「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 黒服Hと呪われた歌の契約者-27

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 あいつがどう言う思いで任務についているのか、俺はわかっているつもりだ
 だから、なるべくあいつに仕事を回したくない
 あいつは、俺に頼られていないと思っているのかもしれないが
 …俺は、俺なりにあいつのことを考えて、そうしているつもりだ
 俺は俺自身がロクでもない存在である事は自覚しているつもりだ
 そんな俺なんかに担当されちまった不幸なあいつに、せめて辛い思いはして欲しくなかった


 …だから
 今回の仕事も、俺一人で充分だ


「相手を自殺させちまう、ってのも殺人の一環なんだぜ?知ってるか?」
「…そうだったんですか?」

 暗闇の中、声が響く
 …またか、と彼女はため息をついた
 何故、そんな言いがかりをつけてくるのだろう?
 私は、悪い事なんてしていない
 ただ、音楽を馬鹿にした相手を自殺させて
 そして、濡れ衣を着せられて殺されそうになったのだから、自身の身を護っただけなのに

「でも、あなたのお仲間に関しては、私、正当防衛ですよ?」
「うん、間違いなく正当防衛だな。疑いようもなく」

 暗闇の中、相手の姿は見えないが、何か納得したように頷いた事だけはわかった
 だから

「…それでは、帰ってもいいですか?」
「いや、それは困るんだよな。俺も仕事で来た訳だから」

 ………しゅるり
 地面を、何かが這って近づいてくる
 黒い、触手のような……違う、髪の毛?

「そう言う訳なんで、悪いけど死んでくれや?俺としては、美人のねーちゃん殺すのは勿体無いから嫌なんだけどな」

 …あぁ、またか、と彼女はやはり、ため息をつく
 ゆっくりと近づいてくる触手から、数歩離れ、歌いだす

「♪ ~ Sombre dimanche Les bras ~ ♪」

 歌には、音楽には、力がある
 歌は、音楽は、人の心を動かす
 人だけじゃない、動物、植物……命ある者、全て
 その全ての心を動かす事ができる
 だから、私は歌うのだ

「…「暗い日曜日」、だったか?自殺者がたっぷり出た呪われた歌」

 --------え?と
 歌う事はやめず、しかし、彼女は確かに、途惑った
 相手は、歌を聞いているはずだ
 しかし…聞こえてくる声に、相手の様子に、変化はない

「俺が担当してる契約者も…あぁ、今日は連れて来てねぇぞ?そいつも、な、お前と似たようなタイプの都市伝説と契約してるんだよ。呪われた歌。その歌を聴いた相手を問答無用で呪い殺す、そんな都市伝説」

 …しゅるるるる、と
 髪が彼女に迫るスピードが、速まる

「そいつなぁ、歌が好きなんだよ。歌うのが好きなんだよ。多分、あんたも音楽g明日きなんだろうが、それよりもずっとずっと、あいつは歌うのが好きなんだ」

 しゅるり 
 とうとう、髪の先が、彼女を捕えた

「だからよ、俺はあいつに仕事させたくねぇんだよ」

 しゅるしゅると
 脚を伝い、髪は彼女を束縛せんと絡みつく
 歌う事はやめず、その髪から逃れようとするが…髪は彼女の皮膚に食い込み、逃さない

 ……何故!?
 何故、私がこの歌を歌っているのに…相手は、心が動かない!?

 彼女の困惑など知らぬ様子で、相手は一方的に話し続けている

「あいつは、歌が好きだから。歌うのが好きだから………だから、あいつの大好きな歌で、あいつが歌う事によって誰かを殺させるなんて、俺はさせたうねぇ。あいつは、歌を愛しているからな」

 じゃり、と
 暗闇から、それは姿を現した
 黒服の男、その髪が伸びて、伸びて…伸び続けて、彼女を束縛していた
 全身を締め付けるように絡み、絡み…しかし、何故か喉だけは締め付けず、他の箇所だけを締め付け続けていた
 喉を絞めれば、もう声はでなくなると言うのに
 しかし、その喉だけを残し、束縛を続けてくる

「…あんたも、音楽は好きらしいな?音楽を馬鹿にしたって理由で、相手を殺すくらいだ………だが、な」

 サングラスの下から、黒服が彼女を見つめる
 ……その視線は、蔑んだものだった

「あんたは、その大好きな音楽で、人殺しをしたんだよ。音楽を愛する資格なんて、ないんじゃねぇの?」
「---------っ、して」

 とうとう、歌うのをやめて
 全身を締め付け、食い込む髪の痛みを感じつつ…彼女は疑問の言葉を口にする

「何故……っ私の歌で、心が動かないの……!?」
「ん?……あ~、それか」

 彼女の疑問の声に、その黒服はこの場にそぐわぬ笑みを浮かべた
 …一瞬、その笑みが悲しげに見えたのは、気のせいだったか?

「悪いな。俺の心って奴は、とっくの昔に壊れてんだ。どんなに他人の心を動かせる歌でも……俺には、なんともねぇや」

 …ぎりっ、と
 とうとう、髪が喉にも、絡みつく

「俺は、二回死んでんだよ。一度は人間として死んで、この黒服になってからも一回死んで………だから、もう死ぬなんざぁ、御免だしな。あんたの歌にゃあ、俺は殺されねぇよ」

 全身に、髪が絡みつく
 それは、皮膚に食い込み、どろどろと彼女を出血させ始めていた

「…音楽が大好きなあんたが歌う歌だ。それで自殺なんてしちゃあ、失礼だしな?」

 その言葉が、彼女が聞いた、最後の言葉だった
 次の瞬間、彼女の体に食い込んだ黒服の髪の毛は、一斉に彼女の体をバラバラに引き裂いた
 最早、人の原型すら残す事も許されずに……彼女は、その短い生涯に幕を下ろした


 髪を元に戻しておく
 残されたのは肉片、血溜まり
 濃い血の匂いが、辺りを染め上げる

「…あ~、後始末面倒だな…」

 髪についた血を軽く払いつつ、黒服Hはぼやく
 …勿体なかったな、と思う
 なかなかの美人だったのだが

「綺麗な声してたしなぁ」

 自分が担当している「呪われた歌」の契約者の彼女も綺麗な声をしているが…さっきの女も、良い声だった
 それはもう、いい勢いで髪が伸びるくらい

「でも、まぁ…歌で殺すことに戸惑い持ってなかったし、やっぱ彼女とは違うよな」

 「呪われた歌」の契約者には、その声で他者を殺すことに戸惑いがある
 …その行為に、悲しみを感じている
 だから、自分は彼女に仕事をやりたくない
 今回の仕事は特に、だ
 …歌で他人を殺す事に戸惑いのない奴を、彼女に合わせたくなかった

「さぁて、とっとと後始末して帰るか…」

 …途惑っていたな、あの女
 そんな事を考える

 確かに、あの歌を聴いたら、普通は自殺するのだろう
 どこまでも憂鬱になり、どこまでも自分と言う存在が嫌で嫌で仕方なくなって……生きる事に、絶望して
 自殺してしまうのだろう、普通は

 だが、彼にそれは通用しない
 何故ならば……彼は、とっくに絶望しきっているからだ
 自分自身に、世界そのものに…とっくの昔に、絶望している
 だから今更、あの程度の絶望で自殺したりはしないし
 ……彼の心は、とっくの昔に壊れている
 それもまた、事実なのだから


 黒服Hが立ち去った後には、肉片も、血溜まりも残っていなかった
 …ただ、かすかに、血の匂いだけが、その場を染め上げているのだった



fin






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