に不安定になっていっていることを彼に告げる。そして、その影響を受けない彼自身こそがそれを正す鍵であり、その役目を果たすには、男女構わず人々と性交し、女性に対しては可能な限り受精・着床させることが肝要であることを教える。そうして夢美に性交を強いられた霖之助は蓮子たちや警察の助力を借りて逃走するが、その後彼女は自らの手で死を選んだという報せが彼らのもとに届く。
それを受けた霖之助は、この現象が人の意識を通じて伝染し、一度終わればもう現れることはないという仮説を立てる。そして、かつて洞窟の壁の中に沈んだ人間もまた、伝染を防ぐために自らその最期を選んだのだと理由付け、一人で洞窟の中に留まりながら現象が起こるのを待つ。しかし、その予想に反して物理法則は大規模な範囲に及んで大きく崩壊し、それに巻き込まれた人々の変わり果てた姿によって街は死屍累々の地獄絵図と化していた。数々の友人たちの遺体を目の当たりにした霖之助は、そのうちの蓮子とメリー、麻耶を埋葬するが、墓石を調達する過程で武装した人間に麻酔銃らしきものを発砲され倒れる。そのとき彼は発砲した人物が仲間と通信するのを耳にし、曰く20年に一度とある元凶によって全世界の「物理座標」が更新され、彼らがその修復を行っているということを聞きながら霖之助は意識を失う。
そして、気付くと霖之助はいつものように自宅の布団で朝を迎えており、学校へ行くと普段通りの友人たちと顔を合わせる。蓮子とメリーが耳の中の砂のような異物感を訴える一方、時は春を迎えようとしていたが、彼は1月から2月の出来事を思い出せず、また、十円玉が棚に沈んでいるのを目の当たりにするが、それらも大して気に留めない。そして、霖之助たちの部室で飲み会に居座る夢美(*2)は「物理更新」について仮説を述べるが、それも妄想として聞き流しつつ、霖之助は酔いの余りか身体が地面に沈むような感覚を覚え、そこで物語が終わる。
疑問点
- 今回、霖之助は怪奇現象の影響を受けないという特殊な体質を持っているが、かといって事態の解決に一切貢献しない。途中、現象の抑止に体液が役立つとかで「セックスが最も効果的に人々を救える」というとんでもない情報が出てくるが、特に何の意味もなさずに終わる。結局のところ、霖之助は弱っていく麻耶を抱えながら街をフラフラしてから、蓮子たちのお墓を作ろうとして麻酔銃を撃たれるだけの役割に収まる。物語自体も「何もしてないのに気絶してるか死んでるかの間に事態が解決している」という既視感ありすぎな展開で着地する。
- 場面同士の繋がりについて説明不足なところがある。特に夢美が自殺した後、霖之助が再び洞窟へ行く決心をした根拠はあらすじの通りだが、なぜそこまでの確信に至ったかという理論が説明されていない。しかもその通りに行動した挙げ句、当てが大きく外れて街が滅んでいる。その後の展開は上にある通りなので、要するにストーリー全体として見ると「謎の現象を解決するために主人公がいきあたりばったりに行動する→大災害が起こる→気絶している間に何者かが元通りにしてくれて一件落着」という流れになっている。