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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん-復讐-10

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 少女の呟きを聞き、浅井はすぐさま通話ボタンを押し、電話に出た。
 電源の入っていないはずの電話はそんなことは関係ないとでもいうように通話を繋ぐ。
『もしもし、わたしリカちゃん。今――』
 全てを言う暇を与えずに、浅井は脅しをかけた。
「≪メリーさん≫とかの類だよな? よーし、知ってっぞ。近づいてくんじゃねえ。あんたの契約者がひでえ目に遭うかもしれないぜ?」
 こえは止まり、
『え、ぅ……お兄ちゃん』
 先程聞いた憶えがある、泣きそうな、困ったような声が電話の向こうでし、ややあって通話相手が変わった。こちらも浅井に聞き覚えのあるTさんと呼ばれていた青年の声で、
『契約者が世話になっているな』
 低い、底冷えのする調子で言ってきた。
「ああ……」
 答えながら少女の方をちらりと見て、なんとも思ってないわけがないと思うがな。と浅井は再び感想を抱きながら、
「娘っ子なら割と元気にしてるぜ? 声聞くか?」
『お願いしよう』
 はいよ、と答えて浅井は電話を少女へと渡す。
「リカちゃん? Tさん?」
 少女の問いに数瞬間を空けて青年の声が返った。
『俺だ。すまない契約者。さっちゃんの確保と夢子ちゃんの復帰に時間を割かれてリカちゃんの能力をサポートして探し出すのが遅れた』
 電源が切れてもかかってきたのはそういうカラクリらしい。
 青年の声に少女は表情を緩め、次いで先程気付かされた想いに顔をさっと赤くし、最後に無理やり落ち着いて、
「や、いいよ。見つけてくれてありがとな」
『意外に元気そうだな』
「そりゃまあ、足はねえけど痛みもねえし、おっちゃんも一応何もしないって言ってるしな」
 そう言って浅井を見る少女。浅井は少女の百面相を楽しみながら「おう」と答える。
『……そうか』
 電話の向こうでは安堵の気配があり、
「もういいな?」
 タイミングを見て浅井は少女に声をかけた。
「……ん」
 おとなしく携帯を渡した少女に「悪いな」と囁き、
「そういうわけだ。安全だぜ? 俺の契約した都市伝説の能力じゃあ地下カジノのときもそうだったみてぇに契約者や都市伝説は操れねえしな。変な洗脳もできねえよ。――まあ信じるかどうかはそっちの勝手だけどな」
 ん、と頷く気配があり、
『必ず契約者は取り戻させてもらおう。そしてお前たちの復讐も止める』
「そうは行くかよ。だいたい今日だって本当なら王様消してハッピーエンドだったんだぜ? 娘っ子に邪魔されちまったけどな」
 やってくれたよ。と笑う浅井。
『お前たちの事情は夢子ちゃん――≪夢の国≫の王に聞いた。気持ちは察するが彼女は俺たちの友人だ。消させはしない。それに――』
 青年は一瞬、迷うように言葉を切り、

『このままでは≪夢の国≫は再び狂う可能性が高い』

「……なに?」
 浅井にとっては絶対に聞き捨てならないことを言った。
 青年は語る。それは浅井にとってどこまでも滑稽で悲劇的な話だった。
『≪夢の国で人は死なない≫。だが痛みも苦しみも得る。前の王はその果てに狂いあのようなことになった。さっちゃんの契約者であるお前になら今、王がどれほど苦しんでいるのか、分かるな? その苦しみは彼女をやがて狂わせる……それこそ前の王と同じように」
 同じ道をあの子に辿らせるつもりか?
 青年は訴えるように言い、
「今彼女は人を攫い力を飲むことをしていない。それが今の彼女の生き方だからだ。しかし、ひとたび狂えばおそらく前の王と同じように周り全てを巻き込み≪夢の国≫は動くだろう』
 そして悪夢が再び広がる。
「……いくら歪もうがさっちゃんの呪いが王様の自由を封じるんじゃねえのか?」
 浅井のどこか縋るような調子の問いかけに、しかし、
『≪夢の国≫もそれが外部から与えられる呪いならばやがては慣れ、動けるようになる。いや、もしかしたら自らは冷凍睡眠にでもついて他の誰かを操るかもしれない。それくらい、あの子の≪夢の国≫の王としての力ならあっさりとやってのけるだろう。お前たちはそれでも――』

 お前たちと同じような悲劇を生み出す≪夢の国≫をお前たち自身の手で作り出すことになろうとも、復讐を続けるか?

 青年はどこか責めたてるように質した。
 浅井は無言でその情報の真偽を考える。
 そして、強力な呪いが与える苦しみを、夢の国の創始者が罹っていた病に置き換えるとそれはそのまま今の≪夢の国≫の王の状況となり、
 とんだ驚愕の事実だな……。
 彼は深く吸った息を吐き、力無く言う。
「……それでも、やめられねえさ……なにがなんでも殺しに行く。娘っ子の足を返して欲しかったらさっちゃんをしっかり預かってろ」
 青年は復讐を諦めないことに対しては何も言わず、別の話を振った。
『……今さっちゃんはあの子への恨みごとで忙しそうだが、安全確認のために代わるか?』
「いらねえよ、さっきから聞こえてきてらぁ……」
 電話の向こうからは罵声が聞こえている。悲哀にまみれた、相手だけでなく、言葉を浴びせかける本人すら傷つけるような罵声だ。
 王様本人に会ってんだろうな……。
 何十年と待ち望んでいた相対だ、例え中身が違っていたとしても吐き出したい言葉は尽きないだろう。邪魔はすまい、そのためにあの子をあそこへ置いてきたのだから。
 そう浅井が思っていると、問いかけがあった。
『先程逃げた時、何故俺にさっちゃんを頼むなどと言った?』
「……さあて、なんのことやら?」
 浅井は明確には答えず皮肉気に笑って返し、
「……なあ、地下カジノでの話ぶりだとさっちゃんの昔の知り合いと既知なんだよな?」
 問い返した。
『……ああ』
 青年の返答に浅井はそっか、と安心したように一息つき、
「しっかり面倒見てくれよ? 俺ぁどっちにしろ駄目なんだ」
『やはりワザとさっちゃんを置いて、おまえは……いや、……わかった』
 青年が浅井の言葉を承服したのを確認し、彼は満足気に電話を切る。そして相変わらず電源の入っていないに携帯を放り出すと、
「おい、おっちゃん?」
 部屋の扉を開け、出て行った。
「ちょっと疲れたわ。用事ならそこの姉ちゃんに全部頼め。俺は、寝る」
 少女にそう力なく言いおくと、浅井は扉を閉めた。

           ●


 隣室に一人で入った浅井は備え付けのキャビネット風冷蔵庫から酒を一瓶拝借した。
 床に座り込むと一息に呷り、頬の傷痕を無意識になぞる。その指の感触で自身が笑みに口を歪めているのを初めて自覚し、
「ふっ、くくく……傑作だなちくしょう」
 堪えきれなくなったとでもいうように笑いだした。その笑いは自嘲に満ちており、
「やっと仇を見つけたと思ったらそいつは復讐を果たすべき相手じゃなくて、本当に復讐を果たすべき相手はもう居なくなっちまってて……」
 手で顔を覆う。
「んでもって仇としか思えない姿見の王様は実は半ば被害者で……それでも殺そうとすれば下手を打つと俺が自分の手であの悪夢の王様を作ることになるのかもしれない……笑えるなぁおい……」
 復讐を果たし、悪夢を消そうとしてやろうとしていたことが、結局自らが遭遇した悪夢を再び作りだしてしまうかもしれないという事実。そんなどこか喜劇じみた馬鹿げた構図を理解して、彼はひたすらに笑い――その笑いは唐突に苦悶の声へと取って代わられた。
「がっ……あ……ぁ、……うぐぁ」
 呻き、床に倒れた浅井は酒瓶を放りだし、その場にうずくまる。
 そのまま言葉の体をなしていない呻きを上げ続ける彼は、しかしやがて何かに抗うかのような声で言う。
「くそ……まだ、早えよ……」
 痙攣する浅井の体から苦しみをこらえる声と共にその言葉は漏れ、
「まだ、だ……俺は、まだ、諦めてねえぞ……あの王様を赦しちゃ、いねぇ……復讐を諦めちゃいねえ! ……だからっ!」
 何かに言い聞かせるように発された言葉、しかしその言葉を聞く者は無く、倒れ伏した浅井はそのまま闇に意識を飲みこまれた。

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