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目が覚めた時には少女はやたらと高級そうなホテルの最上階の一室に連れ込まれていた。そして――
「うおっ!?」
ベッドの上に放りだされる。携帯も電源を落とされて部屋の隅へと放り投げられ、
「何もしないんならこっちも何にもしねえ、あの青年もこの状況でさっちゃんを殺すことはねえだろ。足は全部終わったら返してやる。痛みはねえだろ?」
「無い」
「よし」
少女を連れ込んだ浅井は頷くと、食え。と言って部屋の中に置いてあった食料を突き出した。
少女はその食料を一目見て、次いで無言で浅井を睨んだ。
「なんだよ? 毒なんか入ってねえぞ?」
石が光を収めると共に外殻が普通のぼろスーツへと戻っていく浅井を見て、少女は無言のまま盆に乗っていた果物を一口放り込み、
「……おっちゃんは食わねえの?」
訊いて、
「ああ、俺は人肉以外食えんのよ」
その返答に少女の手が止まった。
「――あん?」
浅井は突然固まった少女の手を見て、己の発言を振り返り、考え――
「や、待て、何か誤解してるぞ娘っ子」
若干焦ったように言った。
「俺は美味くねえぞ」
警戒した目で言って腕だけでベッドの上を這い、浅井から距離を開ける少女に浅井は傷痕を引っ掻きながら困ったように、
「だから違うって……いや」
言葉の途中で意地の悪い笑みが浮かんだ。
彼はベッドに上がっておもむろに少女へとにじりより、
「食ってやろうか? 娘っ子、多少貧相だがいい体してるしな、自分で言うほど不味かぁねぇだろ」
じりじりと少女へと近づきながら言った。
「お、おい……?」
少女の顔に不審の色が浮かぶ。
徐々に近づいてくる浅井を見て、
「おっちゃん、やめろ、蹴飛ばすぞ?」
「足も無くて逃げられないのに何言ってやがる」
浅井は笑みのまま少女の両の手を押さえつけ、覆い被さった。
少女は完全に身動きを封じられた状態で一瞬恐怖を顔に滲ませ、もがこうと手に力を込め、
「娘っ子自体はなにか特殊な力を持ってるわけじゃあねえみてえだな」
大の男の拘束から逃れられるはずもなく、
「や、おい、やめ、てぃ、Tさ――」
少女の声が上擦り初め、
「おいおいつれねえな――――あ」
興が乗ったように少女に覆い被さっていた浅井の表情が変化した。
その表情の変化を簡潔に表すならば、
やベぇ、やっちまった!
とでも言った所だろうか。
浅井を睨みつける少女、その両の目尻に涙が浮かんでいる。見る間に追加の一滴が目に浮かび、溢れたそれは顔を伝い、零れていく。
それを見て怯んだ浅井の視線の先では下唇を浅く噛んで涙をこらえようとしているらしい少女の姿がある。
それでもひ、と声を漏らす少女を見て、浅井は悟る。
やり過ぎた……っ!
反応が面白いのでついついイジメていたら本気で泣かれた。それが今の構図だった。
浅井は慌てて少女から退き、釈明するように、
「いや、あのな? 俺一応嫁さん以外に興味は無くてな?」
「……なんだよ。別に怖くなんかねえぞ」
若干涙声で言う少女。
浅井はベッドから降り、床で土下座しつつ、
「俺が悪かった、俺が悪かった! 大体娘っ子は下手したら俺の孫くらいの歳だぞ? 手は出さねえって!」
「……知り合いに十歳以下はババアっていう奴がいる」
「……そんな特殊例と一緒にしないでくれや」
うなだれた浅井を前に、少女は一応落ち着いたのか、ん、と言って顔を袖でこすり、それでも身を守るようにシーツを手繰り寄せながら、
「……復讐ってさ」
「あん?」
「夢子ちゃんへの復讐って、やめらんねえの?」
小さく、窺うように訊いた。
浅井は無言でいようと思い、しかしまだ両目に涙の跡がある少女にそれは不憫だろうと思い直し、
「大人にはなそう簡単に変えられないこともあんのよ」
気付けば心中を吐露していた。
「特に、それのみを生きる目的にしてた人間にはな」
「……夢子ちゃんを殺してもか?」
「娘っ子から見りゃ王様も被害者なんだろうがな。でも俺にとっても、さっちゃんにとっても加害者なんだよ」
「でも――」
「止めるんなら力づくで、だ」
有無を言わさぬ口調で言い切った。
「……馬鹿じゃねえの?」
歯に絹着せぬ物言いの少女に浅井は笑って、
「うるせー」
と返し、「……分かってるよ」と少女に聞こえぬよう呟いて背を向けた。
しばし無言があり、
「食いもん、ほんとにいいのか?」
少女が部屋を見回して食料が他にないのを確認しながら訊いた。
「ああ、人肉以外は食うと体が拒絶すんのよ」
参った参ったと言う浅井。少女はじゃあ、と多少驚き気味に、「夜な夜な人をとってるのか?」と訊ねる。
「んなこたぁしねえ。あまり他人様にゃあ迷惑をかけたくなかったからな。つっても何も口に入れねえと流石に死んじまうから、基本的に内臓食い系の都市伝説と契約した悪い人間だけ探して食ってた」
「へぇ~」
大変なんだな、と少女は唸り、
「それじゃあ毎日は食えないんじゃねえの?」
「ああ、もう6日くらい食ってねえな」
「大丈夫なのか?」
「……正直なところやべえ」
そう自嘲気味に言って浅井は少女へと顔を向けた。そして驚いたように目を見開いた後、苦笑し、
「そんな顔をすんなよ、俺はあの王様を殺そうとする悪党だぜ?」
「……うるせー」
言われた言葉に少女は適当に答えて顔を背けた。浅井は思い出したように、
「あ、そうそう、風呂とかトイレとか必要なら言えよ? その足じゃ不便だろ?」
少女がベッドの端まで這って退避した。そして、
「……」
無言で冷たい視線を浴びせる。
「引くな引くな」
「いくら俺と大きな年齢差があるっつってもそりゃねえよエロおやじ」
変わらず冷たい視線を浴びせかける少女に、
「ふーん、あれか? 体を許すのはあの青年、えーと、Tさん? にだけだー。……とかか?」
浅井が言って、
「は? ……え? …………ぁ」
少女の動きが止まった。
あぁ、と少女の口から気の抜けたような納得の声が漏れ、同時に彼女の頭の中では唐突に気付かされたそれに感情と思考が大変なことになっていた。
え、あ、だから俺さっきTさんに助けを求めようとして……いや、あれ? だってあれはマッドガッサーのガスのせいじゃ……。
そんな思考を回しつつ、無言のまま顔を真っ赤に染めていく少女を見て浅井は、
「うわぁお……」
呆れたような声を上げた。
「んだよおっちゃん」
「いやいや、そうかそうかいやいや妬けるねー」
赤い顔のまま浅井を睨みつけた少女に浅井は「赤飯でも用意するかー?」と声をかけ、少女が投げつけた枕を顔面に食らった。
それをなした少女は俯き、
「……でも、Tさんは別に俺なんかどうでもいいと思ってるよ」
「ほう……?」
愚痴るように言う少女を見て、んなこたぁないと思うがな。と言いながら浅井が手を叩くと、女性従業員が現れた。浅井は従業員を示し、
「≪ホープダイヤ≫って知ってるか? そいつの能力で操った従業員だ。なんでも言うことを聞くようにしたから娘っ子の身の回りの世話をさせておけ」
「ん、わかった」
おっちゃんがやるんじゃなくてホント良かったぜ。と少女が答えた時、電話の音が鳴り始めた。携帯電話の電子音だ。
「なんだ?」
浅井が床の上で鳴り続けるそれを拾いあげる。
「リカちゃん……?」
少女の呟きを聞きながら浅井は携帯を開く。
電源が入っていない携帯電話は、しかし確かに着信を示す音を発していた。
「うおっ!?」
ベッドの上に放りだされる。携帯も電源を落とされて部屋の隅へと放り投げられ、
「何もしないんならこっちも何にもしねえ、あの青年もこの状況でさっちゃんを殺すことはねえだろ。足は全部終わったら返してやる。痛みはねえだろ?」
「無い」
「よし」
少女を連れ込んだ浅井は頷くと、食え。と言って部屋の中に置いてあった食料を突き出した。
少女はその食料を一目見て、次いで無言で浅井を睨んだ。
「なんだよ? 毒なんか入ってねえぞ?」
石が光を収めると共に外殻が普通のぼろスーツへと戻っていく浅井を見て、少女は無言のまま盆に乗っていた果物を一口放り込み、
「……おっちゃんは食わねえの?」
訊いて、
「ああ、俺は人肉以外食えんのよ」
その返答に少女の手が止まった。
「――あん?」
浅井は突然固まった少女の手を見て、己の発言を振り返り、考え――
「や、待て、何か誤解してるぞ娘っ子」
若干焦ったように言った。
「俺は美味くねえぞ」
警戒した目で言って腕だけでベッドの上を這い、浅井から距離を開ける少女に浅井は傷痕を引っ掻きながら困ったように、
「だから違うって……いや」
言葉の途中で意地の悪い笑みが浮かんだ。
彼はベッドに上がっておもむろに少女へとにじりより、
「食ってやろうか? 娘っ子、多少貧相だがいい体してるしな、自分で言うほど不味かぁねぇだろ」
じりじりと少女へと近づきながら言った。
「お、おい……?」
少女の顔に不審の色が浮かぶ。
徐々に近づいてくる浅井を見て、
「おっちゃん、やめろ、蹴飛ばすぞ?」
「足も無くて逃げられないのに何言ってやがる」
浅井は笑みのまま少女の両の手を押さえつけ、覆い被さった。
少女は完全に身動きを封じられた状態で一瞬恐怖を顔に滲ませ、もがこうと手に力を込め、
「娘っ子自体はなにか特殊な力を持ってるわけじゃあねえみてえだな」
大の男の拘束から逃れられるはずもなく、
「や、おい、やめ、てぃ、Tさ――」
少女の声が上擦り初め、
「おいおいつれねえな――――あ」
興が乗ったように少女に覆い被さっていた浅井の表情が変化した。
その表情の変化を簡潔に表すならば、
やベぇ、やっちまった!
とでも言った所だろうか。
浅井を睨みつける少女、その両の目尻に涙が浮かんでいる。見る間に追加の一滴が目に浮かび、溢れたそれは顔を伝い、零れていく。
それを見て怯んだ浅井の視線の先では下唇を浅く噛んで涙をこらえようとしているらしい少女の姿がある。
それでもひ、と声を漏らす少女を見て、浅井は悟る。
やり過ぎた……っ!
反応が面白いのでついついイジメていたら本気で泣かれた。それが今の構図だった。
浅井は慌てて少女から退き、釈明するように、
「いや、あのな? 俺一応嫁さん以外に興味は無くてな?」
「……なんだよ。別に怖くなんかねえぞ」
若干涙声で言う少女。
浅井はベッドから降り、床で土下座しつつ、
「俺が悪かった、俺が悪かった! 大体娘っ子は下手したら俺の孫くらいの歳だぞ? 手は出さねえって!」
「……知り合いに十歳以下はババアっていう奴がいる」
「……そんな特殊例と一緒にしないでくれや」
うなだれた浅井を前に、少女は一応落ち着いたのか、ん、と言って顔を袖でこすり、それでも身を守るようにシーツを手繰り寄せながら、
「……復讐ってさ」
「あん?」
「夢子ちゃんへの復讐って、やめらんねえの?」
小さく、窺うように訊いた。
浅井は無言でいようと思い、しかしまだ両目に涙の跡がある少女にそれは不憫だろうと思い直し、
「大人にはなそう簡単に変えられないこともあんのよ」
気付けば心中を吐露していた。
「特に、それのみを生きる目的にしてた人間にはな」
「……夢子ちゃんを殺してもか?」
「娘っ子から見りゃ王様も被害者なんだろうがな。でも俺にとっても、さっちゃんにとっても加害者なんだよ」
「でも――」
「止めるんなら力づくで、だ」
有無を言わさぬ口調で言い切った。
「……馬鹿じゃねえの?」
歯に絹着せぬ物言いの少女に浅井は笑って、
「うるせー」
と返し、「……分かってるよ」と少女に聞こえぬよう呟いて背を向けた。
しばし無言があり、
「食いもん、ほんとにいいのか?」
少女が部屋を見回して食料が他にないのを確認しながら訊いた。
「ああ、人肉以外は食うと体が拒絶すんのよ」
参った参ったと言う浅井。少女はじゃあ、と多少驚き気味に、「夜な夜な人をとってるのか?」と訊ねる。
「んなこたぁしねえ。あまり他人様にゃあ迷惑をかけたくなかったからな。つっても何も口に入れねえと流石に死んじまうから、基本的に内臓食い系の都市伝説と契約した悪い人間だけ探して食ってた」
「へぇ~」
大変なんだな、と少女は唸り、
「それじゃあ毎日は食えないんじゃねえの?」
「ああ、もう6日くらい食ってねえな」
「大丈夫なのか?」
「……正直なところやべえ」
そう自嘲気味に言って浅井は少女へと顔を向けた。そして驚いたように目を見開いた後、苦笑し、
「そんな顔をすんなよ、俺はあの王様を殺そうとする悪党だぜ?」
「……うるせー」
言われた言葉に少女は適当に答えて顔を背けた。浅井は思い出したように、
「あ、そうそう、風呂とかトイレとか必要なら言えよ? その足じゃ不便だろ?」
少女がベッドの端まで這って退避した。そして、
「……」
無言で冷たい視線を浴びせる。
「引くな引くな」
「いくら俺と大きな年齢差があるっつってもそりゃねえよエロおやじ」
変わらず冷たい視線を浴びせかける少女に、
「ふーん、あれか? 体を許すのはあの青年、えーと、Tさん? にだけだー。……とかか?」
浅井が言って、
「は? ……え? …………ぁ」
少女の動きが止まった。
あぁ、と少女の口から気の抜けたような納得の声が漏れ、同時に彼女の頭の中では唐突に気付かされたそれに感情と思考が大変なことになっていた。
え、あ、だから俺さっきTさんに助けを求めようとして……いや、あれ? だってあれはマッドガッサーのガスのせいじゃ……。
そんな思考を回しつつ、無言のまま顔を真っ赤に染めていく少女を見て浅井は、
「うわぁお……」
呆れたような声を上げた。
「んだよおっちゃん」
「いやいや、そうかそうかいやいや妬けるねー」
赤い顔のまま浅井を睨みつけた少女に浅井は「赤飯でも用意するかー?」と声をかけ、少女が投げつけた枕を顔面に食らった。
それをなした少女は俯き、
「……でも、Tさんは別に俺なんかどうでもいいと思ってるよ」
「ほう……?」
愚痴るように言う少女を見て、んなこたぁないと思うがな。と言いながら浅井が手を叩くと、女性従業員が現れた。浅井は従業員を示し、
「≪ホープダイヤ≫って知ってるか? そいつの能力で操った従業員だ。なんでも言うことを聞くようにしたから娘っ子の身の回りの世話をさせておけ」
「ん、わかった」
おっちゃんがやるんじゃなくてホント良かったぜ。と少女が答えた時、電話の音が鳴り始めた。携帯電話の電子音だ。
「なんだ?」
浅井が床の上で鳴り続けるそれを拾いあげる。
「リカちゃん……?」
少女の呟きを聞きながら浅井は携帯を開く。
電源が入っていない携帯電話は、しかし確かに着信を示す音を発していた。