「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - モデルケース-04

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「お゛え゛ッ゛」

気持ち悪い!吐きそうだ!

「う゛ぇ゛!」
ビチャビチャビチャ!
「お゛っへ!お゛っへ!」

吐きそうっていうより、もう吐いちゃったよ……
口の中が胃酸まみれでいやな感じ。あああもう、涙出てきた。鼻水もズルズルする……

「あ~。ごめんごめん。そうだよな。完璧に一般人だもんな。鍛えてなかったらそりゃ吐くか」

そもそもわたしがこんなことになっているのは、隣で背中をさする男、坂本光輝が原因だ。

「調子に乗って悪かったよ」
「う゛え゛……」

20メートルの上下運動を何度も連続でやれば誰だって吐くに決まってる。
もしあと一回でも跳ばれてたら彼の体に吐いていたところだ。それはそれで構わないが、わたしの服なんかも汚れそうだからやっぱヤダ。

「あ~、どうしようかな。跳んで移動した方が速いけど、跳んでじゃもう無理だろうな」

あたりまえだ!また吐くぞ!

「最近はゴリラとタイマン出来るような女にしか会ってなかったからな。なんか新鮮だなこういうの。ほらハンカチ。返さなくていいから。汚いし」

……こいつ、まじで最低だ。
しかし、ハンカチはしっかりもらっておく。しっかり使ってあとでポッケに入れといてやる。

「ま、早く落ち着いてくれよ。色々聞かなきゃいけないことがあるから」
「あ゛~?お゛え゛!」
「そのままでいいから聞いてくれ」

一体なんだろうか?言う事があるならこんなところで言わなくても、家を出発前に言えばよかったと思うんだけど。

「この町でさ。よく噂話になるようなとこはないか?」
「う、うわう゛え゛!お゛っへ!うわざばなし?」
「そうそう。たとえばね、殺人事件があった廃病院があるとか、怪談話が多い裏道とかそういった関係の噂話」
「……う゛」

わたしが幼稚園の頃、阿佐美河で3人くらい溺れ死んだって聞いたことがある。
でも、あそこで幽霊が出るなんて聞いたこともない。そんな噂があったら泳ぐ人なんていない。溺れる人は何年かに一回は出るけど、死人は出ない。
口裂け女に殺された人の現場?ありえない。まだまだそんな怪談話になるようなものじゃないし最近すぎる。
いやいやいやいやいや!なにを遠回りに考えているんだわたしは!他のを考える必要なんてあるのか?無い!
この町で怪談話って言ったらあそこしかない!

「診療所!」
「診療所?いや、怪談話でそりゃ病院関係は定番っていえばそうだけど」
「診療所自体じゃないです。青井医院っていう診療所の近くにものすごい怪談話の多い裏道があるんです」
「なるほどね。ばっちりだ」

青井医院を正面にして右に10メートルぐらい行ったところに裏道がある。
住宅街を突っ切る様にあるその裏道は学校の近くにあるのだが、そのあたりは実はあまり人が住んでいない。理由は分からない。
しかし、それだから人通りも少なく、そういった怪談話なども生まれやすい。
それに、

「そこのでう゛っ、そこで口裂け女を見たって噂もあります!」
「ますます都合がいい場所じゃねえか」
「あ、あと藤枝もきっとそこにいると思うんですよ!あいつバカで単純だからきっと真っ先そういう所に行くはずです」
「君ひどいこと言うね。まあいいけど。じゃあ急ぐか」

吐き気もほとんど治まった。もう大丈夫。行ける。

「でも、大丈夫?走ると時間かかるし、ジャンプするとまた今みたいな状態になる」
「が、我慢します!」
「……俺もゲロかけられるの我慢するかな」

そうだ。この人がいくら早く動けても曲がり角を曲がる必要とかがあったりする。そのためにはスピードを落とさなくちゃいけない。
50メートルを一瞬でバックしたみたいな早さは出せない。さらにわたしをかかえてしなくちゃいけないんだ。わたしがあんなスピードで耐えられるか?
たぶん無理。どっちみち時間がかかる。じゃあ、ほとんど直線距離で行けるジャンプ?耐えられないことは今さっき証明された。
移動手段は二つに一つ。選んでるよ余裕はない!

「おい。携帯鳴ってるよ」
「え?」

突然の言葉に目を丸くする。携帯?そう言えばポケットに入れてるけど。
彼に言われ、慌てて携帯を取り出してみる。

ケテイクマッカナポルシェ

確かに鳴っている。気がつかなった。曲は『プレイバック Part2』。篤子から!?
通話ボタンを押し、耳に電話を押しつける。

『ナオコ!?藤枝のこと聞いてる!?』
「う、うん!」
『あなたは今どこにいるの!?もしかして外に出てる!?』
「……うん。外」
『すぐ帰りなさい!いいわね!藤枝は私が連れ戻すから!』

な、な、な、なぁ!?

「何いってんのよ!?わ『危なっかしいのよナオコは!?』」
『藤枝の家には連絡したから、家族の方が探しに出るわ』
「じゃあ篤子だって『私にはバイクがある。普通に歩くよりはまだ安全よ。ナオコは自転車すら持ってないじゃない』ぐっ!」

確かに、わたしは移動手段はすべて徒歩だ。生まれたのときから今まで自転車を所有したことが無い。

『なにかあった時、ナオコじゃ絶対逃げられないわ』

それがまさかこんな時に責められる理由になるなんて!
でも、でもでもでもでもでも、でも!

「わ『いいから帰りなさい!藤枝の行きそうな場所なんてわかるから!わかったわね!ブツッ!』…………話ぐらい聞けこのメガネーーー!」

あのオタク女!わたしの話を聞かずに一方的に喋って!あんたよりわたしのほうが安全だっつーの!
バイクが何だ!自分のバイクじゃないじゃん!あ、でもこないだ貰ったって言ってたっけ。

「なんていうか、物事をはっきり言うタイプの人間だね。さっきの電話の娘。今のって君の友達のメガネの娘だよね」
「ええそうですよ!あのメガネ!人の話も聞かずに!」
「それぐらい焦ってるんだろーな。友達を一人でも安全圏に置いときたいのさ。いい友達じゃねーの。いやまじで」
「だからって!」

だからって、残される方の気持ちは全く考えてない!
助かった!バンザーイ!で済むわけじゃないのよ!藤枝が死んだら、篤子が死んだら、両方とも死んじゃったら、

「自殺するわよコンチクショウ!」
「なに物騒なこと言ってんの君!?」
「と!に!か!く!急ぎましょう!道案内します!」
「どうやっていくの?」
「ジャンプで!」

もう自棄だ!胃液が無くなるまで吐いてやる!その代わり、藤枝も篤子も会ったらぶん殴ってやる!
グーで殴る。絶対殴る。歯が欠ける勢いで殴る。決定!

「じゃ、行きますか。方向どっち?」
「えっと……」

ここが駅に向かう道の途中で、あっちから来たんだから、え~と、

「あっちです。南の方角です」
「よし、じゃあとりあえずあっちに行こう。細かいところのナビはその時よろしく」
「はい!」

裏道までは藤枝の家から50分ぐらい。でも藤枝が走っていけば20分や30分で行くことはできる。もしかいたら自転車でも使ったかもしれないからもっと早いかもしれない。
篤子の家からなら20分くらい。でもバイクだ。それなりに早く走らせれば5分も掛からない。さっきの電話から考えると、まだ家は出てなかった。
わたしとの電話の後家を出たと考えるのが妥当。ここから直線距離なら裏道までは2分も掛からない!
間に合う!きっと間に合う!行く途中で襲われたなら意味が無いけど、この人がこんなに自信満々で裏道に行くことを決めたなら、たぶん大丈夫だ。
そう信じなきゃ!今信じられるのは彼しかいないのだ。信じて行動しなきゃ、わたしには何もできない。ただ指をくわえて待つしかできないのだ。
そんなのいやだ。絶対いやだ!

「再びしゅっぱーつ」
「ワヒィ!?」

でも、藤枝の気持ちがわかってきたかもしれない。

『我慢して、この気持ちを抱えたまま生きていくなんて私はいやだ。耐えらんない』

今のわたしも同じ気持ちだ。なにもせずにいるなんて耐えられない。生きていくなんてできない。後悔を残したままじゃ先に進めない。
伊斗子が、命の恩人が殺された藤枝も同じなんだろう。なにもできなかったっていう後悔をしたくない。だから飛び出した。
たぶん、篤子も同じなんじゃないだろうか?友達をこれ以上失うことが耐えられない。友達を失って涙を流せない自分に耐えられない。だから飛び出した。
大切だったから、大切だから、後悔を残したくない。そんな思いがわたしたちを包んでいるんだと思う。

「う゛っ」
「吐くなよ!?まだ吐くなよ!?いいって言うまで吐くなよ!?まだ心の準備が!」



数分も経っていないだろうが、ここまで移動するのに数時間を要したように思える。
屋根の上に乗ったっているわたしたちの目の前には目的地である裏道の入り口があった。

「あぞっ、あ゛ぞごが、うぇ、裏道でぇっ、すっ」
「よしよし、よく頑張った。よく耐えた。感動した。んじゃさっさと裏道に入ろう。このまま抱えて入口の前に降りるから」

こちらの返事待たず聞かず、わたしを小脇に抱えたまま入口の前に着地する。
どうやってかは知らないが着地の衝撃を殺してくれたのだろう。移動とは違いほとんど体に衝撃は来なかった。その点に感謝しながら地に足を付ける。
世界が回ってる。口の中がものすごい酸っぱい。今にも倒れそうだ。ていうか倒れて気が済むまで吐いて泣いて大声出しながら眠りたい。3日ぐらい起きたくない。

「いないのかー!」
「!?」

突然前の方から、裏道の奥の方から声が聞こえる。何年も聞きなじんだ声、藤枝の声!
下げていた顔をハッとあげると20メートルほど先、きれいに舗装されたアスファルトの先、街灯に照らされた先に藤枝らしき人影が見える。
この距離この体調で目では判別できないが、声は間違いなく藤枝だった。藤枝のことだ。いつまでも同じ所で騒ぐ奴じゃない。今騒いでるってことはさっき着いたってこと。
そうだ!わたしは間に合ったんだ!

「ふぅうじえだぁあああああ!」

それがわかると同時に出てくる腹の底からの怒号。近所迷惑なんて考えもしない叫び。それを藤枝に叩きつけるかのように口を開く。
さらに前に向かって走る。体の調子が悪い?そんなこと言ってる場合じゃない!ぶん殴ってやる!心配掛けさせやがって!

「え!?な、なに!?ナオコ!?なんで!?後ろのそれ誰!?真っ赤な!昼の奴!?口裂け女!」

藤枝の慌てた声が聞こえる。どうして私がここにいるかわからないんだろう。馬鹿だから。
死にに行くって言ってるようなことを連絡して、わたしや篤子が追ってくるっていうの考えてなかったんだろうか。
なかったんだろうな。

「止まれ!」

後ろから聞こえてきた坂本さんの声とともに、全身の肌が粟立つ。全身から冷や汗が吹き出し、足も止まり動けなくなる。
坂本さんの目の前に立った時か、それ以上の圧倒的恐怖に全身が脅かされている。
なんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれ…………

「お前ぇえええええ!」

わたしの方向へ、口裂け『男』の方法へ走り出す藤枝のその後ろ、

「あ、、、、あ、、!

真っ赤なコートに長い髪の毛、顔の半分を覆う真っ白なマスク。
口裂け女が藤枝の後ろに、いつの間にか現われていた。藤枝はこの雰囲気に全く気が付いていなようでこちらにバットのようなものを振りかぶりながら全力疾走してくる。
藤枝と口裂け女の距離はそんなに離れてない!それに何かを手に持ってる!たぶん鎌だ!やばい!
そう思った瞬間にはもう遅かった。口裂け女はすでに動き出していた。瞬間に頭の中が真っ白になる。なにも考えることができない。
しかし次の瞬間には、わたしの視界に新しい赤い影が増えていた。その赤い影はいつの間にか口裂け女の影と重なっていた。
すべて一瞬の出来事で、何が何だか分からない。

「……ん?!」

重なり合った影のすぐ近く、2メートルも離れてないような位置で藤枝は立ち止っている。

「はぁ!?」

何が起こったのか理解していないんだろう。
重なり合った口裂け女と口裂け男は何をしているのかよくわからないが、小刻みにその体が動いている。戦っている……のだろうか?わからない。

「え、と、えっと、えっと、、、、ナオコ!」

きっと何を考えても答えが出なくなったんだろう。藤枝が混乱した顔をしながらわたしのほうへ駆けよってくる。

「ナオコ!大丈夫!?どうしたのいきなり立ちつくしちゃってさー!なんで口裂け女が二人も居んの!?おーい!?ナオコー!?もしもーし!?」
「う、、、あ、、」

駆け寄ってきた藤枝に声をかけられるが、恐怖心が先行してうまく喋ることができない。
いや、待て。どうして藤枝は普通に喋れる!?どうして動ける!?どうして何も感じてない!?なんでそんなに普通なの!?
わたしの体は変わらず動かない、変わらず声が出ない、言う事を聞かないのに!

「え、何!?なんで動かないのナオコ!?ちょっとナオコ!?」

動かないわたしに驚いたのか、藤枝はわたしの肩をつかみ前後左右振り回すように揺さぶってくる。

「もーしもしもしもしもしもーし!?」

なんていうか、

「も「アホしてんじゃない!」」

うざったい!
そのうざったさに恐怖心が和らいだのか、声を出すことに成功した。気がつけば体を動かすことができるようになっている。

「おー、動いた動いた」
「動いたじゃない!」

全くこのドドフジが!緊張感が無いのか!
でも、そのおかげで動けるようになった。なんで藤枝が動けるかは後で坂本さんに聞けばいい。
それより、速くこの場を離れないと!でも離れていいのか?ポマードとか持ってるのはわたしだ。この場から離れたらいつ使う?
でもこの場から離れないと安全が

「じゃ、私あいつらにバキッとやってくるからー」
「は?」

藤枝はわたしにそう告げると手に持っていたバットを両手で握り直し腰の位置に構える。

「レッツゴ「ちょっとぉおお!?」ウゲッ!?」

意気揚々と走りだそうとする藤枝の服の後ろ襟を掴み無理やり停止させる。

「ケホッ!ケホッ!なによー!」
「なによじゃないわよ!あんた何しようとしてんの!?」
「え?いやどっちが伊斗子殺した犯人かわからないからどっちも殴ろうと「そういう問題じゃないわよ!」」

あああああもう!こいつは!わたしがどんな思いで来たか全くわかってない!
あんなお化け同士の喧嘩に巻き込まれたら死ぬに決まってんじゃない!そしたらわたしがここに来た意味が無いっつーの!
藤枝をこっちに引っ張りその体を両手で抱き抱え、力いっぱい締め付ける。

「いたい!いたいってー!」
「うるさい!」

こうでもしなきゃ藤枝はきっと彼らの所へ向かって行ってしまうだろう。
藤枝の体を押さえながら坂本さんの方を見る。いつの間にか坂本さんと口裂け女の体は入れ替わっていて、口裂け女がわたしたちに背を向けている。
その手には鎌を持ち、両手は素早く動いている。坂本さんの手にも鎌が収まっており、やはりこちらも両手は素早く動いている。
暗く、明りが街灯だけのせいかもしれないが、二人ともわたしの目では捉えられないほどの速さで動いていた。
しかし、音はほとんど聞こえず、聞こえるのは数秒に一回の金属同士がぶつかるような不愉快な音のみ。その音が聞こえる瞬間に火花が飛び散る。
鎌同士がぶつかっているのだろうか。
足元を見ると、何かキラキラと光る小さい何かがばら撒かれている。あれは、おそらく坂本さんが事前に作っていたベッコウ飴だろう。
わたしたちが喋っているうちにばら撒いたのか。しかし、口裂け女は見向きもしていない。どうしてだろうか?
口裂け女はベッコウ飴が大好きで、ベッコウ飴を口裂け女に投げると食べてる間に逃げれると聞いたことがある。これは結構メジャーな口裂け女のイメージなはずだ。
でも口裂け女は反応を示していない。あれが本当に都市伝説が実体化した口裂け女なら飛びついてもよさそうなもんだけど。

「離せって、ん?ナオコなんか聞こえない?」
「え?そんなの聞こえ」

いや、聞こえる。何の音?車みたいだけど違う。この音にはそれなりに聞きおぼえがある。
たしか、

「これってバイクの」

藤枝の言葉にハッとする。そうだ。

「篤子もこっちに向かって来てるんだった!」
「マジ!?」

人もほとんど住んでいないこのあたりは静かで音も響きやすい。バイクの音はまだ小さいが後1分もしない内に来るだろう。
いやいやいやいや!来てもらっちゃ困る!すごい困る!こんな危ないところに来たらものすごく困る!
でも、わたしたちに来るのを止める術はない。掛けるしかないんだ。篤子がここに着く前に決着がつくことを。

「おい!」
「は、はい!?」

そう思った矢先、坂本さんから怒声が聞こえてくる。

「あれ用意しろあれ!」
「あれ!?」

あれ?あれって何だ?

「速くしろ!」

速くって言っても!あ!ポマードか!
思い至り慌ててポケットに入れていたポマードを取り出す。ポマード自体はナイロン袋に5重に包まれている。
しかし、取り出す苦労が無いように別のポケットにカッターナイフを入れてある。

「あれ?」

ポケットに手を入れるが何の感触もない。手に伝わる感触はポケットの生地の感触のみ。
入ってるはずなんだ!だって入れたんだもの!入ってなきゃおかしいって!

「何してる!」

彼の怒声を受けながら必死にポケットの中を探るが、カッターナイフは見つからない。
頭の中で導き出された結論、それは来る途中で落とした以外に考えることはできない。考えてみればあんな移動法してれば落ちて当たり前かもしれない。
ああああああああ!あああ!落ち着けわたし!起こったことを後悔するのは後!無いなら素手で袋を開ければいいのよ!
すぐさま結び目を解こうとするが、結び目は固くなかなか解くことができない。
速く!速く!速く!速く!
焦る気持ちとは裏腹に一向に解ける様子はなく、むしろ緊張で手が震えまともに結び目を掴んでいることすら危うい。
あ~もう!チクショウ!

「藤枝!」
「な、ナニ!?」
「中身出して!」

藤枝に袋を押しつける。
今わたしがやるよりも、藤枝がやった方が絶対速い。

「ハッハーン。あれかー。最終兵器ってやつか」

藤枝は勝手に納得したのか、袋の閉じ目を解き始める。
まあ、対口裂け女の最終兵器には違いない。

「解くのメンドくさ!破っていいよね?」
「どうやってもいいから速く!」
「よっしゃー!」

許可すると同時に袋を一気に破りさく。五枚同時に。
ほんとに身体能力だけは高いなこいつ。

「何これハンドクリーム?」
「いいから蓋開けて!」
「もう何よー!」

文句を言いつつも藤枝は言うとおりに蓋をあける。それと同時に少しきつめの匂いが鼻に薫る。
よし!

「取り出しました!」
「速く投げろ!」

口裂け女と争いながらも、わたしの言葉に応じすぐさま返事が返ってくる。
彼が口裂け女と戦って押さえてるうちに!

「藤枝!口裂け女に向かってそれ投げって!」
「よくわからーん!」

わたしもだ。
藤枝の叫びに同意しながら、藤枝が投げるポマードを見つめる。
藤枝の無駄に高い身体能力はいかんなく発揮され、プロにでも通用するんじゃないのかと思うほどのスピードで口裂け女に向かって飛んでいく。

「あっ」

飛んで飛んで、口裂け女の頭の横を通過し、今まさに口裂け女に攻撃せんとする坂本さんの顔面に直撃した。

「う゛ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

まともにその匂いをかいだせいなのだろう。彼は顔をゆがませ絶叫しながら自分の顔を掻きむしる。もしかしたらポマードが顔についたのかもしれない。
自分にとっても弱点だと言ってたから。

「ああああああああ!おおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああぁああ゛!」

というか、もはや発狂してる。
自分の顔を掻きむしりすぎて顔から血を流している。やばい。この状況は非常にまずい。わたしが藤枝に任せたばっかりに大変なことになってしまった!
どうしよう!どうしよう!そうだ!口裂け女の方はどうなったんだ!?今何をしてるんだ!?
現実逃避していた意識をもう一度現実に引き戻し、視界にとらえていたはずの口裂け女に意識を向ける。
口裂け女は、足元をふらつかせていた。口裂け女の足元にはポマードが転がっている。
坂本さんはビニールでポマードを包めって言っていた。それは匂いが漏れないようにするためだ。しかし、普通は蓋を閉めていれば匂いなんて近くで嗅がなきゃわからない。
つまり坂本さんは普通の状態でも匂いがかぎとれたんだ。坂本さんは口裂け女と同じような特性を持っている。
それは、口裂け女も坂本さんと同じ程の特性を持ち合わせているってことじゃないか?
なら、いくらマスクをしていても足元にポマードがあればふらつくほど匂いを嗅いでしまう。でも、肝心の坂本さんはあんな状況だ。
わたしのせいで失敗しちゃったんだ!どうすれば!どうすれば!

「どういう状況これー!?私はどっちをバッキすればいいのさ!?やっぱ両方やるしかないよね!」

困惑する藤枝をよそに覚悟を決める。
こうなったのはわたしのせいなんだ。坂本さんだってまさか自分に当たるとは思ってなかっただろう。その失敗はわたしがなんとかしなくちゃいけない。
今は恐怖心を捨てなくちゃ!口裂け女はふらふらで、わたしでもその体を押さえられるかもしれない。その間になんとか態勢を立て直してもらうんだ。
わたしにはそれしか思い浮かばないし、それしかできない!しなきゃ後悔する!あ~あ、やっぱ藤枝のことなんも言えないな。
足に力を込め一歩を踏み出す。それに連動させるように体を前に出し腕を振る。
恐怖心を捨てろ!恐怖心を捨てろ!恐怖心を捨てろ!恐怖心を捨てろ!恐怖心を捨てろ!恐怖心を捨てろ!恐怖心を捨てろ!恐怖心を捨てろ!恐怖心を捨てろ!
少しでも口裂け女の姿を見ないように顔を伏せながら、心の中で唱えながら、必死の思いで体を動かす。
二歩目の時点で体は完全に走るという行為に切り替わる。あとはそのまま足を動かし続けるだけを考える。
そうすればわたしは口裂け女のところまで行けるんだ!
三歩四歩五歩、走り始めた体は一切止まることなく突き進んでいく。
もう、わたしが止まる理由は何もない。

はずだった。

走り始めたわたしの視界の端に真っ赤な何かが写り、同時に風が通り抜ける。
瞬間的に何かが自分の体の横を通り抜けたのだと悟る。動かしていた足を無理やり止めながら後ろを振り返る。
そこには圧倒的とは言わないまでも、かなりの速さで藤枝の横を走りぬける口裂け女の姿があった。藤枝は頭が混乱しているのだろう。
何の反応も出来ていない。
そうだ。そうだよ。弱っているなら、とどまらずに逃げるなんて当たり前の考えじゃないか!

「あッ!」

突然、目の前が真っ白になる。比喩的な表現ではなく物理的に。そして耳に聞こえてくる大きなエンジンのバイク音。
篤子だ!篤子が来たんだ!視界が真っ白になったのはライトを直視しちゃったんだ。
そう思ったのもつかの間、何かがひしゃげる様な、そして大きく重いものが引き摺れるような音。

「篤子っ!」

そして藤枝の叫び。
真っ白だった視界が回復し目にした光景は、裏道の入り口のあたりに転がるバイク。倒れているフルフェイスヘルメットの人。そしてその人の近くで膝をついている藤枝。
そして、倒れているうつ伏せに口裂け女。
その光景を目にすれば何が起こったのかは容易に想像がつく。口裂け女が逃げようとして、丁度ここに来た篤子のバイクと衝突したんだろう。
バイクはいくら住宅街だからといっても速度は出ていただろうし、口裂け女も車に迫るかと思うほど速かった。
そんな二つが衝突すれば、こうなって当然なのだろう。

「篤子!篤子!しっかり!篤子!」

篤子の頭を抱えながら、藤枝は必死に呼びかける。バイクから投げ出されて地面に体を打ちつけられたのだろう。その体はピクリとも動いていない。
速くわたしも篤子の所に走らないと!
その思いが頭を駆け巡ると同時に、視界にとらえている口裂け女の体が動き、その腕が地面を掻く。
その口裂け女を見て篤子と藤枝から目をそらし、背を向けて坂本さんの所へ走り出す。
今あそこにわたしが行って何になる!?何ができる!?呼びかけるだけ!?そうじゃない!わたしがすることはそうじゃない!
じゃあ、倒れている口裂け女を倒すこと!?それも違うでしょ!わたしで倒せるの!?倒しきれるの!?わたしにはあいつらについて何の知識もない!
何をするべきか!?それは!

「鼻にぃいい!鼻にいぃいいいぃいいいいいいい!」
「起きろぉおお!」

走る勢いをそのままに拳を振りかぶり、勢いをつけ坂本さんの顔面を殴りつける。
わたしにできることは!彼をまともな状態に引き戻すこと!
今の彼はきっとパニックになっているだけだ。自分の弱点が自分の顔についたのならなっても仕方ない。
だったら!わたしが何とかするしかない!
彼から借りたゲロ付きのハンカチを取り出し、仰向けに倒れている彼の顔面にハンカチを擦りつける。

「う、え、あ?」

焦点があってなさそうな目から、現実を見据えた様な眼に戻っていく。

「クサッ!ゲロクサっ!?顔いてえし!」

慌てて彼は起き上がる。

「ああああ!鼻からポマードの匂いがする!チクショウ!死にそう!」
「いいから早く口裂け女を!」
「ああ!」

彼はすぐさま立ち上がると、駈け出した。その先にはすでに立ち上がっている口裂け女がいる。
口裂け女がこちらを振り返る。

「……!」

マスクが外れたその顔は、口裂け女の名前の由来でもある裂けた口が露出していた。
普通では絶対にできないであろうところまで口を開き、目を見開いている。それはまさしく鬼の形相そのもの。その姿を見て、なにもできなくなる。
息をすることさえできない。しかし、坂本さんにはそんなことは関係なかった。坂本さんがその横を素早く駆け抜ける。
その瞬間、威圧感が無くなる。終わったのだろうか……。
見つめていると動きがあった。口裂け女の頭が動いたのだ。ただし、頭の半分だけが。
上顎から上がズルズルと動き、地面に落ちる。そして2秒3秒ほどしたのち、スッと、初めからいなかったかのように消えてしまった。
その場には何も残っていない。終わったの、だろうか?

「篤子!」

藤枝の声に思い出す。そうだ。まだ終わってない!篤子はどうなったんだ!?
すぐさま立ち上がり篤子と藤枝のもとへ走る。

「藤枝!篤子は!?」
「わかんないよー!全然動かないんだもん!」
「とりあえずヘルメットとった方がいいんじゃ」
「事故したはね」
「「篤子っ!」

ヘルメットの奥から発せられた言葉に、驚き目を開く。それと同時に安心にため息をつく。
無事だった。篤子は無事だったんだ。
篤子は藤枝の肩に手を置きながらゆっくりと上体を起こしていく。

「事故した時は、頭とかなるべく動かさないようにって聞いたことないのあなたたち。う~、体中が痛い」
「大丈夫ー!?」

藤枝が焦ったように篤子を気遣う。
篤子はゆったりとした動作でヘルメットをはずすと、そのヘルメットを勢いよく横に振り隣にいる藤枝の横っ面に打ち付ける。
藤枝は言葉を洩らすことなくもんどりうって倒れてしまう。

「私やナオコや自分の家族に迷惑をかけたのはそれで許してあげる」
「……ごめん」

フルフェイスのためメガネをかけずにいる篤子の目はいつもより厳しそうな眼をしている。
その眼がこちらに向けられる。

「まったく、ナオコも帰りなさいって言ったでしょう」

カチンときた。

「篤子。あんた何様よ。わたしには行動する権利あがって、行動する意思があった。それを篤子に全部否定するされる言われはないわ」
「そうね」
「……あれ?なんかえらく聞きわけがいいわね。なんか色々言われるかと思ったけど」
「どうせ来ると思ってたもの。途中で拾おうかと思ってのよ。でもこんなに早く来れるなんて。一体どうして」
「俺が運んだからな」

わたしたちのすぐそばにまで坂本さんが接近していた。
さっきはカチューシャもしてなかったしコートの前も閉じていた気がするが、今はカチューシャもしているし、コートの前も開いている。
そして、ジーパンは赤黒く染まっていた。足元をよく見れば所々血が点々と垂れ落ちている。さらに足元もふらついている。

「ど、どうしたんですか!血が!血!」
「ああ。大丈夫大丈夫。治りかけてた傷が開いただけだから。あの口裂け女にやられたわけじゃないよ」
「そう、なんですか」
「そうそう。もともとこんな傷があったから協力してほしかったんだよ。万全ならあの程度の口裂け女なら楽に瞬殺できるさ」

そ、そうだったんだ。あ、そうだ!

「あの!すいませんでした!」

彼に向かって頭を下げる。

「ポマードのこと!あの!」
「気にしなくてもいいよ。とりあえず何とかなったんだし。まあ、ポマードが鼻付いたのはやばかったな。足元まだふらつくし頭痛いし」
「ほんとすいません!それと」
「ん?」
「あの、ありがとうございました!」
「こちらこそ、色々協力してくれてありがとうございました」

わたしが頭を下げると坂本さんも頭を下げてくれた。
色々むかつくところもあったけど、この人がいなかったらきっと大変なことになっていたに違いない。
そう思っているところに、突然ライトで照らされる。そのまぶしさに手を前にかざし影を作る。エンジン音から車だとわかる。
座り込んでいたわたしは立ちあがる。藤枝も立ち上がり、篤子も藤枝の手を借りながらよろよろと立ちあがる。
わたしたちに接近してきていた車は目の前で止まる。
その車は救急車だった。それもただの救急車ではない。

「黄色い救急車……」

篤子が声を漏らす。
そう。黄色い救急車だ。黄色い救急車といえば口裂け女と同じく都市伝説だ。精神を患っている人の所に来て、精神病院に連れていくっていう都市伝説。
その都市伝説が今目の前にある。しかし、考えてみればこの都市伝説は口裂け女に比べたら驚くようなもんじゃない。
黄色い救急車なら人でも簡単に作れる。そう思っているからこそ、なにも心動じることはなかった。
止まった救急車の運転席から人が降りてくる。
黒々としたマニッシュショートの髪、灰色のスモックブラウスをきた女の人だった。右目に流れている髪の奥には、何やら眼帯のような白っぽいものが見える。
しかし、それがあってもきれいだと言える顔立ちだ。

「こんな所で何をしているんだ光輝君」

救急車の女が口を開いたかと思えば、その口から坂本さんの名前が出てくる。
どうやら知り合いらしい。

「見たところ傷口が開いているようだけど」
「何ともなかった……とは言いませんけど、なんとか倒しましたよ口裂け女」
「よくその倒せたものだ。動くだけで激痛だったろうに」
「この人に、石田さんに手伝ってもらったんですよ」

彼はそう言うとわたしの方を指し示す。
運転席の女はわたしをしばらく見つめると、近寄ってきてわたしに手を差し出した。

「彼に協力してくれてありがとう。彼とは別にお礼を言おう。もし彼が殺されでもしたら、私は貴重な雑用を失うところだった」

後ろの方で彼が苦笑いしているのが見える。

「いえ、こちらこそ。彼がいなかったらわたしは親友を殺されていました」
「そうか。それはよかった。私の名前は麦野。麦野アブラカダブラだ。よろしく」

え~~~~~~~~~……
完全に偽名じゃん。本名教える気ないじゃん。坂本さんが言ってた名字だけ本名ってこの人のことなんだろうな。

「アブラカダブラってすっごい変わった名前ー。あれ?なんかゲームとか漫画にこんな言葉で来なかったっけ?」
「藤枝は黙ってなさい」

篤子が馬鹿の口を塞ぐ。

「ちょうどいい。聞きたいことがあるんだ。人を探しているんだが、見つからなくてね。色々あって役所なども利用できないのよ。
 だがこの町にいることは確かなはずなんだ」
「えっと、なんて名前の人ですか?」
「うん。百々石原というちょっと変わった名前なんだけど、知らないかね」

え~と、百々?

「……百々ですか?」
「ああ。百々という名字の人間だ。日本にもほとんどない名字だから珍しいはずなんだが」
「あのー」

藤枝が手を挙げている。

「百々石原ってうちのじいちゃんですよー」
「……何?」
「だから、うちのじいちゃんですって。私の名前百々藤枝ですよ。もうこれが証拠でしょー」
「どこだ!」

感情を全く感じられなかった麦野さんは、いつの間にか藤枝に詰めより胸ぐらをつかみ上げ叫ぶ。

「どこにいる百々藤枝は!」
「じいちゃんは、死にました」
「………………は?」
「だーかーらー。去年死んじゃいました」

その言葉聞くと、麦野さんは藤枝から手を離し、呆然と立ち尽くす。
その表情は信じられないといった感じだ。何かがごっそりと抜け落ちた感じ。しかし、その顔はすぐさま力を取り戻していく。

「遺品だ!百々石原の遺品は何か残っていないの!?」
「えっと、実家から離れて暮らしててー。その家まだ全然片づけてないから遺品なんてゴロゴロしてると思いますけど」
「お願いだ!私にその遺品を見せてくれないか!」
「全然いいですけどー」
「ありがとう!本当にありがとう!」

藤枝の手を握り、感謝に頭を下げる麦野さん。藤枝も少し照れくさそうな、しかしちょっと慣れてなそうな顔をしている。
麦野さんのその姿は少し痛々しさを感じた。なぜかはよくわからない。
麦野さんはしばらくすると手を離して頭を上げた。その時にはすでにさっきまでの麦野さんに戻っていた。

「光輝君」

そして坂本さんのことを呼ぶ。

「はい?」
「君にはいいお知らせがある。ドレスが言葉に反応するようになった」
「マジっすかぁ!?」

坂本さんは大きな声を出しながら、目を限界まで見開いている。

「この町には口裂け女の噂が蔓延しているからな。体に存在を溜める効率がいいんだろう。そして、しばらくこの町に滞在することになった。
 だからこの町を出るころには喋れるようにはなっているかもしれない」
「マジなんですよね!それマジですよね!」
「ああ。マジだとも」

何の話をしているのかわからないし、なにがしたいのかわからないけど、よくわからない人たちの滞在が決定した。



モデルケース『口裂け女』終



「わたし、きれい?」

環境整備も行き届いていない裏道で、真っ赤なコートに大きな白いマスクを付けた長い髪の女が、口裂け女が学生に喋りかけた。
その手には鎌が握られており、学生に見せつけるかのように刃を傾ける。
しかし、学生の顔に焦りの色は全く見えない。眉間にしわを寄せ、口元を不愉快そうに釣り上げている。

「知りません」

その表情を維持したまま学生は口を開く。口から出てきた言葉には完全な拒絶の意志が込められている。
口裂け女にもその意志がわかっているのだろう。しかし、それを無視したように開いている左手で口元に付けていたマスクをはぎ取る。
そこには醜く耳にまで引き裂かれた口が露出した。見ているだけで怖気が走るような、その風貌。

「こぉれぇなぁらぁ、どぉぉおおおお?」
「好みじゃないんで」
「……えっ?」

しかし学生は全く動じていなかった。それどころか、さらに眉間の皺を増やしていく。

「いや、もっとなにか無いの?醜いだとか。きれいだとか」
「しつこいな。好みじゃないって言ってるでしょ」

学生は鬱陶しそうに口裂け女を眺める。

「大体なんですか。その特殊メイク。そこまでして俺をビビらしたいのかよ」
「え?これ特殊メイクなんかじゃ「どうせあんたも学校の連中に頼まれたんだろ!」……はぁ?」
「どうせそこらへんで見てんだろ!出てこいよ!鬱陶しいんだよ!やんなら学校だけにしろよ!そんなにいじめて楽しいか!」
「あの……ちょっと?」

学生は口裂け女を無視し、顔を真っ赤にしながらあたりを見回す。

「おいコラ!いつまでもやられてばっかだと思うなよ!やってんやんぞ!やるつってんだろぉ!出てこいよ!」
「お願いだから聞いてよぉおお!」

学生が同級生の仕業でないと気がつくのは、それから5分後のことだった。




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