三面鏡の少女 21
「面倒な事が色々起きてるから、しばらくは外を出歩かない方がいい」
自分の担当である黒服Hから、電話でそんな一報を受けてからというもの外出を控えているのだが
「……ひまー」
枕を抱いて顔を埋め、ぱたぱたと足を振り回す
合わせ鏡に自分の死に顔が見える――そんな能力は今のところ一度を除いて暇潰し以外には役に立っていない
「鏡にまつわる都市伝説とか増やせないかなー。でも契約する都市伝説を増やすと危ないってHさんも言ってたしなー」
都市伝説との契約とは、都市伝説との同調
強弱の差はあれど、契約を結べば『そちら側』に引っ張られる事になる
人に非ず力を有すれば、それは人でなくなるという事なのだ
だが、人は力に惹かれる
力の高みに憧れる者
力を奮う事に酔う者
力が足りぬ事を嘆く者
形は様々でも目的は同じ――力を欲するという事
「うーん、Hさんは忙しそうだし……ていうか組織の人達は皆忙しそうだしなー」
都市伝説について相談できそうな相手はなかなかいない
ほとんどの大人は「深入りするな」といった意味合いの事しか返してこないのだ
「やっぱり自力で調べなきゃなー……図書館行こっと」
この町の図書館は、町の歴史、伝奇、都市伝説、怪談等々そういった資料に事欠かない
司書らしい大人の魅力満載のお姉さん(年齢不詳)が趣味で蔵書を増やしているらしいが、やはり土地柄というのもあるのだろうか
「おかーさーん、図書館行ってくるー」
「帰りにどっか適当なとこでお醤油買ってきてー」
「はーい」
キッチンにいた母との何気ないやり取りの後、先日新調したコートに袖を通し寒空の下を駆け出して行った
自分の担当である黒服Hから、電話でそんな一報を受けてからというもの外出を控えているのだが
「……ひまー」
枕を抱いて顔を埋め、ぱたぱたと足を振り回す
合わせ鏡に自分の死に顔が見える――そんな能力は今のところ一度を除いて暇潰し以外には役に立っていない
「鏡にまつわる都市伝説とか増やせないかなー。でも契約する都市伝説を増やすと危ないってHさんも言ってたしなー」
都市伝説との契約とは、都市伝説との同調
強弱の差はあれど、契約を結べば『そちら側』に引っ張られる事になる
人に非ず力を有すれば、それは人でなくなるという事なのだ
だが、人は力に惹かれる
力の高みに憧れる者
力を奮う事に酔う者
力が足りぬ事を嘆く者
形は様々でも目的は同じ――力を欲するという事
「うーん、Hさんは忙しそうだし……ていうか組織の人達は皆忙しそうだしなー」
都市伝説について相談できそうな相手はなかなかいない
ほとんどの大人は「深入りするな」といった意味合いの事しか返してこないのだ
「やっぱり自力で調べなきゃなー……図書館行こっと」
この町の図書館は、町の歴史、伝奇、都市伝説、怪談等々そういった資料に事欠かない
司書らしい大人の魅力満載のお姉さん(年齢不詳)が趣味で蔵書を増やしているらしいが、やはり土地柄というのもあるのだろうか
「おかーさーん、図書館行ってくるー」
「帰りにどっか適当なとこでお醤油買ってきてー」
「はーい」
キッチンにいた母との何気ないやり取りの後、先日新調したコートに袖を通し寒空の下を駆け出して行った
―――
「お姉ちゃん、今日も図書館?」
いつも通る公園の前で、いつも出会う少年と出会う
寒空の下だという事も気にせずに、手にした缶ジュースをくいと傾けている
「ん、調べものをしてるの。色々大変なんだからねー」
「へぇ、それじゃ俺も手伝ってあげようか?」
その言葉に、少女はうぐと言葉に詰まる
彼女はこの少年が都市伝説契約者だと知らない
当然ながら巻き込むわけにはいかない、そんな考えをしたのだが
「あー、なるほど。みんなこんな気分だったのか」
戦いを繰り広げている者達から見れば、少女はまだ深みに嵌っていない引き返せる場所にいる存在
自分達と同じ場所――もう戻る事のできないところまでは来させたくないのだと
「なんだよお姉ちゃん、変な顔して」
「変な顔とか言わない、お姉さんは難しい事を考えてるの」
「俺だって難しい事ぐらい考えれるぜ? いつだってお姉ちゃんの相談にぐらい乗ってやるから!」
そう笑顔で少年が告げた瞬間、その表情が強張る
「ん、どしたの?」
「お姉ちゃん、後ろっ!」
「へ……うきゃあ!?」
いつの間に近付いて来たのだろうか、目付きの虚ろな男が数人、少女の背後に集まってきていた
その手がすぐに少女の身体を捕まえてしまう
「誰っ!? 何っ!? ちょ、痛い痛いっ!?」
腕や肩に食い込む指の力から、尋常ではない存在だという事しか判らない
コーク・ロアに支配された人間が増えているという話は都市伝説組織には広まっているが、いつもの事ながら少女の耳には届いていない
「お前ら、お姉ちゃんを放せっ!」
少年が怒鳴りながら、少女を捕らえる男の一人に蹴りを入れる
「ダメだってば! 逃げ……いや、人を呼んできて! あたしはまだ大丈夫だから、早く!」
「お姉ちゃんに何かあったらどうすんだ! お前ら……『放せ』っ!!!」
その言葉に、ほんの僅かにだが男達の力が緩む
だが拘束を解くほどには至らない
「『放せ』って言ってんだろっ! 『お姉ちゃんを放してどっか行け』!」
ぐ、と男達の身体が僅かに揺らぐ
だがそこまででしかない
「畜生っ……誰か! 『誰か助けて』くれよ! 『誰かお姉ちゃんを助けて』よ!」
涙混じりに大声を上げた、その瞬間
「オーライ、任せときや少年」
そんな声と共に現れた女が木刀を抜き放ち、ありえない間合いから男の一人の顎を打ち抜き、その男はそのまま白目を剥いて地面に倒れ込んだ
なんとか逃れようとしていた少女は、一人の拘束が緩んだところでバランスを崩してよろめき
それと同時に既に上空に跳んでいた女は、落下の勢いを加えた一撃で一人を叩き伏せ、着地の屈み込んだ姿勢から跳ね上がるようにもう一人の鳩尾に切っ先を捻り込む
「こないだウチらの仲間襲った連中の一味かいな。んー、マッドはんの話だと操られとんのやっけ? まあええわ」
背後から襲い掛かろうとした残る一人を振り向く勢いを加えた一撃で打ち倒し、木刀を鞘代わりのバットケースに放り込む
「一撃はんの話やとこいつらの処理は組織の黒服が動いてるそうやしなぁ……マリの餌にするにしてもマッドはんのガス吸わせるにしても手が足りんか」
ぽかんと自分を見上げている少年と少女の視線に気付き、似非関西弁女は作り笑いを浮かべ
「あー、こないな連中が最近増えててなー。ウチらも色々困って退治して回ってるねん」
退治して回っているというのは嘘だが、困っているというのは事実だ
都市伝説組織の連中が自分達の起こしている騒動以上に動き出しており、少々騒ぎになればすぐに誰かしらが駆けつけてくるからだ
更には警戒した人々は外出を控えたり集団で行動したりと攫うのも難しくなってきている
「そいじゃま、適当に警察とかに通報してこの場を離れておいた方がええで。できればウチの事は内緒でな?」
そう言うとあっという間に駆け出していなくなってしまう似非関西弁女
残されたのは呆然と地面に座り込む少女と、気を失って倒れている数人の男、そして
「……かっけえ」
圧倒的な戦いを目の当たりにして、目を輝かせている少年の姿だった
いつも通る公園の前で、いつも出会う少年と出会う
寒空の下だという事も気にせずに、手にした缶ジュースをくいと傾けている
「ん、調べものをしてるの。色々大変なんだからねー」
「へぇ、それじゃ俺も手伝ってあげようか?」
その言葉に、少女はうぐと言葉に詰まる
彼女はこの少年が都市伝説契約者だと知らない
当然ながら巻き込むわけにはいかない、そんな考えをしたのだが
「あー、なるほど。みんなこんな気分だったのか」
戦いを繰り広げている者達から見れば、少女はまだ深みに嵌っていない引き返せる場所にいる存在
自分達と同じ場所――もう戻る事のできないところまでは来させたくないのだと
「なんだよお姉ちゃん、変な顔して」
「変な顔とか言わない、お姉さんは難しい事を考えてるの」
「俺だって難しい事ぐらい考えれるぜ? いつだってお姉ちゃんの相談にぐらい乗ってやるから!」
そう笑顔で少年が告げた瞬間、その表情が強張る
「ん、どしたの?」
「お姉ちゃん、後ろっ!」
「へ……うきゃあ!?」
いつの間に近付いて来たのだろうか、目付きの虚ろな男が数人、少女の背後に集まってきていた
その手がすぐに少女の身体を捕まえてしまう
「誰っ!? 何っ!? ちょ、痛い痛いっ!?」
腕や肩に食い込む指の力から、尋常ではない存在だという事しか判らない
コーク・ロアに支配された人間が増えているという話は都市伝説組織には広まっているが、いつもの事ながら少女の耳には届いていない
「お前ら、お姉ちゃんを放せっ!」
少年が怒鳴りながら、少女を捕らえる男の一人に蹴りを入れる
「ダメだってば! 逃げ……いや、人を呼んできて! あたしはまだ大丈夫だから、早く!」
「お姉ちゃんに何かあったらどうすんだ! お前ら……『放せ』っ!!!」
その言葉に、ほんの僅かにだが男達の力が緩む
だが拘束を解くほどには至らない
「『放せ』って言ってんだろっ! 『お姉ちゃんを放してどっか行け』!」
ぐ、と男達の身体が僅かに揺らぐ
だがそこまででしかない
「畜生っ……誰か! 『誰か助けて』くれよ! 『誰かお姉ちゃんを助けて』よ!」
涙混じりに大声を上げた、その瞬間
「オーライ、任せときや少年」
そんな声と共に現れた女が木刀を抜き放ち、ありえない間合いから男の一人の顎を打ち抜き、その男はそのまま白目を剥いて地面に倒れ込んだ
なんとか逃れようとしていた少女は、一人の拘束が緩んだところでバランスを崩してよろめき
それと同時に既に上空に跳んでいた女は、落下の勢いを加えた一撃で一人を叩き伏せ、着地の屈み込んだ姿勢から跳ね上がるようにもう一人の鳩尾に切っ先を捻り込む
「こないだウチらの仲間襲った連中の一味かいな。んー、マッドはんの話だと操られとんのやっけ? まあええわ」
背後から襲い掛かろうとした残る一人を振り向く勢いを加えた一撃で打ち倒し、木刀を鞘代わりのバットケースに放り込む
「一撃はんの話やとこいつらの処理は組織の黒服が動いてるそうやしなぁ……マリの餌にするにしてもマッドはんのガス吸わせるにしても手が足りんか」
ぽかんと自分を見上げている少年と少女の視線に気付き、似非関西弁女は作り笑いを浮かべ
「あー、こないな連中が最近増えててなー。ウチらも色々困って退治して回ってるねん」
退治して回っているというのは嘘だが、困っているというのは事実だ
都市伝説組織の連中が自分達の起こしている騒動以上に動き出しており、少々騒ぎになればすぐに誰かしらが駆けつけてくるからだ
更には警戒した人々は外出を控えたり集団で行動したりと攫うのも難しくなってきている
「そいじゃま、適当に警察とかに通報してこの場を離れておいた方がええで。できればウチの事は内緒でな?」
そう言うとあっという間に駆け出していなくなってしまう似非関西弁女
残されたのは呆然と地面に座り込む少女と、気を失って倒れている数人の男、そして
「……かっけえ」
圧倒的な戦いを目の当たりにして、目を輝かせている少年の姿だった
―――
「んー、少なくともうちの人間じゃないなそりゃ」
僅かに遅れてやってきた黒服Hは、倒れている連中を目立たない場所に片付けながら訝しげに首を捻る
警察を呼ばなければいけないからと、少年は無理矢理家に帰してある
実際に来るのは組織の回収班なのだが
ちなみに『うち』は『組織』と『薔薇十字団』両方の意味である
「仲間を襲ったっつってたな? そういやあの男と小動物っぽく震えてた女の子……」
「Hさん、伸びてる伸びてる」
「ん? ああすまんすまん」
「それにしても、マッドガッサーだっけ。あれの他にコーク・ロア? また色々大変になってきたね」
「まあな……とりあえず事件が収まるまで気をつけろよ。夢の国や鮫島の時と違って、派手なドンパチにならない分、こっちも派手には動けないしな」
「うん、気をつける……んー? マッドガッサー? マッド……ガス……」
ふと自分を助けてくれた女の独り言を思い出すが
「無理に首突っ込もうとすんな、鮫島の時みたいに本当に必要な時がまた来るかもしれん。失うわけにゃいかん力なんだからな」
わしわしと頭を撫でられて、なんとなく幸せな気分に浸ったのも束の間
「もし不幸な事があったら、今までストックしたエロい思い出に浸るのが申し訳なくなるしな」
「それが不幸の一つだって気付いてー!?」
「ん~? 聞こえんなぁ~」
わさわさと伸びる髪の毛を糠に釘を打つかのようにぽすぽす叩く少女であった
僅かに遅れてやってきた黒服Hは、倒れている連中を目立たない場所に片付けながら訝しげに首を捻る
警察を呼ばなければいけないからと、少年は無理矢理家に帰してある
実際に来るのは組織の回収班なのだが
ちなみに『うち』は『組織』と『薔薇十字団』両方の意味である
「仲間を襲ったっつってたな? そういやあの男と小動物っぽく震えてた女の子……」
「Hさん、伸びてる伸びてる」
「ん? ああすまんすまん」
「それにしても、マッドガッサーだっけ。あれの他にコーク・ロア? また色々大変になってきたね」
「まあな……とりあえず事件が収まるまで気をつけろよ。夢の国や鮫島の時と違って、派手なドンパチにならない分、こっちも派手には動けないしな」
「うん、気をつける……んー? マッドガッサー? マッド……ガス……」
ふと自分を助けてくれた女の独り言を思い出すが
「無理に首突っ込もうとすんな、鮫島の時みたいに本当に必要な時がまた来るかもしれん。失うわけにゃいかん力なんだからな」
わしわしと頭を撫でられて、なんとなく幸せな気分に浸ったのも束の間
「もし不幸な事があったら、今までストックしたエロい思い出に浸るのが申し訳なくなるしな」
「それが不幸の一つだって気付いてー!?」
「ん~? 聞こえんなぁ~」
わさわさと伸びる髪の毛を糠に釘を打つかのようにぽすぽす叩く少女であった
―――
「んー、あの子ぐらいなら攫っとけたかなぁ。つるぺたすとーんな感じやったけど……まあ今の爆やんでもストライクゾーンみたいやし、案外ちまい子の方がええんかなぁ」
現場から離れ自動販売機でスポーツドリンクを買いながら、一人ぶつぶつと呟いている似非関西弁女
「さてと、ホンマどうしたもんかなー。一旦身を隠した方がええと思うんやけど……どーも一撃はんが拘りがあるみたいやしなぁ。そうなるとマッドはんも止めへんやろし」
ぐーっとスポーツドリンクを飲み干し、空き缶を空中に放り投げ
軽快な音を立てて勢い良く弾き飛ばされた空き缶は、ゴミ箱に吸い込まれるように飛んでいく
抜いた瞬間すら見せずに既にバットケースに差し込まれた木刀から手を離し、似非関西弁女は歩き出す
「ま、ウチが考えてても仕方ないわ。決めんのはマッドはんやしな……それでヤバい事なったら、そん時や」
現場から離れ自動販売機でスポーツドリンクを買いながら、一人ぶつぶつと呟いている似非関西弁女
「さてと、ホンマどうしたもんかなー。一旦身を隠した方がええと思うんやけど……どーも一撃はんが拘りがあるみたいやしなぁ。そうなるとマッドはんも止めへんやろし」
ぐーっとスポーツドリンクを飲み干し、空き缶を空中に放り投げ
軽快な音を立てて勢い良く弾き飛ばされた空き缶は、ゴミ箱に吸い込まれるように飛んでいく
抜いた瞬間すら見せずに既にバットケースに差し込まれた木刀から手を離し、似非関西弁女は歩き出す
「ま、ウチが考えてても仕方ないわ。決めんのはマッドはんやしな……それでヤバい事なったら、そん時や」