「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 恐怖のサンタ-x06

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恐怖のサンタ 悪魔の囁き&コークロア編 06


 山田は震えていた。
 しかしそれは別段、恐怖に怯えていたわけではない。

「やっべ寒い! 風は凌げたけど滅茶苦茶寒い!」
「廃屋ナンダ。暖房ガ利イイテルハズナンカネェシ、当タリ前ダロ」

 廃屋のエントランスに積もった埃の上に、山田はがくがくと震えながら立っていた。
 先程気温10度にも満たない外で冷水を浴びてきたばかりである。
 ほとんど外と変わらない気温の中、山田の体温は刻一刻と削られていた。

「け、けど、何とか侵入には成功したな、うん。前向きに考えていこう」
「侵入ッツーカ、モロニすぺあきーデ玄関カラ入ッテキタダケジャネェカ」
「言うな。何か『窓とか破って侵入しましたよ』な雰囲気ださないと悲しくなるだろ」

 身も蓋もない事を言うデビ田に、山田は呆れたように言い返した。

「ほら、子どもの頃スパイごっことかやったろ? あの時だって玩具の銃に針金とか持ってきゃっきゃしてただろ? 夢を壊すなよ、夢を」
「オレサマニ子ドモノ頃ナンテネェカラ分カンネェヨ。大体、ンナ夢子ドモノ頃ニ捨テルモンジャネェノカ」
「何だ、あれか、『俺は大人なんだぜ』アピールか。くそ……童心をずっと持ち続けるのって大事だろ……」

 意気消沈して、山田が肩を落とす。
 正直、デビ田には山田が何を言っているのかさっぱり理解できない。
 むしろ理解できたらそれはそれで駄目なんじゃないかとすら、最近は思い始めていた。

「――――デ、ココニ住ミ着イテル『幽霊』ヲ倒スンダッケカ」

 山田の内側から、デビ田が周囲へと視線を巡らせる。
 埃まみれの室内に、夕刻となり赤い光が差し込んでいる。
 割れた窓が光を曲げ、隠し、どこか幻想的な雰囲気を醸し出していた。
 この状況だけ見れば「幽霊屋敷」とは到底思えなかっただろう。

「らしいな。俺にもよく分からないけど」
「頼リネェナァ。ソレデモ町デ『ソコソコ』噂サレテル都市伝説退治専門ノ業者カヨ」
「そこそこを強調している所にそこはかとなく悪意を感じるのは俺の気のせいかな、デビ田」
「気ノセイナンジャネェノ?」

 軽い笑いを含んで、デビ田がとぼける。
 山田はさらに追求しようとして、止めた。
 元より、デビ田はそういった悪知恵に関しては山田よりも頭が回る。
 さすがデビル山田というか何と言うか、とにかく山田が深追いしてデビ田が白状した事は一度たりともなかった。

「ケドヨォ、ワザワザ高イ金払ッテマデ幽霊退治ナンテスルモンナノカ? モウ誰モ住ンデネェンダロ? ホットキャイイジャネェカ」
「そう言う訳にもいかないんだよ」

 先方は何も、この家の住人や管理人に頼まれて山田に依頼したわけではない。
 当たり前だ。
 この家はもうすぐ叩きつぶされ、ここには新しくマンションが建つのだから。

「家を解体したいのに、ポルターガイストやら女の霊やらが出てきて作業にならないんだってよ」
「ハッ、ンナノ無視シテブッ壊シチマエバイイジャネェカ。何ビビッテンダカ、ダラシネェ」
「日本人はそう言う霊的な物を大事にするの! ほら、家建てる前にちゃんとお払いするだろ? それと同じだよ」
「ソレダッテ結局『祟リガ怖イカラ』ダロ? タダノ迷信ジャネェカ」
「日本人はそういうもんなんだって。普段科学で頭固めてる奴だって葬式はするし、クリスマスだって祝う。それでいいんだよ、日本人は」

 デビ田と脳内で話しながら、山田は歩みを進めていく。
 元は豪奢だったろう絨毯を踏むと、それだけで埃が舞いあがってきた。
 マスクを持ってくるべきだったと後悔しながら、山田は建物の内部を観察する。
 希少価値があるのかどうかもよく分からない絵画に騎士の鎧、はては巨大なピアノまでもが、奇妙な調和を持って配置されていた。
 それら全て、本来なら既に運び出されているはずのものである。

「ポルターガイスト、ねぇ……」

 本来の用途すらまっとうされなくなった工芸品を眺め、山田は呟いた。
 聞く所によれば、これら工芸品は運び出されそうになった途端、勝手に浮き、元の位置へと戻ってしまうのだという。
 屈強な男4人がかりで持ち上げていたグランドピアノまでも、だ。
 かわいそうな事に、それを目撃してしまったバイト君は今でも寝込んでいるそうだ。

「幽霊っていうと未練の塊みたいなイメージがあるけど、運び出さないのはそれと何か関係があるのかな」
「知ルカ。ソレヨリサッサト片ヅケテ帰ロウゼ。空気ガワリィンダヨ、ココ」

 基本的に面倒くさがりなのか、デビ田は山田の仕事に対していつも早々に切り上げる事を提案してくる。
 その本意は山田を堕落させる事にあるのだが、山田がそれに気づく様子はない。

「金を貰ったからにはそれ相応の仕事をする。これ社会の常識な」
「イイジャネェカ。コンナ霊商売、詐欺ミテェナモンダロ。一々退治スル必要モネェ」
「馬鹿、それだとうちの信頼に関わるだろうが。あの占い師に仕事を回して貰えなくなったらそれこそ野垂れ死にだっての」
「ソウナッタラ都市伝説ノ力使ッテ銀行デモ襲エバイインジャネェノ? テメェてれぽーと系の力モ使エルミテェダシ、簡単ダロ?」
「あのなぁ…………」

 この社会常識の欠如している幻聴どうしてくれようか、と山田が考えていた、その時だった。
 何かを感じ取ったかのように、デビ田が山田の中で蠢く。

「――――来ルゾッ!」
「ん? 何が」

 訝しげな顔で、山田がその場に立ち止まる。
 一体何が来るというのか。
 デビ田と違って全く都市伝説の気配を感じ取れない山田には、デビ田が何を言っているのかさっぱり理解できなかった。

「バカッ、立チ止マッテンジャネェ、伏セロッ!」
「だから、何で――――」

 山田が聞き返そうとした、次の瞬間。
 何かが山田のすぐ隣の壁を突き破って、山田へ向かって突進してきた。

「何だっ!?」

 ぎょっとして山田が壊れた壁を見るが、襲撃者は既に眼前にまで迫って来ていた。
 一瞬で間合いを詰められ、山田の身体に衝撃が走る。
 何か固い鈍器で全身を殴られたような感覚。
 それを意識する間もなく、山田の身体は後ろへ数メートル吹き飛ばされた。

「――――ガァッ!」

 そこに痛みはない。
 しかしそれでも、肺の中に溜まっていた酸素が口を突いて出てきた。
 胃を圧迫されたせいか、酸っぱい何かが喉元にまでせり上がって来ている。

「……くそ、何が起きた」

 普通の人間なら一撃で気絶しそうな一撃を受けて、それでも山田は難なく立ち上がった。
 その身体には傷どころか、汚れ一つない。
 顔に付着した埃を手で払いながら、山田は襲撃者の方向へと目を向けた。
 先程の一撃で壁は半壊し、その瓦礫が絨毯に積もった埃を砂のように舞い上げ、視界を覆っている。
 粉塵の中、立ち上がる一つの影が見えた。
 ポストのように寸胴な体型が、なぜか少し宙に浮いている。
 ここからでは影しか見えないので何とも言えないのだが、とにかくそのシルエットから相手が人ではない事だけは分かった。

「……おい、デビ田。アレ、何だと思う?」

 目で襲撃者の動きを追いながら、山田は声を出さずにデビ田へと問いかけた。
 デビ田は襲撃者が来る事をあらかじめ予知できていた。
 なら、もしかしたら相手が誰かを知っているのかもしれない。
 そう、思っていたのだが

「………………」

 なぜか、返ってきたのは沈黙だけだった。
 何となく不安になって、山田はもう一度問いかける。

「おい、デビ――――」
「話カケンナ。今、身体ガ痛ミデヤベェ」
「なんだ、喋れるじゃん。いや、お前が死んだかと思ってちょっと不安になっちゃったとかそういうわけじゃないんだけどさ、出来ればちゃんと質問には何らかの返事が欲しいかなぁ、って」
「話カケンナッツッテンダロウガッ! テメェト違ッテオレサマハ痛ミヲモロニ感ジテンダヨッ!!」
「あ……あー、そういやそうだっけ。残念な体質だなぁ、お前」

 呑気にデビ田と会話をしている間にも、謎の襲撃者は再び動き始めていた。
 3メートルはあるだろう巨体が、その重量を全く感じさせずに宙を滑ってくる。
 もう一度体当たりを喰らわせるつもりだろうか。

「つか、ここに住み着いてる都市伝説って幽霊なんじゃなかったっけ?」
「知ルカ。少ナクトモアリャ人間ジャネェヨ」
「だろうなぁ、でかいし」

 部屋に粉塵が充満しているにもかかわらず、巨大な影は一直線に山田の元へと向かって来ている。
 速度はそれ程でもない。
 ちゃんと相手の姿さえ確認できていれば、十分に引きつけてからでも避けられるだろう。

「よし、ここはかっこよく避けてみようじゃないか」
「……下ラネェ事スンノガ好キダヨナ、テメェ」
「下らなくなんかない。遊び心は大事だぞ」

 そうこう言っている内に、影は粉塵を突破しようとしていた。
 巨躯が動く事で風でも発生しているのか、宙に舞う誇りに規則的な流れが出来上がっている。
 その流れの中心。
 ちょうど周囲の壁を押しやるかのように、「ソレ」は現れた。

「…………ん?」

 襲撃者の姿を確認にして、山田の目が点になる。
 山田の目に入ったのは、黒く、顔のみで構成されている石像。
 何をどう削ればそんな形になるのかも山田にはよく分からないが、少なくともソレが何であるかは知っていた。

「……何で、モアイ像が動いてんの?」

 モアイ像。
 世界的に有名な石像の一つである。
 なぜ作られたのか、その意図すら判明していない石像。
 それが今、山田の前で宙に浮いていた。

「え、何、俺たちの仕事ってモアイ像倒す事だっけ? あれ? 何か違うような」
「ぽるたーがいすとダロ。何焦ッテンダ」

 混乱する山田とは対照的に、デビ田は冷静だった。
 宙に浮いているモアイ像自体からは、何も都市伝説的な気配を感じられない。
 何者かがこの石像を動かし、山田たちを襲わせているのだろうと、デビ田は判断した。

「マジか。レプリカとは言えモアイ像まで集めて何がしたいんだ、この家」
「成金趣味ジャネェノ? 金持チノ考エル事ナンテ理解デキネェヨ」

 宙に浮いたモアイ像は、動かない。
 何か観察するように、山田を凝視していた。
 先程の一撃を受けても立ち上がった山田を警戒しているのか、はたまた攻撃のタイミングを図っているのか。
 どちらにせよ、あまり友好的な雰囲気とは言えなかった。
 その様子を見て、山田はよし、と拳を握る。

「――――話合おうじゃないか」
「……コノ期ニ及ンデへたれ全面ニ押シ出シテンジャネェヨ」
「ヘタレ言うな。ポルターガイストにしろ幽霊にしろ、ここに留まるには何か理由があるはずだろ。わざわざ力で捻じ伏せなくてももっと平和的に解決できるかもしれないじゃないか」
「ンナ事言ッテモ、アッチハヤル気ミテェダゼェ?」
「…………ん?」

 デビ田の言葉に従って、山田が意識を内から外へと移行させ、石像のいた方へと視線を向けた。
 しかし、視界には何も映らない。
 正確には、視界一杯に黒い何かが写っていた。
 さらに正確に言うなら、モアイ像が目の前にまで急接近していた。

「…………ありゃ」

 二度目の体当たり。
 脳震盪でも起こしそうな強い衝撃と共に、山田の身体が再び宙を舞った。
 痛みはないが、それでも二転三転と山田の身体が埃まみれの絨毯の上を転がる。
 先程は手加減でもしていたのだろう。
 今ので山田の内臓が幾つか持っていかれていた。
 人間なら既に死んでいそうな状況下で、しかしやっと停止した山田はすぐに跳ね起きた。

「……ふふん、この俺に普通の攻撃が効くと思うなよ!」

 ふはははーと悪役のような声をあげて石像を指差す。
 一見すると格好よさそうな状況の中

「イッテェェェエエエエエエエッ!? テメェニ効イテナクテモ、オレサマニハ効イテンダヨ馬鹿野郎ッ! チッタァ避ケヤガレ!!」

 しかし山田の脳内では、デビ田が痛みに吠えていた。
 モアイ像は無表情で、それでもどこか困惑した空気を漂わせている。
 デビ田の声が外へ漏れる事は、基本的にない。
 だからモアイ像から見れば、今の山田はまさに超人だった。

「(……まぁ、こっちもあんな石像に効く有効打なんて持ってないんだけどな)」
「(……ハッタイモイイ加減ニシロヨ。テメェノ虚勢ノタメニ痛メツケラレンノハごめんダ)」
「(分かってる。とにかくあのモアイ像を止めて、ちゃんと話を聞いてもらわないとな)」

 内側でデビ田と算段をしながら、山田は警戒を続けるモアイ像を、そしてその周囲を注意深く観察する。
 あの石像が本体ではないのは確かである。
 つまりそれを動かしている都市伝説が必ずどこかに存在しているはずなのだ。

「(……って言っても、気配も何にも感じないな)」
「(『感ジナイ』ンジャナクテ『感ジラレナイ』ンダロ、テメェハ。ヨクソンナンデ都市伝説退治ナンテデキルモンダ)」
「(いや、大抵は何回か攻撃された後に起き上がると、相手も驚いて話し合いにも乗ってくれるんだけどさ、今回はそもそもどこに本体がいるかが分からないからなぁ)」
「(アン? 本体ナラテメェノスグ目ノ前ニイルジャネェカ)」
「(…………え?)」

 慌てて山田が周囲を見渡すが、どこにもそれらしき人影はない。
 ただモアイ像が一体、宙に浮いているだけである。
 それを見て、山田の頬に一筋の汗が伝った。

「(……まさか、このモアイ像が本体だとか言うんじゃ)」
「(ンナ訳アルカ馬鹿野郎。もあいノ後ロヲ良ク見テミロ。幾ラテメェデモ『見エ』ハスルンダヨナァ?)」
「(モアイ像の後ろ、ねぇ…………)」

 じっと宙に制止し、動かないモアイ像。
 今山田の立っている位置からでは、その裏側までは見る事が出来ない。

「…………ふむ」

 試しに、モアイ像を一周するように、その裏側へ回り込んでみる。

「………………」

 それに合わせて、モアイ像が山田を追うように回転した。
 モアイ像の顔が、無表情に山田を見つめている。

「…………ふむ」

 もう一度、モアイ像の周囲を回りこんでみる。

「………………」

 しかし、再度モアイ像はその動きに合わせるように回転してきた。
 相変わらず、無表情でモアイ像が山田を見つめている。

「(…………おい、見れないぞ)」
「(ダーッ!? マドロッコシイナ、オイ! テメェてれぽーと使エンダロ。ソレデサッサトもあいヲ消シチマエバイイダロウガ)」
「(あ、なに、そんな強引な方法でもいいの?)」
「(手段ヲ選ンデンジャネェヨ。イツマデモ馬鹿ミテェニ回ッテルツモリカ、テメェ)」
「(……いいじゃん、その内目を廻すかもしれないじゃん……)」

 もごもごと口の中で何かを呟いて、山田は右手を頭上に掲げた。
 警戒するように、モアイ像が一歩分、宙を後方に下がる。
 しかしたかがた一歩如き、山田の前では大した距離でもない。

「つか、これってテレポートじゃないんだけどな」

 再度ぼやいて、山田はパチンと指を鳴らした。
 その瞬間、モアイ像の下の絨毯から一本の煙突がせり上がって来る。
 慌ててモアイ像が移動を再開したが、それは少しだけ遅かった。
 四角い煙突は大きな口を開けて、モアイ像を飲み込んでいく。
 一度飲み始めてからは速かった。
 あっという間に煙突はモアイ像を飲み込み、その全てを覆い隠してしまう。

「(……どこに移動させればいいんだ、これ)」
「(ドコデモ構ワネェヨ。トニカクもあいガドカセリャイイ)」
「(大ざっぱだな……)」

 さっきの騎士の鎧の前でいいか、と呟いて、山田は再び指を鳴らした。
 その音が鳴った途端、煙突は煙となって消失した。
 中にいたはずのモアイ像は当然、そこにはない。
 山田が遠くへ飛ばしたのだから、当たり前だ。

「…………ん?」

 しかし代わりに、そこに誰かが立っていた。
 その誰かは何かを持ちあげるように腰を落とし、その両腕を広げている。

「(……おい、何だあれ)」
「(アレガ本体ナンダロ。チッチェエがきダナ)」

 呆気にとられたような表情で、ソレは立ちつくしていた。
 茶の入ったセミロングの髪に、まだあどけない瞳。
 山田を驚きの目で、ソレは見つめていた。

「(……つか、女の子じゃん)」

 山田の前に立っていたのは、まだ年端もいかない少女だった。
 外見的には10か11歳といった所か。
 ちょっと上狙いのロリコンなら十分に射程圏内に収めそうな年齢である。

「(ナンダ、テメェ貞子ミタイナノデモ想像シテタノカ? 先入観バリバリジャネェカ」
「(うるさい。いいだろ、『女の霊』なんて聞いてたからもっと年食ってると思ったんだよ)」

 目の前の少女を、山田は一瞥する。
 最初は怯えたように竦んでいた少女も、今では敵意一杯で山田を睨んでいた。

「……やりにくいよなぁ、これ」

 元より、山田はあまり殺人が好きではない。
 山田は別に殺人鬼という訳でもないのだ。
 だから出来るだけ、山田は退治の際に、話し合いで都市伝説との間に折り合いをつける方法を取っていた。
 大抵は、幾ら攻撃しても死なない山田を恐れるか、説得に応じて承諾する。
 しかし今、山田の前で敵意むき出しで睨んでいる少女は、山田を恐れても、また説得に応じそうでもなかった。
 だからこそ、山田はそんな事を呟いたのだが

「……なめないでよ」

 何を勘違いしたのか、少女の霊は敵意をさらに1割増しで山田を睨んできた。
 興奮からか、顔が少し赤くなっている。

「あんたもこの家を壊しに来た悪い奴の仲間なんでしょ? 嫌よ、私は出ていかない」
「いや、そこを何とかして欲しいなぁ、なんて……」
「(……何頼ミ込ンデンダ。サッサトブッ殺シャイイダロ)」
「(出来るだけ無駄な戦闘は避けたいの! 話し合いで解決できるならこれが一番なの! これも社会の常識な)

 黙ってしまった山田を、少女は相変わらず親の敵のように睨んでいる。
 山田にとっては、やりにくい事この上ない状況である。

「(どうするよ、お前が強引な方法取ったせいでなんか相手怒ってるぽいぞ)」
「(オレサマジャネェダロッ!? 人ニ罪擦リ付ケテンジャネェゾ、コノへたれ)」
「(なっ、ヘタっ……ふふん、ようし、じゃあ見せちゃうもんね。俺が3年ちょいだけど社会で培った交渉術を見せちゃうもんね)」
「(ハッ、出来ルモンナラヤッテミヤガレ。ツイデニ言ットクト、モウサッキ約束シタ10分ハ経ッチマッテルゼェ?)」
「(うわいやらしい! お前何そんな昔の約束引っ張り出してんの。時効だろ、時効)」
「(言ッテ10分チョイデ時効ニナル約束ナンテネェダロウガッ!)」

 もはや少女など存在しないかのような体である。
 しかも少女からはデビ田が見えないため、山田が一人でぼけっと立っているようにしか見えなかった。
 舐められてる。
 そう少女は、目の前の山田を見て判断した。

「子供だからって馬鹿にしないでよっ!」

 少女の叫びに、ようやく山田の注意が少女へと向いた。

「まだパパもママも帰ってきてないの。絶対に私がこの家を守るんだからっ!」

 少女がそう叫んだ途端、地震のように家が揺れ始めた。
 ピアノや鎧が揺れ、家が鈍い軋みを上げている。

「(……なんだか意味深な事言ってるけどどうするよ、これ)」
「(テメェデ解決シヤガレ、交渉術見センダロ?)」
「(いや、何か交渉とかそれ所じゃないっぽいし、それももう時効な)」
「(時効ハエェヨッ!? 汚ェゾ、テメェ)」
「(つか、何だ、地震? 何が起こってんの?)」

 もはや立つ事も覚束なくなり、山田は地に膝をついていた。
 目の前の少女は幽霊だからか、先程から一ミリたりとも動いていない。

「(ぽるたーがいすとナンジャネェノ? 大規模ニナルト地震ミテェニナルラシィゼェ?)」
「(え、何それ。やばいんじゃないの)」

 揺れは段々と大きくなっている。
 このままではこの家自体が崩壊を始めそうである。
 それは山田としては万々歳な事態のはずなのだが、何だか心にもやもやとした物が残っていた。
 それは家の下敷きになる事への危惧でもあるし、目の前の少女がどこか苦しそうな表情をしているからでもある。

「……どうしようか」

 少女を止めるにしても、今からでは手遅れだろう。
 もはや簡単に止まらないだろう事は、揺れの大きさを見るだけで分かる。
 かといって、このまま放置しているのも山田としてはあまり良い気分ではない。
 どうしたものか、と山田が考えあぐねていると

「(……大丈夫ナンジャネェ? スグニ止マルダロ、コンナ地震)」
「(何で)」
「(ドォ考エテモアノがきノきゃぱしてぃヲ超エテンダロ、コンナノ。普通ナラソロソロ意識ガ飛ブ頃ダロウヨ)」

 そうデビ田が言った、その時だった。
 とさり、と何かが倒れるような音が、軋みを上げる室内に響き渡った。
 ほぼ同時に、家の振動が止まる。
 何が起こったのか、なんて考えるまでもない。

「…………マジかよ」

 見ると、デビ田の言った通り、少女が絨毯の上に倒れ込んでいた。
 指だけが微かに動いている所を見ると、まだ意識だけはあるのか。
 しかしその僅かな動きすら、徐々に弱々しくなっている。

「(……マ、死ンダ後都市伝説ニ飲マレタノカ何ナノカハ知ラネェガ、ドウ考エテモ、力ニ対スル器ガチッチェェナ、コリャ)」
「(大丈夫なのか、あの子)」
「(ドォセ気絶シテルダケダロ。スグニ起キ上ガンジャネェノ? 暫クハ動ケネェダロウガヨ)」
「(……そうか)」
「(ンジャ、動ケネェ内ニ殺シテ、チャッチャト帰ロウゼェ? 早ク風呂ニ入ッテクレネェト、オレサマノ身体ガヤベェ)」
「(ん、そうだな)」

 脳内で返事をして、山田は立ち上がった。
 振動で移動したのか、埃のない絨毯の上を歩いていく。
 その間に、山田はズボンのポケットから小さな小瓶を取り出した。
 「幽霊に触れる」ための薬。
 今回の仕事のために、仙人に特別に調合してもらったものだ。
 それを一口で飲んで、山田は足を速める。
 少女の元へは、すぐに到着した。

「さて、と……」

 膝をついて、山田は少女の額に手を触れさせた。

「(…………アン?)」

 そこで、デビ田は気付いた。
 山田は本来、触れるだけで相手を殺せるような、そんな便利な能力を持たない。
 口裂け女と契約した今、山田のメインウェポンは打撃による殺傷のはずだ。
 それがなぜ、少女の額に触れているのか。

「(何ヤッテンダ、テメェ)」
「(いいんだよ、これで)」

 訝しむデビ田に脳内で答えて、山田は目を瞑った。

「(仕事のアフターケアみたいなもんだ)」

 触れた所から、少女の記憶が流れ込んでくる。
 山田の契約した「恐怖のサンタ」は、相手の最も嫌いな物、あるいはトラウマを記憶から選びとって袋から出現させる能力を持っている。
 その能力を応用すれば、記憶の閲覧も可能になるのだ。
 といっても、その能力は山田がその手で触れる必要があるし、触れた上でさらに極限にまで精神を削らなければならないわけなのだが。

 山田が記憶を読み取り、その上で何をしようとしているのか、デビ田には何となく分かっていた。
 つい十分ほど前、山田が「成仏」という単語を使った事を思い出す。

「(……未練無クシテ成仏サセテアゲマショウ、ッテカ? ワザワザ一番面倒クセェ方法選ンデ、何ガシテェンダカ)」

 その言葉を、デビ田は胸の内で呟いた。
 山田にそれを言った所で、今更止めるような人間でもないだろう。
 むしろ、さらに頑なになる可能性すらある。

 デビ田はただ、山田の行動を見ていた。
 この悪魔にはまだ、自分の囁きを退けたこの男の全容が掴めていない。

*********************************************

 まだ日の明ける気配すら見えない午前3時。
 山田はもはや死にかけの体で、帰路についていた。
 屋敷でポルターガイストに遭った時よりも覚束ない足取りで、街灯に照らされた道を歩いていく。

「結局、成仏サセルマデ付キッキリダッタナァ、へたれ」
「ヘタレ言うな。むしろ俺、今回滅茶苦茶頑張っただろ?」
「サァ、ドォダロォナ」

 実際、よくあそこまでやったものだとデビ田は思う。
 あれから数時間、山田はひたすら奔走していた。
 少女の両親の墓を見つけたり、霊を降ろす事の出来る都市伝説を見つけたり。
 それこそ、結果的に貰った報収が霞んで見えるほどに。

「アホダヨナァ、へたれ」
「おま、あんなに頑張った俺に対する慰めの一言もないのか。ほら、『よくやった』とか、『頑張った』とか」
「テメェノセイデ帰リガコンナニ遅クナッタンジャネェカ。慰メルワケネェダロ」
「酷い! 宿主に対する態度とは思えないくらいに酷い!」

 ぶつぶつとデビ田に対する呪詛を呟いている内に、山田たちは自宅のアパートへと到着していた。
 外と内を繋ぐ玄関のドアの前で、山田はしばらく逡巡を重ねる。
 なんだか、山田は気が重かった。
 事前に恋人に遅くなる旨は伝えてはいる。
 しかし、それでも遅くなった理由を問い詰められるのは必至だろう。
 別に、山田としては良い事をしたつもりなのだから、恥じたり責められたりする言われはない。
 それでも、山田が救ったのが少女だと知ったら、恋人はちょっとだけ不機嫌になる事間違いなしだ。
 これを幸せと取るか、不幸と取るか。

「……まぁ、なるようになるか」

 取りあえず前向きになろう。
 そう思って、山田は鍵を開け、玄関へと足を踏み入れたのだが

「はろーっ!」

 中からかけられた声と、そしてその声を主を見て、パタンと扉を閉じた。

「――――オイ、ドォシタ。入ラネェノカ?」

 中を見るまでには至らなかったのか、デビ田が山田の内側で首を傾げている。
 せっかく帰宅したのにまた外へと出てきたのだから、それは当然の疑問だろう。
 それに対して、山田はぎこちない笑みを浮かべて答えた。

「い、いや、どうやら部屋を間違えたみたいだ。うん、そうだ、そうに違いない」
「アァ? テメェノ家ハココダロウガ。何言ッテンダ、テメェ」
「いや違う! 断じて違う! というか違うと信じたい!」

 もはや支離滅裂な言葉を発する山田に、デビ田は眉をひそめた。
 しかし数秒後、なぜ山田がそんなにも帰宅を拒絶したのか、デビ田はその目で目撃する事になる。

「――――何やってるの? さっさと入りなよ、風邪引いちゃうよ」

 山田家の玄関のドアを開け、一人の少女が顔をのぞかせていた。
 山田もデビ田も、その少女の事を知っている。

「……何やってんの、お前」
「居候の身として、家の主人のためにドア開けてるの」

 真顔でそう答えたのは、茶の混じったセミロングの少女。
 つい先ほど成仏したはずの少女が、そこに立っていた。
 山田もデビ田も、嫌な予感しかしない。

 分かっている事は、二つ。
 なぜかこの少女が、山田家に居つこうとしているかもしれない事。
 そして山田の恋人である良子が、少女の向こう側でぴくぴくと頬を引きつかせている事。

「(……逃げてもいい?)」
「(捕マッテ倍ノ制裁ガ待ッテル。止メトケ)」

 会話は数秒。
 しかしそれで自身に逃げ道がないと悟った山田は、肩を落として小さくため息をついた。

 山田はまだ、気付かない。
 契約したマゾの中にある「主人公補正」は、契約によって、少しだけ変化を遂げていた。
 その小さな変化によって、山田が手に入れたのは、「フラグメーカー」とでも呼ぶべき出会いの力。

「は、はは…………」

 無意識の内に使用されるその力は、その効果とは裏腹に、山田をさらなる窮地へと追いやっていた。

【終】




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