「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ビター・スウィート・ビターポイズン-02

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匿名ユーザー

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 甘い物には、中毒性というものが存在していると思う
 こればかり食べていては駄目だ、と頭でわかっていても、体はどうしようもなくその甘味を求めてしまう
 一度、甘い物断ちをしたとしても、ちょっとしたキッカケで口にしてしまえば、台無しだ
 体は再び甘味を求めて、止まらなくなる

 それは、スウィート・ポイズンも同じだ
 あの優しさは、優しさに慣れない人間にとって、高い高い中毒性を持っていると言って過言ではない
 かく言う俺も、あの優しさにほんの一度触れただけで、中毒になりかかっているのだから
 あれ以来顔を合わせたことはなく、遠くから何度か姿を見かけただけであるが為、重度の中毒には陥っていない
 だが、多分、何度か姿を見た時傍にいたあの男は、きっとどうしようもなくスウィート・ポイズン中毒に陥っているのだろう
 遠くから見ても、それはハッキリとわかるくらいだったから


 とまれ、今回の話は甘い物の話なのだ
 その癖して、甘い物本体はカケラも出てきやしない
 ただ出てくるのは、どうしようもなく苦いビター・ポイズンだけ
 名前だけを聞けば甘そうだと言うのに、そいつは間違いなくビター・ポイズンだった
 何人もの命を奪い続け、その癖して自分はどこまでも平気な顔をして、貪欲に幸福をむさぼる存在

 しかも、きっと通常ならば、そいつが人殺しであることなど全く気づかれる事なく…いや、きっと人間の法律で言えば、そいつは人殺しとして罰する事すらできないだろう
 実際、あいつは自分の手で人を殺したわけではないのだから
 しかし、あいつは間違いなく人殺しだった
 あいつの能力でもって、死んだ人間はどれだけいたのだろうか?
 それは、俺にはわからない
 多分、あいつ自身、そんなもの数えた事もないだろう
 あそこまで人殺しに躊躇しない人間が、そんな事を覚えているとは思えない

 あのお人好しのスウィート・ポイズンだったら、あのビター・ポイズン相手にどんな対処をしただろうか
 もしかしたら、説得でもしようとしたのかもしれない
 何せ、あいつはどこまでもどこまでも、未成年相手に慈悲深いものだから
 説得でどうにかなるかもしれない、と甘っちょろい考えを抱いた可能性は高い

 だが、あのビター・ポイズン相手に、そんな甘い戯言が通用するとは思えない
 スウィート・ポイズンのあの優しさも慈悲深さも、きっとあのビター・ポイズンには一生届かなかっただろう
 だから、あのビター・ポイズンと遭遇したのが俺で良かったと、そう心から思うのだ



「---っはぁ」

 痛い
 痛い、痛い、痛い
 肩の痛みに、彼はうめいた
 少年、と言うには少し大人っぽく、青年、と言うにはやや幼い風貌の彼
 彼は、今、逃げている最中だった
 みっともなくも、敵の攻撃から逃げている最中だ

 …いや、これは敵の攻撃なのか?
 厳密にそう言えるかどうかは、彼にはまったくわからない
 ただ、今、彼が負傷しているのは、間違いなく敵の契約している都市伝説によるものだった

「あぁ、くそ…どんな能力なんだ」

 考えろ、考えろ
 都市伝説契約者同士の戦いは、相手の能力を把握している方が、圧倒的に有利なのだ
 逆に、相手の能力がわからなければ…それは、絶望的に不利な状況と言える
 いや、どちらにせよ…俺のように意思ある都市伝説と契約し、それと共に行動する人間は、そのパートナーたる都市伝説がいない、今の俺のような状況では…どちらにせよ、絶望的に不利である事に変わりは内のだが

 人気のない路地裏を、一人で走る
 相手に追いつかれる前に、相手の能力を把握しようと焦る彼の…その、頭上から
 何かが…彼の頭目掛けて、落下してきた

「っうわ!?」

 がしゃぁん!!
 すんでのところで避けたそれは、植木蜂
 しかも、当然と言うか何と言うか、中身有りの植木蜂だ
 こんな、ものが頭を直撃したら、普通の人間は死ねる

「くそ、車に轢かれかけるわ、散歩中の犬に突然飛び掛られるわ、鉄パイプが一斉に倒れてくるわ…どうなってんだ」

 なんと言う、不幸のオンパレード
 ………うん?
 不幸??
 彼は、そのキーワードが引っかかった

「不幸系の都市伝説か?不幸の手紙…いや、住所不定の俺にそんな物届いていない…黒猫が前を横切ると…霊柩車の前では親指を隠して…くそ、どれも心当たりねぇぞ」

 知っている限りの、対象に不幸を呼び寄せる都市伝説を想像する
 だが、それらのどの攻撃も受けた覚えがない
 契約によって、なんらかの拡大解釈能力が備わっているなら別だが…

「----っと、うわっ!?」

 直後
 足元を、野良猫が駆け抜けた
 黒猫でもなんでもない、ただのブチ猫
 それが足元を駆け抜けた拍子に、彼はバランスを崩して……ぐきり
 足を、くじいてしまった
 これでは、まともに走れそうにない…!

「…あぁ、やっと、動きが止まったかな?」

 聞こえて来たのは、無邪気な声
 声の方向に彼が視線をやれば、そこにいたのは少年
 恐らく、彼よりも年下だろう
 中学生くらいじゃないだろうか?
 ニコニコと、彼を見詰めている

「てめぇの仕業か、この不幸のバーゲンセール状態は」
「ピンポ~ン」

 悪びれなく答えられ、彼はやや不機嫌になる
 他人を不幸にして、こうやって痛い目にあわせてきているのだ
 ちょっとは、罪悪感を感じろと言うのだ
 ニコニコニコ
 少年はどこまでも、無邪気に笑いながら彼を見詰めている

「お兄さんも、都市伝説契約者だよね?」
「…そうだと言ったら?」
「「組織」に入らない?」

 …「組織」の関係者、か
 彼は小さく舌打ちした
 彼の「組織」との関係は正直最悪そのものである
 初めて「組織」に誘われた時、「組織」に入らないならば始末すると言わんばかりの勧誘が嫌で、返り討ちにした
 それから何人か、「組織」関係者を返り討ちにしてきて…ある時出会ったあの優しい黒服に見逃されるまで、彼は何人もの「組織」関係者を殺してきた
 あの黒服に見逃された後でさえ、数人、自分を見つけて襲い掛かってくるなり勧誘してくるなりした「組織」関係者を殺している
 「組織」にとって、彼は憎むべき対象しかないはずである

「何度も断ってるんだがな」
「うん、そうらしいね。でも、ね、「組織」はしつこいんだよ。「首塚」って相手を何度も管理下に入れようとして失敗して、何度呪われても懲りない人達が上にいるらしいから」

 少年は、無邪気にそう言ってきた
 …ようやく
 彼は、この少年の顔に、見覚えがある事を思い出す
 昼間、街中を歩いてきて、自分にぶつかってきた少年
 ぶつかった瞬間、何かを口走っていたような…

「---「ハッピーアイスクリーム、タッチ」……?」
「「ハッピーアイスクリーム」。それがボクの契約している都市伝説だよ」

 無邪気に、そしてどこか自慢げに、誇らしげに、少年は笑ってくる

「本当は、相手と同じ事をほぼ同時に言った瞬間に、そう言って触らなきゃ駄目なんだけどね。契約のお陰で、そう言って触るだけでよくなったんだ」
「……ハッピー・アイ・スクリーム。『私は幸せを呪います』ってか?…駄洒落ってか、そんな都市伝説聞いたことねぇぞ」
「地域限定なマイナー都市伝説らしいからね。知らなくても無理ないと思うよ」

 幸運を吸い取る
 この少年は、彼の幸運を吸い取って…そして、それ事態が「攻撃」になっていた、そう言う事なのだ
 幸運を吸い取られる事で、極限の不運を手に入れた彼は、数々の不幸に見舞われた
 一歩間違えば命を失いかねないほどの不幸を背負わされたのだ
 攻撃されたせいだ、と気づかなければ、不幸な死にしかならない攻撃
 なんと恐ろしい攻撃だろうか

「でも、お陰で便利な能力だよ?幸運を吸い取るから、ボクはとってもハッピーだし。気づかれずに殺せるから、暗殺向きなんだって」
「…つまり、お前はこの能力で、既に人を殺している訳だ」
「うん、そうだよ」

 悪びれもなく
 無邪気に無邪気に笑って、少年は答えてきた
 まだ、中学生くらいにしか見えないと言うのに
 その存在は、既に無数の命を奪っているとでも言うのか

「ボクの担当の黒服がね、「組織」の敵は皆殺しにしなさい、って言うんだ。だから、ボクは「組織」のためにお仕事してるんだよ」
「サイッテーな仕事だな。餓鬼に人殺しをさせるなんて」

 …あのスウィート・ポイズンが嫌がりそうな事だ
 間違いなく、この少年の担当黒服はスウィート・ポイズンでは、ない

「そう?楽しい仕事だよ。ボクが触っただけで、相手は面白いくらい不幸になって、面白いくらい簡単に死んじゃうんだから」

 まるで、蟻の巣にお湯を注いだり、蛙の尻に爆竹を入れるのは楽しい、というのと同じ感覚でも抱いているかのように、少年は言い切った
 …人殺しに、一切の罪悪感も、躊躇も感じていない
 他人の不幸を嘲笑い、他人の幸福を奪って自分だけが幸福になろうと言う、どこまでも自分勝手な存在

「…ハッピーアイスクリーム、なんて甘ったるい名前の癖に…とんだビター・ポイズンだな」
「びたー………?何??」

 彼の言葉に、少年は首を傾げた
 が、すぐに、また笑ってくる

「まぁ、どうでもいいや。お兄さん、早く決めてよ。「組織」に入るのか、それとも、このままボクの能力で不幸に死んでいくのか」

 どっち?と
 突きつけられる、最後勧告
 無邪気に笑ったままの少年を、彼は睨みつけた

「どっちもお断りだ」
「えぇ、お兄さんワガママだなぁ。選択肢はどっちかしかないのに」
「まだまだ選択肢はあるぞ。お前が俺を「組織」に誘うのを諦めたり、お前が死んだり」

 彼の言葉に…少年は、ケタケタと笑った
 嘲笑うかのようなその笑いが、彼を苛立たせる

「前半は、ボクが黒服に褒めてもらえないから駄目ー。後半は、無理無理。お兄さん、今、とってもとっても不幸なんだから。ボクを殺そうとしても、不幸にもお兄さんが死んじゃうだけだよ」

 …一歩
 少年は、彼に近づいてくる

「ナイフでも持ってて、ボクを刺し殺す?それとも、ボクの首を絞めて殺しちゃう?…お兄さんがボクをどう殺そうとも、お兄さんは不幸にも、逆に死んじゃうだけさ」
「…俺がお前を殺そうとしたら、か」
「そうそう」

 一歩
 また、近づいてくる
 少年は、彼を恐れてなどいない
 ただ、嘲笑っているだけだ

「……そうか」

 深々と、彼はため息をつく
 相手が、自分の能力に無駄に自信を持ったバカで良かった
 そう、思いながら

「悪い、任せた。ククージィ」

 と……誰かに、告げた
 少年が、ハっとして辺りを見回す

 ばさり
 聞こえてきた、何かがはばたく音

 一匹の、小さな蝙蝠が…何時の間にか、少年に近づいてきていて

「まったく、仕方ないな」

 そう、蝙蝠が呟いた、瞬間
 蝙蝠の姿は、一人の西洋人の老人の姿へと変わって

「っい、いつの間に……っ」

 逃げ出そうとした、少年の両肩を、老人は、がしりと掴んで
 ガブリ……その首筋に、噛み付いた
 びくりっ!と少年の体は痙攣したように震えて
 …ほんの、一分ほどの時間がたった頃には
 その体は、体中、全ての血液を失った死体へと、変わり果てていたのだった


「降ろせ」
「足をくじいた奴が何を言う」
「おーろーせ」
「誰も見ておらんからいいだろうに」

 何が悲しくて、18歳にもなって爺におんぶされなければならないのか
 彼は不満を訴えるのだが、足をくじいたせいでまともに歩けないのは事実
 おぶられたままでいるしかないのだ、現実には

「わしがおらんと、お前はまったく病気をしなくて少し常人より体が丈夫なくらいのただの人間。もっと用心しろと言っているだろうに」
「…わかってるよ」

 あの少年にぶつかられた時点で、気づくべきだったのだ
 不審な行動や言動の奴に接触されたら、もっと用心するべきなのだから
 …まったく、何年都市伝説と付き合ってきたと思っているのだ、自分は
 その癖に、こんな不覚を取るとは

「だが、良かったのか?」
「…何がだよ、爺ちゃん」
「子供を殺してしまって。お前のスウィート・ポイズンは、子供が死ぬのを嫌がる男じゃろ?」
「……それは、そうなんだがな」

 それは、間違いない
 だが、あれは殺すべき相手だったのだ

「あの餓鬼は、ビター・ポイズンだった。殺すべき対象だったよ」
「なら、いいんじゃがな」

 苦い苦い、他者を平気で殺すビター・ポイズン
 自分は、それを狩って行かなければならない
 スウィート・ポイズンの身の安全や願いをかなえるためにも
 この世に、ビター・ポイズンが存在していてはいけないのだ

「…爺ちゃん」
「なんじゃ?」
「そろそろ、学校町に戻らないか?」

 彼の言葉に、老人吸血鬼はおや、と笑う

「おや…故郷が恋しくなったのか?」
「そうじゃねぇ…ただ、最近学校町で、事件が多すぎるから」

 あの街に、異様に都市伝説が多いあの街に
 今、どれだけのビター・ポイズンが集まってしまっているだろう
 それを、狩り立てにいかなければ
 日本中、いや、世界中回って、たくさんのビター・ポイズンを狩ってきたのだ
 そろそろ、あの街に戻ってもいいだろう

「…まぁ、良いじゃろ。あの街に戻って、少し腰を落ち着けるのも悪くない」

 彼と契約している老人吸血鬼は、深く追求はしてこずに
 ただ、己の契約者の要求を、飲んでくれたのだった



 俺は、アイスクリームがあまり好きじゃない
 どうにも甘ったるすぎて、胸焼けがしてしまうのだ
 その癖して、一度口にするとまた食べたくなってしまって、何度も何度も、無性に口にしたくなる
 そうして、何度も胸焼けを起こしてしまうのだ
 だから、あまり好きじゃない
 今回のこの事件のせいで、余計に嫌いになってしまった
 いや、アイスクリームに何の罪もない事は、百も承知なのだが

 アイスクリーム中毒になるつもりはない
 俺は、スウィート・ポイズンの中毒になりかけなのだ
 これ以上、中毒物を増やす気にはなれないのだ



fin




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