恐怖のサンタ クリスマス編 09
先輩の葬儀が終わってから、約一週間。
俺は、何事もなかったかのように、日々を過ごしている。
……いや、過ごしていた、とでも言うべきか。
俺は、何事もなかったかのように、日々を過ごしている。
……いや、過ごしていた、とでも言うべきか。
コツッ コツッ コツッ
仕事帰り。
俺は一人、アパートの階段を上っていた。
俺は一人、アパートの階段を上っていた。
コツッ コツッ コツッ
一段、一段、正確に踏みしめながら、上っていく。
かみしめるように、大切に、大切に、上っていく。
――――もう、俺がこの階段を上ることなど、ないのかもしれないのだから。
かみしめるように、大切に、大切に、上っていく。
――――もう、俺がこの階段を上ることなど、ないのかもしれないのだから。
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「――あ……はるくん、お帰りなさい」
玄関をくぐり、部屋へと入ると、料理でもしていたのか、エプロン姿の彼女がパタパタと寄ってきた。
これは、いつもの日常。
それは、いつもの風景。
しかしそこに違和感を感じてしまうのは……今鞄の中にある、何枚かの紙きれのせいだろうか。
これは、いつもの日常。
それは、いつもの風景。
しかしそこに違和感を感じてしまうのは……今鞄の中にある、何枚かの紙きれのせいだろうか。
「…………はるくん?」
返事をしないことを訝ったのか、彼女が下から俺を覗き込んでいた。
いつものような、顔で。
いつも俺に向けてきた、顔で。
いつものような、顔で。
いつも俺に向けてきた、顔で。
「いや……何でもない」
部屋の奥へと入りながら、俺はいつものように答え……内心で、苦笑した。
――――何が、「何でもない」のか。
今日こそ、決着をつけるのだと、そう決めたではないか。
――――何が、「何でもない」のか。
今日こそ、決着をつけるのだと、そう決めたではないか。
こんな所でうじうじとして、また誰かが死ぬのを見るのか?
また人が死ぬのを、静観するのか?
これ以上彼女が人を殺すのを……黙って見ているのか?
少しの逡巡。
その答えを出すのに、さほど時間はかからなかった。
また人が死ぬのを、静観するのか?
これ以上彼女が人を殺すのを……黙って見ているのか?
少しの逡巡。
その答えを出すのに、さほど時間はかからなかった。
「いーや……やっぱり何かあった、かな?」
俺は今、どんな顔をしているのだろう。
笑顔でいるのか、しかめっ面をしているのか。
自分の物であるはずの顔の様子が、まるでわからない。
彼女は、一瞬怪訝そうな顔をして……俺のそんな様子に気づいたのか、おずおずと尋ねてきた。
笑顔でいるのか、しかめっ面をしているのか。
自分の物であるはずの顔の様子が、まるでわからない。
彼女は、一瞬怪訝そうな顔をして……俺のそんな様子に気づいたのか、おずおずと尋ねてきた。
「どう、したの……?」
小さく首をかしげる彼女に、俺はまた少し、逡巡を重ねて
「もう、やめないか……あんなこと」
しかしはっきりと、口にした。
ぎゅっと、鞄を握る手に力がこもる。
ぎゅっと、鞄を握る手に力がこもる。
「やめるって……何を?」
……あくまで、とぼけるつもりなのか。
それとも、質問の意図が伝わらなかったのか。
どちらにせよ、構わない。
俺はただ、質問を重ねていくだけだ。
それとも、質問の意図が伝わらなかったのか。
どちらにせよ、構わない。
俺はただ、質問を重ねていくだけだ。
「最近……いや、ここ数カ月、俺の周囲で起きた変死――――」
俺は静かに、語りだした。
出棺前の先輩の顔……その少し苦悶の残る顔を思い出して、思わず足が竦みそうになる。
しかし、逃げるわけにはいかない。
逃げるわけには……いかないのだ。
出棺前の先輩の顔……その少し苦悶の残る顔を思い出して、思わず足が竦みそうになる。
しかし、逃げるわけにはいかない。
逃げるわけには……いかないのだ。
「――――あれは、お前が引き起こしたんだろう?」
振り絞るようにして言った、その言葉。
それを聞いて、彼女は眼を見開き
それを聞いて、彼女は眼を見開き
「……何を、言ってるの?」
そう、問い返してきた。
今は少しも揺れていない、目。
いつも通りのように見える、彼女。
しかし、最初の一瞬の動揺が、たったそれだけの動作が、「いつも」を過ごしてきた俺たちにとって、あり得ない反応だった。
……あってはならない、反応だったのだ。
今は少しも揺れていない、目。
いつも通りのように見える、彼女。
しかし、最初の一瞬の動揺が、たったそれだけの動作が、「いつも」を過ごしてきた俺たちにとって、あり得ない反応だった。
……あってはならない、反応だったのだ。
「ここにレポートがある」
鞄から、何枚かの紙と写真を取り出す。
ここへ来る前、興信所から取ってきたものだ。
……もう、担当の職員は死んでいたが。
半ば盗人のように取ってきたそれらをテーブルの上に置き、俺はその何枚かを指差した。
ここへ来る前、興信所から取ってきたものだ。
……もう、担当の職員は死んでいたが。
半ば盗人のように取ってきたそれらをテーブルの上に置き、俺はその何枚かを指差した。
「これは、お前のここ一週間の行動を逐一……それこそ、法なんかいくつも破ってるくらいに観察して、事細かに記してもらったものだ」
「………………」
「………………」
俺の言葉を、彼女は無表情で聞いている。
「この中で重要なのは……この紙のここと、これだ」
俺は、一枚の紙の中にあるある時刻と、一枚の写真を指差した。
そこに写っているのは、浮気や不倫の現場なんて陳腐な物じゃ、もちろんない。
ましてや誰かと会っていたとかいう、そんなものでもない。
そこに写っているのは、浮気や不倫の現場なんて陳腐な物じゃ、もちろんない。
ましてや誰かと会っていたとかいう、そんなものでもない。
「これは、一体どういうことなんだ……?」
そこに写っていたのは、彼女ただ一人。
しかし、その光景は……あまりに日常と、かけ離れていた。
腕をだらりと下げ、正座のように足を折りたたんだ彼女。
その顔は天井へと向けられ……その目は白く、何も見ていない。
普通なら、薬物中毒か何かと捉えられそうな、そんな光景。
しかし、その光景は……あまりに日常と、かけ離れていた。
腕をだらりと下げ、正座のように足を折りたたんだ彼女。
その顔は天井へと向けられ……その目は白く、何も見ていない。
普通なら、薬物中毒か何かと捉えられそうな、そんな光景。
――――もしそうなら、どんなに良かったことか。
問題は、その時刻。
俺の指差す、レポートの一枚の示され、また写真の右下にも描かれた、その時刻。
その時……彼女がそのような奇行をする、その時に
俺の指差す、レポートの一枚の示され、また写真の右下にも描かれた、その時刻。
その時……彼女がそのような奇行をする、その時に
「どうして、お前の奇行と、変死した人間の死亡時刻が、一致してるんだよ……!」
この一週間で、三度。
彼女は三回、奇行を見せ……その度に、一人ずつ人間が死んでいった。
これは一体、魔法なのか、超能力なのか、はたまた呪いなのか。
そんな事は、分からない。
ただ一つ、彼女の奇行と、死亡時刻の一致。これは事実であり、真実だ。
彼女は三回、奇行を見せ……その度に、一人ずつ人間が死んでいった。
これは一体、魔法なのか、超能力なのか、はたまた呪いなのか。
そんな事は、分からない。
ただ一つ、彼女の奇行と、死亡時刻の一致。これは事実であり、真実だ。
「どうして、何だ……?」
「………………」
「………………」
もし彼女が沈黙を守るのなら、それを打ち崩すレポートはまだ幾らでもある。
今の質問でだめなら、また、次を。
次の質問でだめなら、また、次を。
口を閉ざす彼女を見て、俺はそう覚悟を決め
今の質問でだめなら、また、次を。
次の質問でだめなら、また、次を。
口を閉ざす彼女を見て、俺はそう覚悟を決め
「…………どこで、失敗しちゃったのかな」
しかし一言、彼女はぽつりとつぶやいた。
そのまま、彼女がぶつぶつと呟き始める。
そのまま、彼女がぶつぶつと呟き始める。
「この一週間で、三人殺すのを見られたところ……? ううん、それを見たのは、はるくんじゃない」
「おい…………」
「おい…………」
……しかし、それは俺の期待していたような、懺悔の言葉ではなかった。
「あの興信所の男を殺すのに、手間取ったから……? ううん、興信所にはるくんが依頼をした時点で、私は疑われてた」
「お前は、一体、何を……」
「じゃあやっぱり、あの先輩とかいう男のせい……? たぶん、そう。「憑いてる」私を見て、しかも戦いを挑んできたのは、あの男が初めて」
「何を、言ってるんだっ!?」
「お前は、一体、何を……」
「じゃあやっぱり、あの先輩とかいう男のせい……? たぶん、そう。「憑いてる」私を見て、しかも戦いを挑んできたのは、あの男が初めて」
「何を、言ってるんだっ!?」
バンッ、と机を叩く。
失敗? 殺すのに手間取った? 戦いを挑んできた?
――――分からない。
これが、あの彼女の言動なのか?
失敗? 殺すのに手間取った? 戦いを挑んできた?
――――分からない。
これが、あの彼女の言動なのか?
写真を見た時点で、ある程度の覚悟はしていた。
「日常」が「非日常」へと変わってしまうことくらい、覚悟はしていた。
しかし、今の彼女は何だ?
いつもの彼女なら……例え、「非日常」における彼女ですら、問い詰めればちゃんと罪を告白して、悔いてくれる……そう、思っていたのに。
それはただの、甘い幻想だったのか?
彼女は、もう「非日常」に染まりすぎてしまったのか?
「日常」が「非日常」へと変わってしまうことくらい、覚悟はしていた。
しかし、今の彼女は何だ?
いつもの彼女なら……例え、「非日常」における彼女ですら、問い詰めればちゃんと罪を告白して、悔いてくれる……そう、思っていたのに。
それはただの、甘い幻想だったのか?
彼女は、もう「非日常」に染まりすぎてしまったのか?
「……どう、したの?」
ハッと、した。
ほんの少し前にもかけられたはずの、彼女の言葉。
しかし、その声はあまりに、無機質で
それを発した彼女の目には、何も映ってなくて
……一体、どうしたというのか。
この変わりようは、何なのか。
今、俺の目の前にいる、この女――――
ほんの少し前にもかけられたはずの、彼女の言葉。
しかし、その声はあまりに、無機質で
それを発した彼女の目には、何も映ってなくて
……一体、どうしたというのか。
この変わりようは、何なのか。
今、俺の目の前にいる、この女――――
「――――お前は、誰だ?」
俺の質問に、彼女はただ、無表情で答える。
まるで、感情の表現方法を忘れてしまったかのように。
まるで、感情の表現方法を忘れてしまったかのように。
「私は、私……あなたを好きな、そしてあなたが好きになってくれた、私……」
――違う! と。
心の中で、俺は大きく叫んだ。
こんなのは、彼女ではない。
彼女であるはずが、ない。
これでは、まるで――――
心の中で、俺は大きく叫んだ。
こんなのは、彼女ではない。
彼女であるはずが、ない。
これでは、まるで――――
「私はあなたを、ずっと信じてきた……でも、もう、駄目」
「何を……」
「何を……」
唐突に、彼女の雰囲気が変わった。
表面的には、特に何も変わってはいない。
しかし、その纏う空気……部屋全体の空気が、重くなったような気がした。
表面的には、特に何も変わってはいない。
しかし、その纏う空気……部屋全体の空気が、重くなったような気がした。
「待て、まだ、俺は――――」
「もう、いいの。もう、いいのよ……」
「もう、いいの。もう、いいのよ……」
そろり、と彼女が立ちあがる。
その目は、何も移していなくて
……でも、その奥に、彼女以外の別の「何か」を見たような気も、した。
その目は、何も移していなくて
……でも、その奥に、彼女以外の別の「何か」を見たような気も、した。
「あなたを永遠に、私にものにしてあげる」
――異様だ。
あまりに、異様だ。
俺はとっさに、玄関へと向かって走り出していた。
……しかし
あまりに、異様だ。
俺はとっさに、玄関へと向かって走り出していた。
……しかし
「逃げても、無駄」
突然、暗くなる俺の周囲。
停電で電球が消えたとか、そんな感じではない。
まるで、部屋のすべての明かりが、消えてしまったような
この世の全ての明かりが消えてしまったような、そんな感覚。
停電で電球が消えたとか、そんな感じではない。
まるで、部屋のすべての明かりが、消えてしまったような
この世の全ての明かりが消えてしまったような、そんな感覚。
「逃げ場は、ないの」
まるで俺の周囲全てから聞こえてくるかのような、彼女の声。
……一体何が、起こっているというのか。
……一体何が、起こっているというのか。
(落ち着け……落ち着くんだ……)
これが彼女の引き起こした事なのは、間違いない。
今までもこうして、彼女が邪魔者を排除してきた事も、間違いない。
……つまり、だ。
今までもこうして、彼女が邪魔者を排除してきた事も、間違いない。
……つまり、だ。
(…………ここで、俺は死ぬのか?)
彼女は俺も、消してしまうのか。
今までそうしてきたように、俺も。
今までそうしてきたように、俺も。
――死ぬ覚悟は、もちろんしている。
いや……している、はずだった。
ではなぜ、俺の体は震えているのか。
ここまで、来て……こんな死の淵にまで来て、怖くなったとでもいうのか。
そんな……。
そんな、はずは――――
いや……している、はずだった。
ではなぜ、俺の体は震えているのか。
ここまで、来て……こんな死の淵にまで来て、怖くなったとでもいうのか。
そんな……。
そんな、はずは――――
パキーンッ!
「――――っ!?」
突如、背広のポケットから響いた、音。
それは、どこか澄んだ音色で、辺りを満たし
それは、どこか澄んだ音色で、辺りを満たし
「あ……え……?」
急速に、周囲に明かりが戻っていった。
闇が、光に駆逐され
徐々に部屋の本来の姿を、取り戻していく。
闇が、光に駆逐され
徐々に部屋の本来の姿を、取り戻していく。
「な、何で……?」
その、部屋の一角。
先ほどまでと同じ場所に、彼女は立っていた。
先ほどまでと同じ場所に、彼女は立っていた。
「何で、とけちゃったの……?」
その目は落ち着きなく動き、口はパクパクと開閉を繰り返している。
俺は、そんな彼女を見て
髪を振り乱し驚愕の表情を浮かべる、彼女を見て
俺は、そんな彼女を見て
髪を振り乱し驚愕の表情を浮かべる、彼女を見て
(「これ」は、彼女じゃない……!)
俺はそう、確信した。
*********************************************
――――それからの事は、あまりよく覚えていない。
覚えているのは、取り乱した彼女と、飛びかかる俺。
それ以降は、全く記憶にない。
気づいたら、俺は彼女にまたがり、その首を絞めていたのだ。
覚えているのは、取り乱した彼女と、飛びかかる俺。
それ以降は、全く記憶にない。
気づいたら、俺は彼女にまたがり、その首を絞めていたのだ。
俺は、逃げた。
絶命した彼女を置いて、逃げた。
怖かったのだ。
この世のものとは思えない、怪異を体験したこと。
この世でもっとも醜いとされる、殺人を犯してしまったこと。
そして、何より……
絶命した彼女を置いて、逃げた。
怖かったのだ。
この世のものとは思えない、怪異を体験したこと。
この世でもっとも醜いとされる、殺人を犯してしまったこと。
そして、何より……
――――はる……くん……
死ぬ直前の彼女が、憑き物の落ちたような顔で
いつものように微笑んでくれたような、そんな記憶が頭に残っている事が、どうしようもなく、怖かった。
いつものように微笑んでくれたような、そんな記憶が頭に残っている事が、どうしようもなく、怖かった。
――――俺は、正気に戻った彼女を、この手で殺してしまったのかも……しれない。
*********************************************
俺が全国に指名手配されたのは、それから二日後のことだった。
【終】