「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - モデルケース-06

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だれでも歓迎! 編集
昔から速いものが好きだった。
トンボが好きだった。いくら走っても追いつけず、捕まえられず、いつも悔しい思いをした。
犬が好きだった。買ってた犬と良く走ってた。グングンと先に走って行ってついには帰ってこなかった。
兵隊さんの飛行機が好きだった。シューと煙を吹きながら自分たちの頭の上を掠めて行って近所の爺さんが発作で死んだ。
かけっこで一番速かったよっちゃんが好きだった。空襲の時私の手を引いてものすごい勢いで駆けていった。あたしは足が速くなかったから足をもつらせて転んでしまった。
でもよっちゃんは全然走るをやめなかった。走って走ってズルズル引き摺られて、なんとか立って走って、ボロボロと涙が出た。
こんなにも速く走れるなんて。よっちゃんはあたしにとって兵隊さんの飛行機と同じだった。
よっちゃんとは幼馴染で、いつも一緒に遊んで、疎開していく中で私達だけしなくて、戦争が終わった後も一緒で、当然のように結婚した。
しばらくして、夫は会社を辞めてレーサーになった。あたしは泣いて喜んだ。
親戚には馬鹿にされ、気が違ったのかと心配されていたけど、夫は立派なレーサーになることができた。
正直言うと羨ましかった。出来ることならあたしもレーサーになりたかった。ビュンビュンと風を切って、誰よりも速くなりたかった。
でも、近くの自転車漕ぎ競争で8人中4位のあたしには不可能な話だった。
レーサーだった夫は、ある日世界記録を更新した。誰よりも早くトラックを走り抜け、見事優勝したのだ。そしてスピードを緩めることなく事故を起こして死んだ。
私の目の前で。
車が好きだ。私でも速く走ることができる。この間向かいのババアを撥ねかけた。
飛行機が好きだ。海外へだってひとっ飛びだが窓際に座れないときは泣いて席を代わってもらう。
レースが好きだ。速さを競ってさらに速くなるのがたまらない。夫が死んでなお。
『ターボババア』は嫌いだ。あたしはババアが嫌いだ。速くなけりゃいる意味がない。




モデルケース『ターボババア』②



『ターボババア』

ジェットババアや100キロババアなどの呼び名もある都市伝説。車を道路で走らせているとお婆さんがものすごい勢いで後ろから走ってきて追い抜いてしまう。
危害を加えてくることはないが、場所によってはターボババアが原因で事故に遭うという噂もある。
そんなターボババアがとある町の近くの高速道路でたびたび目撃されていた。しかし、だれも与太話だと信じて疑わない。
見たと言っている人間は大抵暴走族で、その中でも所謂『走り屋』と呼ばれる連中だからである。
その高速道路は一直線に長く幅員が広いことで有名で、よくそういった手前が来るのだ。だれもそんな連中の話など信じない。
それでも噂を聞きつけてやってくる輩がいないわけでもない。だが、大抵は見れずに帰っていくことになる。
そんな中でターボババアに興味も無く、ただ走りに来ただけの一団がいた。
しかし、それはただの走り屋ではなかった。ベンツやポルシェ、ジャガーなど錚々たる車が8台もその場にあるのだ。すべてが最高級車。
見るものが見れば爛々と目を輝かすだろう。乗っているはすべて20代かそこらの若者である。
親の金で買ったのか、それとも若くして多くを稼ぐ企業家なのか、おそらくは前者だろう。
この高速道路は深夜には全くと言っていいほど人通りがなく、走るにはちょうどいい。彼らはそれをいいことに広い幅員を利用して横一列に並んでいく。
それでも車間を考え、横6台しか並べていない。その6台の後ろに2台の車が並ぶ。
後ろに並んでいる車の内、ポルシェ・カレラGTの助手席から一人の男が降りて前の方へ走っていく。彼の手にはレースなどでよくつかわれる白黒のモザイク旗。
彼がスタートを知らせるらしい。彼はすべての車の前のちょうど真ん中に立つ。すでに各々の車のエンジンは温められエンジン音を道路中に響かせている。
彼が旗を振り上げる。10秒、20秒、旗は振り下ろされない。運転手たちが息が唾を飲む。30秒に差し掛かるか掛からないかというとき、旗が勢いよく振り下ろされた。
その瞬間唸りを上げ車が一斉に発進し、中央に立っていた男の横を次々と通り過ぎて行った。
走り出した瞬間から、ある程度差がつき始める。何秒で時速が何キロ出るか、最初の初速の段階からすでに勝負は始まっているのだ。
ここで離されれば、勝つことはあり得ないだろう。それをわかっているからこそ皆アクセルを目一杯踏み込み、なるべく早く加速しようと試みる。
しかし400メートルほど走れば、やはりマシンスペックの差により距離がついてしまった。
2位を走っているのは後ろに並んでいたポルシェ・カレラGTとランボルギーニ・ムルシエラゴのLP640。この2台にほとんど差はない。
そしてそれより20メートルほど先を行く車があった。ポルシェ・カレラGTと同じく後ろに並んでいたはずのサリーン・S7。
サリーンはル・マン24時間レース用レースカーであり、一般車両として発売されているものもそれに準じた性能となっている。
最高時速は399キロで世界でも最上級クラスの速さを誇るスーパーカーである。カレラGTがMAX336キロ、ムルシエラゴがMAX342キロ、比べるとその凄さが際立つだろう。
この一団の中でも最高速度の車である。ブガッティ・ヴェイロンなどいったバカみたいな車でも無ければ抜くことはできない。
サリーンはすでに時速230キロに達し、後はこのまま悠々とゴールを目指せばいいだけだった。

「……なんだぁ?」

ふとバックミラーを覗いた時、サリーンの運転手は違和感を覚えた。
自分の後ろを走っているカレラGTとムルシエラゴ、この2台と自分の差が明らかに開きすぎている。その2台よりさらに後ろの車との差も開きすぎている。
今のような調子ならこれほどの差は絶対にできないのだ。いくらスペックに差があってもこれほどはあり得ない。
おかしい。様子を見る限りマシントラブルではなさそうだ。故意にスピードを落としたとしか思えない。
高速道路の幅員をギリギリまで使ってするこのような迷惑走りをする走り屋は誇れることではない。しかし、彼らには譲ることができないプライドがある。
スピードを緩めないこと。走りぬくこと。それが彼らの誇りなのだ。誰よりも早く走りたいからこんなことをしているのだ。
その誇りを捨ててまでサリーンの後続車両は減速している。

「なんだってんだ一体よぉ!?」

サリーンの運転手は足にさらに力を込め、足がアクセルから離れないように完全に固定する。
何が起こっているかはわからない。しかし、スピードを緩めるつもりもない。不測の事態への不退転の決意である。
バックミラーをもう一度見る。何怪しいものは映っていない。時速はもうすぐ240キロに達する頃。
ふと、視界の端にサイドミラーが入り込んだ。そのまま何気なくサイドミラーを覗きこむ。

「なんだよこりゃ……っ!」

サイドミラーに映っていたものに思わず息をのむ。
サリーンの右後方、車から大体1メートルほどの所に人影が浮かんでいるのだ。足は見えない。腕も見えない。顔はよく見ると老婆のようにも見える。

「チクショウッ!意味わかんねぇ!」

サイドミラーに映る老婆は段々と近づいているように思える。ありえない。
メーターを見る。時速は262キロに達していた。サリーンの性能上まだまだ速度は上がる。まだまだ上がり続けている。なのに、なのにあの人影はついてくるのだ。

「嘘だ嘘だ嘘だ!俺に!こいつについて来れるわけがねえ!」

270キロ。280キロ。290キロ。300キロ。
混乱しながらも足はアクセルから離さず、速度は順調に上がっていく。

「300だ!まだ上がる!こいつは最強のスーパーカー!俺は行ける!幻覚だろうがホンモンだろうがぶっちぎる!」

今の速度は時速302キロ、少しでも操作をミスすれば車は吹っ飛び即お陀仏。死は確実。頭は焦っていても、覚えこまされた体は冷静だった。
しかし、悪夢を振りきることはできなかった。サリーンの運転手はサイドミラーを覗きこもうと首を動かし、自分の真横にある顔と目があった。

「…………」

何も言葉が出てこない。
手も足も無い紺のダウンジャケットを着た老婆が自分の真横にいる。時速は300キロをすでに超えている。
よく見ると、手足がないのではないことがわかった。あまりにも速く動かしているので見えなかったのだ。よくよく見れば、紺色の腕がぶれにぶれている。足も同じだ。
不意に老婆が口を開ける。何かを言っているらしい。しかし、運転手には聞こえない。
しかし、何と言っているかはわかる気がした。

(ま・だ・ま・だ・お・そ・い)

そういう風に口を動かしたように見えた。
老婆は運転手に向かって片手を掲げ口を動かした。

(じ・や・あ・な)

そう口を動かしたのかと思った瞬間、老婆はサリーンを抜き去りサリーンの前をしばらく走ってどこかへ消えてしまった。
運転手は放心しながら時速を確認する。時速は311キロ。それの前を走っていたのだ。
体が放心した意志に呼応したかのように、減速を開始する。運転手は思い出す。ターボババアの噂を。

「あれが、ターボババア…?ありえねえ。でも俺シャブなんてやってねえ。じゃあホンモンだって認めるしか、ないのか?」

まさか実在していたとは思わず、どう対処していいのか運転手は思いつかなかった。
しかし、言えることはある。

「ターボ過ぎるぜババアのくせに……。300超えて遅いとか」

彼は座席に深々と座り込むと大きく深く息を吐いた。

そんな彼とターボババアのデッドヒートを観察していた者がいたとは、ターボババアもサリーンの運転手も知らなかった。

さて、そんな事件があった次の日の夕方、事が起こった高速道路に近い町のある広場では奇妙な3人がたむろしていた。
背中まで伸ばしたオールバックの髪に灰色のパーカー、そして黒いジーパンを履いた女。歳は20代中盤といったところ。背は180センチに届くかもしれない。
寝癖をそのままにした乱れた短めの髪型に茶色いセーター、とび職が履く紺色の七分を身に付けた少年。高校生ぐらいだろう。
後ろ髪をひざ裏まで伸ばし、大きなマスクで顔を覆い、真っ赤っかなコートを羽織った女。髪が長すぎてマスクから上にあるであろう目も見えない。
すべてタイプがばらばらな3人組だった。
オールバックの女が右腕に付けている時計を確認する。女はさっきからそれの繰り返しだ。1分も経たぬうちに時計を確認する。
ほかの2人は手持無沙汰なのだろう、なにもせず、ポケットに手を突っ込んで肩を揺らして寒さを凌いでいる。

「おい!いい加減帰ろうぜ麦野さんよぉ!帰んねえならぶっ殺すぞ!」

しばらくすると少年は声を荒げる。その顔は怒りに満ち、瞳はオールバックの髪をした女、麦野と呼んだ女を睨んで視線を外さない。
耳は真っ赤に染まっていて、それは決して怒りだけによるものではない。おそらく長い間ここに立ちっぱなしなのだろう。
寒さによる苛立ちと生来の気性が合わさり、少年の怒りは普通では考えられぬほどに膨れ上がっていた。
おそらく少年は本当に麦野と呼ばれた女殺すだろう。しかし、麦野は少年を横目で見ただけで再び時計に目をやった。

「おい、いい度胸じぇねえか!口調が定まんねぇ似非外人のくせによ!」
「……君は本当に気性が荒い。我慢を覚えた方がいい。それと、私は似非外人じゃないわ。正真正銘の外人だ」
「うぜえな!喋んなよ!」
「…………」

なおも喚く少年にあきれた視線を向けつつ、麦野は再び時計に目をやる。安物のデジタル時計は15時34分と表示している。

(遅い)
「おい!無視か!むかつくんだよしたり顔で振り回しやがってよ!ぶっ殺してやる!」

顔中を真っ赤にしてポケットから手を出すと、その手にはナイフが握られていた。
少年はそのまま麦野に飛びかかる、直前に真っ赤なコートを羽織った女に抱きつかれ動きを拘束させられる。

「ストップ!ストップして光輝君!」
「離せよジュリアナ女!てめえはジュリ扇持って踊ってりゃいいんだよ!」
「む、昔やってただけよ!そのネタをそんなに引っ張らなくても」

ジュリアナ女と呼ばれた女は、光輝と呼んだ少年を抱き締めつつ、それでも態度は変わらない。
少年とはいえ高校生にもなろう男が全力で振りほどこうと暴れているのだが、ジュリアナを振りほどくことはできない。
ジュリアナは軽く抱きしめているように見えるのだが、どうやらそうでもないらしい。その態度にも焦った様子も無く、むしろ余裕から来る偽りの慌て方だ。

「じゃあ離せよ!」
「それはダメ」
「元気だなー君たち」
「麦野さんもそんなこと言ってないで止めてくださいよ!」
「いや、正直坂本君に切られても死なないからどうでもいい」

少年の名はどうやら坂本光輝というらしい。

「あ!?なら刺されてみろよ!ぜってえ死ぬから!」
「いい加減にしてよ光輝君!麦野さんがいなかったら今頃私達はどうなってたか」
「知るか!何とかなってただろ!」
「最近沸点低いよ。どうしたの?」

沸点が低くなっても仕方のないことだと麦野は思う。麦野、坂本、ジュリアナ女が出会ったは約3週間ほど前。坂本が起こした事件がきっかけで3人で旅をしている。
この3週間、移動寝食そのほとんどが車内である。最初の方こそその新鮮さを楽しんでいた坂本だが、今ではそれが嫌で嫌でたまらない。
しかし、これから日本中を回るのだからこれぐらいで根を上げてもらっては困るというのが麦野の本心である。

(そのうち慣れるでしょう)

彼女には他人の都合など知ったことではない。

(それにしても何をやっているんだ彼らは)

時計を見ながら心の中でつぶやく。麦野が言う『彼ら』とは、もちろん坂本などのことではない。
麦野は待ち合わせをしているのだ。しかし、40分は待ちぼうけを食らっている。それに付き合わされている坂本やジュリアナ女はいい迷惑だ。怒っても何ら不思議はない。
時計から目を離した麦野の視界の端に、ふと見慣れないものが入り込んだ。首をそちらに向ける。
坂本を押さえているジュリアナ女の肩の先に、大型トレーラーがこちらに向かって走ってきているのが見える。赤い車体に青いコンテナ。

(間違いない。あれだ)

待ち人ようやく来たる。さんざん待たされた分来た時の反動は大きいもので、麦野の心にあった苛立ちはどこかへ消えてしまった。
坂本とジュリアナ女も麦野の視線に気がついたのか、麦野の視線を追って振り返る。

「あー、んだあのド派手なトラックは?」
「真っ青なコンテナは正直ないですね」
「そんなことを言ってあげないでくれ。赤と青はあの会社のイメージカラーよ」
「だせ」
「ちょっとセンスが足りない感じが」
(ジュリアナも案外ひどいな)

3人が会話を交わす間に、トレーラーは広場に入ってきた。そしてそのまま減速して、麦野たちの目の前に横付けされた。
見れば見るほど赤い車体。ドアには大きく『かけ橋未来堂』と白文字で書かれている。青いコンテナにも同様の文字が書かれている。

「名前までセンスがねえな」
「私の方がもう少しいい名前考え付きますね」
(こういうのを批判の嵐というのだろうな)

車体はセミトレーラーに分類される。このコンテナには何が入っているのだろうか?なかなかの大きさである。坂本もジュリアナ女も検討がつかない。
横付けされているトレーラーの運転席と助手席からそれぞれ一人ずつ人が降りてきた。2人ともクリーム色のつなぎに同じ色の手袋とつば付き帽をかぶっている。
運転手は中々恰幅がよい男だ。背は麦野と同じほど、180センチほどだろうか。助手席の男は160後半といったとこで、髪を茶髪に染め如何にも今時の若者といった感じだ。
2人はそのまま麦野の前まで小走りで集合し、整列する。

「遅れて申し訳ありませんでした!」
「せんっした!」

2人は一斉に頭を下げて謝った。一糸乱れのない見事な謝り方である。文句のつけようがない。
何度頭を下げればこれだけの謝り方ができるのだろうか。そう思わせるだけの迫力ある謝り方だった。
その謝りに圧倒され、文句を言おうとしていた坂本の口すら止まってしまう。しかし、麦野の目は冷めていた。とても見慣れているものといった感じの目である。

「謝るのはいいから。早く荷を下ろしてくれないか?こっちはさんざん待ったのよ」
「はいただいま!」
「まー!」
(いやいや!まともに喋れよ茶髪!)

そんな坂本の気持ちなど露知らず、つなぎの2人は急いで車の後方へ、コンテナの収納口へ走り、入口を開けると茶髪がコンテナの中へ乗り込んだ。
恰幅のいい男はコンテナの中へ手を伸ばすと、ブリッジを引きずり出し設置する。続けてもう一つのブリッジを設置すると、自分もコンテナの中へ乗り込んだ。
そして2人で荷物をして出てきた。荷物とは車だった。
真新しい白い車。トヨタのソアラだ。角ばった車体ながらも、車体の要所要所に曲線を取り入れた車体からこのソアラは2代目のZ20型だとわかる。
販売期間は1986年から1991年と、それなりに古い車のはずなのだが、このソアラはどう見ても新品、もしくは新品同然の品物である。
そんなソアラがコンテナからブリッジを上を渡り地面に降ろされた。下った勢いでしばらく後ろに下がって、そこで停止する。スムーズなタイヤ回りだ。
つなぎの2人が準備している間にコンテナの入り口にまで移動していた麦野たちはその様子をばっちり見ていた。

「んだぁ?車?」
「車ですね」
「ああ、車だよ」
「ご注文の修理、機能の追加、スペックの向上、それらすべてが完了したソアラのお届け、完了しました!」
「ましたー!」

坂本は怪訝な顔を、ジュリアナ女は目の前の事実を口に出し、麦野は2人に対して肯定した。

「こんだけ待って車ぁ!?舐めてんのかよ!ピーポー車からこっちに乗り換えるってか!?どう見てもこっちの方が狭いんだけどよ!」
「ピーポー車?なによそれは?よくわからないスラングを使わないでくれる?話からして救急車のことだと思うが」
「救急車であってますよ。でもピーポー車なんて幼子ぐらいしかいいませんけどね」

余計な口をきいたジュリアナ女を叩き責め立てる坂本を無視し、麦野はつなぎの2人に近づいた。
恰幅のいい男はそれにいち早く気がつき、すぐさま麦野に頭を下げ会釈する。それ気がついた茶髪も慌てて頭を下げた。

「ずいぶんと遅かったじゃないか。何をしていたんだ?」

近づいた麦野は開口一番疑問を口にする。
その疑問に対して恰幅のいい男は苦笑し、茶髪は明らかにイラついた顔をした。
その変化に気付きながらも麦野はそれを無視し、車に近づきソアラに触れた。そしてその車体をなでる。
その態度が茶髪に口を開かせた。

「遅れたのはあんたのせいだよ!」
「吉田(ヨシタ)、やめろ」
「止めないでください今井さん!この人は俺らがどれだけ大変な思いをしてこのソアラを運んできたかわかってないっすよ!」

吉田と呼ばれた男は今井と呼ばれた男の制止を振り切って、車を触っている麦野の肩を掴むと自分の方へと向き直らせる。

「危険なことさせて!勝手に期間作って!こっちどんだけメーワクしたと思ってんだ!?」
「それが君たちの仕事だろ?新入り君」
「ぁんだとぉ!?」
「やめろって言ってるだろ吉田」
「今井さん!でも!」
「この人は前からこんなもんさ。お前以外は皆知ってるよ」

麦野は今井の言葉に肯定を表すように頷きながら車のドアを開け、中に乗り込んだ。
なかなかいい座り心地だと思ったが、6億も支払ったのだからこれぐらい当然だと麦野は自分の考えを否定する。

「うわ、すっげえ普通に乗り込みやがった……」

吉田の言葉に麦野は眉をひそめる。
乗るために買ったのだから、乗り込むのは当然のことだろうといわんばかりに。ふと麦野は体にとある違和感を感じた。
しかし驚くことはない。半ば予想していた感覚だ。こういった感覚には慣れている、2秒、3秒ほどで違和感はすぐ治まった。

(慣れているといってもあまりいい気分ではないけども)
「何早速乗ってんだよてめえ!」
「ん?」

気がつくと麦野のすぐそばに坂本が立っていた。その顔は先程までと違い幾分かストレスを発散したすっきりした顔をしている。
坂本の背後数メートルにはジュリアナ女が大の字で寝転がっていた。いや、恐らく倒れているのだろう。
すっきりしているのはジュリアナ女を叩きのめしたからだろう、と坂本のストレスの変化に麦野は理由をつけた。

「こういったのに最初に乗るのは俺だろうが!」
(子供だなー)
「聞いてんの、、、え、う、うげ」

坂本がソアラのドアに手をかけた瞬間、坂本の体に変化が起きた。
目を大きく見開き、全身から脂汗が滲みだす。そしてその場に膝をついたかと思うと、急激にゲロを吐いた。
そんな彼のすぐそばにいつの間にかジュリアナ女が控えており、坂本の背中をさする。

「大丈夫光輝君!?」
「……」
「えっ!なんであのガキ普通に触ってんの!?」
「知らなかったみたいだな」

坂本の反応に四者四様の反応である。
ジュリアナ女は純粋に坂本を心配し、吉田は心底疑問に思い、麦野と今井はずいぶんと冷めた目だ。
しばらく後、ようやく落ち着いたのか坂本がゆっくりではあるが立ちあがった。

「んだよ今の。まじでなんなんだよ……」

彼を襲った感覚は、自身を侵略される感覚。目、耳、鼻、口、臍、果ては尿道、アナル、毛穴といった穴という穴から何かが無理やり捩じりこんでくる感覚。
心の中まで浸食され、何か自分に制御できないものが填まり込んでしまった感覚。そのすべてが生理的に受け付けない。
受け付けないのに、自分には何が起こったのかもわからないから対処のしようもない。
襲われたことのない未知の感覚に、彼の心は相当まいっていた。

「それしても困りましたね。まさかなんにも感じずに契約しちゃうなんて」
「けいやくぅ?!」

ジュリアナ女の漏らした言葉を聞き逃さず、追求する。

「俺はお前としか契約してないはずだぜ!お前とだけだ『口裂け女』!」
「へえ、やっぱその人口裂け女だったんだ」
「うるせえ!口挟んでんじゃねえよ茶髪が!」
「茶、茶髪ってお前……」

会話に入ってきた吉田を黙らし、追求を続ける。

「契約ってどういう事だ」
「いや~、そういえば言ってませんでしたね。それはこっちの落ち度かもしれません。契約した時にもっと細かく言っとくべきでした」
「いいから言えよ」
「私達都市伝説の中には、本人の了承を得ずに一方的に契約してしまうことのできる都市伝説があるんです」
「……はあ?」
「双方の合意なしで契約が成立する都市伝説には一貫した共通点があります。それは力が強いこと。それも異常なまでに」

まるで理解ができないといった顔をしている坂本に、ジュリアナ女は肩をたたく。

「あなたが契約したのは通称『白いソアラ』と呼ばれる都市伝説です」
「白いソアラ」
「今私が乗っている車。これがソアラだ」

ジュリアナ女の代わりに麦野が語り始める。

「この都市伝説は簡単にいえば、乗った人間は須らく首が胴体とバイバイしてしまうというものだ」
「まじで?」
「そして、今私が乗っているこれはすごいぞ。乗車した人間は100%死に、それどころか生身で触れただけでも強制的に契約させられて死ぬ。
 この車で死んだ人間は有に200人は超えるわ。あと、もちろんすでに私も契約済みだ」

ハッとして坂本は車を運んできた吉田と今井を見る。
二人とも車を出すときに車に触れているはずだからだ。しかし、二人は全く焦った様子はない。よく見れば吉田も今井も頭以外肌をさらしている部分はない。
手袋もよく見れば厚手である。

「このソアラはいわくつき専門のオークションで売られていてね。本来の都市伝説通りなら安く買えたはずだけど、本物の『白いソアラ』なものだから8000万円もしたわ」

見つけるのに苦労したと語る麦野とは反対に、目を限界まで見開き瞬きすらしない坂本。
麦野の話を聞くうち、だらしなく開いていた坂本の口は段々と閉じられ、ついには歯を食いしばるほど力が溜まる。

「オークションで競り落としたこれを前に住んでいた学校町に送っ……」
「なっ!?」

吉田の短く、しかし心よりの驚愕の声が漏れる。
麦野の言葉が止まった。否、止められた。坂本の手によって。坂本の手刀が麦野の喉に突き刺さっていた。文字通り手によって言葉は止められていたのだ。
坂本光輝は『口裂け女』との契約者であり、得た力は身体能力の強化である。素手で人の肉体を破壊することなど何の苦でもないのだ。
しかし喉に深々と、後部にまで指が貫通しているというのに麦野は身じろぎひとつせず、瞳の力も失っていない。そもそも、手が喉を貫通しているのに死んでいない。
血の一滴すら流れていないのだ。
麦野の手が動く。麦野の手は坂本の腕を掴むと力を込めて坂本の手を引き抜いた。
すでに坂本の腕には力はなく、引き抜くのは容易だった。引き抜かれたその手には、やはり血など着いていない。
そして手が引き抜かれた喉は、手が貫通していた証拠などどこにも見当たらない。刺さっていた痕跡が一切見当たらない。何の異常も無い普通の喉に戻っていた。
麦野アブラカダブラも契約者である。複数の都市伝説と契約し、そのうちの一つによって不完全ながら不死である。

「本当に手が出るのが速いね君は」
「……俺は死ぬのか?」
「ん?」

坂本の顔から血の気が引いていた。自分の死に対して、死に直面しかけて震えているのだ。

「都市伝説と契約した人間なんて碌なもんじゃないわ。自分から遠ざけない限り一生係わり続けていくことになる。こんなことはどんどん増えていく。
 死に直面することなんて、他人の数十倍になるだろう」
「俺は、俺は、まだ、、、、死にたくない」
「都合がいいことを言うんじゃない。君は人殺しだろ。望んで力を手にして、望んで殺したんだろ。君は契約を軽く考えすぎた」
「……」

なんだかんだで彼はまだ高校生である。高校生の彼にとって自分の死とは容易に語れるほど身近なものではなかった。
しかし、これから身近になるといわれ、萎縮してしまった。
気性の荒い彼は、自分の死という現実を、これからも直面し続けていく現実を受け入れられず黙りこくるしかなかった。

「あの、その、大丈夫よ光輝君。大丈夫!私が守ってあげるわ!」

そんな契約者の肩を抱きしめ、口裂け女であるジュリアナ女は優しく、力強く言葉を紡ぐ。

「あなたが契約したのは『口裂け女』よ。日本で都市伝説といえば何?パッと出てくるのは私なの。『口裂け女』なのよ!」
「いや、俺『人面犬』っすね」
「うっさい!」
「……」
「そんな日本を代表する私が、たかが『白いソアラ』ごときに負けるはずないんですよ。知名度も、実力も、何もかも!私が劣っているところないんです!」

深々と契約者を抱きしめる口裂け女。その瞳には冗談などまるでない。ただひたすら契約者を元気づけている。

「信じてください。私を。あなたが契約した伝説の強さを」
「……うぜえ。死ぬなんて思ってねえし」
「そうですか」
『麗しい愛だな』
『若いですね』
『口裂け女より人面犬っすよやっぱ』

しばらく口裂け女に抱きしめられていた坂本だが、虫でも振り払うがごとく振りほどく。

「んで、麦野さんよ。このソアラで何しようってわけ?」
「そういえばそうですね。移動には救急車があるわけですし」
「このソアラも修理しただけじゃないからな。急ぎで色々改造させられたんだぜ」
「「改造?」」

吉田の言葉に坂本とジュリアナ女は首をかしげる。
坂本はふと思い出した。つなぎたちが車を届に来た時に聞いた言葉を。彼らは修理のほかに『機能の追加』と『スペックの向上』と言ったのだ。
ただソアラを手に入れるだけならばそんなことは必要ない。

「一体どんな改造したんだ?」
「えーと、まず理論上MAXで時速482キロ出るようにして、そのスピードで車が吹っ飛ばないようにして、それとナイトラス・オキサイド・システム。
 世間一般で言うニトロを積んだ。簡単に言うとこれぐらいか」
「時速482キロ?それはえーのかよ?」
「速いも何も市販車のMAXが時速407キロだからな?はえーなんてもんじゃないから。運転ミスったら死ぬから。マジでパねえから」

吉田の説明にますますわからなくなる坂本と口裂け女。なぜそんな速度がいるのだろうか?

「なんで要るんだこんな車?」

単刀直入。それが一番早い。そして遠慮することでもない。その心で坂本は麦野に尋ねた。

「うん。ここらあたりは噂でよくターボババアが出ると言われている」
「ターボババアってあれか。ものすげー速く走って車を抜くって都心伝説」
「そう、それだ。この町のすぐそばにある高速道路に良く出没する。今回ターボババアと戦おうと思ってそんな改造を施してもらった」

速い相手にはそれに対抗できる手段を用意する。当然のことだ。しかし、ふと素朴な疑問が浮かんでくる。

「なあ、素朴な質問なんだけどよ。ターボババアとの勝負を『白いソアラ』でやろうと思った理由は?」
「私は5年ほど前、アメリカでとある団体に所属していたんだ」
「うん」
「そこでフォークロア、つまり都市伝説を研究していてね。この日本に来てからまだ『白いソアラ』にも『ターボババア』にも遭遇していない」
「……うん?」
「『白いソアラ』の力を体験しながらターボババアと戦う。これは相当面白くない?」

坂本は無言のままナイフを麦野の額へと突き刺した。




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