悪意渦巻くその中で
から
から
●
≪ユニコーン≫が向けてくる期待の視線を目を逸らすことで回避する舞。それを横目にしながらTさんは目の前の一人と一頭に声をかけた。
「≪ユニコーン≫、それにヘンリー・ギボンヌだな?」
「名前、知ってるのか?」
意外そうな顔をするヘンリーにTさんは「まあな」と答える。
「人づてに聞いた。……大人しくヨーロッパに帰れ」
「そうはいかない」
Tさんに即答し、ヘンリーは続ける。
「俺には世界中のビッチを殺して乙女を守り、その膝枕に浸るという崇高な目的がある!」
そう言うとヘンリーと≪ユニコーン≫はグルリと勢いよく首を回して舞を見た。
心持ち舞が引くのに構わずヘンリーは言う。
「麗しきレディ! さあここは危ない、俺が送り届けるので急いで逃げて、そして今度こそ安全な場所で三度目の正直、ぜひとも俺に膝枕をっ!」
「いやいやいや落ちつけよ!? だいたいさっき兄ちゃん膝枕は後日とか言ってたろ? 時と場合を考えろとか!」
「このエロホースに負けるわけにはいかないんだ!」
そう訴えるヘンリー。≪ユニコーン≫がそんなヘンリーを好敵手を見るような目で見、その意見に応じるように鼻ぶるいする。
その執念じみた剣幕に舞はTさんの背にそっと隠れる。苦笑してTさんがヘンリーらの視線上に立った。
「乙女以外は殺すか……随分と過激な事だな」
「尻軽ビッチには当然の制裁だ! そしてどけ。レディの御尊顔が拝めない」
ヘンリーはTさんを見てつまらなそうに言い、そしてそこで初めて気付いたように眉を浅く上げる。
「お前は以前もビッチを殺そうとした俺の邪魔をして更にそこのレディに触れることも邪魔した奴か……何度も邪魔をするな」
「断る」
「俺が乙女を安全圏まで送り届けて膝枕を手に入れるのを邪魔するのか?」
「邪魔も何も……なあ?」
ヘンリーの言葉に舞とリカちゃんがTさんを困ったような顔で見る。Tさんも一つ頷き、
「安全圏もなにも危険なのはお前たちだ。ヘンリー・ギボンヌ、≪ユニコーン≫。悪いが止めさせてもらうぞ」
Tさんの声を聞いたヘンリーが≪ユニコーン≫を傍に寄せて暗く暗く言う。
「穢れなきレディを傷つけるわけにはいかないが、それを邪魔する野郎は関係ないな……」
殺気がこもった言葉と共に、ヘンリーの胸元に黒い染みが浮き出した。
「Tさん!」
「お兄ちゃん!」
「ああ」
舞とリカちゃんに答えつつTさんはヘンリーの胸元から湧きだした染みを確認する。
≪悪魔の囁き≫か……。見た限りでは≪悪魔の囁き≫が憑いているのはヘンリー一人のようだな。
そう当たりを付けて舞たちに言う。
「ある程度ダメージを入れて≪悪魔の囁き≫を引きずり出す。宿主が窮地に陥れば奴も出て来ざるを得んだろう」
言い置くと同時、ヘンリーが殺気も露わに叫ぶ。
「邪魔するんならビッチ同様――死ねっ!」
≪ユニコーン≫が応じて高く嘶き、ヘンリーと≪ユニコーン≫、両者が地を駆けた。
「≪ユニコーン≫、それにヘンリー・ギボンヌだな?」
「名前、知ってるのか?」
意外そうな顔をするヘンリーにTさんは「まあな」と答える。
「人づてに聞いた。……大人しくヨーロッパに帰れ」
「そうはいかない」
Tさんに即答し、ヘンリーは続ける。
「俺には世界中のビッチを殺して乙女を守り、その膝枕に浸るという崇高な目的がある!」
そう言うとヘンリーと≪ユニコーン≫はグルリと勢いよく首を回して舞を見た。
心持ち舞が引くのに構わずヘンリーは言う。
「麗しきレディ! さあここは危ない、俺が送り届けるので急いで逃げて、そして今度こそ安全な場所で三度目の正直、ぜひとも俺に膝枕をっ!」
「いやいやいや落ちつけよ!? だいたいさっき兄ちゃん膝枕は後日とか言ってたろ? 時と場合を考えろとか!」
「このエロホースに負けるわけにはいかないんだ!」
そう訴えるヘンリー。≪ユニコーン≫がそんなヘンリーを好敵手を見るような目で見、その意見に応じるように鼻ぶるいする。
その執念じみた剣幕に舞はTさんの背にそっと隠れる。苦笑してTさんがヘンリーらの視線上に立った。
「乙女以外は殺すか……随分と過激な事だな」
「尻軽ビッチには当然の制裁だ! そしてどけ。レディの御尊顔が拝めない」
ヘンリーはTさんを見てつまらなそうに言い、そしてそこで初めて気付いたように眉を浅く上げる。
「お前は以前もビッチを殺そうとした俺の邪魔をして更にそこのレディに触れることも邪魔した奴か……何度も邪魔をするな」
「断る」
「俺が乙女を安全圏まで送り届けて膝枕を手に入れるのを邪魔するのか?」
「邪魔も何も……なあ?」
ヘンリーの言葉に舞とリカちゃんがTさんを困ったような顔で見る。Tさんも一つ頷き、
「安全圏もなにも危険なのはお前たちだ。ヘンリー・ギボンヌ、≪ユニコーン≫。悪いが止めさせてもらうぞ」
Tさんの声を聞いたヘンリーが≪ユニコーン≫を傍に寄せて暗く暗く言う。
「穢れなきレディを傷つけるわけにはいかないが、それを邪魔する野郎は関係ないな……」
殺気がこもった言葉と共に、ヘンリーの胸元に黒い染みが浮き出した。
「Tさん!」
「お兄ちゃん!」
「ああ」
舞とリカちゃんに答えつつTさんはヘンリーの胸元から湧きだした染みを確認する。
≪悪魔の囁き≫か……。見た限りでは≪悪魔の囁き≫が憑いているのはヘンリー一人のようだな。
そう当たりを付けて舞たちに言う。
「ある程度ダメージを入れて≪悪魔の囁き≫を引きずり出す。宿主が窮地に陥れば奴も出て来ざるを得んだろう」
言い置くと同時、ヘンリーが殺気も露わに叫ぶ。
「邪魔するんならビッチ同様――死ねっ!」
≪ユニコーン≫が応じて高く嘶き、ヘンリーと≪ユニコーン≫、両者が地を駆けた。
●
駆けだした一人と一頭のうち、突出してきた≪ユニコーン≫が馬蹄の音を力強く響かせ、その額に生えた角をTさんに向けて突き込んだ。
Tさんは半歩身をかわして眼前を貫く角を右手で掴む。
「っ!」
身体を有無を言わさず引きずって行こうとする≪ユニコーン≫の突進。Tさんは左の手に光を現し、
「砕けろ!」
手を振るう。撃ち出された光弾が≪ユニコーン≫の足元を砕いた。
足をとられ、バランスを崩した≪ユニコーン≫をTさんは突進の推進力を利用して地面へと引き倒した。
更に光を新たに溜めた手を≪ユニコーン≫へと向ける。それを放とうとして、
「ビッチ擁護と乙女の独占をする奴は死ね!」
飛び込んできたヘンリーの蹴撃に阻まれた。
ヘンリーはTさんへと肉薄し、蹴足を連続して繰り出す。それらの蹴り一発一発が≪ユニコーン≫との契約の恩恵で壮絶な力を秘めている。更に今は≪悪魔の囁き≫により攻撃性が増している状態だ。
直撃は避けたい……!
Tさんが黒服から聞いた話を元に蹴りを警戒して避けていると、視界の端で≪ユニコーン≫が立ち上がったのが窺えた。角を再びTさんに照準するのを気配で感じとる。
「処女ではないからと言ってそれら全てを攻撃対象にするのはおかしくはないか?」
ヘンリーの足先を地に伏せかわし転瞬、顎を蹴り抜こうと蹴りを放つTさん。
「穢れた女は皆ビッチで十分だ!」
ヘンリーは蹴りに合わせて真上に跳ね飛んだ。Tさんの蹴りは回避される。ヘンリーは更にTさんの蹴り足が引き戻される前にそれを足場にし、バランスを崩しがてらもう一段高くへと跳びはねる。
良い反応をしている!
足場にされた負荷に耐え、しかし態勢を崩されながらTさんが小さく舌打ちしていると、横合いから≪ユニコーン≫の突撃が来た。鋭利な角の先端に集約する殺気を感じながらTさんは祈る。
――真上に跳ね飛ぶことができれば幸せだ!
直後、先程≪ユニコーン≫に対して放とうとして手に溜めた光弾を崩された態勢のまま自身の足元の地面に打ち付けた。
小規模の爆発が起きる。
「自爆、か?」
爆発からすんでのところで逃れた≪ユニコーン≫を視界の端に捉えながら煙に目を凝らすヘンリー。
「――いいや」
そこに声がかかった。
即座に反応して振り向いたヘンリーは、宙、ヘンリーよりも更に高い位置にTさんが吹き飛ばされている姿を視界に捉えた。彼の手足には光が宿っている。
Tさんは身を捻って姿勢を整えると気楽に言った。
「仲良く落ちようか」
手からの光を推進剤に空を飛び、足をヘンリーに押しつけた。そのままヘンリーは踏みつけにされる。
「――このッ!」
「遅い!」
ヘンリーが反撃に出る前に両者は地面へと突っ込んだ。
路面を砕く鈍い音に舞が声を上げる。
「Tさん!」
「問題無い」
そう答え、いつの間にか舞に近づいていた≪ユニコーン≫に牽制弾を放って追い払うとTさんは舞の傍に移動した。舞は即座に問いかける。
「あの兄ちゃんは!?」
「落下の瞬間足で跳ねとんだ。おそらく大した怪我を負ってはいまい」
Tさんの発言通り、ヘンリーは見た目的にはほぼ無傷で砕かれた路面の向こうに立っていた。牽制弾に身を退いた≪ユニコーン≫に文句を言っている。
「てめえ人が割と危険な時になにレディにお近づきしてやがる!?」
対する≪ユニコーン≫は『それがどうした、お前よりも乙女の方が大事だろ』とでも言いたげに鼻を鳴らしている。
そのヘンリーの様子にTさんは、「まだ実体化はしないか……」と徐々に濃くなっていくヘンリーの胸元の染みを見ながら呟く。
「……徹底的にやるしかないか?」
実体化してもらわなくては≪悪魔の囁き≫のみを撃つ事は不可能だ。しかしヘンリーと≪ユニコーン≫が≪悪魔の囁き≫の被害者である以上あまり傷つけたくはない。
そうTさんが考えていると、呟きを聞いた舞が少し考え込むようにして、
「……よし、ならここは俺に任せとけ」
「……?」
疑問顔を向けるTさんに「大丈夫大丈夫」と舞とリカちゃんは意気揚々、ヘンリーと≪ユニコーン≫の前に立った。
問いかける。
「なあ、≪ユニコーン≫にヘンリーの兄ちゃん。そんなに膝枕、してほしいか?」
「か?」
舞とリカちゃんの言葉に一瞬場の動きが止まる。ヘンリーと≪ユニコーン≫は顔を見合わせ、
「イエスッ!!」
激しく頷いた。「うぉ……」と気圧されながらも舞とリカちゃんは「おーけーおーけー」と頷き、一人と一頭を手招きし出した。
「じゃあおいでおいで」
「おいでー」
それに「はーい」と言われるままに従う二人。だがそれに待ったをかける存在があった。
『オイ、チョット待テッ!?』
声と共にヘンリーの胸元の染みが急速に拡大し、飽和。ヘンリー自身と≪ユニコーン≫を包むように染みから黒い影が溢れだし、それは黒い双頭の蛇の姿をとった。
「≪悪魔の囁き≫……か」
Tさんがどこか呆れた声を出す。
≪悪魔の囁き≫は両の頭にある大口を開き、一人と一頭に馬鹿か阿呆かよく考えろとステレオで喚き立てている。その様子を観察し、まだその尾がヘンリーの胸元に繋がっている事を確認した。
まだ全身ではないか……。
ちらりとTさんを見てきた舞たちに小さく首を振って答える。舞は小さく頷いていらえを返し、手招きを続行した。
≪悪魔の囁き≫は尚も喚き立てている。
『ドウ見タッテ罠ダロォッ!? 待テヨ馬鹿野郎ォォォッ!』
それに答えるヘンリーと≪ユニコーン≫の態度は毅然として一貫したものだった。
「いや、穢れなき乙女が膝枕をすると言っているのだ! これを断ってなるものか!」
同意するようにひたすら首を上下に動かす≪ユニコーン≫。
『チッタァ考エロヨ阿呆カァアアッ!?』
「……なんつーか、憑いた相手が悪かったなぁ、お前」
舞が同情気味に言う。
「あ、ところで兄ちゃん」
「何でしょうかレディ?」
何故か丁寧語になっているヘンリーに、うん、と舞が言う。
「兄ちゃん達って会った時から膝枕膝枕って言ってるけどさ、乙女の膝枕ならなんでもいいの?」
「そうですね、俺は世の乙女達全ての膝枕を味わい尽くさねばならないという使命があります故!」
両手を広げて≪悪魔の囁き≫の声を無視しながら宣言するヘンリーと同意を全身を使って表現する≪ユニコーン≫。それに、なるほど。と答えて舞は頭上のリカちゃんに問いかけた。
「なあリカちゃん。どう思う?」
リカちゃんは重々しく首を左右に振る。
「だめなの」
「だよな~」
「……? 一体何が?」
問う一人と一頭に舞は「ん~?」と唸りながら頭からリカちゃんを取りあげて左腕にマウントする。
≪悪魔の囁き≫が慌てた声を上げた。
『! オイ、オマエラ、トットト退ケ! ジャネエト――』
舞は≪悪魔の囁き≫の言葉の途中から一歩、二歩と軽やかにヘンリーと≪ユニコーン≫の方へと近づいて行った。≪悪魔の囁き≫がヘンリーのせいか、それとも元々何も出来ないのか、舞たちに手出ししてこないのを確認すると笑みを作る。
「つ・ま・り」
ヘンリー達に近づきながら笑顔で右の拳を握り、
「乙女なら誰の膝枕でも良いっていう返答は……」
左のリカちゃんを構える。
「乙女心的には――」
最後の一歩は気持ちの良い踏み込みで、
「不合格っ!」
舞のアッパーがヘンリーを、リカちゃんの手が≪ユニコーン≫を強かに打った。
それぞれ思い思いの悲鳴を上げて地に倒れる≪ユニコーン≫と宙を舞うヘンリー。
「リカちゃーん、よろしく!」
舞はダメージの浅いヘンリーに向けてリカちゃんを放り投げた。
「はーい!」
『ヤメロオオオオオオオォッ!?』
≪悪魔の囁き≫を完全無視してリカちゃんの答えに「がんばー」と声援を送り、更に舞は小さく付け足した。
――Tさん以上のいい男になったら膝枕くらいしてやらぁ。
リカちゃんがヘンリーの胸部を、その姿からは想像できない膂力で殴り付ける音が鈍く響いた。
地面に激突したヘンリーを見て舞はぽつりと言う。
「……まあ、無理だろうけどな」
Tさんは半歩身をかわして眼前を貫く角を右手で掴む。
「っ!」
身体を有無を言わさず引きずって行こうとする≪ユニコーン≫の突進。Tさんは左の手に光を現し、
「砕けろ!」
手を振るう。撃ち出された光弾が≪ユニコーン≫の足元を砕いた。
足をとられ、バランスを崩した≪ユニコーン≫をTさんは突進の推進力を利用して地面へと引き倒した。
更に光を新たに溜めた手を≪ユニコーン≫へと向ける。それを放とうとして、
「ビッチ擁護と乙女の独占をする奴は死ね!」
飛び込んできたヘンリーの蹴撃に阻まれた。
ヘンリーはTさんへと肉薄し、蹴足を連続して繰り出す。それらの蹴り一発一発が≪ユニコーン≫との契約の恩恵で壮絶な力を秘めている。更に今は≪悪魔の囁き≫により攻撃性が増している状態だ。
直撃は避けたい……!
Tさんが黒服から聞いた話を元に蹴りを警戒して避けていると、視界の端で≪ユニコーン≫が立ち上がったのが窺えた。角を再びTさんに照準するのを気配で感じとる。
「処女ではないからと言ってそれら全てを攻撃対象にするのはおかしくはないか?」
ヘンリーの足先を地に伏せかわし転瞬、顎を蹴り抜こうと蹴りを放つTさん。
「穢れた女は皆ビッチで十分だ!」
ヘンリーは蹴りに合わせて真上に跳ね飛んだ。Tさんの蹴りは回避される。ヘンリーは更にTさんの蹴り足が引き戻される前にそれを足場にし、バランスを崩しがてらもう一段高くへと跳びはねる。
良い反応をしている!
足場にされた負荷に耐え、しかし態勢を崩されながらTさんが小さく舌打ちしていると、横合いから≪ユニコーン≫の突撃が来た。鋭利な角の先端に集約する殺気を感じながらTさんは祈る。
――真上に跳ね飛ぶことができれば幸せだ!
直後、先程≪ユニコーン≫に対して放とうとして手に溜めた光弾を崩された態勢のまま自身の足元の地面に打ち付けた。
小規模の爆発が起きる。
「自爆、か?」
爆発からすんでのところで逃れた≪ユニコーン≫を視界の端に捉えながら煙に目を凝らすヘンリー。
「――いいや」
そこに声がかかった。
即座に反応して振り向いたヘンリーは、宙、ヘンリーよりも更に高い位置にTさんが吹き飛ばされている姿を視界に捉えた。彼の手足には光が宿っている。
Tさんは身を捻って姿勢を整えると気楽に言った。
「仲良く落ちようか」
手からの光を推進剤に空を飛び、足をヘンリーに押しつけた。そのままヘンリーは踏みつけにされる。
「――このッ!」
「遅い!」
ヘンリーが反撃に出る前に両者は地面へと突っ込んだ。
路面を砕く鈍い音に舞が声を上げる。
「Tさん!」
「問題無い」
そう答え、いつの間にか舞に近づいていた≪ユニコーン≫に牽制弾を放って追い払うとTさんは舞の傍に移動した。舞は即座に問いかける。
「あの兄ちゃんは!?」
「落下の瞬間足で跳ねとんだ。おそらく大した怪我を負ってはいまい」
Tさんの発言通り、ヘンリーは見た目的にはほぼ無傷で砕かれた路面の向こうに立っていた。牽制弾に身を退いた≪ユニコーン≫に文句を言っている。
「てめえ人が割と危険な時になにレディにお近づきしてやがる!?」
対する≪ユニコーン≫は『それがどうした、お前よりも乙女の方が大事だろ』とでも言いたげに鼻を鳴らしている。
そのヘンリーの様子にTさんは、「まだ実体化はしないか……」と徐々に濃くなっていくヘンリーの胸元の染みを見ながら呟く。
「……徹底的にやるしかないか?」
実体化してもらわなくては≪悪魔の囁き≫のみを撃つ事は不可能だ。しかしヘンリーと≪ユニコーン≫が≪悪魔の囁き≫の被害者である以上あまり傷つけたくはない。
そうTさんが考えていると、呟きを聞いた舞が少し考え込むようにして、
「……よし、ならここは俺に任せとけ」
「……?」
疑問顔を向けるTさんに「大丈夫大丈夫」と舞とリカちゃんは意気揚々、ヘンリーと≪ユニコーン≫の前に立った。
問いかける。
「なあ、≪ユニコーン≫にヘンリーの兄ちゃん。そんなに膝枕、してほしいか?」
「か?」
舞とリカちゃんの言葉に一瞬場の動きが止まる。ヘンリーと≪ユニコーン≫は顔を見合わせ、
「イエスッ!!」
激しく頷いた。「うぉ……」と気圧されながらも舞とリカちゃんは「おーけーおーけー」と頷き、一人と一頭を手招きし出した。
「じゃあおいでおいで」
「おいでー」
それに「はーい」と言われるままに従う二人。だがそれに待ったをかける存在があった。
『オイ、チョット待テッ!?』
声と共にヘンリーの胸元の染みが急速に拡大し、飽和。ヘンリー自身と≪ユニコーン≫を包むように染みから黒い影が溢れだし、それは黒い双頭の蛇の姿をとった。
「≪悪魔の囁き≫……か」
Tさんがどこか呆れた声を出す。
≪悪魔の囁き≫は両の頭にある大口を開き、一人と一頭に馬鹿か阿呆かよく考えろとステレオで喚き立てている。その様子を観察し、まだその尾がヘンリーの胸元に繋がっている事を確認した。
まだ全身ではないか……。
ちらりとTさんを見てきた舞たちに小さく首を振って答える。舞は小さく頷いていらえを返し、手招きを続行した。
≪悪魔の囁き≫は尚も喚き立てている。
『ドウ見タッテ罠ダロォッ!? 待テヨ馬鹿野郎ォォォッ!』
それに答えるヘンリーと≪ユニコーン≫の態度は毅然として一貫したものだった。
「いや、穢れなき乙女が膝枕をすると言っているのだ! これを断ってなるものか!」
同意するようにひたすら首を上下に動かす≪ユニコーン≫。
『チッタァ考エロヨ阿呆カァアアッ!?』
「……なんつーか、憑いた相手が悪かったなぁ、お前」
舞が同情気味に言う。
「あ、ところで兄ちゃん」
「何でしょうかレディ?」
何故か丁寧語になっているヘンリーに、うん、と舞が言う。
「兄ちゃん達って会った時から膝枕膝枕って言ってるけどさ、乙女の膝枕ならなんでもいいの?」
「そうですね、俺は世の乙女達全ての膝枕を味わい尽くさねばならないという使命があります故!」
両手を広げて≪悪魔の囁き≫の声を無視しながら宣言するヘンリーと同意を全身を使って表現する≪ユニコーン≫。それに、なるほど。と答えて舞は頭上のリカちゃんに問いかけた。
「なあリカちゃん。どう思う?」
リカちゃんは重々しく首を左右に振る。
「だめなの」
「だよな~」
「……? 一体何が?」
問う一人と一頭に舞は「ん~?」と唸りながら頭からリカちゃんを取りあげて左腕にマウントする。
≪悪魔の囁き≫が慌てた声を上げた。
『! オイ、オマエラ、トットト退ケ! ジャネエト――』
舞は≪悪魔の囁き≫の言葉の途中から一歩、二歩と軽やかにヘンリーと≪ユニコーン≫の方へと近づいて行った。≪悪魔の囁き≫がヘンリーのせいか、それとも元々何も出来ないのか、舞たちに手出ししてこないのを確認すると笑みを作る。
「つ・ま・り」
ヘンリー達に近づきながら笑顔で右の拳を握り、
「乙女なら誰の膝枕でも良いっていう返答は……」
左のリカちゃんを構える。
「乙女心的には――」
最後の一歩は気持ちの良い踏み込みで、
「不合格っ!」
舞のアッパーがヘンリーを、リカちゃんの手が≪ユニコーン≫を強かに打った。
それぞれ思い思いの悲鳴を上げて地に倒れる≪ユニコーン≫と宙を舞うヘンリー。
「リカちゃーん、よろしく!」
舞はダメージの浅いヘンリーに向けてリカちゃんを放り投げた。
「はーい!」
『ヤメロオオオオオオオォッ!?』
≪悪魔の囁き≫を完全無視してリカちゃんの答えに「がんばー」と声援を送り、更に舞は小さく付け足した。
――Tさん以上のいい男になったら膝枕くらいしてやらぁ。
リカちゃんがヘンリーの胸部を、その姿からは想像できない膂力で殴り付ける音が鈍く響いた。
地面に激突したヘンリーを見て舞はぽつりと言う。
「……まあ、無理だろうけどな」
●
『コノ変態野郎共ガアアアァッ!』
地に打ちつけられたヘンリーから≪悪魔の囁き≫がその全容を現した。
黒い双頭の蛇はその顎でヘンリーと≪ユニコーン≫を咥え上げ、長大な尾を激しく振るって怒りを表現する。
『コウナッタラ俺ガ直接コノ馬鹿共を操ッテ――』
「やっと全身を現したな」
猛る≪悪魔の囁き≫に向けてTさんが掌を向けた。≪悪魔の囁き≫は、グッ、と言葉に詰まるとヘンリーと≪ユニコーン≫を盾にでもするかのように前に突き出した。
『チィッ! 撃チタキャ撃ッテミロ! ダガコイツラモ撃ツノカ? コイツラモレッキトシタ被害者ダゼェ?』
嘲弄交じりに告げる≪悪魔の囁き≫に「ああ、問題無い」と答え、Tさんは≪悪魔の囁き≫へと向けた掌に光弾を現した。
祈る。
「≪悪魔の囁き≫のみを撃ち抜いてくれれば、幸せだな」
Tさんの言葉を≪悪魔の囁き≫が嘲笑う。
『アッヒャハハハ!! ンナ都合ノ良イ事ガアル筈ガ――』
「済まんな」
それがあるんだよ。
笑みで告げるとTさんは叫んだ。
「破ぁっ!」
幸せが寸分違わず履行された。
地に打ちつけられたヘンリーから≪悪魔の囁き≫がその全容を現した。
黒い双頭の蛇はその顎でヘンリーと≪ユニコーン≫を咥え上げ、長大な尾を激しく振るって怒りを表現する。
『コウナッタラ俺ガ直接コノ馬鹿共を操ッテ――』
「やっと全身を現したな」
猛る≪悪魔の囁き≫に向けてTさんが掌を向けた。≪悪魔の囁き≫は、グッ、と言葉に詰まるとヘンリーと≪ユニコーン≫を盾にでもするかのように前に突き出した。
『チィッ! 撃チタキャ撃ッテミロ! ダガコイツラモ撃ツノカ? コイツラモレッキトシタ被害者ダゼェ?』
嘲弄交じりに告げる≪悪魔の囁き≫に「ああ、問題無い」と答え、Tさんは≪悪魔の囁き≫へと向けた掌に光弾を現した。
祈る。
「≪悪魔の囁き≫のみを撃ち抜いてくれれば、幸せだな」
Tさんの言葉を≪悪魔の囁き≫が嘲笑う。
『アッヒャハハハ!! ンナ都合ノ良イ事ガアル筈ガ――』
「済まんな」
それがあるんだよ。
笑みで告げるとTさんは叫んだ。
「破ぁっ!」
幸せが寸分違わず履行された。
●
「寺生まれってすげえ……」
「≪悪魔の囁き≫は見た目だけだ。表に現れたアレを倒すのはそう難しい事じゃない」
一撃で完全消滅した≪悪魔の囁き≫の居た空間をまじまじと見る舞に地面に倒れたヘンリーと≪ユニコーン≫を軽く検分しながらTさんが答える。
彼はしばらくヘンリーと≪ユニコーン≫の様子を見ると、最後に攻撃性の無い光を浴びせ、息を吐き出した。
「これで問題無い。目覚めればもう普通に動く事くらいは出来る」
そうすれば後は自分達で勝手に身を振るだろう。そう言ってTさんは立ち上がり、舞を見て苦笑した。
「それにしても、『無理』とは大きく出たな」
Tさんが言っているのは先程ヘンリーを殴り倒した時に舞が言っていたことだ。
「げ、聞こえてた?」
ああ、とTさんが答えると舞は頬を引き攣らせ、
「いいじゃん別に。それにどうせこいつらはそのうち俺の膝枕なんざ興味無くなるだろうし」
早口にまくしたてるとそっぽを向いた。
Tさんは相好を崩すと笑いを押し殺しながら頷いた。
「……そうだな。いずれ、な」
「おう……」
そう言って小さく頷く舞。何の事かと頭に疑問符を浮かべながら舞の頭上の定位置に戻ったリカちゃんがTさんを評する。
「お兄ちゃん、おうまさんたちよりもすごいの!」
「ありがとうリカちゃん。リカちゃんも舞も凄かったな。正直あれでいけるとは思わなかった」
えへんと胸を張るリカちゃんを褒め、舞が大きく息を吸い込んで言った。
「ほら! さっさと行くぞ! この馬鹿騒ぎもちゃちゃっと終わらせようぜ!」
Tさんに背を向けたまま言う舞。ただ、髪間に覗く彼女の耳は赤く染まっている。
「そうだな。早々にケリをつけに行こう」
しばらく舞の顔は見てやらないようにしよう。Tさんはそう思いながら足を進めた。
「≪悪魔の囁き≫は見た目だけだ。表に現れたアレを倒すのはそう難しい事じゃない」
一撃で完全消滅した≪悪魔の囁き≫の居た空間をまじまじと見る舞に地面に倒れたヘンリーと≪ユニコーン≫を軽く検分しながらTさんが答える。
彼はしばらくヘンリーと≪ユニコーン≫の様子を見ると、最後に攻撃性の無い光を浴びせ、息を吐き出した。
「これで問題無い。目覚めればもう普通に動く事くらいは出来る」
そうすれば後は自分達で勝手に身を振るだろう。そう言ってTさんは立ち上がり、舞を見て苦笑した。
「それにしても、『無理』とは大きく出たな」
Tさんが言っているのは先程ヘンリーを殴り倒した時に舞が言っていたことだ。
「げ、聞こえてた?」
ああ、とTさんが答えると舞は頬を引き攣らせ、
「いいじゃん別に。それにどうせこいつらはそのうち俺の膝枕なんざ興味無くなるだろうし」
早口にまくしたてるとそっぽを向いた。
Tさんは相好を崩すと笑いを押し殺しながら頷いた。
「……そうだな。いずれ、な」
「おう……」
そう言って小さく頷く舞。何の事かと頭に疑問符を浮かべながら舞の頭上の定位置に戻ったリカちゃんがTさんを評する。
「お兄ちゃん、おうまさんたちよりもすごいの!」
「ありがとうリカちゃん。リカちゃんも舞も凄かったな。正直あれでいけるとは思わなかった」
えへんと胸を張るリカちゃんを褒め、舞が大きく息を吸い込んで言った。
「ほら! さっさと行くぞ! この馬鹿騒ぎもちゃちゃっと終わらせようぜ!」
Tさんに背を向けたまま言う舞。ただ、髪間に覗く彼女の耳は赤く染まっている。
「そうだな。早々にケリをつけに行こう」
しばらく舞の顔は見てやらないようにしよう。Tさんはそう思いながら足を進めた。