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連載 - マッドガッサーと愉快な仲間たち-10

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マッドガッサーと愉快な仲間たち 10


 …今日は、そろそろ仕舞いにしようか
 そう考えて、パワーストーン契約者は、テントの中の後片付けをはじめようとしていた
 ……しかし

「……あら?」

 テントの外に、現れた気配
 お客様だろうか?
 彼女は小さく首をかしげ…しかし、そのただならぬ気配に

 …テントに移る、その人狼のシルエットに、身を強張らせた


「……うお!?」

 テントの中に向かってガスを発射しようと、構えたマッドガッサー
 が、その直前、テントは淡い光で覆われる

「っち……結界系能力か」
「ひゃっはは、こんなもん!!」

 ギラリ
 鋭い爪をだし、マリ・ヴェリテは結界に攻撃を仕掛けた
 一閃、結界に僅かにヒビが入る
 次の一撃で、マリ・ヴェリテは結界を破ろうとして……

「----待てっ!」
「あぁ?」

 制止の声に、そちらに視線をやった
 そこにいたのは……何やら、息を切らせている青年と
 …謎の、筋肉全裸隊

「マッドガッサーと……マリ・ヴェリテだな」
「っは、だったら何だってんだよ?」

 都市伝説と、契約者か
 ならば、この男共をさっさと女にしてしまった方がいいだろう

「マッド!ガスをかけてやれ!!」

 ………
 …………
 ……………

 あれ??

「マッド?」
「禿筋肉怖い禿筋肉怖い禿筋肉怖い禿筋肉怖い禿筋肉怖い禿筋肉怖い禿筋肉怖い……」
「うぉおおおおい!?いつどこで新たなトラウマ作ってんだ!?こんな場面で震えてんじゃねぇっ!!」

 えぇい、我等がリーダーは!!
 いつの間に、新たなトラウマを作って!!

「…何かしたんですか?マッドガッサーに」
「まぁ、少々」

 ぬぅ、と
 筋肉全裸隊の背後から現れた……黒服
 「組織」の人間か
 男ばかりの状態、全員女体化させたいところだが…マッドガッサーがこれでは、それも不可能

「っちぃ!!」

 仕方ない
 ここは、一児撤退だ
 人狼から狼の姿に変わり、マリ・ヴェリテはマッドガッサーを咥えて走る

「逃がしませんよ」

 それを追ってきたのは、黒服だ
 帽子を被っているが、その下から一本も髪の毛が覗いていないのを見ると、恐らくは帽子の下は一本の毛もない不毛地帯なのだろう
 こんな時に限って、どうでもいい事が頭に浮かぶ

 -----不味い、と
 獣の思考で、マリ・ヴェリテは考えていた
 なかなか、相手を振り払えない
 自分達の隠れ家…教会を、突き止められては不味い
 どうする?
 獣の思考では、名案が浮かばない
 だが、しかし……目の前に、仲間の姿を、見つけて
 ニヤリ、マリ・ヴェリテは笑った


「………む!?」

 獣が走り抜けた先
 …そこに、独りの若者が立っているのを、黒服は確認した
 狼の姿をとったマリ・ヴェリテを見ても驚いていないのを見ると…

「…マッドガッサーの仲間ですか」
「そうだったら……どうする?」

 にやり、笑う若者
 好戦的に、黒服を見つめてくる

「…あの黒服とは別か。まぁ、いい」

 じり、と
 若者が……構えた

「----俺の踏み台になりやがれっ!!!」

 叫び、若者は驚異的な瞬発力で、黒服に接近した
 喉に、両手での一撃が迫ってくる

「ぬぅん!!」

 ゴキリッ
 響いた、骨を鳴らす音
 びりびりびり、と黒いスーツが裂けて…肥大化した筋肉でオリバーポーズをとり、黒服は若者の攻撃を防いだ
 通常の人間ならば、恐らく、この一撃で気を失っているところだろう

「…っちぃ!そんな能力を持った黒服もいるのか…!」
「なかなかの一撃ですが…まだ、鍛錬不足のようですね」

 ---その、黒服の言葉に
 若者の顔に、はっきりとした怒りの感情が浮かんだ
 ギロリ、黒服を睨みつけてくる

「…黙れ。「組織」の黒服なんぞに、口だしされたくねぇよ」

 怒り交じりの言葉
 若者は、今度はまるで幽霊のような構えを取って…


 若者の姿が
 気配が
 忽然と、消えた


「!?どこへ…………む!?」

 咄嗟に、サイドチェストのポーズを取る黒服

 直後、黒服の背中に叩き込まれる、無数の突き
 瞬間的に黒服の背後に移動していた若者は、再び黒服から距離をとった

「デタラメな固さしてやがるな………だが」

 しゅるんっ
 サイドチェストのポーズをとったままの黒服に、何かが絡みついた

 それは、縄
 ぐるんぐるんと巻きついて、黒服の動きを束縛する
 だが、この程度の細い縄、この黒服の力を持ってすれば、すぐに引きちぎる事が可能だ

 しかし、その引きちぎる間すら、与えないとばかりに、若者は接近する
 縄を掴むのとは逆の手を、ゴキリと鳴らして
 その一撃を、黒服の心臓に向かって、叩き込んだ



 ------決まった!!
 魔女の一撃の契約者は、この瞬間、そう考えた
 このまま、心臓を抉り出してやる、と

 だがしかし、その考えは甘かった、とすぐに気づく

「…化け物かよ、あんた」

 若者の一撃は……黒服の、その隆々たる逞しい筋肉によって、止められていた
 それなりの打撲は与えたはずなのだが……肝心の心臓までは、恐らく攻撃は届いていない
 なんと言う、デタラメな筋肉だ!!

「むぅぅぅうんん!!!」
「っと!?」

 ぶちり、引きちぎられる縄
 魔女の一撃の契約者は、慌てて黒服から距離をとった
 相手から感じる、圧倒的なパワー
 接近戦では…どう考えても、魔女の一撃の契約者が不利である
 それでも、彼は己の契約している都市伝説に、助けを求めるつもりはなかった

 強くなる為には、強い都市伝説と戦って、生き延びる必要がある
 あいつのように…否、あいつよりも、強くなる為に
 ここは、一人で戦う必要があるのだ

「…人間でしたら、心臓をつかみ出されていたところですね」
「だろうな、そうしようとしたんだから」

 さて、どうする?
 自分の得意の戦法はあまり相手に効果がない
 ならば、普段はあまり使わぬ業を使うしかあるまい
 …例の料理があれば、あれを試して見るのだが…

「…面白い格闘技です、それらの技、どこかで見たことがありますが…外法の技ですね」
「へぇ、知ってんのか」

 笑ってみせる
 こちらの技の流儀を見抜いてきた奴なんて、この黒服がはじめてだ
 戦っているうちに落ちた帽子の下の頭はキラリ、月光を浴びて光っている

「強くなりたかったんでね、学ばせてもらった」
「外法の技を学んでまで、手に入れる力に価値があるとは思えませんがね」
「----っは」

 そのふざけた外見でもっともな事を言ってきた黒服
 …それがどうした、と彼は嘲笑う

「外法だから、どうした?……そんな事に、意味なんざねぇんだよ。あいつに勝つ為なら!!あいつを屈服させる為なら!!俺は手段なんざ選ばねぇ!!」

 そうだ、全ては、あいつを屈服させる為だ!
 その為ならば、手段なんぞ選ぶか!!

「…ますます、意味のない力ですね」
「---あぁ?」
「そんな歪んだ思考では…力を得ても、意味がありません。闇にでも落ちるおつもりで?」

 ……煩い
 煩い、黙れ
 煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い
 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!

 てめぇなんぞに、何がわかる
 てめぇなんぞに、わかってたまるか!!

「あぁ、もう………煩い、黙れよ」
「……む」

 …こいつ相手なら、きっと成功する
 そう考えて…俺は、あの技に、かける事にした


 …相手の様子が、変わった
 どこか、狂気を含んだ表情
 この手の表情は、どこかで見たことが………あぁ、彼だ
 過労死候補などと不名誉な呼ばれ方をしている同僚が担当している、「骨を溶かすコーラ」の契約者
 あの青年が時折浮かべる狂気に、あれはどこか似ている
 …だが、同時に、あの狂気とは、どこかが決定的に違う
 あの青年の狂気は、大切な存在を護りたいがために生まれた狂気
 しかし、目の前の青年が纏う狂気は………それとは、全く違う

 これは、そのまま纏わせていては、いけない狂気だ
 この若者、このままではいつか自分の行いを後悔し、壊れる

「…死にやがれっ!筋肉ダルマがっ!!」

 はじめに繰り出してきた一撃のような構えを取った若者
 こんなにも距離が開いた位置で、あの構えを繰り出して…

「……っこれは!?」

 迫り来る衝撃破に、黒服はサイドチェストのポーズでそれを防いだ
 …腕を振りぬいた力だけで、衝撃破を生み出したのか!?

「てめぇも、まだ本気を出してないんだろ?あぁ??…………馬鹿にしてんじゃねぇぞ!!てめぇも本気を出しやがれっ!!」

 続けざま、襲ってくる衝撃破
 …確かに、護りに入ってばかりでは、意味がない
 この若者が、どんな都市伝説と契約しているかはわからないが…
 早く取り押さえなければ、取り返しのつかない事になる!

「…はぁあああああああああ!!!」

 金色の兄気を纏いはじめる黒服
 若者に向かって、攻撃を繰り出す
 しかし、するり
 若者は、その攻撃をかわし、逃げる
 まともに喰らっては危険であると、はっきりと認識しているのだろう
 決して、黒服の攻撃を喰らおうとはしない

 …肉体強化型の都市伝説と契約している訳ではないのだろう
 それだと言うのに、これだけの力を身につけている若者
 なんと、おしい存在か
 外法の格闘技に頼らなくとも、強くなれるだろうに

 …それでは足りないのだと、何故、感じてしまっているのか?

 若者は、防戦モードに入ったようだ
 こちらの隙を窺うように、攻撃を交わし続けている
 金色の兄気を纏い、黒服は攻撃を続け

 気づいた
 若者が、何かを誘っている事に
 …自分たちが、まるで、螺旋を描くように…螺旋の中央に向かっているかのように、動き続けていた事に…

「------まさかっ!?」
「今更気づいても……遅ぇんだよぉ!!」

 若者が…闘気などと呼ばれるような気をまといながら、その片腕を、天に向かって突き出す
 その瞬間…螺旋を描くように動いていた事によって、辺りを漂っていた黒服の兄気が、荒れ狂いだした

「ぬぉおおおおおおおおおおお!?」
「吹き飛びやがれぇえええええ!!!!」

 まるで竜巻のようになった兄気が、黒服自身を襲い始める
 兄気の竜巻によって………黒服の体は、天へと放り投げられてしまった


 …今度こそ、決まった
 片腕を突き上げたまま、兄気の竜巻の中心に立ち…魔女の一撃の契約者は、歪んだ笑みを浮かべた
 相手が、闘気の類を…それとは何かちょっと違うが…纏っているのは、気づいていた
 ならば、それを利用してやれば良い
 なかなかに決められないし、目立ちすぎて使いにくい大技だが…だが、これが決まれば、勝てる!
 そう考え、竜巻によって翻弄される黒服を見あげて…

 魔女の一撃の契約者は、そこで信じられないものを見た

「はぁああああ…………っ」

 竜巻に巻き込まれながらも 
 その黒服は、攻撃を繰り出そうと、魔女の一撃の契約者に狙いを定めていて

「しまっ………」
「抹死武!!」

 突き出された拳
 そこから生まれる衝撃破が、魔女の一撃の契約者を襲う
 ……避けられない!?
 ぞくり、死の気配が魔女の一撃の契約者に忍び寄った

 ……死ぬ?
 俺が?
 ふざけるな!!!
 あいつに勝ててない状態で、死ねるかっ!!
 無理矢理体を動かし、直撃を避ける
 しかし…

「---っが!?」

 片腕に、攻撃が掠った
 骨が折れたのか、激痛が走る

 ずぅん!!と 
 地面を揺らしながら着地する黒服
 ある程度のダメージは受けたようだが…

「…ほんっとうに……化け物だな、畜生…!」

 負けて溜まるか
 俺は、負けられないんだ 
 あいつに勝つまで、誰にも負けてはいけない
 他の奴に負けるようでは、あいつに永遠に勝てない
 あいつを屈服させる事ができない!!

「…降参したらどうです?」
「まだまだぁっ!!」

 誰が降参など!!
 魔女の一撃の契約者が動かぬ腕をぶら下げながら、構えようとした、その時


 -----ぶぅぅぅぅぅぅぅん
 聞こえてきたのは、虫の羽音


「む、これは…」
「………!」

 黒焦げた、蝿の群れ
 それが、黒服の体を覆った
 無数の蝿の群れによって、黒服の姿消える

「----うぉっ!?」

 ぐい、と
 魔女の一撃契約者の体は……魔女の一撃によって、空中に持ち上げられた

「ひっひっひ…負けず嫌いなのはいいけどねぇ?無謀はだめぇ」
「な、てめ、降ろせ!」
「だぁめぇええ!!主は負けたくないんでしょぉ?このままだと負けちゃうからだぁめぇ!!引き分けのまま、ここは持ち越しにしましょぉ?」

 けたけた笑う、魔女の一撃

 魔女の一撃契約者は、それに抗議したかったが…既に、自分たちは空高く飛び、あの黒服から離れてしまっている
 今から戻って勝負の続き、などと言う雰囲気ではない

「先程の主の役目は、マッドガッサーたちを逃がす足止めにすぎなかったはず、熱くなりすぎよ」
「……っち……わかったよ…」

 冷静になって、痛みが彼を襲った
 片腕が、まともに動かない

「ひひひっ!教会に行って、ジャッカロープのミルクを飲みましょうねぇ?」
「…あぁ……そうだな…」

 …あの黒服、強い
 あの黒服に、勝てるようになれば………確実に、あいつを屈服させるだけの力が身についたことになる
 きゅう、と魔女の一撃の契約者は、歪んだ笑みを浮かべた

「…俺の経験になってくれてありがとうよ、黒服」

 もっと、もっと
 もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと
 もっと、強くなってやる
 魔女の一撃の契約者は、歪んだ強さへの執着を抱えながら、魔女の一撃と共に夜空へと消えていった


「………ぬん!!」

 スパニッシュフライの群れを、兄気によって追い払った黒服
 若者の姿は………ない
 逃げられてしまったか
 スパニッシュフライの契約者らしき姿も、気配も感じられない
 完全に、逃げられてしまったようだ

「…マッドガッサー一味…接近戦でやっかいなのはマリ・ヴェリテのベートだけと思われていましたが………これは、報告する必要がありますね」

 …それにしても、惜しい
 あの若者、あれだけの才能を持ちながら外法の技に走り、悪に加担するか
 一体、何があの若者を歪めたというのか…

 静かに、夜空に浮かぶ月を見あげる黒服
 月は何も応える事なく、ただ、静かにそこに佇み続けているのだった




fin



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