●
≪夢の国≫の中へと周囲の人々を招き入れた夢子は続いて操られている人々の保護を人々を櫓へと放り込んでいる住人たちに指示した。
「≪ホープダイヤ≫の暴走で皆操られているはずだから、関係者以外を……立ち入り禁止にっ、……して、皆にその後の対処はお願いするね」
確か浅井は最初の接触の時に空間を挟んでしまえば操作は解除されると言っていたはずだ。そう考え出した指示に、住人たちが一斉に彼女を振り返った。
マスコットが各々心配そうに夢子を見る。しかし「行って」と頼まれ、パレードごと人々と共にふっと消えた。それを見届けた夢子へと黒服が声をかける。
「大丈夫ですか? あまり無理はなさらない方が……」
「はい、大丈夫、です」
咳に詰まりながらの返答。夢子の顔色は最も呪いの効果が激しかった頃のそれであり、口の端には鮮やかな赤い血の色が伝っている。
「夢の国……」
さっちゃんは自分を庇った夢子を何か言いたげに見上げ、
「……」
しかしなにも言えず、顔を異形へと向けた。
切々と叫ぶ。
「お願い……返して!」
「待てって!」
黒服に動きを止められたままもがき、駆け寄ろうとするさっちゃんに黒服と少女は言う。
「あなたが行っても彼を飲み込んだ都市伝説にひどい目に遭わされるだけです」
「あれはもうおっちゃんじゃねえ、嬢ちゃんに殴りかかろうとしたんだ、わかるだろ!?」
二人の言い分は正論だ。それをさっちゃん自身、よくわかっている。
なぜならば彼女の契約者は、いや、彼女のおとーさんは、
さっちゃんをさっちゃんって呼ぶもん!
ならば目の前に居るおとーさんの体はおとーさんではないのだろうか。
「そんなこと……ない」
さっちゃんは力なく首を振る。
「まだ、おとーさんはいるもん……」
根拠など無い。だがさっちゃんはその願望を叫ぶ。
また家族が目の前で居なくなってしまうのは嫌だから、
「おとーさんはまたさっちゃんの事をさっちゃんって呼んでくれるもんっ!」
泣き声のような必死の声の先では、青年と異形が睨み合っていた。
「≪ホープダイヤ≫の暴走で皆操られているはずだから、関係者以外を……立ち入り禁止にっ、……して、皆にその後の対処はお願いするね」
確か浅井は最初の接触の時に空間を挟んでしまえば操作は解除されると言っていたはずだ。そう考え出した指示に、住人たちが一斉に彼女を振り返った。
マスコットが各々心配そうに夢子を見る。しかし「行って」と頼まれ、パレードごと人々と共にふっと消えた。それを見届けた夢子へと黒服が声をかける。
「大丈夫ですか? あまり無理はなさらない方が……」
「はい、大丈夫、です」
咳に詰まりながらの返答。夢子の顔色は最も呪いの効果が激しかった頃のそれであり、口の端には鮮やかな赤い血の色が伝っている。
「夢の国……」
さっちゃんは自分を庇った夢子を何か言いたげに見上げ、
「……」
しかしなにも言えず、顔を異形へと向けた。
切々と叫ぶ。
「お願い……返して!」
「待てって!」
黒服に動きを止められたままもがき、駆け寄ろうとするさっちゃんに黒服と少女は言う。
「あなたが行っても彼を飲み込んだ都市伝説にひどい目に遭わされるだけです」
「あれはもうおっちゃんじゃねえ、嬢ちゃんに殴りかかろうとしたんだ、わかるだろ!?」
二人の言い分は正論だ。それをさっちゃん自身、よくわかっている。
なぜならば彼女の契約者は、いや、彼女のおとーさんは、
さっちゃんをさっちゃんって呼ぶもん!
ならば目の前に居るおとーさんの体はおとーさんではないのだろうか。
「そんなこと……ない」
さっちゃんは力なく首を振る。
「まだ、おとーさんはいるもん……」
根拠など無い。だがさっちゃんはその願望を叫ぶ。
また家族が目の前で居なくなってしまうのは嫌だから、
「おとーさんはまたさっちゃんの事をさっちゃんって呼んでくれるもんっ!」
泣き声のような必死の声の先では、青年と異形が睨み合っていた。
●
異形はやはり笑顔で、そしてどこかひび割れたような声で青年へと声をかけつつ身体を前傾にする。まるでこれから獲物に飛びかからんとする野獣のように。
「邪魔をすんなラTさンから食ッてやろうかァ? お前モ上等な味がしソうだしナあ!」
「やってみるといい」
青年は答え、正面から異形の進路を邪魔するようにその身を前へと傾けた。
足に瞬間的な跳躍のための力を溜め、腕に続く激突の為の力が集まる。
そして――
「ッ!」
跳んだ。
二つの影が、辺りを照らしだす電飾と天上にて輝きを主張し始めた月の光に浮かびあがり、交差する。鈍い打音が一つあり、影はすれ違い、互いに相手へと振り返った。
咆哮を上げる異形に対して青年は叫びで応える。
「破ぁ!!」
異形が纏う外殻に光弾が激突し、衝撃が石畳を削る。
異形はその身体を衝撃にのけぞらせながらも更に一歩を踏んだ。石畳を抉る力強い一歩だ。両者の距離は次の一歩の範囲内にある。
異形がその一歩を踏みこんだ。力も気迫も先程の一撃とはまるで違う重みの拳が青年めがけて放たれる。
青年は正面から受け止めることを避け、拳の外側を回るように左へとステップを踏み、拳を振り抜いた異形の肩へと光弾を掌ごとぶつけた。
炸音が響く。外殻を砕き飛ばされ、よろめく異形の体はしかし、手をつき距離を取るように背後へと跳躍、瞬時に立ち上がり追撃として放たれた光弾を腕の一振りで殴り消した。その動作によって弾け飛んだ外殻も即座に石畳を変異させて修正される。
――堅い!
ならば狙うは力の源か。
思い、青年が見据える先、異形の胸元では外殻越しに赤と青白の光が煌々と輝き、未だに力を与え続けていることを示していた。
「っ!」
標的を戦闘能力の無い者に変えられないよう青年は間を置かずに異形へと疾駆する。≪ケサランパサラン≫への祈りによって纏われる光は青年の体のほぼ全てを包んでいる。
光の加護によって上がった身体能力で距離を瞬の間に詰め、踏み込んだ右足を軸にした回し蹴りが打ち込まれた。
異形はそれを右の腕で防ぎ、逆の腕が横薙ぎに振るわれる。
腕の進行方向に合わせて跳躍しながら棘のついた丸太のような異形のそれを両の腕で受けた青年は腕と肩から来る骨のきしむ感覚に耐え、体勢を崩しながら着地。砕けたかのような違和感を発する肩を治るように祈祷しながら光弾を手に現し――
「邪魔をすんなラTさンから食ッてやろうかァ? お前モ上等な味がしソうだしナあ!」
「やってみるといい」
青年は答え、正面から異形の進路を邪魔するようにその身を前へと傾けた。
足に瞬間的な跳躍のための力を溜め、腕に続く激突の為の力が集まる。
そして――
「ッ!」
跳んだ。
二つの影が、辺りを照らしだす電飾と天上にて輝きを主張し始めた月の光に浮かびあがり、交差する。鈍い打音が一つあり、影はすれ違い、互いに相手へと振り返った。
咆哮を上げる異形に対して青年は叫びで応える。
「破ぁ!!」
異形が纏う外殻に光弾が激突し、衝撃が石畳を削る。
異形はその身体を衝撃にのけぞらせながらも更に一歩を踏んだ。石畳を抉る力強い一歩だ。両者の距離は次の一歩の範囲内にある。
異形がその一歩を踏みこんだ。力も気迫も先程の一撃とはまるで違う重みの拳が青年めがけて放たれる。
青年は正面から受け止めることを避け、拳の外側を回るように左へとステップを踏み、拳を振り抜いた異形の肩へと光弾を掌ごとぶつけた。
炸音が響く。外殻を砕き飛ばされ、よろめく異形の体はしかし、手をつき距離を取るように背後へと跳躍、瞬時に立ち上がり追撃として放たれた光弾を腕の一振りで殴り消した。その動作によって弾け飛んだ外殻も即座に石畳を変異させて修正される。
――堅い!
ならば狙うは力の源か。
思い、青年が見据える先、異形の胸元では外殻越しに赤と青白の光が煌々と輝き、未だに力を与え続けていることを示していた。
「っ!」
標的を戦闘能力の無い者に変えられないよう青年は間を置かずに異形へと疾駆する。≪ケサランパサラン≫への祈りによって纏われる光は青年の体のほぼ全てを包んでいる。
光の加護によって上がった身体能力で距離を瞬の間に詰め、踏み込んだ右足を軸にした回し蹴りが打ち込まれた。
異形はそれを右の腕で防ぎ、逆の腕が横薙ぎに振るわれる。
腕の進行方向に合わせて跳躍しながら棘のついた丸太のような異形のそれを両の腕で受けた青年は腕と肩から来る骨のきしむ感覚に耐え、体勢を崩しながら着地。砕けたかのような違和感を発する肩を治るように祈祷しながら光弾を手に現し――
眼前に大口を開けた異形の姿があった。
なにを――
思考する寸前、その口内には光が溜まっていることに気付く。
まずい、という思いが頭に浮かぶよりも早く青年が反射的に光弾を障壁代わりに眼前に叩きこもうとした瞬間、
「食ラえッ!」
異形の口から光が放たれた。
異形と青年とをその光は即座に結ぶ。
熱線が突き抜け、青年ごとアトラクションの壁をぶち抜いた。
思考する寸前、その口内には光が溜まっていることに気付く。
まずい、という思いが頭に浮かぶよりも早く青年が反射的に光弾を障壁代わりに眼前に叩きこもうとした瞬間、
「食ラえッ!」
異形の口から光が放たれた。
異形と青年とをその光は即座に結ぶ。
熱線が突き抜け、青年ごとアトラクションの壁をぶち抜いた。
●
光線が己の契約都市伝説を飲みこむ光景を見た少女は呆然と呟いた。
「なんだよ、あれ……」
答えは彼女が支える夢子からきた。
「以前、あれに≪夢の国≫を焼かれました」
そう言えば、と少女も思い出す。地下カジノからマンションへと夢子を連れて行く道すがら、彼女の口から浅井とさっちゃんに≪夢の国≫で争った時の事を聞いた時、≪夢の国≫を焼かれたと言っていたが、
「かいじゅうさんみたいなの」
「ゴジラかよ……無茶苦茶な」
ここまで生体兵器じみたモノとは想像だにしておらず、ただ力なく異形を見つめるしかなかった。
「内臓を変化させたのではないでしょうか、あの光線が放てるように」
黒服がもがくさっちゃんを押さえながら口にする。
「おとーさんの切り札……」
さっちゃんが補足するように言った。
「切り札、ですか?」
黒服の言葉にうん、と答え、さっちゃんは続ける。
「あれの全力でなら光線が王様の身体を変異させるから王様を消せるって、当たれば復活はできないんじゃないか? って言ってた。でもすごくしんどいって……」
「全力なんザやっタらこの体なんかすグに壊れちまウ、人間焼くだケならそんな出力じゃやラネーよ」
さっちゃんの言葉に割り込むようにひび割れた声がした。
異形だ。異形が少女たちの方へと歩み、近づいて来ている。彼は威圧するようにゆっくり一歩一歩足を進めながら先程熱線が突き抜けた先へと顔を巡らせ、
「あーあー、こリャア肉はグチャグチャで食えンな。あれもアれで上等の肉っぽかったんダがナぁ……まア、それなラそっちの奴らの肉でモ食おウかねェ」
言われた言葉に少女がカッとなって叫ぶ。
「ざっけんな。Tさんがあんなのでやられるかよ!」
「そうカい」
異形は取り合わず、その歩みを進めてくる。少女は冷たい汗を浮かべ、しかし「そうだ!」と言い返した。
「まあなんデもいイからおとナしく喰われテくレ」
そう言って足に駆けだすために身を前に倒した異形の眼前に、
「させません」
呪いに冒され呼吸を乱した夢子が立った。
「なんだよ、あれ……」
答えは彼女が支える夢子からきた。
「以前、あれに≪夢の国≫を焼かれました」
そう言えば、と少女も思い出す。地下カジノからマンションへと夢子を連れて行く道すがら、彼女の口から浅井とさっちゃんに≪夢の国≫で争った時の事を聞いた時、≪夢の国≫を焼かれたと言っていたが、
「かいじゅうさんみたいなの」
「ゴジラかよ……無茶苦茶な」
ここまで生体兵器じみたモノとは想像だにしておらず、ただ力なく異形を見つめるしかなかった。
「内臓を変化させたのではないでしょうか、あの光線が放てるように」
黒服がもがくさっちゃんを押さえながら口にする。
「おとーさんの切り札……」
さっちゃんが補足するように言った。
「切り札、ですか?」
黒服の言葉にうん、と答え、さっちゃんは続ける。
「あれの全力でなら光線が王様の身体を変異させるから王様を消せるって、当たれば復活はできないんじゃないか? って言ってた。でもすごくしんどいって……」
「全力なんザやっタらこの体なんかすグに壊れちまウ、人間焼くだケならそんな出力じゃやラネーよ」
さっちゃんの言葉に割り込むようにひび割れた声がした。
異形だ。異形が少女たちの方へと歩み、近づいて来ている。彼は威圧するようにゆっくり一歩一歩足を進めながら先程熱線が突き抜けた先へと顔を巡らせ、
「あーあー、こリャア肉はグチャグチャで食えンな。あれもアれで上等の肉っぽかったんダがナぁ……まア、それなラそっちの奴らの肉でモ食おウかねェ」
言われた言葉に少女がカッとなって叫ぶ。
「ざっけんな。Tさんがあんなのでやられるかよ!」
「そうカい」
異形は取り合わず、その歩みを進めてくる。少女は冷たい汗を浮かべ、しかし「そうだ!」と言い返した。
「まあなんデもいイからおとナしく喰われテくレ」
そう言って足に駆けだすために身を前に倒した異形の眼前に、
「させません」
呪いに冒され呼吸を乱した夢子が立った。
●
「おいオい、お前ハ壊れたら縛りツけて永久食料にしテやるからドケよ」
それとモお前かラ食ってやろうウか?
そう嘲弄交じりに言う異形に夢子は一つ咳き込み、しかし息を飲みこみ、言う。
「両方ともさせません……私は、何があっても生きて償うと決めたんですから!」
だから貴方を倒します。そう告げる。
異形は外殻に覆われた手を打ち鳴らし、
「いヤぁ、ご立派ゴ立派。契約者様にモ聞かせてあげたいオ言葉だ―― 一回死んドけ」
異形の拳が夢子の腹めがけて振り抜かれた。
しかしそこに彼女はいない。
それとモお前かラ食ってやろうウか?
そう嘲弄交じりに言う異形に夢子は一つ咳き込み、しかし息を飲みこみ、言う。
「両方ともさせません……私は、何があっても生きて償うと決めたんですから!」
だから貴方を倒します。そう告げる。
異形は外殻に覆われた手を打ち鳴らし、
「いヤぁ、ご立派ゴ立派。契約者様にモ聞かせてあげたいオ言葉だ―― 一回死んドけ」
異形の拳が夢子の腹めがけて振り抜かれた。
しかしそこに彼女はいない。
――王様は一人しか居ないけどね、世界中のどこにも居るんだよ。
声が≪夢の国≫のいずこかから響き、彼女の姿はいつの間にか異形の背後に在った。その手には王様の剣が振りかぶられていて。
振り下ろされた。
剣は異形の背後から左肩の外殻を砕き本体へと食い込もうとし――体調が最悪の状態で振りかぶられ、意識の揺れに乱されたその剣は異形の手に止められた。
「危ねェじゃアねえか」
不機嫌そうな声と共に肩から剣が持ち上げられた。砕かれた外殻はすぐさま彼の首にかけられたネックレスが補修してしまう。夢子は力を振り絞るが異形の膂力に今は抗う術を持たない。
「油断ナらねぇ王様ダ」
剣を抜き、振り返った異形の腕が引き絞られる。
「夢子ちゃん!」と少女の叫びが聞こえ、
鋭く尖った外殻が夢子を貫いた。
骨を砕き、肉を抉る音。呪いから来る虚脱感と苦しみに加えて自身を刺し貫かれる感触と壮絶な灼熱感を得ながら、それでも夢子は動いた。
「――ガッ……あ」
彼女は憶えている。
自身を救ってくれた青年が祟り神相手にしたことを。
「し、知って……る?」
己の身を使って相手の動きを封じる戦い方を。
「王様は、一人しか居ないけどね」
彼がそうしたように異形の手を強く掴み、
「世界中のどこにも居るんだよ?」
転移。
ひどく揺さぶられる彼女の意識が感じたのは高空の冷たい空気だった。
≪夢の国≫にある火山よりも遥か高みへと転移したその身は異形の上に乗るようにして地面へと落下している。剣が首へと切っ先を向けて構えられ、後は落下の衝撃で首を切り落とすのを待つだけだ。
浅井さん、貴方の復讐をこのような形で幕引きしてしまうこと、本当にすみません……。
声を出そうにも口にはひどく鉄臭い熱が蔓延していて言葉にならない。
下の人たちに当たらないだろうか? Tさんは大丈夫だろうか?
そう考えながら血を振り撒き落ちて行く夢子へと異形が囁いた。
「王様が罹っタ病の治療法は確立サレてねえンダよナァ!?」
振り下ろされた。
剣は異形の背後から左肩の外殻を砕き本体へと食い込もうとし――体調が最悪の状態で振りかぶられ、意識の揺れに乱されたその剣は異形の手に止められた。
「危ねェじゃアねえか」
不機嫌そうな声と共に肩から剣が持ち上げられた。砕かれた外殻はすぐさま彼の首にかけられたネックレスが補修してしまう。夢子は力を振り絞るが異形の膂力に今は抗う術を持たない。
「油断ナらねぇ王様ダ」
剣を抜き、振り返った異形の腕が引き絞られる。
「夢子ちゃん!」と少女の叫びが聞こえ、
鋭く尖った外殻が夢子を貫いた。
骨を砕き、肉を抉る音。呪いから来る虚脱感と苦しみに加えて自身を刺し貫かれる感触と壮絶な灼熱感を得ながら、それでも夢子は動いた。
「――ガッ……あ」
彼女は憶えている。
自身を救ってくれた青年が祟り神相手にしたことを。
「し、知って……る?」
己の身を使って相手の動きを封じる戦い方を。
「王様は、一人しか居ないけどね」
彼がそうしたように異形の手を強く掴み、
「世界中のどこにも居るんだよ?」
転移。
ひどく揺さぶられる彼女の意識が感じたのは高空の冷たい空気だった。
≪夢の国≫にある火山よりも遥か高みへと転移したその身は異形の上に乗るようにして地面へと落下している。剣が首へと切っ先を向けて構えられ、後は落下の衝撃で首を切り落とすのを待つだけだ。
浅井さん、貴方の復讐をこのような形で幕引きしてしまうこと、本当にすみません……。
声を出そうにも口にはひどく鉄臭い熱が蔓延していて言葉にならない。
下の人たちに当たらないだろうか? Tさんは大丈夫だろうか?
そう考えながら血を振り撒き落ちて行く夢子へと異形が囁いた。
「王様が罹っタ病の治療法は確立サレてねえンダよナァ!?」
――――意識が一瞬途切れた。
瞬時、復帰した彼女の視界が捉えたのは異形の胸元でその光に指向性を持って呪いの力の増幅に大半の力をつぎ込んでいる死と呪いのペンダントの光だった。
ぁ……。
しまったと思った時にはその身体をさっちゃんの病が蝕み尽くしていた。
手に剣の感触がない。いつの間にか異形との体勢は入れ替わっており、いまや夢子が異形にその身体を叩きつけられようとしていた。
落ちる、落ちる、落ちていく――――
いけない……。
朦朧とし、消え失せてしまいそうな意識を焦りが繋ぎとめる。
このままじゃ、意識が途切れてしまう……。
しっかりしなくちゃ。
さもないと、
大事な人たちが守れな――――
重力加速に従い二つの影が猛烈な勢いで地面に激突した。
ぁ……。
しまったと思った時にはその身体をさっちゃんの病が蝕み尽くしていた。
手に剣の感触がない。いつの間にか異形との体勢は入れ替わっており、いまや夢子が異形にその身体を叩きつけられようとしていた。
落ちる、落ちる、落ちていく――――
いけない……。
朦朧とし、消え失せてしまいそうな意識を焦りが繋ぎとめる。
このままじゃ、意識が途切れてしまう……。
しっかりしなくちゃ。
さもないと、
大事な人たちが守れな――――
重力加速に従い二つの影が猛烈な勢いで地面に激突した。
●
「危ない!」
「うわっ!」
黒服に襟を引っ張られ、庇われた少女の数メートル先の地面へといきなり姿が消えた二人が落ちて来た。
落下地点では石畳が砕けて土埃が立ち昇り、落下した者たちの姿は覆われてしまい、見えない。
「お……い?」
周囲に血が雨のように降ってきた。
その血の雨に濡れながら、少女は先程、夢子が転移する瞬間の光景を思い出す。
夢子ちゃん、確か刺されてたよな……?
ではこの雨は彼女の血だろうか? そう思考が至り、身震いする少女の眼前、血の雨によって沈静化された土埃の中、何かが動く音がした。少女は思わず友人の無事を確かめるために声を出す。
「夢子――」
「王様なラそコら辺に飛び散っテんじゃネえの?」
答えたのは異形だった。彼は片手に細く白い、血が滴る腕を掴んでいる。
――夢子の腕だ。
「さあて、王様が復活するまでに頂いていおこうかぁ、そうした方が早くあの王様が壊れてくれそうだしなァ」
あとは壊れたアレを縛りつけて食料ダ。そう言いながら異形は腕の一部を食いちぎった。
生肉を食む粘質な水音がし、聞く者に不快感を抱かせる。
「この肉、食うと力になるみてえだな。流石は上物」
腕を殊更見せつけるかのように食いちぎり、上機嫌に言いながら少女たちへと歩いて来る異形。
少女は気丈にそれを睨みつけて携帯を取り出し……と、その横を小柄な影が駆けていった。
さっちゃんだ。
「おとーさんを返して!」
黒服を振り切り異形へと走る彼女へと異形は嘲りおどけながら言う。
「俺がそのおとーさんダろうが」
「ちがうもん! さっちゃんはね――きゃっ!」
叫び、足を奪おうとしたさっちゃんが異形に掴みあげられた。
彼は危ねぇじゃねえかとぼやきながら、腕を握り潰さんばかりの力掴んで吊るし上げているさっちゃんへと告げる。
「アあまったくガキは面倒くセぇ、オ前も食ッて取り込んデやるよ」
そうして喰もう片方の腕に持つ夢子の腕をさっちゃんへと叩きつけようとした所で機械的な音と共に数条の光線が異形の頭部を撃った。
焦げ付いた頭部の外殻から細い煙を幾筋か立ち昇らせ、異形が光線が飛来した方向へと首を巡らす――寸前に声がなった。
『もしもし、わたしリカちゃん。今、お姉ちゃんをおそうかいじゅうさんの後ろにいるの』
言葉通りの位置へとリカちゃんが現れた。両手に先程砕けた石畳の破片を抱え上げ、力のままに振り下ろそうとする。
「どこにイるかわかっテんダよッ!」
異形は振り返ることなくリカちゃんをさっちゃんの体の一振りで殴打し、両者がアトラクションの石壁目掛けて宙を飛ぶ。
短い悲鳴と共に飛んで行く人形と童女を、地面から≪夢の国≫に通じる地下トンネルを通って湧き出るように現れた黒服が抱きとめた。
「黒服さん!」
ぐ、と呻きながらもしっかりと彼女たちを受け止めた黒服に異形が言う。
「……邪魔すんナよ」
「さっちゃんたちを、頼みます」
駆け寄る少女へと黒服がリカちゃんとさっちゃんを渡した。
「ああ、でも黒服さん……」
どうすんだ? と訊ねる少女に黒服が言う。
「私が彼を止めます」
「地下トンネルのお兄ちゃん……?」
さっちゃんが戸惑ったような声を上げる。彼の声は彼にしては珍しく怒気を帯びているように聞こえたのだ。
「お前と似たようなノ食ったケドまずかったゾ」
ダから喰イたクねえ。と異形が焦げた外殻を修復し、夢子の肉を食みながら言う。
「私も≪夢の国≫に縁ある者、子供たちを守ります」
あの子の腕を放しなさい。そう言って先程光線を発した銃を構える黒服。異形が呆れたように嗤う。
「職業ニ忠実なこっテ」
「これは私自らの意志ですよ。あなたのように自らの出自に縛られてはいません」
敢然と言い放つ黒服。
「アあそいつァ……立派ナことダなァッ!!」
異形が駆けだした。黒服が応えるように銃を撃つ。放たれた光線は異形の外殻の胸部、彼に力を与えている二つの石を正確に狙うが、
「撃ち抜くニゃあ足りねェなアアッ!」
そんなもの腕でいちいち弾くまでもないと言わんばかりに傲然と腕を広げて異形は迫る。
「撃ち抜こウってンならこれクらいシネえとなァ!」
そして口を開き、その口内に光を溜め、黒服が口惜しげに懐に手を入れた時、
異形の背中で光弾が弾け、異形がつんのめった。
彼らが振り返るとそこには異形が吐き出した熱線が突き抜けて破壊されたアトラクションがあり、
「――何を余所見している」
瓦礫を踏みしめる音と共に若い男の声が響いた。
現れたのは熱線に呑みこまれた筈の青年だ。
全身傷だらけで、しかしそれでも力強さを失わないその双眸をもって異形を捉え、彼は告げる。
「俺はまだ生きているぞ」
「うわっ!」
黒服に襟を引っ張られ、庇われた少女の数メートル先の地面へといきなり姿が消えた二人が落ちて来た。
落下地点では石畳が砕けて土埃が立ち昇り、落下した者たちの姿は覆われてしまい、見えない。
「お……い?」
周囲に血が雨のように降ってきた。
その血の雨に濡れながら、少女は先程、夢子が転移する瞬間の光景を思い出す。
夢子ちゃん、確か刺されてたよな……?
ではこの雨は彼女の血だろうか? そう思考が至り、身震いする少女の眼前、血の雨によって沈静化された土埃の中、何かが動く音がした。少女は思わず友人の無事を確かめるために声を出す。
「夢子――」
「王様なラそコら辺に飛び散っテんじゃネえの?」
答えたのは異形だった。彼は片手に細く白い、血が滴る腕を掴んでいる。
――夢子の腕だ。
「さあて、王様が復活するまでに頂いていおこうかぁ、そうした方が早くあの王様が壊れてくれそうだしなァ」
あとは壊れたアレを縛りつけて食料ダ。そう言いながら異形は腕の一部を食いちぎった。
生肉を食む粘質な水音がし、聞く者に不快感を抱かせる。
「この肉、食うと力になるみてえだな。流石は上物」
腕を殊更見せつけるかのように食いちぎり、上機嫌に言いながら少女たちへと歩いて来る異形。
少女は気丈にそれを睨みつけて携帯を取り出し……と、その横を小柄な影が駆けていった。
さっちゃんだ。
「おとーさんを返して!」
黒服を振り切り異形へと走る彼女へと異形は嘲りおどけながら言う。
「俺がそのおとーさんダろうが」
「ちがうもん! さっちゃんはね――きゃっ!」
叫び、足を奪おうとしたさっちゃんが異形に掴みあげられた。
彼は危ねぇじゃねえかとぼやきながら、腕を握り潰さんばかりの力掴んで吊るし上げているさっちゃんへと告げる。
「アあまったくガキは面倒くセぇ、オ前も食ッて取り込んデやるよ」
そうして喰もう片方の腕に持つ夢子の腕をさっちゃんへと叩きつけようとした所で機械的な音と共に数条の光線が異形の頭部を撃った。
焦げ付いた頭部の外殻から細い煙を幾筋か立ち昇らせ、異形が光線が飛来した方向へと首を巡らす――寸前に声がなった。
『もしもし、わたしリカちゃん。今、お姉ちゃんをおそうかいじゅうさんの後ろにいるの』
言葉通りの位置へとリカちゃんが現れた。両手に先程砕けた石畳の破片を抱え上げ、力のままに振り下ろそうとする。
「どこにイるかわかっテんダよッ!」
異形は振り返ることなくリカちゃんをさっちゃんの体の一振りで殴打し、両者がアトラクションの石壁目掛けて宙を飛ぶ。
短い悲鳴と共に飛んで行く人形と童女を、地面から≪夢の国≫に通じる地下トンネルを通って湧き出るように現れた黒服が抱きとめた。
「黒服さん!」
ぐ、と呻きながらもしっかりと彼女たちを受け止めた黒服に異形が言う。
「……邪魔すんナよ」
「さっちゃんたちを、頼みます」
駆け寄る少女へと黒服がリカちゃんとさっちゃんを渡した。
「ああ、でも黒服さん……」
どうすんだ? と訊ねる少女に黒服が言う。
「私が彼を止めます」
「地下トンネルのお兄ちゃん……?」
さっちゃんが戸惑ったような声を上げる。彼の声は彼にしては珍しく怒気を帯びているように聞こえたのだ。
「お前と似たようなノ食ったケドまずかったゾ」
ダから喰イたクねえ。と異形が焦げた外殻を修復し、夢子の肉を食みながら言う。
「私も≪夢の国≫に縁ある者、子供たちを守ります」
あの子の腕を放しなさい。そう言って先程光線を発した銃を構える黒服。異形が呆れたように嗤う。
「職業ニ忠実なこっテ」
「これは私自らの意志ですよ。あなたのように自らの出自に縛られてはいません」
敢然と言い放つ黒服。
「アあそいつァ……立派ナことダなァッ!!」
異形が駆けだした。黒服が応えるように銃を撃つ。放たれた光線は異形の外殻の胸部、彼に力を与えている二つの石を正確に狙うが、
「撃ち抜くニゃあ足りねェなアアッ!」
そんなもの腕でいちいち弾くまでもないと言わんばかりに傲然と腕を広げて異形は迫る。
「撃ち抜こウってンならこれクらいシネえとなァ!」
そして口を開き、その口内に光を溜め、黒服が口惜しげに懐に手を入れた時、
異形の背中で光弾が弾け、異形がつんのめった。
彼らが振り返るとそこには異形が吐き出した熱線が突き抜けて破壊されたアトラクションがあり、
「――何を余所見している」
瓦礫を踏みしめる音と共に若い男の声が響いた。
現れたのは熱線に呑みこまれた筈の青年だ。
全身傷だらけで、しかしそれでも力強さを失わないその双眸をもって異形を捉え、彼は告げる。
「俺はまだ生きているぞ」
●
「先程のは……夢子ちゃんの言っていた熱線だな……?」
傷だらけだがそれらをいちいち治している余裕は無い。戦闘に支障のある傷のみを癒していきながら青年は言う。
「なンだ、グチャグチャになってねェのか」
「幸せなことにな」
心底意外そうな異形の言葉に苦笑で青年は答える。
「まあ頭を強かに打ちつけて意識が飛んでいたわけだが」
「じゃあもっペン吹っ飛ばしてヤるから今度は死ネ。喰ってやるカら原型は止めておケよ?」
「断る」
青年が疾った。
異形が口を開く。集まるのは光。先程青年を撃ったモノよりもその光量は多く、同じように異形の胸元に輝く二色の光もその光量を上げている。
「食らエ」
みるみる距離を詰めてくる青年に対してそれを放とうとして――剣が上空から切っ先を下に向けて異形めがけて降って来ている事に気付いた。
それは確か先程異形が夢子を増幅させた呪いで殺した時に彼女の手を離れた筈のもので、
「――!?」
剣は咄嗟に身を躱す異形の足を串刺した。
声がする。
傷だらけだがそれらをいちいち治している余裕は無い。戦闘に支障のある傷のみを癒していきながら青年は言う。
「なンだ、グチャグチャになってねェのか」
「幸せなことにな」
心底意外そうな異形の言葉に苦笑で青年は答える。
「まあ頭を強かに打ちつけて意識が飛んでいたわけだが」
「じゃあもっペン吹っ飛ばしてヤるから今度は死ネ。喰ってやるカら原型は止めておケよ?」
「断る」
青年が疾った。
異形が口を開く。集まるのは光。先程青年を撃ったモノよりもその光量は多く、同じように異形の胸元に輝く二色の光もその光量を上げている。
「食らエ」
みるみる距離を詰めてくる青年に対してそれを放とうとして――剣が上空から切っ先を下に向けて異形めがけて降って来ている事に気付いた。
それは確か先程異形が夢子を増幅させた呪いで殺した時に彼女の手を離れた筈のもので、
「――!?」
剣は咄嗟に身を躱す異形の足を串刺した。
声がする。
「≪夢の国≫の真似っ子は消されちゃうんだよ?」
同時、異形が手にしていた腕が消えた。入れ替わるように地面に膝を着いて現れた人影がある。
≪夢の国≫の王だ。その顔色は悪いが五体は満足。故に異形が手にしていた腕は偽物の腕であるとされ、消失した。
「生きテ――」
異形が剣に手をかけ、いきなり現れた夢子に目を奪われながら言おうとする。
遮るように為された返答は当然のように告げられた言葉だ。
「≪夢の国≫では、人は死なないんですよ?」
そうだ、それを利用して王様を永久に無くならない食料にしようと自分は思ったのではないか! 何を慌てている!
理由に思い当った。
アいツ、あれダけの呪いを受ケてまだ――
「夢子ちゃんがまだ動ける事がそんなにも意外か? ――己を過信したな、都市伝説」
気付けば足元に青年がいた。
低い体制から地を蹴りつけ、青年の身体が跳び上がる。その手が異形の顔面を握りこみ、
「食らえ」
零距離で燦然と輝く光が弾けた。
「――――ッ!?」
異形の外殻が散って素顔が、浅井の顔が覗いた。のけぞった体が勢いで掴んでいた剣が引き抜かれ、手を離れて明後日の方向へ飛んでいく。
そんな中、青年が異形のネックレスを砕こうと再度接近していた。その気配に気付き、異形上体を無理やり引き戻し、
「ガアアァッ!」
腕を薙ぎ払った。青年が受け流すようにそれを腕に受け、力に逆らわぬように飛ばされる。
「Tさん!」
「――――アアアアッ!」
異形の口がガパっと開き、青年を撃とうとする。
「させません!」
そこへ黒服が先程懐から取り出した≪パワーストーン≫が投げ込まれた。結界が張られ、光線が阻まれる。
と、彼は走る小さな影に気付いた。
「行っては駄目です!」
しかし、その言葉を無視してさっちゃんが異形へと走る。異形が気付き彼女を踏み潰そうとするが、
「チャンスは一度だ、試してみろ!」
青年の光弾に邪魔される。
さっちゃんは異形へと辿りつき、中途半端に振り上げられた足へと抱きついた。
唄う。
「さっちゃんはね、ふみきりで足をなくしたよ!」
彼女を彼女たらしめる歌が痛みも出血も無く異形の足をもぎ取る。
急にその身を支えるものがなくなった異形はバランスを崩し、倒れる。その顔へとさっちゃんがしがみついた。
「このガキッ!」
異形がさっちゃんを潰さんと腕を高く掲げる。さっちゃんは腕を素顔を露出した頭部へと回し、
「さっちゃんはね、おとーさんが大好き。ほんとだよ……」
彼の頭を抱いたまま、何の力も持たない詩が詠われた。
「だカらどうしたアアあァアっ!?」
異形が叫び、外殻の棘だらけの腕がさっちゃんへと迫り、しかしそれがさっちゃんに当たる寸前で、ピタリと止まった。
「何!? どうイうコトだ!?」
異形が自身の身体が動かないことに驚愕の声を発した直後、彼の口から言葉が紡がれた。
「娘からの万感籠もった歌のプレゼント。――効くなぁ……」
その声は奇妙なひび割れを含むことなく発され、
「で、〝お前〟はなに愛娘殴ろうとしてんだ?」
腕の動きが再開された。その一撃は、さっちゃんではなく、
「――ざけんなよ」
自らの胸部を打った。
重量のある硬質の物がぶつかり合う鈍い音がこだました。それを合図に異形の纏う外殻が剥離、または変異させられる前の物体へと立ち戻っていき、同時に戦場の動きが止まった。
≪夢の国≫の王だ。その顔色は悪いが五体は満足。故に異形が手にしていた腕は偽物の腕であるとされ、消失した。
「生きテ――」
異形が剣に手をかけ、いきなり現れた夢子に目を奪われながら言おうとする。
遮るように為された返答は当然のように告げられた言葉だ。
「≪夢の国≫では、人は死なないんですよ?」
そうだ、それを利用して王様を永久に無くならない食料にしようと自分は思ったのではないか! 何を慌てている!
理由に思い当った。
アいツ、あれダけの呪いを受ケてまだ――
「夢子ちゃんがまだ動ける事がそんなにも意外か? ――己を過信したな、都市伝説」
気付けば足元に青年がいた。
低い体制から地を蹴りつけ、青年の身体が跳び上がる。その手が異形の顔面を握りこみ、
「食らえ」
零距離で燦然と輝く光が弾けた。
「――――ッ!?」
異形の外殻が散って素顔が、浅井の顔が覗いた。のけぞった体が勢いで掴んでいた剣が引き抜かれ、手を離れて明後日の方向へ飛んでいく。
そんな中、青年が異形のネックレスを砕こうと再度接近していた。その気配に気付き、異形上体を無理やり引き戻し、
「ガアアァッ!」
腕を薙ぎ払った。青年が受け流すようにそれを腕に受け、力に逆らわぬように飛ばされる。
「Tさん!」
「――――アアアアッ!」
異形の口がガパっと開き、青年を撃とうとする。
「させません!」
そこへ黒服が先程懐から取り出した≪パワーストーン≫が投げ込まれた。結界が張られ、光線が阻まれる。
と、彼は走る小さな影に気付いた。
「行っては駄目です!」
しかし、その言葉を無視してさっちゃんが異形へと走る。異形が気付き彼女を踏み潰そうとするが、
「チャンスは一度だ、試してみろ!」
青年の光弾に邪魔される。
さっちゃんは異形へと辿りつき、中途半端に振り上げられた足へと抱きついた。
唄う。
「さっちゃんはね、ふみきりで足をなくしたよ!」
彼女を彼女たらしめる歌が痛みも出血も無く異形の足をもぎ取る。
急にその身を支えるものがなくなった異形はバランスを崩し、倒れる。その顔へとさっちゃんがしがみついた。
「このガキッ!」
異形がさっちゃんを潰さんと腕を高く掲げる。さっちゃんは腕を素顔を露出した頭部へと回し、
「さっちゃんはね、おとーさんが大好き。ほんとだよ……」
彼の頭を抱いたまま、何の力も持たない詩が詠われた。
「だカらどうしたアアあァアっ!?」
異形が叫び、外殻の棘だらけの腕がさっちゃんへと迫り、しかしそれがさっちゃんに当たる寸前で、ピタリと止まった。
「何!? どうイうコトだ!?」
異形が自身の身体が動かないことに驚愕の声を発した直後、彼の口から言葉が紡がれた。
「娘からの万感籠もった歌のプレゼント。――効くなぁ……」
その声は奇妙なひび割れを含むことなく発され、
「で、〝お前〟はなに愛娘殴ろうとしてんだ?」
腕の動きが再開された。その一撃は、さっちゃんではなく、
「――ざけんなよ」
自らの胸部を打った。
重量のある硬質の物がぶつかり合う鈍い音がこだました。それを合図に異形の纏う外殻が剥離、または変異させられる前の物体へと立ち戻っていき、同時に戦場の動きが止まった。