それは、少し昔の話
まだ、彼が「組織」に居た頃…………「広瀬 辰也」と言う名前を、与えられていなかった頃の話
まだ、彼が「組織」に居た頃…………「広瀬 辰也」と言う名前を、与えられていなかった頃の話
あと少し
あと少しで、階段だ
少年は、目の前の下り階段目掛けて、必死に走っていた
あと少し
あと、少しで…
あと少しで、階段だ
少年は、目の前の下り階段目掛けて、必死に走っていた
あと少し
あと、少しで…
「---っ!?」
ひゅんっ!と
何かが足元を通り過ぎた
すぱり、感じた痛み
痛みに襲われ、階段の手前で転倒する
何かが足元を通り過ぎた
すぱり、感じた痛み
痛みに襲われ、階段の手前で転倒する
「く……」
痛い
痛い、痛い、痛い
じくじくと、裂けた傷口から血が流れ続ける
痛い、痛い、痛い
じくじくと、裂けた傷口から血が流れ続ける
「…大丈夫?H-No.96……痛い?」
じ、と
少年を見下ろしてきたのは、同じくらいの年頃の少女
少女の周りを、手が鎌になっている鼬が飛んでいる
少年を見下ろしてきたのは、同じくらいの年頃の少女
少女の周りを、手が鎌になっている鼬が飛んでいる
「痛い?……痛いよね…御免ね…」
申し訳無さそうに、少女はH-No.96と呼んだ少年を見つめる
倒れこんだ少年は…じろり、少女を睨みあげた
肩まで伸びた黒い髪が、ぱさぱさと揺れる
倒れこんだ少年は…じろり、少女を睨みあげた
肩まで伸びた黒い髪が、ぱさぱさと揺れる
御免ね、御免ね、と
謝りながら、少女はのし、と少年に圧し掛かった
その手には、鼬の手と同じような形の鎌が握られて…
……否
その手が、鎌に変化していた
彼女が契約している都市伝説、鎌鼬のように
謝りながら、少女はのし、と少年に圧し掛かった
その手には、鼬の手と同じような形の鎌が握られて…
……否
その手が、鎌に変化していた
彼女が契約している都市伝説、鎌鼬のように
「御免ね、訓練だから……大丈夫、きっと、H-No.96を殺さなくても…瀕死の状態で、でも、きっと、許されると思うから…ちょっと、我慢してね?」
そう言って
少女は、鎌に変化した手を、振り上げる
少女は、鎌に変化した手を、振り上げる
……冗談じゃない
少年は、抵抗しようとするが、何せ、少女に圧し掛かられている状態
まともに抵抗などできない
この状態で、同じ年頃の少女を振り払おうなど、少年の体格では不可能である
少年は、抵抗しようとするが、何せ、少女に圧し掛かられている状態
まともに抵抗などできない
この状態で、同じ年頃の少女を振り払おうなど、少年の体格では不可能である
……通常、ならば
がしり
自分の上に圧し掛かってきている少女の足を、乱暴に掴んだ
そして
自分の上に圧し掛かってきている少女の足を、乱暴に掴んだ
そして
「-----っの!!」
「きゃあっ!?」
「きゃあっ!?」
ぶぅんっ!!と
その体を、放り投げた
一本の腕の力で、少女の足首を掴み、その体を放り投げる
通常ならば、この少年の体格で、そんな力があるはずもない
投与された、身体能力増強剤が、効果を発揮している証だった
その体を、放り投げた
一本の腕の力で、少女の足首を掴み、その体を放り投げる
通常ならば、この少年の体格で、そんな力があるはずもない
投与された、身体能力増強剤が、効果を発揮している証だった
どさり、落下した少女
落下した場所を確認して……っひ、と悲鳴をあげた
落下した場所を確認して……っひ、と悲鳴をあげた
そこは、階段
階段の……「13段目」
階段の……「13段目」
「っや、やめて、H-No.96…!」
「……甘い事、言ってんじゃねぇぞ、H-No.79」
「……甘い事、言ってんじゃねぇぞ、H-No.79」
ぐぐ、と
上半身を起こし、少年は少女を睨みつけた
少女を見下ろし、冷酷に告げる
上半身を起こし、少年は少女を睨みつけた
少女を見下ろし、冷酷に告げる
「あの連中が、半殺し程度で許してくるかよ……訓練内容は「相手を殺すこと」だ。殺さない限り、俺達両方とも処分されるに決まっている」
「あ………ぁ」
「あ………ぁ」
少年の契約している都市伝説の能力は、とっくに発動していた
少女の体を、階段の13段目から伸びてきた手が、掴む
少女の体を、階段の13段目から伸びてきた手が、掴む
「やめて、やめてよ………!」
「俺は、死にたくないんだよ。生き延びたいんだ。絶対に死にたくない……だから、お前が死ね」
「…っH-No.96、お願い、やめて………!」
「俺は、死にたくないんだよ。生き延びたいんだ。絶対に死にたくない……だから、お前が死ね」
「…っH-No.96、お願い、やめて………!」
少女の懇願の声は、少年には届かない
伸びた手は、ずるずると少女を階段の中に引きずり込んでしまう
鎌に変化していた少女の手が、元の白い、細い手に戻って…助けを求めるように、少年に伸ばされて
伸びた手は、ずるずると少女を階段の中に引きずり込んでしまう
鎌に変化していた少女の手が、元の白い、細い手に戻って…助けを求めるように、少年に伸ばされて
「………助けて………!」
涙を流し、懇願してきた少女の言葉に……少年は、耳を貸す事は、なく
少女の体は…無慈悲にも、階段の中に引きずり込まれた
少女の体は…無慈悲にも、階段の中に引きずり込まれた
鎌鼬が、主の仇をとろうと、少年に襲い掛かる
その鎌が、少年の首にかかろうとした瞬間……鎌鼬の体は、消滅した
「13階段」の異空間の中で、少女が生き絶えたのだろう
その鎌が、少年の首にかかろうとした瞬間……鎌鼬の体は、消滅した
「13階段」の異空間の中で、少女が生き絶えたのだろう
…少年の、勝利だ
訓練は終わった
訓練は終わった
「よくやった、H-No.96」
かけられた、感情の伴わない声
顔をあげると、「組織」の黒服が、少年にゆっくりと歩み寄ってきていた
無表情のまま少年の傍らに膝をつき、「蝦蟇の油」で少年の足の傷の治療を始める
顔をあげると、「組織」の黒服が、少年にゆっくりと歩み寄ってきていた
無表情のまま少年の傍らに膝をつき、「蝦蟇の油」で少年の足の傷の治療を始める
「今日の訓練は、これで終了だ」
「………わかった」
「………わかった」
機械のようなその声に、少年は頷く
これで、今日の殺し合いは終了だ
…疲れた
もう、さっさと眠ってしまいたい
これで、今日の殺し合いは終了だ
…疲れた
もう、さっさと眠ってしまいたい
このところ、同じように育てられている実験体同士、殺しあう訓練ばかりさせられている
恐らく、優秀な人材を残そうという考えだろう
恐らく、優秀な人材を残そうという考えだろう
死んでたまるか
殺されてたまるか
殺されてたまるか
ただ純粋に、生き続けたいという想いから、少年は相手を殺し続けていた
同じように育った実験体を…殺し続けていた
もう、殺した数は二桁に到達しようとしている
同じように育った実験体を…殺し続けていた
もう、殺した数は二桁に到達しようとしている
そうじゃなくとも
少年は、もう随分と殺してきている
命令の下、たくさん、たくさん、たくさん
いい加減、感覚が麻痺しつつあるのも事実だ
少年は、もう随分と殺してきている
命令の下、たくさん、たくさん、たくさん
いい加減、感覚が麻痺しつつあるのも事実だ
同時に
生きることに、疲れかけてきていた
生き続けても、どうせ「組織」にこき使われる運命である
使えなくなったら、処分される
ただ、それだけの人生
そんな人生ならば、いっそ、さっさと死んだ方が楽なのではないか?
そう、考え初めて
生きることに、疲れかけてきていた
生き続けても、どうせ「組織」にこき使われる運命である
使えなくなったら、処分される
ただ、それだけの人生
そんな人生ならば、いっそ、さっさと死んだ方が楽なのではないか?
そう、考え初めて
それでも、生きることを諦めきれずに
ただただ、殺し続ける
ただただ、殺し続ける
「検査をしたらすぐに休め。明日から、任務についてもらう」
「任務?……今度は、誰を殺せばいいんだ?」
「任務?……今度は、誰を殺せばいいんだ?」
自分の仕事は殺す事
ただ、それだけだ
「13階段」の能力は、どちらかと言うと暗殺向きだ
久々に、要人殺しの仕事でも入ったのだろうか?
ただ、それだけだ
「13階段」の能力は、どちらかと言うと暗殺向きだ
久々に、要人殺しの仕事でも入ったのだろうか?
「いや、今回は潜入捜査をしてもらう。学校町内の高校に、H-No.360と共に潜入し、その高校に巣くっている都市伝説を見つけ、殲滅しろ」
「…潜入、捜査?」
「…潜入、捜査?」
自分が?
H-No.360となると…随分、と後のナンバーだ
Hナンバーと言う事は、自分と同じ実験体である事は確かだろうが……恐らく、自分とは違う実験を受けているのだろう、と少年は判断する
H-No.360となると…随分、と後のナンバーだ
Hナンバーと言う事は、自分と同じ実験体である事は確かだろうが……恐らく、自分とは違う実験を受けているのだろう、と少年は判断する
「詳しい話は、明日、H-No.360が話す。お前はすぐに、検査を受けろ」
「……わかってるよ」
「……わかってるよ」
身体能力増強剤の効果がどれほど発揮されたか
その点も踏まえて、検査されるのだろう
また、別の薬を投与されるかもしれない
薬の投与中は、意識が混濁してしまうから、苦手だ
その間、どれだけ体を弄くられても、それを自覚する事すらできない
薬の投与中、自分がどんな扱いを受けているのか…それを考えると、酷く、惨めな気分になる
その点も踏まえて、検査されるのだろう
また、別の薬を投与されるかもしれない
薬の投与中は、意識が混濁してしまうから、苦手だ
その間、どれだけ体を弄くられても、それを自覚する事すらできない
薬の投与中、自分がどんな扱いを受けているのか…それを考えると、酷く、惨めな気分になる
しかし、「組織」でHナンバーとして生きる以上、その検査も受けるしかないし、薬が投与されるとなれば、拒否する事などできない
重苦しい気分で、少年は訓練室をでた
重苦しい気分で、少年は訓練室をでた
「よぉ、実験体」
「…モンスの天使の契約者か。何か用か?」
「…モンスの天使の契約者か。何か用か?」
…嫌な奴と、顔を合わせた
少年は、小さくため息をつく
少年と同じくらいの歳か、少し年下くらいの少年だ
…自分のような実験体ではない、「組織」所属の契約者
どうして、自分と同じくらいの年頃だと言うのに、こんなにも扱いが違うのか
理不尽さすら感じる
少年は、小さくため息をつく
少年と同じくらいの歳か、少し年下くらいの少年だ
…自分のような実験体ではない、「組織」所属の契約者
どうして、自分と同じくらいの年頃だと言うのに、こんなにも扱いが違うのか
理不尽さすら感じる
「別に?ただ、仲間を殺すってのはどんな気分なのかって思ってな?」
「…お前にゃ関係ないだろ。検査があるんだよ。どけ」
「検査ねぇ?それで、また薬を投与される訳か。どれだけ薬漬けなんだ?お前の体」
「…お前にゃ関係ないだろ。検査があるんだよ。どけ」
「検査ねぇ?それで、また薬を投与される訳か。どれだけ薬漬けなんだ?お前の体」
……知るか
じろり、少年は目の前のモンスの天使契約者を睨みつける
じろり、少年は目の前のモンスの天使契約者を睨みつける
「…とにかく、どけ。もう遅い時間だから、お前もさっさと寝たらどうだ?お前のご自慢の天使にでも優しく抱かれて寝てろ」
「っは。なんだよ、俺の天使が羨ましいのか?」
「っは。なんだよ、俺の天使が羨ましいのか?」
煩い
煩いから、さっさとどけ
殺意交じりの眼差しを向けるが、モンスの天使契約者はにやにやと、挑発的に笑ってくるだけだ
煩いから、さっさとどけ
殺意交じりの眼差しを向けるが、モンスの天使契約者はにやにやと、挑発的に笑ってくるだけだ
あぁ、煩い
邪魔だ
…殺してやりたい
邪魔だ
…殺してやりたい
自分は、身体能力増強剤が投与されている
筋力を限界まで引き出せば…目の前の相手を、殴り殺すくらいはできるかもしれない
いっそ、殺してしまおうか?
少年は、小さく拳を握り緊める
筋力を限界まで引き出せば…目の前の相手を、殴り殺すくらいはできるかもしれない
いっそ、殺してしまおうか?
少年は、小さく拳を握り緊める
「…何だよ?やるのか?近接戦闘訓練なんて、受けてない癖に」
「それは、お前も同じだろ。天使に護られてばかりで、何もできないガキが」
「………何だと?」
「それは、お前も同じだろ。天使に護られてばかりで、何もできないガキが」
「………何だと?」
少年の挑発に乗ってきたモンスの天使契約者
二人は、しばし睨みあい……
二人は、しばし睨みあい……
「…あぁ、そこまでにしとけ、がきんちょ共」
ひょい、と
少年の体が…何かに、持ち上げられた
少年の体が…何かに、持ち上げられた
「!?」
慌てて、少年は自分を持ち上げてきた何者かを確認しようとした
気配を、一切感じなかった
……何者だ!?
モンスの天使契約者も、気配を感じなかったのだろう
やや慌てた様子で、少年の背後に居る、それを見つめた
気配を、一切感じなかった
……何者だ!?
モンスの天使契約者も、気配を感じなかったのだろう
やや慌てた様子で、少年の背後に居る、それを見つめた
少年を掴んでいるのは…黒い触手
否、髪の毛だった
しゅるしゅると伸びた髪
それは、20代前半ほどの、黒いスーツにサングラスといういでたちの男の髪だった
否、髪の毛だった
しゅるしゅると伸びた髪
それは、20代前半ほどの、黒いスーツにサングラスといういでたちの男の髪だった
「…くろ、ふく?」
「組織」の黒服
それに、間違いはない
だが、髪が伸びるだなんて、そんな能力は「組織」の黒服にはない
……元・人間か?
それに、間違いはない
だが、髪が伸びるだなんて、そんな能力は「組織」の黒服にはない
……元・人間か?
「あぁ、お前、「13階段」の契約者だろ?検査の時間なんだから、ほら、いくぞ」
その黒服は、少年を髪で掴んだまま、すたすたと歩き出す
モンスの天使契約者が、呆然とその様子を見送った
モンスの天使契約者が、呆然とその様子を見送った
しばし、呆然としていた少年
が、正気に戻って、暴れ出す
が、正気に戻って、暴れ出す
「っ降ろせ!自分で歩ける!」
「嘘付け。訓練終わってフラフラだろうがよ。ここはお兄さんに任せておけ」
「嘘付け。訓練終わってフラフラだろうがよ。ここはお兄さんに任せておけ」
何だ、こいつは
元・人間の黒服だから、感情があるのか?
だとしても、何だ、この扱いは!
元・人間の黒服だから、感情があるのか?
だとしても、何だ、この扱いは!
「放せ!大体、何者だ、お前は!」
「ん~?お前の、明日からの任務の同行者だよ」
「ん~?お前の、明日からの任務の同行者だよ」
…その、言葉に
少年は、はっと相手を見つめる
少年は、はっと相手を見つめる
「…それじゃあ、お前は…H-No.360、か?」
「ま、そう呼ばれてるわな」
「ま、そう呼ばれてるわな」
くっく、と笑う黒服…H-No.360
楽しげに、少年を見つめてくる
楽しげに、少年を見つめてくる
「明日からの任務は「組織」所属の契約者と組んでやれ、って言われたから、どんな奴かと思ったら…なかなか、活きのいい坊やじゃねぇか」
「誰が坊やだ!?放せ、この野郎っ!!」
「誰が坊やだ!?放せ、この野郎っ!!」
じたばたと暴れるが、髪の束縛は外れない
むしろ、どんどん少年を縛り付けてきている気がするのは気のせいか?
むしろ、どんどん少年を縛り付けてきている気がするのは気のせいか?
「まぁまぁ、明日から一緒に任務するんだから、親交を深めようぜ?」
「誰が、親交なんて……っ」
「誰が、親交なんて……っ」
どうせ、任務だけでの付き合いだ
黒服がつく、という事は、実質監視されているようなもの
自分を監視してくる相手に、気を許せるはずもない
黒服がつく、という事は、実質監視されているようなもの
自分を監視してくる相手に、気を許せるはずもない
…「組織」に忠誠心がない事が、バレたら
殺されるのかも、しれないのだから
殺されるのかも、しれないのだから
「そう噛み付くなっての、仲良くしようぜ?」
しかし、そんな少年の考えなど、お構いなしに
黒服はただただ、からかうように、楽しげに笑い続けていた
黒服はただただ、からかうように、楽しげに笑い続けていた
この出会いが、自分の運命を左右するなど
少年は、この時、予想だにもしていなかったのだった
少年は、この時、予想だにもしていなかったのだった
to be … ?