傍にいる事が許されるのは、自分だけだと思っていた
あいつが心を開いてきた相手は、自分だけだと思っていた
あいつが心を開いてきた相手は、自分だけだと思っていた
その幻想が、あっさりと打ち砕かれるとも知らずに
あいつは、誰にも心を開いていなかった
心の開き方を知らなかった
大人を信じる事ができず
だが、同世代の俺達に、どう話しかけたらいいのかもわからない様子で
放っておく事ができずに声をかけた
困っている人を見捨てるな、親からそう教えられていたから、それを実行した、それだけだった
心の開き方を知らなかった
大人を信じる事ができず
だが、同世代の俺達に、どう話しかけたらいいのかもわからない様子で
放っておく事ができずに声をかけた
困っている人を見捨てるな、親からそう教えられていたから、それを実行した、それだけだった
少しずつ、話してくれるようになった
あいつからも、話し掛けてくれるようになった
ほんの少しだが、笑ってくれるようになった
あぁ、心を開いてくれたのだ、そう思った
あいつからも、話し掛けてくれるようになった
ほんの少しだが、笑ってくれるようになった
あぁ、心を開いてくれたのだ、そう思った
『……友達に、なって、くれるのか?』
そう、あいつが言ったのは、あいつと知り合って一年も経ってからだった
その前から友達だろう?と笑ってやったら、あいつは戸惑いながらも笑い返してきて
その前から友達だろう?と笑ってやったら、あいつは戸惑いながらも笑い返してきて
あぁ、自分はこいつとずっと友達でいてやろう
自分がいないと、こいつは駄目なんだ、と勝手に思い込んでいた
自分がいないと、こいつは駄目なんだ、と勝手に思い込んでいた
……あの時
あの、黒服が姿を現すまでは
あの黒服を見て、あいつが幸せそうに笑う姿を見るまでは
あの、黒服が姿を現すまでは
あの黒服を見て、あいつが幸せそうに笑う姿を見るまでは
『あの黒服は、俺の恩人なんだ』
そう言って、あいつは笑った
幸せそうに、幸せそうに
大人なんて、誰も信じていなかったはずなのに、嫌悪していたはずなのに
あの黒服の事を話している時
あの黒服と、向き合っている時
あいつは、心から幸せそうに笑ったのだ
今まで、見せた事もないような笑顔で
幸せそうに、幸せそうに
大人なんて、誰も信じていなかったはずなのに、嫌悪していたはずなのに
あの黒服の事を話している時
あの黒服と、向き合っている時
あいつは、心から幸せそうに笑ったのだ
今まで、見せた事もないような笑顔で
それでも、あいつの傍に自分はいなければならないと思った
あの黒服は、いつでもあいつの傍にいる訳じゃない
自分があいつの傍にいて、護ってやらなければならないと思っていた
あの黒服は、いつでもあいつの傍にいる訳じゃない
自分があいつの傍にいて、護ってやらなければならないと思っていた
…小学校の、遠足の時だったろうか
帰りのバスが、トンネル事故にあって
その時だって、自分はあいつを護ってやろうと思っていた
心細いだろうから、自分が傍にずっとついていてやろうと
………ずっと、傍にいたはずだった
少なくとも、自分はそう覚えていた
真実は違ったのだと、知ってしまったのはもう少し後
帰りのバスが、トンネル事故にあって
その時だって、自分はあいつを護ってやろうと思っていた
心細いだろうから、自分が傍にずっとついていてやろうと
………ずっと、傍にいたはずだった
少なくとも、自分はそう覚えていた
真実は違ったのだと、知ってしまったのはもう少し後
中学卒業を目前にして、あいつは家を出た
この世で一番嫌っていた両親の元から逃げ出して
…自分を、頼ってきてくれた
高校に入ると同時に、アルバイトをし始め、すぐに自分の傍から離れていってしまったが
だが、それでも、少しの間、自分を頼ってくれて、一緒に生活した
この世で一番嫌っていた両親の元から逃げ出して
…自分を、頼ってきてくれた
高校に入ると同時に、アルバイトをし始め、すぐに自分の傍から離れていってしまったが
だが、それでも、少しの間、自分を頼ってくれて、一緒に生活した
…あぁ、やはり、自分は頼られていたのだ
自分が、護ってやるべきなのだ
あの黒服よりも、自分の方がこいつに頼られている!!
…そう、勝手に思い込んでいた
自分が、護ってやるべきなのだ
あの黒服よりも、自分の方がこいつに頼られている!!
…そう、勝手に思い込んでいた
……高校に入ると同時に、あいつは髪を染め上げ、肌は何時の間にか日焼けしていた
そして、気づいた
気づいてしまった
あいつは、何時の間にか……自分よりも、強くなっていた
小学生の頃は、自分よりも小さくて、細くて
護ってやらねばと、そう思える奴だったのに
何時の間にか、自分よりも背が伸びていた
筋肉質、と言う訳ではないが、体は鍛えられていて
そして、気づいた
気づいてしまった
あいつは、何時の間にか……自分よりも、強くなっていた
小学生の頃は、自分よりも小さくて、細くて
護ってやらねばと、そう思える奴だったのに
何時の間にか、自分よりも背が伸びていた
筋肉質、と言う訳ではないが、体は鍛えられていて
何時の間にか、喧嘩をしても勝てなくなってしまっていた
「狂犬」と呼ばれるほどに強くなったあいつに、何度も挑んだ
何度も、何度も、何度も
時に挑発して怒らせ、時にはこちらから積極的に殴りかかって
しかし、一度も勝てたことはない
結局、一度も勝てないままだった
何度も、何度も、何度も
時に挑発して怒らせ、時にはこちらから積極的に殴りかかって
しかし、一度も勝てたことはない
結局、一度も勝てないままだった
何度も、そうやって怒らせてきたと言うのに
何度も、殴りあった仲だと言うのに
それでも、あいつは自分の友人であり続けた
何度も、自分を許してきた
何度も、殴りあった仲だと言うのに
それでも、あいつは自分の友人であり続けた
何度も、自分を許してきた
『お前は、俺の一番大事な親友だから』
そう言って、あいつは笑ってきて、いつだって許してきたのだ
こちらの、裏切りギリギリの行為すら、全て許して
いつまでも友人でいると、そう告げてきた
こちらの、裏切りギリギリの行為すら、全て許して
いつまでも友人でいると、そう告げてきた
…嬉しかった
やはり、自分はあいつの傍にいる事が許されている
あいつが、一番心を開いている相手は自分なのだ
そう思えて、嬉しかった
やはり、自分はあいつの傍にいる事が許されている
あいつが、一番心を開いている相手は自分なのだ
そう思えて、嬉しかった
………だが
大学受験の受験日、その当日
一緒に、受験を受けるはずだったというのに
受験会場の傍で、何やらゴタゴタが起きて……その時、あの黒服の姿を見つけた、あいつは
大学受験の受験日、その当日
一緒に、受験を受けるはずだったというのに
受験会場の傍で、何やらゴタゴタが起きて……その時、あの黒服の姿を見つけた、あいつは
『…ッ悪い!ちょっと行って来る!』
と、そう言って、あいつは黒服を追いかけていって
……結局、受験会場には現れなかった
……結局、受験会場には現れなかった
何があったのかは、知らない
だが、あいつはあの黒服を追いかけた
自分と一緒の大学に行く事よりも、あの黒服が何か巻き込まれている事件の…そちらを、優先したのだ
……自分よりも、あの黒服を優先したのだ
だが、あいつはあの黒服を追いかけた
自分と一緒の大学に行く事よりも、あの黒服が何か巻き込まれている事件の…そちらを、優先したのだ
……自分よりも、あの黒服を優先したのだ
高校卒業を機に、あいつと会わなくなって
…あいつのいない生活は、灰色だった
あいつと一緒にいられるようにと選んだ大学は、あいつがいなければただただ、つまらなくて
人生そのものが灰色になったような、そんな錯覚
…あいつのいない生活は、灰色だった
あいつと一緒にいられるようにと選んだ大学は、あいつがいなければただただ、つまらなくて
人生そのものが灰色になったような、そんな錯覚
そんな最中、「魔女の一撃」と契約し
…俺は、忘れていた記憶を思い出した
…俺は、忘れていた記憶を思い出した
遠足の帰り、バスがトンネル事故にあい、トンネルの中に閉じ込められて
皆が怖がって泣いていた中……あいつは、平然としていて
そして、自分達は気づいてしまった
トンネルの天井から、無数の手が降りて来ていて…こちらに、手を伸ばしていたのを
たちまち、バスの中は、パニックになって…
皆が怖がって泣いていた中……あいつは、平然としていて
そして、自分達は気づいてしまった
トンネルの天井から、無数の手が降りて来ていて…こちらに、手を伸ばしていたのを
たちまち、バスの中は、パニックになって…
『…お前たち、何も見るな!!』
そう言って、あいつはバスから飛び出して
バスに手を伸ばしてきていた無数の手が、あいつに伸びて
バスに手を伸ばしてきていた無数の手が、あいつに伸びて
あいつが、あの手を焼き消していった
全てが終わった後、トンネルの中に無数の黒服が入ってきて
その内の一人は、あの黒服だった
あいつのことを心配して、慰めていて
…次に、自分の目を、覗き込んできて
その内の一人は、あの黒服だった
あいつのことを心配して、慰めていて
…次に、自分の目を、覗き込んできて
『…あなたは何も見ていない、あなたは何も聞いていない…』
………そして、自分は全てを忘れていた
何だ
自分は、のけ者だったのだ
あいつの傍にいる事が許されるのは、自分だけだと思っていた
あいつが心を開いてきた相手は、自分だけだと思っていた
だが、本当は…あいつの傍にいる事が許されるのは、あの黒服だった
あいつが心を開いてきた相手は…あいつが、「一番最初」に心を開いた相手は、あの黒服だったのだ
自分は、のけ者だったのだ
あいつの傍にいる事が許されるのは、自分だけだと思っていた
あいつが心を開いてきた相手は、自分だけだと思っていた
だが、本当は…あいつの傍にいる事が許されるのは、あの黒服だった
あいつが心を開いてきた相手は…あいつが、「一番最初」に心を開いた相手は、あの黒服だったのだ
自分ではなかった
確かに、自分はあいつの友人だ、親友だ
あいつも、そう言ってくれた
それは、確かな真実
確かに、自分はあいつの友人だ、親友だ
あいつも、そう言ってくれた
それは、確かな真実
だが、同時に俺は完全なのけ者だったのだ
あいつの真実を、何も知らされていなかった
あいつは、俺が護ってやっているはずだった
しかし、本当は、俺がずっとあいつに護られていただけだったのだ
あいつの真実を、何も知らされていなかった
あいつは、俺が護ってやっているはずだった
しかし、本当は、俺がずっとあいつに護られていただけだったのだ
悔しかった
ずっと、俺が上なのだと思っていた
高校の頃、あいつに負け続けていた時でさえ…幼い頃は、俺があいつを護ってやっていたのだ、というのが、俺のささやかな誇りだった
その誇りすらも、俺は否定されたのだ
ずっと、俺が上なのだと思っていた
高校の頃、あいつに負け続けていた時でさえ…幼い頃は、俺があいつを護ってやっていたのだ、というのが、俺のささやかな誇りだった
その誇りすらも、俺は否定されたのだ
傍にいる事が許されなくなり
ささやかな誇りさえも否定され
だが、浮かんだのは憎しみであると同時に……渇望
ささやかな誇りさえも否定され
だが、浮かんだのは憎しみであると同時に……渇望
勝ちたい
あいつに勝ちたい
打ち負かしたい
徹底的に打ち負かし、屈服させてやりたい
あいつに勝ちたい
打ち負かしたい
徹底的に打ち負かし、屈服させてやりたい
あいつは、俺の大事な親友だ
この世で一番の、大切な親友
だから、護ってやろう
護られるのではなく、護ってやろう
その為にも、ずぅっと俺の傍に置いておいてやるのだ
もう、二度と離れるものか
この世で一番の、大切な親友
だから、護ってやろう
護られるのではなく、護ってやろう
その為にも、ずぅっと俺の傍に置いておいてやるのだ
もう、二度と離れるものか
マッドガッサー達の計画に乗ったのは、そのためもあった
あいつを屈服させる為の手段が欲しかった
あいつを、マッドガッサーのガスで、女にしてやるのだ
女の体になれば、きっと、あいつは不安だろう
そこに近づいて、より、俺を信頼させて
あいつを屈服させる為の手段が欲しかった
あいつを、マッドガッサーのガスで、女にしてやるのだ
女の体になれば、きっと、あいつは不安だろう
そこに近づいて、より、俺を信頼させて
そして、裏切ってやろう
その体を犯し尽くして、俺だけのものにしてやろう
そして、護ってやるのだ
俺以外の全てが、あいつを害する事を許さない
あいつを護っていいのは俺だけで
あいつを害していいのも、俺だけなのだ
ずっとずっと、傍に置いて…二度と、放してやるものか
その体を犯し尽くして、俺だけのものにしてやろう
そして、護ってやるのだ
俺以外の全てが、あいつを害する事を許さない
あいつを護っていいのは俺だけで
あいつを害していいのも、俺だけなのだ
ずっとずっと、傍に置いて…二度と、放してやるものか
今の状態は、心地いい
あいつ以外とつるんだ事はほとんどなかったが、なかなか面白いものだ
ここにあいつもいれば、きっと最高だ
皆だって、あいつの事が気に入ってくれるだろう
まぁ、指一本、触れさせてやるつもりはないが
あいつ以外とつるんだ事はほとんどなかったが、なかなか面白いものだ
ここにあいつもいれば、きっと最高だ
皆だって、あいつの事が気に入ってくれるだろう
まぁ、指一本、触れさせてやるつもりはないが
放っておけないのだ、あいつと一緒で
どいつもこいつも、危なっかしい
だから、俺が護ってやらなければならないのだ
俺が、支えてやらなければならないのだ
あいつを手に入れる為にも、皆の力が必要なのだ
そして、あいつを手に入れる為に力を貸してくれる皆にも、俺は力を貸すのだ
どいつもこいつも、危なっかしい
だから、俺が護ってやらなければならないのだ
俺が、支えてやらなければならないのだ
あいつを手に入れる為にも、皆の力が必要なのだ
そして、あいつを手に入れる為に力を貸してくれる皆にも、俺は力を貸すのだ
………あぁ、楽しみだ
あいつを手に入れるのが
皆が望む世界がゆっくりと作られていくのが
楽しみで、楽しみで
あいつを手に入れるのが
皆が望む世界がゆっくりと作られていくのが
楽しみで、楽しみで
俺自身が壊れかけている事など
俺は、全く気になりはしないのだ
俺は、全く気になりはしないのだ
fin