恐怖のサンタ 悪魔の囁き&コークロア編 05
学校町南区。
繁華街を中心に発展を遂げたその区からひっそりと隠れるように、その建物は存在していた。
何坪あるのかも分からない、大きな屋敷。
地価の高騰している南区では珍しい程巨大なその家屋には、しかし人の気配一つなかった。
割れ、罅の入った窓に、半壊した扉。家の一部を覆っていただけの蔦はいつの間にか生い茂り、その壁を縦横無尽に這っていた。
かつては町の中でも財力のある人間が住んでいた屋敷は、子どもの肝試しの場となり、その面影すらない。
繁華街を中心に発展を遂げたその区からひっそりと隠れるように、その建物は存在していた。
何坪あるのかも分からない、大きな屋敷。
地価の高騰している南区では珍しい程巨大なその家屋には、しかし人の気配一つなかった。
割れ、罅の入った窓に、半壊した扉。家の一部を覆っていただけの蔦はいつの間にか生い茂り、その壁を縦横無尽に這っていた。
かつては町の中でも財力のある人間が住んでいた屋敷は、子どもの肝試しの場となり、その面影すらない。
「まさに幽霊屋敷って感じだな」
屋敷の庭。
誰にも手入れをされずに伸びきった草花を踏みしめるように、一人の男が立っていた。
中肉中背の身体に、一度見ただけでは決して記憶する事の出来ない特徴のない顔。
唯一そこそこ身長が高い事だけが救いの男は、夕陽に照らされた屋敷を一人見上げていた。
誰にも手入れをされずに伸びきった草花を踏みしめるように、一人の男が立っていた。
中肉中背の身体に、一度見ただけでは決して記憶する事の出来ない特徴のない顔。
唯一そこそこ身長が高い事だけが救いの男は、夕陽に照らされた屋敷を一人見上げていた。
「ソリャソウダ。コレカラオレタチガブッ殺スノガマサニソノ『幽霊』ナンダカラナァ」
ふと、町の喧嘩からも離れたその場所に、別の声が響き渡った。
男の脳へと直接語りかけるようなその声に、しかし男はこれと言って動揺しなかった。
溜息をついて、脳内へと聞こえてきた声に返答する。
男の脳へと直接語りかけるようなその声に、しかし男はこれと言って動揺しなかった。
溜息をついて、脳内へと聞こえてきた声に返答する。
「情緒がないのな、お前。ほら、こう言う時は『ぶっ殺す』じゃなくてさ、成仏させるとか滅するとかかっこいい表現が色々あるだろ? な?」
「ナ? ジャネェヨ。タダノ厨二病ジャネェカ、ソレ」
「なっ……馬鹿言うな。俺のセンスは年相応だ」
「オレサマに『デビ田』トカせんすノネェ名前付ケヤガッタテメェガ何ヲイイヤガル」
「え? いいじゃん、デビ田。お前の方がセンスがないっての」
「フザケンナ。テメェガ普通ダナンテ絶対認メネェゾ」
「ナ? ジャネェヨ。タダノ厨二病ジャネェカ、ソレ」
「なっ……馬鹿言うな。俺のセンスは年相応だ」
「オレサマに『デビ田』トカせんすノネェ名前付ケヤガッタテメェガ何ヲイイヤガル」
「え? いいじゃん、デビ田。お前の方がセンスがないっての」
「フザケンナ。テメェガ普通ダナンテ絶対認メネェゾ」
一人脳内の声に語りかける光景は、はたから見ればかなり異様な光景である。
しかもそれが廃れた屋敷の前となれば尚更だ。
屋敷の前を通りかかった人間は皆、警察に通報するかどうかで悩んだ挙句、気味悪そうにその場を去っていった。
しかもそれが廃れた屋敷の前となれば尚更だ。
屋敷の前を通りかかった人間は皆、警察に通報するかどうかで悩んだ挙句、気味悪そうにその場を去っていった。
「大体へたれノテメェノ仕事ガ何デ都市伝説退治ナンダヨ。オカシイダロ、世ノ中絶対間違ッテルダロ」
「ばっか、これでも評判いいんだぞ。町内でそこそこ噂になってるレベルだって、マジで」
「……ソレ、微妙ジャネェ?」
「都市伝説自体そこそこしかいないからいいの! 同業者も一杯いるこの町でそこそこ噂されれば十分なの!」
「ばっか、これでも評判いいんだぞ。町内でそこそこ噂になってるレベルだって、マジで」
「……ソレ、微妙ジャネェ?」
「都市伝説自体そこそこしかいないからいいの! 同業者も一杯いるこの町でそこそこ噂されれば十分なの!」
そんな周囲からの視線を気にすることなく、二人の議論は燃え上っていく。
元々都市伝説退治のためにここに来た彼らだったが、この数分でその本来の目的すら忘れかけていた。
後で彼の恋人辺りに知られたら制裁間違いなしの失態である。
元々都市伝説退治のためにここに来た彼らだったが、この数分でその本来の目的すら忘れかけていた。
後で彼の恋人辺りに知られたら制裁間違いなしの失態である。
「――――ようし、俺ってば頑張っちゃうもんね。入ってから十分で終わらせてお前を見返してやるからな!」
「ヤッテミヤガレ。テメェカラ戦闘ノせんすガ一欠ケラモ感ジラレネェヨ」
「ヤッテミヤガレ。テメェカラ戦闘ノせんすガ一欠ケラモ感ジラレネェヨ」
男――――山田の内側で、デビ田はくつくつと笑った。
もはや最初の頃の戸惑いも少なくなり、山田と対等に話せるようになってきている。
山田はデビ田の挑発に乗ることなく、むしろ鼻で笑って
もはや最初の頃の戸惑いも少なくなり、山田と対等に話せるようになってきている。
山田はデビ田の挑発に乗ることなく、むしろ鼻で笑って
「言ってろ。後で今の台詞、撤回させてやるからな」
「オゥオゥ、楽シミダネェ」
「ふん」
「オゥオゥ、楽シミダネェ」
「ふん」
はやし立てる声を無視して、山田はようやく一歩を踏み出した。
一歩進む度に、草に纏わりついた露が山田のズボンの裾を濡らしていく。
冬の寒さも相まって、足を刺されたような感覚が山田の脳へと伝わった。
一歩進む度に、草に纏わりついた露が山田のズボンの裾を濡らしていく。
冬の寒さも相まって、足を刺されたような感覚が山田の脳へと伝わった。
「やべ、冷たいな、これ」
「オイ、オレサマニモ伝ワッテンダ。サッサト中ニ入リヤガレ」
「…………ほう」
「オイ、オレサマニモ伝ワッテンダ。サッサト中ニ入リヤガレ」
「…………ほう」
瞬間、山田の眼が光ったような錯覚を、内側にいるデビ田は感じた。
やっちまった、と中で頭を抱える。
やっちまった、と中で頭を抱える。
「ほうほう? つまりこうすれば、どうなるのかなぁ?」
どこから取り出したのか、山田の手には緑色のバケツがぶら下がっていた。
その中では透明な水が振動に合わせてちゃぷちゃぷと揺れている。
デビ田には嫌な予感しかしなかった。
手に持ったバケツを、山田は頭上へと持ち上げる。
その中では透明な水が振動に合わせてちゃぷちゃぷと揺れている。
デビ田には嫌な予感しかしなかった。
手に持ったバケツを、山田は頭上へと持ち上げる。
「テメェヤメロコノ馬鹿野郎ォオオオオオオオオオッ!?」
「はっはっは、内側から語りかけた所でもう遅いわーっ! イヤッホォォォオオオオオオウ!!」
「はっはっは、内側から語りかけた所でもう遅いわーっ! イヤッホォォォオオオオオオウ!!」
掛け声とともに、山田が宙でバケツをひっくり返す。
中に入っていた水は当然、重力に従って落下を始めた。
向かう先は、山田の頭。
避ける動作すらせず、山田はその氷のような水を頭から被った。
中に入っていた水は当然、重力に従って落下を始めた。
向かう先は、山田の頭。
避ける動作すらせず、山田はその氷のような水を頭から被った。
「――――いやぁぁぁぁぁああああああ、つめてぇええええええっ!?」
「死ネッ! テメェソノママ凍死シロッ! クッソ冷テメェナ畜生ォオオオオオッ!!」
「あれっ、何でっ!? 痛覚はキャンセルされるんじゃなかったっけ俺の身体っ!?」
「馬鹿野郎。サッキモ冷タサ感ジテタジャネェカッ! ドウセ熱イ寒イハ対象外ナンダロウヨォ」
「ちょっ、聞いてない、俺そんなの聞いてないぃいいいいいいっ!?」
「チッタァ考エテカラ行動シヤガレコノ野郎ッ!」
「死ネッ! テメェソノママ凍死シロッ! クッソ冷テメェナ畜生ォオオオオオッ!!」
「あれっ、何でっ!? 痛覚はキャンセルされるんじゃなかったっけ俺の身体っ!?」
「馬鹿野郎。サッキモ冷タサ感ジテタジャネェカッ! ドウセ熱イ寒イハ対象外ナンダロウヨォ」
「ちょっ、聞いてない、俺そんなの聞いてないぃいいいいいいっ!?」
「チッタァ考エテカラ行動シヤガレコノ野郎ッ!」
寒空の元、廃屋の庭でがくがくと震える馬鹿一人と、巻き添えを喰らって脳内でもだえる悪魔が一人。
通りかかった人間が立ち去る速度が、それを見てさらに加速した。
春は近いと言ってももう三月である。
外で服を着たまま冷水を被るなんて、変態以外の何物にも見えない。
通りかかった人間が立ち去る速度が、それを見てさらに加速した。
春は近いと言ってももう三月である。
外で服を着たまま冷水を被るなんて、変態以外の何物にも見えない。
「うっわ冷てぇ。北風がやばいよこれ」
「早ク建物ン中入リヤガレッ! 霊ニ会ウマデモナク凍死トカ笑エネェゾ」
「あ、ああ……何やってんだろうなぁ、俺」
「早ク建物ン中入リヤガレッ! 霊ニ会ウマデモナク凍死トカ笑エネェゾ」
「あ、ああ……何やってんだろうなぁ、俺」
寒さで震えながら、一歩一歩山田が歩み始める。
もはや草露がどうのこうのの限度を超えていた。
一刻も早くこの風を防ぎたい、その一心で山田は歩み、デビ田がせかす。
もはや草露がどうのこうのの限度を超えていた。
一刻も早くこの風を防ぎたい、その一心で山田は歩み、デビ田がせかす。
「………………」
無人のはずの屋敷の二階で
これから討伐させられる予定の霊は二人の様子を見て、音を立てずに笑い転げていたのだが、それを外にいる二人が知ることはない。
これから討伐させられる予定の霊は二人の様子を見て、音を立てずに笑い転げていたのだが、それを外にいる二人が知ることはない。
【ちょっぴり続くよ!】