裏切りから
21:19 視聴覚室横の階段前
「破ぁ!!」
青年の放った光と共に、スプリンクラ―の水と、周囲に撒かれたガスが吹き飛んだ。
「……誰も被害はないか?」
周囲を見回しつつ青年が訊ねる。
皆は口々に、
「ちょっとぬれたの」
「くっそ、なんだ? いきなり」
「大丈夫ですか大将? ……なにか声が聞こえましたね」
「何者かに作動させられたようだな」
「兄さん大丈夫?」
「ああ。――やはり警備システムは完全に敵の手に落ちているということか」
そして、青年の契約者の少女が濡れた髪をガシガシ乱暴に服の袖で拭きながら声をかけてきた。
「Tさん、チャラい兄ちゃんの友達って、」
「マッドガッサーの一味だったらしいな」
少女は踊り場に開けられた穴に目を向け、
「チャラい兄ちゃんが……」
青年もそこに目を向けて厳しい表情で、
「連れて行かれたか」
「早く助けに行かねえと!」
少女の訴えに青年はまあ待て、と告げる。
「……≪日焼けマシーンで人間ステーキ≫の青年も≪首塚≫の成員だ。敵に捕まったからといってただでやられはしないだろう」
だが、
「気絶させられてたじゃねえか」
青年は少女の言葉に頷き、
「あの青年の友達――≪魔女の一撃≫の契約者は、あんなにも≪日焼けマシーンで人間ステーキ≫の青年に信用されていた状態で完全に背も向けられていたにも関わらず、その場で肉体的に害さずに連れ去るという手段に出た。
殺す気は無いと見ていい」
「……で?」
「俺たちは午前零時に学校町全体にばらまかれるガスをどうにかしなければならない」
「うんうん」
首を縦に振る少女を見据え、青年は問いかける。
「契約者よ、この町全体を襲おうとするガスとあの青年、どちらを優先す――」
少女は言葉の途中で青年の服の襟を掴み上げた。そして言う。
「明らかにやばいチャラい兄ちゃんからに決まってんだろ? んでもってその後まだこの騒ぎが収まってなかったらマッドガッサー止めに行く」
「……」
「……」
少女の視線の中、青年の眉はフラットなまま、瞳は無感情に見返してくる。
青年の言った言葉の意味は分かる。もし事が成った場合、被害が大きいのは学校町全体を包むとかいうガスだ。
――だからって目の前でかっさらわれたチャラい兄ちゃんを放っとけるか!
思い、物怖じせずに青年の襟を掴みあげたまま、少女は青年と視線をかち合わせる。
数秒、青年の目に感情が現れた。瞳にのぞく感情の色はどこか嬉しそうなもので、
眉を緩めて頷く。
「ではそうしよう」
放してくれと少女の腕を軽く叩く。少女が促されるままに手を放すと、
「状況証拠は揃っていたのに黒服さんにすら疑念を伝えてなかったのは俺の手落ちだ。それに――あの青年には迷惑かけてた分ここらで一つ善行でも積んでおきたい」
そう言って残りの皆に振り返る。
「俺たちは私情で≪魔女の一撃≫の契約者を追う。コーラの青年は、」
どうする? と訊く前に、
「僕は兄さんと一緒にいるよ?」
「歪みねえのな」
少女が呆れたように言う。青年はそうか、と頷き、
「では、悪いが離脱させてもらう」
言って踊り場へと歩いていき、契約者の少女を担ぎあげた。
「うぉ!? ちょ、Tさん!?」
「いちいち階段から下りて≪爆発する携帯電話≫を喰らうのはごめんだ。
飛び降りる、掴まれ」
「わかったの」
「お、おう」
青年は彼女らの頷きの声を聞くと共に、踊り場に開いた穴から飛んだ。
軽い浮遊感に包まれながら青年は思う。
(……何もなければいいが)
――なぜならば、
≪日焼けマシーンで人間ステーキ≫の青年は今は女で、≪魔女の一撃≫の契約者は、男なのだから……
青年の放った光と共に、スプリンクラ―の水と、周囲に撒かれたガスが吹き飛んだ。
「……誰も被害はないか?」
周囲を見回しつつ青年が訊ねる。
皆は口々に、
「ちょっとぬれたの」
「くっそ、なんだ? いきなり」
「大丈夫ですか大将? ……なにか声が聞こえましたね」
「何者かに作動させられたようだな」
「兄さん大丈夫?」
「ああ。――やはり警備システムは完全に敵の手に落ちているということか」
そして、青年の契約者の少女が濡れた髪をガシガシ乱暴に服の袖で拭きながら声をかけてきた。
「Tさん、チャラい兄ちゃんの友達って、」
「マッドガッサーの一味だったらしいな」
少女は踊り場に開けられた穴に目を向け、
「チャラい兄ちゃんが……」
青年もそこに目を向けて厳しい表情で、
「連れて行かれたか」
「早く助けに行かねえと!」
少女の訴えに青年はまあ待て、と告げる。
「……≪日焼けマシーンで人間ステーキ≫の青年も≪首塚≫の成員だ。敵に捕まったからといってただでやられはしないだろう」
だが、
「気絶させられてたじゃねえか」
青年は少女の言葉に頷き、
「あの青年の友達――≪魔女の一撃≫の契約者は、あんなにも≪日焼けマシーンで人間ステーキ≫の青年に信用されていた状態で完全に背も向けられていたにも関わらず、その場で肉体的に害さずに連れ去るという手段に出た。
殺す気は無いと見ていい」
「……で?」
「俺たちは午前零時に学校町全体にばらまかれるガスをどうにかしなければならない」
「うんうん」
首を縦に振る少女を見据え、青年は問いかける。
「契約者よ、この町全体を襲おうとするガスとあの青年、どちらを優先す――」
少女は言葉の途中で青年の服の襟を掴み上げた。そして言う。
「明らかにやばいチャラい兄ちゃんからに決まってんだろ? んでもってその後まだこの騒ぎが収まってなかったらマッドガッサー止めに行く」
「……」
「……」
少女の視線の中、青年の眉はフラットなまま、瞳は無感情に見返してくる。
青年の言った言葉の意味は分かる。もし事が成った場合、被害が大きいのは学校町全体を包むとかいうガスだ。
――だからって目の前でかっさらわれたチャラい兄ちゃんを放っとけるか!
思い、物怖じせずに青年の襟を掴みあげたまま、少女は青年と視線をかち合わせる。
数秒、青年の目に感情が現れた。瞳にのぞく感情の色はどこか嬉しそうなもので、
眉を緩めて頷く。
「ではそうしよう」
放してくれと少女の腕を軽く叩く。少女が促されるままに手を放すと、
「状況証拠は揃っていたのに黒服さんにすら疑念を伝えてなかったのは俺の手落ちだ。それに――あの青年には迷惑かけてた分ここらで一つ善行でも積んでおきたい」
そう言って残りの皆に振り返る。
「俺たちは私情で≪魔女の一撃≫の契約者を追う。コーラの青年は、」
どうする? と訊く前に、
「僕は兄さんと一緒にいるよ?」
「歪みねえのな」
少女が呆れたように言う。青年はそうか、と頷き、
「では、悪いが離脱させてもらう」
言って踊り場へと歩いていき、契約者の少女を担ぎあげた。
「うぉ!? ちょ、Tさん!?」
「いちいち階段から下りて≪爆発する携帯電話≫を喰らうのはごめんだ。
飛び降りる、掴まれ」
「わかったの」
「お、おう」
青年は彼女らの頷きの声を聞くと共に、踊り場に開いた穴から飛んだ。
軽い浮遊感に包まれながら青年は思う。
(……何もなければいいが)
――なぜならば、
≪日焼けマシーンで人間ステーキ≫の青年は今は女で、≪魔女の一撃≫の契約者は、男なのだから……