悪意が願う
ここから
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「≪黄金伝説のドラゴン≫、荘厳……というよりも猛々しいな。≪コーク・ロア≫、≪悪魔の囁き≫の件といい、姦計に秀でている印象を受けたが個人戦闘も直接相対は避けたくなる姿をしている」
黄金竜を前にTさんは口を開けた。
黄金竜へと歩み寄りながらTさんはその目を見据える。竜の瞳から感じるのは憎悪、敵意、怒りといった負の感情。それが猛々しい雰囲気を更に強調している。
「舞、リカちゃん、あまりドラゴンの目を見るな」
後方の二人に言う。返事が返るのとほぼ同じタイミングで頭の中に声が響いた。
『貴様は何だ、化け物!』
「おお、声すげえ! やっぱりこれ頭に直接来てるぜ!? テレパシーって奴か!?」
ビルに入る直前にも聞いた声だ。竜の声帯では人語を喋ることは出来ないのだろう。
「と、言う事は」
やはりあれが朝比奈秀雄本人か。
Tさんはそう思いながら黄金竜へと名乗る。
「Tさんだ、朝比奈秀雄。青年――翼と朝比奈マドカとは知った仲だ。見たところ、使役ではなく、自身が竜化しているようだな」
「ドラ○ラムか!」
「お姉ちゃん、それなんなの?」
舞が何やらリカちゃん相手に説明しているがTさんはとりあえず無視する。聞くに、自身が分かりやすいように状況を解釈しているのだろう。本質を見誤らなければ構わない。
Tさんは舞達を入り口付近に残し、更に黄金竜へと歩み寄りながら周辺に視線を走らせ、状況を確認する。
先程結界強化を施した位置に翼、ビルに来る前に予想した通り、マドカが翼の近くに居る。足を負傷しているのだろうか、庇っているようにも見えた。コンクリートに首を突っ込んで痙攣している少女は朝比奈マドカの手によるものだろうか? そして見知らぬ男が一人いるが、
気軽に自己紹介をしている余裕は無いか……。
朝比奈マドカの件も、もう少し期を見て青年らに会ってもらいたかったのだがな。と内心で小さく嘆息し、その場に居る最後の一人、黒服へと目を向ける。黒服が取り出した古びた槍の穂先らしきものを確認し、
切り札は黒服さんが持っているか……。
先程の台詞を聞くに、ほぼ間違いないだろう。Tさんは内心で行動の検討をつけ、黄金竜に話しかける。
「朝比奈秀雄、人間の姿をしていながら人間ではない……それを、化け物と呼んで何が悪い? と言っていたな」
『ああ、貴様のような存在こそ真の化け物だ!』
首をもたげ、恫喝するように口を開き吼え、テレパシーで意志を伝えて来る黄金竜。Tさんは苦笑して頷いた。
「否定はせん」
そうしながら彼の行動の意味を忖度する。
都市伝説の力を否定しているようで、しかし朝比奈秀雄は、彼の言によるならば『願いをかなえるための糧として』その力を使っている。
その願いについてはいくつか予測が立てられている。一つは翼を介して日景の権力を手に入れること、
そして、
『晴海を弄び、殺した連中に復讐を…………そして、私は再び、彼女を取り戻す』
朝比奈秀雄が口走った言葉を思う。
殺された者を取り戻す……か。
死んだ者の蘇生、まず不可能であろうそれを成す可能性がある存在が今回の事件に絡んでいる事をTさんは知っている。朝比奈秀雄が翼の他に目的としているのではないかと黒服が言い、秘匿されているその存在を朝比奈マドカが漏らしたであろう、日景家の宝、≪小瓶の魔人≫。
願いを叶える力を持つとする魔人……死者を蘇らすことができる可能性は低いと思うが。
可能性はゼロではない。
そう考えながら相手との距離を測る。
「だが、それでもその化け物を認めてくれる者がいてな」
『愚昧だな、化け物の恐ろしさをまるで分かっていない』
「馬鹿なのは否定しないが」
笑う。
「或る意味、舞は俺よりも聡いよ」
「へ?」
舞の声を背中で聞き、心地良さげに笑みを濃くする。
……何を目的にしていようと、ともかく目の前の竜は止めねばな。――話を聞くならその後だ。
思い、意識を切り替える。
「お前のせいで被害に遭っている者も多い、ここで馬鹿な計画は幕にしよう」
笑みを一転、Tさんは白光を手に宿し、黄金竜を睨み、叫ぶ。
「朝比奈マドカ! ≪フィラデルフィア計画≫!」
「っ!」
返答は結果を持って為された。
黄金竜の身体を光が包み、その身体の一部が崩壊したビルの中に転移する。
『愚かな化け物が!』
黄金竜が吼え、身体をくねらせた。ビルに沈みこんだ身体が力任せに瓦礫を飛ばし、ずるりと抜けだす。
ビルの面では脆いか……っ。
以前朝比奈秀雄は力任せにビルを切断して見せたという。ならばこの結果は予想の範疇ではある。加えて朝比奈マドカの≪フィラデルフィア計画≫が相手を無機物と融合させるものでもないらしいとも理解する。彼女の力だけでは黄金竜を止めることは難しいだろう。
ならば――!
「破ぁっ!!」
光弾を放つ。逆の手に更に光を現し、≪ケサランパサラン≫に祈祷。
――めくれ上がった石塊が全て朝比奈秀雄に向かい飛べば幸せだ!
光が放射され、石塊に願いが乗った。
極めて恣意的に飛散方向を操られた石塊と光弾が黄金竜を襲う。
「一足飛びに奴に肉迫できれば幸せだ」
Tさんは続けて脚力強化を祈る。石塊に続く形で黄金竜へと跳んだ。
腕に光を溜めつつ黄金竜の腹部に迫る。
「――っ!」
鋭く息を吸い、竜の腹へと打撃による追撃を仕掛けようとして、
『死ねっ、化け物ぉ!』
黄金竜の腕が頭上から降って来た。
Tさんは拳を引く動作の勢いで跳び退る。
「残念ながらまだ死ねん!」
答えながら見た様子では黄金竜に光弾と石塊によって期待した消耗は見られない。
せめて集中して溜める時間があれば――
思考していると横薙ぎに尾が振るわれてきた。Tさんは地に足を着く事をせず地面に背面から倒れ込むことで尾の一撃を躱す。
その身を炎が舐め取ろうと追って来た。黄金竜の追撃の火炎だ。
「結界を張れたら幸せだ!」
叫び、光壁の結界が形成される。黄金竜の吐き出した炎の波濤が結界に当たり大きく弾けた。炎は動きを止めることなくうねり、結界を瞬く間に食い散らそうとする。Tさんは放ち損ねた手の強化加護を利用、地に叩きつけた反動で天高く後方転回、更に跳び退いた。
着地位置は黒服の近く、Tさんは結界を破壊した炎が誰も居ない空間を薙いでいくのを横目に小声で訊ねる。
「黒服さん、その手の穂先、朝比奈秀雄に対する切り札と見ていいか?」
「はい」
即答に、ん、と答え、息を整える。
「試したが、あの竜体、あれでなかなか俊敏だ。近づき攻撃せずにその槍は使えるだろうか?」
訊くと、黒服は少々困った顔で答える。
「これは刺さなければ効果が出ません。投擲で当てる事が出来れば恐らくは。……ですが」
「……ああ」
Tさんは黒服の否定的な声音に同意し、足元に転がるビルの構造材――半ばで折れた鉄筋を拾い上げる。
「竜を貫けば幸せだ」
呟き、投擲。
光の軌跡を残して飛来した鉄筋は黄金竜の尾の一振りで砕け散った。
『どうした化け物ぉ! それで終わりか!』
返礼とばかりに吐き出された炎に結界を多重展開して対応、熱気と竜の威圧に顔を顰めて言う。
「やはり、あの尾か炎に落とされるな。切り札を破壊されでもしたら目も当てられん」
「せめて誰かが朝比奈秀雄の動きを止めてくだされば私が刺しに行けるのですが……」
「近付くのに≪フィラデルフィア計画≫は使えんか……警戒されているだろうし、あれで竜を束縛するには少なくともこの地形では荷が勝ち過ぎる」
「≪パワーストーン≫で防ぎきるにはあの炎は強すぎますね」
相談を、と言いかけて他の者に視線を走らせ、こちら……と言うよりも黒服を窺いながらも朝比奈マドカの様子を気にしているらしい翼を視界に収めたTさんは思わず頬を緩めた。
「……この件が決着したら、歩み寄りの余地はありそうじゃないか」
怪訝な顔を向ける黒服にいや、と答え、Tさんは改めて黄金竜を睨み据えた。
黄金竜を前にTさんは口を開けた。
黄金竜へと歩み寄りながらTさんはその目を見据える。竜の瞳から感じるのは憎悪、敵意、怒りといった負の感情。それが猛々しい雰囲気を更に強調している。
「舞、リカちゃん、あまりドラゴンの目を見るな」
後方の二人に言う。返事が返るのとほぼ同じタイミングで頭の中に声が響いた。
『貴様は何だ、化け物!』
「おお、声すげえ! やっぱりこれ頭に直接来てるぜ!? テレパシーって奴か!?」
ビルに入る直前にも聞いた声だ。竜の声帯では人語を喋ることは出来ないのだろう。
「と、言う事は」
やはりあれが朝比奈秀雄本人か。
Tさんはそう思いながら黄金竜へと名乗る。
「Tさんだ、朝比奈秀雄。青年――翼と朝比奈マドカとは知った仲だ。見たところ、使役ではなく、自身が竜化しているようだな」
「ドラ○ラムか!」
「お姉ちゃん、それなんなの?」
舞が何やらリカちゃん相手に説明しているがTさんはとりあえず無視する。聞くに、自身が分かりやすいように状況を解釈しているのだろう。本質を見誤らなければ構わない。
Tさんは舞達を入り口付近に残し、更に黄金竜へと歩み寄りながら周辺に視線を走らせ、状況を確認する。
先程結界強化を施した位置に翼、ビルに来る前に予想した通り、マドカが翼の近くに居る。足を負傷しているのだろうか、庇っているようにも見えた。コンクリートに首を突っ込んで痙攣している少女は朝比奈マドカの手によるものだろうか? そして見知らぬ男が一人いるが、
気軽に自己紹介をしている余裕は無いか……。
朝比奈マドカの件も、もう少し期を見て青年らに会ってもらいたかったのだがな。と内心で小さく嘆息し、その場に居る最後の一人、黒服へと目を向ける。黒服が取り出した古びた槍の穂先らしきものを確認し、
切り札は黒服さんが持っているか……。
先程の台詞を聞くに、ほぼ間違いないだろう。Tさんは内心で行動の検討をつけ、黄金竜に話しかける。
「朝比奈秀雄、人間の姿をしていながら人間ではない……それを、化け物と呼んで何が悪い? と言っていたな」
『ああ、貴様のような存在こそ真の化け物だ!』
首をもたげ、恫喝するように口を開き吼え、テレパシーで意志を伝えて来る黄金竜。Tさんは苦笑して頷いた。
「否定はせん」
そうしながら彼の行動の意味を忖度する。
都市伝説の力を否定しているようで、しかし朝比奈秀雄は、彼の言によるならば『願いをかなえるための糧として』その力を使っている。
その願いについてはいくつか予測が立てられている。一つは翼を介して日景の権力を手に入れること、
そして、
『晴海を弄び、殺した連中に復讐を…………そして、私は再び、彼女を取り戻す』
朝比奈秀雄が口走った言葉を思う。
殺された者を取り戻す……か。
死んだ者の蘇生、まず不可能であろうそれを成す可能性がある存在が今回の事件に絡んでいる事をTさんは知っている。朝比奈秀雄が翼の他に目的としているのではないかと黒服が言い、秘匿されているその存在を朝比奈マドカが漏らしたであろう、日景家の宝、≪小瓶の魔人≫。
願いを叶える力を持つとする魔人……死者を蘇らすことができる可能性は低いと思うが。
可能性はゼロではない。
そう考えながら相手との距離を測る。
「だが、それでもその化け物を認めてくれる者がいてな」
『愚昧だな、化け物の恐ろしさをまるで分かっていない』
「馬鹿なのは否定しないが」
笑う。
「或る意味、舞は俺よりも聡いよ」
「へ?」
舞の声を背中で聞き、心地良さげに笑みを濃くする。
……何を目的にしていようと、ともかく目の前の竜は止めねばな。――話を聞くならその後だ。
思い、意識を切り替える。
「お前のせいで被害に遭っている者も多い、ここで馬鹿な計画は幕にしよう」
笑みを一転、Tさんは白光を手に宿し、黄金竜を睨み、叫ぶ。
「朝比奈マドカ! ≪フィラデルフィア計画≫!」
「っ!」
返答は結果を持って為された。
黄金竜の身体を光が包み、その身体の一部が崩壊したビルの中に転移する。
『愚かな化け物が!』
黄金竜が吼え、身体をくねらせた。ビルに沈みこんだ身体が力任せに瓦礫を飛ばし、ずるりと抜けだす。
ビルの面では脆いか……っ。
以前朝比奈秀雄は力任せにビルを切断して見せたという。ならばこの結果は予想の範疇ではある。加えて朝比奈マドカの≪フィラデルフィア計画≫が相手を無機物と融合させるものでもないらしいとも理解する。彼女の力だけでは黄金竜を止めることは難しいだろう。
ならば――!
「破ぁっ!!」
光弾を放つ。逆の手に更に光を現し、≪ケサランパサラン≫に祈祷。
――めくれ上がった石塊が全て朝比奈秀雄に向かい飛べば幸せだ!
光が放射され、石塊に願いが乗った。
極めて恣意的に飛散方向を操られた石塊と光弾が黄金竜を襲う。
「一足飛びに奴に肉迫できれば幸せだ」
Tさんは続けて脚力強化を祈る。石塊に続く形で黄金竜へと跳んだ。
腕に光を溜めつつ黄金竜の腹部に迫る。
「――っ!」
鋭く息を吸い、竜の腹へと打撃による追撃を仕掛けようとして、
『死ねっ、化け物ぉ!』
黄金竜の腕が頭上から降って来た。
Tさんは拳を引く動作の勢いで跳び退る。
「残念ながらまだ死ねん!」
答えながら見た様子では黄金竜に光弾と石塊によって期待した消耗は見られない。
せめて集中して溜める時間があれば――
思考していると横薙ぎに尾が振るわれてきた。Tさんは地に足を着く事をせず地面に背面から倒れ込むことで尾の一撃を躱す。
その身を炎が舐め取ろうと追って来た。黄金竜の追撃の火炎だ。
「結界を張れたら幸せだ!」
叫び、光壁の結界が形成される。黄金竜の吐き出した炎の波濤が結界に当たり大きく弾けた。炎は動きを止めることなくうねり、結界を瞬く間に食い散らそうとする。Tさんは放ち損ねた手の強化加護を利用、地に叩きつけた反動で天高く後方転回、更に跳び退いた。
着地位置は黒服の近く、Tさんは結界を破壊した炎が誰も居ない空間を薙いでいくのを横目に小声で訊ねる。
「黒服さん、その手の穂先、朝比奈秀雄に対する切り札と見ていいか?」
「はい」
即答に、ん、と答え、息を整える。
「試したが、あの竜体、あれでなかなか俊敏だ。近づき攻撃せずにその槍は使えるだろうか?」
訊くと、黒服は少々困った顔で答える。
「これは刺さなければ効果が出ません。投擲で当てる事が出来れば恐らくは。……ですが」
「……ああ」
Tさんは黒服の否定的な声音に同意し、足元に転がるビルの構造材――半ばで折れた鉄筋を拾い上げる。
「竜を貫けば幸せだ」
呟き、投擲。
光の軌跡を残して飛来した鉄筋は黄金竜の尾の一振りで砕け散った。
『どうした化け物ぉ! それで終わりか!』
返礼とばかりに吐き出された炎に結界を多重展開して対応、熱気と竜の威圧に顔を顰めて言う。
「やはり、あの尾か炎に落とされるな。切り札を破壊されでもしたら目も当てられん」
「せめて誰かが朝比奈秀雄の動きを止めてくだされば私が刺しに行けるのですが……」
「近付くのに≪フィラデルフィア計画≫は使えんか……警戒されているだろうし、あれで竜を束縛するには少なくともこの地形では荷が勝ち過ぎる」
「≪パワーストーン≫で防ぎきるにはあの炎は強すぎますね」
相談を、と言いかけて他の者に視線を走らせ、こちら……と言うよりも黒服を窺いながらも朝比奈マドカの様子を気にしているらしい翼を視界に収めたTさんは思わず頬を緩めた。
「……この件が決着したら、歩み寄りの余地はありそうじゃないか」
怪訝な顔を向ける黒服にいや、と答え、Tさんは改めて黄金竜を睨み据えた。