恐怖のサンタ クリスマス編 08
取引先の女性二人の変死。
それは会社自体に対しては小さな、しかし社員の一部に対しては大きな波紋を呼んだ。
といって、別段それは相手の死を悼むものであるとか、その奇妙な同時性に恐れを抱くとかいったようなものではなかった。
ただのゴシップ的な興味……簡単にいえば、ちょっとした話の種としてそれらは捉えられたのだ。
しかし、人の噂も75日というか何というか、1週間とたたず、その話題は収束を見せ始めた。
たまたま死亡した日時が一致したからといって、たまたま同じ会社の、同じ部署の人間だったからといって、所詮は自殺。
身近な死であることに多少の話題性はあるが、その話題は日本各地で日々起こっている猟奇殺人だとか、強盗だとかのニュースに取って代わられ、すぐに人々の頭から忘れ去られていった。
かく言う俺もそんな一人で、直接の面識のある人間が死んだとはいえ、結局は他人でしかない。
さして気にしてもいなかった。
それは会社自体に対しては小さな、しかし社員の一部に対しては大きな波紋を呼んだ。
といって、別段それは相手の死を悼むものであるとか、その奇妙な同時性に恐れを抱くとかいったようなものではなかった。
ただのゴシップ的な興味……簡単にいえば、ちょっとした話の種としてそれらは捉えられたのだ。
しかし、人の噂も75日というか何というか、1週間とたたず、その話題は収束を見せ始めた。
たまたま死亡した日時が一致したからといって、たまたま同じ会社の、同じ部署の人間だったからといって、所詮は自殺。
身近な死であることに多少の話題性はあるが、その話題は日本各地で日々起こっている猟奇殺人だとか、強盗だとかのニュースに取って代わられ、すぐに人々の頭から忘れ去られていった。
かく言う俺もそんな一人で、直接の面識のある人間が死んだとはいえ、結局は他人でしかない。
さして気にしてもいなかった。
――――しかし、それから約一ヶ月後
事態は、全く別の方向へと展開していた。
事態は、全く別の方向へと展開していた。
***************************************************
朝。俺はいつものように彼女に起こされ、彼女と共に朝食を取り、彼女に見送られて家を出た。
空は快晴。ここ数日梅雨のせいで曇りか雨ばかりの天気だったが、今日から数日は晴れると今朝の予報では言っていた。
ただ、その晴れた空とは対照的に、俺の足取りは非常に重い。
別に、会社に行くのが嫌になったわけでも、今日が月曜日だからでもない。
……いや、それも多少はあるのかもしれないが、少なくとも目下の悩みはそれではなかった。
空は快晴。ここ数日梅雨のせいで曇りか雨ばかりの天気だったが、今日から数日は晴れると今朝の予報では言っていた。
ただ、その晴れた空とは対照的に、俺の足取りは非常に重い。
別に、会社に行くのが嫌になったわけでも、今日が月曜日だからでもない。
……いや、それも多少はあるのかもしれないが、少なくとも目下の悩みはそれではなかった。
(……昨日もまた一人、死んだな)
出かけ前に見た朝刊の事を思い出して、小さくため息をつく。
恐らく、また色々と面倒なことになるのだろう。
先ほどからちらちらと目の端に動く黒い影――恐らく警察――は、俺を尾行か、はたまた見張っているのか。
そんな事をしなくとも、俺は逃げも、隠れもしないというのに。
……俺は、何もやっていないのだから。
恐らく、また色々と面倒なことになるのだろう。
先ほどからちらちらと目の端に動く黒い影――恐らく警察――は、俺を尾行か、はたまた見張っているのか。
そんな事をしなくとも、俺は逃げも、隠れもしないというのに。
……俺は、何もやっていないのだから。
いつものように電車に揺られ、バスに揺られること一時間弱。
会社に辿り着くまで、その黒い影はずっと俺の後をついてきていた。
刑事なら、もっと気配を隠すなり何なりできるだろうに、と俺は思う。
もしかすると、尾行というよりは威嚇が目的なのかもしれない。
……まぁ、そのどちらでも構わない。俺には関係のない話だ。
会社に辿り着くまで、その黒い影はずっと俺の後をついてきていた。
刑事なら、もっと気配を隠すなり何なりできるだろうに、と俺は思う。
もしかすると、尾行というよりは威嚇が目的なのかもしれない。
……まぁ、そのどちらでも構わない。俺には関係のない話だ。
五階建ての小さな会社のビル。
一応は本社扱いになっているそれは、薄汚れていてとてもそうは見えなかった。
まだ尾行を続ける黒い影を無視して、俺は正面の自動扉をくぐる。黒い影は、そこまでは追ってはこない。
扉をくぐると、目の前に受付が見えた。
いつも笑顔での接客……それが義務付けられているはずの受付嬢は、俺を見て酷く嫌そうな顔をした。
そのまま、そっぽを向き、俺と顔を合わせないようにする彼女。
……まぁ、無理もない。この一カ月で、彼女の前にいた受付嬢は二人とも、奇怪な死を遂げているのだ。
最初の頃に受けたショックも、今はほとんど感じなくなっていた。
彼女を無視し、そのままエレベーターの前へと移動する。
使い古された旧式のエレベーターは、幸運な事にも一階で止まっていた。
もしこれが五階にでも止まっていようものなら、最低でも5分はここで待たなければならない。
その間、あの受付嬢の嫌悪の視線に耐えなくていいのは非常にありがたい。
他の階へと呼び出されないうちに、とすぐに上階へのボタンを押し、中へと入る。
エレベーター内で誰かと一緒になるのは、嫌悪の視線に耐えるよりつらい。
すぐに「閉」のボタンを押そうとして――――
一応は本社扱いになっているそれは、薄汚れていてとてもそうは見えなかった。
まだ尾行を続ける黒い影を無視して、俺は正面の自動扉をくぐる。黒い影は、そこまでは追ってはこない。
扉をくぐると、目の前に受付が見えた。
いつも笑顔での接客……それが義務付けられているはずの受付嬢は、俺を見て酷く嫌そうな顔をした。
そのまま、そっぽを向き、俺と顔を合わせないようにする彼女。
……まぁ、無理もない。この一カ月で、彼女の前にいた受付嬢は二人とも、奇怪な死を遂げているのだ。
最初の頃に受けたショックも、今はほとんど感じなくなっていた。
彼女を無視し、そのままエレベーターの前へと移動する。
使い古された旧式のエレベーターは、幸運な事にも一階で止まっていた。
もしこれが五階にでも止まっていようものなら、最低でも5分はここで待たなければならない。
その間、あの受付嬢の嫌悪の視線に耐えなくていいのは非常にありがたい。
他の階へと呼び出されないうちに、とすぐに上階へのボタンを押し、中へと入る。
エレベーター内で誰かと一緒になるのは、嫌悪の視線に耐えるよりつらい。
すぐに「閉」のボタンを押そうとして――――
「おー、待った待った! 俺もはいっから!」
――――突き出された指は、唐突な声によって停止させられた。
別段待つ必要もなかった。むしろ、相手を待たせることより、待つことによって被る俺の精神的苦痛の方がはるかに重要だ。
……しかし、その声が親しい人物の物であることと、長年何度もそうやって呼びとめられてきた癖が、「開」へと指を向けさせた。
そのまま押し込むかどうか一瞬迷って、しかしすぐにボタンは沈みこんだ。
別段待つ必要もなかった。むしろ、相手を待たせることより、待つことによって被る俺の精神的苦痛の方がはるかに重要だ。
……しかし、その声が親しい人物の物であることと、長年何度もそうやって呼びとめられてきた癖が、「開」へと指を向けさせた。
そのまま押し込むかどうか一瞬迷って、しかしすぐにボタンは沈みこんだ。
「……ふぅ、セーフセーフ。このエレベーター待ち時間長ぇんだもんな」
再び開いたドアから入ってきた男性は、額から浮き出た汗をぬぐいながらぼやいた。
外でも走ってきたのか、背広の首回りが汗で黒ずんでいる。
ポケットからハンカチを取り出し、それを額へと当てる男。
外でも走ってきたのか、背広の首回りが汗で黒ずんでいる。
ポケットからハンカチを取り出し、それを額へと当てる男。
「いやー、わりぃなやまっちゃん。おかげで助かったわ」
その男は俺を見ても一切顔色を変えず、以前と同じように笑顔でそう言った。
「……俺に話しかけていいんすか、先輩」
「んー? なに言っちゃってんの、この子は。部署が違うとはいえ仮にも上司よ、俺。後輩に声をかけるのに理由なんていらないでしょー?」
「んー? なに言っちゃってんの、この子は。部署が違うとはいえ仮にも上司よ、俺。後輩に声をかけるのに理由なんていらないでしょー?」
ぽんぽん、と俺の肩を叩きながら、男……先輩は、そう陽気に笑った。
正直、今のおれにはその陽気さが羨ましいくらいだ。
正直、今のおれにはその陽気さが羨ましいくらいだ。
「いや……だから、ほら、俺って疫病神みたいじゃないっすか」
「疫病神、ねぇ……」
「疫病神、ねぇ……」
そう言って、じっと俺の方を見つめてくる先輩。
その目は俺を見ているようで……しかし、その視線は俺より少し上にあった。
疑問に思って軽く上を見上げてみるが、そこにはただ染みのついた天井が広がっているだけだ。
その目は俺を見ているようで……しかし、その視線は俺より少し上にあった。
疑問に思って軽く上を見上げてみるが、そこにはただ染みのついた天井が広がっているだけだ。
「そういや、今朝の朝刊にも自殺記事乗ってたけど、あれか。あれもやまっちゃんの関係者?」
「関係者っていうか……」
「関係者っていうか……」
天井から目を戻しながら、今朝見た新聞の顔写真を思い描く。
二十歳前の、少しそばかすの残った幼い顔。
一応、面識のある顔ではある。
ただ、一昨日の夜、ぶらりと立ち寄ったコンビニでバイトをしていた女の子……としか、俺は知らないのだ。
それを先輩に伝えると
二十歳前の、少しそばかすの残った幼い顔。
一応、面識のある顔ではある。
ただ、一昨日の夜、ぶらりと立ち寄ったコンビニでバイトをしていた女の子……としか、俺は知らないのだ。
それを先輩に伝えると
「コンビニのレジ打ちと話しただけで、相手が自殺した、ね……やまっちゃん、ほんとに疫病神にでも見入られちゃった?」
そう言って、くすりと笑った。
薄暗い電灯の中、先輩の顔が奇妙に歪む。
影のせいか、なぜかチェシャ猫のような印象を、俺はその顔から受け取った。
……正直、笑いごとではないのだが。
薄暗い電灯の中、先輩の顔が奇妙に歪む。
影のせいか、なぜかチェシャ猫のような印象を、俺はその顔から受け取った。
……正直、笑いごとではないのだが。
――そう、ここ一ヶ月、俺とちょっと……ほんのちょっと会話をした人が、次々と変死を遂げていた。
まるで、本当に死神にでも見入られらたかのように。
最初の取引先の二人に始まり、同僚、受付嬢、さらには先ほど言ったようなコンビニのレジ打ちにすら広がっていく被害。
警察も最初はただ不審死が続いているだけだと、そんな見方をしていた。
しかし、その死がある一つの街で起こっている事、そして何よりその数が日に日に増えている事に、彼らも疑問を持ったようだ。
小規模ながらも、彼らは動きを始め……すぐに、死者の共通項として一人の男が浮上してきた。
――――それが、俺だ。
まるで、本当に死神にでも見入られらたかのように。
最初の取引先の二人に始まり、同僚、受付嬢、さらには先ほど言ったようなコンビニのレジ打ちにすら広がっていく被害。
警察も最初はただ不審死が続いているだけだと、そんな見方をしていた。
しかし、その死がある一つの街で起こっている事、そして何よりその数が日に日に増えている事に、彼らも疑問を持ったようだ。
小規模ながらも、彼らは動きを始め……すぐに、死者の共通項として一人の男が浮上してきた。
――――それが、俺だ。
しかし、彼らはそれ以上動けなかった。
被害者とされる人間の死因は、あくまで心不全や自傷による失血、窒息――つまり、ただの自殺か、病気だ。
だから、俺の周囲を見張るだけに彼らの動きは留まり……それが、逆によくなかった。
誰が知ったのか、それとも知ろうとする必要すらなかったのか、いつからか社内に奇妙な噂が流れ始めたのだ。
やれ営業の○○と話すと死ぬだとか、やれ○○は殺人鬼だとか、そんな勝手な憶測。
多分、もしそんな噂が出た後に何もなければ、それはただの噂として処理され、風化していったのだろう。
しかし、周囲の変死は止まることなく続き、それに伴い最初はちょっと面白半分だった同僚の視線も変わり――――
被害者とされる人間の死因は、あくまで心不全や自傷による失血、窒息――つまり、ただの自殺か、病気だ。
だから、俺の周囲を見張るだけに彼らの動きは留まり……それが、逆によくなかった。
誰が知ったのか、それとも知ろうとする必要すらなかったのか、いつからか社内に奇妙な噂が流れ始めたのだ。
やれ営業の○○と話すと死ぬだとか、やれ○○は殺人鬼だとか、そんな勝手な憶測。
多分、もしそんな噂が出た後に何もなければ、それはただの噂として処理され、風化していったのだろう。
しかし、周囲の変死は止まることなく続き、それに伴い最初はちょっと面白半分だった同僚の視線も変わり――――
(――――今の状況に至る、と)
心の中で小さくため息をつき、この状況はあと何日、それとも一体何カ月続くのか、と思う。
俺に無罪を証明する方法はない。というよりも、噂を消す方法がない。
むしろ、実際に起訴された方が何と楽だったことだろうか。
人の罪は裁判の審議で明らかになる。しかし、噂の審議はその範疇ではないのだ。
裁判所がどんな判決を下そうと――例えそれが無罪判決であろうと――多分俺が逮捕された時点で噂は「有罪」の判決を下すのだろう。
そしてそれは、一生消えることはない。
……なんとやるせないことだろう。
俺に無罪を証明する方法はない。というよりも、噂を消す方法がない。
むしろ、実際に起訴された方が何と楽だったことだろうか。
人の罪は裁判の審議で明らかになる。しかし、噂の審議はその範疇ではないのだ。
裁判所がどんな判決を下そうと――例えそれが無罪判決であろうと――多分俺が逮捕された時点で噂は「有罪」の判決を下すのだろう。
そしてそれは、一生消えることはない。
……なんとやるせないことだろう。
「――――おーい、やまっちゃん。何一人の世界に入っちゃってんの」
……そんな風に一人思考していると、唐突に先輩から声をかけられた。
エレベーターの階数表示を見ると、まだ二階。
相変わらず異様な遅さだ。
エレベーターの階数表示を見ると、まだ二階。
相変わらず異様な遅さだ。
「……いいじゃないすか、別に」
「なーに辛気くせぇ顔してんだか。幸福が逃げちまうぞー?」
「そりゃ、こんな状況じゃ運なんて全部逃げちゃいましたよ、絶対」
「なーに辛気くせぇ顔してんだか。幸福が逃げちまうぞー?」
「そりゃ、こんな状況じゃ運なんて全部逃げちゃいましたよ、絶対」
全く暗さというか、何の裏もなさそうな先輩の顔を見て、思わず愚痴がこぼれる。
それは上司にするような態度ではなかったのだが……久しぶりに彼女以外とまともに話せたことと、先輩の人柄の良さが、俺の口をつい滑らせた。
それは上司にするような態度ではなかったのだが……久しぶりに彼女以外とまともに話せたことと、先輩の人柄の良さが、俺の口をつい滑らせた。
「先輩はいいっすよね。最近営業の成績もぐんぐん伸びてるじゃないっすか」
「んー? そりゃ、あれだ。俺は運を大切にしてるからな」
「運を大切に……?」
「んー? そりゃ、あれだ。俺は運を大切にしてるからな」
「運を大切に……?」
意味が分からない。
「風水っつーの? そういうのに結構気をつけたりよ。他にも縁起はなんでも担ぐぞ、俺は」
「はぁ…………」
「最近だと…………ほら、これだ」
「はぁ…………」
「最近だと…………ほら、これだ」
そう言って先輩からポケットから取り出したのは、ペンダントのように吊るされた石ころ。
瑠璃色とでも言うんだろうか。その石は青く、所々に黄色のような線を交えていた。
瑠璃色とでも言うんだろうか。その石は青く、所々に黄色のような線を交えていた。
「これな、ほら、あのパ、パ、パ、パワ……パワ何とかとか言う……」
「パワーストーンですか?」
「それだ!」
「パワーストーンですか?」
「それだ!」
ビシッ、と指で指される。
……正直、あまりうれしくはない。
……正直、あまりうれしくはない。
「お前もさ、知ってるだろ? 学校町ってとこ」
「はぁ、一応は」
「はぁ、一応は」
学校町。
確か、ここから二つほど街を挟んだ先にある、自然に囲まれた町だったはずだ。
以前に、超常現象だとか何だかで特集されているのをテレビで見たことがある。
確か、ここから二つほど街を挟んだ先にある、自然に囲まれた町だったはずだ。
以前に、超常現象だとか何だかで特集されているのをテレビで見たことがある。
「その学校町の占い師にもらったんだけどさ、これがまた滅茶苦茶効くんだわ」
「はぁ…………」
「ラピスラズリっつって魔よけと幸運のお守りらしいんだけど、やっぱ本職に貰うと違うねー。運気が全然違うっつーの?」
「……よかったっすね」
「はぁ…………」
「ラピスラズリっつって魔よけと幸運のお守りらしいんだけど、やっぱ本職に貰うと違うねー。運気が全然違うっつーの?」
「……よかったっすね」
眉つばというか、何というか。
以前のテレビ番組といい、その町では何かいかがわしい宗教でも流行っているのだろうか。
以前のテレビ番組といい、その町では何かいかがわしい宗教でも流行っているのだろうか。
「あー、なにその目は。やまっちゃん信じてないでしょ」
「いや、信じないっていうか……」
「いや、信じないっていうか……」
……あまり、そういった事に興味がないだけだ。
そんな風に俺が思っていると、何を思ったのか
そんな風に俺が思っていると、何を思ったのか
「よっし、分かった」
そう言って、先輩が俺に手に何かを握らせてくる。
手のひらを見ると、そこには先ほどのラピスラズリが握られていた。
手のひらを見ると、そこには先ほどのラピスラズリが握られていた。
「それ、一週間貸してあげるからさ。ちょっと試してみなよ」
「え? いや、困りますよ。こんなの貰っても……」
「あげるんじゃないの。貸すだけなの。いい? 一週間経ったら返してもらうからな」
「いや、でも…………」
「え? いや、困りますよ。こんなの貰っても……」
「あげるんじゃないの。貸すだけなの。いい? 一週間経ったら返してもらうからな」
「いや、でも…………」
どうしたものか。
正直、こんな物を貸してもらったところで、大して運が上がるとは思えない。
むしろ、これが彼女に見つかった時どう対応するかが問題である。
鈍く光る宝石を手に逡巡していると
正直、こんな物を貸してもらったところで、大して運が上がるとは思えない。
むしろ、これが彼女に見つかった時どう対応するかが問題である。
鈍く光る宝石を手に逡巡していると
――――チーンッ
時代遅れの音と共に、ギシギシと音を立てながら扉が開いた。
表示されている階層は、五階。
いつの間にか、目的地に着いていたようだ。
表示されている階層は、五階。
いつの間にか、目的地に着いていたようだ。
「んじゃ、まーそういうことだから。宜しく」
「あっ、ちょっ、先輩、マジで困りますってっ!」
「あっ、ちょっ、先輩、マジで困りますってっ!」
開いた扉を見て、さっさと出て行ってしまう。
追ってもよかったのだが、周囲を見渡せばすでに出勤し終えた社員が忙しそうに動いていた。
ただでさえ部署が違うのだ。そんな中を人目にさらされながら先輩の後を追う勇気は、ない。
そうこうしているうちに、すぐに先輩は人にまぎれて見えなくなり
追ってもよかったのだが、周囲を見渡せばすでに出勤し終えた社員が忙しそうに動いていた。
ただでさえ部署が違うのだ。そんな中を人目にさらされながら先輩の後を追う勇気は、ない。
そうこうしているうちに、すぐに先輩は人にまぎれて見えなくなり
「やまっちゃんに憑いてるそれ、俺が何とかしてやっからよー!」
その中から聞こえた先輩の声は幻聴か、はたまた本当に本人が言っていたのか。
「憑いてるってなんだよ……縁起でもない」
そのどちらか分からないながらも、俺はそれに小さく返答した。
手の中では、先輩から貰った……借りたペンダントが、蛍光灯の光に反射して青く輝いていた。
手の中では、先輩から貰った……借りたペンダントが、蛍光灯の光に反射して青く輝いていた。
――――翌日、先輩は死んだ。
急性の心不全だったという。
それを受け、また社内には噂が広がっていった。
着実に、少しずつ、少しずつ広がっていく疑念。
そんな中、俺は密かにある一つの決心をしていた……。
急性の心不全だったという。
それを受け、また社内には噂が広がっていった。
着実に、少しずつ、少しずつ広がっていく疑念。
そんな中、俺は密かにある一つの決心をしていた……。
【続】