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「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん-告白-02

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 雨が降る夏のあの日、俺はスーパーからの帰り道にそれと行き遭った。
「私は醜いかぁー……?」
 それは、雨が降ってるっていうのに傘も差さずにぼろぼろの服を着て、裸足の足でぺたぺたと人形のようなものを引きずってる、でっかい姉ちゃんだった。
「え? なに?」
 姉ちゃんの格好とその手の人形みたいなやつに半ば目を奪われていた俺は声をかけられたことで姉ちゃんの顔面へと初めて目を向けた。
 よく見ると、姉ちゃんの目はつり上がっていて、顔は傷だらけで、
「おい、姉ちゃん、大丈――っ!?」
 そして姉ちゃんが引きずっていたものは人形なんかじゃなくて……小学生くらいの坊主だった。
「おい……なんだよ、それ」
「私は、醜いかぁ?」
 姉ちゃんは俺の言葉を無視して自分の質問を繰り返し、手に持っていた子供を投げ捨て、弊衣を振り乱しながら俺目掛けて突っ込んで来た。

            *

 姉ちゃんが俺を視界の中心に据えつつ突っ込んでくるのを確認した俺は即行回れ右をしてでっかい姉ちゃんから逃げた。
 ってかなんだよあれは!? 誘拐犯かなんかかよ! んでもって俺は口封じされるのか!?
 そんなことを思いながら走って、走って走って……でもやたらと猛スピードで追いかけてくる姉ちゃんから逃げ切ることはできなかった。やがて袋小路に追い詰められる。
「引きずってやろうかぁ……」
「いらねえよ!」
 じりじりと追い詰めてくる姉ちゃんに壁を背にして答えながら、雨だからって早く帰ろうと普段通らない道なんて通るんじゃなかった! 人通りもすくねえし! と後悔しつつスーパーの袋を投げつける。姉ちゃんは坊主を引きずっていた手で俺の数日分の食料入りでそれなりに重くなっているはずの袋をあっさりと受け止め、中身ごと握りつぶした。
 ああ食料が……。
「くそ。姉ちゃん、あんたいったい何なんだよ」
 クソ、投げるんじゃなかったと思いながら発した言葉には、
 ――都市伝説だ。
「え?」
 目の前に迫る姉ちゃんとは違う、やけに落ち着いた野郎の声が答えた。
 周りを見てみるが、誰も居やしない。
「俺、ついに頭がヤバいことになったか?」
 男の声が聞こえた気がしたんだけど……。と姉ちゃんを傘の先端でしっ、しっ、と牽制しながら呟く。
 ――あれはおそらく≪ひきこさん≫だろう。
 また聞こえた。さっきと同じ声だ。
「誰だよ!?」
 野郎の声は俺の質問に答えず、一方的に告げた。
 ――伏せろ!
 鋭い声で言われたままに伏せる。と、頭上を姉ちゃんの腕が勢いよく通り過ぎていった。それについて何か感想を抱く前にまた野郎の声が言う。
 ――走れ!
「ああもう分かったよ!」
 言われたままに、俺を捕まえようとした腕が空振りしてたたらを踏んでいる姉ちゃんの横を走り抜ける。袋小路の入り口まで一気に駆け抜け、そして――俺は来た道を全力で逆走した。
 ――どこへ行く? 人の多い通りにまで急がなければ追いつかれるぞ。
「うるせえ、それよりもさっきの坊主だ!」
 野郎の声に叫び返しながらひたすら走る。あの坊主、見た感じアウトっぽかったけどまだ助かるかもしれねえ!
 ――ふむ。
「なんだ? せっかく助けたのにわざわざ人通りの少ない所に走ってく俺が不満か!?」
 ――いや……ただ馬鹿だなと。
 野郎の声はなんか嬉しそうに人をけなしやがった。
「ああその通りだよ! 学校の成績は余裕の下の下だぜ!」
 声に開き直り気味の悪態を吐いている内にさっき姉ちゃんと遭遇した場所に辿りついた。坊主は地面にポイ捨てされている。ピクリとも動かない。
「おい、坊主! 生きてっか?」
 反応無し。くそっ! うんともすんとも言やしねえ。
 ――……大丈夫だ。怪我はひどいが息はある。
「おおそうか! ナイスだ、誰だか知らない奴!」
 うし、病院だ! 救急車呼ぶぜ! と思った時、後ろでぺた。と足音がした。げ、と呻き、振り返る。そこには、
 ――追いつかれたか。
 さっきの姉ちゃんが流石の健足で追いついて来ていた。
「私は醜いか!!」
 姉ちゃんは叫び、走って来る。
 ――逃げろ。一度撒けば探査能力の無い個体ならば襲われることはそうそう無い。
 野郎の声が言う。けど、
「つってもこの坊主抱えて逃げ切るなんて」
 無理だと言おうとして、
 ――逃げることが叶うのならば、幸せだな?
「ガアアアアッ!?」
「うを?」
 光の壁っぽいのがいきなり出てきて姉ちゃんを通せんぼした。
 ――急げ、まだこの状態では上手く能力が扱えない。長くは保たん。
 野郎の声が言う。見ると、光の壁っぽいものをぶん殴ってる姉ちゃん。その怪力で光の壁がヤバい感じに振動している。
「……なあ」
 それを間近に見ながら俺は野郎の声に話しかけた。
 ――どうした?
「ここで俺が逃げたらさ、もしかして他の誰かが襲われたりする? この坊主みたいに」
 抱え上げた坊主は傷だらけで虫の息だ。いや、虫の息なのは偶然俺がこの坊主が虫の息である間にでっかい姉ちゃんと出会えたからなのかもしれない。もし出会うのが遅かったら――
 ――そうなるな。
 野郎の声は放っておけば被害者が出ると答えた。
「そうか」
 だから俺は傘を閉じて、両手で握る。
 ――何をしている?
「決まってんだろ? あの姉ちゃんを叩き伏せるんだよ」
 ぶっちゃけ勝てる気はしないけど、まあ目を突けば効くだろ。と笑って言うと、
 ――本当に馬鹿か。……それでは無理だ。
 野郎容赦ねえこと言うじゃねえか。
「じゃあ他に方法ねえのかよ?」
 多少ムカっ腹にきたので喧嘩腰で言うと野郎の声は数秒のなんか考え込んでるみたいな沈黙の後、
 ――逃げろ、後は俺がなんとかしよう。
 若干死亡フラグ臭い事を言いやがった。
「能力が上手く使えねえんだろ? とりあえずあの姉ちゃんを押しとどめることがしんどいくらいにはさ」
 がんがん打撃を受けてる壁を指差しながらさっき言ってた事を引き合いに出してやると「む」と呻き声が聞こえた。また数秒沈黙があって、
 ――……方法が無いわけではない。
 できればそれはやりたくないとでも言いたそうな嫌々な言葉が来た。
「なになに? 一発逆転な感じ?」
 訊いてみると、
 ――契約だ。
 短い言葉が返ってきた。
「けーやく? それをすりゃいいのか?」
 ああ、と返事がくる。
 ――しかしそれをすると、これからお前はこの手の事件に巻き込まれやすくなるかもしれん。
 だからそれは無しだ。と野郎の声が言う。
「こういう事件に巻き込まれやすくなんのか」
 で、
「だからどうした? やるぞ、けーやく!」
 ――不幸せになるかもしれないぞ?
「ここでこの姉ちゃんを放っといて誰か他の奴が坊主みたいな目に遭う方がよっぽど不幸せだよバカ」
 目の前の壁を姉ちゃんの腕が抜けた。同時に壁全体に亀裂が入る。
 ――そうか、わかった。
 壁が壊れた。
「ァアアァアアアアアァッ!!」
 姉ちゃんが飛びかかって来る。あまりの形相に傘を前に突き出したままつい目を閉じる。
 数秒経って、だけど俺に向かって一直線に飛びかかってきてた筈の姉ちゃんからは何の衝撃も来なかった。
「……?」
 なんでだと思い、目を開けてみると、
「――契約者を護れれば俺は幸せだよ」
 そう呟いて姉ちゃんを片手で押しとどめる野郎の背中があった。
 その声はさっきから聞こえていた野郎の声だ。
「能力が扱えるか……都市伝説になってから撃つのは初めてだが、これならば」
 背中越しに白い光が瞬いているのが見える。
「アアアアアッ!」
 姉ちゃんの叫び、それを飲みこむかのようなものすごい気合が野郎から放たれた。
「破ぁ!!」
 同時に白い光が視界を焼いて、それが晴れると、
「≪ひきこさん≫、話には同情するが人を襲うようではいじめていた者たちと変わらんだろう……」
 姉ちゃんは居なくなっていた。
「うわ、すげえな……」
 呆然と呟いた俺に野郎が振り返った。
 整った顔に、なんかメチャクチャ意思が強そうな眼。そして、なんか悟ったような雰囲気、
「≪寺生まれで霊感の強いTさん≫だ。詳しくはその少年を病院に届けてからにしよう。こうも衰弱されていては俺の能力でも癒しきれん」
 それが――
「契約者も大丈夫か? あまり無茶なことをしようとするな」
 俺とTさんの―― 
「ともあれ、これからよろしく頼む」
 出逢いだった。


            ●


「…………夢か」
 ベッドの上、半覚醒の頭でひとりごちる。窓からは日差しが差し込んでいて、時計を見ると、
「9時半……」
 今日は土曜だしもう少し寝ててもいいんだけど、
「懐かしいもん見たなー、あの後坊主に救急車呼んだり自分たちが疑われないようさっさとトンズラしたり……大変だったな」
 なんとはなしに夢の内容の続きを思い出す。
「Tさんは一連の行動にやたら慣れてる感があったけど……」
 苦笑する。あの時は都市伝説もTさんのこともよくわかってなかったけど今は随分といろいろ知ったもんだ。
 と、感慨に耽ったところであの時のひき子の姉ちゃんの前に立ったTさんの背中が脳裏に浮かび、無性に顔が熱くなった。
「――――っ」
 衝動のままに布団に打撃を入れる。すると布団の中から抗議の声があった。
「いたいのー」
「リカちゃん!? うっわやべ、大丈夫か?」
 慌てて布団をめくり上げる。するとちょうど俺の打撃が入っていた位置にリカちゃんがいて……うわ、微妙に潰れてる。
 リカちゃんは潰れたせいでバランスが崩れたのか、よたよたと危なっかしげに立ち上がると、
「だいじょうぶなの」
 片手を振り上げて大丈夫アピールをした。
「よ、よし、強い子だ!」
 抱き上げて褒めていると、扉がノックされた。返事をすると、
「どうかなさったんですか?」
 夢子ちゃんが様子を窺いに来てくれた。
「や、別になんでもなくてな」
 リカちゃんをパスしてついでに両手を突きだして何にもないよアピール。すると夢子ちゃんの手に移動したリカちゃんと夢子ちゃんが、
「でもさいきんおかしいの」
「Tさんも心配してましたよ?」
 二人して言って来た。
「……そうか」
 まずいなあ。と思いつつそれでもなんでもないと言っておく。夢子ちゃんにリカちゃんを連れて行ってもらって、もう完全に目が覚めたし俺ももう起きることにした。
「あーくそ、マッドガッサーのガスのせいじゃなかったのかよ……」
 ぶちぶちと独り言を呟く。ちょっと前に似たような感覚になった時はガスのせいだったはずなんだが、当然今はそんなガス吸っちゃいねえ。
「くそ、おっちゃんのせいだ……」
 おかげでTさんとロクに話せやしないし、顔をできるだけ会わせないようにしちまう。目を合わせるのがどうも駄目でつい目を逸らしちゃうしなー。
「あー……」
 俯き、額に手をやる。
 あれから一週間、おっちゃんとさっちゃんの弔いも終わってひと段落ついて、俺はおっちゃんに言われたことを思い出していた。まったく、とんでもないことに気づいて、いや、自覚させられちまっていた。
「まいったなー……」
 いや、ほんとにまいった。
 どうやら俺は出会った時から、Tさんのことが好きらしい……。



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