夫が死んだ。
隣を見れば娘が、反対側を見れば息子と夫の親友たちが泣いている。
棺桶の中に死体はない。ぐちゃぐちゃになって燃えてしまった。一応、体と呼べるものがあったが、ただの肉片であり夫と呼べるものではなかった。
葬儀には多く人間が参列した。夫にはなかなか人望があったらしい。勤めていた会社の上司の人たちも、その目に涙を浮かばせている。
もう一度娘と息子を見る。泣いている娘と息子。自分の子供にここまで愛されていたのなら幸せだろう。
会社の人間にここまで愛されていたのなら幸せだろう。
よき友人たちがいたなら幸せだろう。
そして、誰よりも速く車を走らせながら死ぬことができたのなら幸せの絶頂だろう。
おめでとうあなた。今までありがとう。
そしてさようならあなた。
あたしもあなたみたいに『速く』死にたいよ。
隣を見れば娘が、反対側を見れば息子と夫の親友たちが泣いている。
棺桶の中に死体はない。ぐちゃぐちゃになって燃えてしまった。一応、体と呼べるものがあったが、ただの肉片であり夫と呼べるものではなかった。
葬儀には多く人間が参列した。夫にはなかなか人望があったらしい。勤めていた会社の上司の人たちも、その目に涙を浮かばせている。
もう一度娘と息子を見る。泣いている娘と息子。自分の子供にここまで愛されていたのなら幸せだろう。
会社の人間にここまで愛されていたのなら幸せだろう。
よき友人たちがいたなら幸せだろう。
そして、誰よりも速く車を走らせながら死ぬことができたのなら幸せの絶頂だろう。
おめでとうあなた。今までありがとう。
そしてさようならあなた。
あたしもあなたみたいに『速く』死にたいよ。
モデルケース『ターボババア』①
腕時計を見る。8時50分、待ち合わせのちょうど10分前。
櫛間篤子はそれを確認すると、あたりを見回した。彼女が待ち合わせている人物はまだ来ていない。
それを確認し、彼女は近くのガードレールに腰を乗せる。
櫛間篤子はそれを確認すると、あたりを見回した。彼女が待ち合わせている人物はまだ来ていない。
それを確認し、彼女は近くのガードレールに腰を乗せる。
(この1週間、色々あったわ)
櫛間篤子は思い馳せる。桑村伊斗子が死んだと聞いてからの1週間を。
(伊斗子が死んだ)
彼女の親友である桑村伊斗子は口裂け女に殺されてしまった。彼女がそれを知ったのは殺された次の日である。
死んだと聞かされた時、涙は出なかった。彼女にとって、それはショックなことだった。
親友だったはずの人間に対して、自分は涙を流せないなんてなんて薄情な奴なんだろうと苦悩した。
しかし、それは桑村伊斗子の死を実感できていなかっただけと知った。
死んだと聞いた次の日、桑村伊斗子の葬式に篤子は出席した。葬式の前日、彼女は桑村伊斗子を殺した犯人である口裂け女に係わったゴタゴタで通夜には出席していない。
桑村伊斗子の実家にて行われた葬式で、死亡後の伊斗子に彼女は初めて対面した。
口裂け女に殺された被害者はすべて口を引き裂かれていると聞いていたが、桑村伊斗子の顔は生前と何ら変わりないように篤子には見えた。
しかし、すぐさまここの中でそれを否定する。死体には化粧が施してあった。生前の桑村伊斗子は化粧っ気のない女性だった。
近くでよく見ると、口の端から耳たぶのあたりにまでうっすら線のようなものがあることが確認できた。引き裂かれた口を昨日のうちに修復したのだろう。
安らかに目を閉じ、死化粧を施された伊斗子を、篤子はしばらく眺めていた。
棺桶のそばで泣きじゃくる伊斗子の母親と、それを慰めながらも自分も泣いている伊斗子の父親。着ているのは当然喪服である。
篤子はあたりを見渡した。死体が置かれている座敷には、すでに多くの親戚たちが集まっている。そのすべての人たちも、やはり喪服である。
自分が着ているのも喪服だと、篤子は改めて確認する。そして、再び伊斗子に目を戻した。死化粧。棺桶。喪服。すべて死人のためにあるものだ。
それらはすべて、自分の親友である桑村伊斗子のために使われているとはっきり確認した時、初めて篤子は伊斗子の死を認めた。認めてしまった。
涙が、あふれた。
死んだと聞かされた時、涙は出なかった。彼女にとって、それはショックなことだった。
親友だったはずの人間に対して、自分は涙を流せないなんてなんて薄情な奴なんだろうと苦悩した。
しかし、それは桑村伊斗子の死を実感できていなかっただけと知った。
死んだと聞いた次の日、桑村伊斗子の葬式に篤子は出席した。葬式の前日、彼女は桑村伊斗子を殺した犯人である口裂け女に係わったゴタゴタで通夜には出席していない。
桑村伊斗子の実家にて行われた葬式で、死亡後の伊斗子に彼女は初めて対面した。
口裂け女に殺された被害者はすべて口を引き裂かれていると聞いていたが、桑村伊斗子の顔は生前と何ら変わりないように篤子には見えた。
しかし、すぐさまここの中でそれを否定する。死体には化粧が施してあった。生前の桑村伊斗子は化粧っ気のない女性だった。
近くでよく見ると、口の端から耳たぶのあたりにまでうっすら線のようなものがあることが確認できた。引き裂かれた口を昨日のうちに修復したのだろう。
安らかに目を閉じ、死化粧を施された伊斗子を、篤子はしばらく眺めていた。
棺桶のそばで泣きじゃくる伊斗子の母親と、それを慰めながらも自分も泣いている伊斗子の父親。着ているのは当然喪服である。
篤子はあたりを見渡した。死体が置かれている座敷には、すでに多くの親戚たちが集まっている。そのすべての人たちも、やはり喪服である。
自分が着ているのも喪服だと、篤子は改めて確認する。そして、再び伊斗子に目を戻した。死化粧。棺桶。喪服。すべて死人のためにあるものだ。
それらはすべて、自分の親友である桑村伊斗子のために使われているとはっきり確認した時、初めて篤子は伊斗子の死を認めた。認めてしまった。
涙が、あふれた。
(まさか、3人の中で一番死んだと認めてなかったのが私なんてね)
死んだと聞いた日、涙が出なかったのは死んだと認めていなかっただけだったのだ。
自分があまり泣かないのは、何でもかんでも泣く理由を認めてないだけかもしれないと、篤子は自分を冷静に分析している。
自分があまり泣かないのは、何でもかんでも泣く理由を認めてないだけかもしれないと、篤子は自分を冷静に分析している。
(そういえば、藤枝は大変なことになってたわね)
口裂け女と係わり合った夜、そこで出会った麦野アブラカダブラは3日後に会う予定をして坂本光輝と黄色い救急車に乗ってどこかへ去って行った。
その後、篤子の連絡を受け藤枝の父親がやってきた。藤枝の父親は、車から降り、なにも言わず藤枝の前に立つと間髪いれず藤枝を殴り倒した。
篤子とナオコがあっけにとられている間に、藤枝の父親は藤枝を掴み上げ無理やり立ちあがらせる。
その後、篤子の連絡を受け藤枝の父親がやってきた。藤枝の父親は、車から降り、なにも言わず藤枝の前に立つと間髪いれず藤枝を殴り倒した。
篤子とナオコがあっけにとられている間に、藤枝の父親は藤枝を掴み上げ無理やり立ちあがらせる。
「二人とも。今日は本当にすまなかったね」
藤枝の父親はそう言うと、藤枝を引き連れさっさと車で帰ってしまった。
次の日、桑村伊斗子の葬式で篤子が見た藤枝の有様は、ひどいものだった。
態度は伊斗子の葬式という事もあっていつもよりおとなしいものであったが、篤子が驚いたのはそこではなかった。ひどい有様だった部分は顔だった。
藤枝の顔は、左頬が大きくはれ上がり、大きな痣ができていた。のちに語った藤枝によれば、この時奥歯が折れていたらしい。
なんでも、家に帰った後またグーで左頬のあたりを思いっきり殴られたんだそうだ。
さらに次の日、藤枝の髪の毛が劇的に変わっていた。
肩まで伸ばしていたつややかな髪は、ばっさり切られ短めのおかっぱ頭に変わっていた。ボブカットなどではなくおかっぱという方がしっくりくるそんな髪型。
篤子もナオコもこれにはさすがに驚いた。
藤枝という女学生は、偏屈なまでに肩までのストレート好む人間であり、小学生のころから髪型を変えたことがない人間だったからである。
それを知っているからこそ、二人は驚いた。そして、伊斗子が死んだことにどれだけショックを受けたのかを悟る結果となった。
どうしておかっぱなのか、ナオコは知っているんだろうなと篤子は思う。ナオコは彼女よりも驚いていたからだ。
しかし、彼女はその理由を聞こうとは思っていない。いつか話してくれるだろうと信じているからだ。今は。聞くべき時ではない。
彼女はそう思っていた。
次の日、桑村伊斗子の葬式で篤子が見た藤枝の有様は、ひどいものだった。
態度は伊斗子の葬式という事もあっていつもよりおとなしいものであったが、篤子が驚いたのはそこではなかった。ひどい有様だった部分は顔だった。
藤枝の顔は、左頬が大きくはれ上がり、大きな痣ができていた。のちに語った藤枝によれば、この時奥歯が折れていたらしい。
なんでも、家に帰った後またグーで左頬のあたりを思いっきり殴られたんだそうだ。
さらに次の日、藤枝の髪の毛が劇的に変わっていた。
肩まで伸ばしていたつややかな髪は、ばっさり切られ短めのおかっぱ頭に変わっていた。ボブカットなどではなくおかっぱという方がしっくりくるそんな髪型。
篤子もナオコもこれにはさすがに驚いた。
藤枝という女学生は、偏屈なまでに肩までのストレート好む人間であり、小学生のころから髪型を変えたことがない人間だったからである。
それを知っているからこそ、二人は驚いた。そして、伊斗子が死んだことにどれだけショックを受けたのかを悟る結果となった。
どうしておかっぱなのか、ナオコは知っているんだろうなと篤子は思う。ナオコは彼女よりも驚いていたからだ。
しかし、彼女はその理由を聞こうとは思っていない。いつか話してくれるだろうと信じているからだ。今は。聞くべき時ではない。
彼女はそう思っていた。
(ナオコは……特に変わったところはないわね)
石田ナオコは良くも悪くも平凡な人間である。予想以上のことをしなければ、予想以下のこともしない。
親友が死んで悲しみ落ち込んでいたが、それだけだ。
親友が死んで悲しみ落ち込んでいたが、それだけだ。
(いいえ、)
篤子は不意に否定する。変わったところは、あった。本をよく読むようになった……らしい。
らしい、というのは篤子自身がその目で確認していないからだ。あくまでナオコの母親である石田ユキコから聞いた情報である。
何を読んでいるかまでは把握していないらしいが、それでも娘が本をよく読むようにあったのはうれしいと篤子に語っていた。
それと同時に、興奮した様子で娘に彼氏ができたとも語っていた。しかし、それはユキコの認識違いであることを篤子は知っている。
ユキコが娘の彼氏だと思っている人物は口裂け女とのゴタゴタで知り合いになった坂本光輝である。
ナオコと光輝は最近よくともに行動しているようで、今日は藤枝も交えて行動すると言っていた。
らしい、というのは篤子自身がその目で確認していないからだ。あくまでナオコの母親である石田ユキコから聞いた情報である。
何を読んでいるかまでは把握していないらしいが、それでも娘が本をよく読むようにあったのはうれしいと篤子に語っていた。
それと同時に、興奮した様子で娘に彼氏ができたとも語っていた。しかし、それはユキコの認識違いであることを篤子は知っている。
ユキコが娘の彼氏だと思っている人物は口裂け女とのゴタゴタで知り合いになった坂本光輝である。
ナオコと光輝は最近よくともに行動しているようで、今日は藤枝も交えて行動すると言っていた。
(坂本光輝か)
目下、篤子にとってよくわからない人物その1である。
身長は170センチほどで、手入れをしていない乱れた髪の毛をカチューシャで後ろへ押さえつけている。
篤子の見立てでは年齢は自分たちよりは上だが、そこまで離れていないだろうとしている。
彼がナオコをストーカーしていた口裂け女の正体であることは、すでにナオコから聞かされている。
なんでも口裂け女の被害者たちには実は共通点があり、ナオコにもその共通点があったらしい。
しかも、その共通点はナオコどころか藤枝や自分にもあったと聞いて篤子は驚いた。ただし、その共通点が何だったのかは教えてもらっていない。
その共通点などをナオコに教えた坂本光輝は、普段は真っ赤なコートを着てカチューシャを外している。その姿はまさしく口裂け女そのものである。
その姿の彼に篤子は異様な威圧感を受ける。
身長は170センチほどで、手入れをしていない乱れた髪の毛をカチューシャで後ろへ押さえつけている。
篤子の見立てでは年齢は自分たちよりは上だが、そこまで離れていないだろうとしている。
彼がナオコをストーカーしていた口裂け女の正体であることは、すでにナオコから聞かされている。
なんでも口裂け女の被害者たちには実は共通点があり、ナオコにもその共通点があったらしい。
しかも、その共通点はナオコどころか藤枝や自分にもあったと聞いて篤子は驚いた。ただし、その共通点が何だったのかは教えてもらっていない。
その共通点などをナオコに教えた坂本光輝は、普段は真っ赤なコートを着てカチューシャを外している。その姿はまさしく口裂け女そのものである。
その姿の彼に篤子は異様な威圧感を受ける。
(威圧感じゃないわね)
威圧感ではなく恐怖。息をすることさえできなくなってしまうほどの恐怖を覚えるのだ。
彼が言うには次第になれるものらしいが、あれほどの恐怖に慣れることなんてあるのだろうかと、篤子は自分に問いかける。
体を動かすこともできない恐怖に慣れることができるのかと。そんな中、藤枝だけは全く平気だったことを思い出す。
彼女は光輝に対し、まったく恐怖を感じていなかった。恐怖を感じている篤子たちを後目にしっかりと受け答えをしていた。
篤子はそれを馬鹿だから恐怖心がマヒしていると結論付けた。あれでは参考になることなんて何一つない。きっとナオコも同意見だろうと篤子は思う。
彼が言うには次第になれるものらしいが、あれほどの恐怖に慣れることなんてあるのだろうかと、篤子は自分に問いかける。
体を動かすこともできない恐怖に慣れることができるのかと。そんな中、藤枝だけは全く平気だったことを思い出す。
彼女は光輝に対し、まったく恐怖を感じていなかった。恐怖を感じている篤子たちを後目にしっかりと受け答えをしていた。
篤子はそれを馬鹿だから恐怖心がマヒしていると結論付けた。あれでは参考になることなんて何一つない。きっとナオコも同意見だろうと篤子は思う。
(そんな人と一緒にいる麦野アブラカダブラ)
黄色い救急車に乗る、あからさまな偽名を使う女性。そしてよくわからない人物その2である。
右目に眼帯をしていること以外は見た目に怪しいところはない。
右目に眼帯をしていること以外は見た目に怪しいところはない。
(私は、あの人を見たことがある)
今でもよく覚えている。よく印象に残っている。麦野という女性の印象はそれほどまでに強い。
(でも、あの時は眼帯なんて付けてなかった)
篤子が物思いにふけっているとこに、足音が聞こえてきた。
その足音に反応し、篤子は顔を上げる。
その足音に反応し、篤子は顔を上げる。
「すまない。待たせてしまったかな?櫛間、篤子君だったかな?」
「あ、はい。あってます。私もさっき来たところですから。麦野さん」
「あ、はい。あってます。私もさっき来たところですから。麦野さん」
篤子の視線の先にいたのは、ついさっきまで思い巡らしていた麦野アブラカダブラだった。
時計は9時丁度。麦野は時間丁度に来る人間のようだ。
この間見たときと同じマニッシュショートに眼帯、今回は細めで灰色のタートルネックセーターを着込んでいる。
時計は9時丁度。麦野は時間丁度に来る人間のようだ。
この間見たときと同じマニッシュショートに眼帯、今回は細めで灰色のタートルネックセーターを着込んでいる。
「そうか。じゃあ早速案内してくれる?」
「はい。行きましょうか」
「はい。行きましょうか」
お互い最低限の挨拶だけ交わし、二人は歩きだした。二人の目的地は百々藤枝の祖父である百々石原の住んでいた家である。
篤子もナオコも何度か藤枝に連れて行ってもらったことがあるので家の位置は知っていた。
篤子もナオコも何度か藤枝に連れて行ってもらったことがあるので家の位置は知っていた。
「ひとつ聞いてもいい?」
「はい?」
「はい?」
沈黙の中、会話の糸口を見出そうとしていた篤子の予想を裏切り、麦野は自ら篤子に話しかけた。
予期せぬことに多少驚きはしたが、篤子はそれをおくびにも出さず対応する。
予期せぬことに多少驚きはしたが、篤子はそれをおくびにも出さず対応する。
「どうして道案内役を立候補したのかしら?」
今から4日前で、桑村伊斗子の葬式の次の日、麦野は藤枝と会っていた。
藤枝の祖父、石原の家に行く日を決めるためである。その日居合わせた篤子は自ら道案内兼家宅捜索に当たっての監視を立候補した。
本来なら藤枝が行うべきところだが、彼女は面倒だったのか喜んで篤子にその役を任せたのである。
藤枝の祖父、石原の家に行く日を決めるためである。その日居合わせた篤子は自ら道案内兼家宅捜索に当たっての監視を立候補した。
本来なら藤枝が行うべきところだが、彼女は面倒だったのか喜んで篤子にその役を任せたのである。
「君は藤枝さんやナオコさんと違って私とはまったく接点がないと思うのだけど」
そう、篤子には麦野とは全く接点がない。藤枝は祖父というつながりが、ナオコには坂本光輝というつながりがある。
それでも、篤子には自分から引き受けたのには十分な理由がある。
それでも、篤子には自分から引き受けたのには十分な理由がある。
「接点がないから立候補したんです。こうでもしない限り会う事もないと思いますから」
「なるほど。何か聞きたいことでもあるのかな?大方、都市伝説のことだと思うが」
「……やっぱりわかりますか?」
「なるほど。何か聞きたいことでもあるのかな?大方、都市伝説のことだと思うが」
「……やっぱりわかりますか?」
なんの接点も無いから、何の情報も入ってこない。
人並みに好奇心があれば、自分の身に降りかかったことを知りたいと思うのは当然のことだと篤子は考える。
好奇心は猫をも殺すというが、それは好奇心を持つなという事ではない。好奇心はほどほどにしろという意味である。
この好奇心は度を超えていないと篤子は信じている。
そもそも、口裂け女の被害者たちの襲われた共通点、つまり伊斗子が殺された理由などを麦野は知っているだろう踏んでいるからこそ、麦野に聞くことにしたのだが。
人並みに好奇心があれば、自分の身に降りかかったことを知りたいと思うのは当然のことだと篤子は考える。
好奇心は猫をも殺すというが、それは好奇心を持つなという事ではない。好奇心はほどほどにしろという意味である。
この好奇心は度を超えていないと篤子は信じている。
そもそも、口裂け女の被害者たちの襲われた共通点、つまり伊斗子が殺された理由などを麦野は知っているだろう踏んでいるからこそ、麦野に聞くことにしたのだが。
「君みたいな人が今までいなかったわけじゃないから。もっとも、今まではすぐに別の所に移動して答えなかったけど」
「今回は答えてもらえるんでしょうか?」
「答えない理由は無いよ」
「ありがとうございます」
「今回は答えてもらえるんでしょうか?」
「答えない理由は無いよ」
「ありがとうございます」
会話の最中も、二人の足が止まることはない。並行して目的地まで歩いていく。
しかし、喋り始めるとそちらに集中してしまい篤子の歩みは先程までより遅くなっていた。麦野はそれに気が付いていたが表には出さず、篤子の歩くペースに合わせる。
しかし、喋り始めるとそちらに集中してしまい篤子の歩みは先程までより遅くなっていた。麦野はそれに気が付いていたが表には出さず、篤子の歩くペースに合わせる。
「それでは、一番初めに聞きたいことがあったんですけれど」
「うん」
「なんで偽名なんですか?」
「うん」
「なんで偽名なんですか?」
初めから本題の質問をぶつけることを篤子はしなかった。初めからその質問をぶつけて、答えられてしまっては後に続かないとか思ったからである。
なので初めはどうでもよさそうな、しかし疑問に思っていることをぶつけることにした。
なので初めはどうでもよさそうな、しかし疑問に思っていることをぶつけることにした。
「なんとうか、予想していた質問とずいぶん違うね。別にかまわないけど」
麦野もさすがにそんなどうでもいい質問が来るとは思っていなかったようだ。
「私は7年ぐらい前までアメリカのとある団体に所属していたんだ。メンバー全員が契約者のね」
「契約者?」
「契約者?」
篤子にとって馴染みのない言葉が耳に入ってくる。
『契約者』
しかし、それが重要なキーワードであることは理解できた。
『契約者』
しかし、それが重要なキーワードであることは理解できた。
「そうだった。まずはそこから説明しないといけないな。簡単に言うと、契約者というのは都市伝説と契約して超能力が使えるようになった人間のこと」
「都市伝説と契約って……」
「たとえば今回の事件、この町を襲った都市伝説『口裂け女』は実体化した口裂け女。実はああいった現実に現れた都市伝説はたくさんいるんだよ。
今回みたいなことは実は特別なんかじゃない。ニュースなんかに取り上げられるのは珍しいがね。実体化した都市伝説は、自由意思で行動する。例外もあるがね。
たとえばその場に口裂け女が5人いたとしよう。すると、5人の口裂け女は人と同じように別々の個性がある」
「都市伝説と契約って……」
「たとえば今回の事件、この町を襲った都市伝説『口裂け女』は実体化した口裂け女。実はああいった現実に現れた都市伝説はたくさんいるんだよ。
今回みたいなことは実は特別なんかじゃない。ニュースなんかに取り上げられるのは珍しいがね。実体化した都市伝説は、自由意思で行動する。例外もあるがね。
たとえばその場に口裂け女が5人いたとしよう。すると、5人の口裂け女は人と同じように別々の個性がある」
篤子にとっては信じがたいことだった。麦野の説明はまるで漫画の中でしかありえないようなことだ。
酔っ払いの妄言と同等だといっても過言じゃないだろう。都市伝説が実体化するなんて、なおかつ被害をふるうなんて。
しかし、篤子は実際に見たのだ。人を超えた動きをする口裂け女を。ただし、あれは男だったが。そこで篤子は一つの疑問にこの話を結びつける。
酔っ払いの妄言と同等だといっても過言じゃないだろう。都市伝説が実体化するなんて、なおかつ被害をふるうなんて。
しかし、篤子は実際に見たのだ。人を超えた動きをする口裂け女を。ただし、あれは男だったが。そこで篤子は一つの疑問にこの話を結びつける。
「坂本さんは、契約者ですよね。たぶん口裂け女だと思うんですけど」
「よくわかったね。といっても彼は分かりやすいか。普段から口裂け女の格好をしているから。そう、彼は口裂け女と契約した人間。口裂け『男』だ。
契約したことによって得た力は身体能力の超人化。弱点はポマードだ」
「やっぱりそうだったんですね。ならあの人から感じる恐怖は何なんですか?」
「ああ、あれはちょっと特殊な事情があってね。彼の問題だから私が口にしていいものではない」
「あっ、すみません」
「よくわかったね。といっても彼は分かりやすいか。普段から口裂け女の格好をしているから。そう、彼は口裂け女と契約した人間。口裂け『男』だ。
契約したことによって得た力は身体能力の超人化。弱点はポマードだ」
「やっぱりそうだったんですね。ならあの人から感じる恐怖は何なんですか?」
「ああ、あれはちょっと特殊な事情があってね。彼の問題だから私が口にしていいものではない」
「あっ、すみません」
少し深めに質問していしまったことを篤子は後悔する。場合によってこのまま質問を打ち切ってしまいかねない。
「いや、かまわない」
幸いにもその心配はなかったようだ。
「でも、いいんですか?そんな弱点まで言ってしまって。不利なことじゃないですか」
「口裂け女なんていうメジャーなものはすでに弱点が露呈しているじゃない。ポマードがダメ。ベッコウ飴が好き。ポマードと3回唱えるのもよし。
メジャーな都市伝説は誰でも弱点を知っているし、弱点が無くても対抗策を知っている」
「あ、確かに」
「彼は口裂け女と契約していることを隠そうともしていないからね。常に弱点を教えているようなものだよ」
「口裂け女なんていうメジャーなものはすでに弱点が露呈しているじゃない。ポマードがダメ。ベッコウ飴が好き。ポマードと3回唱えるのもよし。
メジャーな都市伝説は誰でも弱点を知っているし、弱点が無くても対抗策を知っている」
「あ、確かに」
「彼は口裂け女と契約していることを隠そうともしていないからね。常に弱点を教えているようなものだよ」
それはきっと自信の裏返しなのだろう。弱点であるポマードを使われても勝つという。
しかし、篤子がナオコから聞いた話だと、彼はポマードを使われるとまともに動けないどころか発狂しそうな感じらしいが。
ただの虚勢なのだろうか?篤子はその可能性を真剣に考えた。
しかし、篤子がナオコから聞いた話だと、彼はポマードを使われるとまともに動けないどころか発狂しそうな感じらしいが。
ただの虚勢なのだろうか?篤子はその可能性を真剣に考えた。
「ちなみに私の契約している都市伝説は複数あるが、たとえばこんなものがある」
麦野は歩きながら、ジーンズのポケットからペンを取り出した。長さは約18センチほどだろうか。そしてセーターをめくり上げる。
さらされたのは何の変哲もない普通のおなかだ。
さらされたのは何の変哲もない普通のおなかだ。
「何をすっ!」
麦野はペンを握りしめると、勢いよく自分のおなかに突き刺した。あまりにも突然のことに篤子は声を失い足を止める。
麦野が握っていた部分を離す。臍のあたりから右に5センチほどのあたり部分にペンが半分まで刺さっていた。麦野はさらに押し込んでいき、3分の2ほどまで刺さっていく。
麦野が握っていた部分を離す。臍のあたりから右に5センチほどのあたり部分にペンが半分まで刺さっていた。麦野はさらに押し込んでいき、3分の2ほどまで刺さっていく。
「……!」
目を見開く篤子を後目に麦野はペンを上下左右に動かし始める。篤子は慌てて麦野顔を見る。そこに痛みの表情は無い。それどころか面白がっている笑みすら浮かんでいる。
もう一度刺さっているペンを見る。さっきから動かされているが、血も出る様子はない。
呆けてみていると麦野は目の前で何事もなかったかのようにペンを腹部から抜き取る。やはり出血はない。刺さっていた部分を見る。
そこにはうっすらとだが痕の様なものがあった。麦野はペンをポケットに戻すと、服を整えた。何事もなかったかのように。
もう一度刺さっているペンを見る。さっきから動かされているが、血も出る様子はない。
呆けてみていると麦野は目の前で何事もなかったかのようにペンを腹部から抜き取る。やはり出血はない。刺さっていた部分を見る。
そこにはうっすらとだが痕の様なものがあった。麦野はペンをポケットに戻すと、服を整えた。何事もなかったかのように。
「なかなかいい驚きっぷりだ」
「…………い、今のって、手品とかじゃ、ないんですよね」
「もちろん。これが私が手に入れた能力の一つだ。何かわかるかな?」
「再生、ですか?」
「近くて遠い答えだ。正解は『不死身』。どれだけ怪我を負っても再生し、死ぬことはない」
「…………い、今のって、手品とかじゃ、ないんですよね」
「もちろん。これが私が手に入れた能力の一つだ。何かわかるかな?」
「再生、ですか?」
「近くて遠い答えだ。正解は『不死身』。どれだけ怪我を負っても再生し、死ぬことはない」
なんて非常識な存在なんだろう。それが篤子の本心だった。
不死身なんて、それこそ漫画やアニメだ。あり得ない。しかし、その一端を目にしてしまった。あれを目にした後なら、不死身だといわれても信じてしまう。
だからこそ、非常識だと思わざるを得ないのだ。
不死身なんて、それこそ漫画やアニメだ。あり得ない。しかし、その一端を目にしてしまった。あれを目にした後なら、不死身だといわれても信じてしまう。
だからこそ、非常識だと思わざるを得ないのだ。
(気持ち悪い……)
今や篤子の眼に映る麦野アブラカダブラは人ではなかった。人の形をした化け物という認識になっていた。
自分の隣に、人の形をしたものが一緒にいる怖くなった。
自分の隣に、人の形をしたものが一緒にいる怖くなった。
「怖い?」
「えっ」
「えっ」
それを見透かしたかのように麦野は篤子を見つめて微笑みを浮かべる。
その微笑みに、篤子は心臓をわしづかみにされたかのような感覚を覚える。まるで心を読まれているよな錯覚に陥る。
その微笑みに、篤子は心臓をわしづかみにされたかのような感覚を覚える。まるで心を読まれているよな錯覚に陥る。
「今私のことを怖いと思わなかったかな?」
「………思いました」
「正直だね」
「どうしてわかったんですか。都市伝説の力ですか。私の心でも読んだんですか!?」
「ハハハッ。全然違うよ」
「………思いました」
「正直だね」
「どうしてわかったんですか。都市伝説の力ですか。私の心でも読んだんですか!?」
「ハハハッ。全然違うよ」
多少落ち着きをなくした篤子をなだめるように麦野は優しく語りかけ、肩に手を置く。
「あいにく心が読める都市伝説は契約してないよ。ただ君の表情の変化を読み取っただけ」
「ひょう、じょう」
「そう。表情。君はポーカーフェイスを気取っているけど完璧にやるならもっと訓練しないと。恐怖なんて顔に出やすい感情の一つなんだよ?」
「ひょう、じょう」
「そう。表情。君はポーカーフェイスを気取っているけど完璧にやるならもっと訓練しないと。恐怖なんて顔に出やすい感情の一つなんだよ?」
麦野は薄く笑いながら篤子の肩をたたく。
「ひとつ教えてあげよう。私の不死身は完璧じゃないんだ。弱点があるんだよ」
「……」
「さすがにそれを言うわけにはいかないけど。この世に完全な不死身なんて存在しないよ。私はまだ人間の範疇。
でなければ、この右目のような怪我なんて負うはずがないだろう」
「……そう、ですね」
「……」
「さすがにそれを言うわけにはいかないけど。この世に完全な不死身なんて存在しないよ。私はまだ人間の範疇。
でなければ、この右目のような怪我なんて負うはずがないだろう」
「……そう、ですね」
そうだ。この人は右目に怪我をしている。それを改めて意識した瞬間、篤子の心は再び平常心を取り戻し始める。
篤子の眼に映る麦野アブラカダブラが人間に戻っていく。
篤子の眼に映る麦野アブラカダブラが人間に戻っていく。
「あの、すみません。私失礼なことを考えてしまって」
「そんなことはない。目の前で不思議なことが起こった時に恐怖を持つ人の方が多いものだよ」
「そう言ってもらえると、楽になります」
「よかった。さ、足が止まってる。歩こうか」
「はい!」
「そんなことはない。目の前で不思議なことが起こった時に恐怖を持つ人の方が多いものだよ」
「そう言ってもらえると、楽になります」
「よかった。さ、足が止まってる。歩こうか」
「はい!」
二人の足は百々石原邸に向けて再び動き出す。
「話が大分脱線してしまっていたね。なぜ偽名なのかだったね。団体に所属していたところまでは話したね?」
「はい。所属している人全員が契約者なんですよね」
「そう。所属条件が契約者であることだからね。その団体の規則の一つで、全員があだ名で呼びあうというものがあった」
「何ですかそれ?」
「リーダーの茶目っ気だったのだ思うわ。そういう親しい雰囲気が好きな人だったから。それで皆自分の契約した都市伝説からあだ名を付けたわ」
「その時のあだ名がアブラカダブラなんですね」
「はい。所属している人全員が契約者なんですよね」
「そう。所属条件が契約者であることだからね。その団体の規則の一つで、全員があだ名で呼びあうというものがあった」
「何ですかそれ?」
「リーダーの茶目っ気だったのだ思うわ。そういう親しい雰囲気が好きな人だったから。それで皆自分の契約した都市伝説からあだ名を付けたわ」
「その時のあだ名がアブラカダブラなんですね」
麦野は懐かしそうに目を細めながら頷く。楽しかった思い出を思い出しているのだろうか。
「所属したての頃、私は特定の病気を癒す都市伝説としか契約していなかった。それが呪文のアブラカダブラ。それがそのままあだ名になった」
「不死身が初めじゃないんですか?」
「不死身になったのは所属して8ヶ月後ぐらい、だったかな。ちなみに、ほかの人のあだ名は『フィラデルフィア』『51』『メン』『ビッグマン』とかかな。
都市伝説に詳しい人が聞けば、どんな都市伝説と契約しているかすぐわかってしまうようなあだ名だらけだった」
「不死身が初めじゃないんですか?」
「不死身になったのは所属して8ヶ月後ぐらい、だったかな。ちなみに、ほかの人のあだ名は『フィラデルフィア』『51』『メン』『ビッグマン』とかかな。
都市伝説に詳しい人が聞けば、どんな都市伝説と契約しているかすぐわかってしまうようなあだ名だらけだった」
篤子にはよくわからないあだ名だらけだが、麦野がそう言うからには直接的なあだ名だらけだったのだろう。
(でも、)
篤子にも一つだけわかるものがあった。それは『51』だ。『51』というのはエリア51のことじゃないのだろうか?
都市伝説などというもにはそれほど詳しくない篤子だが、それでも耳にしたことがある名称だ。たしか宇宙人やUFOなどの特集でよく耳にした名称だということ思い出す。
それは一体どんな能力なのだろうか。篤子には想像がつかなかった。
都市伝説などというもにはそれほど詳しくない篤子だが、それでも耳にしたことがある名称だ。たしか宇宙人やUFOなどの特集でよく耳にした名称だということ思い出す。
それは一体どんな能力なのだろうか。篤子には想像がつかなかった。
「本名は教えてもらえないんですか?」
「本名は3つあるのよ。日本名、アメリカ名、ロシア名。親の都合でね。戸籍に登録されてるのはアメリカ名だけど」
「親がハーフとかですか?」
「そうそう。親がロシアと日本、アメリカと日本のハーフでね。育ちはアメリカ。一時期ロシアにも住んでたけどもう済みたくないな。
ちなみに本名はここ4年くらい特別な理由がない限り名乗ってないから、教えることはできないわね」
「そうですか」
「本名は3つあるのよ。日本名、アメリカ名、ロシア名。親の都合でね。戸籍に登録されてるのはアメリカ名だけど」
「親がハーフとかですか?」
「そうそう。親がロシアと日本、アメリカと日本のハーフでね。育ちはアメリカ。一時期ロシアにも住んでたけどもう済みたくないな。
ちなみに本名はここ4年くらい特別な理由がない限り名乗ってないから、教えることはできないわね」
「そうですか」
そうだ、と言わんばかりに麦野が突然両手を合わせる。
「そういえば。あとどれくらいで家に着くのかしら?」
「えーと、このペースでいけばもう2分も掛かりませんね」
「案外近くなんだね」
「ちょっとペースを上げますか?」
「そうだね。上げてもらえるとうれしいかな」
「えーと、このペースでいけばもう2分も掛かりませんね」
「案外近くなんだね」
「ちょっとペースを上げますか?」
「そうだね。上げてもらえるとうれしいかな」
それを聞いて篤子はペースを上げた。質問はまだあるが、歩きながら喋るよりも家に着いてから喋った方が落ち着いて喋ることができるだろうという考えからである。
ペースを上げて歩き始めて2分もしないうちに篤子たちは目的地に着いた。その家は約8坪2階建の狭小住宅で、同じような家がそこらへんにいくつも建っている。
ペースを上げて歩き始めて2分もしないうちに篤子たちは目的地に着いた。その家は約8坪2階建の狭小住宅で、同じような家がそこらへんにいくつも建っている。
「ここは借家かなにか?」
「はい。そこらへんにある同じような家も全部そうです。家主は百々辰巳って言います」
「百々石原の息子」
「名前がまともなんでたぶんお婿さんだと思いますけどね」
「ひどいこと言うね」
「はい。そこらへんにある同じような家も全部そうです。家主は百々辰巳って言います」
「百々石原の息子」
「名前がまともなんでたぶんお婿さんだと思いますけどね」
「ひどいこと言うね」
与太話をしながら、篤子がポケットから取り出した鍵を使い戸を開錠する。引き戸を開けると、こじんまりとした玄関が目に飛び込んできた。
横に備え付けられている靴箱の上には所狭しとこけしが置かれている。家には誰も立ち入っていないらしく、到る所に誇りがうっすら積もっている。
篤子は玄関の隅に置かれていたスリッパを手に取り靴を脱ぐと、スリッパを履く。麦野もそれに倣いスリッパを履いた。
横に備え付けられている靴箱の上には所狭しとこけしが置かれている。家には誰も立ち入っていないらしく、到る所に誇りがうっすら積もっている。
篤子は玄関の隅に置かれていたスリッパを手に取り靴を脱ぐと、スリッパを履く。麦野もそれに倣いスリッパを履いた。
「狭い」
「一人で暮らす分には十分ですけどね。私も友達ときた時は狭い狭いと文句を言いましたけど」
「こんな家に女の子が遊びに来るなんて、面白いものでもあったの?」
「ゲームがたくさんあったんですよ。ただ全然遊んでる形跡がなかったんで、孫に来てほしくて買ってたんだと思いますけどね。とりあえず家の中見て回ります?」
「そうしようかな」
「一人で暮らす分には十分ですけどね。私も友達ときた時は狭い狭いと文句を言いましたけど」
「こんな家に女の子が遊びに来るなんて、面白いものでもあったの?」
「ゲームがたくさんあったんですよ。ただ全然遊んでる形跡がなかったんで、孫に来てほしくて買ってたんだと思いますけどね。とりあえず家の中見て回ります?」
「そうしようかな」
狭小住宅という言葉の通り、8坪の家は狭く約1分ほどで大まかに家の中を見て回れてしまった。
今二人がいるのは2階、2階は二つ部屋があり、片方が寝室でもう片方は壁という壁に本棚備え付けられている。さらに畳の上にも本が積み重ねられていた。
二人はその本の大量にある部屋に留まっている。
麦野は本棚から本を一冊ずつ取り出しパラパラとページをめくっていく。篤子はその様子を床に積み上げられた本の上に座りながら見つめていた。
とりあえず一番時間がかかりそうな所から調べえいくことにしたらしい。
今二人がいるのは2階、2階は二つ部屋があり、片方が寝室でもう片方は壁という壁に本棚備え付けられている。さらに畳の上にも本が積み重ねられていた。
二人はその本の大量にある部屋に留まっている。
麦野は本棚から本を一冊ずつ取り出しパラパラとページをめくっていく。篤子はその様子を床に積み上げられた本の上に座りながら見つめていた。
とりあえず一番時間がかかりそうな所から調べえいくことにしたらしい。
「ここにある本、全部見るつもりなんですか?」
「そうだね。目的のものが見つかるまで調べるつもりだからそうなるかもしれない」
「ちなみに、目的のものとは?」
「さあ?」
「えー…」
「探して、これだ!と思うものが目的のものさ」
(適当なのね)
「そうだね。目的のものが見つかるまで調べるつもりだからそうなるかもしれない」
「ちなみに、目的のものとは?」
「さあ?」
「えー…」
「探して、これだ!と思うものが目的のものさ」
(適当なのね)
篤子は立ち上がると、移動して窓を開ける。これから色々と本を動かすことになる。
うっすらとはいえ、目に見えるほど埃が積もっているのなら、物を動かすたびに埃が舞ってしまう。窓を開けてしっかり換気しなければ埃を吸い込んでしまう。
それは健康に悪い。篤子はそんな思いから窓を開けた。晴れてはいるがまだ外は肌寒く、外の冷気が部屋の中に入り込んでくる。
顔に当たった冷気に、篤子は少し身を震わせた。
篤子は後ろにいる麦野を見る。彼女も窓が開いたことには気づいているのだろうが、そんなこと関係ないといわんばかりに本を読んでいる。
部屋の温度は一気に変わったはずだが、身を震わすことすらない。
うっすらとはいえ、目に見えるほど埃が積もっているのなら、物を動かすたびに埃が舞ってしまう。窓を開けてしっかり換気しなければ埃を吸い込んでしまう。
それは健康に悪い。篤子はそんな思いから窓を開けた。晴れてはいるがまだ外は肌寒く、外の冷気が部屋の中に入り込んでくる。
顔に当たった冷気に、篤子は少し身を震わせた。
篤子は後ろにいる麦野を見る。彼女も窓が開いたことには気づいているのだろうが、そんなこと関係ないといわんばかりに本を読んでいる。
部屋の温度は一気に変わったはずだが、身を震わすことすらない。
(喋るタイミングを逃した気がするわ)
間が空いたからだろうか、何となく喋りかけづらい。ましてや相手は調べ物をしている途中である。話しかけるのはマナーが良いとは言えない。
これからどんどん時間が経っていくだろう。暇をつぶせるものを持ってこなかったことを篤子は後悔する。
これからどんどん時間が経っていくだろう。暇をつぶせるものを持ってこなかったことを篤子は後悔する。
「君のメガネ」
「は、はい?」
「は、はい?」
そう思っていた矢先、喋るチャンスがやってきた。なんと彼女の方から喋りかけてきたのである。
ここなんとか会話に繋げなければ。そう思う篤子の心に多少緊張が走る。
ここなんとか会話に繋げなければ。そう思う篤子の心に多少緊張が走る。
「君のメガネは男ものだね?なんで男ものなんだい?」
「これですか?」
「これですか?」
メガネに触りながら、篤子は中学生のころを思い出す。死んだ父のことを。
別に聞かれて困るような話ではない。
別に聞かれて困るような話ではない。
「私の父の形見なんです。度もぴったりなんで使ってるんですよ」
「パパが好きだったんだね」
「そうですね。好きでした。とても尊敬していました。だから、このメガネを付けていると父が見守ってくれているんじゃないかと思えるんです」
「素敵な話だ」
「こういう話ってちょっと照れますね。そうだ私からも聞きたいことがあるんですけど」
「パパが好きだったんだね」
「そうですね。好きでした。とても尊敬していました。だから、このメガネを付けていると父が見守ってくれているんじゃないかと思えるんです」
「素敵な話だ」
「こういう話ってちょっと照れますね。そうだ私からも聞きたいことがあるんですけど」
篤子には聞きたいことが2つあった。今がそれを聞く良いチャンスだと考える。
「聞きたいこと?都市伝説と契約する方法?学校町に行けば契約しやすいよ。死ぬ確率も高いと思うけど」
「いえ、それも興味がありますけど違います」
「なに?」
「2年前にターボババアと戦いませんでした?」
「……君は、都市伝説と接するのが今回初めてじゃなかったかな?それにどうして2年前と具体的に?」
「見たんです。2年前旅行に行った時、あなたとターボババアを」
「いえ、それも興味がありますけど違います」
「なに?」
「2年前にターボババアと戦いませんでした?」
「……君は、都市伝説と接するのが今回初めてじゃなかったかな?それにどうして2年前と具体的に?」
「見たんです。2年前旅行に行った時、あなたとターボババアを」
篤子は思い出す。2年前、母と姉と旅行に行った時のことを。そこで見た麦野を、帰りに見たターボババアを。
「あの時は、ターボババアを見たときは幻覚だと思ってました。姉も見てましたが、一緒に幻覚を見たんだと思い込むようにしてました。
でも今回のことがあって、あなたにあって、あれが現実なんだと信じることができるようになりました。
あそこにあなたがいたのはターボババアと戦うためじゃないんですか?」
「2年前に旅先で見た人間を覚えているなんて記憶力がいいわね。では、お答えしましょう。そうです。私は2年前ターボババアの契約者と勝負をしました。
でも命のやり取りじゃない。もっと平和的なことだったがね。興味ある?」
「当たり前じゃないですか」
でも今回のことがあって、あなたにあって、あれが現実なんだと信じることができるようになりました。
あそこにあなたがいたのはターボババアと戦うためじゃないんですか?」
「2年前に旅先で見た人間を覚えているなんて記憶力がいいわね。では、お答えしましょう。そうです。私は2年前ターボババアの契約者と勝負をしました。
でも命のやり取りじゃない。もっと平和的なことだったがね。興味ある?」
「当たり前じゃないですか」
篤子と麦野は同時に笑った。そして麦野の口からターボババアのことが語られ始めた。