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連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ-52b

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喫茶ルーモア・隻腕のカシマ


小宴2


「あれ?カシマさん今日はお茶なの?」

ジャックとカシマが気まずそうにしているのを見かねて、輪が声を掛ける

「ん?……楽しいと酒が美味くて、つい飲み過ぎてしまう……
 まぁ、情けない話……以前ここで呑んだ時には二日酔いになってしまってな」

マスターが戻ってから数日後の事だっただろうか
Tさん達がやってきて昼間からお酒を呑んでいた時のことを思い出す

「じゃあ、今日は控えめにしてるんだ?」
「うむ……酒は好きなのだがな、あまり強くは無いので今日は気を付けているよ」
「ふ~ん」
「しかし、この店は何故か……懐かしいというか、何というか……」
「まぁ、確かに……居心地は良いよね」
「……居心地とはまた……違う気もするのだがな」

一方、ジャックにはマスターが声を掛ける

「これは店の住所へ届いたんだけれど、貴女へ宛てられたものだと思ってね」

そう言ってマスターは一通の封筒をジャックに渡す
宛名を見ると"男装の麗人×軍装の男へ"と書かれている

「私とカシマへ……ですか」
「軍人さんに渡しても良かったけれど、やはり先に女性に確認してもらった方が良いだろうと」
「恐縮です」

封を切って、中身を確認すると
プリントアウトされた文章と何枚かの写真が入っている

「……これは……何と……何と素晴らしい」

写真を確認したジャックが、ほぅ……と、溜息が漏らす

「ですが、一体いつ?……場所は林……山道……魔術師の時の……」

続いて文面を確認していく

*


────────────────────────────────────────

文章書くの面倒くせぇッス

同封した写真で分かると思うんスけど、カメラの男ッス
こういう時、ホントに写真て便利だと思うんスよ

結構イイ感じに撮れてたんで、モデルさんにもちゃんと見といてもらおう
というわけなんス
普段はラーメンとか廃墟ばっか撮ってて、久々に人物撮れたんで気分良かったッス
なんかこう、燃えたなーっていうか、楽しかったんス

あの時、ホントはオレ
あんた等に勝てたと思うんスよ、マジで
あんた等みたいな霊タイプになら勝てたはずなんスよ
望遠レンズでちまちまスナイプしてれば勝ててたはずなんス

でも、あまりにも被写体として魅力的で、つい近くまで寄せちまって
そうでなけりゃ勝ってたんスよ

つまり何が言いたかったというと、そんだけイイ感じだったんスよ
あんた等二人の組み合わせが

足止めだけできりゃ、良かったはずなんス
童貞の旦那がケリをつけるまでの間、時間かせげりゃ良かったはずなんス

だからホントに、あの時のあんた等のやり取りには痺れたんス
つい夢中になっちまったのも仕方ないッス

それにオレ、旦那のこと嫌いになれなくて
あんた等が行ったら、やられちまうと思って、焦って、何とか止めたくて

童貞の旦那もホントは悪いヤツじゃなかったんス
だから嫌わないでやって欲しいんス

童貞の旦那が死んじまった事も全部、将門の大将にも報告しておいたッス
だから、謝罪に来るヤツがいるかもしれないッスけど
そいつは事件には関係ないヤツラなんス
許してやって欲しいッス


追伸

ッスって、いちいち入力が面倒ッス

────────────────────────────────────────

*



まとまりの無い文章だった……
つまり、まとめると

"良い写真が撮れたから見てくれ"
"童貞魔術師の事を恨まないでくれ"
"首塚からの使者を許してやってくれ"

こういう事らしい

「私と輪に宛てたもの届いていて、たぶん同じ様な内容だと思うんだ」

内容について確認しあう

「どうやら、写真の点以外は同じ内容の様ですね」
「私は彼の書いてきた内容通りにするつもりでいるんだけど」
「甘いと思います……ですが、それは輪のマスターらしい回答だと思います」
「そうかい?……まぁ、こうして生きて帰って来れたからね」
「私も帰って来れました……遺恨はありませんし、カシマも同意してくれるでしょう」
「なら、この件は私に預からせてもらうよ」
「お任せします」
「うん、これで一件落着だ……よかったよかった」
「それに、何よりも……この写真は素晴らしい」
「ん?……見せてもらっても?」
「ええ、どうぞ」

写真は───

ジャックがカシマに掴み掛かっているところ

『私よりも少年を!輪を!早く!カシマ!私など放って行きなさいと言っているのです!』

カシマがジャックの両肩を左右から押さえているところ

『ジャック!輪は、大切な誰かを犠牲にしてまで助かることを望みはしない!』

カシマがジャックを庇い、それをジャックが見つめるところ

『そして、それはワタシも同じだ』
『カシマ……』

───等々

「うん、よく撮れているね……情感が伝わってくるよ」
「はい、とても」
「軍人さんにも見てもらうといい」
「そうですね、これならば話しもしやすい」
「うん、頑張って」
「ありがとうございました、マスター」

*



今度はボクサーが寂しそうな顔をして、ふらふらと近づいてくる

「ボクサーくん、どうしたんだい?」

マスターが見かねて声を掛ける

「いや、何でも無ぇ……」
「まぁまぁそんな顔しないで……話しを聞こうか?」
「……マスター……結婚て、夫婦ってなんなんだよぉ」
「結婚?……う~ん……私も今は独り身だしねぇ……中々難しいものだよね」
「マスターでも難しのかぁ……じゃあ俺なんか無理だよなぁ」
「あ、いや別にそういう意味で言ったわけじゃないんだよ……」
「いいんだよぉ、どうせ俺なんて……」
「ああ……ええと……そ、そうだ!私の前に、この店をやっていたご夫婦がいてね!」
「え……この店、マスターが建てたんじゃなかったのか?」
「うん、そうなんだよ!いや~ホントに仲の良い老夫婦だったよ」
「で、そのヒト達がどうかしたのか?」
「石上さんっていうんだけど……元々、奥さんの方は別に旦那さんがいてね」
「NTR?」
「え?……いや、そういうワードは不用意に言わない様にね」
「すんません」
「で、奥さんの方は元の旦那さんをとても愛していたらしいんだ」

でも、奥さんの元の旦那さんは戦争で亡くなられてしまってね
まぁ、そういう時代だったから仕方ない事ではあったんだ
多くの人が同じ様な状態で、特別珍しい境遇ではなかったんだね

当たり前の様に家族が亡くなって……凄いことだよね
それが戦争というものなんだと、この話を聞いた時初めて意識したよ
教科書で知る事が出来るものも多いけど、人の想いを感じた事は無かったから……

それでね、ものの無い時代だったから、当然食べるものにも困っていたらしくて
食べられそうな草は何でも食べたし、トカゲや蛇はもちろん幼虫なんかも食べたそうだよ
生きるのに必死だった、それでも徐々にやつれていってしまう
それを見かねたのか、石上さんが食べ物を分けてくれる様になってね
段々と、体力も回復して……

でも、ある日……気付いてしまったそうだ
石上さんが少しづつだけど痩せていっている事にね
そして訊いてみた……何だか痩せてきていませんか?とね
"少し、体を鍛えようと思ってね"
なんて事をいうけども、全く鍛えられた様な体ではない
そうだ、奥さんはそういう事……鍛えているかどうかはすぐ判るって言ってたな

それで、問い詰めて……理由を聞くと
"以前から貴女の事が気になっていて……食べ物が喉を通りません"
どうしたら、ちゃんと食べてくれるのですか?と聞くと
"貴女が自分と結婚してくれるなら"

「まぁ、そんなノロケ話を学生の頃によく聞かされたものだよ」
「へぇ、その人達……今は死んじまったのか?」
「残念ながらね……でも、十分長生きしたんじゃないかな」
「そりゃ良かった……店の名前ってその頃からルーモアだったのか?」
「いや、違うんだけど……レシピも何もかも引き継げてなかったからねぇ」
「そっかぁ……そりゃ残念だったなぁ」
「内装はほとんど残して、使っているんだけどね」
「ああ、年代モノっぽい感じはしてるよな」

少し離れた所で立っていたカシマが、ふらりとよろける
ジャックがすっと手を差し出し、支える
どうやら、カシマが酔い始めている様だった

「軍人さん……まぁ、大丈夫そうだね……で、話しを戻すけど……」
「おぅ……ん?何かこういう展開、前にもあったような……」
「そうなのかい?」
「まぁいいや、続けてくれよ」
「食事っていつの時代でも大切で、美味しい不味いはあるけれど……」
「ここの料理は美味いよなぁ」
「ふふ、ありがとう……じゃあ、これ食べてみてくれるかい?」
「おぅ!……美味いっ!!」
「そうかい?作った甲斐があるよ……でもそれ、凄く低カロリーなんだ」
「そうなのか?!こんなに美味いのに?!」
「毎日食べても太り難くて、体力も維持出来るようなメニュー
 ……簡単に言ってくれるけど、中々に難しい注文だったよ」

思い出して溜息を吐く……だが、その顔は楽しげだ

「へぇ……そんな注文するヤツがいたのか……」
「まぁ、新作のメニューを考え中だったからね」
「じゃあ、そいつのお陰で俺も助かってるって事なんだよなぁ?」
「そうだね……ふふ」
「そいつ、どんなヤツなの?」
「普段は大人しいけど、芯が強くて……」
「うんうん、それで?」
「繊細で、優しい心を持った……」
「優しいのか……で?」
「眼鏡の女の子だよ」
「メガネ?」
「分かったかい?」
「ぉ?……ぉぅ……?!」
「本当に?」
「分かったぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」





コロンビアのポーズを決めるボクサー(AA略

 / ̄二二二二二二二二二二二二二二二二ヽ
 | 答 |    碓   氷   サ    チ   │|
 \_二二二二二二二二二二二二二二二二ノ


「それは良かった」
「あざースッ!!マスターに話し聞いてもらえて良かった!!」
「どう致しまして」

*



「あ~~そっか、分かった……アイツに似てるんだなぁ」

思い出した様にボクサーが言う

「え?」
「マスターの話し方とか話の筋の戻し方って、輪に似てるんだよぉ」
「私達が似てる?」
「何となくだけどよぉ、似てるって思った!」
「……そうかい?」
「やっぱ親子なんだなぁ……ぅお?逆か?輪がマスターに似てるのか?」
「……」
「お?……マスターどうしたんだ?」
「なんでもないよ……ちょっと嬉しかっただけさ」
「おぅそうか、なら、問題ねぇなぁ!」
「ああ、問題ない……何の問題もない……」
「この店って、ホントいいよな……サチもマスターも、ホントいいよな」
「ありがとう、ボクサーくん……君もとても良い人だと、私は思うよ」
「へ?俺が?……んなこと無ぇよぉ」
「君は不思議な人だね」
「それは、まぁ……たまに言われるけどよぉ」
「気を悪くしないでくれ、とても良い意味で不思議だと言ったんだ」
「全然!気分悪くなんか無ぇよぉ」
「ありがとう……じゃあ、まだまだ料理はあるから、説明していこうか」
「うぃーッス」

太陽は沈み、店の外は既に暗い
だが、その闇を寄せ付けぬほどに店内は明るく輝いていた


*


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