あいつがどう言う思いで任務についているのか、俺はわかっているつもりだ
だから、なるべくあいつに仕事を回したくない
あいつは、俺に頼られていないと思っているのかもしれないが
…俺は、俺なりにあいつのことを考えて、そうしているつもりだ
俺は俺自身がロクでもない存在である事は自覚しているつもりだ
そんな俺なんかに担当されちまった不幸なあいつに、せめて辛い思いはして欲しくなかった
だから、なるべくあいつに仕事を回したくない
あいつは、俺に頼られていないと思っているのかもしれないが
…俺は、俺なりにあいつのことを考えて、そうしているつもりだ
俺は俺自身がロクでもない存在である事は自覚しているつもりだ
そんな俺なんかに担当されちまった不幸なあいつに、せめて辛い思いはして欲しくなかった
…だから
今回の仕事も、俺一人で充分だ
今回の仕事も、俺一人で充分だ
「相手を自殺させちまう、ってのも殺人の一環なんだぜ?知ってるか?」
「…そうだったんですか?」
「…そうだったんですか?」
暗闇の中、声が響く
…またか、と彼女はため息をついた
何故、そんな言いがかりをつけてくるのだろう?
私は、悪い事なんてしていない
ただ、音楽を馬鹿にした相手を自殺させて
そして、濡れ衣を着せられて殺されそうになったのだから、自身の身を護っただけなのに
…またか、と彼女はため息をついた
何故、そんな言いがかりをつけてくるのだろう?
私は、悪い事なんてしていない
ただ、音楽を馬鹿にした相手を自殺させて
そして、濡れ衣を着せられて殺されそうになったのだから、自身の身を護っただけなのに
「でも、あなたのお仲間に関しては、私、正当防衛ですよ?」
「うん、間違いなく正当防衛だな。疑いようもなく」
「うん、間違いなく正当防衛だな。疑いようもなく」
暗闇の中、相手の姿は見えないが、何か納得したように頷いた事だけはわかった
だから
だから
「…それでは、帰ってもいいですか?」
「いや、それは困るんだよな。俺も仕事で来た訳だから」
「いや、それは困るんだよな。俺も仕事で来た訳だから」
………しゅるり
地面を、何かが這って近づいてくる
黒い、触手のような……違う、髪の毛?
地面を、何かが這って近づいてくる
黒い、触手のような……違う、髪の毛?
「そう言う訳なんで、悪いけど死んでくれや?俺としては、美人のねーちゃん殺すのは勿体無いから嫌なんだけどな」
…あぁ、またか、と彼女はやはり、ため息をつく
ゆっくりと近づいてくる触手から、数歩離れ、歌いだす
ゆっくりと近づいてくる触手から、数歩離れ、歌いだす
「♪ ~ Sombre dimanche Les bras ~ ♪」
歌には、音楽には、力がある
歌は、音楽は、人の心を動かす
人だけじゃない、動物、植物……命ある者、全て
その全ての心を動かす事ができる
だから、私は歌うのだ
歌は、音楽は、人の心を動かす
人だけじゃない、動物、植物……命ある者、全て
その全ての心を動かす事ができる
だから、私は歌うのだ
「…「暗い日曜日」、だったか?自殺者がたっぷり出た呪われた歌」
--------え?と
歌う事はやめず、しかし、彼女は確かに、途惑った
相手は、歌を聞いているはずだ
しかし…聞こえてくる声に、相手の様子に、変化はない
歌う事はやめず、しかし、彼女は確かに、途惑った
相手は、歌を聞いているはずだ
しかし…聞こえてくる声に、相手の様子に、変化はない
「俺が担当してる契約者も…あぁ、今日は連れて来てねぇぞ?そいつも、な、お前と似たようなタイプの都市伝説と契約してるんだよ。呪われた歌。その歌を聴いた相手を問答無用で呪い殺す、そんな都市伝説」
…しゅるるるる、と
髪が彼女に迫るスピードが、速まる
髪が彼女に迫るスピードが、速まる
「そいつなぁ、歌が好きなんだよ。歌うのが好きなんだよ。多分、あんたも音楽g明日きなんだろうが、それよりもずっとずっと、あいつは歌うのが好きなんだ」
しゅるり
とうとう、髪の先が、彼女を捕えた
とうとう、髪の先が、彼女を捕えた
「だからよ、俺はあいつに仕事させたくねぇんだよ」
しゅるしゅると
脚を伝い、髪は彼女を束縛せんと絡みつく
歌う事はやめず、その髪から逃れようとするが…髪は彼女の皮膚に食い込み、逃さない
脚を伝い、髪は彼女を束縛せんと絡みつく
歌う事はやめず、その髪から逃れようとするが…髪は彼女の皮膚に食い込み、逃さない
……何故!?
何故、私がこの歌を歌っているのに…相手は、心が動かない!?
何故、私がこの歌を歌っているのに…相手は、心が動かない!?
彼女の困惑など知らぬ様子で、相手は一方的に話し続けている
「あいつは、歌が好きだから。歌うのが好きだから………だから、あいつの大好きな歌で、あいつが歌う事によって誰かを殺させるなんて、俺はさせたうねぇ。あいつは、歌を愛しているからな」
じゃり、と
暗闇から、それは姿を現した
黒服の男、その髪が伸びて、伸びて…伸び続けて、彼女を束縛していた
全身を締め付けるように絡み、絡み…しかし、何故か喉だけは締め付けず、他の箇所だけを締め付け続けていた
喉を絞めれば、もう声はでなくなると言うのに
しかし、その喉だけを残し、束縛を続けてくる
暗闇から、それは姿を現した
黒服の男、その髪が伸びて、伸びて…伸び続けて、彼女を束縛していた
全身を締め付けるように絡み、絡み…しかし、何故か喉だけは締め付けず、他の箇所だけを締め付け続けていた
喉を絞めれば、もう声はでなくなると言うのに
しかし、その喉だけを残し、束縛を続けてくる
「…あんたも、音楽は好きらしいな?音楽を馬鹿にしたって理由で、相手を殺すくらいだ………だが、な」
サングラスの下から、黒服が彼女を見つめる
……その視線は、蔑んだものだった
……その視線は、蔑んだものだった
「あんたは、その大好きな音楽で、人殺しをしたんだよ。音楽を愛する資格なんて、ないんじゃねぇの?」
「---------っ、して」
「---------っ、して」
とうとう、歌うのをやめて
全身を締め付け、食い込む髪の痛みを感じつつ…彼女は疑問の言葉を口にする
全身を締め付け、食い込む髪の痛みを感じつつ…彼女は疑問の言葉を口にする
「何故……っ私の歌で、心が動かないの……!?」
「ん?……あ~、それか」
「ん?……あ~、それか」
彼女の疑問の声に、その黒服はこの場にそぐわぬ笑みを浮かべた
…一瞬、その笑みが悲しげに見えたのは、気のせいだったか?
…一瞬、その笑みが悲しげに見えたのは、気のせいだったか?
「悪いな。俺の心って奴は、とっくの昔に壊れてんだ。どんなに他人の心を動かせる歌でも……俺には、なんともねぇや」
…ぎりっ、と
とうとう、髪が喉にも、絡みつく
とうとう、髪が喉にも、絡みつく
「俺は、二回死んでんだよ。一度は人間として死んで、この黒服になってからも一回死んで………だから、もう死ぬなんざぁ、御免だしな。あんたの歌にゃあ、俺は殺されねぇよ」
全身に、髪が絡みつく
それは、皮膚に食い込み、どろどろと彼女を出血させ始めていた
それは、皮膚に食い込み、どろどろと彼女を出血させ始めていた
「…音楽が大好きなあんたが歌う歌だ。それで自殺なんてしちゃあ、失礼だしな?」
その言葉が、彼女が聞いた、最後の言葉だった
次の瞬間、彼女の体に食い込んだ黒服の髪の毛は、一斉に彼女の体をバラバラに引き裂いた
最早、人の原型すら残す事も許されずに……彼女は、その短い生涯に幕を下ろした
次の瞬間、彼女の体に食い込んだ黒服の髪の毛は、一斉に彼女の体をバラバラに引き裂いた
最早、人の原型すら残す事も許されずに……彼女は、その短い生涯に幕を下ろした
髪を元に戻しておく
残されたのは肉片、血溜まり
濃い血の匂いが、辺りを染め上げる
残されたのは肉片、血溜まり
濃い血の匂いが、辺りを染め上げる
「…あ~、後始末面倒だな…」
髪についた血を軽く払いつつ、黒服Hはぼやく
…勿体なかったな、と思う
なかなかの美人だったのだが
…勿体なかったな、と思う
なかなかの美人だったのだが
「綺麗な声してたしなぁ」
自分が担当している「呪われた歌」の契約者の彼女も綺麗な声をしているが…さっきの女も、良い声だった
それはもう、いい勢いで髪が伸びるくらい
それはもう、いい勢いで髪が伸びるくらい
「でも、まぁ…歌で殺すことに戸惑い持ってなかったし、やっぱ彼女とは違うよな」
「呪われた歌」の契約者には、その声で他者を殺すことに戸惑いがある
…その行為に、悲しみを感じている
だから、自分は彼女に仕事をやりたくない
今回の仕事は特に、だ
…歌で他人を殺す事に戸惑いのない奴を、彼女に合わせたくなかった
…その行為に、悲しみを感じている
だから、自分は彼女に仕事をやりたくない
今回の仕事は特に、だ
…歌で他人を殺す事に戸惑いのない奴を、彼女に合わせたくなかった
「さぁて、とっとと後始末して帰るか…」
…途惑っていたな、あの女
そんな事を考える
そんな事を考える
確かに、あの歌を聴いたら、普通は自殺するのだろう
どこまでも憂鬱になり、どこまでも自分と言う存在が嫌で嫌で仕方なくなって……生きる事に、絶望して
自殺してしまうのだろう、普通は
どこまでも憂鬱になり、どこまでも自分と言う存在が嫌で嫌で仕方なくなって……生きる事に、絶望して
自殺してしまうのだろう、普通は
だが、彼にそれは通用しない
何故ならば……彼は、とっくに絶望しきっているからだ
自分自身に、世界そのものに…とっくの昔に、絶望している
だから今更、あの程度の絶望で自殺したりはしないし
……彼の心は、とっくの昔に壊れている
それもまた、事実なのだから
何故ならば……彼は、とっくに絶望しきっているからだ
自分自身に、世界そのものに…とっくの昔に、絶望している
だから今更、あの程度の絶望で自殺したりはしないし
……彼の心は、とっくの昔に壊れている
それもまた、事実なのだから
黒服Hが立ち去った後には、肉片も、血溜まりも残っていなかった
…ただ、かすかに、血の匂いだけが、その場を染め上げているのだった
…ただ、かすかに、血の匂いだけが、その場を染め上げているのだった
fin