「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - とある組織の構成員の憂鬱-13

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
 …自分は、弱い
 あまりにも、弱い

 同じ組織の元・人間の黒服の中には、人間時代に契約していた都市伝説の関係で、高い戦闘力を持つ者もいる
 しかし、自分は
 契約していている都市伝説は逃亡専用
 正直、腕力にも体力にも、あまり自身はない
 何せ、担当している都市伝説契約者の青年に「ちゃんと三食食べてるの?」と言われた事があるような体格だ
 そんなもの、自分に備わっている訳もない

「……く」

 だからといって
 戦闘で、常に物見遊山な状態でいる訳にもいかない
 自分とて、戦う必要性が存在するのだ
 常に、構成員の人間だけに戦わせるなどごめんである
 そんな無責任な存在には、なりたくない

「ケケケケケケケケケケケケケケケケケ!!!!」

 漆黒のマントに身を包んだ男が雄叫びを上げる
 その片手は、まるでピーターパンの映画に出てくる船長の片手の鍵爪のようになっていた
 ギラリ、月明かりを浴びてひかり、獲物を狙う

「ザ・フック…、ですか」

 確か、アメリカの都市伝説だ
 その鋭い鍵爪の手で、カップルを殺す都市伝説
 …カップルでなくとも、単体相手でも襲うようになったか

「厄介、ですね」

 話が通じない相手は苦手だ
 ケタケタと笑いながら、ザ・フックは鍵爪を振り上げ、こちらに襲いかかってくる!

 銃を構える
 支給品であるその銃が打ち出すのは銃弾ではなく、子供が想像するような光線
 数発放ってはみたが、ザ・フックはダメージなど無視して、こちらに向かって走ってくる

「ケケケっ!」
「っく!?」

 ギィン、と、冷たい音が響き渡る
 咄嗟に盾にしたジェラルミン製の鞄が、ザ・フックの鍵爪を受け止めた
 …そもそも、この鞄とて、組織の支給品だ
 ジェラルミン製には見えるが、もしかしたらもっと硬度の高い物なのかもしれない
 とにかく、距離をとらないと
 接近されては、こちらに分が悪い
 ザ・フックの腹をけり、距離をとろうとする
 ……が

「ケケっ」
「!」

 がしり
 鍵爪になっていない逆手で、脚を捕まれた
 全く持って、攻撃が効いていない
 …自分は、ここまで非力だったとでも言うのか!?

「ケケケケケェ!!」

 ぶんっ!と
 軽々と、ザ・フックに体を振り回され、壁に叩きつけられた
 全身に襲い掛かる衝撃
 びしり、骨にヒビが入ったような音がする

「かは……っ」

 ごぽ、と血を吐く
 もしかしたら、内臓に骨でも刺さったのかもしれない
 どうせ、自分は都市伝説だ。人間よりは、怪我の治りは早い
 数日で治るとは思うが…

 その為には、この状況を何とかしなければ

「ぐ……っ」

 げほげほと咳き込む
 呼吸が、うまくできない
 肺にも衝撃がきていたか?
 体に力が入らずに、立つ事もできない
 せめて、銃で攻撃しようとしたが

 それよりも、早く、早く
 ザ・フックは、鉤爪を振り上げて…

「ケケケ…………ケェっ!?」

 真横からの衝撃に、吹き飛んだ
 体すら残っていない
 一瞬、それだけが残った鉤爪が月光を浴びて光を放ったが…それも、すぐに消えてしまう

「…あなた、ですか…っ」

 げほげほと咳き込みながら、彼を見上げる
 月明かりを浴びて、必要以上に輝く筋肉
 いや、そもそも、筋肉とは輝くものか?
 恐らく、組織内の黒服でもかなりの実力の持ち主
 そもそも、雑務にあたっているのが、不思議なほどの…

「あなたには、担当都市伝説がいたはずでは?」

 そう、声を駆けられて…気付く
 そもそも、月光を浴びて輝いていたのは、筋肉ではなく
 その、清々しいまでに一本の毛も存在しない、頭であった

「…今、不愉快な事を考えませんでしたか?」
「いえ、何も」

 ふらふらと、立ち上がる
 …確か、彼は「かごめかごめ」の契約者の青年の、担当者であるはずだ
 「首塚」組織の戦闘員との戦いで青年が負傷したと聞いているから…代わりに、都市伝説と戦っていたのだろうか

「すみま、せん…助かりました」
「酷くやられたものですね」

 手を差し伸べられたが、丁重に断った
 何とか、一人で立てなくもない

「…私は弱い、ただ、それだけですよ」

 呟き、鞄から蝦蟇の油を取り出した
 どろりとしたそれを、口に含む……じわり、内臓組織や骨が、回復していっているのを実感する

 そうだ、自分は弱い
 だから、こう言った他都市伝説…契約せずとも使用可能なものに、頼り勝ち
 彼女から受け取ったパワーストーンとて、最近ではよく使っている

 あまりにも、あまりにも
 …自分は、弱すぎるのだ

「あなたが担当している都市伝説の契約者はどうしました?確か、骨を溶かすコーラの…」
「………彼は、休ませています。少々、不安定な状態ですから」

 …あの、ルーモアのマスターの仇である魔法使いと戦って、以来
 少々、あの青年は精神が不安定だ
 トラウマが、刺激されたのだろう
 以前、「かごめかごめ」の契約者の青年との接触を取りたがった件が気になって少し調べたのだ
 …彼の、過去を
 あの魔法使いが起こした悲劇的事件は、彼の心の傷を少なからず抉ったのだろう
 その影響が、まだ払拭できていない

「都市伝説と関わり続けるには…特に、彼のように意思なき都市伝説と契約し、自在に操るタイプの場合、精神状態は非常に重要なものですから」
「確かに。それは、同感ですね」

 あの手の都市伝説の契約者は…都市伝説に、飲まれやすい
 その力に、飲み込まれやすいから

 …だから

 常に、心強くあらねばならないのだ
 だから、今の状態の彼を戦わせたくは無かった
 また…あの、魔法使いを執拗に痛めつけた時のように、暴走しかねない

 話していたら、少し傷が癒えてきた
 これならば、問題なく、帰れる

「…それでは、私はこれで。危ない所を、ありがとうございました」
「お気になさらず…報告は?」
「私がします。元々は、私がすべき仕事だったのですから」

 頭上が寂しい黒服に小さく頭を下げ、よろり、この場を立ち去る


 …弱い
 やはり、自分は弱すぎる
 どこまでも、他の都市伝説に頼らざるを得ない
 …一体、自分はどこまで無力なのか

(…しかし、それでも)

 それでも、自分はこの世界から手を引く訳にはいかない
 戦いの場から、一歩引いた位置にい続ける訳には行かない


 …自分だけ、手を汚さずにいる、などと
 そんな事が、許され続ける訳がないのだ



 fin








タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー