「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - マッドガッサーと愉快な仲間たち・決戦以降-11

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 …それは、ある昼下がりのフォーチュン・ピエロ 北区神社横店での出来事…


「ううむ、残念。まさか、愛情手作りケーキが、運命の出会いティラミスだけ売り切れとは」
「それって、美味しいの??」
「あぁ。今回注文した初恋ショートケーキも美味しいが、そちらもなかなか」

 残念だが、個数限定なのだから仕方ない
 そう考えながら、上田は穀雨と共に席についた
 この学校町の美味しい物を、たくさん知らない穀雨
 アメリカに旅立つまでに、彼女にたくさん、美味しい物を知ってもらいたい
 ………そもそも、あの施設にいるあいだはおなか一杯食べた事もなかったのだとか
 酷い孤児院があったものだ

 と、そんな事を考えていると
 ……す、と
 隣の席についていた人物が、上田と穀雨がついた席のテーブルに、ケーキが乗った皿を置いてきた
 「運命の出会いティラミス」が載った、皿を

「…何か?」
「これが、食べたかったのだろう?」

 かけられる、淡々とした声
 更を差し出してきたのは、中性的な外見の細身の青年だった
 多分、青年である
 服装以外で、性別の判断がつきにくい青年だ
 傍らに、随分と分厚い本を置いている

「僕が注文したので、丁度最後だったようなのでね。君たちが食べると良い」
「いや、でも」

 初対面の相手に、そんな事を言われても…上田としては、警戒せざるを得ない
 穀雨の方は、きょとん、と不思議そうにケーキを見つめて首をかしげていた
 上田が警戒している事に、気づいているのか居ないのか
 その青年は、淡々と告げてくる

「僕はこのところ、二日おきにコレを食べているし、他にも注文している。問題はない」

 …言われて
 青年がついている席のテーブルに、視線をやる上田
 そこには、上田達に差し出した「運命の出会いティラミス」の他に、「初恋ショートケーキ」と「蕩ける恋のレアチーズケーキ」と「甘い愛のスフレチーズケーキ」の姿が
 どう見ても、この細身の青年が食べきれる量には見えません
 本当にありがとうございました
 いや、世の中、痩せの大食いというものは確実に存在する訳で、もしかしたら目の前の青年もその類なのかもしれないが
 だとしても、一般的な店で売られているケーキより、一回りも二周りも大きいケーキを、一人で食べようとするとは
 …この青年、ただ者ではない
 恐らく、高レベルのスイーツ好き
 かなりの強者と見た

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 敵意やら何やらは感じられず、純粋に善意で向けられているらしい事を理解した上田
 その皿を受け取る

「ほら、穀雨ちゃん。お兄ちゃんにお礼言わないと」
「はぁい。ありがとうございました」

 ぺこり
 上田に言われて、素直に青年に頭を下げる穀雨
 その素直な愛らしさに、上田は自然と頬を緩めてしまう

「礼を言う必要などないさ」

 青年は淡々とそう言うと、上田達から視線をそらした
 どうやら、三つのケーキをどれから食べていくか、思案しているようである
 淡白な表情だが、その真剣さを上田ははっきりと感じ取った

「さ、穀雨ちゃん。ここのケーキは絶品だ。お兄ちゃんはショートケーキが来るのを待っているから、穀雨ちゃんはティラミスを食べるといい」
「はーい!いただきまぁす」

 きちんと挨拶してから、ケーキを食べ始める穀雨
 一口、一口、じっくりと味わうように、ゆっくり、ゆっくりと
 そんな穀雨の愛らしい様子に、しばし見とれる上田


 …だが、そんな至福とも呼べる、その時間は

「…………げ」

 という、嫌そうな声が聞こえてきた事で、水をさされてしまった


 聞き覚えのある声
 そちらに視線をやれば、見覚えのある姿の青年が、西洋風のいでたちの幼女を従えているのが見えた
 肩より少し上まで伸ばされた髪、耳元の小さなピアス、中肉中背……マッドガッサーの騒動の時に顔を合わせた、「13階段」の契約者だ
 傍らにいる幼女は見覚えがないが、綺麗な長い金髪の、ヴェールを纏った愛らしい幼女である
 だが、上田の本能が告げてくる
 これは、「偽ロリ」である、と

「肉ー?」

 かっくん
 幼女が、上田を見つめてそう呟き、首を傾げてきた
 涎を垂らしたように見えたのは気のせいだろう
 きっと、ケーキを見て涎を垂らしたのだろうそうだろう
 自分を見て涎を垂らしたわけじゃないよな、食欲的な意味で見られちゃいないよな、と上田は自分に言い聞かせた

「…こんなところで、顔を合わせるとはな」
「おや、知り合いかね?」

 先ほど、上田達にケーキを譲ってきた青年が、「13階段」の契約者の様子に首を傾げた
 どうやら、知り合いのようだ

「…ハーメルンの、笛吹きだよ」
「ほぅ?」

 つ、と
 青年の、眼鏡越しの視線が、一瞬、鋭くなった
 若干、気まずいような、問答無用で悪人と判断されたようで悲しいような

 …ちらり、穀雨の様子を窺う
 穀雨はあむあむ、じっくりと味わいながらケーキを食べている最中だ
 ケーキに夢中で、こちらの様子には気付いていない

「久しぶりだな、「13階段」。元気だったか?」
「………俺を、その名前で、呼ぶな」

 敵意のにじみ出る声
 「13階段」と呼ばれる事が、彼にとって喜ばしくない事である事実が伝わってくる
 それを理解して、あえてそう呼ぶ上田
 そもそも、上田は彼の名前を知らないので、そう呼ぶしかない
 トミーって呼ぶな、って言われたし

 ………つ、と
 「13階段」の契約者の視線が、上田と同じ席に付いていた穀雨に向けられた
 そして、「13階段」の契約者は一言

「ロリコン」

 と、上田を蔑む視線で見つめながら、そう言ってきた
 なんと、失礼な

「そっちだって、幼女を連れているじゃないか。「俺の女」とやらはその子か?」
「断じて違う」
「おんなー??」

 かっくん
 首をかしげる金髪幼女
 …きゅう、と、その幼い顔に、狡猾な、貪欲な獣のような笑みを浮かべた

「…こいつのお気に入りは、俺じゃあねぇよ。まぁ、本人に気づかれてないがな」
「黙れ」

 「13階段」契約者に睨まれ、金髪幼女はまた、幼い表情に戻って首を傾げた
 ……なるほど、マリ・ヴェリテのベートか、と上田は判断した
 確か、あれは少女の姿にも化ける事ができたはずだ
 これが、その姿と言う事なのだろう

「あんな事をしでかして、堂々と出歩くとはいい度胸だな?」
「…ほぉ?」

 …上田の孤児院襲撃を、「13階段」契約者は把握している
 あの場に彼は来ていなかったはず、それは確実だ
 恐らくは…

「スーパーハカーか。便利な仲間が居るものだな?」
「あいつは散歩が好きなんでね」

 スーパーハカーの散歩
 それはすなわち、電子の世界の散歩
 ……上田の所業を納めた監視カメラの映像を、スーパーハカーが見ていたのだろう

「監視カメラなどのシステムを破壊しただけで安心できるとは思ってないよな?」

 どこか、意地の悪い笑みを浮かべてそう告げてきた「13階段」の契約者
 …恐らく、スーパーハカーが、上田が破壊した監視カメラの記録映像も、全て保存しているのだろう

「…安い脅迫だな。子供の前だから半殺しで許してやろうか?」
「……できるのか?この状況で」

 なるほど、確かに分が悪いといえば分が悪い
 「13階段」の能力を発揮する階段がこの場にはないとは言え、あちらにはマリ・ヴェリテのベートがいるし…ケーキを譲ってきた青年も、恐らくは都市伝説契約者
 3人がかり(実質二人がかり)で相手されるのは面倒だ

 それに、半殺しで、とは言ったものの
 虚空の前で、荒っぽい事はやりたくない

「…あぁ、やめたまえ」

 と、上田と「13階段」の契約者、二人の険悪な空気に入ってきたのは、ケーキを譲ってきた青年だった
 あむ、とレアチーズケーキを一口、口にしながら告げてくる

「平日のこの時間、流石に目撃者が多すぎる。口封じが面倒だし、どちらも「組織」に目をつけられたくはあるまいて」
「…………っち」

 小さく、舌打ちする「13階段」契約者
 青年の言うとおりなのだろう
 それは、上田も同感だ
 このフォーチュン・ピエロは学校町のみでチェーンを展開している店
 しかし、その知名度は全国的であり、観光客も良く訪れる店だ
 平日の三時のおやつ時、客は多い
 ……目撃者が多すぎるのは問題だ

「…仲介者、仕事の話は別の席でだ。こいつの隣の席で仕事の話はしたくねぇ」
「了解した。では、別の席に移ろうか……ミス・マリ、ケーキを移動させるのを手伝ってくれるだろうか?」
「ケーキー」
「…それはミスじゃないからな。外見はそれだけど中身はミスターだからな」

 軽い漫才をしながら、青年はマリと共にケーキの皿を持って、上田達の席から離れた席へと移動していく
 「13階段」は、その二人の後をついて行き……立ち止まり、振り返って穀雨に視線をやった
 やっぱり、こいつもロリコンの気があるんじゃないだろうか
 上田が、一瞬、そんな事を考えると

「…相変わらず、あの施設の出身者は器のでかいのが多いな……あれで都市伝説組織の影響がなかったって言うんだから、不思議なもんだ」
「………器?」

 器、と
 「13階段」の契約者は、確かにそう言った

 器
 人間が、都市伝説を受け入れるためのそれは、便宜上「器」と呼ばれる事が多い
 「13階段」が口にしたそれも、恐らくそれをさしているのだろう

 彼は、穀雨に視線をやって、そう言った
 つまりは

「…穀雨ちゃんの、都市伝説を受け入れる器が大きい、と?何故、そんな事がわかる?」
「……そう言う訓練を受けた事がある、それだけだ」

 つい、と視線を逸らし、「13階段」は青年とマリが向かった席へと行ってしまった
 一方的に言いたいことだけ言って立ち去るとは、どこまでもマナー違反な奴め

「…?お兄ちゃん、どうしたの?」

 と、ここで、穀雨がようやく、ケーキから顔をあげた
 上田の様子に、かっくん、と愛らしく首を傾げてくる
 ……っく!!
 なんと言う、殺人的愛らしさ!!!

「あぁ、いや、なんでもないよ」
「そう?…あ、そうだ」
「?」
「おにいちゃん、あ~ん」

 す、と
 一口分、ケーキをフォークに刺して、穀雨はそれを、上田に差し出してきた

 ………!!??
 こ、これは!!
 都市伝説同然とも考えられていた「はい、あ~ん」だと!?
 それを自然にやってくれるとは!?

「穀雨ちゃんが、一人で食べてていいんだぞ?」

 あぁっ!?
 何故、自らチャンスを不意にすることを言ってしまうか!?
 自分に、ツンデレの気はなかったはず!?
 上田の言葉にしかし、穀雨はにっこり、微笑んで

「おいしいのは、みんあでわけあうと、もっとおいしいの」

 と、純粋に、そう言いきってきて
 ……あぁ
 どこまで良い子なのだろか、この子は

「…それじゃあ、お言葉に甘えて」

 と、上田はぱくり差し出されたケーキに食いついた
 口の中に広がる甘味に、頬を緩める

 ……少々、面白くない事があったが
 だが、この穀雨の「はい、あ~ん」の幸せが、その面白くないという感情をあっさりと消してしまった
 恐るべし、純粋ロリパワー
 幼女凄いよ幼女


 …穀雨の器が大きい、に関しても気になるが
 今は、彼女とのスイーツタイムを楽しもうか

 注文していたショートケーキが運ばれてきたのを見て、こちらからも穀雨に一口、ケーキを分けてやろう、と思いながら
 上田はしばし、この幸せな時間を楽しむのだった


fin


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