「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん-復讐-03

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 ≪夢の国の地下カジノ≫は混乱していた。

 ≪夢の国≫の王様が突然血まみれの衣服と共に衰弱しきった状態で落ちてくればそれも必然だろう。
 夢の国のお姫様たちが地下カジノ中に異変を知らしめるように口を開く。
「王様が落ちてきたわ!」
「服に血が付いています!」
「大丈夫!?」
 お姫様たちが騒ぎながらもテーブルを一つ空け、その上に夢子を乗せて介抱し、小人が夢子の症状を見る。やがて小人の表情がこわばり、
「この症状は……まさか」
 いや、彼女にしては症状が強力過ぎる。そう小人が呟いた時、重量物が落下する音がまた一つ響いた。
 落下音の正体は二人の人影で、
「――っつー、いきなり移動とか勘弁してくれよなー……、と」
 落ちてきた人影の片方、所々穴があき、ボロボロになったスーツを着たサラリーマン風の男――浅井秀也は手に持っていた外殻の破片を放り捨て、周囲を見回し、感心したように言った。
「≪夢の国の地下カジノ≫だったか、立派だなあおい」
「貴方がたはいったい……!?」
 浅井に誰何の声を上げようとした小人もお姫様も、もう一人の人影、さっちゃんを見て時が止まったかのように口の動きを止める。そんな中、
「どう、して……?」
 どうして地下へ入ってこれたのか? テーブルから下り、手を着いて身体を支えながら、夢子はその理由を半ば確信しつつ問う。答えはさっちゃんの口から発された。
「だって、ずっと前にもらったんだもん。地下トンネルのお兄ちゃんに、ここに入る権利を」
 出てきた都市伝説名は夢子にとっても覚えのあるもので、
「あの人、から……じゃ、あ」
「思い出した?」
「確信しま、した」
 夢子は憶えている。自身がまだ夢の国の創始者に操られて間もないころに戦い、殺した契約者たちを。
 じゃあやっぱり。と小人や姫たちが囁き合う。夢子はそれら全てを代表するように、言った。
「≪さっちゃんの歌の四番目≫ですね」
 それに「うん」と答え、さっちゃんは俯き、呟いた。
「ただいま」
 発された帰宅の言葉。二度の闖入者にざわつく≪夢の国の地下カジノ≫。
 事情が把握しきれず、動けない彼らの隙をついて浅井が動いた。為す動作は簡潔だ。≪夢の国≫の王を殺す。ただそれだけ。他の一切を無視して、何かに手をつくことによってようやく身体を支えて立っている夢子へと能力によって人外の威力に強化されたその剛腕を――

「――受け止められれば、幸せだな?」

 受け止める青年の姿があった。
 ……なに?
 浅井は一瞬目を見張る。視界の隅では彼が首から下げている二つのペンダントがそれぞれの光を放っており、拳の重さに顔を顰める青年の足元は男の打撃のあまりの重さに床を割り、沈みこんでいる。
 能力は発動してるな。
 一考。
「契約者か」
「都市伝説だ」
 浅井が逆の拳を持ち上げた時には青年のもう片方の手に白い光があった。
「破ぁ!!」
 青年の気合い。浅井はとっさにスーツの腕部分を都市伝説の能力で変異させ、堅い外殻にして纏い防ぐ。しかし青年から放たれた光弾を受けた外殻は弾け飛び、体も吹き飛ばされた。
 ソファを破壊して止まった体を起こし、浅井は口を開く。
「どけっ! その王様は俺たちの仇なんだよ!」
 叫びと共に口から熱線を放とうとして、
「――ガッ、フ!?」
 不意の痛みと共に血がこぼれ出た。
「……チッ、やっぱ無理か」
 そう吐き捨て、もう片方の腕のスーツの袖で口を拭い、突然割って入ってきた青年を睨む。
 二十代前半といったところだろうか。その年代の者にしては少し落ち着いた印象を受ける容姿。黒髪を先程自ら放った光の余波で小さく揺らし、端整な顔立ちにどこか超然とした雰囲気を纏い、鋭い目で浅井を射抜くように見据えている。
 睨みあうこと数秒、二人はほぼ同時に言葉を放つ。
「契約している都市伝説と能力が分かれば幸せだが」/「ついうっかり能力とか話してくんねえかな」
 青年の体から一瞬フラッシュのように光が、浅井の首に下がったペンダントの片方から発されている赤い燐光が一瞬その輝きを増した。……が、
「やはり(やっぱり)都市伝説や契約者には効きづらい(づれえ)か」
 そう互いが呟いていると、
Tさん! 夢子ちゃんが!」
「分かってる」
 青年が肩口までの長さの黒髪を適当にまとめ、頭に人形を乗せた少女の言葉に返答した。そうしつつも浅井の睨む眼光は揺るがない。
 一筋縄じゃあいかねえか、めんどくせえ……。
 浅井はそう思い、さっちゃんへちらりと視線を向けた。


            ●


 さっちゃんは周りを見回し、半ば呆然としていた。
「なんで……」
 なぜ≪夢の国≫の王を皆こんなにも心配するのだろうか。
「それに、おとーさんを止められる人がちょうど居るなんて……」
 それだけの物理的な力を持っている者が居るなんて、なんという偶然だろうか。
「……まさか」
 はっとして目を向ける。
 ≪夢の国≫の王様の首から一つ、先程のパワーストーンとは違う、力のある装飾品の気配を感じた。それは以前見知っていた都市伝説が持つ気配と同じもので、
 頭に人形を乗せた少女に支えられ、身を折った≪夢の国≫の王様の胸元から装飾品が――≪カーバンクル≫の毛でできたお守りが零れた。
「≪カーバンクル≫のお兄、ちゃん?」
 それは≪カーバンクル≫本体のような強烈な幸運をもたらすわけではない。与えるのはささやかな幸運のみ。しかしそんなものは関係がない。さっちゃんは≪カーバンクル≫のお守りが運気を与えていることを見てとり、その意味を理解し、しかし認めたくなくて、周りの皆を見、声を放つ。
「みんな! この人が何をしたかわすれちゃったの!?」
 声が地下カジノ内に反響し、ザワついていた地下カジノから音が消えた。そんな中、青年の声が諭すように響く。
「それは今の≪夢の国≫の王――夢子ちゃんがその意思で為した事ではない」
 そうして語られたのは≪夢の国≫にまつわる一連の事件の顛末。夢子の立場。そして――
「夢の国の創始者……」
 青年は頷き、
「それが夢子ちゃんを操っていた犯人で、お前たちの仇だった存在だ」
 浅井は依然青年を睨み据えたまま問いかける。
「その話、本当か?」
 浅井の言葉を受け、青年はさっちゃんへと視線を向ける。
「≪さっちゃんの四番目≫。夢子ちゃんに≪カーバンクル≫の加護があり、かつて敵対していたはずの夢の国の姫君やこの地下カジノが彼女を拒んでいない意味。君になら分かるな?」
 青年の言葉にさっちゃんはしばし沈黙、地下カジノ内の自分たち以外の全ての存在が≪夢の国≫の王様を守ろうとしているのを確認して、頷き。
 そして小さく声が発された。
 それは、
「……そんなの」
 少しずつ大きくなり、
「そんなの」
 感情がにじみ、
「そんなの!」

 最後は、どうしようもない心の叫びとなった。


「そんなの、――――――――ゆるせないよっ!」




            ●


「サッちゃんはね、バナナが大好き! ほんとだよっ!!」
 そうさっちゃんの叫びが響いた直後、青年――Tさんは体に不調を感じた。
 周りでも次々とお姫様たちが倒れていく。
「これは……」
「さっちゃんはねー、バナナが大好きほんとだよー」
 自らの突然の不調を訝しむ青年の耳に浅井が口ずさむ童謡が聞こえてきた。
「だけどちっちゃいから、バナナを半分しか食べられなーいのー」
 そして浅井はにやりと笑う。それは意外にも人好きのする笑みに見えた。
「可哀相だと思わねえか?」
 同意を求めるように言われた言葉に青年はああそうか。と思い、
「バナナを半分しか食べれないのはさっちゃんが病気でそれだけしか食べることができなかったからという……」
「ご名答」
 ≪さっちゃんの歌の四番目≫が契約して得た能力ってやつだ。二番目の歌詞だっけか? と浅井は言うと、
「さってと」
 ソファを蹴飛ばし、足元がおぼつかなくなってきた青年へ突っ込もうと足を折り曲げ力を溜め、
 眼前に立ちふさがった夢子を見て驚きの声を上げた。
「ぅおっと!?」
 浅井はとっさに後方に跳びはねて夢子から距離をとる。夢子は憔悴しきった顔で、それでも目だけは真っ直ぐに浅井を見ていた。
「おいおいおい、ブーストされた二番だぞ? 多少緩めたって何万人規模で呪殺できる負荷がかかってるはず……」
 浅井の戸惑いを含んだ呟きに夢子は声を振り絞って答えた。
「王……様、ですから」
 手にネヴァーランドの永遠の少年が持つ短剣を構え、
「私の力が及ぶ限り皆さんを護る義務が、私にはあるんです。そも……そも、皆さんをこんな目にあわせているのは私の、せいですしね」
 途切れ途切れの言葉で告げる。と、
「解呪できれば幸せだ」
 声に合わせてガラスの割れるような音が響き、全身に淡い光を纏わせた青年がゆらりと立ち上がって身構えた。
「……やるねぇ、青年」
 夢子と、解呪を連続で宣言する青年を交互に見ながら言う浅井に青年は頷き、
「まあ、身体の構造自体をいじる必要のない状態異常ならばなんとかな」
 そうかい。と言い捨てて浅井はさっちゃんへと声をかける。
「さっちゃん! 呪いは≪夢の国≫の王個人に全力でかけ続けろ! 少しでも緩めると起き上ってくるぞ!」
「うんっ!」
 さっちゃんの返事と共に再び夢子は自らの足で立つことすら危うくなり、危うく倒れかかるところを青年に掴まれ、背後のソファへと放り投げられた。
 青年は夢子の扱いに文句を言っている少女の言葉を聞き流しながら、余韻として残る倦怠感を振り払うように首を振り、さっちゃんへと視線を向ける。
 浅井は周囲で倒れていた者たちがよろよろと起き上がってくることを確認。更に、≪夢の国≫内部で人々の避難と記憶処理にあたっていたマスコットたちが≪夢の国の地下カジノ≫へと次々現れるのを見る。
 次々と増えていく≪夢の国≫の協力者たちを見て、彼は判断した。
「一旦退くぞ」
「おとーさん、まださっちゃんやれるよ!」
 抗議の声を上げるさっちゃんへと浅井は口元の血を拭いながら告げる。
「俺がしんどいからな」
 そう言ってさっちゃんの居る所へと歩いていく。
「待て!」
 青年がそれを止めようと光弾を放った。
「っ!」
 浅井はそれを腕で殴り、防ぐ。とっさに纏った外殻の破片が飛び散るが、それだけだ。そして残りの距離を一足飛びで近づき、さっちゃんの腕をとる。
「どっから逃げりゃいい?」
 浅井の質問にさっちゃんはどうして皆が自分たちの復讐を分かってくれないのかと泣きそうな顔になりながら、
「こんなの……いらないっ!」
 叫ばれたその言葉と共に二人の姿はぶれて、地下カジノ内から消失した。
「消え……た?」
 青年の契約者の少女がその光景を見て端的に言う。
「地下への権利を、……放、棄されて、しまいました」
 夢子はそう言うと、激しく咳き込み、床へと倒れ伏した。
「夢子ちゃん!」
 少女が、お姫様が、住人が、マスコットが、皆夢子へと駆け寄る。
「マスコットがいきなり血相変えてやってくるから何かと思えば……」
 その光景を眺めながら青年は苦く呟く。
「罰を与えに来てしまったか……」
 沈んだ調子で言われた言葉は地下カジノの喧騒に溶けた。


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