「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん-復讐-02

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 傾き始めた日差しの下、オープンカフェにあるような白い丸テーブルに座って談笑しているのはサラリーマン風の男と一人の少女。丸テーブルにはそれぞれコーヒーと紅茶、それにクッキーが置いてある。
 くたびれたスーツに無精髭の30代半ば程に見える男が辺りにいる人々を一度見まわし、そこに居る人々が皆楽しそうに歩きまわっている様にどこか所在なげに頬の古傷をボリボリかきつつ、対面の席に着いて紅茶を飲んでいる少女に頭を下げた。
「いやぁ、悪りいな」
 十代の前半か後半か、いまいち判然としない容姿の少女がサラリーマン風の男の言葉に腰まで伸びた濡れたように艶やかな長い髪を揺らして笑みで答える。
「いえ、浅井秀也(あさいしゅうや)さん、でしたよね? 驚かれないんですね。皆さんここを見ると初めは驚かれますよ?」
 サラリーマン風の男――浅井秀也は少女の言葉に周囲を、今度はカラフルな石畳や遠くにちらりと見えるジャングルのような森、様々な国から移設したような多種多様な建物などの景色を見回して、半ば呆れながら答えた。
「そいつぁまあ、そうだろうよ。いきなりこんなところに連れてこられればビックリするわ」
「やはりそうでしょうか?」
 少女は口をつけていた紅茶をテーブルに置いて小首をかしげる。浅井はその仕草を見て小さく噴き出しながら頷き、笑いの残滓が残る声で言う。
「しっかし、皆に夢を与えるために活動しています、ねえ……まあ白昼夢にしては派手だな」
「白昼夢、ですか」
 浅井の言葉に少女がくすりと笑う。
 おいおい、と浅井は困ったように髪をかきまわし、
「こいつは俺が見てる夢ってことでいいんだよな?」
「……ええ」
 少し考えるような間を置き、笑顔で答える少女。
「一瞬の間が気になるぞおい」
 コーヒーを啜ってぼやく浅井にただ笑顔を向け、少女は別の話題を振る。
「でもあのままあの道を進まれては危なかったんですよ?」
 その言葉に、彼はここに来ることとなった経緯を思い出す。
 山道をあの若者から得た情報を元に歩いていて、気が付いたら周囲の風景ががらりと変わっててここにいて。で、話を聞いてみたら――
「……≪ウパス≫だっけか? この国にある毒の木とかいう」
「ええ、ちょっと毒が勢いよく広がっていて危険だそうですよ」
 世界規模で一時期この類の問題が起きていたんです。だからせめて私が守れる範囲は、と思って。
 そう告げる少女を見て浅井はしばし思案し、なにか閃いたように唸る。
「んん、まさか今俺が見てるこれは俺がその毒にやられている証とかか? 幻覚とか? あ~だから俺はこんなにかわいらしい娘っ子と話してるのか……?」
「そんなことないですよ」
 頭を抱えて唸りだした浅井を見て、困ったように少女。
 まあいいか。と浅井も苦笑し、少女をまじまじと見て問うた。
「ところで娘っ子、日本人か?」
「あ、はい」
 ああ、やっぱり。と浅井は手を打ち、言葉を日本語へと変える。やっぱりこっちの方がしっくりくるねえと笑いながら、
「こんな不思議なところでまさか同郷と会えるとはなー。あ、俺クッキーとか食えないから娘っ子にやろう」
 「いただきます」と控えめに受け取った少女。
 浅井は頷き、三度、周囲を見回した。そしてそこにある幸せそうな光景を見て居心地の悪そうな深いため息を吐くと、「じゃあ」という言葉を切りだしの合図にして、
「娘を遊ばせてもらってる間わざわざ話相手になってくれてる娘っ子に俺の軽快な茶飲み話をしてやろう。これでも歳は50も後半でな、いろんな話知ってるんだぜー? つっても日本人ならどっかで聞いたことがあるかもしれない話だがな」
 そうおどけて言う浅井はどうみても30代だ。少女が意外そうな顔をしていると、彼は語り始めた。
「――あるところにごく普通と言ってもいい家族があったとさ。三人家族でな、夫婦の間には娘がいたんだ」
 それはどこにでもあるような語りだしから始まった。
「ある時、その家族は遊園地に行ったんだよ。ひと通り遊んで楽しい時間を過ごしたんだ。ところが、両親がふと目を離した隙に娘の姿は消えちまってた。
 両親はそれはそれは必死になって探したんだけどな? どうしても見つかんねえのよ。どうしても、どうしても見つかんねえけどやっぱり諦めきれなくてな。ずっとずっと探してたんだ。そんなことをしていたらその内嫁さんの方が不安定になっちまってな。こんなことになったのは『≪結婚相手が見える洗面器≫なんかと契約した自分のせいだ!』って言い出すようになっちまった。
 まあそんなこんなで嫁さんは責任感じて自殺しちゃうんだよな。夫の方は自殺するような度胸もなくて、かといって積極的に生きることもできなくて、しょうもないことに日々酒に逃げてたんだよ。そんなある日さ、駄目親父の所に一人の娘っ子が現れたのさ」
 浅井はそこで一度話を切り、カップに残ったコーヒーをぐいと飲み干した。
 少女は浅井の話を聞いて心なしか顔をこわばらせている。それを見て、しかし彼は何も言わずに先程までとはうって変わった無表情で、まるで罪状を読み上げる裁判官のように淡々と話を続けた。
「その娘っ子はな? その駄目親父の娘が遊園地、そう、夢の国とか呼ばれることもある遊園地で都市伝説としての≪夢の国≫にとっ捕まって、おそらくはもう内臓を抜かれて殺されているだろうって聞かせてくれたんだよ。
 ――はは、笑えるよなぁ? その駄目親父は娘っ子の話なんて当然信じたいとは思わなかった。でもさ、どうしてもその駄目親父は娘っ子の話を信じざるを得なかったわけよ。その駄目親父はもともと都市伝説っつーもんと契約していたし、娘っ子に映像を見せられちまったからなぁ。ビックリだぜ? 目の前にいきなり自分の娘が虚ろ~な顔して土気色の顔でゾンビみたいに歩いてる映像が出てくんの。で、刺されちまってた。その映像を見た瞬間そのままその娘っ子と契約したのよ。娘っ子も≪夢の国≫に恨みがあるらしくてな。娘っ子が見せてくれた映像はどうも一度そいつと戦って負けたときのやつだったらしい」
 浅井はそこで言葉を切る。少女は顔を彼に向けて、訊く。
「……それで、その人は……どうしたんですか?」
「ああ、無気力だった駄目親父はそこでやっと復讐っつー生きる目的を見つけてな。≪夢の国≫を倒すための力を求めながら≪夢の国≫を、仇を探したんだ。その駄目親父が娘っ子と会う前から契約していた都市伝説。その力で探そうとしたんだがよ、これが大した力も持ってなくてさ、やっと見つけたと思って≪夢の国≫が居る現場に行った時にはもう≪夢の国≫はいなくなってたんだ。で、また見つけてみたら≪夢の国≫は遠くはマレー半島にいやがるときた」
 いや、まいったまいったと呟く浅井。そんな彼を見て、何かを覚悟したような顔で少女は問いかけた。
「その人というのは、そして娘さんの臓器を奪っていったのは…………」
 「ああ」と浅井は歪んだ笑みで笑いかける。
「その人、駄目親父ってのは俺のこと。――で、臓器を奪ってったのは≪夢の国≫の王様、つまり……」
 歪んだ笑みを張り付けたまま、醜く爛れた心の傷を少女に見せつけた浅井は糾弾の言葉を叫んだ。


     「お前だよっ!!」





            ●


 浅井の叫び声が木霊した直後、彼等が間に挟んでいた白い丸テーブルが、乗せていた皿とカップごと高く宙を舞った。
 浅井が椅子に座ったまま直上に蹴り上げたのだ。光を放つ二つのネックレスが彼の首元で跳ね、その動きの名残を残している。
「――だからまあ、死んでくれ」
 浅井と少女――≪夢の国≫の王様、夢子の間を遮るものが無くなり、彼女へと一直線に開けた通路を浅井が駆ける。
 半歩もいらない。出した足は身を起こし、拳を放つための踏み込みであり、
「――っ!」
 通路を踏み砕く震脚と共に放たれた拳は豪速。
 未だ椅子に座って驚いた表情をしている夢子に避ける術はなく、
 しかし浅井の拳は誰も座っていない椅子を破壊しただけであった。

 ――知ってる? 王様は一人しか居ないけどね、世界中のどこにも居るんだよ。

 浅井の背後から夢子の声が聞こえる。
「ちっ!」
 舌打ちが響き、周囲に居た≪夢の国≫のゲストたちが事態に気付き悲鳴を上げる。浅井は落下してきた白い丸テーブルを片手で受け止め、
「流石に当たんねえかあ、≪夢の国≫の王様さんよぉ!」
 続く動作で投擲。
 白い丸テーブルが向かう先にはいつの間にか移動していた夢子が立っている。
 だがテーブルが夢子の居た地点に届くまでの間に再び彼女の姿は消え失せ、テーブルが砕音と共に壁に激突して砕け散った。
「皆、避難を!」
 そして浅井の後方で張り上げられた声。
 彼女の周囲に集まってきていたマスコットと住人が王の命令の下、≪夢の国≫内部に居る人々の避難を開始しようとした。
 しかし、
「おっと皆さん、あの娘っ子――≪夢の国≫の王様を捕らえてくれや」
 そう割って入った声に従い周囲の人間がマスコットや住人を突き飛ばし、こぞって夢子を拘束しにかかった。
「え?」
 避難誘導をしようとするマスコットの腕をかいくぐって自分を捕らえに来た老若男女を見、夢子は疑問の声を上げる。
 悲鳴が、ない?
 先程上がり始めたばかりの悲鳴が静まるには早すぎる。そう思った直後、彼らの目に操られている者特有の、――以前彼女自身がしていたであろう――虚ろな光があるのを夢子は確認して、
「手荒にしちゃダメだよ!」
 反射的にマスコットや住民たちに厳命を下した。とっさに駆け寄ろうとしていたマスコットたちが彼らに手を出せなくなり、到着が遅れる。
 夢子がそうしている間に浅井はネックレスの片方を青白く、もう片方を赤い燐光で発光させ、拳を引き絞り迫っていた。
「そうそう、手荒にさせねえでくれよー」
 放たれる拳は一直線。夢子が避ければ彼女を拘束している幾人かが巻き込まれる軌道。
 相手の力の正体は分からず、しかし先程の震脚の威力から見るに少なくとも普通ではないものだと判別はつく。そんな人間から放たれる拳に打たれれば人など簡単に砕けるだろう。だから、
「っ」
 四肢を何人もの手で掴まれたままその場から移動せず、夢子は身を固くした。自分の体が彼らに向かうであろう衝撃を軽減してくれるように祈りながら。
 しかし、浅井の拳は夢子を打たず、代わりに夢子の首元のペンダントから発された緑がかった青色の光に弾き飛ばされた。
「何だ!?」
 目を見張った浅井が咄嗟に身を引いた。同時に夢子の首元からは何かが砕けるような小さな音がする。
「――ぁ」
 砕けたのはターコイズ、旅の守護を祈り災いをさける≪パワーストーン≫。旅立ちに際して彼女の友人がくれた物だ。
 ペンダントの崩壊と共に浅井とは逆方向へと弾き飛ばされた夢子はペンダントの残骸を見、「すみません」と小さく呟き、大きく息を吸う。
「これよりこの場を順次関係者以外立ち入り禁止にしますっ!」
 張り上げられた言葉と共に周囲に居た人々が一人、また一人と消えていった。同時に、
「しっかり送り届けてね。全ては白昼夢だったって思わせることを忘れちゃだめだよ?」
 そう言ってマスコットや住人を人々と共に≪夢の国≫の外へと飛ばす夢子。
 周囲から全ての気配が消えたのを確認していると、
「こりゃあ、外に出したのか? 異空間を挟んだっつーことは、操作範囲から逃げられちまったかな」
 頬の傷跡を撫でながら浅井が立ち上がって呟く。そして夢子の周囲を見て誰も居ないことを察すると、
「アンタの護衛もいなくなってるな、――じゃあ」
 彼は一歩を踏み、二歩目から疾走。
「もう少し頑張ってみようかぁ!」
 接敵と同時、蹴りが放たれ、夢子が避けた。
 標的を見失った足はオープンカフェ風の建物の壁をなんなく蹴り砕く。その結果に「当たらねえか」と吐き捨て、
「その力は……?」
 蹴りで壁を打ち壊した浅井へと夢子は問いを放った。彼は頷き、足を壁から引き抜きながら答える。
「おうよ、アンタを倒すために契約した都市伝説の能力ってやつだ」
「……思いとどまっては」
 話し合いで済めば良いと思いながら夢子は訴えかける。
「やれねえな。何を思って宗旨変えしたのか知らねえが、アンタがやったことを無しにゃあできねえ」
 浅井の言葉に夢子は「そうですか」とだけ言い、数呼吸置いて、
「……私は、あなた方のためには、死ねません」
 約束がありますから。そう、はっきりと告げた。
「……そうかい」
 浅井はそれだけ言うと拳を構え――――

 その時、「おとーさーん」と、幼い女の子の声が聞こえた。

「!? まだ人が!?」
 夢子が慌てたように振り向く。と、そこにはおかっぱの童女が居た。
「子供、立ち入り禁止になってんじゃなかったのか?」
 浅井がそう言う間に夢子は童女の前に現れていた。父親とはぐれたためか、それとも戦闘の気配を敏感に察したのか、どこか緊張した面持ちの童女は、
「王様?」
 突然目の前に現れた夢子へと窺うように声をかけ、それに夢子は眉尻を下げた笑みを浮かべる。
「ごめんね、ここは立ち入り禁止になっちゃったから、また今度、ね?」
 言葉に童女は夢子を見上げ、安心したように満面に笑みを浮かべて彼女の首っ玉に抱きついた。
 同時、夢子の背から腹へと衝撃が抜ける。

 ズブッ、

 という肉を抉り抜く音と共に背から腹へと浅井の貫手が貫通した。彼のどこか気の抜けたような声が夢子の耳に届く。
「……まさか本当に噂通り、まともになってやがるとはな。こんなに上手くいくとは思ってなかったわ。
 ――ああそうそう、その子はこの件の関係者だから『関係者以外立ち入り禁止』じゃあ通じないぜ。なぁ? ――さっちゃん」
「……ガ、……ッ?」
 血と共に吐きだした疑問。それに答えたのは首っ玉に抱きついている童女だった。
「うん」
 童女――さっちゃんは、警戒されずに≪夢の国≫の王様へと近づけた事で浮いた満面の笑みを浮かべたまま、彼女の耳元へと口を寄せ、歌を朗じた。
「さっちゃんはね――」
 それは詞の裏に不吉な意味を含んだとされる歌で、

 ――バナナが大好き、ほんとだよ?

「!?」
 歌が耳に入った瞬間、夢子の身体から力が失われ、
「飛んでけ」
 力が抜けたその身体は貫手の刺さった腹を支点にして振り回され、

 グシャッ、

 と壁に叩きつけられた。血が、内臓が、骨が、砕けて潰され張り付きずり落ち、
 そこにはズタズタになった肉の塊が――
「――っ、みん、なの避難は……終わった?」
 夢子は起き上ると、周囲、数人残って≪夢の国≫を見回っていた住人たちに確認を取り始めた。
 その身体に空いていた穴は血の跡だけをべっとりと残して既に塞がっている。
「チッ、駄目か」
「おとーさんっ!」
「ああ、分かってる、夢の国では人は死なねえっつーやつだな」
 浅井の言葉に童女は頷く。そして、
「でも、さっちゃんやったよ!」
 笑みで言った。
「ああ、流石自慢の娘だ。じゃあ切り札いくか!」
 そう口を笑みの形に歪めて言うと、夢子へと浅井は声をかけた。
「おい、王様さん」
 夢子はふらつきながら答える。
「……は、い」
「もうここには一般人は誰もいねえんだよな?」
「は……い」
 浅井の念を押すような質問に答えながら夢子は呼吸を無理やりにでも整えようとしていた。
 ……おかしい。
 彼女はそう思う。今だに先程の歌を聞いてから感じる身体の不調が抜けないのだ。ともすると意識が刈り取られそうになる。
「じゃあ試すぞ」
「なに、を」
 うまく回らない口を動かして夢子が問いかける。浅井は彼女を見て一つ頷き、問いに答えた。
「死なねえ≪夢の国≫は蒸発したらさてどうなるかってな。逃げる気力もなくなってるだろ?」
 その言葉が終わるか終わらないかのうちに夢子の体が傾ぎ、地面に倒れる。その間際、彼女はまるで地面にでも潜り込んでしまったかのようなタイミングで転移し、距離をとった。
「これ、は……?」
 転移した先で震える体をなんとか持ち上げようと足掻き、苦しんでいると遠くから浅井の声が聞こえてきた。
「どうよ? バナナを半分しか食えなくなっちまうような病ってのは。つってもちょいと手を加えてあるからもっともっと苦しいのか? ――まあどっちでもいいや。ともかく、死んで復活しても付きまとってくる呪いはキツイだろ?」
 その言葉に続くようにさっちゃんの声が聞こえる。
「呪いだから、お兄たんの、みんなのかたきがうてるまで、死んでも死んでも死んでも死んでも死んでも……どこまでも……死ぬまで殺してやるんだもん」
「……のろ、い」
 呟く夢子を見てさっちゃんが浅井を急かすように言う。
「おとーさん、早く」
「ああ」
 浅井が何かしようとすることを察し、ゲストを送り届けてきた≪夢の国≫の住人が男の前に立ちはだかり、立ちふさがる。
「そんなんじゃ止めらんねぇよ」
 浅井がそう言うと、その首元のネックレスの光が一際強く瞬き、身体全体をスーツが唐突に変化してできた堅い殻に包んだ。彼の姿は一瞬にして外殻を纏う異形と化し、その異形は襲いかかってきた住人たちを剛腕で殴り飛ばすと、夢子を庇う壁のように布陣した≪夢の国≫の住人たちに向けて大きく息を吸い、口を開け、
 告げる。
「喰らえ」
 その言葉と共に、異形となった浅井の口から強烈な閃光と共に熱線が放たれた。
 一番初めに突き抜けたのは一直線の光だった。次いで衝撃が巻き起こり、音が響く。
 熱線は遥か遠方で弾けると己の持っていた衝撃力を周囲に開放し、爆発が起こる。
 カラフルな舗装路が見る影もなく捲りあげられ吹き飛ばされ、並んでいたアトラクションや屋台が破裂する。
 嵐のような強風が爆心地を中心にして吹き荒れ、大気がかき乱れる。
 そして、その全てが十秒足らずで収束したとき、浅井の目の前にあった≪夢の国≫の構造物はその全てを焦土へと変じていた。


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「――――、ゲホ、ゴボッ……ハァ、……どうだ?」
 苦しそうな呼吸と共に血を吐き捨て、外殻をただのボロスーツに戻しながら、浅井は廃墟と化した≪夢の国≫を見つめて呟いた。
「おとーさん、大丈夫?」
「ああ、一応な」
 さっちゃんの心配気な声に努めて笑顔で答え、彼は周囲を見回す。前方、≪夢の国≫の王がいた場所にはただ一面の焦土が広がっているだけだ。
「……これは、やったってことで、いいのか?」
 周りの、未だ残っていた≪夢の国≫の結界が解けていく光景を見ながら言う浅井に、しかし、
「ううん」
 さっちゃんは首を横に振る。
「逃げた。地下に」
「地下?」
 さっちゃんの言葉に浅井が地面へと目を向けるとさっちゃんは、「そこじゃない」と頭を振り、
「地下カジノ」
 言った単語に浅井は「そうか」と呟き、彼女の頭を撫でた。
「じゃあまた、どうにかして追いかけねえとな」
 地下カジノにはどうしたら行けるもんかなあ。と彼は思案するが、さっちゃんはこともなげに言った。
「うん、このまま一気にいこう。ぜったいに、カタキをうつんだもん」
「ん?」
 浅井の疑問の声と共に二人の姿も瞬時に消え、焦土と廃墟になった≪夢の国≫の姿も霧散し、後には白昼夢のごとく何事もなかったかのように、山道が広がっているのみであった。


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