ドクター29
がちゃり、と扉を開いて部屋に入ってきた黒服の男女は、小さく唸りながら首を捻る
「まいったなぁ」
部屋はやや小さめの客間といった雰囲気で、こぢんまりとした家具が並んでいる
部屋には入ってきたものとは違う扉と、窓と、階段がある
その扉を開けた先にもまた部屋があり
窓を開けるとその向こうには部屋があり
階段を上がると部屋がある
そして、入ってきた扉は何時の間にか閉じており、開けると元いた部屋とは違う部屋がそこにはあった
「めんどくさいなぁ……」
『アレクサンドリアの大灯台』の契約者である黒服の女は、心底うんざりした様子で溜息を吐いた
「全部焼き払っちゃダメかなぁ」
「んな事していいなら最初から俺がブッ潰してる」
小柄で細身である女とは対照的に、非常に大柄でがっちりとした体格の黒人男性が呆れたように肩を竦めた
「探査系の都市伝説契約者を寄越せば良かったのに」
「大味なうちの組織じゃ、探査系は引く手数多でな」
ポケットから取り出した折り畳まれたアメリカドル紙幣を空中に放り投げると、握り締めた拳でそれを打ち抜き、女の背後に現れた人影を殴りつける
突然現れた数多の銃創でボロボロになった動く死体は、拳に張り付いた折り畳まれたドル紙幣に触れた瞬間に、とてつもない大質量の打撃を受けたかのように粉砕され跡形もなく消し飛んでいた
それと同時に女がコンパクトから放った熱線が、やはり穴だらけの姿をした半透明の男を蒸発させていた
「探査系の連中を貸して貰えない以上、話が解る奴はお前ぐらいしかいなかった」
「燃えて火事になったら困るゾンビにはあなたの『アメリカドル紙幣の予言』、物理攻撃が効かないゴーストには私の『アレクサンドリアの大灯台』と言うわけねってバカじゃないの」
女は呆れたように椅子に腰を下ろし、天井を仰ぐ
「死人が湧いてるなら神様とか天使とかそういう系の契約者のお仕事でしょー」
「あいつらは最近、日本のマンガの影響でえらく好戦的になっちまってダメだ。皆殺しならともかく説得にゃあ向かない」
「……説得ねぇ。どうせ『アメリカ政府の陰謀論』の声を聞かせて洗脳すんでしょ?」
「俺の好みのやり口じゃないんだがね。ま、洗脳されても生きてさえいりゃそのうち良い事もあるだろ。俺達と違ってな」
「黒服稼業は辛いわねぇ」
女がちょいとコンパクトの角度を変えて放った熱線が、窓ガラスに反射して頭上から襲い掛かろうとしていたゴーストを焼き払う
「それじゃま、このお屋敷……『ウィンチェスター・ミステリー・ハウス』の最深部にいるはずの契約者さんの探索を再開しますか」
「おうよ……と言いたいが。正直どうしたもんかねコレは」
窓の向こうの部屋
天井にぶち当たる階段
傾斜した廊下
壁に付けられた扉
……
…………
………………
小休止から二時間、この『屋敷』に潜入してから十時間が経過した頃
「お腹空いた」
床に座り込んでぷうと頬を膨らませる女
「オーケイ、こいつは俺らじゃ無理だ」
大げさな動作で天井を仰ぎ、男は声を張り上げる
「『ウィンチェスター・ミステリー・ハウス』の契約者さん、聞こえるか! 降参だ! 俺達はあんたの説得を諦める!」
「いいの? 私がドイツで失敗して帰ってきた時もすっごい怒られたのに」
「ここで干からびるよりずっとマシだろ。というかだな、そもそも俺は悪さしてるわけでもねぇ契約者や都市伝説をどうこうするのは嫌いなんだよ」
「あらまあ、黒服とは思えないお言葉ね」
「うるせぇ、お前が諦め過ぎなんだよ……ともあれだ! 俺達を解放してくれるなら大人しく退散する! だが!」
男はごつい手をポケットに捻じ込むと、大量の折り畳んだアメリカドル紙幣を掴み出す
「俺達をこのまま家族旅行に置いていかれて忘れられた犬みてぇにしようってんなら……あんたの生死を無視してここを全力で破壊して突き進む!」
覚悟を決めた男の声に反応するように、部屋の片隅に置かれた電話が、ちりりりり、と弱々しく鳴り出した
「んー、取っていいのコレ?」
「電話で呪うタイプの能力は無いだろ」
男は躊躇いもせず受話器を取る
「ハロゥ、この屋敷の主さんかい?」
《……そう》
生活音にすら掻き消されてしまいそうな、か細い少女の声
《……帰ってくれるなら、それでいい。でもまた来るんでしょう?》
「多分、俺達以外の面子がな。ちなみに俺達が帰れなくてもそれは同じだ」
《……会わない。私の居場所を探知とかしても、こ家は辿り着けないように形を変えるよ?》
「お前さんを引き込めないと判断したら、上の連中はお前さんを消しに掛かるだろう。俺やこいつみたく屋敷ごと消し飛ばせる攻撃力を持った連中は組織にゃあごまんといる」
「こいつとか言うな」
げしげしと脛を蹴り付けられるが、男は意に介した様子もなく電話を続ける
「俺達を解放してくれるなら、これを進呈する。日本行きの航空チケットだ」
手にしていた紙幣をポケットに収めると、今度は懐から一枚の封筒を取り出す
《……日本?》
「俺達の組織でも手を出しあぐねている町がある。そこへ逃げ込めばいい」
《……信じていいの?》
「信じられねぇなら、俺にゃあどうしようもねぇ。下っ端の黒服にできるのはここまでだ」
しばしの沈黙を経て、かちゃりと扉が勝手に開く
扉の外には部屋でも廊下でもない、夕暮れに染まる雑木林と二人が乗り付けてきた黒塗りの車が見えた
《……帰ってもいいよ》
「ああ、感謝する。上への報告は一杯引っ掛けてたらふく飯を食って一日ゆっくり寝てからにするよ」
「私が報告したらどうするの?」
電話の横に置かれた封筒を、面倒くさそうに見詰める女
「酒と飯は俺が奢るが」
「それじゃあ報告はその後ね。良いお店を選んで頂戴?」
「財布にゃあ痛ぇ話だよ。それじゃ、お前さんとは出来れば会えない事を祈ってるよ」
《……ありがとう、バイバイ》
電話が切られ、二人は何事も無かったかのように屋敷の外に出る事ができた
外から見た屋敷はそれまで散々歩き回ったような大きさは到底感じられない、小さなみすぼらしい物だった
「空間操作系の能力は嫌い。めんどくさいわ」
「ま、上手い事逃げ遂せてくれりゃ、もう相手をする事も無いさ」
「飛行機のチケットなんか用意してたって事は、最初から逃がすつもりだったんでしょ? だったら私なんか連れて来ないで最初からそうしてよ……ホントもうお腹空いた」
「俺達ぁ黒服だ。形式上はやるだけやっておかなきゃいかんだろうが」
男は車の運転席に座り、安っぽい紙煙草を咥えて火を点ける
「私が一緒の時は煙草吸うな」
「別に煙とか平気だろお前」
「元カレが煙草のにおい嫌いだったの」
その言葉に、渋々煙草を灰皿に押し付ける
「ドイツで逃がしたってぇあいつか? そういや南米方面の報告じゃそいつらも日本に逃げたそうだな」
「都市伝説絡みである意味一番安全なのはあの国だもんね。マッドガッサーもあそこでしょ?」
「そのうちあの国、全部が都市伝説で埋まるんじゃねぇのかね」
「そんなとこでなら、私達も普通に暮らせるのかなぁ」
「無理だろ。上の連中がいる限り、俺達は黒服でしかねぇんだ……さて、飯のリクエストはあるか?」
「高くて美味しいところ」
「敢えて高いところかよ……くそ」
「まいったなぁ」
部屋はやや小さめの客間といった雰囲気で、こぢんまりとした家具が並んでいる
部屋には入ってきたものとは違う扉と、窓と、階段がある
その扉を開けた先にもまた部屋があり
窓を開けるとその向こうには部屋があり
階段を上がると部屋がある
そして、入ってきた扉は何時の間にか閉じており、開けると元いた部屋とは違う部屋がそこにはあった
「めんどくさいなぁ……」
『アレクサンドリアの大灯台』の契約者である黒服の女は、心底うんざりした様子で溜息を吐いた
「全部焼き払っちゃダメかなぁ」
「んな事していいなら最初から俺がブッ潰してる」
小柄で細身である女とは対照的に、非常に大柄でがっちりとした体格の黒人男性が呆れたように肩を竦めた
「探査系の都市伝説契約者を寄越せば良かったのに」
「大味なうちの組織じゃ、探査系は引く手数多でな」
ポケットから取り出した折り畳まれたアメリカドル紙幣を空中に放り投げると、握り締めた拳でそれを打ち抜き、女の背後に現れた人影を殴りつける
突然現れた数多の銃創でボロボロになった動く死体は、拳に張り付いた折り畳まれたドル紙幣に触れた瞬間に、とてつもない大質量の打撃を受けたかのように粉砕され跡形もなく消し飛んでいた
それと同時に女がコンパクトから放った熱線が、やはり穴だらけの姿をした半透明の男を蒸発させていた
「探査系の連中を貸して貰えない以上、話が解る奴はお前ぐらいしかいなかった」
「燃えて火事になったら困るゾンビにはあなたの『アメリカドル紙幣の予言』、物理攻撃が効かないゴーストには私の『アレクサンドリアの大灯台』と言うわけねってバカじゃないの」
女は呆れたように椅子に腰を下ろし、天井を仰ぐ
「死人が湧いてるなら神様とか天使とかそういう系の契約者のお仕事でしょー」
「あいつらは最近、日本のマンガの影響でえらく好戦的になっちまってダメだ。皆殺しならともかく説得にゃあ向かない」
「……説得ねぇ。どうせ『アメリカ政府の陰謀論』の声を聞かせて洗脳すんでしょ?」
「俺の好みのやり口じゃないんだがね。ま、洗脳されても生きてさえいりゃそのうち良い事もあるだろ。俺達と違ってな」
「黒服稼業は辛いわねぇ」
女がちょいとコンパクトの角度を変えて放った熱線が、窓ガラスに反射して頭上から襲い掛かろうとしていたゴーストを焼き払う
「それじゃま、このお屋敷……『ウィンチェスター・ミステリー・ハウス』の最深部にいるはずの契約者さんの探索を再開しますか」
「おうよ……と言いたいが。正直どうしたもんかねコレは」
窓の向こうの部屋
天井にぶち当たる階段
傾斜した廊下
壁に付けられた扉
……
…………
………………
小休止から二時間、この『屋敷』に潜入してから十時間が経過した頃
「お腹空いた」
床に座り込んでぷうと頬を膨らませる女
「オーケイ、こいつは俺らじゃ無理だ」
大げさな動作で天井を仰ぎ、男は声を張り上げる
「『ウィンチェスター・ミステリー・ハウス』の契約者さん、聞こえるか! 降参だ! 俺達はあんたの説得を諦める!」
「いいの? 私がドイツで失敗して帰ってきた時もすっごい怒られたのに」
「ここで干からびるよりずっとマシだろ。というかだな、そもそも俺は悪さしてるわけでもねぇ契約者や都市伝説をどうこうするのは嫌いなんだよ」
「あらまあ、黒服とは思えないお言葉ね」
「うるせぇ、お前が諦め過ぎなんだよ……ともあれだ! 俺達を解放してくれるなら大人しく退散する! だが!」
男はごつい手をポケットに捻じ込むと、大量の折り畳んだアメリカドル紙幣を掴み出す
「俺達をこのまま家族旅行に置いていかれて忘れられた犬みてぇにしようってんなら……あんたの生死を無視してここを全力で破壊して突き進む!」
覚悟を決めた男の声に反応するように、部屋の片隅に置かれた電話が、ちりりりり、と弱々しく鳴り出した
「んー、取っていいのコレ?」
「電話で呪うタイプの能力は無いだろ」
男は躊躇いもせず受話器を取る
「ハロゥ、この屋敷の主さんかい?」
《……そう》
生活音にすら掻き消されてしまいそうな、か細い少女の声
《……帰ってくれるなら、それでいい。でもまた来るんでしょう?》
「多分、俺達以外の面子がな。ちなみに俺達が帰れなくてもそれは同じだ」
《……会わない。私の居場所を探知とかしても、こ家は辿り着けないように形を変えるよ?》
「お前さんを引き込めないと判断したら、上の連中はお前さんを消しに掛かるだろう。俺やこいつみたく屋敷ごと消し飛ばせる攻撃力を持った連中は組織にゃあごまんといる」
「こいつとか言うな」
げしげしと脛を蹴り付けられるが、男は意に介した様子もなく電話を続ける
「俺達を解放してくれるなら、これを進呈する。日本行きの航空チケットだ」
手にしていた紙幣をポケットに収めると、今度は懐から一枚の封筒を取り出す
《……日本?》
「俺達の組織でも手を出しあぐねている町がある。そこへ逃げ込めばいい」
《……信じていいの?》
「信じられねぇなら、俺にゃあどうしようもねぇ。下っ端の黒服にできるのはここまでだ」
しばしの沈黙を経て、かちゃりと扉が勝手に開く
扉の外には部屋でも廊下でもない、夕暮れに染まる雑木林と二人が乗り付けてきた黒塗りの車が見えた
《……帰ってもいいよ》
「ああ、感謝する。上への報告は一杯引っ掛けてたらふく飯を食って一日ゆっくり寝てからにするよ」
「私が報告したらどうするの?」
電話の横に置かれた封筒を、面倒くさそうに見詰める女
「酒と飯は俺が奢るが」
「それじゃあ報告はその後ね。良いお店を選んで頂戴?」
「財布にゃあ痛ぇ話だよ。それじゃ、お前さんとは出来れば会えない事を祈ってるよ」
《……ありがとう、バイバイ》
電話が切られ、二人は何事も無かったかのように屋敷の外に出る事ができた
外から見た屋敷はそれまで散々歩き回ったような大きさは到底感じられない、小さなみすぼらしい物だった
「空間操作系の能力は嫌い。めんどくさいわ」
「ま、上手い事逃げ遂せてくれりゃ、もう相手をする事も無いさ」
「飛行機のチケットなんか用意してたって事は、最初から逃がすつもりだったんでしょ? だったら私なんか連れて来ないで最初からそうしてよ……ホントもうお腹空いた」
「俺達ぁ黒服だ。形式上はやるだけやっておかなきゃいかんだろうが」
男は車の運転席に座り、安っぽい紙煙草を咥えて火を点ける
「私が一緒の時は煙草吸うな」
「別に煙とか平気だろお前」
「元カレが煙草のにおい嫌いだったの」
その言葉に、渋々煙草を灰皿に押し付ける
「ドイツで逃がしたってぇあいつか? そういや南米方面の報告じゃそいつらも日本に逃げたそうだな」
「都市伝説絡みである意味一番安全なのはあの国だもんね。マッドガッサーもあそこでしょ?」
「そのうちあの国、全部が都市伝説で埋まるんじゃねぇのかね」
「そんなとこでなら、私達も普通に暮らせるのかなぁ」
「無理だろ。上の連中がいる限り、俺達は黒服でしかねぇんだ……さて、飯のリクエストはあるか?」
「高くて美味しいところ」
「敢えて高いところかよ……くそ」
―――
空港の滑走路にほど近い野原で、黒服の男と女は車にもたれ掛かり空を見上げていた
近くには飛び立つ旅客機の映像を撮っているのか、テレビカメラを囲んで何人もの男が空を見上げていた
「あの便だっけ、あの子が乗ってるの」
「ああ、無事日本に辿り着いてくれるといいんだが」
「無理じゃない?」
女が欠伸混じりにそう言って、男が問い返そうとした瞬間
洋上で旅客機が、爆発した
「なっ!?」
「ほらやっぱり。組織の連中はそれなりに私達の行動を把握してるのよ」
粉微塵になって海へばら撒かれる旅客機だったもの
「まあ私がチクったんだけど。って言っても、その時点で既に知られてたみたいだけどね」
「何だと!?」
「ていうかご飯奢って貰っただけで組織裏切れるわけないでしょ、常識的に考えて。やるなら一人の時にやりなさいよ、面倒くさいったらありゃしないわ」
ゆっくりと届いた爆風に煽られ、女の金髪が舞い踊る
「これだけの仕掛けに、どんだけ手間が掛かったと思ってるのよ」
「……は?」
怒りに任せて拳を奮おうとしていた男が、間の抜けた声を上げる
「飛行機なんか乗せたら、他の乗客お構いなしにあんな事されるって判ってるでしょ? バカじゃないの」
女が鞄から取り出した紙束
それは、『ウィンチェスター・ミステリー・ハウス』の契約者が乗るはずだった便のチケット全席分
それが車のバックミラーから放たれた熱線で焼き払われ塵となる
「全席キャンセルで空便にして、空いた滑走路に用意したダミーの中古旅客機を遠隔操作で飛ばして爆破。刺客の自爆型黒服は前以て全部焼却処分。昨日の晩御飯の後からコネをフル動員よ。あんたと組織、どちらにも裏切ってないように見せるために長飯に付き合ってから徹夜仕事よ」
テレビカメラを囲んでいた男達から歓声が上がっている
旅客機が空中で爆発させた場合、映画のように墜落させずに四散できるかどうか――そんな事を試していたらしい会話が聞こえてくる
「廃棄予定の旅客機にアレを吹き飛ばせる爆薬、設置するための人員に、テレビ番組のための撮影と称しての航空局や警察や軍への根回し。私の貯金全部吹っ飛んじゃった」
「ちょっと待て。それじゃああの子は何処にいるんだ?」
「そこはコネっていうか……ちょっと賭けだったけど。連絡先変えてなかったんだなぁ、彼」
近くには飛び立つ旅客機の映像を撮っているのか、テレビカメラを囲んで何人もの男が空を見上げていた
「あの便だっけ、あの子が乗ってるの」
「ああ、無事日本に辿り着いてくれるといいんだが」
「無理じゃない?」
女が欠伸混じりにそう言って、男が問い返そうとした瞬間
洋上で旅客機が、爆発した
「なっ!?」
「ほらやっぱり。組織の連中はそれなりに私達の行動を把握してるのよ」
粉微塵になって海へばら撒かれる旅客機だったもの
「まあ私がチクったんだけど。って言っても、その時点で既に知られてたみたいだけどね」
「何だと!?」
「ていうかご飯奢って貰っただけで組織裏切れるわけないでしょ、常識的に考えて。やるなら一人の時にやりなさいよ、面倒くさいったらありゃしないわ」
ゆっくりと届いた爆風に煽られ、女の金髪が舞い踊る
「これだけの仕掛けに、どんだけ手間が掛かったと思ってるのよ」
「……は?」
怒りに任せて拳を奮おうとしていた男が、間の抜けた声を上げる
「飛行機なんか乗せたら、他の乗客お構いなしにあんな事されるって判ってるでしょ? バカじゃないの」
女が鞄から取り出した紙束
それは、『ウィンチェスター・ミステリー・ハウス』の契約者が乗るはずだった便のチケット全席分
それが車のバックミラーから放たれた熱線で焼き払われ塵となる
「全席キャンセルで空便にして、空いた滑走路に用意したダミーの中古旅客機を遠隔操作で飛ばして爆破。刺客の自爆型黒服は前以て全部焼却処分。昨日の晩御飯の後からコネをフル動員よ。あんたと組織、どちらにも裏切ってないように見せるために長飯に付き合ってから徹夜仕事よ」
テレビカメラを囲んでいた男達から歓声が上がっている
旅客機が空中で爆発させた場合、映画のように墜落させずに四散できるかどうか――そんな事を試していたらしい会話が聞こえてくる
「廃棄予定の旅客機にアレを吹き飛ばせる爆薬、設置するための人員に、テレビ番組のための撮影と称しての航空局や警察や軍への根回し。私の貯金全部吹っ飛んじゃった」
「ちょっと待て。それじゃああの子は何処にいるんだ?」
「そこはコネっていうか……ちょっと賭けだったけど。連絡先変えてなかったんだなぁ、彼」
―――
『ウィンチェスター・ミステリー・ハウス』の契約者に隠れ家として使われていた古びた屋敷
古びた電話機の置かれたテーブルの上に、焼き焦がされた跡で書かれた文字列
《航空機は監視されている。××××××××の番号に電話を。『陰謀論』に追われる都市伝説契約者だと伝え指示に従うべし》
古びた電話機の置かれたテーブルの上に、焼き焦がされた跡で書かれた文字列
《航空機は監視されている。××××××××の番号に電話を。『陰謀論』に追われる都市伝説契約者だと伝え指示に従うべし》
―――
「……ふむ、連絡してきた少女はこちらに派遣される『エニグマ暗号機』姉妹と無事合流して、Uボートで日本に向かっているそうだ」
受話器を置いて、小さく唸るドクター
「しかし何だ、君は何時の間にあのような可愛らしい声の少女を引っ掛けたのかね?」
「人聞きの悪い事を言わんで下さい!? 俺だって、何で俺の電話番号が知られてるのか不思議なんですよ!」
看護婦姿にされたバイトちゃんが、半泣きで怒鳴り返す
「携帯壊されて機種変したけど、番号は変えてないから……医大時代の友人か、それともあのバカ絡みで『MI6』……いや、それならあいつらで助けりゃいいだけの話だし」
過去の交友関係とそこから広がる人脈を考えながら頭を抱えるバイトちゃん
だがそれは答えに辿り着く事は無い
彼の中では、答えである人物は既に死んだ事になっているのだから
受話器を置いて、小さく唸るドクター
「しかし何だ、君は何時の間にあのような可愛らしい声の少女を引っ掛けたのかね?」
「人聞きの悪い事を言わんで下さい!? 俺だって、何で俺の電話番号が知られてるのか不思議なんですよ!」
看護婦姿にされたバイトちゃんが、半泣きで怒鳴り返す
「携帯壊されて機種変したけど、番号は変えてないから……医大時代の友人か、それともあのバカ絡みで『MI6』……いや、それならあいつらで助けりゃいいだけの話だし」
過去の交友関係とそこから広がる人脈を考えながら頭を抱えるバイトちゃん
だがそれは答えに辿り着く事は無い
彼の中では、答えである人物は既に死んだ事になっているのだから
―――
「そこまでやるなら最初から協力しろよ」
呆れたように溜息を漏らす男に、女は更に呆れたように天を仰ぐ
「バレたら元も子も無いでしょ。そもそも助けようなんて面倒な事を考えなきゃ、屋敷ごと焼き払って叩き潰してはい終了、だったのに」
「お前はそれでいいのかよ」
「私は別にいいよ? 顔も見てない子が死ぬなんて世界中のどこかで常に起きてる事なんだし」
「じゃあ何で助けたんだよ」
「あなたが助けようとしたから。それで死なれていちいち落ち込まれたら仕事に響くし、まかり間違って裏切られたら戦うのやだもん」
「裏切るのは無理だけどな。それにしても、そんなに俺と戦いたくないのか?」
「勘違いしないで。最大出力なら空母でも一発で撃沈させる私の攻撃食らって、平気で反撃してくるような人と戦いたくないだけ」
「俺だって平気ってわけじゃねぇ、それなりに熱くて痛い。そういうお前だって何の能力も介さない直接打撃じゃないと全部反射しやがるだろ」
「強くなけりゃ生き残れない、めんどくさい業界よね。まあお互い戦う羽目にならないように気をつけましょ」
「敵対するほど裏切れるように出来ちゃいないんだがな。細々とした嫌がらせが精一杯だ」
「私と一緒にいる時はやめてよね、ホント。巻き込まれるのは嫌よ」
「へいへい」
爆発に大はしゃぎするテレビスタッフ達を尻目に、二人は車に乗り込む
「次の仕事は?」
「今んとこ無い。上はマッドガッサーを追いかけたいようだがね」
「日本行きはやだなぁ」
「元カレと顔を合わせるのは嫌かい?」
「死んだ事にしてもらってるんだもん。どんな顔して会えばいいかわかんないし、会ったら多分殺さなきゃなんないし」
「難儀なこった」
「まったくよ」
車は誰にも気付かれずに走り去り
二人の黒服はまた逃れられぬ役目を為すための生活に戻っていった
呆れたように溜息を漏らす男に、女は更に呆れたように天を仰ぐ
「バレたら元も子も無いでしょ。そもそも助けようなんて面倒な事を考えなきゃ、屋敷ごと焼き払って叩き潰してはい終了、だったのに」
「お前はそれでいいのかよ」
「私は別にいいよ? 顔も見てない子が死ぬなんて世界中のどこかで常に起きてる事なんだし」
「じゃあ何で助けたんだよ」
「あなたが助けようとしたから。それで死なれていちいち落ち込まれたら仕事に響くし、まかり間違って裏切られたら戦うのやだもん」
「裏切るのは無理だけどな。それにしても、そんなに俺と戦いたくないのか?」
「勘違いしないで。最大出力なら空母でも一発で撃沈させる私の攻撃食らって、平気で反撃してくるような人と戦いたくないだけ」
「俺だって平気ってわけじゃねぇ、それなりに熱くて痛い。そういうお前だって何の能力も介さない直接打撃じゃないと全部反射しやがるだろ」
「強くなけりゃ生き残れない、めんどくさい業界よね。まあお互い戦う羽目にならないように気をつけましょ」
「敵対するほど裏切れるように出来ちゃいないんだがな。細々とした嫌がらせが精一杯だ」
「私と一緒にいる時はやめてよね、ホント。巻き込まれるのは嫌よ」
「へいへい」
爆発に大はしゃぎするテレビスタッフ達を尻目に、二人は車に乗り込む
「次の仕事は?」
「今んとこ無い。上はマッドガッサーを追いかけたいようだがね」
「日本行きはやだなぁ」
「元カレと顔を合わせるのは嫌かい?」
「死んだ事にしてもらってるんだもん。どんな顔して会えばいいかわかんないし、会ったら多分殺さなきゃなんないし」
「難儀なこった」
「まったくよ」
車は誰にも気付かれずに走り去り
二人の黒服はまた逃れられぬ役目を為すための生活に戻っていった
※
『アレクサンドリアの大灯台』の契約者
バイトくんの元カノ
アメリカ所属では数少ない元人間の黒服
基本的にやる気なしだが、やる時の行動力は半端ない
バイトくんの元カノ
アメリカ所属では数少ない元人間の黒服
基本的にやる気なしだが、やる時の行動力は半端ない
『アメリカドル紙幣の予言』の契約者
身長200cmほどの筋骨隆々な巨漢のスキンヘッド黒人
気楽そうに見せかけてかなり真面目な性格
黒服の仕事は嫌いだが仕事をボイコットしたりはできない苦労性
ここ一番の詰めが甘い
アメリカドル紙幣を折り畳むと911テロの様子に見えるという都市伝説と契約しており
5ドル札と10ドル札で爆撃破壊、20ドル札と50ドル札は一点衝撃破壊、100ドル札は広範囲破壊と使い分けができる
威力は紙幣一枚につき旅客機一機の体当たり程度で、拳で叩き込むという使い方が主体なためその反動に耐えられるほど身体が頑丈
カラーコピーや偽札でも発動できるが威力や効果がやや不安定になる
身長200cmほどの筋骨隆々な巨漢のスキンヘッド黒人
気楽そうに見せかけてかなり真面目な性格
黒服の仕事は嫌いだが仕事をボイコットしたりはできない苦労性
ここ一番の詰めが甘い
アメリカドル紙幣を折り畳むと911テロの様子に見えるという都市伝説と契約しており
5ドル札と10ドル札で爆撃破壊、20ドル札と50ドル札は一点衝撃破壊、100ドル札は広範囲破壊と使い分けができる
威力は紙幣一枚につき旅客機一機の体当たり程度で、拳で叩き込むという使い方が主体なためその反動に耐えられるほど身体が頑丈
カラーコピーや偽札でも発動できるが威力や効果がやや不安定になる
『ウィンチェスター・ミステリー・ハウス』の契約者
金髪を伸ばし放題にした毛玉のような、10歳の少女
両親以外の人間にはほぼ会った事が無い引き篭もりで人と話すのが苦手
物心がついた頃に契約をしてしまい能力を制御できず、両親を家の中で迷わせて衰弱死させかけた事がある
その負い目から両親の元から逃げ出し廃屋に隠れ住んでいたところを組織に目を付けられた
両親は既に別の黒服の手によって他界
能力は「能力を発動させた建物に入ったものを迷わせ続ける」「銃による死者達を建物内に徘徊させて攻撃する」というもの
建物自体は強化されたりするわけではないので、一気に破壊されると抵抗できない
金髪を伸ばし放題にした毛玉のような、10歳の少女
両親以外の人間にはほぼ会った事が無い引き篭もりで人と話すのが苦手
物心がついた頃に契約をしてしまい能力を制御できず、両親を家の中で迷わせて衰弱死させかけた事がある
その負い目から両親の元から逃げ出し廃屋に隠れ住んでいたところを組織に目を付けられた
両親は既に別の黒服の手によって他界
能力は「能力を発動させた建物に入ったものを迷わせ続ける」「銃による死者達を建物内に徘徊させて攻撃する」というもの
建物自体は強化されたりするわけではないので、一気に破壊されると抵抗できない
テレビクルー
アメリカの某伝説検証番組がモチーフ
凍らせたチキンの砲撃でヘリのガラスを粉砕したり、ロケットでブランコを回転させたり、声でグラスを割ったり
プールに大口径ライフルぶち込んだり、空気圧縮砲をぶっ放して危うく大惨事になりかけたり
椅子を爆破したり、人形を爆破したり、下水管を爆破したりする素敵番組
※流石に旅客機は爆破した事はありません
アメリカの某伝説検証番組がモチーフ
凍らせたチキンの砲撃でヘリのガラスを粉砕したり、ロケットでブランコを回転させたり、声でグラスを割ったり
プールに大口径ライフルぶち込んだり、空気圧縮砲をぶっ放して危うく大惨事になりかけたり
椅子を爆破したり、人形を爆破したり、下水管を爆破したりする素敵番組
※流石に旅客機は爆破した事はありません